- 『LAGIANO』 作者:葵月 / 異世界 未分類
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全角8488文字
容量16976 bytes
原稿用紙約26.75枚
ラギアノと呼ばれる剣と魔法の世界、ここには大きく別けて四つの国 アーデライト フェルデ ラーツエイド グリキエマ この四大国はいくどとなく戦いを繰り返し、今こそは落ち着いているものの、揉め事が起こればすぐさま大きな戦争となるのは間違いなかった。そして、四大国の一つ、アーデライトの王宮騎士団の副団長であり、他国に『魔剣使い』と恐れられる騎士『アルフォート・マグリア』はある日、反逆の濡れ衣をきせられ、国家反逆罪として処刑されることに……。
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第一話 狂った歯車
アーデライトの首都・ジノアの王宮
「さて……と、今日も見回りに行くとするか」
アーデライトの王宮騎士団副団長であるアルフォート・マグリアはいつものように自室での日記を書き記した後にランタンを片手に持ち、白銀の鎧に真紅のマント、愛用している『魔剣』と呼ばれる剣を腰に据えて自室の扉を開ける。夜中とだけあり、王宮内の灯りは蝋燭の火のみと心許ない。本来ならば見回りは王宮騎士団でも最も下位にいる騎士達が行うべき仕事である。しかし、アルフォートは元々は農民から現在の地位に上りつめたため、当然ながら見回りを行うべき地位の騎士でいた時間が多く、副団長になった現在でも毎夜欠かさずに見回りを行っている。
人望が厚く、親切で礼儀正しく、人を見下す事をしない為にアルフォートは部下達から大変に慕われていた。
「ん? 何か聞こえるな……」
コソコソと聞き取りにくい声を聞いたのは王宮の王室の前だった。立派な木製の扉の向こうから何やら揉め事なのか、話し声が聞こえる。本来ならばそんな事は私情だと思い、口を挟むべきものではない。アルフォートも特に関わろうとはせずに、その場を立ち去ろうとした時だった。王を護る立場にある王宮騎士団として聞き逃す事のできない単語が耳に入ってきた。
『それでは、死んでもらいましょうか』
「!!」
アルフォートはその一言に背筋が凍り、すぐさまに王室の扉を蹴り開け、腰の剣に手をかざした。
そこでの光景は悲惨だった。国王の体には深い傷跡があり、そこからは紅い鮮血が止め処なく溢れている。何よりアルフォートを驚かせたのはそこに立っていた人物だった。
「……クレアス団長」
それは王宮騎士団団長クレアス・ヴィンセントその人だった。黒い鎧に左右で緑、赤と眼の色の違うオッドアイ、艶やかな長い黒髪が何よりも本物のクレアスだという事を示していた。
「……アルフォートか」
クレアスは人を殺した直後とは思えないほどに冷静な声を発する。
「なぜ、団長がここに?」
「……国王を殺したからだ」
隠す気は更々無いという感じだった。
「何で殺したのですかっ!?」
「これ以上お前と話すことは何もない」
クレアスはただそれだけ言うと窓を開け、何事もなかったかのようにそこから飛び降りる。
「! 待て!」
アルフォートは窓に駆け寄り下を見るが、そこにはもうクレアスの姿はなかった。
「何事だ!?」
大声を聞きつけてかけつけてきた見回りの騎士達だ。マフラーの色が青いところからは恐らく下級騎士だろう。
「な!? これは……」
騎士達は顔を青くする。
「アルフォート殿……?」
「違う! 俺じゃない!」
アルフォートが騎士達に駆け寄り、弁解を始める。
「何事だ!?」
少ししてアルフォートの叫び声を聞いてかけつけてきたのは他ならぬクレアスだった。
「! 団長!? アナタという人は……!」
アルフォートは腰の魔剣を抜く。魔剣の刀身は蒼く妖しく光り輝いている。
「何だぁ!?」
クレアスも自分の剣を抜き、アルフォートの攻撃を受け止める。
「今更惚けるな! 国王を殺したのはアンタだろう!?」
「何の事だ! 俺はそんな事はしらない!」
クレアスは空いている左手に何やら風の塊のようなものを作り出す。
「風破!」
クレアスがその左手をアルフォートに向かって突き出すと、アルフォートの体は強い風と共に吹き飛ぶ。
「ぐぁ!」
アルフォートはその際に強く頭を打ったのか意識を失う。
「アルフォートを捕らえろ! コイツは国王を殺した!」
「はっ!」
騎士達がクレアスの命令でアルフォートに掴みかかり、そのまま地下牢に運ぶべく、引きずる。
「……ここは」
アルフォートが目を覚ました時には天井は近く、周囲も石の壁でなにやら冷たい場所だった。
「目を覚ましたか」
目の前の鉄格子越しに立っていたのはクレアスだった。
「! アンタは……!」
