- 『Thanks Amasimak !!』 作者:笠鷺リョーノ / リアル・現代 未分類
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全角8008文字
容量16016 bytes
原稿用紙約23.45枚
他愛もないガールズトークです。
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格好つけることに努力を惜しまない彼女のスタイルに脱帽した。
キャップを後ろ前に被るのも、流行り廃れたローラーシューズを何としてでも探し出して購入し歩道を滑るのも、パンタロンなジーンズの裾をドロ跳ねだらけにしたがるのも、こだわりを賭すならば殴り合いの喧嘩も厭わない彼女らしいやり方だ。
いわく、「あたしは他人に理想を投射しないことにしている」と。
自分の理想をひたすら自分にだけ追い求めたいなんてずいぶん面倒臭いというか、我慢強いことをしていると思う。だってそれは詰まるところ、自分の信じたものを間違いなく徹底的に貫き通すということじゃないか。つまり憧れの人なんか居ないわけか、と言ったら、ギターが弾ける人は羨ましいと彼女は言った。手首をありえない方向に曲げて折ったことのある(らしいが、常習的にブラックジョークじみた嘘を言うので信用ならない)彼女は、つまり自分自身では弾くことのできないギターという楽器にだけは異常なまでの関心を見せた。
「(どうせ弾けないなら)あたしがギターになりたいなあ。そんで誰か超絶上手い人に鳴かせてほしい」
彼女はうなだれた格好でその弦楽器の話をはじめるとき、大抵シメにはそんなことを言った。
そこまで執着するもんか? とも思うが、長年彼女の友人をやってきた人間の立場からすると、もはやしょうがないような気がしてくる。彼女は自分の辞書に不可能なんて文字が堂々と載っているのを知りながら、それを塗りつぶしたがってマッキーペンを振り回しているのだ。なぜなら本人がそう言ってた。
ところで本題へ戻れ。
私が彼女をわざわざファストフード店まで連れ出したのは、こんないつもの話をのらりくらりするためじゃなかったはずだ。
そうだ。彼女に相談があったんだ。
私には今現在、憧れの延長線上から、もしかしたら恋愛関係を築きたいと思い始めているかもしれない異性がいる。
もっと簡潔に言えって。好きな人がいるんだよ。
彼は放送部の先輩で、いつもあのフザけたラジオドラマの編集チェックをしている人だ。
美しい人なんだ。横顔が。男性のくせに睫毛が長くて。青春をけばけばしく謳歌している多くの女子生徒の皆々様から「並。」と評価された彼が、キーボードの前に頬杖をついてミキサー用のソフトを弄る横顔の、あの麗しさを知らない人間は損をしていると思う。もちろん得をさせる気はないけれど。
私がひとしきり、出会って未だ一年にも満たない赤の他人たる先輩の自慢話(容姿ならば横顔だ。あの色白に影が差す作業中俯いた先輩を越えて私の視線を奪うものはない。性格なら気さくだけど、ちょっと謙遜屋っていうか、自分の手柄でも「誰々のおかげだよ」って髪を掻き上げながらははっと笑う、あのあったかさだ。あと集中すると声を掛けても聞かない。自分の世界を囲って機材に向かう先輩、眉間の皺。私のあんまり拙い語彙では語りつくせない!)をすると、彼女は、ははあ、とか何とかもったいつけて言った。
「それは恋だね」
知ってるよ。
「そんな怪訝なツラすんなって」
「真顔だけど」
「真顔で眉間に皺寄るか?」
ひェひゃひゃと彼女は笑う。品のない引き攣り笑い。彼女に備わる108の要らない癖のひとつである。
「そんな顔すんなってば。んで何だっけ」
「だから、先輩にね、」
次の言葉にぐっと詰まった。
どう説明したらいいのだろう。私も今だ信じ切れていないことだ。狐にでも化かされたんじゃないかと。
一昨日の放課後の話だ。私と先輩は二人で放送室にいた。二人きりで。先輩は音声編集の残業で、私は日誌を書くという本来あってもなくてもいいことだけども残業と言い張るにはうってつけの仕事をじわじわ片付けていたところだった。
