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『脳みその雨が降る【輪舞曲】』 作者:水芭蕉猫 / 未分類 未分類
全角11504.5文字
容量23009 bytes
原稿用紙約35.7枚
犬が憧れた脳みその夢。
「ご主人は一体、何をしているのかな?」
 テーブルの下で犬が首をかしげて聞いてみると、テーブルの上に座った鳥が得意げに教えてくれた。
「脳みその雨を降らせているのさ」
 いつもの鳥の言葉にふぅんと頷いて部屋を仕切るドアを見る。
 ご主人の部屋は、誰にも見られちゃいけない部屋だ。
 犬はテレビとソファとテーブルと回し車の置かれた真っ白な部屋の中で、いつもご主人が出てくるのを待っている。
 テーブルの色は白。革張りソファの色も白。テレビの色も白い色で、ご主人の居る部屋のドアももちろん白。真っ白な部屋の中では、犬と鳥だけ色がついていた。
「ねぇ鳥、いつも聞いてるけど、脳みその雨ってなんだよ」
 犬は脳みその雨を知らない。脳みそも雨もわかるけど、脳みその雨って何だろうと思う。毎回、ご主人があの部屋の中に入るたび、鳥に聞いてはみるけれど、鳥は知ってるくせに教えてくれない。
「ご主人にしか出来ない事さ。俺らみたいな鳥や犬には関係ないことだよ」
 そう言って、鳥は意地悪くクククククゥと笑う。緑色の羽の生えた手のひらで、くちばしのように尖った唇を抑えて笑う姿は何だか少し不気味だなと犬は思う。
「まぁいいや。テレビでも見よう」
 鳥が意地悪なのはいつもの事で、それ以上教えてくれないことを知っている。真っ白なリモコンを手に取って、白い回し車の隣にある真っ白なテレビに向かって電源を押すと、ブゥオンという音がして白い画面に色が付く。かかっているのは何時も似たような映像だ。
「今日の虹は、黒が真ん中なんだねぇ」
 犬が感心して頷くと、犬の頭にとまった鳥が「珍しいこともあるもんだ」とテレビ真っ黒い縦筋を見ながら言っている。鳥は犬が来るずっと前よりも家に居るらしい。その鳥が珍しいというものだから、相当珍しいのだろう。
 テレビの画面に浮かんだ虹が、右へ左へ揺らめいている。真っ白い部屋の中、赤や黄色や青を見られるのはテレビの画面だけだった。いつもは黒は両端で、原色が真ん中に来ることが多いけど、黒い色が真ん中で揺れるのは普段と違ってちょっと面白い。
「ねぇ鳥、どうしてここにはテレビと僕たち以外に色が無いのかな?」
 波のようにゆがみ続ける色の光を吐き出す画面を見ながら犬が尋ねると、鳥はそんなことはとっくに知ってるという風にまたクククゥクククゥと低く笑った。
「そりゃお前、ここが夢の国に他ならないからなのさ」
 笑いながら得意げに言う鳥を見て、その度に犬は『鳥』という生き物は、どうしてこんなに不気味なんだろうと思った。

 ○  ○  ○

 子犬の頃は覚えてない。
 気が付くと、この真っ白い部屋に居て、ご主人と鳥が居た。
 ご主人の体は犬よりずっとずっと大きくて、その肩にとまった鳥が偉そうにふんぞり返ってる。
「よう犬。一応挨拶してやるぜ。俺は鳥だ。お前よりも『ご主人よりも』ずっと前からここにいる。ご主人と俺に粗相があったなら、お前はたちまち廃棄だぜ」
 そうしてまたクククゥと笑う鳥の頭を小突いた主人は無言のままで、犬の優しく頭を撫でてくれた。
 無機質な部屋の中、犬は手のひらの暖かさだけは覚えてる。
 ただ、どうしてだろうか。
 ご主人が犬を見る顔を見て、犬は何故だか胸の底がきゅうっと締められる感じがした。

 ○  ○  ○

「飯は一日二回。テレビは見放題。運動したくなったら、まぁ回し車でも回しとけ。ご主人が部屋に居る間は絶対邪魔するんじゃないぞ。質問は?」
 早口な鳥に聞かれたが、質問なんてそんなに急に出てこない。
 たっぷり十秒くらい考えてから、おずおず「あの、おトイレはどこですか?」と聞いてみると、鳥はこれも早口に教えてくれた。
「便所は回し車の後ろのドアだ。小穴があるからそこにしな」
 回し車の後ろには、なるほどよく見ると確かに小さなドアがある。犬の背丈の半分くらいのドアをそっと開くと、これもやっぱり白い部屋。だけど、広さは居間の九分の一くらいだし、白いタイルの真ん中に小さな穴が開いてるだけだ。中をそっと覗いてみると、底は暗くて全然見えない。それからもう一つ気になることがある。
「ねぇ、匂いがしないんだけど……」
 頭の上にとまった鳥に聞いてみると、鳥はまるで馬鹿にするようにクククククゥと笑って言った。
「匂い? 何言ってるんだお前、匂いなんてまだお前にはもったいないだろ?」
 言われて犬はそこで初めて気が付いた。
 そういえば、鳥にも自分にもご主人にも、白い食事にも匂いなんてついてない。
「まぁ、便所なんて本当は必要ないけどな」
 そこでまた鳥は笑う。
 クククゥ、クククククゥ。
 何が面白いのか、笑い続ける鳥を見て、犬は不気味な奴だなぁと考えた。

 ○  ○  ○

 そもそもやることのある日なんかないけれど、やることのない日は寝てるか鳥と取り留めのないことを喋っているか。
 ご主人は一日二回、犬と鳥に食事を用意してくれるが、それ以外は大体外に出ているか、自室で『脳みその雨』を降らせているか、無言でテレビ横の回し車でクルクル走っているかの大体どれかだ。
 ご主人が出ていくときには真っ白い玄関のドアから隙間が覗けないかと試してみるが、主人はするりと小さな隙間から出てしまう。外から入る空気は少し冷たいが、匂いはやっぱり解らない。
「ねぇ鳥、ご主人は一体どこに行ってるの?」
 テーブルの下で白くて柔らかい食事を食べながら、テーブルの上で何かを食べている鳥の声だけが聞こえてくる。
「脳みその雨の材料を取りに行ったんだろう?」
「ふぅん。脳みその雨って材料が必要なの?」
 すると鳥は心底馬鹿にした様子でまた笑う。
「そんなの、当たり前だろう? 材料が無くちゃ雨なんて降らせられるかよ」
「えぇと、それはつまり、雨を降らせるにも水が必要ってことなのかなぁ?」
 犬がぽつりと尋ねると、鳥は少し驚いたように瞬間黙りこむ。そしてバタバタ、テーブルの上から降りてくると、緑の体を反らして犬の顔をまじまじ見つめた。それからニヤリと口の端を歪めると、犬の足を短い脚でドカリと蹴った。
「お前、ちょっとお利口になったじゃねぇか」
 そんなに痛くは無かったけれど犬がびっくりしていると、鳥は再びテーブルの上に戻って行った。
 いったい、何だったんだろうと思いながらまた食事をとってると、そこではたりと思い出す。
 そういえば、どうして僕は『雨』なんてことを知っているんだろう。

