- 『コンクリートの上で【完結】』 作者:闇風 雫 / リアル・現代 ミステリ
-
全角6750.5文字
容量13501 bytes
原稿用紙約25.85枚
佐々夜 界 【この小説の主人公。好きなものはパズル】早瀬 タカシ【界の親友。同窓会の夜、事件に巻き込まれる】S【正体不明。界に暗号を送りつける】それは、暗い闇の夜に起こった事件。コンクリートの上で笑い、泣いた一人の男が主人公の物語。親友、早瀬は同窓会には現れなかった……。Sという、正体不明のなぞの人物と界【かい】の戦いが始まる。
-
第一章【早瀬】
華やかな店内とは裏腹に、外の暗い闇は別世界を生み出していた。
降り続くその雪が、一段とその世界を引き立てていた。
一枚、ドアで仕切られただけでこんなにも違うのかと。
カラカラ……とドアが開き、冷風が体を突き抜ける。
隣では忘年会が行われ、またその隣では若い社員が上司に対しての愚痴をこぼしていた。
そして、こちらでは同窓会の真っ最中だ。
机の上にはビールやら、枝豆やら。まだ二十歳を過ぎたばかりというのに意外と大人の注文をしていた。
自分の隣に座っている同級生が焼き鳥のオーダーを追加する。
まだ一時間しかたっていないというのに、ビールではなくコーラを飲んでいた自分以外の顔は赤くなっていた。
暑いから、というので障子を空けているのだが入り口に近い自分はかなり寒い。
焼き鳥が運ばれてきたとき、また身を縮ませる。
みをちぢ込ませながらケータイの着信履歴やメールボックスを見る。
変化はない。
一番の親友だった「早瀬」がこないのだ。
『遅れる』
と一本メールが送られてきてからその後の着信はなかった。
運ばれてきた焼き鳥の中から一本、皮を取ってまたケータイに向かう。
そろそろニュースの時間かな。
そう思いテレビのを映し出す。ニュースに出てくる「荒道 加奈」さんに一目ぼれしてからは毎日ニュースを見るようになった。
「8時のニュースをお伝えします。
7時56分ごろ、一人の男性の遺体が発見されました」
なんだ、おっさんか。
ケータイの画面を切り替えようとする。
ん? まてよ………。
早瀬じゃあ……ないよな?
またケータイに釘付けになる
「殺されたのは西山 青寺さん(43)です。
警察は殺人事件として………」
なんだ、またおっさんか。
コーラを一口、口に入れる。炭酸が抜けてしまっていた。
「なに見てるんだよ」
隣の同級生が声をかけてくる。さっき障子を空けた奴だ。憎い。
「殺人事件だって。
この近くで」
「早瀬か?あいつきてないもんな」
「ちげーよ。おっさんだよ」
「あ、じゃあ早瀬がその事件に巻きこまれているとか………」
おまえ、どうしても早瀬を事件に巻き込みたいんだな
やっぱり憎い。
「そういうこと言うなよ」
「ワリーな」
憎いを通り越す。このコーラかけてやろうか。
「じゃあ、なんで来ないんだろうな」
「しらねぇよ」
二人がくだらない言い合いをしているさなか、携帯の画面には早瀬らしき人物が映っていた
「あ、これ早瀬君じゃない」
ハ?
あけられた障子の向こう側。
店のテレビには堂々と、早瀬が映っていた
「な、俺の予想が当たっただろ」
手にビールを持ちながら笑う
「電話してみるか」
俺は携帯電話から早瀬を呼び出す。テレビの人物が早瀬自身なら反応するはずだ。
プルルル……プルルル……プツッ ……つながった
「早瀬??」
「そうだよ。
やっぱり遅れるわ」
早瀬はテレビから、画面に向かって手を振っていた。
プツッ
「おい、早瀬?」
途切れた携帯電話は、もうなることがなかった。
今まで騒ぎ立てていた室内はシンッ……と静まり返り誰もが俺の事を見ているのだった。
携帯電話を閉じ、気の抜けたコーラを飲む。
今の俺にはちょうどいい。
それからしばらくするとまたにぎやかになる室内。
携帯電話が鳴ることはないまま、一時間が過ぎてゆく。
苛立ちを覚えながら、注文をする。
「ビールひとつ」
「おい、お前飲めるのかよ」
隣の奴はやけに絡んでくる。
さらにたつ苛立ちをビールでしずめる。
「もしかして、早瀬がこねぇからってやけになってるんじゃねぇの?