もちろん無言だった。先輩はヘッドホンを耳に当ててミキシング作業をしていたし、私は先輩の邪魔をしたくなくてなにより先輩の背中がすぐそばに存在しているという事実自体を熱源に果てしなくかっかとしていたので喋る余裕もなく、ただ頬杖をついて日誌を書いていた。
その日はちょうど次の作品についてみんなで話し合った日だった。たいがいの場合脚本は、日高君が書くか部長が書くか、皆でくだらないリレー小説をするかの三択だ。今回の会議は日高君が考えた「親友が魔王だったら」というフレーズにみんなでいろいろ盛り付ける感じに進んで行った。誰も叙述トリックで意外性と感動のある展開に、なんて野暮なことはいわない(私は真っ先にそんな展開で悲哀な友情の結末を思い描いたが面白くなかったので発言しなかった)。「そうだと思ってたよ」とか「オマエを倒す代わりに民主党を倒す」とか、「嘘だッッッッッッ!」とか「これから毎日帝都を焼こうぜ」とか、そんな感じだった。部長が自称親友のBさんの名前を出して、アイツは本当は魔王なんだ、だってこないだ待ち合わせに遅れたとき、それも電車が遅れてたせいなんだけどさあ、全速力で場所に行ったら「疲れたでしょ」ってコーラおごってくれたんだけど、ものっそいバーテンもビックリな勢いでシャッフルしてから寄越しやがったんだぜ。もう缶パンパンで、しょうがないから奴のほうを向けて開けてやったよ。なんて話しては誰かが自業自得とはやしたてて、副部長が「と部長が申しております」とツイッターに書き込もうとしていたのを「オマエBにフォローされてんだろがァァァ」って部長が止めに入ったりしてたなあ。
「木村」
部長はのせられるとすぐ叫ぶから副部長にものすごく遊ばれるんだよね。ほんと可愛い。さて、どうやって今日のことは日誌に書こうか? 部員の中にはこれを絵日記にしてるやつもいるし、日高君みたいにラノベにしちゃう人もいるし、デコデコして終わりの人もいる。ざまあと一言書いてあるだけのページもある(日付は去年のクリスマスだ!)。私はいつも普通の日記みたいに捻らないで書いているけど、実はちょっと書き方も気にしてるんだぞ。ちらっと時事ネタを盛り込んだりとか。んんんどうやって書き出すか。
「木村、ちょっといいか」
そんな勢いだったから、私はなんとまさか先輩にかたたたた肩を叩かれるまで、名前を呼ばれていたことに気がつかなかったのだ! アンビリーバボー! でも先輩がしつこく呼んでくれてたのかと思うと、いやいやそんなあ。
「な、なんですか?」
先輩は神妙な顔をしてこっちを見ていた。そして私がクエステョンマークまで言い終わると間髪入れずに「あのさ、」といやに大きな声で言った。
「あのさあ、木村」
まるでなんでもないそぶりで機器の電源を落としながら。
「はい」
「今付き合ってる奴とかいないの」
そう言ったのだ。
「なにその美譚。あてつけ? あてつけなの? リア爆って言って欲しいの?」
午前十一時の二階席はがやがやと混みつつある。追い出されないためにもなるべくポテトをもたせるべきなのに彼女は三本同時で食う。私の分まで食う。他人の品物に容赦ないのも彼女の悪い癖。人の話を最後まで聞かないのも。
「違うよ。だっておかしくない?」
「何が?」
ざわめくテーブル席を背に彼女が猫背をさらにすぼめてだるそうな伸びのふりをする。
「だっていきなりだよ? それまで何の素振りもなかったのにだよ?」
「あったんじゃね実は。つーかアレだよ、密室に二人きりだとさあ、勘違いしたりすんじゃないの。お前が」
「私が?」
私はむっとしたが、彼女はにっとした。からかうつもりだったか。しかしこれは冗談の話ではないのだ。彼女はほんとうに不謹慎だ、しかし謹慎な彼女がいたとすればそれは双子の姉妹かドッペルゲンガーに他ならないだろう。から、私は眉間に聳える峰をすこし深める程度で留めておいてあげた。妥協したんだ。