 ○  ○  ○

 白い部屋には窓が無い。なのに外には、空があることを知っている。
 空は青いことも知っている。青がどういう色かも知っている。
 鳥が鳥だと言うことも、緑という色だというのも知っている。
 外には水の雨が降る。
 晴れたり曇ったり、時々テレビみたいな虹も出る。
 自分は、見たことも聞いたことも無いハズのことを知っている。
 鳥との食事を終えてから、犬は少しずつ自分の置かれている状況を疑問に思うようになってきた。
 確かにここの暮らしは悪くない。だけど、どうして自分は知っているんだろう。ここに来る前はどこに居たんだろう。そして、どうして今になって気になって来たんだろう。
 鳥にそのことを聞いてみると、鳥はやっぱり笑うだけ。
「それは、お前がお利口になってきている証拠だよ」
 そう言われたところで、何が何だか犬にはさっぱりわからない。ぐるぐるぐると考えるそのうちに、犬は苦しくなり始めた。どうしてどうしてどうしてと、どうしてが体を破ってあふれ出そうで苦しくって仕方ない。
「ご主人、どうして僕はここにいるのでしょう?」
 ある日たまらず、部屋から出てきたご主人に向かって問うてみたが、ご主人はちらりと犬を一瞥しただけで、回し車を五分ほどカラコロカラと回してから再び部屋に入ってしまった。
「ご主人、ご主人、僕は一体なんなのでしょう? どうして何も知らないはずなのにこんなに知っているのでしょう?」
 ご主人が回し車を回している間、犬は回し車の前に座り、そうしてずっと聞いていたが、ご主人は犬など居ない風だ。
 部屋の中にご主人が帰った後も、犬はずーっとドアの外から聞いていた。
「どうして、どうして僕は知っているのでしょう? 僕はどうしてここに居るんですか? 僕はどこから来たんですか?」
 ドンドンとドアを数回叩くと、鳥が慌てて飛んできて、犬の頭に思いきり爪を立てた。
「バカかお前! ご主人の邪魔したら廃棄って最初に言っただろうが!!」
 鳥に怒鳴られ、犬がしょぼんとしょげ返る。
「ごめんなさい。でも、僕って一体誰なの? どこから来たの? どうしてここに居るんだろう? ねぇ、鳥は知ってる?」
 弱弱しく尋ねると、鳥はフンと息を吐く。
「ちょっとお利口になってきたと思ったら、どいつもこいつもすぐ『こう』だ。まったくもって、実に下らんことで悩みだす」
「でも、僕は知りたいよ」
 それでも鳥に食い下がると、鳥はイライラした声で言う。
「知ってどうする? 知ったところでどうなるんだ? 知っていようが知っていまいが、お前に意味は無いんだぜ?」
 でも、でも、と小さく言ううちに、鳥は「話はこれでおしまいだ」と言ったきり、テーブルの上にパタパタ行ってしまう。真っ白な部屋に取り残された犬はただ一人、ドアの前で項垂れた。

