- 『ハッピーエンドの導き方(読み切り)』 作者:浅田明守 / 恋愛小説 未分類
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全角15541.5文字
容量31083 bytes
原稿用紙約47.25枚
幸せとは何か、それは叶えてもらうものなのか、あるいは叶えるものなのか。本当に幸せな人生、ハッピーエンドを求めて、物語は緩やかに動き出す……
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浜中明菜様
突然こんな手紙を出してしまってすみません。
あなたはいつも明るくて、勉強も出来て、力だって男の僕よりずっと強くて。
ぼくはそんなあなたにずっと憧れていました。
あなたのような人に僕がとても釣り合うとは思えませんが、どうしても言わずにはいられません。
本当は直接会って言いたいのですが、臆病な僕にはそれすら出来そうにないので手紙で失礼します。
僕はあなたのことが好きです。
もし迷惑でないのならどうか返事をください。
飯島猛
プロローグ「それは本当に突然で」
昔から星が好きだった。星はいつでもそこにある。たとえ一時、雲の中に隠れてたとしても絶対にいつかまた暗い夜空を明るく照らし出してくれる。
夜中の二時。僕は重い瞼をこすりながら流星群が落ちてくるのを今か今かと待ち構えていた。
僕の家はちょうど小高い丘の頂上みたいなところにあって、今日みたいによく晴れた日は星が良く見える。
『草木も眠る』とはよく言ったもので、普段はこれくらいの時間になるとあたりは真っ暗になって、夜空を観測するには絶好の時間帯となる。しかし今日ばかりはそれは当てはまらないようだ。なぜなら今日は三十五年ぶりにしし座流星群がやって来る。それを目当てにこの時間まで頑張っている人が結構いるみたいで、街のそこここに明かりが見える。もちろん僕もその中の一人だ。
僕が眠たい目を擦りながらも徹夜覚悟でこうして望遠鏡にかじりついているのは、僕が天体をこよなく愛しているから……ではない。実のことを言えばもっと……その、不純な動機によるものだ。
僕には好きな人がいた。もう想いを寄せて十年になる。
自慢にはならないが、僕は今まで一度たりとも一般的に『恋人』と呼ばれるような特定の異性がいた試しがない。別にルックスが悪いと言う訳じゃない。それどころか自分で言うのもなんだけど人並み以上にあると思っている。運動は少し苦手だけど勉強はそこそこできる方だ。
それなのに彼女が出来ない。その最もたる原因は僕の性格にある。
一言で言えば僕は意気地も根性もないヘタレだった。言っていて悲しいものがあるけれども自分でもそう呼ばれて仕方がないんじゃないかと思う節がいくつもある。
例えば僕は今まで一度も人と争ったことがなかった。物腰が穏やかとか優しいとかそういうのじゃない。単純に自分を出さず、人の意見に逆らわなかった結果だ。以前、一度だけクラスメートに掴みかかられたことがあったけれども、そんな時ですらへらへらと笑って済ませていた。不良にからまれれば何も言わずに財布を差し出し、犬と出会えば来た道を逆行する。
何よりも、僕は十年以上一人の異性を想い続けながらも一度も告白はおろかそれらしいアプローチをかけることするしなかった。つまり、遠くから見ているだけ。
「……はぁ」
星が流れだすのを心待ちにしながら手に持った一通の手紙を見てため息を吐く。
それは『ラブレター』と呼ばれるもので、昨日の夜(日付変更線を越えたから一昨日か)に一時間以上かけて書きあげ、結局渡せなかったものだ。
ちなみにこれと同じ境遇にある手紙が机の中に百通ほどある。クローゼットの中にある封印していなブラックボックスの中にはさらにその倍。
「こういうのを終わりにしたいから……」
伝えたいのに伝えられない。書けども渡す勇気がどうしても持てない。そんな自分を変えたくて、だから僕はこうして星が流れるのを待っていた。
流れ星が流れている間に三回願い事を言うと願いがかなう。そんなものは迷信だ。そんなことは言われなくたってわかっている。でも、それでもそんなものにでも頼らないとどうしても僕は変われない。
変われないんだ。
今までだって努力してきた。そうでなければこんなものを書いたりはしない。
