- 『悪の組織のススメ(読み切り)』 作者:鋏屋 / リアル・現代 お笑い
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全角11135文字
容量22270 bytes
原稿用紙約33.9枚
ある日、目が覚めたら悪の組織に捕まってて……
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なんかやたらジメジメした感じがして、唐突に目が覚めた。若干酒の残るぼけた頭で周囲に視線を巡らす。
えっと確か……
俺は眠る前の状況を必死に思い出していた。
昨日は確か、課長と2人で会社近くの居酒屋で飲んでて…… そしたら総務の久美子ちゃんと実務の桃子ちゃんが入ってきて、4人で飲んでて……
そこからの記憶が無い。綺麗さっぱり無い。はて……
俺はそう考えながら周囲を見回した。
ごつごつと飛び出た岩肌に所々コンクリートで補強してある壁と似たような天井。そこからぶら下がる逆富士2灯の蛍光灯。そして正面に見える大きな鉄格子……
鉄格子!? なんだここ!?
俺は昨日の自分の行動以上に記憶にないその風景にビックリして立ち上がった。立ち上がった俺はとりあえず自分の格好を確認した。
所々汚れてはいるが、確かに昨日俺が会社を出る前に着ていた服に間違いない。俺はそれを確認してから、その目の前の鉄格子に歩み寄ろうとしてすっころんだ。
「痛てて…… なんだこりゃ?」
妙な違和感のある足を見て俺はそう言った。足首に分厚い鉄の枷が付いていて、それが俺が先ほどまで座っていた汚いベッドの下の床に、鎖で繋がっている。
何だよここ…… どっかのSMクラブか? そういや上野にこんなサービスを提供する店があったような……
「でも、女王様がいねぇよな……」
俺はそう呟きながら足に繋がった枷を調べてみた。そのしっかりした鉄の質感は、ジョークグッズのそれとは明らかに異なっている。俺は若干落ち着いてきた思考で、自分の置かれた状況を分析しだした。
課長と飲んでて、久美子ちゃんと桃子ちゃんも来て、4人で飲んだ…… 恐らく俺は浴びるほど飲んだ…… 記憶がないのはそのせいだな。
さて、気が付くと俺はこのわけのわからん牢獄みたいな場所で寝ていた…… つーかみたいなとかじゃなく、マジの牢獄だ。う〜ん……さっぱりわかんね。
どっきり?
いや、それにしては手が込んでる。ここまでのセットを用意するとなると、TV番組ぐらいだ。人気お笑い芸人や、有名人なら話はわかるが、俺のような一般的サラリーマンのどっきり姿が、お茶の間の興味を引く訳がない事は、知能指数が低い馬鹿なディレクターでもわかるはずだ。
酔っぱらって犯罪に手を染めてしまった?
考えられなくもないが…… 日本の留置所ならもう少しマシな設備があるだろう。どう考えても50年ぐらいずれてるぜ? これ。
タイムスリップ?
はは…… 俺電波じゃねぇし……
そんなことを考えていると、目の前の鉄格子の方から複数の足音が聞こえてきた。
今度は何だ? と思いながら見ていると、鉄格子の向こうに続く廊下から、数人の人影がやってくるのが見えた。
――――――なんだコイツら?
俺はその連中の格好を見て唖然とした。
中央に白衣を着た小柄な老人。真っ白な白髪が天に向かってぐるぐるって伸びてるヘアースタイルがどういうセンスよ? って思うが、まあ、コイツはわりかしまだまとも。だがその老人の脇を固める2人がおかしすぎる!
2人とも真っ黒な全身タイツに、ストリートファイターのバルログのような仮面を付け、Dの文字のロゴが張り付いた痛いベルトを巻き、赤いブーツを履いている。
あれだ、仮面○イダーのシ○ッカーとか、そういうやつ…… やっぱりこれ、どっきりなのか?
「お目覚めのようだね……」
中央の老人には、鉄格子越しに俺にそう言い、クシシっとチキチキのケンケンを彷彿とさせる乾いた笑いをこぼした。俺は無言でそいつらを見つめていた…… なんだ、ギャグか? 劇団? 勢い余って変態の集会に紛れ込んだのか? 俺。
「恐怖で声も出ないと見える……」
老人はそう言い、またクシシっと笑った。
悪りぃ…… どこで笑えばいいのか教えてくれっ!
