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『いつか貴方と一千の星−中−』 作者:柳沢 風 / 未分類 未分類
全角2017文字
容量4034 bytes
原稿用紙約7.35枚
だんだん、空が夕日に満ちてきた。
でも俺は全然、
そのことに気付かなかった。
今俺に見えるのは山のてっぺんに建つ、一軒の洋館の主人の、
『星紅』という少女だけだった。
「勇人さん、・・そろそろ夜です。
中に入りましょう。大丈夫、窓からでも星は見れます」
星紅はそう言って洋館の中に入ろうとする。
だが俺は苛立って、
横を通ろうとする星紅の腕をぐいっと掴んだ。
「は、勇人さん!?」
星紅は驚いて、顔を真っ赤にさせる。
俺はそんな星紅を見て、また苛立って言った。
「俺、『ここの星の言い伝え』っていうの、
まだ教えてもらってないんだけど」
すると星紅は顔を暗くさせた。
俺はぎょっとして星紅の細い腕をはなした。
「な、なんか悪いこと言ったか俺・・」
星紅は首を横に振ると薄っすらと笑って言った。
「ごめんなさい。でも勇人さんはここで初めての星を見るんだから、
今知ってしまったら、星が綺麗じゃなくなります」
それだけ言うと、
星紅は小走りに洋館の中に入っていってしまった。
俺は軽く舌打ちをした。
人を気にならせておいて言わないのかい!
というか、
そんなに重大なことなのか?
ここの星の言い伝えって・・・。
俺がそんなことを思いながら洋館に向かおうとしたとき、
ぱっとあたりの色がかわった。
茜色から薄暗く、そしてみたこともないような不思議な色に・・・。
俺はまさかと思って振り向く。
するとそこには、
夜空に満点の星―・・・。
つい「わあ」っと声を上げてしまった。
顔が熱くなるのを感じる。
「これが・・・星・・」
ここから見たら、豆粒くらいの大きさだ。
「星って、宇宙にある位だからもっと小さいのかと思った」
豆粒くらいから出ているとは思えない、力強い光。
「・・・きれいだな」
数的に、百・・・嫌もっとある。
「一千個位あるんじゃないか?」
周りは星の光でライトアップされた紅葉。
そして上空では夜空に満点の星。
それを見つめながら俺はぼそりと呟いた。
「懐かしい・・・」
この言葉に意味があるのかないのか、自分でも分からなかった。
だが俺は『懐かしい』と思う理由はないし、
何故そう思ったのか分からない。
でも不思議と、そう思った。
それと同時に睡魔が襲ってきた。
『ここで寝たら一発で風邪ひくぞ』
と、自分に言っても無駄だった。
俺はすぐに地面で眠りについた。





親父と星紅は、
地面で寝てしまった俺が丁度見えない位置で星を見ていた。
親父は星空を見ながらそっと口を開いた。
「あのこと、勇人に言うつもりかい?」
星紅は一拍おいてからこくんとうなずく。
それを見て、親父は苦い顔をする。
「だが、言えば勇人は・・」
「わかっています。でも勇人さんはいい人です。
私、勇人さんが言うなら・・・、もういいんだって思います」
星紅は静かにいう。
親父はそれを聞いて、小さなため息をついた。
「君が決めたことだ。私は咎めはしない」
それだけ言うと、親父は自分の部屋に行こうとしたのを止めた。
そして半分だけ振り返り言う。
「君は、勇人を好きになったのか?」
星紅はぼっと赤くなる。
「何故ですか!?」
星紅が大声できくと、親父は少し笑う。
「だって、今の君が他の人を『いい人』というのは初めてじゃないか?」
「そ、そうですけど・・」
星紅の顔がどんどん赤くなっていく。
すると、妙にあがった声で騒ぎ出した。
「は、勇人さんはお友達だからですよ。
だから、えと、幸せになってほしいって思って・・、
だから私は別にどうなってもって・・・・」
そこまで言うと、星紅は暗い顔になった。
そして少し顔を上げるとぼそりと言った。
「それに、私は人を好きになっても叶うことなんてないんです・・・」
そう言うと、親父は少し眉間にしわを寄せ、
なにも言わずに奥へ行ってしまった。
星紅はそれを見送ると、ゆっくりと顔を夜空に向けた。
空には綺麗な一千の星。
それを見ながら星紅は、一粒の涙を流した。
「そう、私は人を好きになっても無駄なんです・・」
星光が星紅の小さな体を照らす。
「もしかしたら、これが私にとって最後の星空なのかもしれませんね・・」
星紅の涙が地面をぬらした。





「ひとりで見る一千の星は・・・寂しいです」
何故か、星紅の頭の中で、
この一千の星を幸せそうに見つめる勇人の顔が浮かんだ。
「勇人さん・・。一千の星はきれいでしたか・・?」
だんだん朝日が昇り、
一千の星が消えていく。
「私は・・、貴方に『あのこと』を言えるでしょうか・・・、
でもそうしたら・・、私は二度と・・・」
一度止まった涙がまた、星紅の瞳から溢れてきた。
「二度と、貴方と一千の星を見ることはできないんですね・・・」
―どうして、こんなに貴方の顔が浮かんでくるんだろう。
次々、涙が溢れてくる。
星紅は下へうつむいて、かすれた声で言った。


「最後に・・、貴方と一千の星を見たかったです・・・。勇人さんっ・・」

星紅の後ろにあった紅葉が、
ゆっくりと散った。

2003/12/06(Sat)21:54:31 公開 / 柳沢 風
■この作品の著作権は柳沢 風さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
なんだか書くの遅くなりました。
すみません。いつもまだらで・・(汗)
それと、この話は前・後編の予定だったのですが、話が長くなって前・中・後編になってしまいましたー!すみませんー。
それと今回の話、
よく分からないかも・・。
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