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『虚王のタリト  三章』 作者:piyo / 未分類 未分類
全角1187.5文字
容量2375 bytes
原稿用紙約4.7枚

 それは、彼女が生まれる前の事。
 同じように病み、苦しんだ女性の果て。

 コバルト・ブルーの口から愉快そうに紡がれていく。





                *

「――――まだ良い方だ。あの人は元々気も弱い方で、45日の命も直ぐに消え失せようとしていた」

 昼時。
 それは偶然か、必然か。

 彼女は、自分の行く末を聞いているような気がした。

「同じような、お嬢様の家の一番奥の部屋で苦しんでいた。自慢の金髪も極度の疲労によって見事に白髪と化していたんだ」

 想像は容易に出来る。
 一人、自分の身体よりも数倍大きいベットの上で、病を克服する術が無くただ死を待つばかりの痩せこけた女性。
 それは下手をすると彼女の未来にもなりうる。

「私は訊いてやったんだ。『どうしてそんなに苦しそうなんだ?』」

「・・理解ってるくせに?」

 あぁ、とコバルト・ブルーはその瞳を閉じ、首を縦に振る。

「意地悪だね」

「承知さ。こういう性分でね。――――で、あの人は言ったんだ。私の事を知らずに、こうね」

「・・・・なんて?」

 一旦言葉を切り、コバルト・ブルーは吐き捨てる様に一言、

「『皆、恨んでやるから』って。何の脈絡があって言ったのか、理解らないけど確かにそう言ったんだ。よほど嫌な事があったらしくてね。まぁ、そんな事はどうでもいいか」

 溜息を軽くつき、深い蒼色の瞳が光に輝く。

「それで?」

「私が死神だということ、魂が欲しかった事を言うとあの人は安楽死を望んだ。もう嫌だっ、て嘆いて直ぐにでも殺すように訴えた。それで私はあの人の魂と、『奇病』の魂の両方を差し出す事、私の手に掛かれば天国には行けなくなる事を条件に、と言ったんだ。それでもあの人は安楽死を望んだんだ」

 ごくり、と喉を唾が通る音が大きく耳に響いて聞こえた。

 そして、言うまでもなくあの人は死んだ。
 奇病は精神病―――精神を喰らう、魂と自身の魂を引き換えに



 苦しみから、解放される為に
 

 死んだ。




「・・・待って」

 暫くの沈黙の後、彼女がコバルト・ブルーに訊ねた。
 ざぁ、と風が勢いをつけて吹き荒れる。
 

 蒼嵐。
 雲が青空に伸びていく。

「何か?」

「精神病の正体を知っている口ぶりね。―――原因は」

 彼女の鋭い双眸がコバルト・ブルーを射抜く。
 再び溜息を一つ、ついてその蒼い瞳を下に向けた。

「死ぬんだから、知らないほうが良いんじゃない?それともまだ、克服できると思って?」

「克服・・ね。出来る限りは望んでる。それに、貴方が奇病の魂を捕まえたのなら、どうして私はこうして病に―――その奇病に冒されているの?!」

「・・・」

 少し嗚咽を含んだ、叫び。


 木の葉が揺らめき、忙しく鳴き、酷く。


「・・虚王・・」

 
 そういとおしげに呟いた小さな声も、風の中に溶け――――消え失せた。





2003/08/20(Wed)18:40:05 公開 / piyo
■この作品の著作権はpiyoさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
何とか三章をアップしました(汗)
この前の二章で意見・感想をいただき、向上を目指して書いたのですが・・どうでしょう?まだまだ未熟者ですが、とりあえずこの小説を納得のいく物に仕上げていくことを第一目標に、これからも頑張ろうと思います。

よろしければ四章もお願いします。読んでやってくださいv
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