お前、あいつと仲良かったもんな」
「うるせぇよ」
空になるまで飲み干したとき、俺はどんな顔をしているのだろうか。
元から酒は弱い。
「顔、赤いぞ」
やっぱり。
だからさっきまではコーラを飲んでいた。
夜が過ぎるのは早い。
何時間たったのだろうか。
なることのない携帯電話を次に開いたのは二次会のカラオケ店にいるときだった。
お酒も入り、心地いい状態で歌を熱烈している奴も少なくない。
「お前は歌わないの?」
「パス」
歌は得意じゃない。
携帯電話に向かう。変化はなかった。
「早瀬こねぇな」
また、店で隣にいた奴が絡んでくる。
正確に言えば名前は【光一】である。
「遅れるって言ってたけどな」
初めてのまともな返答。
やっぱりお酒は飲むものじゃない。
「そのうち来るだろ」
しかし、二次会のカラオケも終わり解散するときまで早瀬は来なかった。
第二章【テロ 北高速道路】
地面に広がる雪の世界の上を足早にたくさんの人が行き交う。
キュッキュッと言う音が心地よい。
二日酔いの痛い頭によぎる思い。
『酒を飲んだ人物への罰だ。きっと』
おでんを買いにと近くのコンビニへ。
寒い人間に言わせれば極楽の地と呼べるかもしれない。
「こんにゃくとタマゴ。それから牛筋。全部ひとつづつ。
あっ、汁は入れないで」
一度、この汁でやけどをしたことがある。
「320円です」
お金を払った後もしばらくコンビニに滞在する。
まだ残っているアイスをみて
『買う人もいるんだな』
俺は……絶対買わないな。
そのコーナーを去る。
店内を一周したところで雪の世界へ。
極楽の地から店員の「ありがとうございました〜」と言う声が聞こえる。
ああ、もうちょっといたかった。
そこからダッシュして自宅へ戻る。
一戸建てではなく、アパートだ。
アパートの二階。そんなに悪い物件ではない。
机の上に携帯と新聞を置き、おでんはタマゴだけ抜いてレンジの中へ。
昔、【ゆで卵は電子レンジで出来るか!?】という自由研究をやったところ、
タマゴが爆発したのをよく覚えている。
新聞を広げると大見出しの文字に釘付けとなる。
【テロの予告宣言】
「テロ?」
記事を読もうとしたところでタイミングよくレンジの音が鳴る。
急いで取りに戻り、おでんの容器と箸をもって新聞の前へ座る
『一月十日』
今日は一月十一日。ちょうど昨日の話だ。
『テロの予告電話があった。
声からして男である。
予告した男は十一月十一日午後6時半にある場所を爆発する。
との電話をした。
その場所とは暗号になっていて、いまだ解っていない。
警察は頭を悩ませている』
その下に
『わかった方は警察まで』と書いてあり、数字が連なっていた
『20+21+26+【21】+34+32+19+【21】+33
ローマからの暗号。一塊の文字は二つの数字をたした数である。
英国とローマを合体せよ。【S】』
と記されていた
「ローマ?」
タマゴをほおばりながら考える。
午後になってもその暗号が解けることはなく、界も頭を悩ませていた
「文字……ねぇ」
息抜きに、と何気なくつけたテレビの表示は
【テロの暗号解読!!
といたのは中学三年生の男子生徒】
「へー。解けたんだ」
『天才三年生にインタビューしてみましょう。
解けたときはどのような気持ちでした??』
『正直、簡単だったんで。
なんともいえないですね』
『正解は何処でしょうか?』
『南博物館ですね』
「南博物館??」
思わず声が出る
『それは何故ですか??』
『この都市には博物館はひとつしかありません。
ローマのものがあるところとしたら博物館しかない。
つまり、南博物館。ということですよ』
『なるほど』
「そうだとは思わないな」
中学三年生の意見に少し疑問を持つ。
もし、ローマのもの……だとしたら図書館にもローマに関しての書物くらいあるはずだ。
博物館とは断言できない。
『もう少しで爆発予告時間です。
南博物館のローマのコーナーには、たくさんの警官が集まって爆弾とテロ予告犯を探しています!』
『あの……』
警官の一人が暗号解読を解読した天才三年生だということで得意になっている男子生徒に声をかける
『なんですか?』
『爆弾も、予告犯も見つからないんですけど………』
やっぱりな。
『そんなことはないはずです。
きちんと探してください!』
『しかし……時間が』
『残り十分を切りました!!』