 ○  ○  ○

 ドアの中から声がする。
 ご主人が外に出るとき困らぬよう、ドアの隣の壁でうとうとしていると、中からこそこそ声がした。
「だから、……にはもう……無理だよ」
 なんだろう。
「納期に……無理だ。廃棄に……あれは……いい」
 そっとドアに耳をくっつけると、中からご主人の声がする。ここへ来てから初めて聞くご主人の声に、犬はごくりと息をのむ。
「あの子も………してくれ」
 ところどころで聞こえないご主人の声。中で誰と話しているんだろう。でも、ご主人以外にこの部屋には居ないはずだよね? だってどんなに耳をすませてもご主人の声しか聞こえないもの。
 誰も見ていないのに、犬が首をかしげると、『雨なんてもうたくさんだ!』と怒鳴り声が聞こえて犬は死の程びっくりした。体がびくんと飛び上がるが、それでも足音が聞こえてすぐ我に返る。
 驚いてドアの前から飛び退ると、内側からドアが開き、中からご主人がのそりと出てきた。
 ご主人はじろりと犬を一瞥すると、それだけでやっぱり何もなかったように外へ出てしまう。
 どうしたんだろう? ご主人は誰と話をしてたのだろう?
 ご主人が出ていくのを見送って、犬があたりを見回してみると、いつも絶対ありえないことが起きていた。
 ご主人の部屋へ続く、あの真っ白いドアが、ほんの少し開いていたのだ。
(ダメだよ。あの部屋はご主人の部屋だから、勝手に覗いちゃだめだよね。ダメに決まってる。でも……)
 心の中では思うけど、犬は好奇心に抗えなかった。
 一体、今さっきご主人は誰と話していたんだろう?
 この部屋にはない窓があって、誰かがそこから入って来たてたとか?
 今ならまだ、誰か居るかもしれない。居ないとしても、窓から外が見られるかもしれない。
 隙間に誘われるようにして、そうっとドアの間から覗きこんでみる。中が暗くて解らないから、少しだけと自分に言い聞かせながら中に入ってみる。
 驚いた。
 ご主人の部屋の壁の部分には、一面本がぎっしりと並んでいた。赤や青のや黒や白やいろんな色の背表紙。大きいのや小さいのや、中くらいの本たちの、そのうちの一つをそっと指先でなぞってみると『動物図鑑』と読めて犬はもう一度驚いた。
 文字なんて、見たことも無いのに読めたのだから。
 それから、部屋の真ん中に転がっている大きなスイカはなんだろう。
 好奇心の赴くままに、白いタイルの床に転がり落ちている黒と緑の縞模様のついた丸い球に近づいてみると、それまで黙っていたスイカは突然真っ赤な口をあけ、犬の頭に噛みついた。
 驚いてしりもちをついた。外そうとしてスイカを引っ張ってみても、スイカは犬の頭に噛みついたままびくともしない。そのうち、頭の中にごうんごうんと鈍い音が響きだし、自分はこのままスイカに食われて死ぬんだろうと犬が思った時だ。
 脳みそに、雨が降る音がした。
 ざぁざぁ、ざぁざぁ
 不思議なノイズが流れ続けるそのうちに、真っ暗だった犬の視界は少しずつ綺麗になっていく。
 真っ白な世界だ。
 何もない、真っ白な世界が目の前いっぱいに広がっていた。
 ここはどこ?
 思ったとたん、目の前に文字が浮かんでいた。手を伸ばせば、触れられそうな近い位置に黒い文字はこんな具合で並んでる。
『空の色は、どんな色?』
 お空の色は、青い色。
 反射的に思ったとたん、上から雨が降ってくるのに気が付いた。
『空の、色は、青い、色』
 文字の雨は、こここん、と犬の頭にぶつかって、はじけて消えた。途端、頭上に広がる青い色。
(なんだこれ)
 犬の心が躍っていた。わくわくドキドキした気分に、両手を上げてくるくると回ってみた。ふわふわ浮いた、少し頼りない気分に下を向くと、そこはやはり白い世界。
 だから犬は小さく唱える。
『地べたは茶色』
 再び空から落ちてくる。犬の頭に当たってここんと落ちると足に広がる地べたの感触。
 青と茶色の二色の間で犬はくるくる回ってた。楽しくて、自分以外の色がこんなに鮮やかだなんて、とても懐かしくって仕方ない。
 きゃっきゃと楽しく笑っていると、何もしていないのに空から文字が落ちてきた。
『鳥が、犬を、突くのです』
 文字は緑の鳥へと変化して、犬の頭を固い唇で突きだした。
「痛い、痛いよ!!」
「お前、誰だ?」
 慌てて犬が逃げだすと、追いかけてきた鳥は黒い無機質な目を向けて、ぎろり犬を睨みつける。
「え、僕はい……」
 犬ですよ。と犬が自己紹介をしようとした時、後から後から雨が降ってきた。
『鳥が犬を突くのです』『鳥が犬を突くのです』『鳥が犬を突くのです』『鳥が犬を突くのです』『鳥が犬を突くのです』『鳥が犬を突くのです』『鳥が犬を突くのです』『鳥が犬を突くのです』『鳥が犬を突くのです』『鳥が犬を突くのです』『鳥が犬を突くのです』『鳥が犬を突くのです』『鳥が犬を突くのです』『鳥が犬を突くのです』『鳥が犬を突くのです』『鳥が犬を突くのです』『鳥が犬を突くのです』『鳥が犬を突くのです』『鳥が犬を突くのです』『鳥が犬を突くのです』『鳥が犬を突くのです』『鳥が犬を突くのです』『鳥が犬を突くのです』『鳥が犬を突くのです』『鳥が犬を突くのです』『鳥が犬を突くのです』『鳥が犬を突くのです』『鳥が犬を突くのです』『鳥が犬を突くのです』『鳥が犬を突くのです』『鳥が犬を突くのです』『鳥が犬を突くのです』『鳥が犬を突くのです』『鳥が犬を突くのです』『鳥が犬を突くのです』『鳥が犬を突くのです』『鳥が犬を………。
 すべての雨は鳥となり、寄ってたかって犬を突き出した。
「カエレ」「カエレ」「オマエノハ」「ツマラナイ」「カエレ」「カエレ」「カエレ」「オマエノハ」「ツマラナイ」「カエレ」「カエレ」「カエレ」「オマエノハ」「ツマラナイ」「カエレ」「カエレ」「カエレ」「オマエノハ」「ツマラナイ」「カエレ」「カエレ」「カエレ」「オマエノハ」「ツマラナイ」「カエレ」「カエレ」「カエレ」「オマエノハ」「ツマラナイ」「カエレ」
「わぁ、やめてよ! 痛いよ!! 突かないでよ!!」
 体のあちこち、頭と言わず耳と言わずを引っ張られたり突かれたり引っ掻かれたりで、犬がたまらず逃げ出すと、緑の鳥は笑いだす。げげげとかぎゃぎゃぎゃとか。これならまだウチの鳥の方がましじゃないかと思えるような不気味な鳥の笑い声に犬が耳を塞いでいると、そのうちの一羽が犬の前に立っていた。
「お前、初心者?」
 くぐもった青い鳥の声。涙目の犬がこっくりと頷くと青い鳥は「そか」と短く言った。
「そんなら、練習場にでやれ。初心者の雨は、ヒトの脳に悪いから」
「練習場?」
 犬が尋ねると、鳥がくわっと口をあけ「練習場」と唱えると、『練習場』の文字がココンと地に落ちてきた。瞬間、空の青も地の色もすべてがぐるりと消え失せて真っ赤なクレヨンで描かれた子供っぽいうず巻きが真っ白な空に現れる。
「ぐるぐる太陽、練習場。上手くなったら勝手に俺らが消すから」

 ○  ○  ○

 ご主人が部屋を出ていくと、犬は部屋へとこっそり忍び込む。
 本当はいけないことだと解ってる。だけど、脳みその雨を降らせる楽しさを知った犬にはこの楽しさに抗えない。
 慣れたようにスイカを被り、真っ白な世界で好きなことを塗りたくる。最初は空の色や地べたの色を一色、青や茶で塗りたくったりするだけだったが、そのうち文字を複雑に組み合わせれば組み合わせるほど複雑な情景を出せることがわかってきた。
 例えば、青い空の色と降らせると、青一色が天井に塗りたくられるのが、夕焼け模様の空の色、と降らせると、とろけそうな太陽から放たれる、橙色から闇色へと変わるグラデーションが出来上がる。
 そのうち、登場人物を数人出して人間模様を描いてみたりすると、これがなかなか面白い。
 残念ながら、自分と登場人物は話が出来ないけれど、彼らにストーリーを与えることが犬には出来た。
 彼と彼女をくっつけたり別れさせたり、『愛してるよ』と囁かせたり、『私はあなたが嫌いだわ』と言わせたり。
 たまに詰まってしまうけど、そんな時はご主人の部屋の本を読む。図鑑を見ては知らない生き物を知り、知らない言葉を知り、知らない言い回しを覚えていく。頭の中に知識が増える。
 脳の雨を貯めるとは、たぶんこういうことかもしれないと犬は思う。
 そのうちどんどん、降らせられる雨の量は増えてくる。
 複雑な情景や模様が出来ればできるほど、やってくる鳥は「まぁまぁだ」とか「全然だめだな」とか「結構面白い」とか勝手なことを言っては去っていく。
 それがとても楽しくて、犬はさらに雨を降らせた。
 どんどん、どんどん犬は言葉を降らせることが上手くなり、最近では降らせる言葉は豪雨のようだ。
 空の上から、ざらざらざらと降る雨は、地べたに落ちてはじけて溶けて色になり形になり、人になり情景になり感情になり、怒ったり笑ったりを繰り返す。
 脳みその雨が織りなす情景の山たちに、鳥は楽しげに笑いながら「おもしろいおもしろい」と口々に言いだして、とうとう空からクレヨンの太陽が消えていた。
「くひひ」
 犬はいつもの白い部屋の中。ご主人は脳みその部屋の中。
 テーブルの下で犬が思い出し笑いをしていると、鳥がテーブルの上からひょこりとさかさまに頭を出した。
「よう犬、お前、最近ガンガン脳の雨を降らせてるらしいな」
 小声で鳥に言われると、犬は小さく頷いた。
「うん。脳みその雨って楽しいね。昨日は沢山褒められちゃった」
 もう一度、昨日鳥から褒められたことを思い出し、犬が「くひひ」笑うと鳥は「クククククゥ」と不気味に笑った。
「そんなら、お前はもう犬じゃねぇな」
 鳥の言葉に「へ?」と犬が首をかしげると、鳥は嫌な笑いを見せながら犬に向かって小さく言った。
「お前、犬が脳みその雨なんて降らせられるわけねぇだろう。それが出来るってことはお前はもう犬じゃねぇよ」
 真っ黒な、全てを吸い込むような瞳で犬を見る。
「僕が犬じゃなかったら、なんなのさ」
 不気味な鳥の言葉に何だか急に怖くなり、犬が逆に尋ねてみると、鳥はまたクククククと笑いながら「さぁね」と言ったきり。テーブルの上にひょいと顔を戻して、もう喋らない。

