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『紅の瞳、魔法の言葉 後編』 作者:神夜 / リアル・現代 ショート*2
全角29766.5文字
容量59533 bytes
原稿用紙約87.7枚
紅い眼をした小鳥は戦う。





 座り込んで泣きじゃくる少女の涙をそっと拭い、少年は笑った。
 少女は怪我などしておらず、ただ泣いているだけであったが、少年は違った。
 砂場に大の字に寝転がったその身体は傷だらけの泥だらけで、服はボロボロだった。
 それでも少年はいつものように、わっはっはっはと盛大に笑い、少女の涙を拭ったのだ。
 そうして少年は、少女の瞳をすっと見据え、こう言った。

 ――泣かないで。僕はその瞳、綺麗だと思うよ。

 あの日、あの人にそう言われたことで、どれだけ救われただろう。
 あの日、あの人がそう言ってくれたことで、どれだけ助けられただろう。
 あの日、あの人の笑顔を見つめながら、心に決めたことがある。
 もう、泣かないでいよう。
 もう、泣かないでいいように、強くなろう。
 あの人のように、笑っていよう。
 そして今度は、わたしがあの人を、守ろう。
 そんなことを思う少女の前で、少年はもう一度、わっはっはっはと笑った。



     「紅の瞳、魔法の言葉」



 鳴海小鳥(なるみことり)には今、困っていることが二つある。
 一つは、待ち合わせの場所と時間を向こうから指定して「絶対に遅れないように」と念までを押してきたくせに、その約束の時間を一時間過ぎてもまだ来ない馬鹿のことである。いつもいつもいつもいつも、あの馬鹿は絶対に約束の時間通りには来ない。来たことなど、ただの一度たりともありはしない。そんなことはもう今更であって、最初から期待などしていないからどうでもいい。そのため小鳥だって約束の時間の三十分後に到着するように家を出た。なのに当の馬鹿は、それを上回る遅刻を平然と行うとは何事か。何か甘いものでも盛大に奢らせないと気が済まない。せっかく久々に二人で遊びに行くというから、珍しくスカートなども穿いてきたというのに、この乙女心をどうしてくれるつもりだ。
 そしてもう一つの困っていることは、今現在、直面しているこの状況だ。
「ねえねえ、ちょっとだけでいいから行こうよー」
「大丈夫だって、おれらが全部奢るからさー、ねえー」
 金髪の豚と鼻ピアスの屑に絡まれているこの状況を、一体どうしようかと本気で困っている。
 最初は遠慮がちに断っていたのに、いつまで経っても消えてくれない。そのうちに返答が面倒臭くなって沈黙を押し通しているのだが、依然として消えてくれない。ただでさえ遅刻されてイライラしているというのに、そのイライラへ更に拍子を掛ける金髪の豚と鼻ピアスの屑の存在が、本当に邪魔で仕方が無い。早くどっか行け早くどっか行け早くどっか行け、と心の中で繰り返し続けるが、依然として豚と屑はどこにも行ってくれない。この世界には念力なんてないのだと思う。
 そうしてまだまだ絡み続ける豚と屑。
「どう? カラオケとか行きたくない? おれめっちゃ歌上手いよー」
「君の歌声聴きたいなー。時間あるんでしょ? ねえ一緒に行こうよー」
「そのままご飯食べに行ってもいいしー、何ならどこかで飲んでもいいよー」
「おれら結構金持ってんからね、今日は我侭聞くよー、だから行こうよー」
「あれ? ところで君の眼ってそれって、」
「――よし。では僕も一緒にお供しよう」
 突然に割って入って来た声に、小鳥は視線を上げた。
 そこに、眼鏡の馬鹿がいた。三十分も待った待ち人が、ようやく来た。
 思わずため息が出た。
「――遅いです。一時間の遅刻って、どういうことですか」
 わっはっはっはと眼鏡の馬鹿は笑う。
 いつもと変わらないその笑い声に、ちょっとだけ腹が立つ。
「いや申し訳ない。寝坊した」
「……もうちょっとまともな言い訳……いえ、いいです」
 今更にこの馬鹿に何か言ったところで、何かが改善される訳は無いのである。幼稚園からずっと一緒にいるのだ。言って直るようであれば、とっくの昔に直っているはずである。しかし高校三年生になっても直っていないということはつまりそういうことであるからして、だったらもう余計なことを言わず、とっとと甘いものでも奢ってもらって、全部忘れてしまおう。
 小鳥は歩き出す。
「行きましょう先輩。わたしクレープが食べたいです」
 それに眼鏡の馬鹿は首を傾げながら付いて来る。
「行くのは構わんが、それは僕に奢れということだろうか?」
「当たり前です。遅刻したのだから当然です」
「君の言い分はわかる。最もだ。しかしだね、僕の財布の中身は」
「おいちょっと待てよ!」
 小鳥と眼鏡の馬鹿が一緒に歩き出そうとしていた中、唐突に金髪の豚に呼び止められた。
 二人揃って振り返る。さっきまでの陽気さが消えて、豚と屑は何やら怒っているご様子だった。
「いきなり来て何なんだてめえ? こっちが先だろうが」
「しゃしゃり出てるんじゃねえよ、殺されっぞ。あ?」
 やっぱりそうなるよね、と小鳥は思う。さっきまでナンパをされていたのだ。それもかれこれ二十分以上もずっと。そんな中、知らない奴が来ておいそれと獲物を持って行こうとしているのだから、豚と屑がそう簡単に納得する訳がない。何か文句を言ってくるとは思っていたが、本当に言ってきた。だから早く消えてほしかったのに。本当に面倒なことになった。
 そんなことを考える小鳥の視界の端で、やれやれ、と眼鏡の馬鹿が頭を掻く。
 眼鏡は一歩だけ前に出て、
「すまなかった。君たちを蔑ろにしていた訳ではない。ただ、彼女は僕と待ち合わせをしていてね。こうして合流できたので、今から行かなければならない所があるんだ。申し訳ないが、今回は遠慮してくれないだろうか?」
 そんな言葉が、素直に豚と屑に届くはずがあるまい。
 案の定、屑の腕が伸びて来て、眼鏡の胸倉を掴む。
「ごちゃごちゃうるせえな、消えろっつってんだよ」
 そして唐突に、眼鏡から表情が消えた。
「……忠告をしておく。この手を今すぐ離した方が懸命だ」
「ああ!? やんのかコラァ!?」
 怒鳴り始めた屑に、しかし眼鏡は静かに言う。
「君の身を案じて言っているんだ。君も、高校空手インターハイ優勝者の正拳突きを食らいたい訳ではないだろう?」
「ほら吹いてんじゃねえよ、てめえみてえな奴が空手だぁ? 上等だ、やってみろよ!」
 眼鏡が小指を立てながら人差し指でくいっと眼鏡を上げる、
「ほう。ちょっとは頭が回るらしい。そうだ。僕じゃない。君たちに正拳突きを食らわすのは、」
 眼鏡を上げた指が、ゆっくりと小鳥を指差す。
「――彼女だ。彼女に殴り殺されたくなければ、直ちにこの腕を放した方が懸命だとおあいてっ!」
 小鳥の振り上げた拳が、屑に胸倉を捕まれた眼鏡の頬を捉えた。
 眼鏡が焦点の合っていない目をこちらに向ける、
「何をするのだね小鳥君! 敵は僕ではない、彼らだ!」
 うるさい馬鹿、と小鳥は思う。
 もう二発、握った拳をその顔にぶち込んだ。
「ちょ、ちょっとタイム! ストップだ小鳥君! ドクターストップだ! それと君! いつまでこの手を掴んでいるんだね! 離してくれ! でなければ僕が死ぬ! いいのか!? 脅しじゃないぞ!!」
「え、あ、……え?」
 状況が理解できない屑が眼鏡の胸倉から手を離す。
 解放された眼鏡はその場に尻餅を着き、小鳥を見上げた。
 鼻血が流れる顔をそのままに、実に真剣な目をした。
「いいか小鳥君。君は確かに強い。しかしだ。いつも言っているが、君は見境なく人を攻撃する悪い癖がある。それを直さあいて! ちょ、痛いっ、痛い小鳥君! 駄目だ、またくっ、いてっ、癖が出て、こっ、小鳥君! 痛い!」
 がすがすと眼鏡を無表情で蹴り倒す小鳥。
 その様に恐れを成した豚と屑がいつの間にかいなくなっていることにさえ気づかない。
 眼鏡がいつまでも「痛い小鳥君痛いんだ」と繰り返す中、小鳥はひたすらに蹴り続ける。


     ◎


 眼鏡の馬鹿の名前を、志木城拓海(しきじょうたくみ)という。
 小鳥が知る中で、この男ほど鬼才の奇才で、奇人の変人な人物は他にいない。
 この男、運動神経は五本くらい千切れているのではないかというほど無いが、すこぶる頭が良い。高校生になっても跳び箱は未だに三段以上飛べないくらい運動音痴であるがしかし、校内テストは常に満点、極稀に満点を逃すことがあるが、それは志木城がケアレスミスをしたのではなく、教師が作ったテストの方に問題があったりするほど頭が良い。もちろんその頭の良さは校内だけでは留まらず、全国模試の一位の座に座ったことも一度や二度ではない。運動神経がすべて頭に向かって伸びているのではないかとすら思う。
 そして志木城は恐ろしく頭がいいが、恐ろしく馬鹿だった。馬鹿と天才は紙一重だとよく言うか、志木城は正真正銘の馬鹿だったのだ。やること成すことがすべて破天荒なのである。一般人の中での「普通」と、変人の中での「普通」が同じであるはずはない。だから食い違うのはわかる、わかるのだが、それに対して少しも疑問を持たない志木城は異常以外の何ものでもあるまい。
 そんな天才馬鹿の存在を、都筑(つづき)高校に通う生徒で知らない者はいない。
 そんな天才馬鹿といつも一緒にいれば、変な噂だっていっぱい立つ。
 最初はそのような誤解を解くことに全力を尽くしていたが、最近ではもう放っておいている。どうせ解いたところで、また新しい噂が上乗せされるだけなのである。別にその噂のせいで何と言われようが、今ではどうでもよくなっていた。思春期が落ち着いたことにより、精神が大人になったのかもしれない。もちろん、とんでもない出鱈目な噂に限ってはしっかりと弁明はしているのだが。
 しかし、そうまでしてなぜ小鳥が志木城と一緒にいるのか。
 それにはちゃんとした理由がある。小鳥と志木城は幼稚園からの腐れ縁であり、幼馴染であり、小学校中学校高校とずっと同じ所に通っており、そして、
「――ところで先輩。どこへ向かっているんですか?」
 買ってもらったクレープをもきゅもきゅと食べながら、小鳥が隣の志木城を見上げる。
 志木城は財布の中身を悲しそうに確認している最中だったが、呼ばれたことにより顔を向ける。その実に情けない顔を見ながら、小鳥は思う。志木城は、顔は決して悪くはない。自慢のゴキブリのようなオールバックの髪をちゃんと降ろして、縁が異様に大きい眼鏡を外してコンタクトに換えて、眼鏡を上げる時の小指を立てる癖さえどうにかすれば、志木城はきっとイケメンなのだと思う。そう言い切れるくらいに素材は整っていると思う。思うからこそ勿体無い。なんでこんなに馬鹿なのだろう。
 志木城は財布をポケットにしまい、眼鏡を指でくいっと上げながら小指を立て、わっはっはっはと笑う。
「よくぞ聞いてくれた小鳥君。僕はこれから、同人誌なるものを買いに行こうと思っているんだ」
 ふーん、と受け流そうとして、
 ――ぶっ。
 食べていたクレープを咽た。
「うわっ。何をしているのだね小鳥君っ」
 堪らずに顔を上げる、
「……いま、なんて言いました?」
 どこかからポケットティッシュを取り出した志木城からティッシュを受け取り、口元を押さえながら問う。
 すると志木城は別段変わらない口調で、
「だから、同人誌というものを買いに行こうと思っている」
 頭が痛くなってきた。
 何を言い出しているのだろうこの馬鹿な人は。
「……一応聞いておきますけど。なんで?」
 志木城は真剣な顔で小鳥を見据え、
「以前から存在は知っていたが、興味はなかった。ただ近頃ふと思うことがあってね。なぜあんな数ページの紙切れで構成されている、一部の者からしか指示を受けない本が、プレミアなどついて数万、果ては数十万の値がつくのだろう、と。それを知るには実物を買ってみて見るのが一番だと結論づけた。だから買いに行こうと思っている」
「そうですか。お疲れ様でした」
 小鳥は踵を返し、しかしその首根っこを志木城が掴む。
「待ちたまえ。いや、待ってくれ」
「お断りします。お断りします。すみません許してください」
「頼むよ小鳥君。一人で買いに行くのは恥ずかしいんだ」
「はずっ、恥ずかしいって今更何言ってんですか!」
「誰かと一緒でなければ勇気が出ないんだ」
「じゃあわたし以外に頼んでくださいよ! なんでわたしなんですか!」
「君も知っているだろう。僕には知り合いはごまんといるが、それ以上の存在なんて君しかいない。こんなことを頼めるのは君しかいない。頼むよ小鳥君」
 そんなことを言われたら、小鳥としては何も言い返せなくなるに決まっていた。
 そして性質の悪いことに、志木城に限ってはそれを「計算」しているのではなく、「本気」で言っている。だからこそ、小鳥は何も言い返せないのだ。弱みを握られるより辛いことが、この世にはいっぱいあるのだと思う。この志木城という男は、鬼才の奇才で、奇人の変人であり、天才馬鹿であると同時に、死ぬほど鈍い男なのだと小鳥は思う。
 俯いて黙ってしまった小鳥の首根っこを解放し、志木城は言った。
「大丈夫だ。十八禁コーナーには僕一人ではがっ!」
 小鳥の裏拳が無防備なその顔に入った。