「ここって何の集まりっすか?」
俺は素直にそう聞いた。すると老人の両脇の2人が突然「キィー!」と甲高い声で叫んだ。
今のはビックリしたぞっ!!
その後もその2人は交互に「キィー! キィー!」と肩を揺らして叫んでいる。どうやら笑っているようだ。なんかコイツらうるせぇ……
「五月蠅いわっ! お前らは笑わんでええわっ!!」
老人がそう叱りとばすと、2人はびしっと直立不動のまま黙ってその場に凍り付いた。
何のコントだよこれ……
「お前はこれから、我が研究の最大の成果、人体改造の被験者になって貰うのだよ…… クシシっ」
いい歳してこのジイサン…… 孫が見たら泣くぞ。いや、幼稚園とかなら喜ぶかな?
「人体改造って…… あのアレか? ヤンキースの松井とかがやってる……」
いや、とりあえず俺もボケておこうと思ってさ。一人で取り残されるのって悲しいじゃん。
「そりゃ肉体改造じゃっ! ワシが言っておるのは『人体改造』!! 人体を改造手術して戦闘に特化した怪人を作るんじゃっ!!」
その老人は額に血管を浮かび上がらせてそう怒鳴った。いやいや、お年寄りの癇癪は別の意味で恐いよね。あぶねぇあぶねぇ。目の前でぽっくりってのは勘弁だ。
しかし『作るんじゃっ!』とか言われてもさ……
「まあ良い…… 改造前に、お前さんに色々と教えてやらんとダメだな…… クシシ」
そう言いながら老人は顎で俺を指し、両脇2人のタイツマンに指示を出した。俺は足枷を外され両脇をその2人に抱えられながら連行されていった。
いったい何の冗談だよ、これ……
牢獄から連れ出せれた俺は、長い廊下を抜け、大きな広間に連れてこられた。
牢獄内で感じたジメジメ感は多少減ったが、窓もなくひんやりとした空気は、地下独特感覚だ。たぶんこの施設は地下にあるんだろう。俺はそんなことを考えながら周りを見回した。
広間の上座? だとと思うんだが、そこには、これまた奇妙なワニのような生き物のかぶり物をした頭の悪そうなおっさんが一人、仏頂面で座っており、その脇に2人づつ、これまた何だかよくわからない生き物のかぶり物や、ヘンテコな鎧姿の女が立っている。
あれだ、ガキの頃見た戦隊物に出てくる悪い奴らの本拠地って感じだ。つー事は、あそこに座ってるワニ親父が、この変態集会の首謀者である確率が高い。その周りは幹部ってトコかな……
しかしそろいも揃っていい大人が、馬鹿な格好して立ってやがる。一体どこの劇団だ? おっ? あの女、なかなかいい女だな……
俺は呆れつつも、その親父の傍らに立つヘンテコな鎧姿の女を見ていた。するとその女は俺の視線に気づいた様で、まるでゴミでも見るかのような目つきで睨み、フンっとそっぽを向いた。どうやら嫌われたみたいだ。
「我が主、『ドアークデンネン』様、この男が昨日連れてきた『ドアノイド』の実験体でございます」
広間の中央でぼけっと立っている俺の横で、白髪の老人は恭しく、正面の椅子に座る『ワニ親父』に頭を下げた。
ドアークデンネン…… またなんつーベタな名前だよ……
「今度はどのようなドアノイドにするつもりじゃ? 今市博士……」
ものすごいだみ声でワニ親父は老人に聞いた。酒飲み過ぎじゃねえのか、この親父。
「今回は最高傑作になりますぞ、パンダの細胞を結合させ、最強のパワーを手に入れたドアノイドになるでしょう。そしてそのパワーでにっくききゃつらめを……」
パンダの細胞? なんだ? パンダ怪人!? ら○ま1/2の父ちゃんか?