でも……どうしても渡せない。本人を目の前にすると声が出なくなって、身体が動かなくなって……。
「それでも……僕は明菜のことが好きなんだ……」
手に握った手紙を強く握りしめる。くしゃ、という小さな音が耳に聞こえ、手の中で紙が潰れる感触がする。
その時、
「なっ……!?」
突然強い光が夜空を照らした。街灯や部屋の明かりや月なんかとは比べ物にならない光。その光は酷くゆっくりと夜空を動いていて、
「僕に勇気を僕に勇気を僕に勇気を!!」
とっさに僕は願い事を三回唱えていた。ひたすら一心に、どこまでも真っ直ぐに。思いはただ一つ。『好きだ』の一言を口にする勇気だ。
手を胸の前で組み、目をきつく閉じ、たった一つの願いを何度も何度も口にする。周りの騒ぎ声もゴゴゴゴゴとかいう不吉な音も目を閉じているにもかかわらず目玉よ焼けろとばかりに強くなっていく光にも気を取られることなくただ祈る。そして、
「……そこ、邪魔」
気づいたら目の前に見知らぬ少女がいた。
いや、落ち着け僕。ここは二階だぞ? そんでもって僕はその二階の窓から強い光を放つ流れ星を見ていたはずだ。
「……邪魔」
絹のように滑らかで月の光を受けて淡く光っている深い蒼の長い髪。髪と同じ色の瞳は覗きこめば吸い込まれそうで、顔立ちは成功に作られたフランス人形のように無機質な美しさを持っていた。全体的に小柄でそんなに身長が高くない僕と並んでも拳一つ分くらいの身長差がありそうで、それでいて純白のローブのような緩やかな服に包まれたその身体は十分に女性らしい丸みを帯びていた。
「…………」
そして何より目を引いたのは、
「さっきから……邪魔だと言っている」
ぼそりと呟き目の前の少女が僕を蹴り倒して窓から強引に部屋の中に入ってくる。
「き、君はいったい……」
「天界庁地上対策第二課願望調査解決型準天使士官、ユーリ」
淡々とした口調でその背に白い羽を生やした少女は僕に表情のない顔を向け、
「願いを……叶えに来た」
とんでもないことを言いだした。
三十五年ぶりにしし座流星群が観測されたとある冬の日の早朝。僕は空から一人の天使を招き入れた。
一章「これだからうちの天使は」
あれから一夜が明けた。正確に言えばあれは早朝だったから一夜が明けたって言うのはどうかとは思うけど、まあともかくあれからだいたい四時間が経過したところ。
あの後僕は現実から目をそらすようにベッドに入った。寝て覚めたら全部が夢だった、なんてことになればいいな、みたいなことを考えていた。
「そんな……都合のいいこと、あるはずがないよな」
いや、普通に考えれば流れ星と一緒に突然女の子が現れた、なんてことの方がよっぽど非現実的だし、あんなことは全部夢だったと考えた方がよっぽど現実的だ。ただ、不思議とあれは現実に起きたことだと信じて疑わない自分がいた。
身体を起こして部屋を注意深く見渡す。願いは一つ。天使の羽をもつ彼女が部屋の中にいないことだ。
右……いない。左……こっちにもいない。上……にいるはずがないか。というかいたらいたで嫌だし。天井に張り付く天使。見たらこの先一生トラウマになりかねない。そして最後にベッドの下。そこにもユーリと名乗った彼女はいなかった。
もしかしてあれは本当に夢だった……?
「……おはよう」
あぁ、夢じゃなかったのね。というか、
「な、なんでそんなとこにいるの」
「問題ない」
「いや、大ありだから……」
どこにもいないと思ったら布団の中にいたとか……どんなギャルゲだよ。というか普通こんなときは女の子の方が「きゃー!」とか声をあげて取り乱して僕がそれにおたおたするとか、そう言うパターンじゃないの? なんで彼女はあんなに落ち着いているのさ。これじゃあどうしていいかわからないじゃないか。いや、大きな声で悲鳴を上げられても困るけどさ……
「とりあえず……えっと……」
出来るだけ落ち着いた動作でベッドから降りて極力彼女のいる方を見ないようにして一息ついて、
「ご飯を食べて学校へ行こう」
全力で現実逃避していた。いやもう、ホント、勘弁して下さいって感じだった。これはもう僕の手には負えない出来事だ。だって、“天使”だよ? あの神様に仕えて人を天国に導いたり逆に天罰を下したりする天使が僕の願いを叶えに来たって? 普通はこんなこと信じれないだろ?