     ◎


 鳴海小鳥は、空手をやっている。
 小学校に入ると同時に空手を始めた。
 もともと格闘技と相性が良かったのか、それとも「強くなるんだ」と人一倍思っていたせいか、小鳥の腕はめきめきと上がっていった。小学校高学年になる頃にはすでにその才能は完全に開花し、同学年の男子は愚か、中学生ですら小鳥に勝てる者はそうそうおらず、高校に入る頃には無双状態となっていて、組み手は基本的に大人の男性以外、相手にならなかった。これまで数多くの大会に出場し、その度に優勝を掻っ攫ってきた。今現在、空手を嗜んでいる者の中では、実は小鳥はかなりの有名人なのである。雑誌やテレビの取材などにも何度も出ている。
 ただ、別にそれを誇りに思うつもりもないし、自慢する気も小鳥にはないのだった。
 大会に出て優勝を掻っ攫い続けた本当の理由は、「実績」が欲しかったからだ。小鳥はスポーツにおいては何でも柔軟にこなせるが、勉強はまったくダメダメだった。赤点をギリギリで取らないようにするのが精一杯の学力しかなかった。それでも中学まではまだよかった。成績など関係なく進学できたから。ただし高校はそうはいかない。頭の良い人は頭の良い高校へ、頭の悪い人は頭の悪い高校へ行く。それが当たり前であり、そこが一番の問題だった。
 あの馬鹿は何も考えずに、ただ家から近いから、という理由だけで、この界隈では一番難易度の高い有名進学校である、都筑高校へと平然と進路を決めてしまった。小鳥が一年間必死に勉強しようとも、おそらく絶対に入れないであろう高校であった。こっちの事情なんて何も考えずにいつも一人で行動を起こすその態度が嫌いだった。こっちのことなんてお構いなしに一人で歩いて行ってしまうことに腹が立った。
 ただ、だからこそ、――負けるもんか、と小鳥は思った。
 そこからは意地である。絶対に一緒の高校に行ってやると決意した。そのため、空手の大会に出続け、優勝を掻っ攫い続けた。勉強ができない、する気もない小鳥が辿り着いた結論は、スポーツ推薦。それしかなかったのだ。だから何よりも「実績」が欲しかった。その甲斐あって、自分でもびっくりするくらいの数の高校からスカウトの話が舞い込んで来た。幸いなことに、その中には都筑高校もあった。随分と迷ったフリをしながら、最後はもちろん、都筑高校に決めた。
 だけど自分から言うのは恥ずかしく、そして悔しい気持ちもあったため、入学式の日までそのことを黙っていた。学校内でいきなり再会すれば、きっとあの馬鹿も驚いて、そして喜ぶはずだった。そうなのだ、あの馬鹿は泣いて喜べばいいのだ。こんな可愛い後輩が必死になって一緒の高校にまで来てやったのだ。泣いて喜ぶべきなのだ。むしろ泣いて喜べ。
 そんなことを考えながら迎えた入学式の日、偶然にもあの馬鹿にはすぐに会うことができた。一年ぶりに会うあの馬鹿は、ちょっとだけ驚いた顔をした後に、まるで最初から全部知っていたかのようにわっはっはっはと笑い、こう言った。
「――頑張ったね。入学おめでとう、小鳥君」
 笑顔で、心からそう言われて、鳴海小鳥は改めて思い知らされた。
 返事を返さず、ただ訳もわからず感情的になってしまった小鳥の瞳から流れた涙をあの時のように拭い、志木城拓海はもう一度、わっはっはっはと笑った。
 よしよしと頭を撫でられながら、ただ思った。
 やっぱりそうだった。どうしようもなかった。
 思い知ったのだ。いや、ここに来て、ようやく確信が持てた。