「間違いなくきゃつらを殲滅出来るのであろうな?」
ワニ親父の隣に立つ鎧女がキツイ目で今市博士を睨む。
「必ずや…… パンダのパワーは強力です。それにワシが開発した人工血液のアミノ酸を加えれば驚異的なパワーを発揮するでしょう」
「しかし妾は先週もその言葉を聞いたぞよ。ドアークデンネン様のご機嫌が悪いのもそのせいじゃ…… 次は無い物と思うがよい」
鎧女の言葉に、今市博士はまたクシシっと笑いながら答えた。
「今度はワシの研究の最高傑作ですじゃ…… 心配は無用に願います」
鎧女はその言葉に、またフンッと鼻を鳴らしそっぽを向いた。その様子を見るに、どうもこの女はこの今市という老人の言葉を信じていないようだった。
「あのさぁ、いったい何の集会なんだよ? そろそろ教えてくれよ」
俺は何となく飽きてきたので、とりあえずこの状況が何なのか把握したくてそう聞いた。
「無礼者! 控えよっ!! ドアークデンネン様の御前で何という口の利き方をするのじゃ!」
俺の言葉に鬼の形相で怒鳴りつける鎧女。おっ? 怒った顔もなかなか……
「良い、ワルコーネ。なかなか面白い人間だ」
ワニ親父はその鎧女をそう言ってなだめ、俺に向かって続けた。
「我らはな、悪の秘密組織ドアークダだ。ワシがその総帥、悪の化身『ドアークデンネン』だ」
その特徴あるダミ声でそう言うと、ワニ親父は口元をニヤリと歪めた。
ベタだ、ベタ過ぎるだろ…… 脚本家に会ってみてぇ……っ!
「やっぱりアレか? 世界征服とかってノリか?」
俺はワニ親父にそう聞いた。
「おお、そうだ。おぬし、なかなか切れるのう?」
アホか…… これで銀行強盗とか言ったらこっちがキレるわっ!
まあ、しかし目標があることは良いことだ。『望みは高く持て』って死んだじっちゃんも言ってたしな。
「さっきから言ってる『きゃつら』って誰? やっぱりなんかと戦ってたりするのか?」
俺はもう一つ気になっていることをワニ親父に聞いてみた。さて…… どっちだ? 仮面○イダー見たいなソロタイプか? それともゴ○ンジャーみたいな戦隊タイプか?
「ああ、にっくききゃつら…… 我らが宿敵の名は『イケメン戦隊カコイージャー』!!」
ネーミングセンスゼロどころか反転してる……
俺は予想の遙か斜め上行くそのセンスに目眩を憶えた。だってまんまってありえねぇだろ普通っ!!
「コイツらだ……」
ワニ男がそう言うと、俺と今市博士がいる後ろに、天井から大きなスクリーンが降りてきた。そしてあたりが少し薄暗くなり、そのスクリーンに映像が映し出された。
俺はその後30分ほど、その出来が悪いが妙にリアルな戦隊物の映像を見せられたのだった。
ドアークダが事件を起こし、それを調査するカコイージャーの面々。その原因がドアークダであることを突き止め、人間に化けてた怪人を暴き出し変身。さっきの『キィーキィー」五月蠅い仮面タイツの変態集団をなぎ倒して怪人と対決。5人で怪人をフルボッコにしたら逆ギレした怪人が巨大化。大慌てのカコイージャーはメカを出動。合体しロボパンチの後、少しピンチ、でも逆転して最後は、どういう訳かけん玉でタコ殴りの必殺技で怪人沈黙。近隣住民大迷惑な大爆発でめでたしめでたし……
しっかしどうして最後巨大化するんだろう。最初から巨大化してけば良いじゃん…… とお子さまを持つママさんが激怒しそうなコメントを脳内に残しつつ、俺は黙ってみていたのだった。
それにしてもカメラアングル最悪だな。カメラマン素人か? 俳優達も確かにイケメンだが、見た事ねぇぞ。たぶん新人かな……
唯一評価できるのは、妙にリアルな特撮とカコイーピンクが結構巨乳で可愛いってことぐらいだ……
「コイツらがカコイージャーだ」
一通り映像が終わり、あたりが明るくなったと同時に、ワニ親父が俺に言った。
「我が覇業に立ち塞がる宿敵、奴らを倒さねば、我らが悲願を成就できんのだ!」
まあ、そうだろうね……
とそこへ、女の子の泣き声が聞こえてきた。
「うえぇぇぇぇぇぇん!!」
なんだなんだっ!