頭の中で必死に現実逃避の正当性を説いていた僕を現実に引き戻したのは無常なる母親の声だった。
「たけし〜、そろそろ起きないと学校に……」
混乱していたせいか母さんが部屋の前に来るまでその気配に気づかなかった。どこの家庭でも似たようなものだろうけど、母親というものは息子の部屋に入る際にノックをしない。僕の母さんも例にもれず、部屋の扉は今にも開こうとしていた。
とっさの判断。このまま彼女を母さんに会わせては非常に面倒なことになる。女の子を部屋に連れ込んだと言うだけでも厄介この上ないのに目の前にいるのは羽を背中から生やした自称“天使”だ。
僕は即座に行動に移した。なんとしても彼女と母さんが鉢合わせになることを阻止しなくてはならない。
しかし母さんはすでに部屋の前にいてドアノブに手をかけている状態だ。ここまで来ると母さんの部屋への進行を阻止することはまず不可能だ。ともなれば採れる手段はたった一つ。目の前にいる天使をどうにかして隠す。
しかし人一人を隠すのは容易いことではない。もう少し時間に余裕があればクローゼットに隠すなり机の下に隠すなり、最悪窓から叩きだすと言う鬼畜手段もあるが、そのどれを採ろうとも母さんが今にもドアを開けようとしているこの状態ではそこまでの時間的猶予は皆無だ。
となれば最終的に採れる手立てはたった一つ。多少の不自然を覚悟の上で布団を頭から被せて上手いこと誤魔化す。エロ本やらもっと痛いものやらに勘違いされかねない危険極まりない手段ではあるけど……女の子を部屋に連れ込んだと思われるよりはよっぽどマシだ。
この間およそコンマ三秒。まさに刹那の判断で布団を掴むといつの間にか身体を起こしてベッドの上で羽を手で梳くようにして手入れをしている自称天使に布団を被せようとする。
しかし、普通に考えればわかることだ。どれほど早く対応策を考え、どれほど早くそれを行動に移したとしても、そもそもあの状態から人一人を隠すなんて不可能な話だった。
母さんがドアを開けたとき、奇しくも僕はちょうど呑気に羽の手入れをしている少女に布団を被せるために布団を背負って彼女に対面している最中で、それは傍から見ればまさに僕が彼女に襲いかかろうとしている様子に見えないわけでもないわけで、
「……ほどほどにしなさいね。それとユーリちゃんを傷つけるようなことをしちゃダメよ」
「ま、待って! お願いだから冷静にドアを閉めようとしないで!!」
こういうときつくづく親の信用のなさを感じる。というかむしろ何でこの親、この自称天使のこと知ってんだよ。
「そりゃあ昨日の夜ユーリちゃんがわざわざご丁寧に私たちの寝室までご挨拶に来てくれたからよ。ね〜」
「……ね〜」
頼むから人の心を勝手に覗くのはやめてもらいたい。それともう少し年を考えた発言を――
「ん〜? なにかな〜たけちゃん。言いたいことがあるならはっきり言いましょうか」
「ごめんなさい。若くて美しいお母様」
ツッコミは無用らしい。というかこの家では僕にプライバシーは存在しないらしい。とまあ現実逃避はこのくらいにしておいて、
「じゃなくて! なに当たり前のように馴染んでるのさ母さん。天使だよ天使! なんでそんなにあっさり信じてるんだよ」
「あらいやだ。こんな素敵ないい子の言うことを信じてあげられないような子に育てた覚えはないわよ」
どうやらこの家にないのはプライバシーではなく常識のようだ。というか、もう嫌だこの親。いくらなんでも理解がありすぎだろ……
「ほら、細かいことばっかり気にしてるといい男になれないわよ」
「母さんが気にしなさすぎなんだよ……」
相変わらず淡々と翼の手入れをしている自称天使、ユーリとのほほん笑顔な母さんを交互に見て僕は深くため息をついた。
まあそもそも、この家において最終決定権を持つのは母さんな訳で、その母さんが彼女のことを受け入れてしまった以上、これ以上僕が何を言ったとしても無駄だろう。どうせこの親は人の話なんて聞きやしないだろうし、聞いてたとしても基本的に僕の言い分が通ることはこの家ではまずないからな……。
「じゃあ〜……母さんは学校に『今日は女の子と懇ろになっているからたけちゃんはお休みします』って連絡入れとくわね〜」
「いや、待って。お願いだから待って母さん!」
前言撤回。なんとしてもこちらの言い分を通さないと僕の学校生活がご臨終することになる。
「やぁねぇ、冗談よ、じょ・う・だ・ん。いいからさっさと学校に行ってきなさい。母さんはこれからユーリちゃんの服を見繕ったり、ユーリちゃんのご飯作ったり、ユーリちゃんとお喋りしたりしなきゃいけないんだから」
そう言いながら母さんはぐいぐいと手を引っ張って制服と鞄と一緒に僕を部屋から追い出した上で部屋に鍵をして籠城体制に。鞄の中にはご丁寧にラップで包んだ焼きそばパンとパックの牛乳、たぶん僕の朝ごはん。
ご飯付きで部屋を追い出された僕は昨日現れた天使を気にしながらも学校へ行くしかなかったのだった。
「――であるからして、この数式は……」
な、長い。かつてこれほど授業が長く感じられたことがあっただろうか?
今は午後三時十分。あと十分で本日最後の授業が終わるというところ。
今日ほど一つ一つの授業を長く感じた日はなかった。頭にあるのはあの天使のことだけ。板書に集中できずにノートは全くの白紙状態。授業内容どころか今日の昼食に何を食べたのかすら思い出せない。
あと七分……。
その数分が果てしなく長い。一秒でも早く家に帰ってあの天使の真意を問い質したい。
あと三分……。
「っと……もうこんな時間か。それじゃあ授業を少し早めに切り上げてこのままHRにするぞ」
担任の言葉にクラスのそこここから歓声が上がる。
「お〜い、お前ら少し静かにしろ。まだ他のクラスは授業中なんだぞ」
担任の呆れ声を聞きながら大急ぎで帰りの準備を始める。
「連絡事項は〜……特にないな。それじゃあちょうどチャイムも鳴るころだし日直、号令を頼む」
あと少し。この号令が終わると同時に教室を出てそのまま全力で家に帰る。鞄を手に持ち、日直の号令を今か今かと待つ。
「起立。気をつけ……」
あと少し……あと少しだ……
「ありがとうございました」
今だ!
