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『明日の終わり』 作者:篠原 / リアル・現代 ショート*2
全角2011.5文字
容量4023 bytes
原稿用紙約6.3枚
 ――昼過ぎ。本来ならば真っ青で白い雲が浮かんでいる筈の空は雲一つなく、夕焼けより濃い赤を演出していた。轟々と音が聞こえてこないだけマシかも知れないが、それでも太陽は何時もより近くにあり、冬である筈の今、暑さに耐え切れなくなったのか着込んだブレザーからワイシャツ姿へと変わる生徒が多々見受けられた。
 運動場では異常な暑さにも関わらず、尚も通常通りに授業が行われているのか生徒と教師の掛け声が聞こえてくるその異常さに、屋上で一人寝そべっていた立川は思わず眉間に皺を寄せてしまった。
 立川も例に漏れず暑さに負け、ワイシャツ一枚の姿だがそれでも暑いのだろう、肘の上まで袖を捲り、下敷を団扇代わりに使用している有様だ。
「よー、中も遂に空調壊れちまったらしーぜ?」
 ひょっこりと屋上の扉から顔を出した志木の言葉に立川は更に眉間に皺を寄せ、顔を上げることもなく不快そうに声を上げた。
「意味分かんね。……で、外と中、どっちが涼しい?」
「そりゃもちのろん、外だろ」
 室内に戻る気はもうないのか、扉を閉めてフェンスに背を預ける形で寝転がっている立川の横に腰を下ろした。
 暑さ故か二人の額からは僅かに汗が滲み出ているが、二人共気にしていないのか拭う様子もなく、ただぼんやりと終始無言のまま空を見上げているのみだった。
 暫くすればどちらともつかぬ腹の虫が空気を読まず鳴り出し、二人して思わず吹き出した。
「なあ、金出すからさ、飯買ってきてくんね?」
「ざけんなっつーの。お前が行けよ」
 じろり。まさにそんな言葉が似合いそうなくらいお互いを睨み合い、そして同時にぐーにした手を突き出した。
「じゃーんけーん!」



「いってらー」
 ぶつぶつと文句を言いながら重たい腰を上げて屋上を後にする志木に手を振りながら、立川は体制を崩すことなく飽きずに空を見上げぼんやりと考えた。
 ――世界は後どのくらいで終わるのだろうか、と。
 終わるわけがないと永遠のように捉えていた世界の終わりなんて、誰も考えたらなかった。だからこそ、非日常だとと言うのにこんなにも日常なのかもしれない。
 現実逃避。まさにその言葉がぴったりと言えよう。
 誰もいない空間に嘲りを一つ残せば頭を振り、思考を停止させた。
 まるで考えも仕方がない、と言わんばかりに――。
 十分と経たないうちに片手に購買の袋らしき物をぶら下げながら、先程とは打って変わったように少しではあるが険しい表情をした志木が戻って来た。
「なか、ヤバい」
「はあ?」
 事実だけを短く口にして元の位置に座り、買って来た荷物を並べ出す志木に立川は身体を起こし、思わずそう返してしまった。
「……なんつうか、暑さのせい? それで、生徒と教師とぶっ倒れてたっつーか、なんつうか……」
 歯切れが悪く口をもごもごと動かしながら先程見て来ただろう光景を話すその顔は、何とも言えない表情で。それを見た立川もある程度光景を想像出来たのだろう「あー……」と言葉を濁し、如何答えるべきか迷った。
 しかし、良い答えは浮かばなかったのだろう。諦めたのか二人とも肩を竦めたのみで志木が並べたサンドイッチやらお握りやらに手を付け食べだした。
「あーあー、こんなんが最後の晩餐ってなんかやってらんねー!」
「なに、お前は寿司とかでも食べたかったワケ」
「いやそうじゃねえんだけどよ……。こう、なんつうの? ただ、やっぱ遣り残したことがあるっつうか、な」
「それは誰しも同じことだろ、俺だってまだまだあったさ」
 何処か沈んでいる志木とは対照的に立川は飄々としており、そしてあろうことか立川の分の食料にまで手をつけていた。
「あ、ちょ、おまっ! 何してんだよそれ俺の!」
「知るかよ、お前が食わないのが悪い」
 食べたものはもう戻らない。諦めたのか先程とは違った意味で項垂れている志木を宥めるべくぽん、と肩に手を置く立川だったが如何やら逆効果だったらしい。思い切り手を撥ね退けられ、背を向けられてしまった。
