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『小説を書く男』 作者:勿桍筑ィ / ショート*2 ショート*2
全角2780.5文字
容量5561 bytes
原稿用紙約7.8枚


 目の下にクマが出来ている。夜遅くまでゲームをして、そのまま朝を迎えてしまったのだ。不細工な顔であると自覚しているが、今はそれよりも増して不細工な顔である。笑顔を作るが、気味が悪い。こんな時間に鏡など見るものではない。時計は、朝の五時を指している。
 眠たいかと問われれば、確かに眠い。しかしながら、どう説明していいのか、眠気を通り越してどこか別の次元に逝ってしまったような感じで、勿論服用したことはないが、違法薬物を摂取したときに得られるという快感に似ているのかもしれない。とはいっても、これは快感というより、何か別のものである。――そう、テンションはハイ。想像力も増す。この状態なら、きっと小説も書けるだろう。そう思い、パソコンを急いで立ち上げる。
 パソコンの立ち上げには、時間が掛かる。こう眠気が度々訪れる時は、この時間がいやに長く感じるものだ。
 やっと、立ち上がったパソコンの画面を眺めて、ワードを起動させる。
 真っ白な画面が出てくる。ローマ字記入にし、書き始めようとキーボードに手を置く。
 小説のイメージがどんどん頭の中に沸き上がってくる。どれにしようか。頭の中でイメージを選ぶ。恋愛かホラーかSFか――。よし、今回はSFにしよう。SFは以前書いたことがある。ごく普通の青年が、山奥にある村で起こった事件を解決していく中で、犯行が人間業ではないことが判明していき、非科学的な事柄が次から次へと起こっていくという内容だ。ミステリーとSFを織り交ぜてしまったことにより、最終的には自分でもどうすればいいのか分からなくなり、完結することなく放棄してしまった。
 今回は、恋愛とSFを織り交ぜようと思う。まずは、設定を書くことにする。

 ――――どこにでも居る中学三年生の田中浩之(たなかひろゆき)は、ごく普通に毎日が過ぎていくことに飽き飽きしていた。どこかにこの平凡をうち破る何かが落ちていないものか。(――その平凡で平和的な生活を享受しようとはせず、好奇心溢れる生活を望むなんとも贅沢で、中学生らしい脳味噌の持ち主の少年が主人公だ)
 ――――そんな浩之の通う中学校に、ある日不思議な女の子が転校してくる。どう不思議かというと、容姿も性格も行動もすべて自分と、また周りの友人達とは全く違うものだった。どう違うか。(――それが問題だ。どういう行動が、一般の中学生とは違うと、違和感を覚えるだろうか。結論からいえば、女の子はロボットなのだ。しかし、見た感じは普通の女の子だ。しかし、行動には違和感がある。……ん? 矛盾していないか? そもそも見た感じ普通の女の子だったら、違和感を覚えないのでは? いやいや、考えるのは止めよう。今は、考えるとイライラしてくる。寝ていないというのは、想像力を沸き立てるが、同時に深く考えることが出来ない。俺はできない)
 ――――とにかく、その女の子は普通の女の子とは違っているのだ。それに、なんらかの感覚で、浩之は気付く。(そうだ! 「何らかの感覚」で気付くのだ。我ながらなかなかのアイデアじゃないか)
 浩之は、女の子を家に招き、襲うことにした。(――いやまてよ、過激になりそうな気もする。だが、これには訳があるのだ。襲って、この女の子はどのような反応を示すか。ロボットなら、強烈な攻撃をされるだろう。そういう単純な考えだ。レイプとかセックスとか知らないだろう、中学生が。否待てよ、じゃあ何で襲うんだよ。矛盾しているじゃないか。いやいや、今は考えるのは止そう。だめだな、どうしても考えてしまう。いや、考えて正解だ。なぜなら明らかな矛盾が生じているのだから。しかしながら、今は考えるのは止めておこう)
 ――――ロボットだと判明した女の子。そんな非日常的なことが本当に起こってしまった。普通なれば、この女の子の存在など忘れようとするか、ロボットなので解体してしまうかするだろう。しかし、浩之は非日常的な事を待ち望んでいたのだ。(――待て、さらさらと解体と書いたが、解体ってなんだ。ロボットとはいえ、女の子だぞ。それを解体するって。浩之が一番非日常的じゃないか。まあまあ、これも後で考えることにしよう)
 ――――ロボットだと分かったとしても、日常はそうは変わらなかった。想像していたものよりも、かなり普通の日常が流れる。周りの友人達は、女の子のことになんの異常も感じることなく接しているのだ。ロボットだと気付いているのは浩之だけであった。至って普通な日常を送っていくうちに、浩之もロボットの女の子のことを、普通の女の子として扱うようになり、あれほど非日常を望んでいたのが嘘のように毎日を楽しんでいた。(――ここで、なにかSF的なことを起こさないとな。このままだと、SF感が全くないものになってしまう。唯一、女の子がロボットということがSFだ。SFになっているのか?)
 ――――浩之の前に、ある日ピンク色のスーツを着た謎の男が姿を現す。男は「彼女を返してもらうぞ」というのだ。彼女? と聞くと「彼女の性能はまだ表に出してはいけない」といい、性能と言うところで、彼女とはあのロボットの女の子だということに気づく。彼女に何をするのだと聞けば「彼女は表に出してはいけない」とそればかり繰り返す男。彼女を守らなければ。浩之はそう心に決意する。彼女を守るために、ピンクのスーツを着た男と対決することになる――――。