 わたしは、この人が好きなんだ。
 あの時からずっとずっと、好きだったんだ。

 そう、思った。
 なのに。なんで。
 ずっと昔から好きだった人に腕を捕まれ、同人誌の十八禁コーナーに無理矢理引きずり込まれそうになっているのかがわからない。こんな展開を望んだことなど一度もありはしない。意味がわからない。待って欲しい。ていうか本当にちょっと待って欲しい。
「嫌ですっ! 本当に無理ですってば!」
「頼む小鳥君! 一生のお願いだ!」
「嫌なものは嫌です! さっき一人で行くって言ったじゃないですかあ!」
「まだこの先に一人で進む勇気はやっぱりなかったんだ! こう見えて僕は初心なんだ!」
「知りませんよそんなこと! いいから離してくださいってば!」
「離したら逃げるだろう! そんなこと許さないぞ! 僕だって逃げたいくらいだ!」
「じゃあ逃げればいいじゃないですか! ちょ、ちょっとほんとう、無理ですって!」
 そんなことを十八禁コーナーの前でやっていたら、ついには店員に摘まみ出された。
 ぶすっとした顔の小鳥とは対照的に、志木城は本当にご立腹で、
「そもそも十八禁、というのが僕には納得できない。酒も煙草も解禁である、二十歳なら納得できる。だが十八歳って何だ十八歳って。それに僕はすでに十八歳だ。とやかく言われる筋合いはないというのに。まったくもって腹立だしい。そうは思わないかね小鳥君」この人に対して、デリカシーを問うのはとうの昔に諦めた。
 小鳥のような一般人では、志木城のような変人についていける訳はないのである。そんなことより、あとちょっとで志木城に十八禁コーナーに引きずり込まれそうになったことのショックが思いのほか大きかった。トラウマになってしまうかもしれない。あんな場面をクラスの誰かに見られていたらと思うと背筋が凍る。こんなことしょっちゅうしているから、変な噂ばっかり立つのだ。どうしてこんな人を好きになったのだろう、と高校に入ってから、一体何度思ったことか。
 二人揃ってとぼとぼと歩いて行く。
 夕日が落ち始めた街にはまだ人が大勢いて、商店街は活気に満ちていた。所々から食べ物の良い匂いが漂って来る。そういえば昼にクレープを食べたきり、何も口にしていないことを思い出す。そろそろ夕食を食べてもいい時間だ。どこかで食べて行こうか。志木城に言えば夕飯くらいは奢ってくれるだろうか。
 そんなことを考えていたら、唐突に隣の志木城が足を止めた。
「――? 先輩?」
 振り返ると、志木城はどこか一点を見つめて、険しい表情をしていた。
 何だろう。お腹でも痛いのだろうか。そう思って志木城の視線の先を辿って、小鳥にもようやくわかった。
 商店街から少しだけ離れた、住宅地の裏手。大通りから死角なっているそこに、数人の人の影が見え隠れしている。お腹が痛くなったのではなく、いつものあれだった。ここから志木城が取るべき行動が、小鳥には手に取るようにわかる。自分には何の力もないくせに。自分ではどうしようもないくせに。そのことを、自分自身が一番良くわかっているくせに。それでも志木城拓海という男は、やはり馬鹿だったのだ。
 そしてそんな馬鹿だからこそ、鳴海小鳥は、志木城拓海を好きになった。
 だから、その一歩を踏み出した志木城を、小鳥は止めはしない。
「小鳥君。先に謝っておく。――すまん」
 小鳥はため息を吐きながら苦笑する、
「わかってます。いいですよ」
 そのつぶやきを聞いた志木城がわっはっはっはと笑い、どんどん歩いて行く。
 裏路地に近づき、数人の影のすぐ後ろに出た。案の定だった。如何にも不良であろう三人の男が、如何にもオタクであろう一人の男に対して、悪意の篭った暴力を振るっていた。イジメかカツアゲかは知らない、聞こえてくる発言からして後者だろうか。だが小鳥にとってはどっちでも同じことで、そして志木城にとっても、どちらでも同じだったのだ。こういうことを見逃せないのが志木城であり、もちろん小鳥もこういうことは大嫌いだ。
 だからこそ、止めに来たのだ。
「君たち。そのくらいで止めておいてもらえないだろうか」
 裏路地の壁に叩きつけたれた男がゆっくりと倒れていく中、不良が振り返る。
「あ? なんだてめえら?」
 こういう人間を見る度に、言い知れない憎悪感が漂う。こういう人たちが、一番許せなかった。正々堂々とした勝負であれば、志木城はともかくとして、小鳥は何も言わない。しかし素人同士が三対一とはどういう了見か。数にものを言わせて弱者を追い詰めて食らうなど、男のすることではない。格闘技をやってきた者として、そのような下種な行為は断じて認めない。断じて、許さない。
 ゆっくりと拳を握っていく小鳥をそっと牽制し、志木城は歩み出す。
「見たところ彼はすでに意識がないようだが? その辺で勘弁してもらえないだろうか」
「うるせえよ、何なんだって聞いてんだよ! お前こいつのツレか何かか? ああ!?」
「いいや、赤の他人だ。しかし、見過ごす訳にはいかんだろう」
「じゃあ黙ってろよ! お前からぶっ殺すぞ!!」
 こういう人種に対しては、言葉は通じない。
 力には、力で対抗するしか道はないのである。例えその力に、どんなに差があろうとも、徹底的に教え込まなければダメだ。ここで見逃せば、彼等はまた、同じことを繰り返す。そうすればまた、抗う術を持たない人が被害に遭う。そんなことを黙って見過ごす訳にはいかない。そんなこと、許していいはずがない。
 連中の一人が、志木城から視線を外して小鳥を見つめる。
 そのままニタニタと笑いながらゆっくりと小鳥に近づき、手を差し出しながら、
「おいおい兄ちゃん、彼女の前だからって格好つけると痛い目見るぞ。ただまぁ、この彼女を貸してくれるっていうならそこのデブはもう捨てても……あ?」
 そうして男は、小鳥の『眼』に気づいた。
「……なんだそれ? 紅い、眼……? カラーコンタクトか……?」
 予想外のことに男の手が一瞬だけ止まった刹那、その腕を志木城が掴む。
「――おい。誰に断って小鳥君に触ろうとしているんだ」
 そこから先は、いつくかの出来事が連続して起きた。
 まず、腕を捕まれた男が我に返り、怒号を上げながら志木城の腕を振り払い、拳を握った。その拳が何の躊躇いもなく振り上げられ、志木城の鼻っ面を目掛けて振り抜かれる。それを志木城は、逃げることなく真っ直ぐに見据えていた。ただそれは、殴られてもいいと思ってのことではなかった。そもそも志木城が本気を出したところで、振り抜かれた拳から逃げれないことは志木城自身が一番良く理解していただろうし、そうであれば無駄な抵抗は邪魔になると判断したが故の行動だった。
 拳が志木城の鼻を捕らえる一瞬、何の前触れもなく静止した。静止したかと思うくらい綺麗に、その拳が受け止められていた。その状況を理解できたのは志木城と、そして拳を受け止めた本人である小鳥以外にはいなかったはずである。その証拠に、自分の拳が止まったことを理解できていない男は、何とも言い難い表情のまま、停止している。
 受け止めた拳を全力の力で握り返し、小鳥は目の前の男たちを「敵」と認識する。
「――先輩に、触るな」
 握り返された拳が圧倒的な力で捩り返され、男がその場に呻き声を上げながら膝を着く。
 その光景を呆然と見ていた残りの二人が、ようやく現実に追いついて来た。小鳥を目掛けて怒号を上げながら同時に地面を蹴り、その途中で拳を握り締めて狙いをつける。女だから、なんてことはもはや関係なかった。そして小鳥もまた、男だから、なんてことは一切考えてなかった。もはやそんなことはどうでもいい。圧倒的な力を持ってして、圧倒的なまでに叩き潰す。そのために磨いた、武道だ。
 守ると決めた。志木城を、守ると決めた。
 その志木城に手を出した相手に、手加減をする道理など、ありはしない。
 握っていた拳を離し、小鳥は小さな深呼吸をひとつだけした。瞬間、姿勢が一気に低くなり、突っ込んで来ていた片方の男の懐に一瞬で潜り込む。まったくもって無駄がなく、まったくもって恐ろしいまでの速さ。男たちからしてみればおそらく、目の前から忽然と小鳥の姿が消えたように見えたはずだ。小鳥が自分たちのすぐ下に潜り込んだことになど、まるで気づけていなかったはずである。
 刹那の拳一閃。
 たったの一撃。しかしその一撃で十分。
 圧倒的な力を持ってして、圧倒的なまでに叩き潰すのだ。呻き声すら上げずに男の片方が倒れ込んでいく中、ようやくもう片方が小鳥の居場所に気づいた。そして気づいたと同時に、再び小鳥の姿を見失っていることに思い至る。その姿を探すように首を振ろうとした時にはすでに、小鳥の踵が男のコメカミに直撃していた。恐ろしいまでに美しく綺麗な上段回し蹴りだった。昨今配布されている空手の教本には、小鳥の上段回し蹴りがカラーで載っていることを、男たちは当たり前のように知らない。
 時間にして、僅か五秒の出来事。
 たったそれだけの時間で、一人の女の子が、二人の男を叩きのめした。
 その光景を見ていた、志木城に手を出した男は、ただ一言、呆然とつぶやく。
「……嘘、だろ……」
 小鳥は、一度牙を向いたら、容赦しなくなる。
「立ってください」
 そう一言だけ、言い放つ。
 操られるように男が立ち上がり、しかし焦点の合わない目で、目の前の小鳥を見つめている。
 その姿はまるで、目の前にいるのが人間だと認識していないかのような光景。そう思うのも無理はないのかもしれない。小鳥は、強い。圧倒的なまでに、強いのである。並大抵の人間程度では、もはや触れることすらできないだろう。それほどまでに圧倒的な力の差が存在する。腕力にだけ任せて喧嘩をしてきた不良如きでは、未来永劫、小鳥には勝てないだろう。その力の差を見て感じ取った絶望もあったのかもしれない。だがそれだけではない。男にはいま、小鳥が本当の怪物のように見えている。なぜなら小鳥の眼はいま、確かに「異常」に染まっているのだから。
 小鳥の両眼に宿るは、紅。炎のような紅い瞳。
 鳴海小鳥は、精神的に高揚すると瞳にこのような現象が起きる。原因は不明。そして、小鳥を知る者が皆、口を揃えて言うことがある。普段は温厚で、名前のように可愛らしい女子生徒である小鳥だが、その小鳥が、極稀に爆発する時がある。その予兆として、生徒が絶対に知っておかなければならないことがある。志木城拓海の噂と一緒に蔓延るその言葉。鳴海小鳥が『紅い眼』になったら気をつけろ、いやむしろ死にたくなければ本気で逃げろ――そのことを、男たちが知っている訳はないのである。
 もはやまともな思考が出来ていなかったと思われる。小鳥の目の前にいる男はすでに錯乱気味で、ぶつぶつと何事かをつぶやいていた。が、それも束の間、唐突に男は行動に移した。後ろ手にポケットの中から何かを取り出し、それを真っ直ぐに小鳥に向けて差し出してきた。刃渡り15センチはあろうかという、歴としたナイフであった。
 素手対刃物。本当に下種な男だった。
「――小鳥君!」
 後ろから志木城の声が聞こえるが、小鳥は振り返らない。
 振り返らずに、ただ一言だけ、言う。
「先輩。……見ててください」
 志木城は最初から、それを言うために声を掛けたようだった。
 わっはっはっはという笑いと共に、応援が来た。
「うむ。頑張ってくれ」
 それだけで十分だった。
 たったそれだけで、もはや何も臆することはなくなる。どんな応援団であろうと、どんな大歓声であろうとも、志木城の一言には絶対に敵わない。志木城が繰り出すそれは、小鳥にとって魔法の言葉。インターハイ決勝戦、小鳥のスポーツドリンクを勝手に飲み漁り、わっはっはっはと笑って志木城は、先と同じ言葉を言ってのけた。それだけで、十分だったのだ。それだけで、どれだけでも勇気が湧いてくる、魔法の言葉。
 男が叫び声を上げながら地面を蹴った。夕日に照らされて刀身が光るナイフを真っ直ぐに見据え、小鳥が真っ向から打って出る。突き出されたナイフの切っ先から視線を離さず、男よりも圧倒的に速い速度で拳を握った。紙一重、と言えばそうだったのだろう。だが小鳥にしてみれば、素人が扱うナイフなど恐れるに足りない。傍から見れば紙一重、だが小鳥からすれば、絶対に当たらない自信があった。だからこそ。
 轟音が響いた。拳で殴ったとは思えないほど恐ろしい音だった。ナイフを持ったまま、男はその場に崩れ落ちる。久々に本気で殴り倒した。死んではいないだろうが、しばらくは言葉を発することができないかもしれない。ただ、そっちの方が互いにとってもいろいろ都合がいいのかもしれない。
 小鳥は、ようやくひと息ついた。すでに眼は、黒色に戻って来た。
 落ち着いた小鳥の背後からすっと手が伸びて来て、男が握っていたナイフを拾い上げる。
「これは没収しておこう。さすがに危ない」
 そう言って、志木城は小鳥を見つめた。
「……お疲れ様、小鳥君。すまなかったね」
 小鳥は笑う。
「いいです。わたしも同じですから」
 頭を、志木城の手が撫でてくる。
「それでも、ありがとう。それにあの眼はやはり、僕は綺麗だと思うよ」
「――……っ」
 卑怯だ。ずるい。そう思うが、ついに言葉にできなかった。
 そうして志木城拓海は、わっはっはっはと笑い、こう言った。
「しかしだね小鳥君。前にも言ったと思うが、スカートの下にはスパッツを穿いた方がにばぺっ」
「うるさいですたまたま忘れたんです黙ってください!!」

