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『犯罪者は私ではない』 作者:髪の毛 / 未分類 未分類
全角1570文字
容量3140 bytes
原稿用紙約4.05枚
目の前で事故が起こったらどうしますか? 助けますか? 素通りしますか? 勿論助けますよね。これらのことが当たり前でない場所はあります。その場所でのお話です。
 目の前で事故が起きたらどうする? 例えば人と車の衝突、人身事故とかさ。車が人を轢いちゃったんだよ。前輪で人を轢いてしまったんだ。今、轢かれた人は前輪と後輪の間に寝転がっている。丁度腹の上を通られてしまっているね。口がはくはくと動いている。とても我々には感じ取ることの出来ない痛みだ。見ていて痛々しいとは思うよ。でも腹の上を轢かれた痛みはどうしても分からないね。体感したことが無いのだからしょうがないだろう。そんな目で見るなよ。だって本当にわからないんだ。え? 僕はおかしいって? そんなことないよ。人として当たり前のことさ。まあ、大人しく聞いてくれよ。でさ、運転手はその後どうしたと思う? なんとそのまま真っ直ぐ発進して行ったんだよ。そう、後輪でまた人を轢いていったのさ。僕はびっくりして、運転手の顔を見たんだよ。発進したばかりだからそんなにスピードも出ていなくて、一瞬だけどちらりと見えた。運転手はさも不快そうな顔をしていた。まるで轢かれた少女が悪いって顔。そんな所にいるから悪いんだろ、ってさ。顔に書いてあったよ。ああ、ああ、君の言いたいことはわかってる。僕が悪いよね。ごめん、ごめん。君も疲れただろうけど、この話にはまだ続きがあるのさ。
 その少女は後輪で轢かれた時についに口から大量の血を吐き出したよ。痛いねえ。痛いだろう。涙と鼻水も負けず劣らずの量でさ。見てられなかったよ。誰かが助けるのかと思いきや、少女の傍らで助けを呼ぶ声も聞こえない。通行人は少女を無視して素通りして行ってしまうんだ。これにはもう絶句だった。僕は思わず悲鳴をあげそうになったけど必死に堪えたよ。僕は彼女の運命がどうなるのか見届けてあげようと少し離れた場所に移動して見守っていた。そしたら今度は車が三台続けてやって来た。一台目は普通に腹の上を轢いていった。二台目は避けて通った。三台目は足を少し踏んでいった。彼女はついに腹がぐちゃぐちゃになってしまっていた。腸なのかもう判断出来ない赤色のモノが飛び出していた。殆ど血でわからないが、多分そうだろう。っておい! 痛いじゃないか!
 ふう、気を取り直して話そう。君、ちょいと聞いていってくれないか?
 彼女は一台目が轢いた時に首を横に振って、もう少しも動くことがなかったよ。そんな彼女を見兼ねたのか一人のおばあさんが出てきて彼女を道の脇に避けてやった。優しく退けてやったんじゃない。首根っこを引っ掴んで、面倒くさそうに横へずるずる引っ張って行っただけだ。おばあさんはホームレスだと思う。汚い身なりをしていたからね。おう、本当だよ。ギャラリーもいつの間にか増えているね。こりゃ気合入れなくちゃ。
 誰も助けてくれない。彼女はもう死へ向かうしかなかった。まだ七、八歳なのに可哀相だね。これからやりたいこともあっただろうけど、ある意味今死んで良かったのかも。おいおい、お前さん達、おかしいだなんて言わないでくれよ。だってよく考えてくれ。このままこの少女が生きて大人になっていたら……。な、わかるだろ? そういうことなのさ。まあこのまま死んでいくと思われた少女は母親がやって来て病院に連れて行かれたよ。死んではいない。奇跡的に一命は取り留めたそうだよ。……植物状態だけどね。彼女はもう目を覚ますことは無いだろう。彼女がもし生きようと思ったならこの村ではなく別の村で生まれるべきだったね。僕は本当に彼女を助けたかった。でも、この村が悪いんだ。助けたほうが訴えられてしまうんだからね。おかしいよね。轢いた方は金を少し払うだけで良い、なんてさ。僕は出来ることなら此処で生まれたくなかった。こんな考えが罷り通っている此処は、世界で一番最悪なところだよ。ああ、馬鹿げてる。この村はおかしいよ。此処から逃げ出したいよ。ねえ、運転手さん。
2012/03/19(Mon)17:45:39 公開 / 髪の毛
■この作品の著作権は髪の毛さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
このような場所が本当にあるから、知ってもらいたかったのです。少し脚色が入っていますが。
助けた方が訴えられるという事例は日本にもありますよね。
例えば倒れている人がいるから救急車を呼んだら、「何で呼んだんですか! あのまま放っといてくれたらお金が掛からなかったのに!」と言われて医療費請求してきたりとか。怖いですね。
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