- 『蒼き蝶達』 作者:南 / 時代・歴史 恋愛小説
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全角1737文字
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原稿用紙約12枚
新撰組副長 土方歳三
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空を見ると、夕焼けの色、オレンジと赤に染まっている。庭には綺麗な桜の木。
「……綺麗」
ぽつり、自然と出た一言。
桜は風に揺られ、花びらが落ちていく。
「こんな所に居たのか。」
綺麗な声。大好きなその声につられ、後ろを振り向く。
袴姿の綺麗な長髪の男。名は土方歳三。新撰組副長のその男は通称"鬼"と呼ばれている。
返事を返さず軽く微笑んだ。
土方は何も言わずそっと、隣に座る。
「………今日は体調が良さそうだな」
「はい、こうして桜を見ていると元気をもらえます」
そうか、そう土方は言うと自らの視線を蒼衣から桜の木に変えた。目を細め桜を見つめる。
「蒼衣…………」
「ん……?」
「生きれよ、たくさん生きろ。そしてーー………病を治したら、俺と一緒にならないか?」
彼の言葉に目を見開く。
「ーーーー……え?」
「その代わり、………精一杯治すんだ。諦めるんじゃねえ………約束だからな……」
「は、い…………」
頬を少し赤らめ微笑む。すると、彼も軽く微笑み返してくれる。
ね、桜さん。来年も貴方の咲き誇る姿、見せてね…………
「何!?」
報告を受けたのは、池田屋事件が終わった直後。
知らせてきたのは、監視方の山崎。
「せやから、山南さんから報告がありまして……蒼衣が………」
嫌な予感はしていた。前夜、あまり調子が良くない様子で廊下をあるいていたのを見た。
「くそ………っ………」
山崎の言葉を最後まで聞かず、血がべっとりついたその袴と羽織りで、屯所に走った。
ばっ……………っ!!!
勢いよく襖を開けた。
「はあ、はあ……はあ………蒼衣………」
走ってきた事で荒くなった息を出す。
彼の漆黒の瞳にうつったのはーーーーーー…………………
「ゲホっ!!ゴホ…………ケホ……っ…ゴホゴホ……!!!」
手で押さえる口元。指の隙間からは紅い血。
苦しそうに歪めるその美しい顔には、汗が流れる。
背中をさする山南、周りを慌しく急ぐ隊士。
「………蒼、衣……」
そっと苦しそうに咳をする彼女を抱きしめる。
「ひ、じかたさん…………?」
ぼやける先には愛しい彼。
「ケホ、私………………約束、………守れそうに…………ゲホ、……ないみたいです……」
その言葉に目を見開く。そして目をぎゅっときつく瞑りながら小さく叫ぶ。
「しゃべるんじゃねえ………!」
はあ、はあ、っと彼女の荒い息が耳元に聞こえた。
「愛してます………ずっと、……歳の事……」
力のない彼女をぎゅっと強く抱きしめる。
「…………………約束なんて、………元気にさえなってくれれば、それで良かったんだ………!」
ぽつ、−−−−涙が零れた。
ざわ…………………ーーーー
桜が強い風によって激しく揺れる。
「…俺も、……………愛してる…………ずっと、……………………………」
『土方さんって、赤がお似合いです』
『誰よりも優しい土方さんが………どうして鬼と呼ばれなきゃならないいですか…………!!』
『絶対、生きて帰ってきてください。………はい、お守りです。これが守ってくれますよ。』
『私、−−…………土方さんが、好き………』
『土方さんが居てくれれば、労咳なんて怖くない。一番怖いのは、土方さんが居なくなる事だから………』
『歳、………なんて呼べません!!土方さんでいいんですっ!』
『歳……−−−−−−、愛してる…………………』
ざわーーーーーー…………………
「……蒼衣、俺はたくさんお前に教わった。」
だから、それも………今までの思い出も、生きる力にして生きていく。
蒼衣は居なくなったわけじゃない。見えないけど、形はないけれど
きっと、どこかで見守ってくれるよな……………………………………
ひらーーー…………………
桜の花びらが堕ちる。
そして、桜の木の傍で蒼い蝶が羽を羽ばたかせている。
見守ってるよ、…………………貴方の最期まで…………
そして、新撰組の最期までーーーーーーーー…
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2011/08/23(Tue)21:27:31 公開 / 南
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■作者からのメッセージ
土方さんの話し。