 そうして、顔が赤くなった小鳥に張り倒された志木城は、夕日を見ながらもう一度、わっはっはっはと笑った。


     ◎


 生まれた時から、鳴海小鳥はそういう体質だった。
 精神が高揚すると、なぜか瞳が紅く染まる。
 医者に診せても、精神が高揚した時だけ瞳が紅くなるなんていう現象は見たことがない聞いたことがないと突き返され、検査を受けてもみても身体は正常以外の何ものでもなく、結局は原因不明だった。ただ日常生活においては特に問題もなかったため、小鳥の両親は別段問題視していなかった。もちろん小鳥も少々の不安はあったにせよ、それでいいとは思っていたのだ。
 ただ、子供は時に残酷なもので、自分たちの考える「普通」から少しでも違う所があれば、それは仲間外れ――つまりはイジメなどに直結してしまうのだった。案の定、小鳥は眼のことで長らくいじめられることになる。人の輪に入ることを極端に恐れるようになり、幼稚園では常にひとりぼっちだった。
 そんな日が続く中、砂場で一人遊んでいた小鳥の所へ、いじめを率先して行っていた子供たちが来た。彼らは幼いが故に、酷い言葉を平然と吐いた。小鳥としてもそのすべてを正確に受け止めれていたかどうかはわからない。ただ、言葉はわからずとも悪意は伝わる。その悪意を数人から浴びせられて、ただの子供が耐えられる訳はなかったのだ。小鳥は泣き出してしまい、その姿を見て、彼らは笑っていたはずだ。
 そこへ颯爽と現れたのが、一人の馬鹿だったのだ。
 いじめっ子の主犯格にびしゃびしゃな泥団子を遠慮なく投げつけ、その馬鹿はわっはっはっはと笑った。
 そこから先はめちゃくちゃだった。乱入してきた馬鹿は実は強くて、なんて漫画のようなことがある訳もなく、逆に恐ろしいまでに弱かった。三人からぼっこぼこにされた馬鹿は砂場に大の字に寝転がり、しかし決して泣かずにわっはっはっはと本気で笑い、砂で汚れた手を服の内側で一生懸命に綺麗にした後、未だに泣いていた小鳥の涙をそっと拭ったのだ。
 そして、その紅い眼を見て、馬鹿は言った。
 ――泣かないで。僕はその瞳、綺麗だと思うよ。
 あの日、志木城拓海にそう言われたことで、どれだけ救われただろう。
 あの日、志木城拓海がそう言ってくれたことで、どれだけ助けられただろう。
 あの日、志木城拓海の笑顔を見つめながら、心に決めたことがある。
 もう、泣かないでいよう。
 もう、泣かないでいいように、強くなろう。
 志木城拓海のように、笑っていよう。
 そして今度は――、
「――ねえちょっと、小鳥ちゃんってば」
 身体を揺すられて目が覚めた。
 ゆっくりと目を開けながら、身体を起こして辺りを見渡す。見覚えのある教室、目の前にいるのは見覚えのある友達。まだ頭がぼんやりとする。随分と懐かしい夢を見た気がするが、どうしてか思い出せない。何の夢を見ていたのだろう。
 小さな欠伸が出た。そんな小鳥を見つめながら、友達の上条奈留(かみじょうなる)はくすくすと笑った。
「どうしたの? 小鳥ちゃんが居眠りなんて珍しい」
「んー……まぁ、昨日いろいろとありまして」
 最近、志木城に付き合ってばかりで疲れることが多い。
 昨日なんて十八禁コーナーに引きずり込まれそうになるわ、男二人と乱闘した挙句、ナイフを持った不良と格闘するわで正直な話、かなり疲れていた。それでも頑張って学校には来たし、ちゃんと午前中は意識を保って頭に入らない学業に勤しんでいたのである。が、午後になり、満腹感と太陽のぽかぽかした日差しについに負け、意識を取り戻したのが先ほど、という訳だった。時刻を確認すれば、すでに放課後になってしまっていた。どれくらい寝ていたのかは、この際もう考えないことにする。
 目を擦る小鳥に向かい、奈留は言う。
「そういえばさっき、志木城先輩が来てたよ」
「――は?」
 一発で眠気が覚めた。
「え。何しにっ?」
 そう問い返すと、奈留はまたくすくすと笑い、
「小鳥ちゃんが寝てるの見たら、起きたらこれを渡してくれって頼まれたの」
 差し出されたそれは、一本の栄養ドリンクだった。奈留から受け取った瓶のそれをまじまじと見つめ、小鳥は首を傾げる。何だろう。素直にお疲れ様、という意味で持って来たのだろうか。それともこの栄養ドリンクには何か特別なメッセージなどが隠されているのだろうか。あの志木城拓海のすることである。普通であるはずがない。何だろう。一体どのようなメッセージが隠されているのだろう。
 栄養ドリンクを手にうんうん唸っている小鳥を見て、奈留は唐突に言った。
「そういえばさ。小鳥ちゃんって、志木城先輩と付き合ってるの?」
 思わず持っていた栄養ドリンクを床に落としそうになった。
 慌てて空中でキャッチして、笑顔を取り繕う。
「え? なに? なんて?」
「だから、志木城先輩と付き合ってるの?」
 小鳥は、実に自然な感じで笑って見せた。
「ううん、付き合ってないよ。いろいろあって、一緒にいるだけ。それよりもう放課後でしょ、帰ろう奈留ちゃん」
 奈留はまだ何か言いたそうであったが、さっさと帰り支度を進める小鳥を見て、それに習った。志木城から渡された栄養ドリンクは、口をつけないまま鞄の奥底に押し込む。
 二人揃って教室を出て、下駄箱へ向かって歩き出した。
 奈留と会話をしながら、思考の一部分だけで考える。
 志木城拓海と付き合っているのか。
 志木城にそれを問えば、きっとあの馬鹿はこう言うだろう。
 ――ふむ。なかなかに興味深い質問だ。では一緒に考えてみよう。
 ため息しか出ない。小鳥は志木城が好きである。それは否定しないし、この気持ちに嘘はない。ただ、そのことを志木城は愚か、他の誰にも面と向かって言ったことはなかった。言う必要もなかったし、言うつもりもなかった。しかし小鳥と志木城は、いつも一緒にいるのである。志木城はともかくとして、他の生徒たちが「二人は付き合っている」と噂しても、何らおかしいことはない。それどころか、普通はそう思うはずだ。そう、「普通」なら。
 厄介なことに、志木城は「普通」ではなかったのだ。
 小鳥から志木城に向かって「好きだ」と言ったことがないように、志木城から小鳥に向かって「好きだ」と言われたこともない。それどころか、そもそも志木城が小鳥のことをどう思っているのかさえ知らない。好いていてくれているとは思うのだが、それが果たして、小鳥と同じ「好き」であるかどうかはまったくわからない。
 別に自慢ではないが、志木城拓海の友好関係の中で、男女問わずに一番仲が良いのは自分であると、小鳥は思っている。このままの関係で良いと思っている自分もいれば、このままの関係では嫌だと思っている自分もいる。結局のところ、小鳥自身にもどうしたいのかがよくわかっていない。ただ、志木城が男女問わず一番好いているのがこの自分である、というのが、最も重要な問題点であるような気がする。諦めようにも、諦め切れない原因がそこにあった。
 志木城を呼び出して真剣に告白でもすれば、何に置いてもすっきりはするのだと思う。さすがに真剣に告白をすれば、いくらあの馬鹿とは言え、わっはっはっはとは笑わないであろう。笑わないと信じていたい。そこまでの馬鹿であるとは、思いたくない。が、志木城は常軌を逸した馬鹿である。告白すれば、僕も君が好きだわっはっはっは、とすぐに流してしまいそうな気がする。小鳥の中の「好き」と、志木城の中の「好き」は、イコールでは結びつかない可能性の方が高い。
 なぜなら志木城は、奇才の奇人で、奇人の変人であるからだ。
 だから、ため息しか出ないのである。
 馬鹿を好きになるのは大変なんだなぁ、と小鳥は思う。
 それは、学校から少しだけ離れた場所での出来事だった。
 気づいた時には遅かったのだ。物思いに耽っていなければ、あるいは気づけたかもしれない。が、気づいたところでこの人数を相手にすぐにどうこうできたかは怪しい。小鳥が一人だけであればどうにか逃げ切れたかもしれない、しかし不幸なことに、この場には奈留までいた。奈留を置いて逃げるなんてことが、できる訳がないのだ。後手に回った時にはもう遅かった、ただ、それだけの話。
「――鳴海、小鳥だな?」
 周囲を取り囲む人数を、すぐには把握できなかった。
 少なくとも十人以上はいると思う。
 すぐ横で奈留が「……小鳥ちゃん」と小声でつぶやいた。
 どうしよう、と考えたのは一瞬だった。奈留の一歩だけ前に歩み出て、言葉を紡ぐ。
「ごめん奈留ちゃん。逃げて」
 え、と声を漏らした奈留に、申し訳ないとは思いつつ一括する、
「逃げて! 早く!」
 弾かれたように奈留が走り出した。
 それでいいんだ、と思う。友達を置いて逃げたという罪悪感が奈留には残るかもしれない。奈留には恐い思いと、いらないものを背負わせてしまったかもしれない。それでも、こうするより他に、道はない。これはきっと、自分が蒔いた種。だから無関係の奈留を巻き込んでいいはずがない。これは自分で解決するしかないこと。こんなことはこれまでに、何回かあったのだ。今回もまた、それと同じである。
 ゆっくりと視線を巡らせて人数を把握する。
 全部で十四人。多い。一対一であれば、小鳥は絶対に負けない。ただ多勢に無勢では絶対に負けないとは言い切れない。五人までなら何とかなると思う。しかしこの人数はどうしようもないかもしれない。恐くないと言えば、これ以上の嘘はなかったはずである。なぜならここには、いつも勇気をくれるはずの人が、いないのだから。ただそれでも、立ち向かわなくちゃならない時もある。
 集団の先頭にいた男が口を開く。
「昨日、ウチのもんが世話になったな。礼を返しに来てやったぜ」
 昨日。そう言われて、すぐに思い到った。
 昨日、志木城と一緒に止めに入ったあの暴行現場。そこで小鳥が叩きのめした三人の不良。あの三人の仲間が、小鳥へと御礼参りに来たのだ。やはり自分で蒔いた種である。正確には発端を作ったのは志木城であるがしかし、例え志木城がいなかったとしても、小鳥は止めに入っていた。志木城に責任を問うことなどする訳がない。ただ唯一の愚痴を言っていいのであれば、こういう時こそ、志木城には一緒にいて欲しい。勇気が出る、魔法の言葉を掛けて欲しかった。
 だが、ここに志木城はいない。いないが、それでも。
 やるしか、ないのだ。
 距離を詰めてくる集団を視界に収めながら、小鳥は拳を握った。
 目を閉じて、深呼吸をひとつだけする。
 そうして目を開けた時、その瞳は紅に染まっている。
 それが開始の合図。三人が同時に殴り掛かって来ることを理解した後、アスファルトを蹴り上げた。一度目の加速で最初の敵を絞り、二度目の加速で的を定め、三度目の加速と同時に拳を放った。この人数が相手なのである。一撃で決めていかなければ、おそらく捕まる。そのためには最小限の動きと最大限の攻撃で、一撃一殺で決めなければ、押し切られる。ある程度相手の陣形を壊したら、あとは逃げればいい。最後まで付き合う義理なんてものは、こっちにはないのだ。
 一人目が倒れ込むことを確認するより早くに、左右の二人に視線を移した。瞬時に理解する。間に合わない。そう思うと同時に歯を食い縛りながら、拳を振り抜く。片方の男に拳を叩き込んだ瞬間には、片方の男の拳が小鳥の頬を捉える。が、そんな一撃で小鳥が倒れることはない。小鳥と組み手を行うは、空手有段者の大人たちである。同じ高校生くらいの素人に数発殴られたところで、意識が飛ぶ訳はない。
 殴られながら無理矢理に姿勢を変えて、振り向き様に足を上げた。小鳥の得意とするのは、拳よりも足技の方であった。一気に振り回された踵が男の首元を捉え、地面に叩きつける。倒した連中の安否になど、まるで気を払わない。小さく呼吸を整えながら、周りに倒れた三人から視線を外し、小鳥は残りの十一人を見渡した。
 目の前で繰り広げられた光景を、理解できていた者は少なかったのだろう。
 呆然と小鳥を見つめる者が大半だったが、先頭の男だけは違った。
「なるほど。信じてなかったが、本当に強いみたいだな。空手ってのは恐いな」
 その笑みに、嫌な予感を受ける。
「だが生憎として、これは試合じゃない。これは、喧嘩だ。……構わねえ、やれお前等」
 先頭の男の声に状況を理解した十人が、一斉に行動を開始した。
 最後尾にいた男連中がまとめて持っていたのだろう。十人全員にそれが行き渡った後、ゆっくりと小鳥に向かって歩いて来る。様々だった。金属バットもあれば木製バットもある、木刀もあればゴルフクラブだってあった。漫画で使われる凶器のオンパレードだ。ここまで徹底的に凶器を持って向かって来る連中を、小鳥は初めて見た。
 そして、悟った。この人数を相手に、凶器を使われたら確実に負ける。実力云々の話ではない。素人の拳なら耐えられる。だが凶器を使われ、それが直撃した場合、耐えられる自信はなかった。一対一なら凶器を使われてもどうとでもなる。が、元より多勢に無勢、そこに凶器が交わったら、最悪の状態だ。決断するなら今しかなかった。
 幸いにしてまだ距離はある。今すぐに踵を返せば、たぶん捕まる前に逃げ切れる。ここはそうすることが最善の
 小鳥の視界の中、先ほど口を開いた男が一瞬だけ意外そうな顔をした後、フッと笑った。
 その笑みの本当の理由に気づいた時には遅かった。
 背後に気配、振り向く間際、しまっ――
 後頭部に衝撃。一撃で、意識が刈り取られた。