ナレーションの声がいっそう現場の緊張感を引き立てる。
『撤収、撤収!!』
ローマのコーナーからたくさんの人数が波のように出てくる
よくこれだけ入れたな。
『この先は上空のヘリからお送りします』
パッと画面が切り替わり、南博物館が映し出される
『残り三分です!!』
いったい、全国のどれだけの人数がこの番組を見ているのだろう。
もしこれで博物館が爆発しなかったら、あの中学生は明日から冷たい眼で見られることになるのだろう。
『十、九、八、七……』
十秒前カウントが始まる
『三、二、一……』
ドンッ
大きな爆発音が、遠くのほうから聞こえる。
『え?』
ナレーションも思わず疑問の声。
天才中学生は青ざめる。
『あっちは……』
北高速道路の方向………
この画面からでも確認できる。
何台もの車が割れたコンクリートから落ちていく様子を…………。
『道路が……割れた』
ナレーションの腰が抜けてしまっている。
周りにいた警官はパトカーで現場へと急行する。
プツッ
小さい音を立ててテレビの画面は何も映さなくなった。
テレビのリモコンを無言で操作している自分がいた。
『なんで北高速道路なんだ……?』
さらに頭を悩ませた
第三章【物語は】
いまだに騒がれる、奇妙なテロ事件。
毎回送られてくる予告上には同じ暗号が書かれていた。
ローマからの問題……。
「ほかに、ローマって何があったけ」
たくさんの資料に囲まれながら悩んでいた。
昨日から一日かけて考えたが何も思いつかない。
ローマ関係の書類を見渡して、ひとつため息をつく。
「嫌になるな……」
別に自分が暗号を解いて英雄になりたいとか、この暗号を解いて名を上げたい。なんてことは考えていない。
ただ、早瀬がかかわっている気がしただけだ。
同窓会のときから連絡は取れていない。
もし、この騒ぎを起こしたのが早瀬だとしたら………。
寝ている暇もなかった。
「ローマ……」
昨日から何回言葉にしただろうか
いい加減、自分でも聞き飽きた。
「あ」
思い出したように声を漏らす。
まだ、確かめていないものがあった。
ローマに直接関係するわけではない。ただ、名前がそうなだけのもの。
何処にしまったっけ?
ここにもない…ここにも…
どんどん部屋は散らかっていく。
「あ、あった……」
捜索開始から二十分の時間がたっていた
取り出したのはローマ字表と英語のノートだった。
すぐさま前の新聞の切り取りを持ってくる。
20+21+26+【21】+34+32+19+【21】+33
この数字と、自分の推理あっているかどうか……。
ローマとはローマ字のこと。英国とはアルファベットのことだ。
『北』の『き』の字はローマ字でいうとkとiだ。
kはアルファベットでは最初から11番目
iは9番目だ。
たして20。『き』という文字が出来上がる。
この【21】というのは特別な数字だ。
しかも二つ【21】がある。
きたこうそくどうろ
で二つあるひらがなといえば『う』つまり、【21】はローマ字ではたしてはあらわせない特別な数字というわけだ。
それらを組み合わせていけば北高速道路。という文字が出来上がる。
ずいぶん面倒くさい暗号を出すものだ。
しかし……暗号は解けた。
物語は急速に時を刻みつけた。
第三章【コンクリートの上で】
時計が真夜中二時の鐘を打ち鳴らす。
静かな月明かりが差し込む部屋で、一人ぽつんとそこにいた。
……俺はいまだに暗号が解けたことを警察には伝えていなかった。
怖かった。
早瀬ではないか。と心配で。
もしそうだとしたら………。
俺は何時間笑うことが出来るだろう。
怒りを通り越しておかしくて……おかしくて。
きっと夜が明けるまで笑っていられるだろう。
そして、笑い終わった後には何をしよう。
早瀬との思い出をすべて燃やしてしまおうか。
嫌な思考は回り続ける。
使いすぎた頭には、何も残っていなかった。
真っ白になった頭を抱え込み、ベッドに横たわる。
枕もとの携帯を取り出すと【メール受信一件】の文字が表示されていた。
『早瀬』:『題名:テロ』
…………
メールを開くのに、ずいぶんと長い時間がたったように思えた。
ボタンひとつですぐに開くはずなのにその時間が何年にも、何十年にも思われる。
『すごかっただろ?
最近続いたテロ事件
あんなに派手なことしたらきっと驚くだろうな。
……覚えてるか??