「何だ? 言いたい事があるのか? 先に言っておこうか、お前は国家反逆罪で処刑されることが確定した。明日にお前の刑は執行される」
「いい加減にしてくれ! 濡れ衣もいいところだ!」
「いい加減にするのはお前のほうだ! 俺がやったとでも言いたいのか!?」
「そうに決まっているだろう!? 俺はこの目でアンタが国王を殺したのを見たんだ!」
「そんな物は俺は一切知らない! いいか? お前の刑は何があろうが執行する! それまでに遺言でも考えていろ!」
それだけアルフォートにきつく言いつけると、クレアスは扉を乱暴に開けてその場から出て行く。
「くそが!」
アルフォートは鉄格子の扉を強く蹴り飛ばす。そこにはただ虚しい金属音が鳴り響くだけだった。
「何とかしてここから脱出しないと……」
そういうものの、魔剣は既に取外されていた。いつも持ち歩いている携帯のバッグがあれば、その中に火薬が入っているのだが、ご丁寧にその携帯バッグまでもが綺麗に持ってかれていた。
「何か方法はないのか……」
アルフォートが下を向いた時だった。扉が静かに思い音をたてて開く。
「アルフォートさんですよね?」
そこに入ってきたのは下級騎士である事を示す青いマントを身につけた、金色のショートカットの綺麗な顔立ちの少女が入ってきた。
「誰だ? 何で下級騎士の位の人間がココまで入ってこれた?」
「私はリファ・ディセナイツ・アンディフォール。似通ってはいますが、この青いマフラーは下級騎士のものとは違います。私はアナタを助けるべく、ココに来ました」
リファは静かな声で囁くように言う。
「! ディセナイツの御令嬢!?」
アルフォートが思わず大きな声を発するが、リファが口に人差し指を当てて何とか叫び声を止めようとする。
「私がアナタを助けるのはとある『理由』があるからです。明日、アナタが断頭台に連れて行かれる途中で、私の仲間達がアナタを救出します。その『理由』はその救出が無事に終ってからお話します」
「……私は貴女を信じても宜しいのだろうか?」
アルフォートは疑い半分に問いかける。
「勿論ですわ。その後の事は我が公爵家がアナタの身柄を預かり、一時的ではありますが、身の安全を保障します」
アルフォートはそう言ったリファの瞳をじっと見つめる。碧眼の澄んだ瞳はアルフォートの眼光にも揺るがず、力強く、それでいて優しくアルフォートの瞳を見つめ返す。
「……わかりました」
「ありがとうございます! では、明日にまた……」
リファはそれだけ言うと急いでその場から立ち去る。
翌日 ジノアの広場
その日のジノアの広場には何時の間に用意したのか、大きな断頭台が用意されていた。国家反逆の大罪人の公開処刑ということで、この日の広場にはとても多くの人間が集まっていた。
そこに、騎士達に囲まれ、両腕を後ろで組まれたアルフォートが連れてこられる。
「まさか、あのアルフォート様が……」
「何かの間違いでは?」
アルフォートを支持する発言が聞こえるものの、一番多い発言はアルフォートに対する怒りの言葉だった。
「ほら、しゃがめ」
騎士が強気にアルフォートを押したその時だった。キュゥン! という鋭い弦の弾かれた音が響き、その騎士の丁度、鎧と鎧の隙間に矢が突き刺さる。
「うがぁ!?」
その騎士はその場に倒れこむ。その後、周囲を固めていた騎士達が一斉にアルフォートの周囲に集まる。
「何事だ!?」
周囲の人々は明らかな混乱に包まれる。それもそうだろう、突然目の前で人の腹部に矢が飛んできたのだから。
「く! 総員、警戒しろ! 気を抜くな!」
この場を取り仕切る者だろうか、上級騎士の証である白いマントを身に着けた騎士が叫び、この場を鎮めようとする。
「えぇい! 静かに――!」
そう言いかけた直後、彼の発言は何者かによって遮られる。
「悪いな、これも仕事だ」
その上級騎士の背後に立つ影はうなじを強く打って上級騎士を気絶させる。そして、そのに立っていたのは黒いローブを身に纏い、狐の仮面をかぶった男だった。
その狐の仮面の男はアルフォートの元へ近寄る。
「貴様、何をするか!」
だが、途中で下級の騎士が彼に襲いかかるも、再び、今度は狸の仮面を被る男にその騎士はいとも簡単に気絶させられる。
「さぁ、アルフォート殿、こちらへ」
「うおぉぉぉぉ!」
狐の仮面の男がアルフォートに肩を貸したその時、一人の騎士が剣を高く振り上げて狐の仮面の男に斬りかかろうとする。しかし、彼の脇腹に矢が鋭く突き刺さることで、その動きは止まり、代わりに騎士が蹲る。
「さぁ、いまだ」
そのまま狐と狸の仮面の男はアルフォートを抱えてその場から煙と共に消え去る。
ジノア郊外の林道入口
「貴公達がリファ殿の言っていた者だろうか?」
「そのとおりです」
不意に聴き覚えのある声が響く。気配を感じ取ってふと背後を見ると、弓を構えたリファが立っていた。
「狐がイナリ、狸がムジナという名です」
