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『おれんじ』 作者:ラインストーン / 未分類 未分類
全角2280.5文字
容量4561 bytes
原稿用紙約9.6枚
奈美と真耶は数ヶ月前まで付き合っていた。
高校に入って同じクラスになってからお互いに引き合い、
そしてあっという間にカップルに昇進、そんな感じであった。
いるだけで幸せで、隣にいるだけで話さなくても
何もかもが分かりきったような時間が持てた。
周りにもこの二人の仲の良さは絶大な支持を集めていて、
また、それを一番良く分かっていたのは張本人の二人であった。

その日は丁度、真耶が所属する野球チームの都大会進出戦であった。
奈美は応援に行こうかどうか迷った。
応援にも行きたいけれど…
今日は久々に友達と遊ぼうと前々からの計画が持ち上がっていた日だった。
んんん…

よし。やっぱり今日は約束を優先させよう。
奈美は陽子にメールを打つと、約束の場所に向かった。
「おは」
「あ〜奈美来たっ!ねぇねぇ奈美来たよ!!」
待ち合わせの駅前はすでに数人の友人が集合していた。
「奈美来ると思わなかったよぉ〜てっきりまた真耶君と約束してるのかと」
「うんうん、最近うちらほったらかしって感じだったもんね〜」
「ま、とにかく行こうよ」

真耶といる時間もすごく楽しいけれど、やっぱり友達って良いな…
…嫌な事とか全部、忘れさせてくれる。
しみじみとそんな事を思った奈美だったが、その思いは次の言葉で
かき消された。

「ねぇねぇ!奈美ってさ、うちらと真耶君どっちが大事?」
「え」
陽子の声だった。陽子はいつも、こんな事を言う。
どっちが大切か、すっぱり決めるのが陽子流。
けれどこんな言葉は…
急に言われると戸惑ってしまう。
「え、え〜??どっちもどっちだよぅ」
「てゆぅか、真耶君の方が上かな?やっぱり…」
「え、でも、陽子達の方が大切だから!」
とっさに言ってしまった…
―― 一つの嘘。
「いまいち信じられないなぁ♪ねぇ証拠見せて!!」

―――証拠??
陽子が元々むちゃな性格だってのはわかりきっているけど…
…んな事言われたって
「じゃぁ〜あたしとかの方が大切だったら真耶君と別れて?真耶君の方が
大切なら…」

「絶交ね。」
―――え?
「ちょっとぉ、冗談きついよ陽子!!」
周りの友達も今の言葉に反論した。もちろん私も。
「何で??絶交って何が??」
「だからぁ、今日中に真耶君と別れてよ。そいじゃなかったら絶交。」
「早く。今から行って来て?」

頭が追いつかなかった。怖くて怖くて、思わず電車に飛び乗ってしまった。
―――真耶と…

―――別れる??何で??
奈美が行く先は真耶の都大会先。
頭が追いつかなくて、思わず飛びのってしまった…。

どうするの、あたし??



時間がたつのが早かった…

雨が降る。
真耶率いる野球チームは、見事都大会行きの切符を手にしていた。
―――え?
喜びに満ち溢れる真耶の視線の先に映ったのは…

「奈美じゃん!!何?応援??」
「てかお前びしょ濡れじゃん…。どこで応援して」
「真耶」

奈美が真耶の声を遮った。雨で、足が震える。
涙で、目が痛い。

「あのね、真耶と別れたいの」
「今日限りで」

「は?いきなり何…


「ゴメン、本当にゴメン。真耶ゴメン…」
最後まで言うのがやっとだった。寒さと震えが全身に伝わる。
もう逃げたい。
早く、この場所から…
走って、只前だけを見て奈美は電車に乗りこんだ。


真耶と奈美が別れたことを知った陽子達は、前と変わらず奈美に接してきた。
「ごめんねぇ、あたし確かめたかったの♪また買い物いこぉ!!」

いつもと変わらない友人。いつもと変わらない空。
いつもと変わらない真耶

―――ううん違う。真耶はどこかで無理してる―――
それからの奈美と真耶は、どこか違う二人になってしまった。
心の中では、お互いを強く強く想っているのに…

―――こんなにも、苦しいのに。
あたし達の間には…

―――あの都大会の日の出来事が
―――今も心を締め付ける。

ゴメンね、真耶…

―――バイバイ。




奈美も高校を卒業し、短大生になった。
今、真耶はどこでどうしているのかもわからない。
でもまだ奈美はずっと、真耶の事を想っていた。


ある日の夕方、奈美は友達と渋谷で待ち合わせをしていた。
と、その時メールが入る。
「はぁ!?ドタキャン…」
それは突然のメールだった。その子は元々約束に忠実ではなかった。
ま、一回ぐらいいいか。大した用事じゃないしね…
帰ろうとした奈美の視線に、大勢の大学生のグループが写った。

はー皆背高いな…

―――え??

あれって…

「…奈美?」
奈美よりも早く、真耶が気づいた。
「ちょっと待ってて」
グループから抜けて、真耶は奈美の前に立った。
「うそ…」

声がかすれる。
まだ、お互いの気持ちが変わってないのが見て取れる。
ちょっと伸びた髪が、何故か悲しくて…

―――涙しか、出なかった。

「真耶、あ、あのね」
「うん」
気がつくと真耶も潤んだ瞳で奈美を見つめていた。
「奈美」
「真耶、あの、あたしまだ…」

苦しい…

「…真耶の事好き…」

奈美はそれからあの都大会の日の事を話した。
ずっと、真耶を好きだという気持ちが今でも変わっていない事も。



真耶もずっと奈美の事を想い、苦しんでいた。

運命の夜が、二人を照らしていた。


「ふあぁ…」
奈美は自分のベッドで目を覚ました。
昨日の出来事は、夢のようであった。


結果、真耶と奈美はもう一度やり直すことにした。

もうこれからは、あの時の陽子みたいな言葉で惑わされない

―――自分に正直に生きていこう―――

だって今私には

―――真耶がいる。

もう一度、心から、誰にも惑わされずに…
自分の意思で…―――

――愛し合えるから。




2003/12/07(Sun)20:33:53 公開 / ラインストーン
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