 暫し無言が続くが、二人同時にぷっと吹き出し、そしておなかを抱えて笑い出した。
「あー、あちいな」
「見てみろ、太陽もうあんなとこにあんぞ。手伸ばせば届く気がするんだけど」
「はは、流石にそれは無理があるって! な、俺お前のこと好きだったぜ。友愛的な意味で」
「……何それ気持ち悪い。俺お前のこと大嫌いだから、ごめん」
「おい立川! 最後くらい感動させろよちくしょー!」
 二人で馬鹿笑いしながら最初に立川がそうしていたように、ごろりと屋上の床に寝そべれば既に赤を通り越して赤黒く、そして異常さを増した暑さの原因である太陽を近くに感じながら、目を細めていた。
「なあ、やっぱり暑かったり痛かったりすんのかな」
「あんだけの質量があんだから、一瞬で終わるだろうな」
「……そっか、ならいいんだ」


「じゃあな、人類が滅びずに生きてたらまた何処かで会おうぜ」
2010/11/25(Thu)22:19:27 公開 / 篠原
■この作品の著作権は篠原さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
初投稿させて頂きました、篠原と申します。きちんと書き上げたのも初めてで、喜びよりも先ず不安ばかりです。至らない点が多々あると思うと同時に短いので話が掴み難いかもしれませんが、御指導頂ければ幸いです。
この作品に対する感想 - 昇順
篠原様。
御作を拝読しました。
感想ですが、なんとも言えないかな……。じゃあ書くなって話ですが、書きます。以下駄文ですので、こんな変人もいるんだと捉えてくだされば結構かと。
まず第一に、ショートショートにしては始まりが長編の呼吸だったかな、と。冒頭部分の一文が長いものばかりだったからだと思います。一文の文字数が七十字を超えましたら、二文にできないか考えるべきかと。これはショートショートのみならず、長編にも言えることですが。
 また、太陽が迫ってきているという状況がよくわかりません。太陽は確かに肥大化していますが、こんな風になる前に人類は何か対策をしていなかったのかと突っ込みたくなります。しかも舞台は現代になっておりますが、こんな状況はまずありえないと思いました。
 うーん。下らない感想だったかな……? でもショートショートは意外に好きですし、貴方(貴女かな?)の別の作品も読んでみたい。
 興味深かったです。ピンク色伯爵でした。
2010/11/26(Fri)18:52:260点ピンク色伯爵
 こんにちは、初めまして。テンプレ物書きの浅田と申します。
 さっそく感想、と言うより酷評に近いものがあるのですが、別に篠原さんの作品を否定しているわけではないので悪しからず。要するに私の口が悪いと言うことでww
 まず第一印象としては「だからなに?」といった感じでした。太陽が迫っている、という状況はなかなかおもしろかったのですが、そんな状況にあるにも関わらず普通に学校が学校として機能していたりと、少し設定としてリアリティに欠ける部分があります。太陽にしてももう少し何かしらの説明、どうして地球に近付いているのか、みたいなのがあった方がいいかなと。
 登場人物たちも少し達観しすぎている気がします。主人公だけならともかく、誰一人とパニックになっていないことについてもう少し説明や描写が欲しいところです。
 若干起承転結に欠けている気がしました。何となく長編小説のプロローグみたいな感じがしました。えっ、これで終わり? みたいな。
 以上、なんか随分とえらそうなことを書きましたが、あくまでも篠原さんの作品を否定しているわけではなく私の口が悪いだけなので、もしもお気に障ったのなら謝ります。
 それでは、またいつかお会いできることを祈って^^
2010/11/28(Sun)11:18:000点浅田明守
作品を読ませていただきました。物足りないですねぇ。暑さのこと、立川と志木の人物像などもっと書いて欲しかったです。この二人が足掻いて、諦観して、このラストを迎えるような方が余韻があると思いますよ。では、次回作品を期待しています。
2010/12/05(Sun)22:19:270点甘木
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