リファがそういうと、それぞれ仮面を取って挨拶をする。
「イナリです、以後お見知りおきを」
「ムジナです、以後お見知りおきを」
この二人の顔立ちは非常に似ており、見分ける点といえばイナリは髪が黄色、ムジナは髪が茶色という点だけだろうか。
「この二人は双子なんですのよ」
リファが補足を入れる。
「さて、紹介はここまで、今からは何故私達がアナタを助けたのかを教えるとしましょう」
これまでは笑っていたが、リファは真剣な顔をして語り始める……。
第二話 創り者
「まず、私がアナタを助けた理由は2つあるわ」
リファがアルフォートに向かって指でブイサインを作る。
「一つ目は、アナタが騎士団の副団長であり、即戦力になってくれること」
リファが中指を折り、人差し指のみを残す。
「ただ、これだけならちょっと悪い言い方になるけれど、別に他の人間でも問題は全くなかったの。でも、私達はアナタを選んだ、その理由はアナタの持つ魔力の性質よ」
「性質……」
アルフォートは黙りこむ。
「少し調べたのだけれど、アナタの魔力の性質、これまで人に珍しいとか言われてきたでしょう?」
「まぁ……それは確かに」
本来、人が持つ魔力の性質は、炎 氷 水 風 土 雷 の六つ。そして、これに時折だが光と闇の性質を持つ人間もいる。ただ、アルフォートの場合はこの全七属性のどれにも当てはまらず、そしてどの属性に対しても弱点は無く、万能に戦え、尚且つ魔法の威力も高いということで副団長の地位にまで上り詰めたのだった。
「私達から見ると、アナタのその魔力の性質は『創造』と言う、神の力。つまり、アナタは神子なのよ」
「神子……!?」
アルフォートは突然の話に黙り込む。『神子』というのは世界が危機に瀕した時に現れ、世界を救済するといういわば救世主……メシアと呼ばれる存在だった。
「千年戦争とよばれる戦いで主戦力になったのも神子なのよ」
「ちょっと、待ってくれ。俺がその神子だったら、何でアンタ達は俺を必要とする?」
「その事に対してはまずは順を追って話すわ」
まず、私達は『黒猫』と呼ばれているアーデライト同盟国であるグリキエマの政府の元についている組織なの。仕事内容というのは裏の仕事。要人警護から暗殺、スパイ活動までを幅広く行っているの。そして、何故アーデライトの貴族であるディセナイツがグリキエマの政府の元にいるかというと、ただ単にアーデライトで最も力を有している四大公爵家の内、ディセナイツ家というのは遠い昔、グリキエマに居たの。その遠い昔からの繫がりで、表ではアーデライト、裏ではグリキエマの政府の元についているの。無論、この事はアーデライトの王家の人間も知らない事よ。
そして、数日前にグリキエマ政府の元に国王である、シャトン・アーデライト・ノノエールを殺害するという手紙が届いたの。そこで、イナリとムジナが王宮騎士団としてそこに紛れ込んでいた所、本当にシャトン様が何者かに殺害されたの。そして、犯人がアナタだと決まったわね。でも、私達はそれを信じなかった。何故かというと、あの時、アナタの声を聞きつけて入ってきた騎士の中にイナリとムジナが居たのだけれど、二人からの報告ではアナタの瞳に嘘は無かった、と言っていたから。この二人は綺麗な嘘が蠢く世界で生きてきた裏の人間だからそういう事に関しては信頼がおけるのよ。
さておき、何で、私達がアナタの力を欲しているのか。それはアナタに神子として、メシアとしての役割を果たしてもらうためよ。最近、騎士団の仕事の中に魔物の討伐依頼が多くなっていなかった? それは、『扉』が開きかけているからなの。本来、魔物の住む『ノアギラ』と私達の住む『ラギアノ』は別世界で、唯一世界の中心の聖地という場所にある『扉』でつながっているの。それで昔、扉が完全に開いちゃって魔物が大量に流れ込んだ事件があったの。これが『千年戦争』として語られている事件よ。そして昔の魔物と戦った人たちは二度とこうならないように、と扉に封印を施したの。現在こっちの世界に住んでいる魔物っていうのは、大昔に扉を越えて入ってきた魔物の子孫ね。逆もあってノラギアにもこちらの人間の子孫は居るのよ。で、最近ノラギアとラギアノを繋ぐ扉が開きかけているの。この扉は属性魔法が完全に無効化されるの。だから封印の力が強い氷の性質の魔法でもこの扉には完全無力なのよ。でもアナタの持つ『創造』の性質を持つ魔法は無の魔法なの。つまり、扉に対して有効なものなのよ。更に封印の力も氷以上に強いの。千年戦争時の神子も無の封印魔法を使って扉を封じ込めたのよ。
ここまで話せばわかるかしら? 私達はアナタに扉を封印してもらう為に行動を共にしてほしいの。ただね、どういう訳か、最近フェルデの動きが妖しいのよ。もしかしたらだけど、フェルデの連中は何か良くない事を考えてるかもしれない。そこだけは注意しておいて?