 まあざっとこの程度かな。よし、書くとしよう。
 なかなか面白い作品になりそうだぞ。うまくいけば、どこかの賞に応募してみるのも面白いかもしれない。
 再び、パソコンに向かい、キーボードに置いた手を動かす。
『俺の名前は田中浩之、ごく平凡な中学三年生だ。みんなからはヒロ君と呼ばれている。おっと、自己紹介はこの辺にしておこうか。ん? どういうところが平凡だって? ジョニーズジュニアに居そうな容姿で、背は低い方だ。好きな食べ物はカレーで、嫌いな食べ物は雀の丸焼きだ』
 ああ、眠い。――一度寝てから、書き出そうかな。このまま起きていても、行き詰まってしまう。それに、矛盾も訂正しないと。
 一度、パソコンの電源を切り、勢いよく布団に潜り込む。そのまま目を瞑れば、すぐに寝入ることができる。起きたら、俺の世界が動き出すぞ! ピンクのスーツの男って一体何だ? ピンクっておかし……いだ……ろ――――。
 
 なかなか良い小説が書けたのではないだろうか。文学賞には応募できないが、何人かの人かを楽しませることは出来るだろう。こんな稚拙な作品を書いて、文学賞に応募しようと考えている人物のある数時間の物語。主人公の年齢を書くのを忘れていた。それは――まあいいだろう。

 そう最後に書き記し、パソコンの電源を落とした。
 
 


     了
2010/01/11(Mon)11:01:22 公開 / 勿桍筑ィ
■この作品の著作権は勿桍筑ィさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
お久しぶりの方は、お久しぶりです。はじめましての方は、はじめまして。勿桍筑ィと書いて、ぶろんでぃと申します。
久々に投稿しました。最後に投稿してから二年くらいかな?(笑)
知っている方、覚えてくれている方はすくないでしょうね。
久々なのに、おそらく一読では理解できないだろうなあっていう作品を投稿してしまいました。しかしながら、感想がほしい、指摘がほしい、そいうわけで投稿した次第です。

作品を読まれたこと前提で話しますが、これは一応、三重で騙しているつもりであります。
簡単に言いますと、SF恋愛小説を書く男を書く男を書く男の物語です。
ややこしいですが、そういうことをしたかった訳です。(おそらく騙し切れていないだろうと思います)そこで、アドバイスをいただきたいのです。どのようにしたら、三重の騙しを利かせることができるのか。

騙された〜という方は、騙されたとでも書いてください。作者は喜びます。
まったく騙されなかった方は、どうかアドバイスください。
また、普通の感想(感想のみ)もお待ちしています。
それでは、また。
この作品に対する感想 - 昇順
 こんにちは。はじめまして、だと思います。お名前は拝見しておりました。

