オリジナル小説 投稿掲示板『登竜門』へようこそ! ... 創作小説投稿/小説掲示板

 誤動作・不具合に気付いた際には管理板『バグ報告スレッド』へご一報お願い致します。

 システム拡張変更予定(感想書き込みできませんが、作品探したり読むのは早いかと)。
 全作品から原稿枚数順表示や、 評価(ポイント)合計順コメント数順ができます。
 利用者の方々に支えられて開設から10年、これまでで5400件以上の作品。作品の為にもシステムメンテ等して参ります。

 縦書きビューワがNoto Serif JP対応になりました(Androidスマホ対応)。是非「[縦] 」から読んでください。by 運営者:紅堂幹人(@MikitoKudow) Facebook

-20031231 -20040229 -20040430 -20040530 -20040731
-20040930 -20041130 -20050115 -20050315 -20050430
-20050615 -20050731 -20050915 -20051115 -20060120
-20060331 -20060430 -20060630 -20061231 -20070615
-20071031 -20080130 -20080730 -20081130 -20091031
-20100301 -20100831 -20110331 -20120331 -girls_compilation
-completed_01 -completed_02 -completed_03 -completed_04 -incomp_01
-incomp_02 -現行ログ
メニュー
お知らせ・概要など
必読【利用規約】
クッキー環境設定
RSS 1.0 feed
Atom 1.0 feed
リレー小説板β
雑談掲示板
討論・管理掲示板
サポートツール

『取っても喰わぬ』 作者:星遼介 / ショート*2 童話
全角3691.5文字
容量7383 bytes
原稿用紙約11.65枚
取っても喰わぬ

 山奥にあるその村には、オダケという名の医者がいた。御年八十になる老医だが、幸い腕も気も確かである。
 彼の元へは時折、奇妙な病人がやってくる。この前など、一人の女性が一頭の仔牛を引き連れてやってきた。なんでも、息子が飯を喰った後に昼寝していると、牛になってしまったのだという。この手の患者は、規則正しく生活していればいずれ治るもので、患者の治療よりもむしろ、泣き喚く親を看ることの方が難儀であった。
 それでも、時には難しい症例の患者もいる。
 あれは七月も暮れゆくある日のことだったか。昨日の雷雨も収まり、秋晴れのすがすがしきこと。昼間、オダケは往診へ出ていた。その日向かったのは、女一人、子が四人の農家で、ここのサネという女は、末の子が産まれてすぐに流行り病で夫を亡くし、女手一つで子らを育てていた。だがサネもあまり体の丈夫なほうではなく、オダケの元へ「かかぁが倒れた!」と言って子供らがかけ込んで来ることもしばしばであった。

「近頃どうもめまいがして、時折、立っていられなくなるのです」
 縁側に腰を下ろすオダケに、茶を出しながらサネは言う。
「そうですか、それはお気の毒に。ちょっと失礼――」
 オダケはサネの体の具合を診た。
「だいぶ疲れておるようですな。充分に休養をとってくださいね。では、今日はいつものお薬と、あと最近になってこんな薬が出来ましてね、なんでも吐き気やめまいに――」