礼が終わった瞬間に僕は教室のドア目掛けて全力で走り始めた。その途中何度か椅子やら机やらに足を引っかけた気がしないでもないが、そんなことに気をかけてはいられない。とにかく今は少しでも早く家に……
「た〜け〜しぃ〜く〜ん?」
しかし、教室を出るまでにあと数歩というところで主に頭頂部および後頭部にかけて激しい痛みを感じ、僕は否応なしに足を止めることになった。
僕の帰宅を妨げたのは、今日こういう日にもっとも捕まりたくない人物。
「この大宮礼二の目のが届く場所で掃除当番をサボろうとは、ダメタケの癖にいい度胸じゃないか」
若干太り気味の身体を覆うパツパツの制服。丸刈りの頭に黒ぶちの伊達眼鏡。何よりも特徴的な大きな鼻。
僕を捕まえたのは唯一僕のことをダメダメの猛、略して“ダメタケ”と呼ぶ僕の幼馴染み、大宮礼二だった。
「今日は他の当番の二人が風邪で休んでいるらしいからね。ちょうどいい機会だから二人で徹底的に埃一つ残さないくらい掃除してやろうではないか」
本人曰く「最新ファッション」の伊達眼鏡を中指でくいっと持ち上げ目を光らせる礼二。こいつの性格をわかりやすく説明するならば「ジャイ○ンを真面目で潔癖症にしたようなやつ」と言ったところだ。つまり捕まったら最後、最低でも一時間は掃除に付き合わされる。本家のジャ○アン同様、悪い奴ではないけど捕まれば面倒ということも本家同様だ。
「さあ行くぞダメタケ。今日の掃除場所はなんとグラウンドの便所だ。あの汚れきった便所を舌で舐めることに抵抗を覚えないほどピカピカにするのだ。どうだ、ぞくぞくしてきただろう?」
礼二は凄まじい力で頭を鷲掴みにしながら僕を引きずって廊下を歩いて行く。途中すれ違う友人や先生方が僕を可哀想な目で「諦めろ」と語りかけてくる。
「さあ聖地へいざ行かん! 汚れどもよ待っていろ、今すぐこの私が滅してやる」
想像して貰いたい。ドラ○もんの世界でジャイ○ンがコンサートをやっているんだ。さて、質問だ。一人だけ気持ちよさそうに歌っているジャ○アンを誰が止められる? ジャイアンの母ちゃんなら止められる。なるほど、確かにその通りだ。でも残念ながらここに母ちゃんはいないんだ。つまり、そう言うこと。
こうなった礼二を止められるはずもなく、僕は泣く泣く掃除場所へと向かうのだった……
掃除を始めて2時間と少し経過。辺りはすっかり暗くなり、部活動に勤しんでいた生徒たちもいそいそと帰り支度を始めていた。
そんな中、
「う〜む……だいぶ綺麗になってきたな。あとはさっきカビ取り洗剤に着けておいたところを徹底的に擦りあげて……」
僕らは未だにグラウンド便所にいた。
「な、なあ礼二。そろそろ帰らないか? 辺りも暗くなってきたし……」
「ダメだ。まだ舐めるほどに綺麗にしていない。なに、安心しろ。あと一時間もあれば新品同然、いやそれ以上に綺麗になること間違いなしだ」
上機嫌でとんでもないことを言ってくる礼二に思わず嘆息する。どうやら僕は最低でもあと一時間は家に帰れないようだ。
「ほらほらダメタケ、手が止まっているぞ!」
「はいはい……」
礼二に促されてしぶしぶ手に持ったモップを動かそうとしたその時、視界の端に白い翼を生やした小柄な女子生徒が見えた気がした。
思わずそちらを振り向き凝視する。確かに見える。天使を思わせる純白の白い羽。小学生、とは言わないが中学生くらいには間違えられそうな小柄な身体。後ろ姿だから断言はできない。ただ、この学校の制服を着たその奇妙な女子生徒は、今朝がた僕の部屋で見た例の天使と瓜二つのように思えた。
そしてその小柄な女子生徒を大声で怒鳴りながら追いかけている大柄な女子生徒にも見覚えがある。ありまくる。本人曰く地毛の茶色いポニーテール、スーツを着たらOLと間違われそうな発達過剰な身体つき。それは間違いなく僕が絶賛片思い中の浜中明菜であって、その彼女から聞こえてくる言葉が「パンツ返せ」ともなれば、
「…………」
激しく嫌な予感しかしないわけで、僕の顔は真っ青になっていた。
僕は即座にモップを放り出して駆け出した。何がどうなっているのかはわからないけど、とりあえずろくなことになっていないのは理解できた。とにかく、今この状況で僕が出来ることはただ一つ。あのアホ天使をとっ捕まえて事の次第を問い詰めることだけだ。
しかし、
「な、なんであんなに足はやいんだよ……」
もともと僕はインドア派で運動はそんなに得意じゃない上に、あの天使はあんな背丈のくせに以上に足が速くて捕まえるどころかその姿を捉えることすら出来なかった。だいたい女子ラクロス部で一年の時からエースをやっている明菜ですら追いつけない相手を僕が捕まえられるはずもないのだ、よくよく考えてみれば……。