「……」
アルフォートは唖然としていた。
「ごめんなさい、一度に多く説明しすぎたかしら?」
「いや……理解はできたが……正直、スケールが大きすぎるというか」
「そうね、でもこれは全て真実なの。アナタが協力してくれなければ、千年戦争を再び引き起こしかねないのよ」
「それでも――」
アルフォートの言葉を爆発音が途中で遮った。
「全く、聞き分けの無い子ですねー」
爆発の煙の向こうには道化のような人間が立っていた。手にはアルフォートの魔剣を持っている。
「大人しく協力するっ! って言えないんですか?」
「ジャック! 命を落としかねない危険な事を無理に強要する訳には」
リファは自らがジャックと呼んだ道化に近づいてゆく。
「ではですね、お嬢様? このアルフォート君がワタシ達に協力しないならば、アルフォート君だけならまだしも、世界中の何百何千何万という人間が犠牲になるのですよ?」
「しかし!」
「わかったよ!」
講義するリファをアルフォートが大声で止める。
「ジャックと言ったかな、君の言ってることは良くわかった。つまり、俺が君達に協力すれば世界中の人々は助かるんだな?」
「それは働き次第ですがね」
「正直、俺はこんな話スグに信じろといわれて信じれない。だが、他でも無いディセナイツのご令嬢のいう事だ。ここは君達に力を貸そう」
「おー、それは良かったー」
ジャックは棒読みに答える。
その後、急に強い風が吹き、ジャックの表情が真剣になる。
「ではではー、丁度良い相手が来たのではないですか?」
ジャックが振り向くと、そこには漆黒の鎧を身に纏った紅い瞳に白い長髪の男が立っていた。
「アイツは……?」
アルフォートはその男を凝視する。
「フェルデの犬ですよ。銀の魔狼リオ・ジェネシス。いうなればフェルデ最強の将です」
リオは黙ってこちらを睨みつけてくる。その瞳は重く、リオが放つ空気は大変重たかった。
「! 危ない!」
リファが急に弓を構えてアルフォートのスグ脇に矢を放つ。すると、キィンという金属音が鳴り響き、ナイフが落ちる。
「あっぶないですねー」
どうやら、ジャックのところにも飛んできていたらしく、ジャックはそのナイフを片手で掴み取っていた。イナリとムジナにも飛んできたいたようで、二人はナイフを受け止めている。アルフォートを護るために弓を引いていたリファに対するナイフは、リファの後方にトランプと共に落ちていた。おそらくはジャックの仕業だろう。
「ご丁寧に暗部まで連れてきて、まぁ最低でも、連れてこられた暗部の皆様にはお亡くなりいただきますが」
「強気なのも今の内だぞ、ジャック」
リオが口を開く。その声は聞いているだけでも、威圧感に溢れている。
「アルフォート君、これをお返しいたしまショウかね」
ジャックがアルフォートにむかって魔剣を投げる。
「戦いますよ。準備は良いですかね」
ジャックがアルフォート、リファ、イナリ、ムジナを見渡し、それに答えるようにそれぞれが頷く。
「準備は終わったか?」
リオは静かに手を前に出す。
「やれ!」
リオが叫ぶと同時に、どこかに隠れていたのだろう暗部の仮面を被った忍者のような人間が四人、どこからか現れ、リオより先を走ってアルフォート達を討とうと短剣を構える。
それと同時に、イナリとムジナを先頭に、その後にジャックとアルフォートが走り出す。リファは後方で弓と矢の準備をしている。
「はぁ!」
暗部の男二人とイナリとムジナが短剣でぶつかり合う。
「! こいつら、ただの暗部の連中ではないな」
相当の手練であろう二人と殆ど互角に渡り合っているのを見ると、暗部の四人も相当の実力者のようだ。イナリとムジナが引き受けている暗部の背後から別の暗部の二人が飛び出て、イナリとムジナを襲う。
「そうはさせない!」
イナリとムジナを襲う二人に、斬撃を飛ばして退けさせる。