「実はもっとタンジュンな話だったのかもよ。例えば」彼女は塩と油のついた指を舐めて、ジーンズの太股にこすりつけながら言う。「あんたのことが好きな奴がそいつの友達にいる」
「そんな……」
そんなことがあるはずもない。
「ありがちでしょ」
「ないよ。だってあたし人に好かれたことなんてないもん」
そう、好かれたことはない。利用されたことはたぶんある。
ただ言ってしまってから、自分のあんまりストレートすぎる拗ねた物言いに、恥ずかしくなって目を逸らすようなことをしなければ、私は珍しい彼女の驚いた顔が見られたはずだった。なぜならついと視線を戻したとき、彼女が顔の筋肉を総動員して真顔を取り繕うのを見たから。
気まずくならないように素早くポテトを口に含む。
「ハア、あんた篠原先輩好きなんじゃないの」
彼女は家の裏でマンボウが死んでるのを目撃してしまった人間を容赦なく通報するような顔をした。
「そりゃあ、そうだけど」
「つまりあの普通に好かれたいんでしょ?」
「普通って言わないでよ」
たしかに先輩は身長体重ひいてはBMIから期末テストの合計得点まで普通の人だけど、放送部でミキサーをしてる時点で普通じゃないんだから。部長がエセ歌い手とかいってどこかの動画サイトに投稿する音源をつくったときもエンコードまで篠原先輩がやったんだからね。
そもそもそこまでの高望みはしていないのだ。彼女にしてほしいとか、そんなこと言わない。ただそっと草葉の陰から見つめてほくほくできればそれでいい。あの寝不足の影の浮いた横顔を眺めながら、くだならいことを喋ったりとりつくろったりしていられればそれでいいんだ。
別に好かれたいわけじゃない、好きなだけ、と言うと彼女はふーんと鼻を鳴らした。頬杖をついて窓のほうへ視線をやるのを見ていると、彼女が何事か頭の中で繋ぎ合わせているのがわかる。
「まあ恋する乙女は我侭なもんなのか」
彼女の頭の中で何がいかにハイブリッドな処理を行われたのかわからないけどそう言われた。
「我侭って...」
そのことばに驚いた。むしろいちばん迷惑はかけてないと思われるのだけれども。
「だってさ、さっきの話もさ、マジで先輩がお前のこと好きだったら嬉しいだろ」
だから。「そんなはずないってば」
「あるなしの話じゃなくて仮定だってば。嬉しいだろ」
どうだろう。嬉しい……かな。なんだかもやもやする。嬉しい、と思う。でも、それだけじゃなく、何だろう。先輩が私を好きだったら? 考えたこともない。そもそもそんなはずがないのだ。私みたいな、いっつも作り笑いでついてけない話に頑張って相槌打ってるような根暗にそんな要素があるはずがない。それでも好かれていたとしたら? どこが好かれるんだろう……好かれるはずが……思考することすらおこがましい。
「あんたさあ」
はっと顔を上げると彼女はポテト付属のディップソースを指ですくって舐めていた。ポテトは食い散らかされ惨状に油染みだらけのペーパーがぺらぺらしているのみだ。
「いや、やっぱなんでもない」指をペーパーのすそに捻じ込んでぱっぱとやってから立ち上がる。「ちょっとトイレ」
それなりに賑わいトレーを持った人が行き交う中をふらふらしながら化粧室へ向かう背中を見送りつつ、彼女は私の顔に何かを見たのだろうか、とか思ってとっさに頬に手をやると、この人いきれの熱気のせいかいやに火照っていた。
何を言おうとしたんだろう。
我侭だなんて。私そんなに自分勝手なこと言ってるかな。ただ先輩に言われた気になることをちょっと聞いてほしかっただけで、それだって別になにか期待をしていたんじゃなく……そうじゃなくて。
これは不安だろうか。いったい何が相手の頭の中で弾けているのかわからなかった。それが不安なのか。一見して前向きに見える全ての選択肢に、まるで赤錆の生えるように居心地の悪いモヤがこびりついている。
私はやっぱり我侭なんだろうか。ならばそれこそ、好かれたいなんて言ったらまさにじゃないか。悶々とするたび頭の中に埃が積もる。思わずお冷をがぶ飲みしていた。