 ○  ○  ○

 犬が本格的に脳みその雨を降らせるようになってから少しした頃。
 脳みその雨が織りなす言葉の山は、消えたように見えるけど、地面にたまって深く蓄積されている。だから新しく雨を降らせるとき、一見言葉は消えてるようにみえるけど、きちんと保管されていて、取り出す時は地べたから引っ張り出せば良いという。
 青い鳥が教えてくれた。
 なるほど確かに地べたに手を入れると、自分の降らせた雨の一端が少しずつ頭の中によみがえる。ためしに、この前書いた物語を引っ張り出すと、長く連なる言葉が大きな蛇のようにずるりと飛び出し、一列に天井まで飛び上がってばらばら言葉の雨が落ちだした。
 長い話なので、言葉が形になる前に「地面に戻れ!」と叫ぶと言葉はたちまち白い地面に吸い込まれた。
 真っ白い世界に、犬と青い鳥が取り残される。
「他になにか質問はあるか?」
 青い鳥が鳩みたいに膨れた胸を突き出すと、犬はうーんと唸ってからそういえば、と思い出す。
「そういえば、ここって僕以外にも脳みその雨を降らせる人がいるよね?」
 いままで、自分が雨を降らせることばかりに夢中だったけど、そういえばここではご主人も脳みその雨を降らせているはずなのだ。ご主人の事だから、降らせる雨はすごいものに違いない。
 鳥はくい、と首をかしげてから「おお!」と声を出した。
「他人のな。他人の雨。ゲギャ!」
 そして嬉しそうにゲギャゲギャと笑うと、ぱかりと口を大きく開けた。
 鳥の口には舌は無く、代わりに針のついたチューブが物凄い勢いで飛び出して、犬の喉に突き刺さる。
 痛いという暇も無く、苦しいと思う暇も無く、ただ反射的に鳥を放り出して刺さった針を抜こうとすると針はとっくに抜けている。
 瞬き一つの後、気が付けば、鳥になって飛んでいた。
 飛んでいるのは、本棚だ。
 右も左も、上も下も、赤や緑や黒や茶色や、すすけてるのや真新しいのや、広大な本棚にギッシリ本が詰まってる。本棚でできた輪の中を鳥になった犬は飛んでいた。
 なるほど、他人の雨を見るには、鳥にならないとダメなんだ。
 翼を無意識に羽ばたかせながら、ご主人の降らせた雨はどれだろうと考えた。すると縦横無尽に敷き詰められた本たちの、そのうち一つに目が付いた。
 これにしよう。
 やり方は自然と解る。
 背表紙に飛び込むと、そこは雨が降っていた。
 言葉の雨と、本物の雨だった。
 ざらざらざらと言葉が落ちて、雨粒にはじけて情景を作り出す。
 大雨が降っている中で、一人の誰かがスイカに頭を食われていた。
 ぐつぐつと聞き取れないほど小さな独り言をつぶやきながら、その場に幽鬼のように突っ立っていた。
 スイカの頭には細いチューブがついていて、それが遠くに伸びている。ずっと遠く、見えないところまで伸びている。
 伸びている。どこまでも伸びている。
 言葉の雨と、水の雨が降りしきる中を、犬がチューブを追いかけて飛んでいくと、チューブは大きな箱につながっていた。
 犬が何千匹も詰め込めそうな、大きな大きな箱だった。
 そして箱にはさっきのチューブ以外にも、何千何百ものチューブがつながっていた。それは全て、スイカから伸びているチューブ。四角い箱はまるで、スイカのチューブから栄養を吸い取っているみたい。
『箱の中には人間が眠っているのです』
 言葉の雨がざららと降ると、箱がぱかんと二つに割れた。
 中にぎっしりと詰まっているのは、卵だった。
 虫の卵みたいな、縦長の白い卵が、カマキリの卵みたいにびっちりと詰まっている。よくみると、一つずつ息をしているように緩い動きを見せている。今にも次々と殻を破って飛び出してきそうな情景に、突然犬の頭が反転した。
 赤や緑や青や黄色や、いろんな色が頭の中でバチバチと乱反射して、飛んでいた犬は地面にまっさかさまに落っこちた。

 ○  ○  ○

 ご主人が、ものすごく怖い顔で立っていた。
 手に持っているのはスイカで、犬は床にあおむけに転がっていた。
「ほあ」
 間抜けな声と同時に、犬はご主人に部屋から乱暴に蹴り出された。
 謝る間も無かった。
「クククゥッ、ついにバレちまったな」
 白い部屋に戻されると、蒼白の犬を見ながら鳥が不気味に笑っていた。

 ○  ○  ○

 部屋の中から声が聞こえる。
「はは、あれは……じゃないよ」
 ごまかすような、そんな声だ。
「違うよ。あれは……じゃない。俺の空想さ」
 声が少しずつ、大きくなる。
「だから、……のじゃないって言ってるだろ?」
 大きくなる。
「違うって言ってるだろ!? あれは俺の雨だ!! これ以上俺らみたいなのを増やして何になる? 人間なんて戻ってくるはずがないんだ! こんな馬鹿な真似、続けてても無駄に決まってるだろう!?」
 外で聞き耳を立てている犬は、だんだん怖くなってきた。テーブルの下に逃げ込んで、ぶるぶる震えていると、鳥がテーブルの上からやってきて怖がる犬を見ながらニタニタ笑ってる。
「お前、とうとう犬じゃなくなったな」
 犬は怖くて何も聞けない。
「やれやれ、怖すぎて何も聞けないってか? だが、かなり良い兆候だ。好奇心も旺盛で、物事もよく見てる。脳みその雨の質も良いらしいな。まさに逸材ってか?」
 鳥はそこでクククゥククククゥと不気味に笑うと、なけなしの勇気を絞った犬が鳥に聞く。
「僕は、どうなっちゃうの?」
 すると鳥は回し車を指さして、ニタリと笑った。
「妄想工場の歯車さ」

