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『欠片となって降る記憶 2』 作者:LOH / 未分類 未分類
全角1530.5文字
容量3061 bytes
原稿用紙約5.1枚
「貴方は…私のなんなのですか?」
さっきから、ずっと考えていたような気がする疑問を投げかける。
「俺? 俺は……」
男の口が言葉をかたどった瞬間、あのメイドが部屋に入ってきた。
何を勘違いしたのか、私と男の姿を見たら顔が嬉しさに輝き…。
「ライライック様! シラン様は記憶を取り戻されたのですか!?」
などと叫ぶ。
男はそのメイドの豹変振りに苦笑を零しながら言った。
「ニイセさん、違いますよ。俺はただ彼女と話していただけです」
メイドは自分の思い違いに顔を赤らめ、失礼しましたと詫びの言葉を呟いた。
「もうすぐ夕食のお時間です。シラン様はお着替えください」
男は何も言わずに部屋を出て行った。
メイドはなにやらクロゼットからビラビラの服を取り出し、私に服を脱げと言った。
どうやら、着替えの手伝いをするらしい。
私はされるがままとなる。
「ねぇ、あなた……」
「ニイセでいいですよ、シラン様」
微笑みながら言うメイドは私に好感を与えて、私はすこし気を許す。
「ニイセさん、私は誰なの?」
「……シラン様は、このユレ―ラルの国の姫様でございます。十五歳で、十六歳の誕生日に先ほどいたライライック様と御結婚なされる予定なのですよ」
御結婚という言葉を聞いても、私はさほど驚かなかった。
予想していたとおりなのだ。
「ライライック様は隣国の王子で、シラン様は生まれたときライラック様は三歳で、喜びのあまり飛んでこられましたよ。いままで彼の周りに同い年くらいの子がいませんでしたからね」
こうも自分の予想が当たるとはと、違う意味で驚いてしまう。
黙りこくる私に疑問を抱き、ニイセが一瞬手を止めるが、また動き出した。
「シラン様もはやく記憶を取り戻して、ライラック様と以前のような仲になってくださいね。……はい、できあがりです。それでは、私はキッチンの方に戻ります」
私が記憶喪失になったこんなロマンティックなところで、こんなに単純な設定でいいのだろうか。
せめて、私が一番下の人間のあの男に恋をして、駆け落ちをしようとしたところで崖から落ちて頭を打って記憶喪失…。
まさにロマンティストの考えそうなお話だ。
私はあまりに乏しい自分の想像力に思わず脱力する。
「なんで……こんなんなっちゃうかなぁ……」
自分の前髪を軽くつかみながら、懸命に過去を思い出す。
簡単に言えば、真っ白である。
霞みがかかり、輪郭がぼやけている記憶の破片が、ちらほらと頭の中で降りつづける。
その破片に目を凝らし、無理にくっつけようとすると、とてつもない痛みが頭を駆け抜ける。
「……いたっ…」
だめだ……痛みのせいと、こんなことにも耐えられない弱い自分の情けなさに涙が出てくる。
静かな部屋に二回、ノック音が響いた。
「入るよ?」
あの男の声だ。
木の軋みと、靴の音が同時に聞こえた。
「シラン? 準備はできた? そろそろ夕食の準備が……。もうちょっと大丈夫かな」
おそらく一緒にテーブルへ行こうとでも誘いに来たんだろう。
私の涙目を見た途端、男は目的を切り替えた。
「シラン、どうしたんだ」
頭に手の温もりと重みを感じる。
この男は心から私のことを心配してくれている。
男に心を許した途端、急に涙腺が緩んでしまった。
「シラン……シラン。泣かないでくれ…」
大きな両手が私の方は伸びてきた。
男の腕に包まれながら、私は未だ目から溢れる涙を止められないでいる。
途切れ途切れの嗚咽を漏らしながら、男の胸あたりのシャツを一本の藁を掴むように握り締めた。
男の私を抱く腕の強さがだんだんと増してくる。
「シラン……君に代わってやれない俺まで悲しくなるんだ…。泣かないでくれ……」
次から次へと、止め処なくながら落ちる涙を、私は拭く事ができなかった。
2003/11/05(Wed)20:02:17 公開 / LOH
■この作品の著作権はLOHさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
相も変わらず貧しすぎる私の想像力なんですが、すみません…。
でも、私的に男の人の「泣かないでくれ」系の言葉はツボです…(笑。
ライラックと言う名前は実は花からとりました。
私もまだどんな花か調べていないのですが、興味がある人は是非調べてみてください。
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