- 『イーグル・アイ』 作者:たく / アクション 未分類
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原稿用紙約8.6枚
小宮弘樹は二つの生活を持つ高校生。普通に高校に通うし、友達だっている。一つは普通の高校生、もう一つは……政府公認潜水艦『銀楼』の伍長。イーグルのシークレットコードを持つ人を絶対に殺さない凄腕のスナイパーだった。ところが、とある『転校生』の登場でその生活は狂い始める。学校に現れるテロリストたち、艦内にいた裏切り者……イーグルは、決断を迫られる。「殺すしか……ないのか?」引き金にかかった指に力が入る。「殺したら……俺はどうなる?」少しずつ、引き絞られる。「俺は……どうすればいい……?」
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東シナ海、日本から約四十キロの海域で、一隻の潜水艦が航行していた。
『銀楼』と呼ばれるその潜水艦は、総排水量五五〇〇トン、全長一二〇メートル幅一二メートルという比較的大きな体を持ちながら、原子炉をエネルギーとする七千馬力の主エンジンとディーゼルの副エンジン三千馬力2基によって水中での最大速力は三〇ノット、水上でも一九ノットという機動性を持つ。六一センチ魚雷発射管八門、十二、七ミリ単装砲二門、四十ミリ三連装機銃3門、そして水上機(小型ボート)四基という強力な兵装も装備している。
名前のごとく銀色に輝く装甲で水を裂き、これまでにもあらゆる極秘作戦に参加してきた。その機動性、持続航行性能、火力、そして百二十人弱の乗組員の優秀さは世界各国の軍事組織にも認められるほどの性能を持っている。
所属国は日本、公には非公認でありながらも日本という国でこれほどの火力を持つ潜水艦が存在するにはある理由があった。
『あらゆる危険、あるいは極秘性の高い作戦・任務において依頼によりその力を発揮することを許可する』
要するに、この潜水艦は政府も認めた『備兵』なのだ。アメリカを筆頭とする欧米諸国、成長著しい中国を始めとするアジア圏、アフリカ……費用すら払えばどんな危険な任務でもこなす、それが『銀楼』という戦力であり、日本にとっては『ビジネス』だった。
深度百二十メートル、水温二度、海上の天気は晴れのち曇り、銀楼は順調な航海を続けている。
司令塔にある中央指令室。そこいは各種のモニター機器やソナー、魚雷室の管制システムなど潜水艦の心臓ともいえる重要な機械が詰まっている。部屋の後ろ側、艦長席の男が声を上げる。
「進行状況の報告を」
前方にある多数のモニターをくまなくチェックしながらそばにいる士官に報告を求める。
「現在イーグルは目標地点に到達、ゴーサインを待って状況を開始できる状態です」
実に無駄のない簡潔な報告、艦長は満足げに頷くと部屋全体に響く声でこう告げた。
「現時刻より状況を開始する。我々銀楼は進路を東に取り太平洋のアメリカ軍艦隊と合流、後にイーグルと合流し作戦終了とする。なお、今回の仕事はほとんどイーグルの一人仕事といってもいい、だが我々にもやることは山のようにあるのだ。気を抜くな!」
「「ハッ!!」」
司令室にいた二十人ほどの声が一斉に重なる。
「イーグルにゴーサイン、進路三‐六‐一、深度百二十を維持」
「イーグルにゴーサイン、進路三‐六‐一、深度百二十、了解!」
男の指示は実に的確だった。潜水艦銀楼艦長、東宗一(あずまそういち)中佐。その姿には今までの激戦を戦い抜いてきた貫禄が感じられる。
通信士が無線で遠くにいるシークレットコード『イーグル』に向かって指示を出す。
「イーグル、〇二三〇状況開始。ゴー!!」
そして、銀楼は東シナ海から太平洋へと向かって海中に姿を消した。
──同時刻、亜熱帯地域山岳部。
コードネーム『イーグル』は山の中腹、標高四百メートルほどの少し開けた場所にいた。任務は『闇ルートで取引されている廃核燃料の取引阻止、及び対象の破壊』
イーグル、小宮弘樹(こみやひろき)は自分の武器の最終チェックを行っていた。任務中に壊れてしまっては元も子もない。銃のバレル部分を念入りにチェックし、スコープの調整も忘れない。弾もサビや汚れがないかを目を皿のようにして確かめる。その少しのサビが命中精度に大きな誤差を与えるからだ。