俺が昔お前に言ったこと。
『人なんて生まれてから死と隣り合わせ』って言ったこと。
お前、めっちゃ怒ったよな。
でも、今がそのときなのさ。
この『テロ』がそのいい例だ。
暗号の答えがわからない、その人間は生きるか死ぬかなんだよ』
………白からひっくり返って黒になるように。
それは余りにも突然すぎた。
そのメールは『俺がテロ連続犯罪者だ』ということを語っていた。
真っ白になった頭の中に思い浮かぶ言葉
今なら笑える
怒りを通り越して。
階段を下りて、冷たいコンクリートの上に立つ。
いつもは感じないその冷たさが、足の裏を通して伝わる。
そして……。
笑った。
思いっきり。
目から涙をこぼしながら。
コンクリートにしみこむその涙は後となって残る。
朝があけるまで、笑っていられるような気さえした。
しかし、涙はかれたように……目から出なくなってしまった。
笑い声もそれにつれて小さくなる。
笑った後に残ったものは……なんだったのだろう。
第四章【完結に進む】
テロ事件の物語は急速に時を刻みつける。
メールが俺の元に届いてからそのテロ事件はぱたりとなくなり、早瀬が現れることもなかった。
そして……その事件も時とともに忘れ去られるものとなった。
5年の月日がたった。
同じ場所、同じ時期に同窓会が行われた。
「5年前さぁ。テロ連続事件ってあったよね」
「あ〜あったあった」
「でも、結局犯人捕まってないんでしょ??
そろそろ時効よね」
早瀬は……何処に消えてしまったのだろうか?
自分にだけその秘密を打ち明け、消えてしまった。
もちろん、警察に伝えないと俺も犯人扱いされてしまう。
……しかし、その証拠がないのだ。
早瀬から受け取ったメールは、次の日になると消えてしまっていた。
なので証拠もないし、警察に出向くことも出来ない。
「あ、ビールなくなっちゃった。
店員さーん」
はーい。という元気な声とともに現れる……はずだった
『七時のニュースをお伝えします。
あ、いま速報が入りました
一軒家が爆発しました。これが、現場の映像です』
映し出されたのは……
「あれ、これ界君の家にそっくり」
「そっくりなんてものじゃない。
あの家は……俺の家だ」
『そういえば、五年前にもテロ事件なんてのがありましたね』
『そういえば……』
「あ、界君!?」
飛び出していた。
店を。
「お金は後で払うから!!」
降る雪の中を、駆ける。
家の前に着いたとき、すごい野次馬と燃える家。それから何台ものパトカーと消防車が目にうつる。
違う。
俺が確認したいのはそんなものじゃない。
早瀬がいる気がするんだ。
また駆ける。
そして……見つけた
「やあ、久しぶり。界」
「てめぇ……」
ぎり、っと奥歯をかんだ
「なに?」
のほほんとした顔で、相手はにこやかに見つめる
「早瀬……」
コンクリートの上で。
白と黒の二人の人間が、対立する
第五章【完結】
冷たい、冷たい世界の中。
最も冷たい人間たちが
夜を切り裂くようににらみ合っていた。
「派手すぎたかなぁ。
テロだなんて」
「……ばかじゃねぇの?」
クスッと早瀬が笑う
「……。
そうかもな」
ダンッ
………。
しばらくの沈黙が流れる。
大きな爆発音。
周りの野次馬は一斉に視線をこちらに向ける。
目の前は、一軒家からガラクタへと化したコンクリートの破片たちが大きな音を立てて崩れ落ちる。
その様子を……じっと見つめるしかなかった。
さらに時は過ぎて……5年後。
その後、Sは早瀬だということが判明した。
そういえば自分の書いた落書きとも言える絵画に【S】という文字を入れていた。
なぜかはよく知らない。
ついでに言えば、早瀬と思われる人物がつかまったという。
そのときに、笑って自分が【S】と言うことを話していた。
………コンクリートだらけだったこの場所。
元は緑の綺麗な場所だったという。
今、早瀬が最後に爆破した一軒家の場所には
コンクリートの破片すら残っていない。
その場所は土が敷きなおされ、桜の木が植えられている。
早瀬のしたことが、よかったとは思えない。
しかし最後に爆破したこの場所に、緑が生えるというのは賛成だ。
【完結】
-
2010/10/07(Thu)17:39:38 公開 / 闇風 雫
■この作品の著作権は闇風 雫さんにあります。無断転載は禁止です。
-
■作者からのメッセージ
はじめまして!
闇風 雫と申します。
ミステリー方向に走ってみました。
自分では、こちらのほうも気に入っております。
しかし……暗号を考えるというのは、難しいですね!
これを考えるのに何日もかかりました(本当)
暗号の意味…理解していただけたでしょうか??
ちょっと面倒くさいかもしれません。
物語は完結に進みます。
個々までお付き合いいただき、ありがとうございました!!