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『生徒会長探偵日巫女 「消えた焼きプリンの謎」(完結)』 作者:プリウス / ミステリ 未分類
全角61668.5文字
容量123337 bytes
原稿用紙約179.7枚
【読む前の注意事項】1.これは学園ラブコメミステリィです。深遠なテーマや高尚な思考は絶無です。2.この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは関係ないどころか、プリウスの他作品との関連もありません。
chapter01

「ふああ、ねむ……」
 のっけから失礼。しかしあくびの一つや二つ、許してほしい。なんせ今日は早起きだったのだから。うん、それも尋常ではない早起き。いやそれは言いすぎかな。しかし僕にとっては言いすぎというわけでもない。
 僕は今、生徒会室で仕事をしている。何の仕事かって? 簡単に言うとクラブ活動の予算の仕分けだ。ここ私立八島学園は中高一貫の超進学校である。……なんて言って、別に自慢しているわけではない。うちの学校は確かに進学校だけど、僕自身は決して勉強が出来る方ではない。かと言ってスポーツもそれほどでもない。言ってしまえば、どこにでもいるごく普通の一般的男子高校生というやつだ。
 そして八島学園高等部二年生で生徒会の会計係をやっている。生徒会というと、「やっぱりすごい奴なんじゃないか」って目で見てくれる人もいるけれど、それは大いなる勘違いというやつだ。実際のところ、内申点が欲しくて立候補しただけだったりする。そして会計をやりたいなんて言う人は基本的に居ないわけで、自動的に僕に決まったということなのだ。
「あら。一彦さん、寝不足ですか」
 そう言って極上の笑みを浮かべてくれたのは此花咲先輩。八島学園高等部三年で、学園のアイドルである。「学園のアイドル」という表現は誇張でも何でもない。実際、学園内には彼女のファンクラブまで存在し、紳士協定が結ばれているという。彼女の靴箱には常に監視役の人間が付いていて、誰かがそこにラブレターでも入れようものなら恐ろしい制裁が待ち受けているという。
 この咲先輩も実は僕と同じ、生徒会会計係である。聞いたところによると、僕が立候補した次の日に立候補したらしい。その情報は此花咲ファンクラブでもキャッチできなかったらしく、投票日当日に彼らの知るところとなった。もし事前にキャッチされていたら、生徒会会計係は前代未聞の競争率になったことであろう。
「いえ、そういうわけではないんですけどね。こんな朝早くに起きたの久しぶりで。僕、一日七時間は寝ないとダメなんですよ。先輩は全然平気そうですよね。いつも何時に起きてるんですか?」
「私は毎朝、五時には起きていますから、この程度は平気です。今日は会計の仕事のために、お弁当は少しだけ手抜きになってしまいましたけど」
「お弁当ですか? 先輩ってひょっとして毎日自分でお弁当用意してたりします?」
「ええ。千里の分と私のとで二人分を用意しています。と言ってもそんな大したことではありませんよ。おかずは全部、晩の残りですし。お米もタイマーで簡単に炊けちゃいますから」
 すごい。僕は普通に感心した。うちの両親は共働きで、弁当を作る余裕もあまり無い。そんなわけでいつも親からは五百円玉を頂戴し、パンとジュースを買って昼ごはんにしていた。もし僕が毎日自分で弁当を用意していれば、けっこうな家計の助けになったのではないだろうか。
「やっぱりお弁当の方が経済的ですよねー。僕なんか親からお金もらってパンとジュースですから、けっこう負担かけてるのかも」
 すると咲先輩はちょっと考える風にして、
「それなら、一彦さんのお昼ご飯、私が用意してあげましょうか」、などと仰られた。
「え! それって本気で?」
「もちろんですよ。もしお嫌でなければですけど」
 嫌なわけがない。昼ごはんにパンというのは、いい加減飽きていたところだ。天の助けとはこのことか。心なしか咲先輩に後光が見えるような……。
「それはやめといた方がええんちゃうかー?」
 幸せ気分に水を差した男は機織呉羽先輩。八島学園高等部三年で羨ましいことに咲先輩のクラスメイトだ。呉羽先輩は生徒会のメンバーではないが、何故かよく生徒会室に入り浸っている。生徒会長の日巫女先輩と将棋を打っているのをよく見かけるが、わりと古くからの友人らしい。
「やめておけって……、いったいどうしてですの?」
 咲先輩がちょっと不機嫌そうに尋ねる。それはそうだろう。厚意の申し出を横からストップかけられれば、誰だって嫌な思いをするに違いない。
 呉羽先輩は読んでいた文庫本を机の上に置いた。ちなみに文庫本のタイトルは『ヴィヨンの妻』。呉羽先輩、とってもお似合いです。呉羽先輩は咲先輩の方は見ずに僕の方に振り返った。
「よお、考えてみいや。さっちゃんはなんつうても学園のアイドル。そんじょそこらの女とはわけが違う。そんなアイドルが作る弁当。それはいったい何や。ただの弁当か。ちゃうやろ? そんなわけあらへん。それはな、聖餐や」
「は? 凄惨?」