「仕方がない、詰問は家に帰ってからだ」
体力の限界に伴い早々に天使捜索を諦めて僕は放置していた荷物を回収するためにトイレまで戻ることにした。
そしてそこで……
「……何をしているんだ?」
僕の鞄に何か布切れのようなものを入れようとしているアホ天使を発見した。しかもよく見てみればその布切れは女性下着であって、となれば……
「……シャワー室から盗んできた人間の下着を鞄に入れようとしている」
例のごとく淡々とした口調で答えてくる。
「なんでそんなことを?」
「あなたの願いを叶えるため。人は好意的な相手に自分の下着を送る風習があるとこれに書いてあった」
そう言いながら取り出したのは僕の部屋にあったギャグ漫画。
「私の使命はあなたの願いを叶えること。ただしその手段に関してはこれといって制限されていない」
つまり要約すると、この天使は僕の願い、つまり明菜に告白する勇気を付けさせるために明菜のぱんつを盗んで僕の鞄に入れようとした、と。
「いや、意味が分かんないし! いいからさっさとそれを持ち主に返してきなさい!」
なんでこの天使が僕の願いを叶えようとしているのかはわからない。どういう思考回路で僕の鞄に明菜のぱんつを入れようとしているのかはわからない。ただ一つわかること、それはこの絵図が僕の社会的立場を危険にさらすものであるということだけだ。
こんなところを明菜に見られたら……
「そう、こういうことだったんだ……なるほど、なるほどねぇ」
こうなることは目に見えて明らかだ。
僕のすぐ後ろにいつの間にか明菜が仁王立ちしていた。その怒りの視線の対象はぱんつを握りしめている天使と、そして僕。
「ま、待ってくれ明菜。これには深い事情が――」
「うるさい黙れこのクズ虫」
文字通り虫を見るような眼で見られて思わず僕は口を閉ざしてしまった。
「そこのあんた。どうせここのクズ虫野郎に頼まれてやったんでしょ。なに? いくら渡されたの?」
明菜が凍えるような冷たい目で天使を見据える。それでも天使は無表情を崩すことなく、
「違う。これは私の意志。そこの人間に頼まれてやったことではない」
「はっ! あくまで白を切るつもり?」
「すべて本当のこと」
「あんたの言うことなんて信じられると思う?」
淡々とした口調で幾度も否定の言葉を重ねる。それが信じられることはないとわかっていても、そうするほかないから。
そんな姿が、
――違う! 僕じゃない、僕はやってない!
いつぞやの誰かの姿と重なった。
気づいたら僕は動いていた。竦んでいた足を懸命に動かして、少しでも早くあの天使のもとに、ユーリのもとに駆け付けるために。
「本当に申し訳ない!」
ユーリの頭を鷲掴みにして頭を深々と下げる。頭上から明菜の冷たい視線が突き刺さるのを感じる。なんであんたがその子を庇うのよ。そんな心の声がありありと聞こえた。
それでも、僕は頭を下げるしかなかった。 ユーリに……自分の言葉を信じてもらえなかったが故にヘタレになってしまった誰かの姿を重ねてしまったから。
「ユーリはほら、信じてくれないかもしれないけど見ての通り人じゃないんだ。ほら、翼が生えてるだろ? こいつ、天使なんだってさ。だから少し常識に欠けるんだ。別に悪気があってこんなことをした訳じゃない。もちろん僕が何かを吹き込んでどうこうってのもない」
「それを信じろっての? ばっかじゃない?」
「馬鹿でもなんでも、僕に言えるのはそれだけだ」
ひたすら頭を下げ続ける。自分でもなんでこんなことをしているのかわからない。相変わらずユーリは無表情だし、明菜の視線は痛いし。
だけど……だけどほんの少しだけ、ユーリを家に置いてもいい気がした。少しだけ、こいつを家族として扱ってもいい気がした。こいつは昔の僕だから。人と少し考え方が違っていて、だから何を言っても信じてもらえない、孤独な存在だから。
だから、
「うちの天使が本当に迷惑をかけた。申し訳ない!」
家族の起こした問題は、家族が謝らなきゃな。
ユーリの驚いたような顔が見れただけでも、いや、相変わらず無表情なんだけどさ。気分的に、なんとなくそんな気がしたんだ。かつての自分を救ってやったような、そんな気分。それはきっと自己満足でしかないけれども、それでもそう思った、思えるようになっただけでもこうしてよかったなんて、ほんの少しだけ思いながら僕は嵐が頭上を通り過ぎるまで、ひたすら頭を下げていたのだった……