振り返ると、真っ黒なサテンの極ミニのドレスを着たゴスロリチックな美少女が大泣きしながら広間に入ってきた。
な、な、なんだあいつ。あ、新しい展開だな……
「どうしたのじゃ、コワルーネ! 何があったのじゃ!!」
とさっきの鎧女、ワルコーネが決そう変えて駆け寄った。
「あのさ、この子ってひょっとして……」
俺が聞くとワルコーネはきっと俺を睨んでこう言った。
「妾の妹じゃ!」
ワルコーネにコワルーネ…… 名付け親の顔が見てみたいよまじで。
「ひっく、あ、あのねぇ、ひっく、コワルのね、連れてったタヌキノイドがね、ひっく、カコイー達にやっつけられちゃったの……」
そう言って左手に持っていた物をワルコーネに見せた。それは毛むくじゃらの尻尾だった。
「こ、これは、タ、タ、タヌキノイドの尻尾!」
ワルコーネはその尻尾を見てわなわなと震えだした。
「コワルのお気に入りのノイドだったのに…… あいつら酷いんだ、巨大化してガスタンクでサッカーやってたら、いきなり現れてロボけん玉でタコ殴りだよ……」
そう泣きながら姉に訴えるコワルーネ。
う〜ん、気持ちはわかるが、そんなはた迷惑なサッカーは地球の外でやってろよ。
「うぬぬっ、なんと卑劣な奴らじゃ…… ゆるせんっ!」
「いや、お前ら悪の組織が『卑劣』とかってどうかと思うんだが……」
俺がそう呟くが誰一人聞いてない。ワニ親父の前に居並ぶ他の3人の幹部連も口々に「ゆるせん」やら「鬼だ」「悪魔だ」などと言い合っており、周りの全身タイツ集団も「キィー! キィィー!」と五月蠅く鳴いてる。
悪りぃけどギャグにしか見えねぇって……
「でも大丈夫じゃコワルーネ、今市が新しいワルノイドの材料を連れてきたのじゃ。しかも今度はパンダじゃぞ? 今度こそきゃつらを倒せる最高傑作なのだそうじゃ!」
そのワルコーネの言葉に、コワルーネは涙顔を輝かせた。
「ええ! パンダ!?」
「ああ、そうじゃ。こやつがその材料の人間じゃ」
そう言うワルコーネの言葉を聞いて、そのキラキラした瞳を俺に向けた。
おお、この子もイケてるじゃん! ロリ顔びんびんだぜオイっ!!
「さあ、今市博士、こやつをさっさと改造してしまうのじゃ!」
う〜ん…… ちょっとひねりが足らないつーかさ……
「は〜い、ちょっとたんまね」
俺の言葉にワルコーネとコワルーネ姉妹は首を捻る。
「こんな脚本じゃ、今時のガキは惹きつけられねぇよ? 誰が書いたんだか知らないケド全然ダメだな。ベタ過ぎて反吐がでる」
「脚本? そちは何の話しをしてるのじゃ?」
俺の言葉に、ワルイーネは不思議そうにそう聞いた。他の連中も驚いた顔で首を捻る。ま、いいか、とりあえず言いたいことは、この際だから言っておこう。
「それに、やられたから新しい、なんだその…… ワルノイドつったけ? そんなの作るつー発想が品粗すぎる…… お前ら、真面目にやる気あんのか?」
「な、なんじゃと!?」
俺の言葉に今市博士は目をむく。だが俺は意に介さず続けた。
「まあ聞け、昔から戦は数だ。ジオンだって強力なモビルスーツをどんどん作ったって、結局はすげぇ量のジムとボールに負けたんだ。な? わかるだろ。もうちっと頭使えよ」
「し、しかし、一体どうすると言うんじゃ?」
ワルイーネは俺にそう聞いた。
「発想の転換ってやつさ、そのワルノイドっていう怪人を作らずに、このキィーキィー鳴く戦闘員達を大量に作れば良いんだよ」
「な、なるほど……」
俺の言葉に、ワルコーネ少し興味を持ったようだ。
「そうだな…… 百…… いや、千単位で動員しよう。10人1チームで小隊を形成させ、それを4つで中隊、さらにそれを4隊で1大隊を形成する。この大隊を10隊作って奴らにぶつけるんだ。そのなんだかわからん怪人こさえるよりずっと効率がいい。おい、今市博士、コイツらの元って何だよ?」
俺はそう今市博士に聞いた。
「お、お前のように拉致してきた人間だ」
「なるほど…… 10×4で…… ならとりあえず1600人さらって来いよ」
どうせなら派手にやろうぜ! さっきからディレクターや監督なんかも出てこねぇし、アドリブが多い方が面白いモンが作れるってモンだぜ!