「あほか。凄惨ちゃう。聖餐や。凄惨な弁当ってどんなやねん。そらさすがにさっちゃんに失礼やろが。聖餐っつうのは要するに聖なるご飯っちゅうことや。イエス・キリストが最後の晩餐で、これが俺の体でこれが血ぃやから大事に食えよってパンとぶどう酒を指し示したってのは知ってるやろ? あれのことを聖餐って言うねん」
「はあ、つまり咲先輩の作るお弁当はそれだけ尊いものだってことですか」
 その通りや、と呉羽先輩は腕を組んでうんうんと頷いている。咲先輩はさっきから呆れ顔だ。それにしても関西弁のイエス・キリストとは、なんとも不思議な感じだ。右の頬を叩かれたら左の頬も差し出さんかい! ……みたいな。
「あのねえ、呉羽。さっきから何をわけのわからないことを言ってるのよ。私のお弁当が凄惨だかなんだか知らないけれど、それと一彦さんにお弁当を作っちゃいけないことにどんな関係があるって言うのよ」
 咲先輩は納得のいかない様子だけれど、僕は分かってしまった。なるほど確かに、やめておいた方が無難のようだ。
 咲先輩は知らないのだ。自分がどれだけ男子に人気があるのか、を。ファンクラブの存在は知っているみたいだけれど、あまり大したものじゃないと思っているようだ。
「えっと、咲先輩。僕やっぱり昼ごはんはパンを買って食べることにします」
「そんな……。一彦さん、どうして」
「いや、やっぱり先輩に迷惑かけるわけにはいかないし。食費だってタダじゃないから」
「そんなことお気になさらないで。お弁当を二つ作るのも三つ作るのも大して変わりませんし。お金もそれほどかかるわけではありませんから」
 僕とて男。学園のアイドルがこんなにも親切にしてくれてるのに、それを断るのは心苦しい。けれど、どんなに苦しくてもこれを受け入れるわけにはいかない。命あってのなんとやらだ。
 改めて咲先輩の容姿を見る。ふわっとした栗色の髪の毛を胸元まで垂らしている。ちょっと太めの眉毛が純朴さを引き立てる。唇も厚く、すねた感じがたまらない。目もぱっちりしていて、ちょっと南国の雰囲気をかもし出している。首から胸元にかけてのラインはもはや芸術の域に達していて、黄金率とかフィボナッチ数列とかそういうのに違いない。そして今、大人としての成熟を強調する最強の兵器がふたつ、威風堂々と……!!
「さっきから何じろじろ見てんのよ、このバカ!」
 後頭部に突然の強い衝撃を受け、机に顔面直撃となった。
「だ、大丈夫ですか!? 一彦さん」
 咲先輩が駆け寄って起こしてくれる。学園のアイドルはいい匂いをしているなあ。
「おーう。ちーちゃんおはよー」
「はい。おはようございます呉羽先輩」
 元気よく応えたこの乱暴女は此花千里。八島学園高等部一年、生徒会の書記係を務めている。名前から察してくれると思うが、この女は信じられないことに咲先輩の妹なのだ。それなりに可愛らしい顔をしているが、何せ人をいきなり後ろから強打するという乱暴な性格。学園のアイドルとなるよりは学園の番長として知られている。ほっそりとした体躯に似合わず、抜群の運動力を誇る。喧嘩で病院送りにした男子生徒数知れず、ともっぱらの噂である。
「千里。一彦さんに謝りなさい。いきなり後ろから叩くなんて、とんでもないわ」
「やあよ。だってそいつ、じーっとお姉ちゃんのおっぱい見つめてんのよ。気持ち悪いったらありゃしないわ」
「な、そ、そんなことしてないって。誤解だよ誤解」
 とは言うものの、内心冷や汗ものだった。千里ちゃんは「ふーん」と疑わしげな目で僕を睨んでいる。呉羽先輩は面白そうににやにやしていた。嫌な先輩だ。
 とにかく話題を変えなくては。
「それにしても千里ちゃん、今日は朝から生徒会室に何の用事なんだい。書記係の仕事か何かを日巫女先輩に頼まれでもした?」
「ううん。そんなんじゃないよ」
 急に何かを思い出したのか、千里ちゃんの顔がにやにやとし始めた。なんだろう。お金でも拾ったのかな。
 千里ちゃんはカバンの中に手を入れ、んっふっふーとよく分からない声を出した。そして「じゃじゃーん!」と叫びながら出したその手には小さな箱。リボンで綺麗に結んである。
「どう? すごいでしょー」
 すごいでしょー、と言われても僕には何が何だか分からない。えっと、リボンを綺麗に結んでいるのがすごいのかな。千里ちゃん不器用そうだもんな。
 周囲の反応がいまいちなのを悟ってか、千里ちゃんが「もーう」と牛の真似をした。
「千年万年堂の焼きプリンだよ、焼・き・プ・リ・ン! すっごく美味しくって、いつもすぐに売り切れちゃうの。だから学校帰りに買おうと思っても、全然手に入れらんないんだよねー。だから今日、朝から商店街まで買い物に行っちゃった」
「へえ、すごいバイタリティだね」
 しかし言われてもいまいちすごさが伝わらない。女の子というのは甘いものに目が無いんだなと思うくらいか。
「てか、ようこんな時間に行って店開いとったな。商店街って岩戸商店街のことやろ? あそこの商店街、この時間に開いてる店なんか無かった気ぃするけど」
「そおりゃあもう。お店の裏口どんどん叩いて、中に入れてもらって、焼きあがるの待って、即行で買って、ダッシュで学校来たもんね」
「へえ、すごいバイタリティだね」
 千里は得意満面の表情だ。
「それで、そのプリンをどうするの? 今すぐ食べる?」