彼女は携帯をいじり倒しながら戻ってきた。親指の動きはプロフェッショナルだ。私もメールをするときは夢中でやるけどあんなに早くは打てない。
画面を見つめたまま席についてガサガサとトレイに手が伸びるけども、もうポテトは切れている。容赦なく食い荒らしたのは誰でもない彼女自身であるというのにも関わらず舌打ちをする。
「買ってくる?」
私が言ってもへんじがない。ただのうわのそらのようだ。
「あたしさ」
私が結露したグラスを置くのとだいたい同時に彼女の右手が水を取る。溶けて形のあいまいになった氷がからからいった。
「何度かあんたを羨ましいと思ったことがあるよ」
突然妙なことを言われて、つい意識的にまばたきをしてしまった。
奔放という言葉をジャンパーの代わりに羽織って歩いているような彼女が、なんとさりげなく、本人のポリシーに違反しかねないことを言ったのに驚いたのだ。
「それはないでしょ」
彼女は理想の背中を追っかけて生きている。やりたいことを成し遂げるエネルギーがある。そうでなければここまでらしいことがいったいどうしてできるようになるだろう? この半端に自由な生活で?
しかし私のない胸に詰まっているのは現実ばかりだ。動く歩道のような道筋の中、成すべき現実ばかりがハードルのようにいくつもいくつも立ちふさがり、インターバルはますます短くなっていく。しかもそこに障害物があるから飛ぶだけだ。それに意味を見出すことはまだできていない。飛び越えないという選択肢も、一度地面に手をついてくぐってやろうということも、蹴っ飛ばして歩道を抜けてしまおうなんて気も起きない。それがどうして、歩道の手スリの上を逆走するような彼女に羨ましがられるんだ。
「できるからさあ、あんた、いろいろ」
器用。要領がいい。言われることはよくある。とくに大人からはこと言われた。けれどそんなはずがない。私はできる人なんかじゃないよ。
「しかも余裕がある」
余裕だと?
「ないよ」
そんなばかがあるか。
即答した自分の声が思いのほか低くてはっとした。
でも余裕だなんて。いまも彼女の言葉のひとつひとつに引っ掛かってぐぢぐぢするような精神をしているのに、余裕だって。そんなものが彼女の猫目のどこに写ったのかしらないが、間違いなくそれは見間違いだ。
「あるよ。余裕のよっちゃんだよ。いっつも簡単じゃんか」
彼女はグラスを置いて、額に手をやった。前髪を掻き上げて一息。
「あたしはなんかさあ……あたしはね、ホラ、他人にどんなに憧れてもさあ、他人には絶対なれないし。だからとりあえず、やりたいことやってやろーっていってまあやってんだけどさあ、別にやろうと思ったからって何でもできるわけじゃないわけじゃん。ギターは弾けないし、キャサリンのハードモードはクリアできる気配すらねーし。あとね、好きな人が居ないんだよ。カッケーとか思うことはまーあるけど、でも好きにはならないなァ。たぶん自分のこと好きになろーとするので手一杯なんだと思う。自分自身のことだからさ、ヤーなところも全部まる見えで嫌にもなるけど、やりたいことやるためってか、したいことできるよーになるにはさ、そんなファッキンクソッタレな自分でもさあ、どうにかしてやんなきゃならないわけじゃない」
水を飲むついでに彼女が氷を噛み砕く。ぼりぼりさせながら口を開く、食べながらでも無遠慮に喋りたがるのも彼女の悪癖のひとつに数えられる。
「あんたのさ、なんでもかんでも否定してさ、自分安売りするようなところがさ……イライラするけど、その余裕、いまは羨ましい。どんなに前向いても厳しいご時世にさ、好きな人に振り向いてもらわなくても構わないなんて言える余裕、イヤミじゃなく真面目にだよ。能力があって精神が強いからできることだよ。間違いない」
べらべら言われて、要点が掴めなかった。
ただ彼女は、ひたすら後ろ向きなこの思考を難癖つけて羨ましいと言った。つまり私がこうして、ぐちぐちしているのが煩いんでしょう。どうしてはっきり言わないのよ。
「好きで安売りなんかしない」
声を張り上げないのが精一杯で、声を振るわないのが限界だった。