 ○  ○  ○

「こちらにいらっしゃい」
 犬は、初めてご主人が喋ったところを見た。
 部屋の中へと通されて、犬はぺたりと床に座った。
 ご主人に上から見下ろされ、犬は生まれて初めて涙をこぼした。
「ごめんなさい」
 小さく言うと、あとからあとから零れだす。
「ごめんなさい。ごめんなさい。本当にごめんなさい。取り返しがつかないことして、ごめんなさい」
 ぼろぼろ涙を流して謝ると、頭の上にぽんとご主人が手を置いた。
 暖かい手におずおずご主人を見上げると、ご主人は悲しそうな、苦しそうな、なんとも言えない顔をしていた。
「脳みその雨を降らせるのは、そんなに楽しかったのかい?」
 こくん、と犬が頷くと、ご主人は仕方なさそうに大きなため息を一つつき、突然物凄い力で犬の首根っこを押さえつけた。
「!? な、何をするんですか!?」
 びっくりして犬が暴れると、拳が頬に飛んできた。
 きゃいんと間抜けな声が出て、犬がすっかり大人しくなるとご主人は犬の白い服を引っ掴んでずるずる外へと引っ張った。そして玄関の、犬が一度も出たことが無い外へ力任せに放り出す。
 外へべたりと倒れこみ、振り返る瞬間にバタンとドアが閉められた。
「ご主人様!? お願いです、中に入れてください! 中に、中に入れて!!」
 どんどん、だんだん、ドアを叩いてもご主人はドアを開かない。その場で崩れて泣き喚いても、ドアはびくとも動かなかった。
「おう、上手い具合に育ったもんだ」
 突然声がして、振り向けば鳥が居た。ご主人の所と同じ鳥に見えたが、羽の色は緑ではなく青だった。
「鳥?」
 犬がおずおず尋ねると、鳥は値踏みをするように上から下まで犬の体を眺めまわした。
「語彙量も良好だな。雨量破綻率も暫く低そうかな」
「あの、どうして鳥がここに居るの? それから、ここ、どこ?」
 外に放られたと思ったのだが、犬が居たのは小さな部屋だった。
 ご主人の部屋のような、壁一面にギッシリと本が詰められた部屋だ。いや、『ような』ではなく、まるきりご主人とおなじ部屋だ。
「どこって、ここは妄想工場に決まってるだろ」
 鳥があっけらかんと言ってのけると、いつものように不気味に笑う。
 ゲギャ、ゲギャゲギャゲギャ。
 そして転がり落ちてるスイカを犬の前まで蹴り出して、
「さぁ今から降らせろ。お前はもう『犬』じゃない。『歯車』だ。だから、暫く降らせられなけりゃ、お前は廃棄されちまうぜ。俺がずっと見てるから」
 そして再び笑い出す。
(あぁ、そういうことだったのか)
 鳥の笑い声を聞きながら、スイカを手にした犬はぼやんと思い出す。
(僕は、妄想工場の歯車だ)
 黒と緑の縞模様。
(僕は、最初から歯車だ)
 その時、犬は犬ではなくなった。

 ○  ○  ○

 脳みそに雨が降る。
 どざざぁどざざぁと音を立て、真っ黒な言葉の雨が降り注ぐ。
 言葉の雨はしずくとなって、はじけて消えて形になった。
 人の眠った棺桶は、楽しい夢見る棺桶だ。
 緑の鳥が歌いだす。
「こっちの雨は面白い。あっちの雨は詰まらない。こっちの雨は人の夢。あっちの夢は廃棄処分」


2011/05/07(Sat)23:17:02 公開 / 水芭蕉猫
■この作品の著作権は水芭蕉猫さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 お久しぶりです。水芭蕉猫ですにゃーん。
 あぁ、最終投稿から何か月目でしょうか……ようやくひねり出したのがこんな形に……。一応【輪舞曲】参加作品なんですが明らかに退化しているのですよ。
 そして今ちらっと見てみたら若干玉里さんの『森の都』とかぶってるんじゃなかろうかと戦々恐々です。かぶってると言うのもおこがましいかもですが……。
 い、石は投げないでください;
 突っ込み所満載ですが、何か形にしてみたかったということで許してもらえたら嬉しく思います。

五月六日。あまりに誤字脱字が多かったので修正。
この作品に対する感想 - 昇順
 どうもakisanです。

 この物語の雨は、きっと猫さんの中で情報を表しているのでしょう。正否は問わず雑多な情報でしょうか。人間の言葉であり、本の文字であり、メディアの垂れ流す音声データ。そして猫さんは情報の雨の中で、アイデンティティを必死に保とうと右往左往している姿が浮かんできます。見ていると心配になってくるぐらい追い詰められていると感じました。
 そうやって解釈していけるあたり、そして企画のネタ消費を文字表現ではなくて連想のみで表現したあたり、深い物語ですなぁ。

 この物語は、ややむき出し状態で地の文は荒いですけど、他の誰にもかけない個性の塊だと思うのです。自分にはどうあがいてもこれはかけません。あと玉里千尋さんのとは被っていませんよ。ここまでむき出しの個性を塗りたくって、他の作品と被ることなんてまずないと思われます。

 もしこの作風のまま新人賞に投稿してみるというなら、西尾維新がメインの「講談社BOX新人賞」か「メフィスト賞」が喜んで受け入れてくれそうです。猫さんの作品は個性があって面白くても、それが通常のレーベルに向いてないと自分は思うのです。
2011/05/03(Tue)13:00:311akisan
いや、ほとんどカブってはいないでしょう。企画の材料を下ごしらえする段階では似ていたかもしれませんが、あとはもう調理法も味も別物ですから。
猫様が童話っぽい文体で書くときの、白黒混沌とした玉虫色の奇妙な風合い、今回も堪能させていただきました。まあちょっと苦い脳味噌雨ではあったのですが、そこはそれ猫様の毒電波、こんくらいの毒含有率はむしろ愛らしいくらいで、とても楽しかったです。