「そんなもったいないことしないよ、お姉ちゃん。今から食べ始めたら、急がないと授業始まっちゃう。これは、放課後のお・た・の・し・み。きゃあ!」
 なにが「きゃあ!」だ。
「成る程な。そんで生徒会室に来たっちゅうわけか。そこの冷蔵庫使えるん?」
 呉羽先輩があごで示したその先、部屋の奥に小さな冷蔵庫がちょこんと置いてある。小さなと言っても大きさは子供の身長くらいあって、それなりの容量がある。
「うん。出来立ても捨てがたいけど、とりあえず置いとくなら冷やさないとダメだしね」
 と言いながら、冷蔵庫の扉を開ける千里。そして中を見て、表情がすっと暗くなった。
「うわー。ごちゃごちゃだ、これ」
「どうしたの? あら、本当」
 咲先輩も冷蔵庫の中を見て顔をしかめていた。僕もどれどれと二人の後ろから冷蔵庫を見てみた。そして二人の表情に納得した。
「これはひどいですね。これこそ凄惨ですよ。冷蔵庫の中、ゴミだらけじゃないですか」
 それはまさに「凄惨」だった。ぱっと見ただけでも分かる、不要品の数々。
「これは空き缶ですね。こっちは空の箱で……、うわ、これ賞味期限いつのだ」
 冷蔵庫の中はケイオス。こりゃあクラブ予算の仕分けより、こっちの不要品の仕分けの方が優先順位高いんじゃないだろうか。
「これはきっと、日巫女ちゃんの仕業ね。もう」
 咲先輩が会長の名前を言う。それはおそらくそうなのだろう。ここしばらく、冷蔵庫は生徒会長の天宮日巫女先輩と副会長の月読竜司先輩が独占状態だったのだから。
「まあ、掃除は後回しやな。さすがにもう時間も無いやろ」
 言われてみると確かに、いつの間にか授業開始まであと十分程度しか残っていなかった。結局、会計係の仕事もあまり進んでいないような……。
「それじゃあ、そろそろ教室に行きましょうか。生徒会の仕事にかまけて学業をおろそかにしては本末転倒ですしね」
 咲先輩がカバンを手にして退室をうながす。千里ちゃんは「はーい」と言って、ケイオスの中に焼きプリンを入れた。この場合、ケイオスと冷蔵庫は同じ意味と捉えてくれればいい。
 そして僕はケイオスの中から取り出していた空き缶ひとつをひょいとゴミ箱に入れる。するとまた後頭部に強い衝撃が与えられた。
「あほか! 空き缶は『燃やさないゴミ』やろが。ちゃんと分別せえ!」
「え、『萌えないゴミ』じゃないんですか?」
「分かりにくい返しすんな。突っ込みしにくいやんけ。今の世界はなあ。地球温暖化なんや! 俺らの地球が住めんようになってまうかもしれんのや。NHK見てへんのか。南極の氷が溶けて白くまさんが絶滅してまうんやで」
「いや、白くまは北極ですよ……」
 なんだか突っ込みどころ満載な気がしたが、とりあえず一番大事そうなところだけ指摘するにとどめておく。
「おお、そういえばそやな。南極に白くまさんがおったらペンギン食い放題やんけ」
 物騒なことを言いながらけらけらと笑う呉羽先輩。
「じゃあ、僕ももう教室行きますよ。呉羽先輩はまだ行かないんですか」
「おう。これもうちょっとで読み終わるから、その後行くわ。鍵もちゃんとかけといたるから心配せんでええよ」
「そうですか。それじゃお先に」
 もはや生徒会役員でないことなど誰も突っ込まないほどに馴染んでいる呉羽先輩なのであった。ちゃんちゃん。


chapter02

 休み時間。
 ほんの少しでも体力を回復させようと、一時間目の授業が終わり次第即睡眠体勢に入るも、すぐ隣に座る天然ドジっ子ロリ少女に体をぐわんぐわん揺さぶられてあえなく断念することとなった。
「ねえねえいちくん起きてよー。さっきのすーがく、ゆめ全然わかんなかったの。だからいちくんに教えてもらわなきゃなの」
 うう……、仕方ないなあ。
 机に突っ伏していた頭をむっくりもたげると、天然ドジっ子ロリ少女であるところの凪澤由愛ちゃんがにぱーと笑った。その愛らしい笑顔に思わず手を合わせてお祈りをしてしまった。
「い、いちくん? 何してるの?」
「いや。いいもの拝ませてもらったなあと思って」
 すると由愛ちゃんは何を勘違いしたのか、「はうっ」と言って両手で胸を抱きしめるようにして隠した。大丈夫、由愛ちゃん。そこには何もないのだから。
「ううー。いちくんはエッチなんだよ。エッチなのはいけないと思います」
「いや、そうじゃないって。僕は単に由愛ちゃんが嬉しそうな顔をしてたから、それを見れてとても嬉しかったってだけなんだ。由愛ちゃんが喜んでるのを見ると、僕もなんだか幸せな気分になるっていうか」
 すると今度は由愛ちゃんは顔を真っ赤にさせて硬直してしまった。
「あうあうあうあう。いちくん、それって、それって……!」
「落ち着け由愛」
 一人テンションを上げまくる由愛ちゃんの頭を数学の教科書でごすんと打ちのめす謎の女生徒が現れた。いや実際には謎でもなんでもなく僕らのクラスメイトなんだけど。
「御鏡さん……。今、教科書の角を使いましたよね」
「ええ。使ったわ」
