- 『悪(あく)』 作者:壊れたマリオネット / ショート*2 サスペンス
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地球上で最大のテロリスト〈Yun〉。その〈Yun〉を捕まえるべく結成された全大陸治安自治会。42度目のテロが起こり会議が行われた。そんな中、次なる犯行予告テープが全大陸治安自治会に送られてきた。 悪の塊〈Yun〉の意外な正体と動機とは!?
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悪。それは自分も他人も壊す。
悪。それは世界を混乱に導く。
西暦23××年。地球は環境も良く、人間が住める星としては文句の無い星だった。この地球上には国が三つだけとなって
いた。右大陸国。中大陸国。 左大陸国の三つだ。
昔の日本は中大陸国に入っている。昔の地球とは全くの違いであった。
中西 ユンはある野望を抱えていた。この地球を壊すことだ。そして遂にこの野望は実行に移されたのだった。
『ニュースです。今度は左大陸国のカーリオン州が〈Yun〉と思われるテロの被害にあいました』
これで42州が〈Yun〉のテロの被害を受けた。全大陸治安自治会は世界中からテロ対策に有能な人員を集め、〈Yun〉特別
撃退会を設立した。〈Yun〉の手口はいたって巧妙で大胆だ。
今回のカーリオン州でのテロはわざわざ犯行予告までをしている。しかし、いくら対策をしても死者は一万人程度出てし
まう。顔を出したビデオを全大陸治安自治会に送ってきたこともある。その時に自らの名前を〈Yun〉と名乗ったのだ。
「エリカンディ総監!〈Yun〉から新たな犯行予告が届きました!」
会員のハリンが一本のテープを持って特別会議室に入ってきた。
「何!?今日テロを起こしたばかりだろ?」
エリカンディは驚いた顔で言った。周りの会員もお互いの顔を見合っている。しばらくざわめきは続いていたが俺は冷静
だった。あいつならやりかねない。そう思ったからだ。
「総監。とりあえずそのテープを見てみましょう」
俺は冷静な口調で言った。その言葉にエリカンディは賛同しさっそくそのテープをデッキに入れた。
『全大陸治安自治会の皆さん。〈Yun〉です。来月の四日、ジャポン州をテロします。詳しい場所は教えられませんが心して
くださいね』
ここでテープが終わった。テープには〈Yun〉の顔も映されていた。
「全くふざけてやがる」
会員のマルカイが隣で呟いている。俺もそれは思った。
ジャポン州は昔で言う日本の事だ。今は州として成り立っている。昔で言う市町村だ。
「総監。ジャポンは私の母国です。私に指揮を取らせてください」
俺は立ち上がって頭を下げた。
「ウム……そうか、河本君はジャポン州の人間か」
エリカンディは顎鬚を撫でながら続けて言った。
「よし、君に指揮を取ってもらおう」
「ありがとうございます!」
俺は頭を深く下げて礼を言った。その後、会議は終わり俺はすぐにジャポンで州議会を開いた。
やはり最善の策はジャポン州の人間を全員避難させることだろう。だが、それにはかなりの時間を費やす。一ヶ月じゃほ
ぼ無理だ。今までの〈Yun〉の犯行傾向は爆弾による同時多発テロが圧倒的に多い。しかもその州の大きいビルを爆破するの
で膨大な人数の死者が出てしまう。そこでジャポン州議会では、大きいビルのある地域から半径3キロ地点の住民を避難させ
る対策をとる事にした。
一ヵ月後の四日。つまり二月四日にテロが行われる事になる。〈Yun〉も今更爆弾を移動させる事は出来ないだろう。
そして一ヵ月後、俺の考えは大きく裏切られた。
「あぁ終わった」
俺はテロ現場を見て膝から崩れた。テロ現場はビルでも都会でも無い。俺の自宅付近の家だった。無論俺の家も含まれて
いる。妻と子供。家族をみんな失った。
その日のうちに全大陸治安自治会議が開かれた。俺は頭が真っ白になっていた。
「河本君。家族を失って悲しいのは分かる。私も同じだからな」
エリカンディは悲しそうな目で俺を見た。俺は小さく頷き顔を上げた。
「私だけではありません。あそこの周りの人たちもみんな死んだのです」
エリカンディの家族も三十年前に殺されていたのだ。俺はそれを知っているからエリカンディは俺の事を真剣に心配して
くれる。総監としての能力はもちろん、人間としてもとても優れた人だ。
「河本君の対策は合っていたと思う」