     ◎


 水を真っ向から浴びせられて、意識を取り戻した。
「――……っ」
 髪から滴る水を感じながら、呼吸を整えて、ぼやけた視界で辺りを見渡す。
 どこなのか、検討もつかなかった。まったく知らない、工場の倉庫のような所だった。薄暗い建物の中、高い天井の横についた窓から太陽の光がスポットライトのように射し込み、埃が大量に舞っていることが見て取れた。そして感じるは数人の人の気配。視界が段々とクリアになっていく。周りには数が把握し切れないほどの人が立っていて、全員がこっちを見ているような気がする。その中でもすぐ目の前に男が一人いて、何かを手に持っている。少し大きめな円柱状の何か。バケツに見える。バケツだろうか。そうえいば身体中が濡れている。あのバケツで水を掛けられたのだろうか。
「――お目覚めか、鳴海小鳥」
 そう言われて、意識がはっきりとした。
 声の方を見ようとして、突如と襲った後頭部の痛みに顔を顰め、反射的に手を持って行こうとした時、ようやく気づいた。天井まで伸びている大きな鉄骨の柱に、座ったままの小鳥の身体が縄で完全に結ばれてしまっていた。それはそのまま手首にまで及んでおり、手を後ろにしたまま身動きが取れない状況だった。
 成す術は、なかったと思う。
「こっちは六人だ。六人、お前にやられた。この落とし前、どうつけるつもりだ?」
 声の方を、改めて見る。
 あの時、集団の先頭にいた男がいる。が、声の主はこの男ではない。その横にいる、大柄な男である。一見しただけで、理解できた。ただの不良ではあるまい。おそらく、何かしらの格闘技を多少なりとも嗜まなければ出来ないような身体つき。空手ではないと思う。柔道か、ボクシング。たぶん、そのどちらか。
 その男はこっちを見つめたまま、煙草を加えて煙を吐いた。ゆっくりと漂う、灰色の煙。
「おれは君嶋だ。こいつらの頭を張ってる」
 君嶋と名乗ったその男は、煙草を加えたまま近寄ってくる。
「事の顛末は聞いてる。世間一般から見れば、確かにこっちが悪い話だ。……が、女に仲間を六人もぶっ倒されて黙ってたんじゃあ、こっちのメンツが保てねえんだよ。この落とし前、どうするよ鳴海小鳥」
 目の前にしゃがみ込んだ君嶋と、真っ向から睨み合う。
 目を見ているだけで、はっきりとわかる。どす黒い目。格闘家が見せる瞳とは、おそらく正反対の目である。一体これまで、どのような光景を見て育てばこのような目になるのかはわからない。だけど、それゆえにわかってしまう。この男、――強い。たぶん、小鳥が万全の状態で、本気でやり合って互角とか、そういうレベルの話。いや、下手をすると、体格差などを考慮して考えると小鳥より強いかもしれない。
 だが、それでも。屈することだけは、しない。
 君嶋の目を睨み返したまま、小鳥は言う。
「……わたしたちは、間違ったことはしていない」
 そうに決まっていた。この考えだけは、決して曲げてはならない。
 ここで曲げたら、今までのすべてを否定することになるのだ。
 小鳥の目を見据えたまま、君嶋が笑った。背筋が凍るような笑みだった。
「……予想通りだ。お前は、おれの大嫌いな目をしてるぜ」
 瞬間、乾いた音が耳の奥から響いた。
 視界が一気に揺らいだ。頬を引っ叩かれたのだと、瞬時に理解した。頬が熱湯を掛けられたかのように熱く、両耳の奥から鉄を打ち鳴らしているかのような音が何重にも響いて聞こえて来る。それらをすべて押し込めて、小鳥は歯を食い縛った。無防備の状態で食らってしまったそれは、思いの外、衝撃だった。痛さは我慢できる、しかし突然のことに頭が混乱している。落ち着け落ち着け、と自分に必死に言い聞かす。
 正直なところ、ショックが大きかった。目で追えなかった。平手打ちに、まったく反応できなかった。そのことが、大きな精神的ダメージとなっている。そこまで力量に差があるとは思えなかった。だけど、圧倒的なほど力量に差がなければ、小鳥が気づく前に平手打ちを見舞うなんてこと、できるとは到底思えない。動体視力には自信があったのだ。なのに。
 目の前の君嶋は尚も笑う、
「気に入ったぜ。その目、こっち色にしてやるよ。……お前が女で良かったよ。女じゃなかったら、楽しめねえもんな」
 そう言われて初めて、気づいた。
 水を頭から浴びせられたせいで、制服のブラウスが透けてしまっている。それを見られていることに気づいた時、羞恥心が一挙に押し寄せて来て、自分でも恐ろしいまでの、屈辱感が浮上した。身を捩りながら必死に身体を隠そうとするが、縄で縛られている身体は当たり前のように自由には動いてくれず、心の奥から焦りだけが走り出してくる。
 君嶋の手が、小鳥に伸びて来る。
 ここへ来て、初めて恐怖心が湧いた。拳を振るう場においては、男だろうが女だろうが関係ないと小鳥は思っている。だが、こうして拘束され、相手が自分を「女」と認識し、そして自分もまた、相手のことを「男」だと理解した時、これまで感じたことない種類の恐怖があふれ出して来た。試合で負けそうになった時の恐怖とも違う、不良との喧嘩で刃物を出された時の恐怖とも違う、もっと恐ろしいまでに深く黒い、本当の恐怖だった。
 眼を硬く閉じた。それでしか、この恐怖を我慢する術を、知らなかった。
 閉じた眼から涙が滲む。心の中で強く思う。
 こんな時に、あの馬鹿は何をしているのか。こんな時こそ一緒にいてくれないでどうするというのか。確かにあの人を「守る」ということは、こっちが勝手に決めたことだ。あの人から一度でも、「守ってくれ」と言われたことはない。それは重々承知だ。そしてもちろん、こっちだってあの人に向かって「守って」と言ったこともない。だけど、そんなこと言わなくても、そんなこと言われなくても、わかっていると思っていた。自然とわかっているのではないのか。それが今までずっと一緒にいた、あの人との距離感だと、そう思っていたのに、なのに。
 あの時のように、もう、守っては、
 君嶋の手が小鳥のブラウスに触れるその一瞬、

「――ちょっと待てゴリラ君。小鳥君には触れないでもらえるか」

 あの馬鹿の声を聞いた。
 思わず眼を開いた。目の前にいる君嶋のその向こう、工場の倉庫のドアに凭れ掛かり、眼鏡を指でくいっと上げつつ小指を立て、肩で息をしながら、志木城拓海はそこにいた。
「先輩……どう、して……?」
 呆然とつぶやく小鳥に対して、志木城は笑う。
「上条君に聞いた。良い友達を持っているな、小鳥君」
 奈留が知らせてくれた。たったそれだけで、全部が救われた気がした。
 周りにいた連中が志木城に向かって何事かを叫んでいるその中で、君嶋が静かに立ち上がりながら振り返る。
「……あれか。鳴海小鳥と一緒にいたっていう、眼鏡野郎」
 わっはっはっはと、志木城は笑う。
「ご名答だゴリラ君。しかしそんなことより、小鳥君を解放してくれないか。今ならまだ痛い目に合わず、穏便に済ますことも出来るのだが」
 今度は君嶋が笑った。さっきとは違う、本当の笑いだった。
「見た目の割に、随分な度胸持ってんな。もしここでおれが解放しないって言ったら、お前はどうするんだよ?」
 扉から身体を離し、一歩ずつこちらに向かって歩き出す志木城。
 逆光になっているせいで、その表情を読み取ることはできないが、それでも彼はこう言った。
「僕ではこの人数を相手に立ち回るなんてことはできないだろう。だが、このまま帰る訳にはいかない。そこでどうだろうか。苦肉の策になるのだが、僕とゴリラ君。二人で戦って決着をつけるというのは」
 君嶋は大きな声で笑った。
「タイマンしようってのか、このおれと? お前が?」
「うむ。僕が勝てば、小鳥君を解放して欲しい」
「じゃあおれが勝ったら、てめえをぶっ殺して、鳴海小鳥を好きにしていいんだな?」
 逆光のその中、志木城が真っ直ぐに君嶋を見据える。
「――いいだろう。だが約束しろ。それまで、絶対に小鳥君に触れないと」
 そして、ここに来てようやく小鳥が口を開く、
「先輩! 無茶です、やめてくださいっ!!」
 なぜ志木城がそんなことを言うのかが、まるでわからない。自分ではどうしようもないこと、自分ではどうにもできないことなど、志木城自身が一番よく理解しているはずではないのか。小鳥ですら勝てるかどうかわからない君嶋を相手に、志木城がどんな奇策を使おうとも勝てるとは到底思えない。そんなことに、志木城が気づいていないはずがない。なのになぜ。
 しかし、それこそが小鳥を思っての苦肉の策だというのは、わかっていた。こうする以外にきっと、今の志木城では他に打つ手がなかったのだ。ここがどうして判ったのかはわからないが、おそらく必死で捜してくれたのだろう。そんな中で、まともな思考など回る訳がない。今のこの状況さえも、思いつきで発言しての結果でしかないはずだった。
 助けて欲しいと願ったのは自分だ。守って欲しいと思ったのもこの自分だ。だけど、これでは、
 言葉は意識せずとも口から出ていた。
「わたしのことはいいですから! 逃げて先輩っ!!」
 志木城の視線が小鳥に向けられる。
 そこに見た、志木城の笑顔に、何も言えなかった。
 瞬間、
 志木城が吹き飛んだ。吹き飛んだかと思うかの如く、殴り飛ばされていた。君嶋の拳が、無防備だったその頬を確実に捉えていた。一発で地面に激突させられた志木城が、小さな呻き声を上げながらゆっくりと身体を起こして行く。その姿に投げかけられる、君嶋の笑い声と、周りの不良から上がる罵声と歓声。立ち上がる前に君嶋がその身体に追いつき、首根っこを掴んで引っ張り上げる。身長差をずるいくらいに利用して持ち上げ、ついに志木城の足が地面を離れた。鳩尾に一発、苦痛の声を上げるその顔に頭突きが一発、首根っこが離され落下を開始した腹に膝が食い込んだ。
 志木城でなくても、おそらく普通の人間であれば、それだけで再起不能になるはずだった。見ていてもわかる。君嶋の一撃一撃が、本当に重い。体重と腕力が、身体の回転力と恐ろしいまでに重なり合っている。下半身からの攻撃はともかくとして、上半身の使い方が圧倒的に巧い。この身体の動かし方。小鳥の予想通りだった。君嶋は、ボクシングをやっているはずだ。
 そして、志木城は、ふらふらになりながら立ち上がる。その姿を君嶋が意外そうに見ていたのは僅かな間で、気づいた時にはその足は地面を蹴り、全力で振り切られた拳が虚ろな眼をする志木城の顔を捉えていた。身体が木の葉のように吹き飛び、工場の壁に激突する。宙を舞った液体が、まさか水ではあるまい。地面に滴り落ちたそれは、見間違える訳もなく、志木城拓海の血だった。
 小鳥が大声で叫んだ。
 自分でも何を叫んだのかわからない。何も聞こえない。何を言っているのかもわからない。視界が涙で滲んでいく。どうしてこんな状況になっているのか、まるでわからない。だがただ漠然と、このままでは志木城は死ぬのだと、本気でそう思った。
 しかしそれでも、小鳥の声を聞いた志木城は、依然として立ち上がる。もはや意識があるかどうかすら怪しい。志木城のトレードマークであったオールバックの髪はすでに崩れ、縁が異様に太い眼鏡は最初の一撃ですでに破壊されて掛けてすらいない。それでも志木城は立ち上がり、血に濡れたその顔で小鳥を見つめ、口だけでわっはっはっはと笑って見せた。
 涙が、溢れた。
 それから何度、志木城が君嶋に殴り倒されたか、もはや憶えていない。それでも志木城は立ち上がり、決して勝てない相手へと向かっていく。その度に、君嶋の顔からどんどんと表情が消えていくのが伺えた。殴り倒しても殴り倒しても、死者のように立ち上がってくるこの男に対して、苛立ちを覚えているようだった。
 どれだけそれが続いただろう。どれだけ、志木城は殴られただろう。そして、その一発で志木城は小鳥のすぐ側まで吹き飛ばされた。足元にあるその頭に必死に呼びかけるが返事がない。髪が顔に掛かっていて眼が開いているかどうかがわからない。そもそも呼吸をしているかどうかさえ見ている限りではわからなかった。本当に死んだかのように仰向けで倒れている志木城が、どのような状況なのかが把握できない。
「……梃子摺らせやがって」
 そんな君嶋の声を聞いた。
 しかし小鳥の頭にはそんな言葉は入って来ない。
「先輩……ッ!! 先輩……ッ!!」
 何度も何度も呼びかけるが返事はない。
 なぜ、こんなことになっているのか。どうしてこんなことになっているか。頭が現実に追いついて来ない。
「これで終わりだ。約束は守ってもらうぞ眼鏡」
 呼び掛け続ける小鳥へ向かい、君嶋が手を伸ばす。
 が、その手が一瞬で捕まれる。
 全員が虚を突かれたはずである。小鳥でさえ、言葉を失った。
 血を吐きながら、それでもなお、志木城は立ち上がる。
「……まだ…………終わって、ないぞ…………ゴリラ、君……」
 どこにそんな力が残っているのか。いや、力など残っていないのだと思う。
 証拠に、君嶋の手を持っていなければおそらく、今の志木城は起き上がれなかっただろう。
 よろよろの血だらけになりながら立ち上がった志木城を真っ向から睨みつけ、ついに君嶋が境界線を踏み越えた。
「しつけえ野郎だなてめえは……ッ!! 上等だ、本気でぶっ殺してやるよ……ッ!!」
 数歩だけ志木城から離れた後、上体を掲げて何かを拾い上げた。
 床に置いてあった、木刀だった。それを握り締め、志木城と君嶋が対峙する。
 ちょっと待って、と小鳥は蒼白になる、
「待って!! それ以上はダメッ!! わたしはどうなってもいいから、先輩はっ」
 そこから先は、言葉にできなかった。
 それは、志木城が大声でわっはっはっはと笑ったからだ。
 小鳥を振り返った志木城は、散々殴られた酷い顔で、しかし笑いながら、こう言った。
「それは、……男が言う台詞じゃないかね、小鳥君……」
 もはや何も言えなくなった小鳥から視線を外し、言葉を紡ぐ。
「僕は、……弱い。君に守って……もらって、ばかりだ……でも、意地くらいは、あるんだ……」
 木刀を振り上げた君嶋を真っ向から見据え、志木城は言い切った。