 悪びれるでもなくそう言ってのける彼女の名前は御鏡アリス。僕や由愛ちゃんと同じクラスに所属する八島学園高等部の二年生。ショートカットとスタイリッシュな眼鏡がチャームポイントだ。巷ではフォン・ノイマンの生まれ変わり、歩くスパコン、電子の魔術師なんて言われている。そんな通り名の示す通り、彼女は学園一の秀才だ。まだ二年生だけれど、全国模試では常に上位に食い込んでいる。学園内で行われる試験はもちろん全て満点。
 だから彼女のことを「天才」と呼ぶ人間も少なくない。そう言う人間に対して彼女は常に反論してきた。「私は天才ではないわ。ただ人よりも記憶力が良くて計算力が高い。それだけのことよ」、だそうだ。
「そうだ由愛ちゃん。数学で分からないところがあるんなら、御鏡さんに聞けばいいじゃないか。実際のところ僕もそんなに数学が得意じゃないし、今日は眠くてあんまり授業に集中できなかったから、うまく説明できる自信も無いんだよ」
「うにゅう。それは無理というものだよいちくん」
「どうして?」
 僕が疑問を告げると御鏡さんが左手で眼鏡を押し上げて言った。
「それは私に、何かを教えるという能力が欠落しているからね。何かを聞いてこられても教科書のページを指し示して、ここに書いてある、としか言えないの」
「ね。だからゆめにはいちくんが必要なんだよ」
 必要なんだよ、と言われても困る。実際僕はさっきも言った通り、眠くてあまり授業に集中できていなかったのだ。確か、「対偶証明法」とかの話だったような気がするんだけど。
「ごめん由愛ちゃん。僕もさっきの授業、よく理解できてないんだ。だから他の人にお願いしてくれないかな」
「うう……」
 由愛ちゃんはなんだか悔しそうな顔をしてぷくっと頬を膨らませた。少しだけ申し訳ない気になったけど仕方ない。どうか赦しておくれよ。
「ところで一彦くん。今日はどうしてそんなに眠そうにしているの。夜更かしでもしたのかしら」
 御鏡さんの表情からは読み取れないけれど、きっと僕のことを心配してくれているのだろう。
「いや、そういうわけじゃないんだ。今日はちょっと、生徒会の仕事があってね。いつもより早起きしなくちゃいけなかったんだ」
「生徒会の仕事って、それほど忙しいもの?」
「意外にね。内申欲しさに立候補しちゃったけど、ほんのちょっぴり後悔してるかな。生徒会の仕事やってる時間を勉強に使った方がまだ効率的な気がするよ」
「気にすることないわ。どうせ生徒会に入らなければ、その時間を遊びに費やしただけでしょうし。ならば少なくとも内申点を狙った方がまだましというものよ」
 さりげなくひどいことを言う御鏡さんだった。
 あれ。ふと顔を教室の扉向けると、そこに見覚えのある顔を見つけた。誰かを探している様子だ。おそらく僕を探しているのだろう。上級生のクラスに入るのはさすがに緊張するのか、ちょっとだけうろたえているように見える。
「おーい、陽太郎くんじゃないか」
 声をかけると彼、宿禰陽太郎くんが安心した顔でこっちに向かってきた。
「先輩。お取り込み中のところ失礼します」
 陽太郎くんはいつも通り、かしこまった態度で僕に接する。彼はいつも誰に対してもこんな感じなのだ。とても高校一年生とは思えないほどの礼儀正しさ。いつも決まりごとをきちんと守るその姿勢にいつしかついたあだ名が「歩く律令体制」。
「うわあ、いちくん。美少年なんだよ美少年。ねえ君、どこの事務所? お姉さん、応援しちゃうよ」
 燦然と目を輝かせてよだれを垂らす天然ドジっ子ロリ少女。
「生徒会の書記だよ。うちの学校の一年生。候補者演説の時に女子の圧倒的な支持を得て、堂々の書記係一位通過。由愛ちゃん、覚えてないの?」
「うーん。体育館でやってたやつだっけ。ゆめ、寝ちゃってたからあんまり覚えてないんだよね」
「はじめまして先輩方。八島学園高等部一年生、生徒会書記係所属、宿禰陽太郎と申します。どうぞお見知りおきください」
 そう言ってぺこりと頭を下げる陽太郎くん。由愛ちゃんも慌てておじぎを返す。御鏡さんは、何か値踏みするかのように陽太郎くんを見ていた。どうしたんだろう。やっぱり電子の魔術師も美少年には弱いのかな。
「それで、陽太郎くんは僕に何か用があって来たんじゃないかな?」
「ええ、そうです。実は会長より指示がありまして。今日の昼休み、役員は生徒会室に集合するように、とのことです」
「ああ、そうなんだ。わざわざ言いに来てくれてありがとう。でも、そのくらいなら電話かメールで済ませてくれれば良かったのに」
「いいえ。今回は緊急の呼び出しですから、確実に伝えるために直接うかがいました。それに直前の指示をメールで済ませてしまうのは失礼かと思いまして」
 なんとも律儀なことである。さすが歩く律令体制。
「それでは、あと此花千里さんにも伝えなくてはいけないので、これで失礼させていただきます。ではまたのちほど」
 そう言って陽太郎くんは教室から出て行った。
「うにゅう。あんな美少年とご一緒できるなんて、うらやましい。うらやましいよ、いちくん!」
「由愛。よだれが垂れてるわよ」
 御鏡さんがハンカチで由愛ちゃんの口許をふき取る。
「まあ確かに彼は男の僕から見ても綺麗な顔立ちをしているからね。すごく礼儀正しいし、あれでけっこう気配りも出来るから、好きになる女の子も大勢いると思うよ」
「うーん、そっかー。ならやっぱり彼女の一人や二人、いてもおかしくないよねえ」
 由愛ちゃんは肩を落としてため息をついた。
