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『ゴミクイロボ』 作者:江保場狂壱 / リアル・現代 SF
全角3483.5文字
容量6967 bytes
原稿用紙約9.35枚
ある科学者が作ったゴミクイロボは、ごみを食べるスーパーロボットだった。あっという間にゴミ山を食べるロボだが……。
 ある年老いた科学者が一体のロボットを作った。ロボットの大きさは成人男性が立ったまますっぽりと収まるほどの大きさであり、ブリキのロボットのようなデザインであった。
 それはあらゆるゴミを食べるロボットである。紙やプラスチック、ガラス片など細かく分別し、それらをまとめて排出するのだ。科学者はこれをゴミクイロボと名付けた。これを作るのに孫ができてもおかしくない年月がすぎた。もっとも彼は未婚で家族と言えば自分と同じ公害で家族を失い、彼が出資して学校へ行かせた弟子たちがいる。
 科学者の両親は彼が幼いころに死んだ。公害が原因であった。家の周りは産業廃棄物で埋め尽くされ、腐敗臭が風と共に流れ、水は濁り腐りきっていた。政府は何もしてくれなかった。散々理屈をこね、大企業との癒着をやめようとしなかった。
 幼い彼は怒り、この世からすべてのゴミを抹消するべく、たくさん勉強し、大学に入った。もちろん勉強の片手間にゴミ収集のバイトに精を出したのは言うまでもない。
 科学者はまず紙などのゴミを分別する機械を作った。書類などのゴミを分解し、ブロックにする機械である。ゴミを処理してもそのゴミを捨てる手間を省くのが彼のねらいであった。ゴミを処理するのではなく、ゴミを資源として再利用する。それが彼の夢への第一歩であった。
 この機械を大企業に売り込み、彼は富を得た。次に廃油を浄化し、再利用できる装置を作った。生ごみを砕き、フリーズドライ化し、海にばらまき魚のえさにする機械を作った。これは最初役所は難色を示したが、なんとか説得した。今でも環境保護の団体が文句を言いに来る。家電製品を分解し、細かく分別する機械を作った。家電製品を持ち込めば駄菓子が買えるほどのお金をもらえるので、みんな使わなくなった家電製品を持ってきた。
 もちろんそれをいろんな業者に売り込み、資金を得る。そうして効率化、小型化に成功した結晶がゴミクイロボであった。今までの機械では紙は紙、家電製品は家電製品と細かく分けたが、ゴミクイロボはそれらを一緒に処理し、分別するのである。
 ゴミクイロボはまず町のはずれにある不法投棄のゴミ山の処理に向かった。立ち合いにはその町の町長と役員たちが同行していた。もちろん科学者の名は知っているが、ゴミをまとめて食べ、すべて細かく分別するなど信じがたいのだ。
 そこにはタンスやテレビや冷蔵庫などの家電製品や、会社の書類の束や空き缶に空き瓶などが捨てられてあった。ゴミの処理は有料になっている。金を使いたくないのでみんな不法投棄するのだ。ゴミの山は新たなゴミを呼び込む。町のはずれだから生活には関係ないと町の人間はゴミ山に目を背ける。そしてゴミから垂れ流される毒は土と空気を腐らせる。
 まずゴミクイロボは目の前にあるテレビを食べ始めた。まるでテレビがビスケットのようにばりばりと砕かれていくのだ。そして食べ終わると今度は書類の束をポリ袋ごと食べ始めた。手当たり次第むさぼり食っている。

 ある程度ゴミを食べるとゴミクイロボは科学者が用意したトラックに積んであるドラム缶の前にやってくる。そしてお腹の扉から分別されたゴミをドラム缶に入れるのだ。
 小一時間も経つとゴミの山はきれいに消えていた。そして分別されたゴミは見事ドラム缶にたっぷり満たされていた。
 それを見学していた町長たちは驚いた。ゴミクイロボのおかげで長い間頭を痛めていたゴミがきれいさっぱり消え、さらに分別されたゴミは新たな資源となったのだ。ガラスはガラス、プラスチックはプラスチックと細かく分別されていた。紙はブロック化され、ポリ袋は溶かされ、プラスチックになっている。
 科学者はゴミクイロボを大量生産すれば国中のあらゆるゴミの山が消えると力説した。町長たちは大喜びした。ゴミクイロボを生産し、他の町に売りつければ大儲けになる。もっとも一体の値段は高級車ぐらいするが、レンタルで貸せばその手数料で儲かる。分別したゴミは金になるからいずれレンタルから購入したほうが元が取れる。
 町のゴミ収集はもちろんのこと、産廃を埋め立てしたところも掘り返し、ゴミを食べて、新たな資源を生み出した。ゴミクイロボは国中のゴミを食らいつくす勢いであった。ゴミの分別をせず、みんなゴミを同じポリ袋に入れていた。ゴミクイロボはそれらをみんな一緒に食べていたが、すべて分別する。どぶ川でもゴミクイロボは油まみれの汚い水を吸い上げ、きれいな水に変えるのだ。車のスクラップ場はゴミクイロボが数体がかりで一日かけてすべてを食らいつくす。シャーシはもちろん、タイヤやバッテリーもまとめて食べるが、きっちり分別するので業者は驚いた。