「やりますねぇ」
ジャックが退いた二人に追い討ちをかけにいく。
「チェーン・バインド!」
ジャックが両腕を前に突き出すと、手の平から鎖が飛び出て、暗部の二人を捕らえる。
「それだけじゃ無いんですよね」
更に二つの鎖がジャックの手から出てきてイナリ、ムジナと対峙している暗部の二人を縛る。
「くらいなさい!」
そこに、矢が四本、的確に暗部の体を捉えて的中し、激しく抵抗していた暗部の動きが止まる。
「今ですよ! イナリ、ムジナ!」
「承知した、ジャック殿」
「では、行くぞ、ムジナ」
イナリとムジナが重なり合うように飛び上がり、イナリは火の粉を、ムジナは風を舞わせる。
『爆炎風襲!』
火の粉は業炎に、風は強風へと変化し、鎖で拘束されていた暗部を巻き込む。
「――!」
暗部達は炎に焼かれながらも、声を上げずにその身を焦がす。
「!!」
そして、唐突にイナリとムジナの顔が曇る。
「逃げられた……のか」
炎が消え去ると、そこには暗部の姿どころか、服の一部分さえも見当たらなかった。
「お見事だね」
静かにリオが歩み寄る。
「どうせ、あの暗部は"創り者"なのでしょう?」
「あぁ、そうだとも」
創り者……それは人間の一部分を元にその人間をコピーする技術の事だ。ただ、この技術はまだ完全に確立されておらず、一般の人間には知られていない技術だった。アルフォートでさえも、名前を聞いた事がある、という程度であった。
「今のは我等が『六刃』の一人、アデネスの髪を元に創られたコピーだがな」
「髪の毛であれ程とはねぇ……」
創り者達の強さは、オリジナルの強さと、コピーする時に必要なオリジナルの部分によって決まる。髪の毛といえば殆ど最低クラスの力しか出せないハズだ。
「まぁ、アナタはオリジナルみたいですね」
創り者は本来、顔の一部に刻印が浮き出る。先程は仮面で隠れていたが、どこかに刻印があったハズだ。
「あぁ、本物の俺が出向いたほうが、お前達を殺せる可能性は上がるだろう?」
リオは静かに剣を鞘から抜き出す。その刀身は紅く光り、魔剣だという事を示している。
「あいつ……魔剣使い……」
アルフォートも静かに自らの蒼く輝く剣を構える。
「私達はバックアップにまわりますよ! アルフォート君も魔剣使いですから、リオと直接刃を交えるのはアルフォート君が一番適してます!」
ジャックとイナリ、ムジナは前線を飛び退き、リファの近くに行く。
「騎士団の裏切り者が、俺に勝てると思うなよ?」
「!? 貴様……」
アルフォートの瞳がリオの言葉で揺らぐ。
「何で俺がその事を知っている、という顔をしているな。勿論知ってるさ。王に忠実な騎士団の副団長が王を殺したのだからな、大きなニュースになっているのだぞ?」
「言わせておけば!」
アルフォートがリオに向かって駆け出す。リオも剣を構えて、アルフォートを迎え撃とうとする……。
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2010/02/01(Mon)23:12:12 公開 / 葵月
■この作品の著作権は葵月さんにあります。無断転載は禁止です。
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■作者からのメッセージ
初めまして、おはようございます、こんにちは、こんばんわ。葵月です。
そして第二話更新です。ちょっと遅いですが、そのアタリはご勘弁。
今回は大まかな説明が主でした。まだまだ未熟ですが、ご指導ご鞭撻お願いします!
適当に次回予告的な
アルフォート・ジャック・イナリ・ムジナ・リファVSリオ
数では圧倒的に勝るアルフォート達だが、相手はフェルデ最強の将。
リオの攻撃は圧倒的、アルフォート達も負けずと戦う。
果たして、どちらが勝つのか……。