「……好きな女性を、守りたいっていう意地くらいは、ある……ッ!!」

 驚くほどスローモーションの光景。
 振り上げられた木刀が、志木城の頭を捕らえた。血飛沫が舞う。殴打された反動で志木城の身体が小鳥を縛りつけている柱にぶつかり、そのまま小鳥に覆いかぶさるように倒れ込んで来る。志木城の身体が落ちてしまわないよう、無意識の内に肩で身体を支えていた。俯いたままぐったりとする志木城の耳元で叫ぶが、返事が返って来ない。支えた肩に広がってくる生暖かい感触。被せられた水ではあるまい。ブラウスに広がる赤に、気が遠くなる。
 このままでは、志木城が死んでしまう。
 守るって思っていたのに。そのために強くなったのに。これでは何のために空手をやっていたのかわからない。守って欲しいとは思った、助けて欲しいとは思った。だけどこれではあんまりだ。馬鹿だとは思っていたがここまでの馬鹿だとは思わなかった。死んでしまったら、これから先、自分はどうすればいいのか。この人がいないこの世界に、どれだけの価値があるというのか。まだ自分の気持ちを言った訳ではない。こんな中途半端で終わって欲しくない。なのに、どうしてこんな、
 大声で叫び声を上げようとした、刹那の、違和感。
 動きが停止した小鳥のすぐ側にいる俯いた志木城が、本当に小さな声で、いつものように、笑った。
 本当に小さく、聞き取るのがやっとの声で、志木城はこう言った。
 ――翼は解き放った。飛べ、小鳥君。
 無機質な音が響く。志木城の手から何かが落ちる。
 見覚えがあった。昨日、不良から没収した、あのナイフだった。
 気づいたら、縄が緩んでいた。見れば一部が綺麗に切断されていて、もはや縄は拘束の意味を成していなかった。
 身体が、腕が、自由に動く。まず最初にしたことは、志木城のその身体を、泣きながら力いっぱいに抱きしめることだった。
 耳元で志木城がわっはっはっはと、消え入りそうな声で笑う、
「……こうでも、しないと……君に、近づけ……そうに、なかった……」
 苦肉の策だったのだろう。
 この状況を打破できる可能性があるとすれば、それは小鳥を解放すること以外、有り得なかった。そのため、志木城はこのような愚行を取ったのだ。ここに飛ばされなければどうするつもりだったのだろう。先に意識が途切れていたら、どうするつもりだったのだろう。まったくもって、馬鹿の考えることはわからない。一般人には到底理解できないことを、平気でやってのける。本当に自分勝手で身勝手、自分には何の力もないのをわかっているくせに、自分ではどうしようもできないとわかっているのに、それでも全部自分で決めて、自分一人で行動に移そうとする。そして、その行動はすべて他人のため。自分のために志木城が自らを危険に晒したことなど、ただの一度もない。誰かのために、平気で危険なことに突っ込んでいく。だから心配なのだ、だからこの人を守らなくちゃと思ったのだ、それゆえに、この人のそんなところが嫌いで、――この人の、全部が大好きだった。
 そうして志木城は、掠れた声で言葉を紡ぐ、
「すま、ない……これ以上は、無理だ……だか、ら……」
 それは、小鳥が心の底から聞きたかった言葉。
「――……頑張って、くれ」
 その一言は、魔法なのだ。
 どんな応援団であろうと、どんな大歓声であろうとも、この人が放つこのたった一言には、絶対に敵わない。志木城が繰り出すそれは、小鳥にとって魔法の言葉。何よりも大切な言葉。たったそれだけで、十分だったのだ。それだけで、どれだけでも勇気が湧いてくる。恐怖心など一瞬で吹き飛ばして、小鳥を包んでくれる。志木城が側にいて欲しい思う、本当の理由がそこにある。
「……うん。見ててください、先輩」
 志木城の身体をそっと床に下ろし、小鳥は立ち上がる。
 そうして見据えるは、君嶋だ。拳を握り締めながら、思う。もう、迷わない。もう、眼を瞑らない。相手が何人何十人であろうと、もう負けはしない。志木城拓海のあの言葉がある限り、鳴海小鳥は無敵となる。自分でもはっきりとわかる。瞳が紅く染まっていく。今までの比ではない。燃えるように熱く紅く、瞳がゆっくりと鼓動を開始する。恐れるものは、もう何もなかった。
 目の前の君嶋が木刀を構える、
「縄が解けたか。……まぁいい。しかし、本当に眼が紅くなるんだな、お前。ますますこっち色に染めッつっ」
 刹那、
 小鳥の踵が、木刀を持っていた君嶋の手を直撃した。吹き飛ばされた木刀は高々と弧を描いて回転し、無機質なコンクリートへと落ちた。その光景に追いついていなかったのは、周りの連中だけではなく、君嶋も一緒だったはずだ。呆然と我が手から離れて転がった木刀を見つめ、目を見開いている。
 そうして、紅い瞳を持つ小さな怪物は言う。
「ごちゃごちゃうるさいです。……覚悟してください。先輩を殴ったこと、死ぬほど後悔させます」
 その声に我に返った君嶋が、歯を食い縛る、
「上等だ……ッ!! この人数相手に、やれるもんならやってみろやッ!! やれてめえらッ!!」
 合図の声と共に、周りにいた全員が突っ込んでくる。
 そんな光景を、驚くほど冷静に見つめている自分に少しだけ驚く。
 何だろうこの感覚。初めて味わう感覚。目を通して見えるその光景が、恐ろしくスローモーションに見える。それに引き換え、こちらの身体は驚くほど瞬時に動く。まるで、自分と相手の時間軸が違うかのような感覚。相手が先に動いていようが関係がなかった。どんなに先に動かれようとも、それに追いつき追い抜き、対応できる自信が、今の自分にはあった。近づいて来る一人に狙いを定めて、拳を握った。
 人間を撲殺するための急所は、知り尽くしている。
 顎に一閃。糸が切れた人形のように倒れ込む男には目もくれず、振り向き様に蹴りが流れた。脇腹に踵を叩き込んで薙ぎ倒す。遠慮など一切しなかった。相手の動きがスローモーションで、こちらの動きは早送りのようだった。向かって来る相手に対して、脳が命令を飛ばすより早くに身体が反応しているかのようだ。今まで、こういう体験はしたことがなかった。自分の中で、何かが変化しているのがはっきりとわかる。どのような変化なのかはわからない。しかし、例えこの変化が悪い方へ働いたとしても、小鳥は後悔しない。今この瞬間、ここで戦えるのであれば、それでよかった。志木城のために、そのためだけに培って来た、力なのだから。
 圧倒的な力を持ってして、圧倒的なまでに叩き潰す。
 二十人以上いた連中が、あっという間に地面に平伏していく。同時に殴り掛かられようとも、今の小鳥には対した問題ではなかった。同時と言えど、コンマ何秒かでズレは必ず生じる。そこにズレが生じる限り、本当の同時ではないのだ。そしてそのコンマ何秒かでさえズレていれば、今の小鳥ならば対応できた。肉体が限界を超えて稼動しているのがわかる。それでもいいのだ。ここで力尽きようとも、それで、構わない。ここにいる連中を圧倒的な力で叩き潰せれば、それで、いいのだ。
 最後の一人を回し蹴りで蹴り倒した後、小鳥は大きな息を吐いた。
 周りの連中は呻き声すら上げずにすべて倒れており、この場で立っているのは、もう小鳥と君嶋しかいなかった。
 君嶋が、今までとは違う笑みを見せる。
「……すげえな、恐ろしく強え……こんな人間、初めて見たぜ……」
 ゆっくりと、小鳥が構えを取る。
「おい、どうだ鳴海小鳥。おれと、組んでみねえか? おれとお前なら、最強の」
「ごちゃごちゃうるさいですって言いました」
 小鳥の姿が揺れ動いた瞬間には、その拳が君嶋の目の前に迫っていた。
 ギリギリのところでガードした腕に、小鳥の小さな拳が容赦なく突き刺さる。その時に君嶋が見せた表情が、すべてを物語っているかのようだった。小さな拳からは想像もつかないかのような威力。衝撃が一箇所に収縮された、本当の意味で強い打撃。ボクシングをしていても、これほどまでに力の集約が成された拳など、見たことがなかったはずだ。
 が、それで怯む君嶋ではなかった。強いというのは、先の戦闘を見てれば嫌というほどわかる。男だから女だから云々としてではなく、一人の人間として、この鳴海小鳥が強いのだ。手加減などできようはずもない、していたら最後、一発で叩き潰される。そのことを、君嶋は瞬時に理解していた。そしてこれは試合ではない、何でもありの、喧嘩だ。
 見上げる小鳥は、君嶋の動作に気づいて歯を食い縛る。炸裂した頭突きに視界が一瞬だけ真っ暗になる。それでもすぐに小鳥は視界を取り戻して動き出し、状態を整えた。頭を戻した君嶋がその行動に気づいたときにはもう遅い。遥か下から繰り出された回し蹴りが、僅かな差でその顎を削った。身体的ダメージなど、ほとんどなかったはずである。だがしかし、顎先を掠めるということの本当の意味は、身体的なダメージではないのだ。
 一瞬の攻撃。しかしそれで、すべては決した。
 君嶋の呻き声と共に膝が落ちる。これでも脳震盪を起こさないで意識を保っているとは驚いた。相当鍛え込まれていたのだろう。だが脳が揺れていてまともに立っていられないらしい。当然である。あれほどまでに綺麗に決まった蹴りだった。ちょっとやそっとでは、立ち直れるはずがない。そもそも、あの一撃で終わってしまっては、こっちが困る。
 死ぬほど後悔させなければならない。
 先輩に、――志木城拓海に手を出したらどうなるか。
 それをいまここで、圧倒的な力を持ってして、圧倒的なまでに、叩き込んでやる。
 膝を着く君嶋に向かい、小鳥は言った。
「――後悔の、時間です」
 蹴りが一閃、空を裂く。