第二章「これだからうちのユーリは」
ひとしきり行事を終え、本来ならぐだぐだとした時間がゆっくりと流れていくはずの十一月はユーリの出現によって四月当初のような慌ただしさに包まれあっという間に過ぎて行った。
あの日、つまり僕がユーリを家族として認め始めた日だ。あの日にユーリがうちの学校の制服を着ていたのは母さんの計らい(またの名を陰謀ともいう)によって彼女がうちの学校に転入することになったからだ。なんでも転入手続きの帰りだったらしい。
そんなこんなでユーリがいる生活は始まったわけだけど……結論から言おう。彼女が来てからというもの、僕の一日当たりの平均溜息回数は急増した。
まず第一に天使だからか、ユーリには常識が通用しない。普段はまあ普通なんだけれど、ふとした拍子に突拍子もないことを始める。例えば体育の時間中に突然校庭に落とし穴を掘り始めたり、クラスメートと出合い頭にハグをしたり。
そうしたユーリの突拍子もない行動の後始末は、家族ということですべて僕のところに回ってくる。つまり、ユーリが何かしら起こす度に僕はあちこちに頭を下げながら後始末をするはめになるということだ。幸いあの日のような犯罪行為を働くことこそないが、僕の恋への見当違いな支援行動はなお続いていて、先日に至っては書いた覚えのないポエムを教室の黒板に貼り出された。まあクラスメートに見られる前に回収したから大事には至ってないんだけど……
そんなこんなであっという間に心労の日々は過ぎ去っていき、気づけば期末テストも終了、冬休み、そしてクリスマスも目前に迫っていた。
そんなある日。例によってユーリがやらかしたこと(校舎にあるすべての蛇口を全開にした)の後始末を終え、疲れ切った体を引きずりながら家に帰ると、
「……おかえり」
「あらたけちゃん。おかえりなさい」
「おかえりなさいませ猛様」
天使が一人増えていた。
頭の後ろで結わえたピンク色の髪。同じくピンクの瞳はどこぞのアニメキャラを思い出させる。肌は透けるように白く、フランス人形を思わせる精緻な顔立ちはどことなくユーリの面影を感じる。
「えっと……君は」
「お初にお目にかかります。ユーリお姉様の妹で、名をセリナと申します」
いつぞやの誰かさんと違って礼儀正しく頭を下げるピンク髪天使。誰かさんのようにデフォルトが無表情というわけでもない。どうやら姉妹といっても性格は全くの正反対のようだ。
「今日はいつもお世話になっている皆様方にご挨拶をと思いまして。お時間の方、よろしいでしょうか?」
どこまでも丁寧、悪く言えば慇懃無礼とも取れるセリナの態度にどことなく違和感を覚える。何となく、居心地が悪い。というか天使ってのはこんな両極端なやつしかいないのか? それともただ単にこの姉妹が特殊なだけなのか。ユーリも気のせいか緊張しているように見える。
「……わざわざ遠く? から御苦労さま。とりあえず僕は着替えてくるから、ゆっくりしていくといいよ」
そう言って僕はその場から逃げるようにリビングを後にした。
部屋に戻ってベッドに身体を投げ出す。そうして一日の(気)疲れを少しだけ癒してから着替えるのが僕の日課だった。
こんこんこん……
部屋のドアがノックされたのはちょうど僕が着替えを終えた時だった。
「あの……入ってもよろしいでしょうか?」
「あ、ああ。ちょうど着替え終わったところだよ」
失礼します、と言いながらセリナがゆっくりとドアを開けて部屋に入ってくる。
「一人? ユーリは下か」
「はい、リビングで寛いでいます。そ、その……」
言い淀むようにセリナは口を閉ざし、一瞬部屋の中に気まずい空気が流れる。しばらくセリナはそわそわと服の裾を摘まんだり深呼吸を繰り返したりした後、ようやく決心がついたのか、まっすぐ僕の目を見つめ、
「今日この家に来たのは、実は猛様にお願いがあるからなのです」
「お願い?」
「はい。お姉さまがここにいる理由について、何かお姉様から聞いたことはありますか?」
ユーリが俺のもとに来た理由。そういえば詳しく聞いたことはなかったな……。
「僕の願いを叶えるため、としか聞いてない。それがどうしたの?」
「そうですか……やっぱり」
少しだけ考え込むようなそぶりを見せた後にすっと真っ直ぐにセリナは僕を見つめてくる。
「私たち天使は、人を幸せにするために存在しています。天使が人の願いを叶えるのはそのためです」
突然始まった天使についての解釈。はっきり言って彼女が何を言いたいのか見えてこない。天使の存在理由と僕に対するお願いと何の関係があるんだ……?