 サネの診察も終わって、帰り路についたときだった。
「おばけ先生!」
 そう呼び止める声がした。見ると、その家のやんちゃな三男坊が走り寄ってくる。
 この「おばけ」というあだ名には、この老医に対する子供らの親しみと、いわゆる「畏敬の念」が込められている。
「おや、どうしたィ坊主、またケンカでもしたのか」
 オダケは屈んで尋ねた。その坊主、ブンタはオダケの腕を引きながら言った。
「ちょっと話したいことがあんだ」
 そうして、オダケを近くの大きなクスノキの下へ連れて行った。
「――で、今日はどうされましたかな」
 オダケは先ほどまでとは打って変わり、いかにもといったふうの医者の口調で話した。ちょっとおどかしてやろうと思ったのだ。ブンタは少し怖がっているのか、うつむいている。
「先生……昨日、すごい雷があっただろ」
「ありましたなァ、いやあれはすごかった」
「そんでな、そん時にな……雷様にへそをとられちまったんだ」
 ブンタは相変わらずうつむいていた。
「ふむふむ、へそをねェ――」
 オダケは別に驚くことも無く言った。「どれ」と言って、ブンタの着物の襟元を広げ、腹をみた。なるほど、へそは無い。
「雨のなか裸で走りまわっていたのか」
「そ、そんなことしてねェやィ!」
 ブンタはムッと頬を膨らました。オダケはカッカッと笑った。
「分かったよ。そんなら、何があったか話してみろ」
「別に……オレはただ、家にいただけだよ」
「何をしていた?」
「……ケンカ」
「誰と」
「かかぁ」
「どうして」
「だって、かかぁはいつもキスケに味方すんだ。『お兄ちゃんでしょ!だったらキスケに貸してあげなさい』とか『お兄ちゃんなら我慢しなさい』とか言ってよ、笛も竹とんぼもオレが作ったのにさ……。どうせ、かかぁはオレのことなんかどうだっていいんだ」
 事情は大体分かった。この年の子にはよくあることだ。ここで「そんなことはないだろ。お前の母ちゃんはな――」と言って諭すことは容易である。しかし、それではへそは戻らないだろうし、わだかまりも残る。
 彼はなぜ、雷様にへそをとられたのだろう。『雷の日にへそを出していると、雷様にとられるぞ』とは昔からいわれているが、雷様だって神様である。そこにむきだしのへそがあったからといって、むやみにとっていく筈はない。そもそも、なぜよりによって「へそ」なのか。へそをとられたからって、別に飯が食えなくなるわけでもない。
「――お前、雷様からへそを取り返したいのか」
「あたりまえだよ」
「どうして」
「どうしてって……」
 ブンタは少し考えた。
「……だって、川遊びなんかする時に、皆からからかわれちまうよ」
 そう、へそが無くて困ることといったらその程度なのだ。なぜ雷様は、そんなものをとるのだろう。へそにはどんな意味があるのか。
 しかし、そんな問答は大人の理屈である。
「そうか、それなら少し考えてみよう」
 そう言って、オダケはブンタと別れた。

 庵に戻ったオダケは、部屋の隅に積まれた医学書や見聞録、辞典、それにほこりをかぶった風土記まで読みあさり始めた。
 へその医学、へそに関する言葉、へそのいまむかし、へそを喰う河童の伝説、出べそのブンゴロウの話……
 いつの間にやら日は暮れ、犬の遠吠えもひとしきり、草木までもが床についたころ、オダケはようやく書物から顔を上げた。まったく、御年八十とはとても思えぬ体力である。これなら、子供らのいう「おばけ」というあだ名にも、少し信憑性がある。無論、彼はしっかり二本の足で立っているが。
 オダケは一つの仮説を立てていた。
 へそとは即ち、へその緒が繋がっていた跡、胎児が母親と繋がっていたことが体に現れる唯一のものだ。それをとってしまうということは――
 
 朝になって、オダケは再び件の家を訪ねた。
「ごめんください」
「はい」
「朝早くから申し訳ない。オダケです」
 サネが戸をあけた。
「あら先生、どうなさったんですか」
「ブンタはおりますかね」
「えぇ、奥で寝ておりますよ」
「あぁ、それなら――」
 結構です、また後で来ます、と言うつもりだった。
「ブンタァ!」
 遅かった。
「ん〜、なんだよかかぁ……」
 奥から眠そうな声が帰ってきた。
「オダケ先生があんたにお話があるそうよ」
「朝からおばけなんて出ないよ……」
 寝ぼけた声だ。
「早くしないと、先生に注射をお願いしますよ!」
 寝巻き姿でとび起きてきた。
「……いや、すみませんね。では、しばらく息子さんをお借りしますよ」
「ええ……あの、先生?ブンタが何か病気にでも……?」
 サネは心配そうに尋ねた。
「いえいえ、心配御無用。ちょいとばかし話すだけですよ」

 オダケは、昨日と同じクスノキの下でブンタと話した。
「へそを取り戻せるかもしれん」
「え、ほんとか!」
「あぁ。だが、努力と運が必要だな」
「どりょくとうん?」
「まずは、お前さんが母ちゃんに孝行することだ」
「……なぁんだ、お説教か」
 ブンタはふてくされて、そっぽを向いた。
「年寄りの話は最後まで聞くもんだ。いいか、ブンタ、へそってのは何だと思う」
「えぇっと……」
 ブンタはふくれながらも、首をかしげた。
「赤ん坊がまだ母ちゃんのお腹ン中にいる時に、へその緒ってので母ちゃんと繋がっていて、産まれてから緒が取れて、で、その跡がへそだ、って前に和尚さんが言ってた」
 なかなか学のある子だ。
「その通りだ。へそは、お前が母ちゃんの子供だっていう証拠だ。じゃあなんで雷様は、へそをとっていかれたんだ」
「……オレがかかぁとケンカしたから」
「少し違う。お前が、母ちゃんは自分のことなんてどうだっていい、と思っていたからだ」
「どういうこと?」
「言っただろう、へそはお前が母ちゃんの子である証拠なんだ。それがないってことは、お前はいったい誰の子なんだろうなァ?」
「か、かかぁの子に決まってらァ!」
「なんでそう言えるんだ」
「なんでって、そりゃあ――」
 ブンタは言葉に詰まった。
「何を努力すれば良いかは分かったな。で、問題は『運』のほうなんだが……」
 オダケは、もう白髪も少なくなった頭をかいた。
「なにせ、もう秋だ。雷様だって、そろそろ寝ちまうころだろう。そうなると、次の夏まで待たなきゃならん」
「……」
「雷様が来たとしても、せいぜいあと一度だ。それまでに、『努力』しなくちゃな」
「オレは別に……」
 ブンタはうつむいている。オダケは、ブンタの頭に手を置いた。
「まァ、お前が母ちゃんの子じゃなくたっていいと言うなら、家に帰って寝なおしたっていい。自分で考えるんだ」
 そう言って、オダケはその場を後にした。