「それがそうでもないらしいよ。確かに陽太郎くんは女の子に人気だけれど、浮いた話はひとつも聞かないんだ。なんでも女の子からの告白は全てことごとく断っているらしい。ラブレターに対しては必ず断りの返事を、直接言ってくる子にはその場ですぐに返事を。そして返事には必ず理由と謝罪を込めてくるっていうんだから、ほんときちんとしてるよね」
「へえ、そうなんだ。でもどうしてだろ」
「これも聞いた話なんだけど、学生の本分は学業であり、恋愛ごとについて自分は未だ立ち入るつもりが無いっていつも返事してるらしい。こんな言い訳、普通は信じないよね。でも相手がこと陽太郎くんとなると、一気に信憑性が増すってわけだよ。なんせ歩く律令体制なんだから」
 由愛ちゃんとこんな話をしている間、御鏡さんはずっと何かを考えている様子だった。右手をあごにあてて、右ひじを左手で抱えている。視線は険しく、ちょっと怖い。
「どしたのアリスちゃん。さっきからずっと黙っちゃってるけど、お腹痛いの?」
「ねえ、さっきの子。スクネって名前だったわよね」
「陽太郎くんのこと? うん、そうだけど、それがどうかした?」
「どういう漢字を書くのか、教えてもらってもいいかしら」
 どうしてそんなことを気にするのか不思議に思ったけれど、とりあえずリクエストに応えることにする。確かすごく難しい漢字だったんじゃないだろうか。僕は生徒手帳を取り出し、役員名簿のメモ書き部分を確認する。
「えっと、これだよ」
 そのメモ書きの部分、「宿禰」と書かれた文字を御鏡さんに見せる。
「そう……。ありがとう」
 御鏡さんはそれだけ言って自分の席に戻っていった。
「アリスちゃん、どーしたんだろうね」
 由愛ちゃんも御鏡さんの行動を不審に思ったらしい。陽太郎くんのことを何か知っているのかなと思ったけれど、なんだか詮索してはいけないような雰囲気があった。
「ところで由愛ちゃんは、千年万年堂の焼きプリンって知ってる?」
「うん。もちろんだよ。岩戸商店街の老舗洋菓子店だよね。よくテレビの中継とかもやってるみたいだし、芸能人とかもたまに来てるみたいだよ。外国の偉い人からまで注文が来る、なんて噂もあるくらい。ゆめもすっごく食べてみたいんだけど、まだ食べたこと無いんだよう」
「へえ、そんなに有名なんだ。知らなかったな。実は今朝、生徒会の女の子がその焼きプリンを買ってきてね。今は生徒会室の冷蔵庫に保管してあるんだけど……」
 ガタン。
 由愛ちゃんが突然立ち上がった。
「ゆ、由愛ちゃん?」
 僕が驚いて見ていると、由愛ちゃんは我に返ったようだった。
「あ、ううん。なんでもないの。驚かせちゃってごめんね。あ、そうだ。そろそろ次の授業の準備しなくっちゃ。次はなんだっけ」
「次の授業は日本史だよ。範囲は、確か聖徳太子の話が始まるちょっと前らへんだったと思う」
「うん。わかったよ、いちくん。情報提供感謝するにゃ」
 なぜ語尾に「にゃ」を……。由愛ちゃんはいそいそとカバンの中から教科書を取り出し始めた。なんだろう。特に変な行動をしているわけでもないのに、由愛ちゃんから邪悪な気配を感じる。
 まあ気のせいだろう。そう決めて僕も授業の準備をしようとした。すると携帯電話が着信しているのに気づいた。サイレントモードにしていたため気づかなかったのだ。誰だろうと思って画面を見ると、そこには生徒会長天宮日巫女の名前があった。慌ててかけなおす。するとすぐに繋がった。
「会長、どうされたんですか」
「うむ。実は君に折り入って頼みがある。聞いてくれるか」
 頼みとはどういう話だろう。さっきの陽太郎くんの件かな。そう思って問いかけてみた。
「無関係ではない。だがこれは私から君個人へのお願いだ」
 いつになく真剣な雰囲気を感じる。僕は少し緊張して続きを待った。手に汗握るとはこのことか。
「今すぐ岩戸商店街に行って、千年万年堂の焼きプリンを購入してくれたまえ」
「はい?」
 我ながら間抜けな返事をしたものである。
「聞こえなかったか。今すぐ学校を出て、岩戸商店街に赴き、千年万年堂の焼きプリンを購入してきてほしいと言ったのだ」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。どうして僕が。って言うか、これからすぐに授業ですよ」
「心配するな。金はちゃんと払う。それにどうせ次の授業は日本史だろう。あんなものは教師の話を聞く必要などない。自分で教科書を読んで暗記すれば百点くらい余裕だろう」
 さらりとひどいことを言う。会長、あなた今、全国の社会科教師を全否定いたしましたね。
「いや、そういう問題じゃないでしょう。それに僕は点数をがっつり取るんじゃなくて、内申点で要領よくやってくタイプなんですから。無断欠席は内申に響きますって」
「……小さい男だな」
 い、今、本気で哀れみを!
「そうか。それは残念だな。咲から焼きプリンの話を聞いて、是非にと思ったのだが。咲も楽しみだと言っているのだが、諦めるしかないかな」
「え? 咲先輩も、焼きプリン食べたいって言ってるんですか」
 学園のアイドルが焼きプリンを食べたいと言っている。それを断ることが一介の男子生徒に出来ようか。否!