そのとき、耳に着けていたインカムから無線の音が聞こえた。
「イーグル、二〇三〇状況開始、ゴー!!」
現時刻は日本標準時二時二四分、開始時刻まであと六分ほどある。彼は山のふもとにある小さな村に目を向けた。すでにぼろぼろのジープと高級車が止まっていた。恐らくクライアントと取引相手だろう。片目でスコープを覗きながら写真で相手を確かめる。
スキンヘッドとサングラス、額に大きな傷跡。
「間違いないな、こいつだ」
中東を中心に闇取引をしている裏社会の大物、その本人がいた。車の外で優雅に葉巻を吹かしている。着ている物も実に高そうなスーツと輝く革靴、純金のネックレスと実にセレブな感じだ。その少し離れた場所では取引相手がトランクケースを車から運び出すところだった。恐らく中身は現金だろう、中身はドルだとして軽く数億円はありそうだ。
「うらやましいねぇ、全く……」
誰がいるわけでもないのに一人でつぶやく。そしてスコープから目を離すと弾をマガジンにこめて銃にセットした。ボルトを引き発射準備を整える。
──時刻は二時三〇分、状況開始。
本来、スナイパーとは二人一組で行動するものである。『狙撃者』と『観測者』と言われるが、基本的には観測者が地形や風向き、距離などを専用の双眼鏡を使って読み取り、そのデータを元に狙撃者が射撃を行う。だが、彼は一人だった。ただ無造作に地面に腹ばいになってスコープで狙いを定めている。
彼にはまさに天からのギフトといえる才能があった。勘で少し照準をずらすだけで弾は思い通りの軌道を描き、見事に着弾する。風さえも彼の味方をしてしまうのだ。これこそ、彼がイーグル……鷹の目を持つと言われている由縁である。
「えーと、距離八百で、着弾時間まで一、〇二秒くらいか……山の吹き降ろしの風もあるから……こんなもんかね」
スコープの十字がスキンヘッドのこめかみを捉える。スキンヘッドは自分がロックオンされてるとは露知らず、豪快に笑っていた。
「Let's Rock!!」
その指がトリガーを引いた。けたたましい爆音と共に十二、七×九九ミリ弾が発射される。直径一三ミリという大きさを持つこの弾は本来戦車の装甲板を撃ち抜くなどに使用される弾で、こんなもので人間を売ったら粉になって消えてしまう。
弾は、山からの吹き降ろしに乗って綺麗な流線型を描き、スキンヘッドの隣にいた男のトランクケースに命中した。トランクケースは粉々に弾け飛び、それを持っていた黒服の男はしりもちをついた。
「よし、命中! 俺ってすげぇ!」
衝撃でジンジンする肩を抑えながら彼は満足げだった。そのままライフルを放置して森に向かって走り出す。破壊した廃核燃料は後から来る処理班が片付けてくれる手はずなので、これは心配する必要はない。
「こちらイーグル、目標は完全に沈黙。只今より目標地点Bに向かいますのでピックアップお願いします」
インカムに手を当てて銀楼へ連絡を取る。
『了解、目標地点Bにヘリを用意した。それに乗ってニューヨークに合流せよ、オーバー』
ニューヨーク、アメリカ海軍の空母のシークレッドコードだ。
しばらく走っていると、ヘリ一基がようやく着陸できるほどの平地に出た。森からいきなり出てきた男に驚いて兵士が銃を向けてくる。彼は綺麗な軍隊式の敬礼を取り、自分の識別コードを流暢な英語で告げる。
「コード一八五六九四、小宮弘樹伍長であります!」
兵士は銃を下ろし、ヘリの中へと彼を招き入れた。そのまま、軍用ヘリはタービンエンジンの音を山中に轟かせながら東の空へと去っていく。
若干一七歳、銀楼乗組員唯一の高校生スナイパーは今回の仕事を一発の射撃で終え、合流地点の太平洋海上空母ニューヨークへと向かった。
八月三一日、明日は新学期。二つの『日常』を持つ男の、新しい一日が始まる。
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2010/09/01(Wed)08:32:34 公開 / たく
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■作者からのメッセージ
久しぶりに書いて見ました。なんか趣味モロ出しって感じですけどww
厳しい評価とかとても参考になるので、遠慮なくDISってくださってかまいませんので、よろしくお願いいたします。(笑