- 『よだかと私』 作者:SARA / 未分類 未分類
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全角1189文字
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原稿用紙約3.4枚
ああ、今宵は闇の中でこのひとの声をずっと聴いて居たい、そうして蜘蛛の様に背中を這いまわり私を犯して下さい。
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真夜中の電話
「セックスするときに一番緊張するのはどの瞬間」
よだかは私の手を撫でてそう尋ねました。よだかの手は男のひとと違い骨張っておらず、関節の所まで柔らかな肉に包まれています。その感触の違いにどきりとして私は答えました。
「そうねえ、服を脱される時かな」
ふうん、というなりよだかの手は手の甲を執拗に這います。私はすこしだけ意地悪な気持ちになりそのままでいました。けれど、緊張しているのか手の平はだんだんと汗ばんできていました。
「それから?」
今まで隣に座っているよだかの顔を見ないようにしていました。けれど、その辛抱を初めから分かり切っているかのように、よだかはひょいと私の顔を横から覗き込みました。一重瞼の小さな目、顔の真ん中にすっと通る鼻、それから思わず触りたくなるようなふっくらとした唇が淡く街灯のほのかな灯りに照らされていました。
よだかの手は動くのを止めて大人しくしています。それはこれから起こることへ備えている様でした。私は手の甲にその重みを感じながら答えます。
「それから、真夜中の電話。部屋の灯りを全部暗くして相手の声に耳を澄ますのがすき」
再び目を逸らして一気にそう言うと、よだかはセックスと関係ないじゃないと笑います。そうだね、と私もつられて笑いました。きっとそれがいけなかったのでしょう、笑いはどんな時でも隙が出てしまいます。ですから、むやみやたらに気を許して人の前で笑うものではありませんね。
気が付くと柔らかな感触が私の笑いをもみ消すように覆いました。しっとりと濡れた舌が、唇を押して入ってきます。よだかは獲物を捕えたように上から手を握りしめていました。一寸離れてまたつき合う。幾度となくそれを繰り返すのに夢中になり、ふと薄眼を開くと目を閉じたよだかがいます。眉の下に二つ黒子が仲良く並んでいるのが非常に愛らしく思われました。再び闇の中へ戻ると、どこか遠くで電話が鳴っているような気がしました。私は思わずよだかを呼びます、けれど彼女は何の返事もしません。
よだかの手が私の服の釦にかかり、私は恥ずかしくて顔を見る事が出来ずぎゅっと目を瞑り身体を固くしていました。
「見て、私の顏」
私の襟元を引きながらよだかはそう言いました。おそるおそる顔を上げると、目を閉じたままのよだかの白い顔が闇夜に浮かび上がっています。そして、朝日を受けた花のようにゆっくりと瞼が開きました。
ああ、今宵は闇の中でこのひとの声をずっと聴いて居たい、そうして蜘蛛の様に背中を這いまわり私を犯して下さい。このように女のひとに恋慕の情を抱くのはこれが初めての事でありました。私は綺麗と呟くなり再びよだかの唇に吸い寄せられていきました。
了
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■作者からのメッセージ
手のひら小説です。一場面を描写するのは本当に難しい。考えず、感じたままに書きたいと思うのですがなかなかうまくいかないですね。