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『〜voice〜4話』 作者:流几 / 未分類 未分類
全角2325.5文字
容量4651 bytes
原稿用紙約7.3枚
緊張漂う朝。時計を見ると10時半。買ったばかりの清楚な服を着て、鞄を持った。

「ガスの元栓もしめたし、窓も閉めた。携帯持った!ハンカチ持った!財布持った!全部持った!」

また時計を見た。
(10時35分。今から電車に乗れば15分頃につくから・・・。間に合うね。)
ドアをガチャリと閉めて駅に向かった。
 駅にはサラリーマンや女子高生、おじいさんやおばさんでいっぱいだった。昨日は日曜日だったので、今日みたいに人は多くなかった。眼鏡をカケテイルサラリーマンを見ると、どうしても思い出してしまう・・・あの時のこと。少し怖い。

《1番乗り場に○○線が到着します。白線より内側でお待ちください。》
毎回聞きなれたせりふを耳にしながら電車を待った。
 電車はオレンジ色で、少し古ぼけた雰囲気を持っている。今のところ一番好きな電車だ。その電車に乗り、高田さんが待っている店へと向かった。

《FOOD》
お店の名前はとっても簡単で、看板が大きかったので迷わず来れた。壁はガラス張りで中が丸見え、外から高田さんの姿が見えた。高田さんは私の視線に気づいたのか外に出てきてくれた。
「どうぞ。」
サングラスをしていた。一昨日も、昨日も会っているのに、まったく違う人に見えた。でも、笑った顔は一緒だった。
 高田さんに案内され、奥の椅子に腰をかけた。ウエートレスに注文した高田さんは私のほうをじっと見て笑った。
「昨日とは違う人のように見違えたね。」
「あ、今日は気合が入ってます(笑)。」
高田さんは、私より年上というだけあって何だか落ち着いた雰囲気を持っている。高田さんはサングラスを外し、ムネポッケにそれを突っ込んだ。
「高田さんは、何をしている人なんですか?」
高田さんはまた、ポケットから紙を出した。毎回用意されているのかと思うと不思議でしょうがない。

 このお店は僕が経営してるんだよ

紙を見た瞬間に声を張り上げてしまった。
「うそ!!」
周りのお客さんが私をジロっと見た。高田さんは今までに見たことの無いような顔で笑っている。ウエートレスはコーヒーと紅茶を持ってきた。
「晶さん。あんまり女の子を苛めちゃダメじゃない。」
高田さんにコーヒーを差し出しながら言った。高田さんより少し年上に見えるこの人は「恩人」だそうだ。髪の毛は茶色でショートカット。顔は多分誰が見ても綺麗と言うだろう。
「初めまして、成田鼎(なりたかなえ)といいます。」
にっこりと笑った彼女は、きっといいひとなんだな、と思ったけど良い印象は得られなかった。高田さんと近い存在だからなのかもしれない。妬いていたのかもしれない。
「高谷育水といいます。」
成田さんは私の名前を聞くと、紅茶を置いてレジの奥へと戻っていった。
すると高田さんが口を開いた。
「高谷さんは、もしかして、ギターの子と付き合ってる?」
いいえ。といいそうになったのは気のせいだったのだろうか、少し不安を感じた。
「はい、つい最近付き合いだしました。」
はぁ〜、とため息をついた高田さんは髪をかき上げ真面目な顔をして言った。
「変な質問だけど。高谷さんは、その子のこと好き?」
ビクっと体が反応した。寒気が走った。
「・・・・。」
好き、の一言が言えない・・・。
「どうしたの?」
ギュッと手を握り締めて、はいもちろんです、と言った。
「そっかぁ。それじゃあ仕方ないや。」
高田さんはそれっきり何も言わなかった。

「どっか行く?何かしに。」
高田さんは立ち上がってレジに向かった。その背中について行く私。
店を出て、高田さんについていった。
「ここって・・・。」
高田さんのマンションだった。少し迷った。
「???・・・・・。」
高田さんは私に気づいて足を止めた。
「・・・っ!!ははっ!何もしないよ。見せたいものがあるんだ。」
私の考えていたことが分かったのか笑って言った。高田さんの言葉はどこか安心できる。
「ぃえっ!あの!別に疑ってるわけじゃ・・・。」
真っ赤な顔をしている私を見て高田さんは、かわいいね、と言った。かわいい、の言葉になれていない私はさらに赤くなった。
(いつもは、カッコいいだからね(笑))

『ガチャッ。』
「はい、どうぞ。」

 高田さんの部屋の中は割と片ついていた。シルバーの家具で統一されていて清潔感溢れていた。
一人暮らしで3LDK。その中の一部屋はデザイン用の部屋にされていた。見てもいい?と聞くと、高田さんは快くデザイン画を見せてくれた。
「君に着てもらいたいんだ。」
絵を見ている私に言った。
「バンドやりながらでいいからさ。休日とか・・・。着てくれないかな?ショーが一ヵ月後にあるんだ。」
急な話で戸惑った。絵を見るとどれも着てみたいものだった。でも、本当に私にこんな服が着れるのだろうか、私なんかでいいのだろうか。とたくさんの不安が頭をよぎる。
「彼氏と相談する?」
高田さんの言葉に少しムカッときて、勢いで言ってしまった。
「いいえ!そんな必要ないですっ!」
高田さんは笑いながらクローゼットを開けた。中から白い服が一着出てきた。
「これ、今着てもらってもいい?」
良く見ると・・・・。
「ウェディングドレス・・・。」
高田さんは、一人でも着れるものだから大丈夫だよ。っと言って部屋から出て行った。私は好奇心ですぐにウェディングドレスを着た。
(うわー、フワフワしてて気持いー!まさか着れるとは思って無かったよー。)
着替え終わった私は高田さんを呼んだ。

『ガチャッ。』
高田さんは私を見て何かを呟いた。何と言ったかは聞こえなかったけど、喜んでいたから別に気にすることは無いだろうと思ったので、聞き返さなかった。

その日は、なんだか良い気持だった。
2003/10/29(Wed)17:22:20 公開 / 流几
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