 一年も経つとゴミクイロボは国中のあちこちでゴミを食い漁っていた。
 産廃業者は自分たちの仕事が無くなると国に抗議をしたが、今まで目を背け、知らん顔をしてきたのに、ゴミクイロボはゴミを処分し、しかもきっちり分別する。悪徳業者はろくに分別をしない。しかもテレビなどの家電製品は地面を掘って埋めるだけという業者がいる。さすがに役立たずの産廃業者に無駄な税金を使うくらいなら、ゴミクイロボに金をかけたほうがよい。
 ゴミクイロボの燃料は分別した廃油を加工して利用している。月に一度のメンテナンスを行えば半永久的にゴミを食べ続けるという。メンテナンスは科学者が教育して教えている。学校を作り、年に一度は免許を更新させることで、手数料でもうけることができた。
 科学者は巨額の富を得ることができた。しかし彼はその金の一部を生活費や弟子の給料に充てて、大半は公害に苦しむ人々に寄付をした。長年悩まされたゴミたちに人間は勝つことができたのだ。あとの事業は税理士の資格を取らせた弟子に譲り、科学者は楽隠居する。毎日届く手紙はゴミを処理して感謝するものと、お前のせいで産廃業者が職を失ったと呪いの言葉を連ねたものがあった。もっとも呪詛を連ねたものはごくわずかである。
 科学者は感謝状を読むたびにホクホク顔になった。

 ところがある日不思議な事件が起きた。
 公園に住み着いたホームレスたちがごっそりと消えたのだ。そしてゴミクイロボは浮浪者たちが住んでいた段ボールハウスやその他のゴミを食べつくし、きれいになっていた。
 最初は役場がホームレスたちを追い出したのかと思ったが、彼らは何も知らないという。それに事前に連絡はなく、ひっそりとホームレスたちは消えたのだ。
 さてホームレスたちはいったいどこに消えたのだろうか。これは全国で多発している。ひと月も経つと全国からホームレスのたまり場はひとつ残らず消えてしまった。
 今度は暴力団の事務所から人間が消えだした。近所の人の話では事務所から助けてくれと悲鳴が聞こえたそうだが、関わりあうのが嫌で無視したそうだ。だがその近くにゴミクイロボを数体見かけたと目撃証言が出た。
 科学者は隠居はしたものの、落ち着くということで今までの研究所に住んでいた。そしてゴミクイロボを一体調べてみた。するとゴミクイロボの扉からソーセージが出てきた。
 はてな、なぜ分別したゴミの代わりにソーセージが入っているのだろうか。科学者は首をかしげたが、やがて顔が真っ青になった。科学者はソーセージの分析器で成分を調べてみた。
 ああ、恐ろしい予感が当たってしまった。ゴミクイロボから出てきたソーセージは人間の肉でできていた。
 どうしてゴミクイロボは人間を食べ始めたのだろうか。おそらくはゴミを食い尽くした彼らは次にゴミ人間を食べ始めたのだ。
 最初はホームレスたちを、次に暴力団の人間を食べ始めたのだ。それを考えると科学者は恐ろしくなり、急いでゴミクイロボのプログラムを変更しようとした。しかし科学者の背後に大きな影が包み込む。その気配に気づき、振り向いた科学者は驚愕の表情になったが、やがて歯をむき出しにしてにやりと笑った。
「なるほど、それがお前らの望んだ結末なのか」