それから、ここに記すべきことではないかもしれませんが、玉里様の【輪舞曲】に向けた感想の冒頭で、企画立案者のお犬様になんか懐疑的な発言をしてしまいましたが、すみませんすみません、きれいさっぱり撤回します。やっぱり他動的シバリがあると、かえって種々の作者様の個性が際立って、読者としては、たいへん楽しめました。自分で書けないからといって、ヤキモチ焼いてすみませんすみません。
2011/05/03(Tue)16:47:051バニラダヌキ
ははあ、可愛い小鳥ちゃんや犬君はこういうところから生まれたのか、と面白かったです。スイカはこのために摂取していたのか、とか(笑)。
作品全体がまさに脳みその雨という感じでした。
犬というのは外からとりいれた素材の比喩でしょうか。猫様の頭ではいろんなものがスイカにガリガリやられているんでしょうねえ。
でもこれは輪舞曲なんだろうか。お前が言うなって感じですけど。
2011/05/04(Wed)08:07:540点玉里千尋
 こんばんは、水芭蕉猫様。上野文です。
 御作を読みました。
 このいい意味で病んだ、呪わしいほどに幻想的な物語は、やはり猫さんだと圧倒されました。
 本当、すごい…。感想になってないような感想ですみません。
 でも、本当に、見事な料理法だと思いました。面白かったです。
2011/05/05(Thu)21:19:571上野文
akisan様>
お読みいただきありがとうございます!!
うふふ、実はこれを書く寸前に幻を見たのですよ。ぐっちゃぐちゃな気持ちの中で、小説を読んでいると上から文字が降ってきたのです。雨みたいにばらばらっと。相当追いつめられてたのは本当です。もうどうにもならいと思いました。思いついてからも、このネタ消費のやり方は怒られてもしょうがないかなーと思いながら詰め込んでみました。でも殆どお犬様からもらったネタしか詰め込んでないのでこういうのもありかなーとか。
これは個性なんだろうか。でも、個性だと言われると嬉しく思います。私の話は大抵誰かのお話の焼き直しに過ぎないような気がしてしまうのですよね。
講談社ボックス文庫はまだ手に取ったことすら無いです。西尾先生のお名前はよく聞くのですが、化物語のアニメしか見てなかったり。やっぱり、目を通した方が良いんだろうな。よし、今度見てみます。一般レーベルには……向いてないんだろうなぁ。今回の凹み方で痛感してます。うん、でも方向性が見えてきただけありですよね! よし。
 感想とポイントありがとうございました!!
バニラダヌキ様>
お読みいただきありがとうございました!!
白黒混沌は私の好みであります。どっちかに傾いてしまうのってどうしてもストップがかかってしまうのですよね。それは多分、私の中でいろんな何かが渦巻いているせいからかもしれません。で、それが電波となってゆーんゆーんと毒を発してるのかもしれません(笑

この企画、面白いですよ。やっぱり縛りがあるとその分だけいろんな人の色んな解釈の違いが出てきて、読んでる方は大変面白いのですよね(笑)書くのは本当に四苦八苦でしたが;
 感想とポイントありがとうございました!!

玉里千尋様>
お読みいただきありがとうございました!!
実はこの話は玉里さんのお話の触りを読んでそこから切り口の探索をしてたら幻を見たんですよ。全部はまだ読んでなかったのですが、チョコバーのあたりと門へ行くという辺りの切り口で連想してたんです。そしたらぼーんと。可愛い小鳥ちゃんと似たような感じですが、出所は全然別物だったりします。スイカに頭を食われるシーンも、実は元ネタがあったりします。犬はあえて言うなら「現状に何の疑問も持っていない、満足した状態」です。悪い事じゃないのですが、だから疑問を持つと犬ではなくなります。
私はお犬様の輪舞曲の設定と全力にらめっこしながら書いてたので、輪舞曲だと思ってますよ。違うと言われたらそれまでですが……。
お読みいただきありがとうございました!
上野文様>
お読みいただきありがとうございました!!
うん、病んでます。病みながら書いてました。ワードにネタの塊を握って丸めて思いきり叩き付けるような発狂感があったのも事実です。
凄いと言われるとやっぱり嬉しいですよ。ありがとうございます。ただ、この書き方、かなりよくないやり方だと自分では思ってます。もうほかにやりようがないくらい追いつめられてしまったのでこうなりましたが;
感想とポイントありがとうございました!!
2011/05/05(Thu)23:24:170点水芭蕉猫
 拝読しました。
 えっと、輪舞曲ですよね………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………うん。では、敬語バージョンで。
 最後まで読むと主人と鳥と犬の関係がなんとなく見えてくるけれど、それでもなんとなくだけでメルヒェンめいていました。比喩でありながらオリジナル。きっと水芭蕉猫さんの好きなものでパッチワークされているのでしょう。
 主人の犬への愛情がいまいち見えにくいのが、残念だなと思いました。水芭蕉猫さんのことを知っていると、その辺りのことが余計に気になるところです。
 敬語で書くと言いましたが、この小説にこの語り口で感想を書くとなにもかも野暮になりますね。
 感想を書くには苦手なタイプでしたけれど、小説は面白かったです。
2011/05/06(Fri)03:02:241模造の冠を被ったお犬さま
おい。おい。――おい。
どうしてこうなった。どうしてこうなった。――どうしてこうなった。
遅れてしまいましたが、読ませて頂きました。
なんでや。なんでこの企画に参加する人間はこんなに自らの「個性」が強いんだ。すげえもんが次から次へとぶん投げられてくるなぁ。あの設定からどれだけ分岐するのだろう。人の脳みその中身は恐ろしいものだ。自分が考えていた物語に一ミリも掠っていない。これは凄い。
相変わらずの猫さんのオリジナルワールド全開で、陳腐な脳みそを武器とする神夜は取り込まれたが最後、細部内容を脳内で構築する前に終わってしまった。やべえぜこれ。猫ワールドにまったく入り込めていない。前作でもこんな感じの感想を書いた覚えがある。あれから丸っきり神夜の脳みそは進化していないらしい。玉里千尋さんの物語もそうだったけれども、自分の中で描く輪舞曲と離れていると、どうにも脳がショートしてしまう。
ただ、面白い。面白いんだけれども、納得が出来ない。内容や展開の諸々は面白いのだけれども、これが輪舞曲なのかと言われると首を傾げてしまう。いや、自分だけがそう思って、この物語からあの設定を読み取れなかっただけなのかもしれない。人の考える内容って本当に凄い。
ところで一つだけ気になったのが、描写内で「犬」と書くのではなく、「僕」とかの表記にして一人称にした方がすっきりきたのではないかと思いながらも、それはまぁ、自分の理解力不足のせいかもしれませんね。
猫ワールド、深くに入り込めはしませんでしたが、それでも楽しませて頂きました。
2011/05/06(Fri)13:27:310点神夜
 ども、読ませてもらいました。
 相変わらずのザ・猫ワールド。言葉に出来ないこのシュール感が最大の味ですね。
 さて、最初はSFモノかと思っていたら、アリス的というか、グリム童話的な残酷ファンタジーだったのですね、これ。
 何となーくマトリックスを彷彿させる所もあったような気がしますが、多分気のせいでしょう。
 妄想(創造or想像)を脳みその雨という表現が個人的に一番好きです。多くの人は酸性雨で、脳みそを溶かしてしまっているようですがw
 オチだけは先に読めてしまったので、1ptという事で。

