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『鮮やかな太陽がこの眼を焼いて』 作者:文月海 / 未分類 未分類
全角814文字
容量1628 bytes
原稿用紙約2.85枚

 悲しいほど青くて、うっとりするほど紫。
 焼け焦げそうな緋色の橙。
 こまやかな灰色。

「お姉ちゃん、見えないの?」
 小さな生き物の影が、ぼんやりとして暗い視界になんとか入り込む。ほんの一瞬、昔見えていた頃のように目を眇める。あの頃はこうすると少しはまともに見えたけれど、今はもうさっぱりだ。
 眉間にしわがつき始めているのを私は指先で知っている。
「ちょっとだけは見えるよ。スカートはいてる?」
「うん」
 少女の声に、私は目を閉じる。
 負担をかけてはならない。刺激を与えてはならない。―――勿論、長時間光を感じるなんてもってのほか。あまりにも暗い世界に、慣れる事はきっと永久にできないのに、目を開いてその世界に触れていることすら、私には許されていない。
 光を殆ど感じない私の目は、物体を分厚いベールをかけて見させる。
「アイリ!」
 ママ、と少女が去る足音。薄うく片目を開けると、もう少女は見えない。全てが濃い灰色の一塊だ。

なるべく目に刺激を与えないようにして下さい。

 きたか、と。思った。

こすったり押したり、ですね。目薬も、市販のものは使用しないで下さい。

 とうとう、この日が。

もともとの視力が落ちているせいで、…回復は…

 わかっていたんだ。

 どんなに視力が落ちても、太陽を見るのが好きだった。
 かっと明るくて、やわらかく、烈しい。
 黄色。白。赤。金。銀。
 色が全部混ざり合って、あんなに美しいものを、知らない。
 まぶたの裏に残る、赤と白の光が好きだった。
 透けて見える血の赤と、瞳に残った太陽の光が、あんな風に残っているのだと思った。

 私の視界は、あの太陽に焼かれた。
 もう、あの強い光を見ることはない。

 鮮やかな太陽がこの眼を焼いて、
 私は色の世界を失うけれど。
 けれど

 悲しいほど青くて、うっとりするほど紫。
 焼け焦げそうな緋色の橙。
 こまやかな灰色。

 記憶だけだって、生きて行ける。

2003/10/07(Tue)20:42:46 公開 / 文月海
■この作品の著作権は文月海さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
五年ほど前から、夜の視界がおかしくて。
微かな光があると闇に眼が慣れて、ぼんやり明るくなるもんですが、左目の視界だけが、薄暗いまま。
目が見えなくなるのは困るなあ。
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