エリカンディはそう言い立ち上がった。そして会議が終わった。
〈yun〉は本物の悪だ。たぶん動機は無いのだろう。ただ人を殺すのを目的にしているだけの悪だ。
俺は目を瞑りテロが起こるまでのことを整理してみた。
まず犯行予告が届き。俺は州会議で一週間に渡って対策を練り、総監に助言をいただいた。それからビル周辺住民を避難
させ、これで万全だと思っていた……。だがダメだった。テロは俺の自宅で起きたのだ。すると〈Yun〉は俺を殺そうとして
いたのか?つまり俺の家に〈Yun〉が侵入したことになる。だがセキュリティは万全だった。すると〈Yun〉は俺の身近にい
る人かもしれない。テロが起きるまでの一ヶ月。自宅に訪問してきたのは友人の金田と会員のジョンとペライシャル。それ
に総監。あとは州議員の松島と勝俣だ。この中に〈Yun〉が居るとは思えない。やはり思い過ごしか。
そう思ったそのとき、俺の中で一つの仮説が浮かんが。俺は急いで確認するべく、今までテロにあった州のトップに電話
した。そして、仮説は見事に証明されたのだった。
一週間後。再び〈Yun〉からの犯行予告が届いた。今回は手紙だった。
『一週間後テロします』
これだけが書かれていた。全大陸治安自治会議を再び開き、話し合った。
「今回は州も書いていない」
エリカンディは頭を抱えながら唸っていた。俺は静かに言った。
「大丈夫です総監」
この言葉にエリカンディは驚いた表情を見せた。
「どういう事だね河本君」
「〈Yun〉を捕まえたんですよ総監」
別の会員が静かに言った。
「本当か?今はどこに居るんだ?」
総監は興奮気味に言った。俺は心の中でゆっくりと深呼吸をして言った。
「ここですよ」
地面に指差しながら俺は総監のほうを見た。エリカンディは不思議そうな顔で俺を見た。
俺はエリカンディの反応を見てこう言った。
「まず〈Yun〉の犯行はすごすぎるんです。最初のほうは仕方ないとして多くのテロが起きればある程度次の犯行場所が見え
てくるはずです。だが〈Yun〉は違う。見事に裏をかき続けているんですよ」
俺はそう言って世界地図を出してホワイトボードに張った。
「ここにはテロ被害州の州に丸が付いています。この地図を見た限りでは分からないと思いますがある共通点があるんです
よ」
俺はもう一枚の紙を貼った。
「全大陸治安自治会参加州。そう、今まで被害にあった州はすべてこの会に参加しているんですよ。そこで一つの仮説が出
てくる」
俺はそう言い総監に指差した。
「その仮説は見事に証明できましたよ総監……いや、〈Yun〉!!」
この言葉に総監は動揺を隠しきれない。明らかに挙動不審であったが俺は続けて説明した。
「あなたは全大陸治安自治会参加州だけを狙い、いつでも対策を州のトップから聞けるようにした。このことは他の被害州
のトップから確認済みです。つまりあなたにはその裏を作れる機会があったんですよ」
「総監!何か言ってください!」
他の会員から口々と言葉が飛んでくる。
「動機は何ですか総監!」
俺も自然と言葉が出た。これが一番聞きたかったからだ。エリカンディはその問いを明かした。
「三十年前。私の家族は中西 ユンという男に殺されたんだ。私は護身用銃で彼を撃った。バレルのが怖くて彼をバラバラ
にして捨てた。そこで私は思ったんだ。中西のようなやつがこの世に多くいるはずだ。だったら全ての人間を消してしまお
うとな」
エリカンディの動機にのどを詰まらせた。愛する人を殺された憎悪はとんでもない方向に向いてしまった。
「私も多くの人を殺してきた。だが最近は私自身に憎悪を感じるようになったんだ」
この言葉に俺は敏感に反応した。
「まさか一週間後の犯行は!!」
「そうだよ河本君……この全大陸治安自治会堂だよ。そして最後の犯行だ」
その瞬間俺の意識は肉片とともに散った。
本当の悪などいない
必ずしも悲しい過去がありその過去が悪意と憎悪を造る。
悪。それは悲しみと憎悪の集合体……。
完
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2010/01/04(Mon)02:10:00 公開 / 壊れたマリオネット
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■作者からのメッセージ
文章も内容も下手くそではありますが暇なときに目を通してください。
今回が始めての小説作品ですので大変でした。