「お姉様は“準”天使士官。つまりわかりやすく言うなら天使見習いといったところです。準天使士官が天使になるには二つの方法があります。一つは人の幸福を規定以上の量あつめてくること。そしてもう一つは天界庁が定めたテストをクリアすることです」
「つまり、ユーリがここにいるのは……」
「はい。お姉様に課せられたテストは地上で最初に出会った人の願いを叶えること。つまり、猛様の願いを叶えればお姉様はテストに合格、ということです」
なるほど、ようやくいろいろと合点がいった。そして何となく彼女のお願いとやらも見えてくる。見たところ随分ユーリに肩入れしているようだし、たぶん頑張って願いを叶えてくれと言ったところか。
「何となく何が言いたいのかはわかってきた。でもそれを僕に言うのってズルじゃないの?」
少し意地悪に言ってみる。もちろん手伝う気がない訳じゃない。ユーリはこっちに来てそんなに経っていないとはいえ、もう家族の一員だ。家族を応援するのに理由も理屈も出し惜しみもいらない。
「はい。もちろん本当はやってはいけないことです。でも、今回ばかりは少し事情が違います」
しかし僕の意地悪な問いかけへの返答は予想していたものよりずっと真剣で重たいものだった。
「先ほども言いましたが天使は人を幸せにするために存在します。それはなぜだかわかりますか?」
「急にそんな難しいことを聞かれてもな……」
「なら少し質問を変えます。なぜ天使は人の幸福を集めているのだと思いますか?」
それが天使の存在理由だから、そう反射的に答えそうになったけど少しだけ想い留まって考える。きっと彼女が聞いているのはそんなことじゃない。
「神様に命令されたから、とか?」
「いえ、実のことを言えば天界に神様なんてものは存在しません」
こんなところで意外な事実が判明。この世に神様なんて存在しなかった!
とまあそんなことはどうでもいいとして。だとしたら天使は何で人の幸福を集めるんだ……?
「天使が幸福を集める理由。それは人が生きるために食事をするのと同じなんです。天使はその存在を維持するために天界で集めた人の幸福をエネルギーに変換しているんです」
なるほど。天使にとって人の幸福を集めることは人が畑を耕したりするのと同じということか。
でもそれがなんだって……
「では……人の幸福を集めることが出来ない天使はどうなると思いますか?」
そこでようやく僕は事態の重さに気がついた。天使は自身の存在を維持するために人の幸福を必要としている。じゃあその幸福を収拾できない天使は……
「幸福を収拾できない天使は、その存在意義を失い、文字通り“消滅”してしまいます」
彼女がここにきてどれほど経っただろう。天使はどれほどの間人の幸福なしにその存在を維持できるものなのだろうか……
「ですから、猛様にお願いがあります。どうか、あなたの願いを私に託してもらえませんか? 幸いもうすぐクリスマスです。この手紙をあなたの想い人に渡せば、あなたの願いは叶うでしょう」
セリナが持っていたのは一通の白い封筒。それはきっと、クリスマスデートのお誘いの手紙。
「……それで、ユーリが助かるなら」
「ありがとうございます、猛様。きっと、きっと上手くいきます」
一礼して部屋を出ていくセリナの後ろ姿を僕はただ虚ろに眺めていた。
「……ユーリ」
その呟きは、誰もいなくなった部屋に空しく響いていった……
学校。ほんの少しだけ通った場所。きっとここに来るのはこれが最後になる。
手の中には一通の手紙。セリナから受け取った、あの人間があの女に当てて書いた手紙。これを渡せば、その結果がどうであれ私の地上試験は終わる。そうなれば、ここにいる理由もなくなる。
「……いた」
学校の近くにある河原。そこに女の姿があった。女は別の人間(確かクラスで見た人間だ)と話しながら歩いていた。
これで、もう終わり。手紙を渡せば私の試験は終わって、私は天使になる……かもしれない。
なのに、
――だ……
私はなぜかそれを躊躇っていた。手紙を渡す。たったそれだけのことがとても難しいことのように思える。
下で歩いている二人から声が聞こえてくる。
「っていうかさ〜、なんで明菜は彼氏作んないのさ。この前の男、結構いい線いってたじゃん」
「うっさいわね、私の勝手じゃない」
「もしかして……まだ浜中君のこと気にしてるの? ならさっさと自分から告っちゃえばいいのに」
「絶対に嫌。なんで私があいつに頭下げなきゃいけないのよ。あいつが私に頭を下げるなら……その、か、考えてあげないこともないけど」
「はいはい。明菜も素直じゃないね〜」
そんな会話。
ほら、きっとあの女は彼のことを好意的に思っている。これを渡せば……
――ヤだ……
この手紙を渡せば、あの二人は恋仲になって、私は天使になって、みんな幸せになるはずなのに……
――イヤだ……
なのに私の身体はピクリとも動いてくれない。
「イヤだ……」
口から零れた言葉が夕暮れの赤に溶けていった……
部屋のドアが静かにノックされる。無言でドアを開けるとそこにいたのはどこか沈んだユーリの顔。
「手紙、渡せたか?」
その問いに対して小さく首を横に振って応えるユーリ。それが表わすのは……