「だって、だって、頭いいとか、勉強できるとか、器用だとか偉いとか、字が綺麗だとか、声がいいとか歌がうまいとか、そんなお世辞みたいなもの、ハイそうですねなんて頷いてたらバカじゃない。偉そうなんてほどじゃないでしょ。それこそイヤミでしょ。最低じゃない」
彼女は目を見開いて、じっとこっちを見ている。
「いいなあ、あたし、世辞でもそんなに褒められたことないわ」
そして心底とでも言いたげに溜め息をつく。
ああ、そういえば彼女は、あんまり奔放を着飾って歩いているものだから、目の上のたんこぶのような言われようなのだ。
「ごめん」
「謝るなよ。悪いと思ったなら特に」
ひどい言い方をする。私だって言いたくてあんなイヤミみたいなこと言ったんじゃないよ。
「でもさ、正直なところ、告白されたら嬉しいんじゃねーの」
「えっ」
だからそんなの無いってば。常識的に考えて。
「野暮言うなってば! ほら想像。あの普通が来る、あんたに『実は気になってた。付き合ってほしい』って言う。ハイどーよ」
そんな言い方はしないと思う。言うなら……そうだな、「木村ー、何かさ、俺、お前のこと好きかもしんないわ」そんな感じ……何を考えてるのか私は。そんなことあるはずもない。しかし言われたら? 言われたら……
「嬉しいんじゃねーの。なんか顔赤いぞお前」
何を言うかバカタレ。
「違うよ。店んなか熱いから」
「じゃあどうなのさ」
「そんなの考えられないってば。考えるのもおこがましいよ」
「オコガマシイ!」彼女はにやりとした。「好かれるのがおこがましいなんて、よく言えるよ! あたしなんか最悪嫌われないので手一杯なのにさ! 好かれたいばっかりで、おこがましいなんて言えない!」
ごめん、とまた言いそうになった。本当に悪いと思ったので言わなかった。
誠実に考えてみようか。先輩は部室代わりの放送室で、定位置に座っている。私がいる。先輩が突如「木村ー」と呼ぶのにどぎまぎしながら答えると、「何かさ、俺、お前のこと好きかもしんないわ」と言う。冗談じゃないかイタズラじゃないか罰ゲームじゃないかまで頭をめぐらせてショートしている私に先輩が……先輩が、もしも付き合って欲しいと言ったら。もしも。
彼女はディップソースのカップをもはや舌を突っ込んで舐めている。ほんとうに治すべき癖に塗れたやつだ。それでも私が彼女と一緒にいるのは、彼女についてならば、嫌なとこもいいとこも知ってて、嫌いとか好きだとか、友達だとかうんたらかんたらとかそういう枠を離れ、ただいっさいを誤魔化すことなく過ごせるからなのかもしれない。それだけは、否定なく、私は恵まれていると断言できる。結局はそうなんだ。かの疑わしいったらありゃしない神様の思し召し。腐れ縁だ。
ポテトを買うつもりなのか財布を持って立ち上がった彼女は、私が「あのさ」と振ると止まってこっちを見た。もうすっかりその気が油っこい方向に逸れているのを彼女の顔の中へ確認してから、私は彼女に、「告白されたらぜったい断らないと思う」と早口で言った。たぶんそういうような内容のことを。
彼女は一瞬なにごとかと目を瞬いたが、ついににやーっと笑った。
「やっぱりそうだろ?」
私は鞄から財布をひっぱり出した。一緒に何か買いに行こ、飲み物でもポテトでもいいけど。まだ長い昼のあいだに食べながら話したいネタはたくさんある、このあいだ先輩がものすごくかっこよかったこととか……。
オワリ
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2011/03/30(Wed)23:42:05 公開 / 笠鷺リョーノ
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■作者からのメッセージ
初めまして。
素敵な投稿掲示板があるとお聞きして投稿させていただきました。
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