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『月の晩に【U】』 作者:翠 / 未分類 未分類
全角1305文字
容量2610 bytes
原稿用紙約4.55枚
最後に見たのは、声も無く立ち尽くす君の姿。
最後に言ったのは、ごめんねの一言。

君は泣いてくれた?僕のために。君は許してくれた?僕のことを。
それも、今となっては知ることはできない。

けれど、願ってる。祈っているよ・・・。
君の心の足枷にならないように。君の笑顔が消えないように。
あの日の月のように、いつまでも―。

僕の後を追うなんて、考えないで。僕の望みは一つだけ。

たまにでいい。君の心の片隅の僕を、思い出してくれないか?




綺麗な、妖しい満月の夜だった。空に星は見えないのに、月だけが煌々と輝い
ていて・・・。
携帯に、彼からのメールが入った・・・。こんな時間にって思ったけど、その日
は、特別な日にするつもりだったから。
私と彼が付き合い始めた日で、そして、別れる日にしようと。

月夜の道を、私は近所の公園に急いだの。町は、無人のように静かだった。
満月が、私についてくる。後押しをするように。
本当は進みたくない私の足を、無理やりにでも、前へ歩かせるように。

彼と付き合うようになって、三年目。一緒に迎える、三回目の私の誕生日。
11月27日。その日、彼は永遠になった。

約束に遅れたことなんてない彼が、その日は珍しく遅れてやってきた。
曲がり角で、私からは彼が見えた。
よほど、あわてていたんでしょうね。私の姿を見つけて、一目散に・・・。
勢いよくこちらに走ってきて・・・そこで、時は止まった。
これからも刻み続けられるはずだった、彼の時は。




「思い出したようね、その顔だと。」
紅い羽根の天使が、私に言った。泣いている私に。
彼女の一言で、全て思い出してしまったから。私の記憶。

「泣けないんじゃなかった?・・・彼を信じていなかったくせに。」

涙が頬を伝いながら、彼女に視線を向ける。彼女の強い意志を宿した瞳が、私の体を、心を貫く。

「そう、彼を信じてはいなかった。私は信じられなかった。」

クラスの子と、仲良く話す彼。問い詰めても、何も言ってくれない。
それどころか、顔を真っ赤にして、視線をそらす彼。
私には、それだけでもう十分だった。二人の関係を理解するには。

「彼も、うすうす分かっていたと思う。だから、あんな日に呼び出して・・・」

私の誕生日。恐らく、私が一年で一番幸せな日。幸せな気持ちでいられる日に
言うなんて、ずるいとしか思えない。

「あなた、何も知らないのね。彼がどう思っていたかなんて。」
「わかるはずないじゃない!?あの人のことなんて!!」

私の声がどこまでも木霊する。白い空間にしばらくの沈黙が訪れた。

「・・・知りたい?・・・あの日の彼の気持ちを。」

紅い羽根が開く。私の心の闇を、映し出すように。

「後悔することになっても、いい?・・・知らないほうがいいかもしれない・・・。」

紅い羽根が、白くなる。私の姿を映して、片翼に彼を映して。
彼は、笑っていた。幸せそうに。少し、悲しそうに。

「・・・でも、これが、彼との約束。あなたのために、そして、彼のために。」

光に包まれる。目を開けたとき、そこは、百貨店の中だった。
すぐ横を、彼が歩いていく。小さな包みを持って。
時間は8時。私との約束、彼の永遠の時間まで、あと1時間。
2003/11/09(Sun)23:41:22 公開 /
■この作品の著作権は翠さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
再び、登場です。
感想なり、批評なり頂けると嬉しいです。
おそらく次で最後・・・のハズ・・・(汗)
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