     ◎


 乗り物に乗っているような感覚がして、ふと意識が浮上した。
 ぐらぐらと揺れて乗り心地は最悪だったが、なぜかとても暖かい。
 なんだろう。何に乗っているのだろう。
 ぼんやりとした視界で、目に見えるものを追い掛けていく。目の前に、誰かの頭があった。髪はぐちゃぐちゃで、所々に固まった血かこびりついてはいるが、何とか形になっているオールバックだった。見覚えのある頭である。見間違うはずもない。これは、志木城拓海の頭だ。だがなぜ志木城拓海の頭が目の前にあるのだろう。そう思って身体を起こそうとした瞬間、
「――っ、いっ……」
 あまりの激痛に涙が出た。
 身体中が悲鳴を上げていた。何がどうなっているのかがわからない。
 そしてその声に気づいた志木城が頭をこちらに向け、
「起きたかね小鳥君。無理に動かない方がいい」
「……あの、わたし……?」
 志木城は前を向き直し、
「これは僕の予想ではあるが、たぶん君は自らの身体の限界を超えた。その反動がいま、来ているのであろう。しばらくはまともに身体が動かせないと思った方がいい。……ただ僕が見る限り、幸いに腱が切れているとかはなさそうだった。筋肉痛か何かだろう」
 その話を聞いて、ああそっか、と小鳥は思った。
 あの時、自分は確かに肉体の限界を超えていた。思い出してきた。相手がスローモーションで動く中、自分だけ早送りで動けるあの感覚。代償が何であれ、戦えればいいと思ったから、気にも止めずに身体を動かした。その反動が今のこの激痛。が、志木城の言う通り、一生動かせなくなるような痛みではないと思う。筋肉痛の親玉がやってきたみたいな、そんな感じ。しばらくは寝込むしかなさそうだ。こんな身体ではまともに歩くことすらままなら
 ふと気づく。
 あれ。これってもしかして、
「あの……。先輩……?」
「なんだね小鳥君」
「……わたしいま、もしかして」
「背負っているね、僕が。おんぶとも言う」
 息が止まるかと思った。ようやく理解した。
「――ご、ごめんなさい先輩っ! いますぐ降り、いっ……!」
 志木城の身体がぐらぐらと揺れる、
「動かないでくれ小鳥君。君も痛いだろうが、僕も死ぬほど痛い」
 そう言われて気づいた。志木城は、君嶋にタコ殴りにされ、挙句の果てには木刀で脳天をぶっ叩かれたはずである。それなのになぜ、小鳥を背負ってこうして歩けているのか。この細い身体のどこに、これだけの力が残っていたのだろう。小鳥を背負って、どうして歩き続けていられるのだろう。
 背負われている背中を見て、初めて知ったことがある。小鳥がずっとずっと守っていた、守ろうと思っていた背中は、こんなにも、大きかったのだ。
 小鳥は、何だか無性に泣きたくなった。
 その背中に額を預け、小鳥はつぶやく。
「……わたし……重くないですか、先輩……」
 志木城はわっはっはっはと笑う、
「重くないと言えば嘘になる。僕も明日からまともに身体が動かせないだろうね。いまこうして歩いていることが、自分でも不思議なくらいだ。……だけど、男の意地として言おう。――小鳥君は、重くないよ」
 全然嬉しくない。嬉しくないけど、小鳥は背中に額を預けたまま、くすくすと笑った。
 目から涙を流しながら、小鳥は笑った。
 意地、か。そう言えばあの時も、志木城は意地だと言ってた。
 今なら言えると、そう、思った。
「先輩」
「なんだね?」
 小鳥は素直に、誰にも言ったことのないその言葉を告げる。
「わたし、先輩が好きです。大好きです」
 精一杯の告白だった。しかし志木城は、特に変わらなかった。
 小鳥を背中に背負ったまま、止まることなく歩きながら、
「うん。何を今更言うんだね? そんなこと、お互いにわかっているだろう?」
「……は?」
 わっはっはっは、という笑い声が響く。
「態々言葉にする必要もないだろう。友人として、そして男女の関係として、僕は君が好きで、君は僕が好きなんていうことは、昔からわかっていたことだろう? 今更そんなことを改めて言われると恥ずかしいからやめてくれないか」
 思った。
 やっぱりこの人は、鬼才の奇才で、奇人の変人であり、天才馬鹿であると同時に、死ぬほど鈍い男なのだ。志木城の頭の中なんてわかるわけがない。一般人に変人の思考回路など読めるはずがない。言葉にしてくれないとわからないこともあるのだ。こっちがどれだけ悩んでいたと思っている、そっちの考えがまるでわからないから、どれだけ不安だったと思っている。そのくせ言うにことかいて、昔からわかっていた、だって。今更そんなことを言うな、だって。こっちの気持ちなんて何もわかってないくせに、それなのに。
 ――腹が立つ。
「ちょ、ちょっと、小鳥君。痛い。痛い痛い! 本当に痛いストップだ!!」
 背中から志木城の身体をべしべしと叩きながら、小鳥はふれっつらになる。
 その瞳が怒りからではなく、嬉しさで紅色に染まっていることにも気づかずに。

「ところで小鳥君。今日も君はスカートなのにスパあうっ、ちょ、痛いッ!」








2010/11/05(Fri)19:53:36 公開 / 神夜
■この作品の著作権は神夜さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
どうも。神夜です。
みんな口揃えて水前寺水前寺言いやがって、これのどこが水前寺なん――うん。こら水前寺だわ。いや違うよ、全然違うんだ。最初から水前寺を意識していた訳ではないんだ。途中からふと「あれこれ水前寺じゃん」と気づいたんだ。気づいた時にはもう手遅れだったんだ。……サーセンした。心のどこかで、一番好きな小説のキャラとかっていつの間にか表に出て来てたりするよね☆てへっ>< ……サーセンした。
そんな訳で、『紅の瞳、魔法の言葉 後編』なのでした。
特にどんでん返しがある訳でもなく、まさに「王道」だけを突き進んでみた。たぶんジャンプでもこういう終わり方をするはずだ。君嶋と小鳥の戦闘があっという間に終わってしまったのは、定時まで時間がなくてしかげふんっ。強そうな相手をパワーアップした主人公が瞬時にぶっ倒す。これこそが「王道」なんだよきっと。
読んでくれて、ありがとうございました。
もう一作品だけ、仕事が爆発しつつも投稿できそうである。
残業までして何で小説書いてんだ自分。バレたらマジで首だぞ。
次は『戦争』のお話なのです。思うがまま、特に何も考えずに書く、ニーソとメイドと猫耳と巫女が戦う話なのです。
それでは誰か一人でも楽しんでくれることを願い、神夜でした。
この作品に対する感想 - 昇順
 ライトノベル物書きのakisanです。読ませていただきました。

 実はこの物語の眼鏡キャラ+地の文の流れ方から、なぜかふと浮かんできたちょっと古めの既存キャラがいます。間違っていたら私の妄言なので気にしないでいいのですが「イリヤの空の水前寺」がぼやーっと陽炎みたいに浮かんできたのです(いやほんと思い違いかもしれませんからさらっと流してください)。もちろん水前寺とはまったく役が違うしイリヤのほうは戦闘モノではないですから「全然違うよ」と言われればそれまでなんですし、水前寺とはまた別の持ち味もったキャラクターで見ていて面白いです。

 それと、おそらくなんですけど神夜さんが悩んでおられる「戦闘シーンは見る影がない」というのは、呼吸の仕方がちぐはぐになったのかなと思うんです。クロールの呼吸なのに平泳ぎの呼吸しているかんじ。おそらく戦闘シーンの地の文でせつない恋の物語を書いたらピタリと当てはまるような気がします。過去作品のセロヴァイトを見てきましたが、あちらは戦闘の呼吸で地の文が流れていましたね。それにあちらの作品のほうが魂を塗りたくっているような必死さが伝わってきました。
 だからといって過去作品のほうが優れているかというとそれはまた違う話で、私はこの「紅の瞳」のほうが読者に優しく読んでいて面白いです。セロヴァイトのほうが「俺に紅茶もってこんかー! 熱々じゃないとだめだぞー!」って感じで、こちらの紅の瞳は「お嬢様おいしい紅茶をご用意しました」って感じです。わけのわからん例えですけど、とにかく後半楽しみにまっています。
2010/11/01(Mon)22:59:221akisan
神夜様。
御作を拝読しました。
物語の骨組みなんてものはシェイクスピアの時代にとっくに網羅されているんだ、とは誰の言だったでしょうか。基本的に後に続く作品はパクリになってしまうわけです。あ、この小説がパクリって言ってるわけではないのです。ただ、akisan様の感想に水前寺の話が出てきて、ふと思っただけなのです。
以下、素人が夜中の3時に起きてガタガタ打った戯言であります。聞き流していただいて結構であります。
ふむ、今のところなんともいえないというのが正直な感想。ただ日常風景が流れているだけという印象を受けました。もう少し読んでみないと、分からないですね。
文章は相変わらず引き込まれるような魅力あるものでしたが、日常風景を二人だけでつらつらと書いているため、このシーンは何のために存在しているのだろうか、と疑問に思う箇所が。もしかして、二人の会話のテンポを味わうというシーンなのでしょうか。なんでもない日常をつらつらと、しかし読者に飽きさせることなく「読ませる」というのは、秋山先生の得意技ですが、それを複写し損ねているという印象を持ったのです。したがって、もっと神夜様らしいシーンを書いてほしいなと身勝手にも思ったわけであります。
おそらく、その流れで戦闘シーンに持っていっているため、当該シーンで少し息切れしているのではないかと考えます。
しかし、きっと神夜様ならここから、あっと驚くわくわく展開に持って行くのでしょうね。
いや、色々といらんことを書いた気がしますが、勢いで投稿しちゃいます☆
次回を楽しみにしています。ではではー。
2010/11/02(Tue)04:20:300点ピンク色伯爵
 こんにちは。作品読ませていただきました。
 しかし、神夜さんは女の子が男をがすがす蹴る話が本当に好きなんですねえ……。「痛い小鳥君痛いんだ」ってのが妙に気に入りました。そう言ってるのに、まだ蹴り続けてるし。
 キャラクター小説で、しかも王道バトルもののとなると普段まず読むことのないジャンルなので(大昔のジャンプ漫画は読んでましたが、好きだったのは邪道寄りの「男塾」ですし)、他の皆さんのような的確な評価はできないんですが、これでも「書けてない」ってことになるのかと、少々驚きです。
 志木城の絶妙なキモさ具合も含めて、キャラクターも良いと思うし、僕には十分面白かったです。この展開から、後半をどのように終わらせるのか興味津々です。誤変換は、もはやトレードマークってことで。
2010/11/03(Wed)14:22:491天野橋立
 やっぱり、言いっぱなしでは不親切だなと思いましたので書いておきますけども、「列記としたナイフ」というのが気になりました。検索すると、この言葉でも結構ヒットするみたいなんですが、「歴とした」が正しい表記ですね。単なる誤変換なら、ごめんなさい。
2010/11/03(Wed)14:32:470点天野橋立
拝読しました。水芭蕉猫ですにゃーん。
いや、本当は結構前に読んでたのですが、飲み会とか何か色々重なっちゃってすぐに感想かけなくて申し訳ない。
で、私は水前寺部長を見たぞ! 小鳥がヒロイン格に上がった秋穂? とか一瞬思ったけど、そんなのは特に問題ないのです。携帯みたいなちまちました画面でもしっかり読めるそして読ませてくれるそんなおはなしは素直に素晴らしいと思います。バトルは読むのも書くのも苦手なので、あえて言及しません。というわけで、何か色々考えて書いていらっしゃるようですが、読者としては面白ければそれで良いのです。で、面白かったので続きも楽しみにしております。
2010/11/03(Wed)21:47:191水芭蕉猫
 こんばんは、神夜様。上野文です。
 御作を読みました。ある種の独自性というか、哲学的なものを追求されていないなら、十分なんじゃないでしょうか? 文章自体が面白いですし。確かに”外れない”、外れることに踏みだせない葛藤は伝わってきましたが、多くの読み手が求めるがゆえに、王道と呼ばれるのでしょうし。面白かったです。
2010/11/03(Wed)23:42:480点上野文
akisanさん>
何度かお名前は拝見しておりますが、直接お話するのは初めてですかね。
初めまして。神夜です。『イリヤの空、UFOの夏』が頭に浮かんだのであれば、それは正解です。そもそも自分の小説の書き方自体が『秋山瑞人』さんの影響を多大に受けているため、ぶっちゃけた話をすれば自分の小説はあの人の模倣です。自分の原点であり、目指すべき所なのです。パクリだと言われても大いに結構、あの人に近い、あの人みたいだ、と言われるのが自分としては嬉しい。ただその中で、あの人とは違う、自分の持ち味が出せればなおよろしいですのが、なかなかどうして、難しかったりするのです。
そんなことはさて置き。貴方(貴女?)の感想を読んで、物凄く納得した。なるほど。言われてみて初めて気づいた。びっくりした。セロヴァイトが熱湯で、こっちが適切な温度。そう言われれば確かにそうであり、物凄く納得できた。魂を塗りたくった、か。それも素晴らしい言い方だ。あれほどまでにキャラが憑依して超ハイペースで書き続けられた物語は他になかった。作者よりそれを見事に言い当てられる貴方に驚きました。ありがとう。何かすっきりした。時にセロヴァイトを読んだ、だと……あんな糞長いのをよく……いや本当に、ありがとうございました。
読んでくれて、ありがとうございました。