「なんと!? そ、それはいくら何でもマズイんじゃ……」
「はぁ? バスとか、電車とか丸ごとジャックして連れてくりゃ良いじゃん。あ、ジャンボジェットなら3機で良いんだぜ」
俺の言葉に、広間中がざわついた。タイツ軍団ももじもじして、小声で「キーキー」言ってる。いや、小声なら普通に喋ればいいじゃんなぁ……
「ちょ、ちょっと酷くないか……」
俺の意見にワルコーネはそう呟いた。
「世界征服を目論む悪の秘密組織なんだからそれぐらいやんなきゃ…… ねぇ、デンネンの旦那?」
俺はそうドアークデンネンに聞いた。
「あ、ああ、そ、そうだな。お前の言うのはもっともだ」
「ほらな? よし、じゃあそう言うことで、後は実行班のリーダー誰にしようかな?」
俺はそう言いながら周りを見渡す。しかし、タイツ変態軍団じゃ誰が誰でも一緒なので、とりあえず一番手近なのを一人呼んだ。
「おい、そこのお前、ちょっとこっち来い」
「キ、キィィ?」
「そう、お前、良いからさっさと来い」
俺の言葉におずおずとやってくるタイツマン。
「お前、名前は?」
「キィー!」
「何処住んでる?」
「キキィー!」
「結構良い体してんじゃん。前になんかスポーツとかやってた?」
「キッキキィィー!」
「お前舐めてんのか――――っ!!」
思わず反射的にボディーに蹴りを入れてしまった。タイツマンは腹を押さえてその場に蹲った。周りに居並ぶ他のタイツマンは俺のその行為を見て震え上がった。
あーうぜぇ!
「おい、お前一撃でやられるって何だよ! 仮にも戦闘員だろ! お前表に行ってちっと走って来い! 赤いビートル5台見るまで帰ってくんな! さあ行けっ!!」
ボディーに俺の蹴りを食らったタイツマンは、俺のその一言でよろけながらも走って広間を後にする。
全く…… こんなんで世界征服しようってんだから、先が思いやられるよな……
「ほんじゃ、お前とお前…… 名前がねぇと不便だな…… そんじゃお前はゴキ、そんでもってお前はバッタ。決まり! よ〜し、ゴキとバッタ。お前達2人は10人づつ見繕ってバスと電車の乗客かっさらってこい。なるべく生きのいいの連れて来いよ! わかったか?」
俺の命令に2人は「キィー!」と頷いた。だが俺がゴキと名付けた方が、少しふてくされていた。どうやら名前が気に入らなかったようだ。一方バッタはちょっと自慢げだった。こっちはまんざらでもないらしい。どっちもあんまり変わらんと思うがなぁ……
「あん? 何お前、ちょっと不満な訳?」
俺がそう聞くとゴキは首を横に振った。
「お前もさっきの奴みたいに走りに行く? それとも俺のホットコーラでも探してきて貰おっかな〜?」
俺がそう言うとゴキは「キキィィィー!」と鳴き、そっこーで10人をつれて広間を飛び出していった。バッタも慌てて10人を引き連れて広間を出ていった。
よしよし、縦組織はやっぱこうでないとな。俺はそれを見届けると今市博士に向き直った。
「なあ、あんたらいつもどんな作戦たててるんだよ?」
「さ、作戦? 作戦と言っても、わしは作る方専門じゃから、実行プランの立案までは…… そ、そう言うのは実行部隊の長であるワルコーネ様に聞いて貰った方が……」
そう今市博士は言い淀んだ。俺はその言葉に、妹と抱き合うワルコーネを見た。
「さ、作戦というか、いつも怪人で何か事件を起こして、きゃつらが出てきた所を叩くと言うのが、妾達の今までのセオリーじゃが……」
ハア…… つまり行き当たりばったりって訳カヨ…… それじゃ勝てないわけだ。
「何がセオリーだよ。悪なんだからもっとずるがしこく行こうよ。ダーク&ダーティーだよ、わかる? さっきの映像見てもそう。何でアッチがキメポーズ決めてる時に打たねぇの? つーか何で変身させちゃうの? 合体してる時にフルボッコにしちゃえばいいじゃん」
俺の言葉を無言で聞く悪の組織の連中。しかもみんな『それ酷いよ』って言いたそうな表情だった
「ぬるいな…… だから勝て無いんだよお前らは…… おい、そこのお前、そうそう、お前だ。ちっと来い」
俺はまた別のタイツマンを呼んだ。タイツマンは駆け足で寄ってきた。
「お前は…… 蝉だ。知ってるか? みーんみーんって鳴くあれな。今からお前は蝉、わかった?」
俺がそう言うとタイツマンは嬉しそうに「キキィー!」と鳴いた。俺はその瞬間そいつの頭をひっぱたいた。
「みーんみーんだって言ってんだろ! ったく…… まあいいや、お前さ、5人ほど連れて行ってカコイーピンクさらってこい」
「なっ……!?」
俺の隣でワルコーネが引きつった声を漏らした。広間がざわつく。
ぬるい……っ なんてぬるいんだこの組織……っ!