 ではでは〜
2011/05/06(Fri)15:30:500点rathi
あ、しまった。やらかした。
改めてポイント追加です。

ではでは〜
2011/05/06(Fri)15:31:361rathi
模造の冠を被ったお犬さま様>
お読みいただきありがとうございます!!
輪舞曲ですよ。うん。頭痛がするほど提示されたネタを見て書いてたので、輪舞曲だと思ってます。輪舞曲のネタしか入れてないじゃんとも思ってた。それくらいには私の中で輪舞曲……のつもり……。
パッチワークというのは当たってるかもしれません。とにかく上滑りしないことを重点に、好きなことを好きな位置に入れて〜というのはあります。ご主人の犬に対する愛情が解りにくいのは私にも悩みどころでした。ただ、やっぱりあまり主人の主観を入れすぎるとバランスが崩れてしまうのです。それならいっそ匂わせるにとどめるのが良いかなと。
感想書きづらいのに書いてくれてありがとうございます。な、なんかホント申し訳ないです;
感想とポイントありがとうございました!
神夜様>
お読みいただきありがとうございます。
どうしてこうなった。自分でもどうしてこうなったです。とにかく最初に考えた一般的学園モノが上滑りしてあまりに使えなかった為、悩みすぎて見た幻をそのままぶつけたとしか……。
うん、この話は受け付けない人は絶対いると思います。輪舞曲のネタ自体は使っていると断言しますが、使い方はとてもズルい使い方なんですよね。例えば呼び出すシーンなんかも、普通は「放課後○○にね」とか連想するところを一メートルか二メートル、相手に呼ばれていくだけでも「呼び出された」ということにしてあります。そういうズルい使い方が全開なんですよ。コレは。だから、本当に輪舞曲? と思われても仕方ないのです。でも、そういうふうにしか書けないくらい書けなかったのですよ;スミマセン;
三人称に関しては、この話は三人称の練習も兼ねてるんです。だから、私の力量不足でもあるのですよ。うぅ、なおさらスミマセン; でも、兎に角楽しんでいただけたなら幸いです。やっぱり、楽しいって言われるのが一番うれしいです。
感想ありがとうございました!>
rathi様>
およみただきありがとうございます!
ザ・キャットワールド!!(おい)
書いてないけど本当はジャンルSFにするか迷いました。でも、あんまりにもあんまりな内容なので、これは下手にジャンル設定しない方が良いんじゃないかなと思いました。マトリックス……かな?
小説は脳みその雨ですよー。他人の雨を頭に降らすのが小説を読むということなのかなーと。そんな幻。酸性雨でトロかすのも大ありですよ。それで幸せなら良いじゃない(笑
オチ読めちゃいましたか; まぁ、私の話は筋道ワンパなのが多いですしね。
感想とポイントありがとうございました!!
2011/05/06(Fri)23:01:590点水芭蕉猫
 こんにちは、作品読ませていただきました。
 うーん、皆さんもおっしゃっておられるように、何だかすごいものが出てきたなあという感じですね。ほとんど現代アートとかの世界に近いような。こういう作品を読むときは解釈をしないで、ただ感覚に任せて読むことにしているんですけど、僕にはちょっと受け止め切れなかった感じです。ただ、最後の一行(緑の鳥の歌)はとても良いと思いました。こういうリズム感のあるフレーズが全体にたくさんあれば、もっと入り込みやすかったのかも知れません。
 輪舞曲の作品として見た場合、その要素は取り込まれていると思うのですが、しかしかなり遠いところまで来たなあと思いました。玉里千尋さんの作品でも同じようなことを書いたのですが、あの地点からさらに一光年くらい遠くに来たような。しかしその点は、むしろ面白いと思いました。何か、ある種の神話が原型だけを残したままどんどん変形して行った、その果てのような感じがしますね。うん、この話は遠い未来の神話なんだと思います、きっと。
2011/05/08(Sun)13:37:060点天野橋立
 水芭蕉猫様。
 御作を拝読しました。
 なんだこれは、原色の絵具をぶちまけらたような、イメージを叩きつけられるような、そんな印象を受けました。小説家が読み手を引き込む手法として視覚、聴覚等の情報を印象付けるものがありますが、これは違う。手法としてイメージがあるのではなく、イメージ自体が逆説的に本質になっている。天野様も感想でおっしゃっていますが、現代アートという言葉がぴったりかもしれません。
 犬は妄想工場の歯車だった。『日本語であそぼ』というNHK教育の番組がありますが、僕の中ではまさしくそのイメージでした。文字が、黒い文字が白く何もない部屋に降り注いでいる。分からないけれど本能的に情報だけを受け入れてしまう。それこそ幼児が知識をありのまま吸収してしまうように。
 犬が知識を持ったことによって歯車にされてしまったということに、失楽園のイメージがわきました。知恵を持ったがゆえに自分よりも行為の存在に自身の存在を否定されてしまうという構図が見られました。
 鳥は一体全体何者だったのか。これはよくわかりませんでした。鳥頭=何も知らない=だから都合よく生かされている……これは僕の先入観ですね。結局わかりませんです、はい。ご教授いただければ幸い。
 冒頭は視覚を重視していて、中盤から聴覚が顕著になっていますが、何か理由があるのでしょうか。もしないのでしたら、冒頭にも聴覚的な何かを入れてみてはいかがでしょうか。よりリズム感が出るのではないかと、この青二才は考えたのであります。
 よくわからん感想になってしもうた。こちらのイメージを叩きつける感想。つまり、イメージの応酬であります。うむむ。こんな感想しか書けず、申し訳ありません。
 ピンク色伯爵でした。
2011/05/09(Mon)01:12:530点ピンク色伯爵
どうも鋏屋です。御作読ませて頂きました。
久々の猫味…… まあなんとも相変わらず内面的な物を表現するのが上手いなぁw
そのピュアな感性が羨ましい。私にはまず書けないお話です。
ふと思ったのですが、こういう物を書くときは猫殿のような『ゴシック系童話タッチ』(何じゃそりゃw)みたいな文体の方が表現しやすいのかなぁなどと思いました。
終始私の読んでいた印象は『アリス・イン・ナイトメア』若しくは『ゆめ日記』のような奇妙な感覚ですw 
しかしこれ、輪舞曲なのか? クラ殿も恋愛に限らないと言ってたけどw 『輪舞曲』と言うよりジェットコースターみたいな感覚だった。
読んでて面白かったのですが、私の場合、結構感情移入して読むタイプなので、こういう物語にシンクロしすぎると帰って来れなくなりそうな気がして恐いっすwww 上手い方が書いているだけあって、いやに引き込まれて読み進んでしまうのが尚更恐いですよw
鋏屋でした。
2011/05/12(Thu)10:21:101鋏屋
水芭蕉猫さん