 一週間後、激しい雷雨となった。
 それが明けると、世はすっかり秋である。

「近頃は体の調子も良いし、子供たちも手伝ってくれて、助かっております」
 縁側に腰を下ろすオダケに、茶を出しながらサネは言う。確かにサネはこのごろ顔色もよく、声にも活があった。
 オダケは、お構いなく、と言いつつも、まだ湯気の立つ湯呑みに口をあてた。
「それは結構なことですが、油断はなりませんぞ。都のほうでは、コロリなる病も流行っていると聞きます。充分に気をつけられることです」
「承知いたしました。本当に、いつもお世話になっております」
 サネは微笑みながら、深々と頭を下げた。

 帰り路、オダケは遠くにブンタを見つけた。
「あ、おばけせんせーい!」
 ブンタが気づき、笑顔で手を振っている。肩には竿に桶を括りつけて担いでいる。
 水汲みの帰りであろうか。
2010/01/11(Mon)18:14:50 公開 / 星遼介
■この作品の著作権は星遼介さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
こんにちは
ずいぶんと前(2年前くらい?)に「不翔鳥」という名前で、ショートショートを2編ほど投稿した者です。まだ中学生だったので、それはそれは恥ずかしい作品を投稿したものです。もっとも、誰かの記憶に残るほどのものでもないので、誰も覚えていらっしゃらないでしょうが(^^;)
まァそんなことはどうでもよくて……

いかがでしたか
これはある漫画からヒントを得ました。時代設定や人物の雰囲気も似せているので、ピンとくる方がいらっしゃるかもしれません。
思い立ってからものぐさに書くこと早半年(笑)
「大人の童話」を目指して書きました。少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
この作品に対する感想 - 昇順
こんにちは! 羽堕です♪
 昔から、よく言われている事が実際の病気だったらという発想も面白くて、治療法もなるほどなって思える物で良かったです。後半少し老医という雰囲気が出ていなかったように思います。
 漫画などから刺激を受けたりヒントを得るのは、よくあるし良いと思うのですが、それに似せようとする必要はないと思いますよ。
であ次回作を楽しみにしています♪
2010/01/12(Tue)19:27:300点羽堕
羽堕さん、感想ありがとうございます
 実は、この調子で同じシリーズをいくつか書いてみようとも思ったこともあるのですが、マンネリ化しそうなのでやめました。
 ご指摘について
 そうですね……元々あまり年齢を感じさせない方針だったのですが、それにしても後半の挙動には再考の余地がありますね。
 あ、ヒントを得た漫画に「似せようとした」と言うよりは、その雰囲気が好きなので「似せてみた」のです。ご了承を……。

ありがとうございました
2010/01/16(Sat)11:56:000点星遼介
作品を読ませていただきました。大人の童話と言うよりは寓話のような印象を受けました。物語自体は木訥とした雰囲気の中で淡々と進んでいって面白かったです。ただ、冒頭でおかしみのある事例を出していたのですから、本編の中にもおかしみの要素が欲しかったかなぁ。私個人としてはイタロ・カルヴィーノのような毒のある寓話が好きなんですけどね。では、次回作品を期待しています。
2010/01/19(Tue)23:05:430点甘木
こんにちは。
発想が面白いですね。日本昔ばなしのような雰囲気で、病気の治療も面白かったです。よく纏まったお話でした。
では、次回作、お待ちしております。
2010/01/20(Wed)00:44:380点ミノタウロス
合計0点
名前 E-Mail 文章感想 簡易感想
簡易感想をラジオボタンで選択した場合、コメント欄の本文は無視され、選んだ定型文(0pt)が投稿されます。

この作品の投稿者 及び 運営スタッフ用編集口
スタッフ用:
投稿者用: 編集 削除