「人乳だよ、ヒ ト ジ チ!」
あ、やべぇ、字が違ったか? まあ良いや。
「いや、それはあまりにも人の道に……」
と今市博士が呟く。
「お前らが人の道とか気にしてどうすんだよ! 悪の組織って時点でそんなモンとっくに踏み外してるだろーが! 『汚ねぇ手使ってでも勝てばいい!』とかいう気はねーのカヨ!」
俺がそう言うと広場が静まりかえった。みんな鬼を見るような目で俺を見る。コイツら本気で悪なのか?
「ったく…… じゃあわかった『捕虜』だ。捕虜なら良いだろう? 戦争でも捕虜はとっても良いことになってんだし。な、どうだ? お前は捕虜を誘拐…… じゃなかった、調達してこい、わかったか? わかったら今すぐ行け!」
俺の言葉に、蝉は5人のタイツマンと共に広間を出ていった。これでキーキー五月蠅い変態は半分ぐらいになった。
「何かもう一手欲しいな……」
俺はそう呟きながら周りを見回す。俺が居並ぶ面々を見ると皆一様に目を逸らす。ワニ親父など初めから俺を見ようとしない。全くコイツらと来たら……
不意にワルコーネに目がとまった。そうだ、何か足りないと思ったら……
「オイ、ワルコーネ、あんたちっと鎧脱げ」
「な、何を言出すのじゃ!?」
ワルイーネは頬を赤らめながらそう抗議した。
「良いから脱げって。作戦があるんだよ!」
俺はそう言ってワルコーネを押し倒した。そしてゴテゴテしたヘンテコな鎧を片っ端からはぎ取っていく。
「あ、な、何を! や、や、止めるのじゃ ああん!」
尚も抵抗するワルコーネを無視してどんどん鎧をはぎ取る。
「あ、い、いやぁん…… あ、ああっ! そ、そこは……! あ、ああん……っ!!」
静まりかえった広間にワルコーネの嬌声が響き渡る。周りの連中も生唾を飲んで食い入るようにその光景を見ていた。
うへへ…… 良いではないか、良いではないか〜っ!
あれ? なんか変な気分になってきたぞ!
いやいや、イカンイカン
「ああ…… も、もう、どうにでもして……っ!!」
そう言ってハアハアと肩で息をしながら、床で痙攣するワルコーネ。鎧を全部引っぺがされ、薄い皮のアンダーシャツときわどいショートパンツ姿になった。
「こんなモンかな……」
「お、おねぇちゃん……」
「コ、コワルーネ、わ、妾は汚されてしまった……!」
う〜ん、コワルーネにはちょっと刺激が強かったかな? ま、いっか。
「アホか!? 鎧引っぺがしただけだろ! 今時の中○生なんてもっと凄いんだぞ!」
いや、どうかしらんけどね。しっかしこんなウブで悪の組織張ろうってんだからなぁ……
「よし、お前その姿でカコイーレッドって奴を籠絡しろ」
「―――――なっ!?」
よろめきながら絶句するワルコーネ。俺は構わず続けた。
「大体さあ、こういう組織なら、ボンテージファッションのお色気キャラが居て当たり前なんだよ。コワルーネつー萌えキャラも良いけど、やっぱり悪はエロスがないとな。みんなもそう思うだろ?」
俺の言葉に歓声が上がった。ワニ親父も拳を作って『エロスさいこー!!』とか叫んでる。何だよ…… みんなもそう思ってたんじゃん。
「蝉がピンクをさらっ…… 捕虜にしてくるだろ? お前は逆に敵リーダーのレッドを色仕掛けで落とすんだ。そうして奴らの基地に潜入するんだよ。リーダーを骨抜きな? わかるか? ヒロイン不在でリーダー骨抜き。そこへ変態キーキータイツ軍団1600人の大部隊で奴らの基地を総攻撃だ。お前は内部から破壊工作。ロボでも何でも乗らなきゃくず鉄と一緒だ。そのまま指令室を占拠すればミッションコンプリート。完璧な大勝利だ」
「で、でも、妾はそ、そんな恥ずかしいこと……」
かー、全くコイツらはっ!!
