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『絆 前編』 作者:渚 / 未分類 未分類
全角1419文字
容量2838 bytes
原稿用紙約4.7枚
「・・桜・・おきてるか・・?」
達也は病室のドア越しに声をかけた。どうぞ、という細い声がした。
白いがまぶしい病室のベットに桜はいた。体を半分起こし、かすかに微笑んでいる。
「桜、調子どう?」
「別に・・いつもと変わんないよ。」
「・・そっか。」
達也はふうっとため息をつき、いすに腰を下ろした。
大西達也(おおにし たつや)と百瀬桜(ももせ さくら)は近所に住む幼馴染だ。小学校から同じところに通い、今は高2である。
桜はもともと丈夫なほうではなく、小さいころから入退院を繰り返していたが、それほど大きな病気はしたことがなかった。だが、高1の冬に突然倒れ、それからずっと入院している。達也は頻繁に病院に来て、桜の病状を見ているのだ。
「これ、昨日の授業ノート。長野がコピーしてくれたぞ。」
「あぁ・・ありがとうって言っといて。」
桜はそれだけ言うと、窓の外のほうに視線を移してしまった。なんとなく気まずい雰囲気が流れ、達也は足元に視線を落とした。
中学生になったころからだろうか。達也は、桜のことを「幼馴染」ではなく、「異性」として意識するようになっていた。自分の気持ちは否定しない。でも、気持ちを伝える気はない・・そんな感じだった。
「桜ちゃ〜ん、検温ですよぉ〜。」
「あ、はい、どうぞ。」
白衣をまとった看護婦がにこやかに病室に入ってきて、桜に体温計を渡す。桜は黙ってそれを受け取り、脇の下に挟んだ。
看護婦。医者。達也はこういう連中が嫌いだった。この看護婦もそうだが、いつもへらへら笑いながら患者に接している。たとえ患者が、明日死ぬとわかっていても。それは、患者への「思いやり」なのか。達也には「同情」としか思えなかった。
間もなくピピッという機会音がした。
「うん・・正常ね。じゃあ桜ちゃん、ここにお薬置いとくから。何かあったら呼んでね。」
「はい。」
看護婦は達也に少し会釈して、病室を出て行った。
「・・・達也、悪いけど、冷蔵庫からお茶出してくれない?」
「ん?あぁ。」
達也は立ち上がって冷蔵庫の扉を開けた。ひんやりとした冷気が顔をなめる。
ふと、後ろからがさがさという音がして、達也は顔を上げた。桜が、何かをゴミ箱に押し込んでいた。体の中で何かがざわめいた。
「桜っ。」
達也の声に、桜はびくっとしたように顔を上げた。達也を凝視する目が小刻みに震えている。達也はゴミ箱の中に手を突っ込むと、桜が捨てたものを取り出した。
「・・おまえ・・これは・・。」
達也の手に握られていたのは、今さっき看護婦が持ってきた薬だった。桜は黙ってうつむいている。
「お前・・もしかしてぜんぜん飲んでなかったのか・・?」
桜は黙ってうなずいた。その目にはうっすらと涙が浮かんでいる。達也は、妙に心がかさつくのを感じだ。
「何で・・?お前、病気治したくないのかっ!?」
「違うよっ!!あたしだって・・。」
声を荒げた達也に向かって、桜はヒステリックに言い放つ。
「あたしだって、できることなら直したい・・。」
「できることなら、って・・。」
「・・もう・・直らないんだよ・・。」



突然、時が止まった。


この小さい、四角い部屋の中だけ、ゆっくりと時が流れている。




「・・ぅそ・・だろ・・・。」
達也のすがるような声に、桜は首を振った。
「あと・・2ヶ月の命だって・・。主治医の先生が言ってた・・。」
「そんな・・・。」
達也は崩れるようにいすに座り込んだ。涙さえ出てこなかった。

2004/01/24(Sat)23:53:58 公開 /
■この作品の著作権は渚さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
はじめまして。渚(ナギサ)といいます。
小説書くのはかなり久しぶりです。きっと意味のわからない文章になっていると思います・・。ごめんなさい;
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