「分かりました。千年万年堂の焼きプリンを二個ですね。すぐに買ってきます」
「うむ。君の単純さには呆れるばかりだがここは素直に感謝するぞ。ではよろしく頼む」
 そう言って会長は携帯を切った。
「由愛ちゃん」
 由愛ちゃんに声をかけると、「はにゃあ!」と声をあげて何かノートらしきものを隠した。表紙が一瞬見えて、「けいかくしょ」と書かれていた気がする。しかし今はそんなものを気にしている場合ではない。
 由愛ちゃんは僕が会長と話している間、一所懸命何かを書き綴っている様子だった。その間ずっと何かぶつぶつつぶやいていたから、会長としていた話の内容は耳に入っていなかったと思う。
「そういうわけで、日本史のノート、よろしく!」
 それだけ言い残して僕は教室を飛び出していった。


chapter03

「うむ。美味である。陽太郎の作る鶏の唐揚は絶品だな」
 いまにも「がはは」と笑い出しそうな豪気さを漂わせて会長が陽太郎くんを褒め称えた。会長の隣には当の陽太郎くんが座って、「恐れ入ります」とか言っている。
 いつの頃からか定かではないけれど、会長のお昼ご飯はいつも陽太郎くんが用意してきているようだ。しかも話からすると冷凍食品などは利用せず、全て手作りだとのこと。
「ちなみに鶏肉は一時間ほど料理用の白ワインに浸してから揚げています。唐揚について工夫と言える工夫はその程度なので、さほど難しいことはありません。料理は一手間ですね」
 咲先輩がうんうんと頷きながらメモを取る。会長は作り方には興味が無い様子で、うまいうまいとお弁当を食べ続けていた。
 それにしても、
「うちの生徒会って学園一の美少女に、学園一の美少年がいて、しかも二人とも料理上手だって言うんだから。なんだか恵まれてますよね」
「何言ってんのよ、いやらしい」
 二人を褒めようと思っただけなのだが、何故か千里ちゃんに怒られてしまう。
「まったく君の言う通りだな、一彦。我が生徒会は今、学園始まって以来の美少女率だ。この私と咲、千里の三人が揃えば本物のアイドルにもひけを取るまい。加えて陽太郎という女性向け要素も得たことで、ニーズの七割は支配しているだろう」
 ニーズって何ですかニーズって。
 けれど確かに、と思う。学園のアイドル咲先輩。その妹の千里ちゃん。何故か男子よりも女子に人気があるのだけれど、きりっとした顔立ちで姉御肌の生徒会長日巫女先輩。そして先述した通り、学園内の女子に圧倒的な人気を誇る陽太郎くん。これだけ揃っていれば怖いものなしな気がしてくる。何に対して怖くないのかは謎だけど。
「おい日巫女。さっきから俺のことを忘れてるんじゃないか」
 声の先にいるのは竜司先輩だった。生徒会副会長を務める八島学園高等部三年生の月読竜司先輩だ。
「なんだ竜司いたのか」
「いたのかじゃねえよ、お前が呼んだんだろうが!」
「知らん。しかしお前は私の部下なのだから、いても当然ではあるな。で、お前のことを忘れたことは一度たりとも無いぞ。忘れようものか」
 くっくっく、と笑いをこらえる生徒会長。
「なんか、すっげえ昔の嫌な思い出とか思い出されてるみてえで嫌なんだが……」
「おお。さすが竜司だ。なかなかの洞察力。それでこそ我が供だ」
 はぁ、と疲れきった様子で竜司先輩が肩を落とした。ちなみに「供」は誤植ではありませんので、あしからず。
「しかしまあ、竜司も生徒会美男美女メンバーにぎりぎり加えてやっても良いかもしれんな。キャップを深く被って、せいぜいお洒落でもして、クラブで踊っていればそれなりに見える」
「おお、だよな。俺ってけっこう渋めっつうか、年上の女の人にモテるタイプだと思うんだ。十代のガキにゃ俺のワイルドさが理解出来ないんだろうけど、やっぱ日巫女なら分かってくれてると思ってたぜ」
 いやあ、ここまで突き抜けると逆にすがすがしいよな。千里ちゃんも何か僕に目で訴えようとしていた。あの目は絶対に「うわあ、この人本当に馬鹿なんだ」と告げている。
「しかしそれだと、この生徒会メンバーで唯一、柳だけがぱっとしないってことになっちまうなあ」
 うう、嫌だなあ。話題をこっちに向けないでほしい。
 確かに僕は取り立てて騒ぐような二枚目ではない。自分の顔が嫌いというわけではないけれど、陽太郎くんなんかと比べたらそりゃあ見劣りするさ。竜司先輩だってなんだかんだで格好いいと思う。顔がというよりは、ヒップホップやってたりビリヤードが超うまかったり、そういう特技で光ってる感じがする。一度竜司先輩が踊っているところを見たけれど、なんかほんとテレビで見るバックダンサーみたいだと感心したものだ。
「そんな、ひどいですよ竜司先輩、ぱっとしないだなんて」
 驚いたことに、千里ちゃんから助け舟が届いた。
「ち、千里ちゃん……」
「今どきのアニメとかゲームの主人公って、ぱっとしない男の子が当たり前なんですよ。何のとりえもない普通の男の子が突然女の子にモテモテになっちゃったりして、そりゃあもううはうはなんですから」
 前言撤回。助け舟は泥舟でした。しかし竜司先輩には効果があったらしく、「そうか、うはうはなのか……」なんてつぶやいている。
「日巫女ちゃん。ところで今日の議題」
 咲先輩がうまい具合に話のポイントを修正してくれた。そうだ。今日は決して僕が凡人であることを確認するために集まったのではないのだ。そんな会議、嫌過ぎる。
「陽太郎、お茶」