こんにちは。作品読ませていただきました。
一体、どんな感想を書いたらいいんだと、今までずっと悩んでおりました。ごめんなさい。う〜ん。どうしたらいいんだろう。……というのが感想になってしまうのかな。
スイカに頭をかじられる犬、かじられると脳みその雨が降る。饒舌な鳥。妄想工場の歯車。う〜ん、何とも脳幹を刺激するフレーズなのですが、どう理解していいのか分からないのが本音です。解説は必要無いですし、むしろそれを訊ねるのは相当な野暮でしょうな。
脳の体操になったといいますが、いい刺激になりました。
ありがとうございました。
2011/05/12(Thu)16:33:110点オレンジ
天野橋立様>
お読みいただきありがとうございます!
アートと言えるほど大層な代物かはかなり微妙なところですが、提示されたネタを自分というフィルターを通して書こうとしたらこうなってしまったという……。最後の鳥の歌は自分でも結構お気に入りだったりします。テンポの良い、リズム感がある文章にしたいなぁとは思いつつ、なかなか思うようにはいかないですね。
輪舞曲の要素はめいっぱい取り込んだつもりですよ! でもすごくずるい使い方ばっかりです。ははは、物凄い遠いところまできてしまいました(笑)えぇ、神話なのかはわかりませんが、遠い未来の話だと思ってます。
 感想ありがとうございました!!
ピンク色伯爵様>
お読みいただきありがとうございます!
なんだこれはとは、また嬉しい感想です。イメージを叩きつけたのはうん、ホントです。アートと呼べるのかどうかは定かではありませんが、ネタをこねくり回して掴んでワードに叩きつけたというのは、実際その通りであります。言葉というのは不思議なもので、頭の中に反射して言葉以外の物になるのですよね。それが面白いと思ってるせいかもしれません。
犬は妄想工場の歯車で、でも犬=歯車ともちょっと違うのです。歯車をカエルとするなら、犬はオタマジャクシみたいな、そんな具合ですね。白い部屋に黒い文字がざらざら降ってきたのなら、それは私のイメージが伝わったということでオッケーですね!! やったやった!
失楽園というほど悲観的じゃーないですよ。だって犬がやっていたことも、歯車がやらされていたことも同じことですから。
なるほど、ピンクさんは鳥をそういう風にとらえたのですね。それもまた一つの読み方だと思います。ただ、解らないのは気持ち悪いですよね。他人の作品を見て感想を言う生き物、書いてる人が逃げ出さないように監視している生き物が鳥です。
視覚と聴覚は特に意識してませんでしたがな。でも、白い部屋に色が付いた部分があったらきっと嬉しいよね。しかも色に音がついてたらさらに嬉しいよね。という感じかもしれません。
うーむ、もう少し考えてみるか。
いえいえ、感想ありがとうございました!!
鋏屋様>
お読みいただきありがとうございました!!
猫味です(笑)しかも電波味です。ピュアなのかしら。これはピュアじゃないよきっとひねくれてるよ。うーん、こういう話はどうしても童話タッチになってしまうのですよね。「ゆめにっき」は言いえて妙ですね!! 確かにかなり影響を受けた部分はありそうです。
輪舞曲か否か、これについては「輪舞曲です!!」と頷きます(おい)
私も感情移入タイプですよー!!! でも、この話の場合私の心境をつづった部分もあるので私の世界の見え方なのかも……。ってことは私はもう……。いえ、なんでもありません。上手いと言っていただけると嬉しいです。
感想とポイントありがとうございました!!
オレンジ様>
およみいただきありがとうございます!!
感想の書き方を悩まれた方が多いようで、大変申し訳なくなってしまいます;でも感想頂きありがたく思います!!
プロットは一応あるのですが、やっぱり、この手の話を作者が語るのはあんまりよくないと思ってますので、詳しい言及は逃げ続けております。たぶん、オレンジ様の感じたままが正しいのだとおもいます。
感想ありがとうございました!!
2011/05/12(Thu)22:30:280点水芭蕉猫
遅くなりましたが拝読いたしました。こんにちは。

 これは【輪舞曲】なのかしらん?
【輪舞曲】なんでしょうね、たしかに。一見分かりにくそうですが、丁寧に読んでゆけば、何が何に相当しているのか、意外とクリアに分かりそうです。しかしそんな謎解き解説みたいなことをするのも野暮な気がします。この不思議な雰囲気を味わいつつ、【輪舞曲】の構造的共通性を何となく感じていればいいのではないかと思うのです。

 これは散文による詩かもしれない、という気もしました。あるいはこれを詩に書き換えてもおもしろいかもしれませんね。

 あとほんのもう少し文章が研磨されていれば、とも思ったのですが、ヤン・シュヴァンクマイエルの人形アニメか何かみたいな世界で、すごくおもしろかったです。こういうものが出てくるんやなあ。
2011/05/14(Sat)01:33:051中村ケイタロウ
中村ケイタロウ様>
お読みいただきありがとうございます!!
輪舞曲ですよ! それだけは心から言いますとも! ただ、やっぱりすごくズルいですけれどね。うん、謎解きと言うほどにもなってないと思います。でもやっぱりズルいんですよね。このやりかたは。何となく共通性が出ていれば……本当は皆さんときっちり一緒にしないといかんのだろうともおもうのですけれど、どうしても出来なかったのですよね;
あぁ、確かに詩にしてもおもしろいかもしれません。ただ、美しい詩にするにはそれもやはり技量が必要なんだろうなぁ。
面白いと言われると、やっぱりとっても嬉しいです。ドキドキしちゃう(笑)そう、もう少し、文章力があれば良いなぁと自分でも思います。やっぱり、精進するしかないのでしょう。
感想とポイントありがとうございました!!
2011/05/15(Sun)21:35:540点水芭蕉猫
水芭蕉猫様、作品読ませて頂きました。

私には想像できないような感性の作品で羨ましく思いました。
仕事の合間合間で読んでいたのですが、あの白い犬は何なんだろう? あの鳥は何なんだろう? 主人は? 部屋は? と気になりながら読ませてもらいました。読み終わってから感じたのは何とも言えない感覚でした、私の読解力のなさが起因するのですが、抽象的なというかもやもやとした感じというか。絵本作家を目指してる方から読ませてもらった絵本を読んだ後のような、そんな不思議な感じでした。この作品には「縛り」のような物があるようですが、他の作品も読ませて頂きたいと思います。
2011/05/16(Mon)22:59:450点シン
シン様>
お読みいただきありがとうございます。
犬は白じゃないですよ。犬と鳥以外の無機物が白で構成されているのですが、ここはやはり私の書き込み不足のせいでしょう。いえいえシン様の読解力は良いほうだと思います。もう、心の底から抽象的世界で構成されていますので。ただ、絵本かといいますとちょっと違うような気もします。でもこういう話を作者がしゃべるのは恥ずかしいので、想像のまま捉えていただければと思います。このお話は【輪舞曲】という企画のお話ですので、企画については雑談掲示板であれこれ書かれています。他のかたのは、もっとわかりやすくて面白いですよ♪
それでは、感想ありがとうございました!
2011/05/20(Fri)22:18:340点水芭蕉猫
[簡易感想]
2012/09/01(Sat)17:11:360点匿名(無記名)
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