ピンク色伯爵さん>
まぁよほど斬新な、誰も考え付かないストーリーが考えつけるのであれば、たぶん神夜はもっと上を目指して頑張っていただろう。とかなんとか思いつつも、パクリではなく、「似ている」とかそう思ってもらえるのならまだいい方か。水前寺に似ているけど、それとは違う魅力が――とかそういう方向にいければ、一番いいんだけどなぁ。
そう捉えられるのは、限りなく正解に近い意見だと思われる。なんていうのだろう。何も考えずに手が動いて、脳とは別に勝手に描かれる「日常」は、あとから見ていても違和感がなく、それが後になぜかいつも「生きてくる」のです。が、今回のように計算するとやっぱりダメだというのを再認識。思うがまま、書いてゆこう。貴重な意見、ありがとう。
ところで、自分の考えは「他人に厳しく、自分に優しく」なんだ。うん。典型的なダメ人間なんだ。誉めて伸びる人と、叱って伸びる人がいますよね。自分は前者じゃなきゃヤダヤダっていう、たぶん貴方とは正反対の人間なのです。だからこそ言おう。自分を買い被ると落胆するよ☆ 特に驚く展開もなく終わってしまってごめんねっ☆ ……サーセンした。
読んでくれて、ありがとうございました。

天野橋立さん>
ち、ちがっ、違うよっ! ぜ、ぜぜ全然違うんだよ! そんな自分が変態みたいな言い方……っ! いやまぁ、確かに好きですよ。女の子に蹴られる話。ただ気づいた。今まで書いてきた中で、女の子に蹴られる物語なんて「うるせえ」とこの作品しかなかった。ピンポイントで天野さんに見られていることに絶望した。そら変態だと思われるはずです、本当にありがとうございました。
楽しんで頂けたようで、心から有難いと思います。なんというのだろう。この物語に関しては、自分は「考えて」書いているのです。たぶんですけど、天野さんのような物書きさんは、全部考えて、緻密なストーリー構成などを練った後、書いているのだと思うのですよ。よく漫画とかで言わないですか、「感覚派」と「頭脳派」とか、なんかそういう表現。天野さんのような方は頭脳派だと考えています。そして自分は、圧倒的なまでに感覚派。大まかな筋だけ考えて、残りはその場その場の思いつきで書き進め、辻褄を無理矢理、何となく合わせて行く。だから王道になってしまうのですけれども。感覚だけで書き進められる物語は、描写が清清しいくらい自然なのに、これについてはそれがなかったように思えてしまうのですよ。だからこそ、「面白かった」と言われて、ほっとしております。
あれ。前に「列記とした」と「歴とした」というものの違いを調べたことがあるはずなのに間違っていただと。すみませんでした。単なる誤変換です^p^ 直しておきました。毎回毎回指摘をさせて申し訳ないです、本当にありがとうございます。
読んで頂き、ありがとうございました。

水芭蕉猫さん>
にゃーん。
感想書いてくれるだけで有難いものですよ。面倒だったら簡易でもよいのですよ。というか「読んだ」だけでもいいよ! そんなつもりじゃなかったんだ、なかったんだけど、気づいたら手遅れだったんだ。すみません。ところで携帯で読んでいるのか……なんという作業だ……頭痛くないですか?大丈夫ですか?
悶々と考えて小説を書くのはたぶんこれが最後。次からいつものように「何も考えずに王道」を書いてやらあ! とまぁそんなことはさておき、「読者としては面白ければそれでおk」、これに勝るものはないですね。どんなものでもそうなっていけるよう、日々精進しまする。後半も面白いと思ってくれることを祈っております。
読んでくれて、ありがとうございました。

上野文さん>
独自性、哲学性なんてものを考え出すと自分は死んでしまう病気なので、あくまで今まで通り、「王道」で突き進みます。しかし文章自体が面白いというのは嬉しい限りのお言葉。こんな長ったらしい描写をそう言ってくれるとは本当に有難いです。「外れる」物語をいつか書きたいとはちょっと思っているのですがしかし、それはきっと自分が書くと、結局のところ「外れない」物語に戻ってきてしまうんだろうなぁ。そうるするとまずは「書き方」を直さないと……とか考えると、「あれ?今のままの方がよくね?」となったり。が、自分が目指すべきところは、多くの読み手が楽しめること、つまりは上野文さんが仰る王道なのです。自分はこれからもこの道を歩いていくぜよ!!
読んでくれて、ありがとうございました。
2010/11/05(Fri)19:54:140点神夜
 こんばんは。神夜様。
 多くの読み手が楽しめるように、という信念で書かれてるなら、それはひとつの哲学であり、「作者」の独自性だと思いますよん。
 哲学といっても、敷居が高く見えるだけで、表層は「中二病」「ルサンチマン」「女にモテたい」「オレカコイイ」みたいなもんですもの。
 どうしても展開は読めてしまうし、君嶋はいっきに小物化しちゃう(アイゼンもそうだったけど、これは残念)けど、意地を見せる志木城は作中誰よりもカッコイイし、女の子してる小鳥ちゃんは可愛らしかったです。…この戦闘は、これが切れ味よくて相応しいんじゃないかな。
 面白かったです!
2010/11/06(Sat)16:41:330点上野文
 こんばんは。後半、読ませていただきました。
 うーん、なるほど確かに王道パターン。先が全部読めてしまいます。そりゃ、あのピンチで志木城が現れるのは当たり前の展開……なのに、なぜ僕はこんなに激しく感動してるのだろうか。志木城が倉庫に現れた瞬間、「好きな女性を、守りたい」っていう台詞が出たとき、どれもちょっと鳥肌ものというか、まさに「いよっ、待ってました!」の世界なんですよね。小鳥がVMAXパワー発動で敵を全滅させる場面も実に格好いい。大衆演劇なんかが根強い人気があるのも、こういう感覚なのだろうなあ。
 率直に言って、非常に良かったです。いや、ありがとうございました。

 前回の感想にコメントいただいた、「感覚派」と「頭脳派」の話、大変面白かったです。そうか、なるほどそう見えるのかもと感心。実は僕は「小説ってのはね、事前にプロットをきっちり固めて書くもんだよ」みたいな意見を見ると「ケッ」と思ってしまうほうで、もちろんそういう書き方が悪いわけでは全然ないんだけど、それが唯一正しいとか言われるとちょっとなと思います。心の赴くままに書いて、書き手自身も思っても見なかったほうへ結末を迎える、それが理想の書き方だと思ってたり。某何とかアワーも、最初は「主人公が失恋して、ゲームに現実逃避する」「投稿したゲームが世界的にヒットするが、お金は入らない」という二点だけ決めて書き始めて、しかしすぐに行き詰まって仕方なく一生懸命展開を組み立てざるを得なかったような感じです。ですから「感覚派」的な書き方、僕は全然ありだと思いますよ。
2010/11/06(Sat)22:48:292天野橋立
作品を読ませていただきました。王道的な展開は嫌いじゃないけど、なんだか神夜さんらしくないというか素直すぎた感じがした。水前寺会長……もとい、志木城先輩のキャラは面白いし、小鳥も悪くはないけど、キャラがバタバタして終わった印象だった。
これが読み切り短編ではなく長編の一部だとまた印象は違ったんだろうけど短編で読ませるにはキャラを作りすぎて(この短編だけ見れば小鳥の目が赤くなる必要もない)物語が弱くみえた。
では、次回作品を期待しています。
2010/11/07(Sun)11:42:310点甘木
神夜様。
作品の続きを読ませていただきました。
ああ、やはり引き込まれるぅー。いいですねー。青春ってかんじですねぇー。自分はもう手遅れでありましょうがせめて妄想の中でリア中に……。
小鳥ちゃんもかわいかったですし、志木城君もとてもかっこよかったです。
ストーリーは王道的で安定感があり、さすがと言わざるを得ませんでした。
ピンク色伯爵でした。
2010/11/08(Mon)17:06:450点ピンク色伯爵
上野文さん>
やめて!やめるんだ!敷居が高く見えるだけですぐに投げ出して人生を歩んできた自分にそんなことを言わないでくれ! ……とか思いつつも「なるほどなぁ」という思考と、「なるほど、わからん」という思考が入り混じっている。不思議。ところでここで言うのもなんなんですけれども。上野さんの作品ってどこから読めばいいんだあれ……!全部か……!全部続いているのかあれ……!
もうちょっとこう、君嶋とのバトルを長引かせて苦戦の末に勝つ、というのもあったのですが、諸々の都合がですねあははは。ごくごく素直に、志木城の男を魅せる場面と、小鳥の素直な気持ちの場面が書ければそれでよかった。そこを楽しんで頂けて、面白かったと言ってくれているのであれば、この作品は成功だった。
読んで頂き、ありがとうございました。

天野橋立さん>
え、あ……なんだろう、そこまで楽しんでもらえると嬉しい反面、逆にすごい動揺するぞ……。志木城が登場する場面、意地を見せる場面、小鳥がVMAXパワー解放させる場面、この物語の作風で書ける限りの努力はしたつもりだったのですが、まさかそこまで言ってくれるとは……いや本当に、ありがとうございました。王道を書く中で、そのような意見が嬉しいです。頑張って王道を書き続けよう。なん、だと……天野さんが元は感覚派だと……それで書き始めて展開組み立ててあの出来、だと……? これはつまりあれか。「地盤」と「知識」の差か。なんてこった。天野さんは根っからの「頭脳派」なんだ、自分とは違うんだ、うひひひ、と逃げ口にしていた自分の退路が絶たれた。なんてこった。ショックが大きいが仕方あるまい。天野さんからお隅貰ったんだ、次回作は本気でノープランで感覚だけに任せて書こう。というか、書き続けよう。
読んで頂き、ありがとうございました。

甘木さん>
流石や……流石甘木さんや……。今回の作品に限っては、「狙って王道」を書いたために出た、自分らしくない感だと思われる。諸々計算して書いているせいで、全体が流れていないのだと思われます。「眼が紅くなる」という設定だって、いつもなら適当に書いていく中で決めるのに、今回は最初から思考した。
少年漫画の読みきりだと、主人公にはきっと「普通」ではない何かが必要。では普通ではない何かとは何か?超能力のようなものだと絶対に読みきりで終わらない。かと言ってもっと他に違う「普通」ではないものを入れると、地盤から崩壊する。そのようなことを細々と考えた結果、「精神が高揚すると瞳が紅くなる」という、大きなものに発展はしない、発展はしないけれども「普通」じゃないものに到達した。更には、もしこれが少年漫画の読み切りであり、人気が出た場合、やがて連載になった時はこの「紅い瞳」に超能力とかが関係してきて――とかいらんことも考えていた。そのための、「神夜らしくない」作品だったのではないか、と思います。
次回作は何も考えずに書くよ!神夜らしい作品であることを願っているよ!
読んで頂き、ありがとうございました。

ピンク色伯爵さん>
自分が小説を書いている理由は2つ。1つは、自分の妄想を形にした時の人の反応を見たいから。もう1つは、自分が送れなかった学生時代の青春や、頭の中で描いた妄想を体験しているかのような錯覚を受けることができるから。リア充ならニーソ穿いた女の子に踏まれる小説なんて書いてねえよ畜生。
王道だからこその安定。それは先人のおかげなのでしょうね。それに肉付けして、「王道だけど、楽しかったよ」と言われることが嬉しい。
読んで頂き、ありがとうございました。
2010/11/09(Tue)21:10:020点神夜
初めまして、作品を読ませていただきました。
私は眼鏡の男子が(しかも変人キャラで)出てきた時点で素直に嬉しいと思ってしまったのですが、その後の会話のテンポも文章もすんなりと入ってきて楽しく拝読させていただきました。というか吹きましたw
志木城くんの独特の笑い方が好きです。
王道物は個人的にあまり好んで読まないはずなのに、読んでみたらとても面白かったです。
単純な感想ですみません……。失礼しました;
2010/11/12(Fri)12:07:332檀薫里
合計7
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