 はい、と素直に返事をして魔法瓶の筒からお茶を入れる陽太郎くん。ハーブのいい香りがこっちにまで伝わってきた。
 ぐいと一飲みし、満足した表情で会長は話し始めた。
「実はな……」
 会長が話しを始めようとしたその瞬間に部屋に誰かが入ってきた。皆の視線が扉に集中する。一斉に視線を浴びて少しうろたえたその人は、社会科担当の坂田金造先生だった。
「やあみんな、お昼ご飯中かい」
 気を取り直して笑顔を振りまく坂田先生。坂田先生は教員と生徒会の橋渡し的な役割を担っていたりする。分かりやすく言えば、生徒会の顧問みたいなもの、かな。
「ええ、皆でランチミーティングでしたの。先生もご一緒にいかがですか」
 本人は意識していないのだろうけど、咲先輩の笑顔には魅了の魔法が込められているに違いない。先生の顔もちょっと赤くなっている。分かります。まだ三十路一歩手前独身ですしね。なんだかんだで思春期真っ盛りの僕は完全に見とれてしまっていますよ。
「いやらしい」
 千里ちゃんの冷めた突っ込みにも慣れたものだ。
「いや、僕は授業の準備があるからね。せっかくのお誘いだけど遠慮させてもらうよ。今日はこれを一彦くんに渡しに来ただけなんだ」
「僕にですか? 何でしょう」
 封筒を受け取り、中を覗く。そこには来期の部活動予算申請書が入っていた。
「少し早いけれど、僕の方で顧問の先生方を回って、回収しておいたよ」
「あ、そうなんですか。わざわざお手数かけてすいません」
「いや、毎年やってることだから気にしなくていいよ。先生方とは僕の方が君たちよりも接している時間が長いし、この方が効率的なんだよね」
 なるほど、そう言われてみれば確かにそうだ。今でさえ生徒会の仕事が多くて大変なのに、顧問の先生一人一人に声をかけて回るというのは少し億劫な気がした。坂田先生ありがとう。
 坂田先生が部屋から出るまで見送ってから、席に戻る。
「さて。それでは日巫女先輩、始めてもらっても構いませんよ」、と声をかけたが、何故か反応がない。
「日巫女ちゃん? どうしたの?」
 咲先輩が不思議そうに尋ねる。他のみんなも日巫女先輩に視線を集中させる。
 少し間を置いて、日巫女先輩が視線に気づく。「む」と一言つぶやいて、咳払いをした。
「そうだな。議題か。うん……、議題、議題、と」
 どうしたんだろう。なんだか歯切れが悪い。まるで今から議題を考えようとしているみたいだ。
「あ、そうだ!」
 千里ちゃんが突然立ち上がって冷蔵庫にまで駆けていった。そして扉を開き、にんまりと笑顔になる。
「うふふー。焼きプリンさん、ちゃんといるねー」
「そりゃあ、いきなり瞬間移動とかしたりしないよ」
 僕がそう突っ込むと、「いや、分からねえぜ」と分からないことを言う竜司先輩。
「ああ、そうだ日巫女ちゃん。この冷蔵庫、中がひどいことになってるんだけど、ちゃんと分かってるの」
 咲先輩に言われて日巫女先輩は「ぐっ」と押し黙る。
「竜司くんも、冷蔵庫使ってるわよね。自分が何を入れたか、ちゃんと把握している?」
 咲先輩の言葉は静かながら、何か避けようの無い凄みが含まれていた。いつもは傲岸不遜な二人が若干たじろいでいるように見える。
「二人とも、どうしてちゃんと整理整頓しないの。ゴミは冷蔵庫ではなくゴミ箱に入れる。賞味期限の切れたものも捨てる。食べ残しやら飲みさしやらはちゃんと処分する。あと、不必要に大量のものを冷蔵庫に入れない。そんなことしてたら、電気代がもったいないじゃない」
「むう、それはだな咲。全部竜司が悪いのだ。冷蔵庫の中はどれも竜司が買ってきたものなのだから、竜司が後始末をするのは当然なのだ。それをこいつは怠った。とんでもないやつである」
「はあ? ざっけんなてめえ。お前のパシリを俺がやってやったんじゃねえか。後始末くらい自分でつけろっての」
 母親に叱られる姉と弟の典型的な姿がそこにあった。千里ちゃんはその様子をニヤニヤと楽しそうに見ている。陽太郎くんは自前のハーブティーをすすって一服中だ。
 結局、午後の休み時間を使って日巫女先輩と咲先輩の二人で冷蔵庫の中身を掃除することとなった。竜司先輩は午後の授業が体育ということで、着替えの時間もかかるからということで免除となった。その代わり、別の雑用を押し付けられることになる。
「そういえば千里ちゃん、まだ焼きプリンは食べないの?」
「ええ。なんだかもったいなくってね。今日の夕方に食べることにするわ。幸せを一日の最後に取っておけば、今日一日が全部幸せってことになるかなって思って」
 なるほど、千里ちゃんの言うことにも一理ある。逆にどんなにハッピーな一日だったとしても、最後の最後で不幸だったら他の幸せが打ち消されてしまう。
 と、焼きプリンで思い出した。
「そうだ日巫女先輩。これ、頼まれてたやつです」
 カバンの中から千年万年堂の焼きプリンを一箱取り出す。お店の人にリボンを付けますかと尋ねられたが、会長には全く似合わないのでお断りしておいた。
「む。一彦。私は君に咲の分と私の分とを買って来いと命じたはずだぞ」
「すいません。この焼きプリンってほんとに人気なんですね。僕が行った時にはもうそれが最後の一個だったんです」
 実際、かなりの人気っぷりだった。平日の午前中だというのに長蛇の列。おかげで日本史だけでなく英語の授業までサボタージュするはめになった。
「そうか。まあ、仕方あるまい。これを咲と二人で分け合うこととしよう。礼を言うぞ、一彦」
 いえ、それよりも早くお代をください。