「大丈夫だよワルコーネ。お前の美貌ならイチコロだよ。ベッドの上で胸でも触らせりゃ襲いかからん男は居ない」
「で、でも、妾はその…… まだ…… 」
あっちゃー 処女カヨおい……
「じゃあ、真似だけしろよ。油断したら頭殴って出てくりゃいい。それか睡眠薬とか混ぜた飲み物飲まして、最後までする前に寝かしちゃえば良いんだ。頭使えよ」
そう言う俺に、ワルコーネはトロンとした目を俺に向けてきた。
「そ、そちがそう望むなら…… 妾はやってみよう……」
はは…… コイツらホントに悪の組織なんだろうか…… さらってきた男に下着に剥かれて、しかもそいつにポ〜となる悪女って一体……
まあ、俺も悪い気はしないけどな。
「よし決まった。おい、お前らなに見てんだよ。ぼけっとしてないで10人1列で整列っ!」
俺はワルコーネのあられもない姿をかぶりつきに見ていたタイツ軍団に一括した。そして俺がその前に立つと、いつの間にかワニ親父が隣に来て、俺の手に自分が持っていたクリスタルの杖を渡す。
おお、気が利くね。ほんじゃちょっと借りておくよ。
俺はワニ親父から受け取ったその杖を床にドンと突き、仁王立ちした。俺の横にはワニ親父のドアークデンネン。その横にはサイだかカバだか良くわからん生き物のかぶり物をした男と、同じくクジャクみたいな羽を付けた鎧姿の男が立ち並び、俺を挟んで反対隣には、下着姿の様なワルコーネと、ゴスロリファッションのコワルーネ。その隣には今市博士とタコのような職種が付いた良くわからん服来た中年親父が続いていた。
「よ〜しみんな、これから忙しくなるぞ! だがこの悪の組織は今日から生まれ変わるだろう。お前達は悪だ! 正真正銘の悪だっ!! 自信を持て! いや、それ以上に悪である誇りを持てぇっ!!」
「キキィ―――――――――っ!」
俺の声に一斉にそう答えるタイツ姿の戦闘員達。
あ〜うるせぇ
「そして、必ずやカコイージャーを倒し、悲願である世界征服を成就させるんだ! わかったな! わかったらでっけぇ声で、『おーっ!』って言えっ!!」
「キキィィィ―――――――――――――!!!!」
だから「おー!」だって言ってるじゃんよ……
広間全体を揺るがすような「キィー!」が響き渡った。幹部連も歓声を上げながらそれに答えていた。
うんうん、これであの酷い番組も少しは良くなるだろう。結局監督やディレクター達は姿を現さなかったがまあいいや。みんな一つにまとまったしね。
さあて、これから忙しくなりそうだから、俺はそろそろ帰ろうかな? あ、そうだ、この番組いつ放送してるのか聞いておこう。なかなか斬新な戦隊物になるはずだし……
「なあ、デンネンの旦那。この番組っていつ放送されてんの?」
そう俺が聞くと、ワニ親父は小首を傾げてこう言った。
「番組……? 申し訳ありません、言ってる意味がよくわかりません、我が君よ」
―――――へ? 我が君? ……あれ?
おしまし
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2010/03/13(Sat)13:26:47 公開 / 鋏屋
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■作者からのメッセージ
初めての方は初めまして、毎度おなじみの方は毎度どうも、鋏屋でございます。
先日、甘木殿のしまにゃんで戦隊物の日記ネタ読んでいたら、ふとこんなくだらない物語が思い浮かび書いてしまいました。まあアホな話です。こんなアホなの書くなら「連載の続き書け!」って言われそうですけど…… いやごもっとも。
もう少し捻れば良かったなぁ……
鋏屋でした。
3/13 キャラ名修正 誤字修正