 翌日、科学者の家には主人はおらず、代わりにソーセージだけが残されていた。科学者はその日から行方不明になったが、すでに大体の設計やメンテナンス方法は弟子が熟知しているし、パテントも譲られている。ゴミクイロボは世界中でレンタルすることになった。どこの国もゴミの山に悩まされている。ゴミクイロボは世界中に散らばり、すべてのゴミを食らいつくしてくれるだろう。そしてゴミ山に住む人間たちは消えてゆく。あとには分別された資源と謎のソーセージが残された。

終わり
2012/03/17(Sat)13:24:54 公開 / 江保場狂壱
■この作品の著作権は江保場狂壱さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
最初は金のためなら便利なロボットを破壊する話だった。まったく毒もなくひねりのないオチなので書き直しました。
11日に投稿しましたが、17日現在で改正を繰り返しました。
この作品に対する感想 - 昇順
こんばんは。作品読ませていただきました。
ショートショート的な作品には評価が厳しくなるのを自覚したうえでの感想になるのですが、風刺と呼べるほどの毒も効いておらず、あっと驚くようなアイデアも無く、ということになると、ちょっと評価が難しいと思います。
もしこれが日本の話なのだとすれば、産廃問題と向き合うのを嫌がって逃げ回っている行政が、わざわざ産廃業者のためにロボットを壊す、というのも違和感が残りました。
2012/03/11(Sun)20:19:560点天野橋立
天野橋立さん>普通すぎたと思います。コメントで解説するのはルール違反なので、作品ですべてを語るようにすべきでした。厳しい評価をありがとうございます。以後糧にします。
2012/03/12(Mon)19:59:090点江保場狂壱
こんばんは。浅田と申します。
読んだ感想としては話に起伏がないなと。天野さんが仰った話ではないですが、毒もなければオチに捻りもない。無難な話を無難に書いたという印象がありました。
私もよく短編を書いていてよく言われるのが、「話が単調すぎる」ということです。
むろん、わざと単調な文体で書く作風もありますし、短編である以上ある程度は単調な書き方をしなければならない場合もありますが、安易にそちらに“逃げる”と短編の場合は痛手を被ることが多いです。
書き方を少し変えてみると案外おもしろい話になるかもです^^
以上、少々生意気なことを言ってみました。
2012/03/12(Mon)21:09:010点浅田明守
浅田明守さん>感想ありがとうございます。
確かによくある話で、オチにひねりがないです。
それで結末を書きなおしてみました。
むしろはっきり厳しい意見を言ってくれたほうがありがたいです。人間は褒められても伸びますが、批判されても伸びますから。それに耐性があればの話ですが。
ご意見ありがとうございました。
2012/03/13(Tue)20:51:010点江保場狂壱
 こんばんは、江保場狂壱様。上野文です。
 御作を読みました。
 …毒を入れればいいというものでもないのですが><
 もし社会風刺を意図したのだとしたら、殺人をあっさり黙認する科学者や警官など、作品内世界が現実と乖離しすぎた次元で狂気に満ちており、失敗じゃないかと疑問を申し上げざるを得ません。
 ゴミクイロボよ、最初に食らうべきは、科学者じゃないか。
 辛い感想失礼しました。この理不尽ぶりは、改稿前より、ずっと心に残るといえばそうなのですが…
2012/03/14(Wed)21:41:060点上野文
上野文さん>
確かに科学者や警官が殺人をあっさり黙認するのはやはりおかしいです。
やはり他の人の意見はためになります。ありがとうございました。
2012/03/15(Thu)20:37:170点江保場狂壱
 こんばんは、江保場狂壱様。上野文です。
 改稿された御作を読みました。
 ここまでいけば筋が通りますね。
 科学者の根底にゴミと、ゴミを生み出す人間への憎悪があったのなら、生み出されたゴミクイロボは、ちゃんと創造主の願いを叶えたのでしょう。
 歯をむきだした笑いに、悔いのないマッドサイエンティストの会心の意を感じて、やるなあと驚嘆しました。面白かったです。
2012/03/17(Sat)19:55:451上野文
上野文さん>
やはり一回書き終えてもすぐに投稿せず読み直すべきでした。
シンプルイズベストのつもりでも、それは自己満足でしかない。
改稿を繰り返しましたが、それをできるのはここの良さです。
ただ科学者が笑うシーンはオチが弱いと思ってました。満足されてよかったです。
2012/03/17(Sat)20:43:180点江保場狂壱
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