「ユーリ、わかってるのか? 手紙を渡さないってことは――」
「渡しても、同じこと。あれはあなたの手紙じゃない」
少しだけ驚く。まさかばれるとは思わなかった。というかよくわかったな……
「そっか……よくわかったね」
「……カマをかけてみた」
淡々とした口調、いつもの無表情のままで口元だけ意地悪に歪ませる。
そんなユーリの姿に少しだけ呆れながら机の中を漁る。そこから出したのはいつか書いたあの手紙。
「これなら、問題ないだろ。もう一度行ってきてくれるか?」
その手紙をユーリに手渡す。
しかしユーリはその手紙を受け取らず、ゆっくりと首を横に振る。
「ユーリ! わかってるのか? お前はこれを渡してこないと――」
「天使は、人を幸せにするのが仕事。でも幸せは人にしてもらうものじゃない。自分で掴み取らなきゃ、それは本当の幸せじゃない。だから、これはあなたが自分で渡さなきゃいけない」
珍しく饒舌なユーリ。それはまるで、自分が消えてしまう前に僕に何かを伝えようとしているようで……
「そんなもんどうでもいいんだ! そんなくだらない理由で……」
「くだらなくなんか、ない。それに、ずっとお別れってわけでもない」
そうこうしているうちにユーリの姿が次第にぼんやりしてくる。輪郭が少しずつぶれるように崩れて、少しずつ空気に混ざっていくようにその姿を薄くしていく。
「待てよ、待ってくれよ。今日の晩飯はどうするんだよ。母さん、お前の分も作る気満々だぞ。残飯処理なんて、僕はイヤだからな」
らしくない、子供のような泣きごとを言う。最初は迷惑だ、早く出ていってくれ。そう思っていたのに、いつの間にか僕の日常にユーリの姿があった。彼女を失うことを怖いと感じる自分がいた。
「……ないちゃ、ダメ。泣くと幸せになれない」
そう言ってユーリは無表情ながらも優しく僕の頭を撫でる。そして、
「また、ね」
そう言い残して、彼女は完全に姿を消してしまった……
エピローグ「ハッピーエンドの導き方」
最初はただ不思議だった。私の存在が彼にとって迷惑になっていたことは自覚していた。なのにそんな私に親切にしてくれる彼がひたすらに不思議だった。
その不思議は次第に心地よい温かさとなって私の心に浸透していった。それと同時に私はわからなくなっていた。自分が感じているこの暖かさは一体何なのか、それは自分が持っていていいものなのか。
そして今、
「お姉様……本当に、よろしいのですか?」
「……うん。お願い」
もうこの胸にある想いが何なのかわかってしまった。
静かに目を閉じる。迷いも不安もない。あるのはただ一つ、たった一つの強い想い。
これから私が進む道は、目指す目標はただ一つ。みんなが幸せになる、私のハッピーエンド。
彼の声が聞こえる。悲痛な、胸を裂くような悲しくて苦しい叫び。だから私は答えないと。それが私が選んだ道だから……
「……ただいま」
目を開けるとそこは見慣れた彼の部屋。私はここに戻ってきた、戻ってこれた。
目の前にはきょとんとした彼の顔。何となく、可愛らしい。
「な……んで。だって天使は、人の願いを叶えられない天使は消滅するって……」
「ん……だから天使辞めてきた。ほら、翼ない。だから私、もう人間」
翼がないのを見せつけるようにその場でくるりと一回転して見せる。彼はそんな私を見て唖然としたような顔をしていた。
「て、天使って……そんな簡単に」
「簡単じゃない。結構手続きは面倒だった」
思い出すだけで嫌になる。もう二度とあんなことはしたくない。もっとも、たとえやりたくても出来ないだろうけど……
ここに確かに戻ってきた私の姿を見て、彼は少しだけ怒ったような、それでいて泣きそうな顔で私の帰りを喜んでくれた。それでやっぱり自分が選んだ道が正しかったと思えた。
これからすべてが始まる。私と彼と、みんなの笑顔で溢れる、私だけのハッピーエンドが。
――ハッピーエンドの導き方。
「だから……これからもよろしく、タケシ」
――それは私が笑顔で彼の名前を口にすること……
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2010/04/29(Thu)17:29:56 公開 / 浅田明守
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■作者からのメッセージ
初めまして、あるいはこんにちは。テンプレ物書きの浅田です。
今回も例によって読み切り作品です。たぶんあと数作はこんなのが続くかと思われます。
さて、この作品なんですが、ここまで読んでいただいた方ならお分かりかと思うのですが、思いっきり消化不良です。具体的に言うなら使い捨てキャラが多い、回収していない伏線がある、設定が微妙に不鮮明などなど……
実のことを言うと、この作品は一定のページ数以内で完結させるという条件下で作られたものなのです(汗
本来ならページ数が指定されているならそれ相応のネタでやらなければいけないのですが……つい目先のネタに目が眩んでorz
という訳でダメだし上等、むしろ厳しい目で見てもらい、「もっとこういう展開の方がいい」、「このキャラいらなくね?」のようなご意見を頂けると大変ありがたいです。