 騙された、と言えば騙されたのですが、「小説を書く男」というタイトルを見た時点で、「これは、なにかメタレベルの遊びをやっている小説だなあ」と分かってしまうわけで、一旦その基本構造が見えてしまうと、もはや、それがたとえ何階建てになっていようと、あまり驚きは無いのではないかと思うのです。書くことについて書く小説、というのは昔からたくさんありますし……。
 それぞれの階層に、もっと異なった味わいや特徴があれば、万華鏡みたいに楽しめるかな、と思いますが、この長さでは難しいかも……というのが、僕の率直な感想です。失礼しました。
2010/01/11(Mon)11:28:480点中村ケイタロウ
>>中村ケイタロウさん
早速の感想指摘ありがとうございます。
なるほど、タイトルがまずだめということですね。
そうですね、確かにこの手の作品、一度構造が読めてしまうと大抵の場合分かってしまいますもんね、上手い方であれば、それの読みもひっくるめて騙してしまうことが可能なのでしょうね。もう少し内容を細やかに吟味し創造していく必要があるというわけですね。
酷評ありがとうございました。次回もお目にしましたら、よろしくお願いします。
2010/01/11(Mon)12:15:280点勿桍筑ィ
 はじめまして。作品読ませていただきました。
 この作品の場合、SF小説を書いている男と、その男について書いている男(もしくはその背景となる世界)の違いが全く感じられないので、多重構造になっていることの意味があんまり感じられませんでした。例えば非常にベタですが、男について書いている男のほうは22世紀の作家で、20世紀のSF作家についての評伝を書いている(つまり小説全体が実はSFである)のだとか、何かそう言った仕掛けがあれば意味が出てくるのじゃないかと思います。やっぱり、最後の数行で処理してしまうのは無理があるのではないでしょうか?
2010/01/11(Mon)18:25:310点天野橋立
こんにちは! 羽堕です!
 オチまでは分からなかったので騙されたのですが、でも驚きというか「そうだったのか!」みたいな気持ちは少なかったかもです。でも文章を書きながら、それに自分で「でも変だろ」とか思いながらも書く所などは、何か分かる気がしました。
 他の方の感想にもあるように、それぞれの世界観とか立場(囚われて無理矢理に書かされているとか)などの変化があったら、良かったのかなと思いました。
であ次回作を楽しみにしています♪
2010/01/12(Tue)15:53:560点羽堕
拝読しました。水芭蕉猫です。にゃあ。
うーんと、騙されたと言われれば騙されたのですけれど、結局のところどこに騙されたのかいまいちよく解らなかったので、いまも漠然と「???」という気持ちのほうが多いです。隠された部分がわかってこそのアハ体験。私の場合は隠された部分すら解らなかったので、それを理解できるようにする構造ならもっとびっくり出来たかもしれません。でも入れ子構造物語自体は好きです。
2010/01/12(Tue)22:04:060点水芭蕉猫
はじめまして勿桍筑ィ様、もげきちと申します。作品拝読させて頂きましたー
うーん、騙すと言うには結が「あー、なるほどね」で終わってしまう弱さを感じました。自然に終わり過ぎてるからかな? で、この構図面白いのですが、結局SFを書こうとしている男を書いている男の世界もそして作者様の世界も土台が同じだから、騙すというよりもあるある系だなーって思いました。
というか若い頃の自分→ある程度落ち着いた自分→今の自分(でも結局成長してない)。とかそんな感じに見えちゃう自分は、きっと冒頭の男のような生活をしておいるからに違いない! えへえへ。
でもこの話が他の皆さんが仰るように「違う時代に資料を通して」そのまま書くとしたら逆にリアリティあり過ぎるのが不自然に浮いてくると思うので、この長さでは厳しいかもしれませんね。というか、自分は勿桍筑ィ様のこの作品にそれほど「騙そう」という意思はあまり無く、こういう構造楽しいよね。という感覚が見えている気がしているのですが……あとがきに書かれている程、そこまで「騙す」に重きを置かれていたのかな? って、すみません新参者がナマイキな事を(汗
ではでは、長々と失礼しました。色々書いてしまいましたが次回作も楽しみにお待ちしております!
2010/01/14(Thu)21:47:340点もげきち
 はじめまして。勿桍筑ィ様。上野文と申します。
 御作を読みました。
 半ばくらいでネタが割れてしまうので、新鮮な驚きはあまり感じられませんでした。
 でも、楽しくないわけじゃなくて、こう苦悩する田中さんを身近に感じることが出来ました。年齢の設定を忘れたって”オチ”は、結構ひねり効いてると思うのですが、もうワンパンチ欲しかったです。
 面白かったです。
2010/01/16(Sat)21:39:540点上野文
作品を読ませていただきました。入れ子細工的な構成はすぐ感じてしまうから意外性は少ないのですが、作中の書き手には親しみと同期性を感じます。ラストの1文は飄々としたおかしみがあって良かったです。作品としてはもう少し長くして、複数の物語を平行させて書いていっても面白かったと思います。では、次回作品を期待しています。
2010/01/18(Mon)07:52:040点甘木
>>天野橋立さん
時間軸をずらして書けばいいということですかね。あと、最後の数行での表現は、私のようなへたくそでは難しいでしょうね。やっぱり。
お読みいただきありがとうございました。次回もお願いします。

>>羽堕さん
お久しぶりです。
驚きを与えられなかったというのはとてつもない失敗です。
やはり、キャラ設定がまず根本から間違っているということでしょうね。
お読みいただきありがとうございました。次回もどうかよろしくお願いします。

>>水芭蕉猫さん
にゃあ(笑)。
せっかく構造は好きだと言っていられるのに、スカっと騙せなかったのは残念です。
私に問題があるのは言うまでもないことです。
騙すとしても、どこを騙したのか、どう騙したのかあとあと、考えさせるような作品にしないといけませんね。
お読みいただきありがとうございました。次回もどうかよろしくお願いします。

>>もげきちさん
はじめまして。
ああ、確かに言われてみれば楽しいよね?っというような気持もなくはないです。でも、騙す気持ちもあります。が、やはりそれが弱いのでしょうね。
長く丁寧に書いてくださり、うれしいです。ありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。

>>上野文さん
はじめまして。以前から登竜門ではお名前を拝見しておりました。
途中でネタばれしてしまい、新鮮さを感じさせられなかった。まさしく失敗ですね。
もうワンパンチ足りなかったのもその辺りから来るのかもしれませんし、技量にも問題はあるのでしょう。
お読みいただきありがとうございました。次回もよろしくお願いします。

>>甘木さん
なるほど、並行して複数の物語をですか……、やはりこの手の作品は難しいのですね。簡単だと高をくくっていたせいだ……、次回挑戦の時は頑張ります。
お読みいただきありがとうございました。次回もどうかよろしくお願いします。

皆様感想のほうありがとうございました。
久々に投稿して、こんなにも感想をいただけるとは感動です。
その感動を作品のほうにも反映させていきたいです。
次回作品もどうかよろしくお願いいたしします。では。
2010/01/18(Mon)22:23:220点勿桍筑ィ
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