「あ、あともうひとつ。頼まれていた本ですね」
 そう言ってカバンから一冊の本を取り出す。学校を飛び出した後、日巫女先輩に追加で頼まれていたのだ。同じく岩戸商店街にある一軒の小さな古本屋さん、オモイカネ書店。そこの店主、すでに七十歳は超えていそうな思視兼良さんは日巫女先輩のお知り合いだそうだ。その兼良さんに本を一冊用意してもらっているから、ついでに取ってきてほしいというものだった。
「おお、これだこれだ」
 日巫女先輩は待っていましたとばかりに本を受け取る。それにしてもタイトルが『見猿言わ猿聞か猿にも分かる管理会計』って……。それはさすがに分からないんじゃないだろうか。
「つまり、物事を直感で理解しろ、ということだな。実に私に相応しい本ではないか。兼良のじーさん、なかなかいい選択眼を持っている」
「管理会計って、日巫女ちゃん、会計士でも目指すの?」
 咲先輩が意外といった感じで尋ねる。僕もどうしてかと疑問に思っていたので、いいタイミングで質問してくれた。
「いや、そういうわけではないのだが……。ほら、あれだ。乙女のたしなみというものだ」
「いったいどこの乙女がたしなみで会計の勉強を始めるって言うんですか!」
 思わず大声で突っ込んでしまったが、咲先輩は「ああ、なるほどー」と納得した様子で、僕だけが取り残されてしまった。すいません。乙女のこと何も知らないくせに突っ込んですいません。
 そんなこんなで昼休みの時間も終わりが近づいてきた。千里ちゃんは結局本当に、焼きプリンには手を付けず終いだった。日巫女先輩は即行で食べ始め「美味い、美味過ぎる。これなら人を殺してでも手に入れたい!」と物騒なことを仰られ、咲先輩に半分残すことを完全に忘れていた。
 体操着に着替えなくてはならない竜司先輩はとっくに退室していた。
「それでは、また夕方に」
 陽太郎くんは会長にぺこりとお辞儀をして去っていった。咲先輩、千里ちゃんも去り、生徒会室の前には僕と会長だけが残された。
「あれ? 会長はどうして咲先輩と一緒に教室戻らなかったんですか」
「ああ、実は君に受け取ってもらいたいものがあってな」
 そう言って会長が懐から何か封筒のようなものを取り出した。白地にピンクの花柄模様。うさぎちゃんがぴょんと飛び跳ねる絵。そしてハートマークのシールで綴じられたそれの宛名には柳一彦君へ(はぁと)と書かれていて……。


chapter04

 職員室の扉が勢い良く開いたので、近くを歩いていた生徒たちがぎょっと振り返る。そして皆、現れた人が誰かを知り、納得して去っていった。
「日巫女ちゃん、そんなに思いっきりドアを開けなくても」
 職員室の外で待っていた咲先輩が思わず苦笑する。対する日巫女先輩は泰然自若といった風情だ。ここで「で、あるか」なんて言われたら、僕なら爆笑するところだったろう。
「しかし、こうもいちいち鍵を借りたり返したりを繰り返さねばならんとはな。面倒極まりない。おい、一彦。合鍵を作れ」
「さすがにそれはダメですよ……」
 無茶なことを言う生徒会長である。
 ここ私立八島学園は超が付く進学校であると同時に、良家のご息女が多く通う名門校でもある。そんなわけで学園の敷地内は警備厳重。管理もかなり厳しくされている。まあ、そうでなくても生徒会室の鍵を複製だなんて、許されないだろうけど。
「まったく固い奴だな。そんなことでは咲に振り向いてもらうなど夢のまた夢だぞ」
「そ、そこでどうして咲先輩が出てくるんですか!」
「なんだ、では千里の方が好きなのか。私はてっきり君は年上好みだと思っていたのだが、ああいうまだ幼さを残している娘の方がタイプなのか。そういえば君のクラスに、なんだかいかにも萌えそうな女の子がいたが。そうか、そういうことか」
「何を勝手に納得してるんですか! 咲先輩も千里ちゃんも別に好きとかじゃないですから」
 すると今度は咲先輩が両手を乙女ちっくに頬に添えて頭をぶんぶんと振り始めた。
「えーっと……、咲先輩?」
「ううう。やっぱり一彦さん、私のことなんか何とも思ってらっしゃらないのね。私が色々と献身的に振舞ってみても、何の反応も見せないってことは、やっぱりそうなのね」
 咲先輩が「よよよ」と涙ぐむ。心なしか眼の奥がうるんでいるような。
「私の咲にこんなにも悲しい思いをさせるとは。一彦、君という奴はなんて罪深い男なんだ」
 日巫女先輩が咲先輩を抱きかかえる。日巫女先輩にしなだれかかる咲先輩。
「日巫女ちゃん。私、今朝勇気を出して一彦くんにお弁当を作って差し上げますと伝えたの。なのに、一彦さんはむげなくお断りになって……」
「おお、なんということだ。咲の愛情溢れる手作り弁当を拒否するなど、男の風上にも置けない奴だ。かくなる上は、この神剣オハバリにて成敗してくれよう!」
 そう言ってどこから取り出したのか、扇子を右手に僕と対峙する日巫女先輩。
「さて、一彦」
 日巫女先輩が鋭い視線を僕に投げかける。僕はと言えば何がなんやらで呆然とするばかり。どうしたものかと思案する僕に日巫女先輩が言う。
「オチを頼む」
「そんなもんあるか!」
 そんなこんなで生徒会室にたどり着いた。なんだか果てしなく遠い旅路をへてきたような気分だった。さっきの扇子は咲先輩が持っていた。なんでも、茶道部で使うものらしい。
「それにしても一彦はやはり凡人だな。きちんと凡人らしい反応を返してくれる」
 日巫女先輩がからからと笑ってひどいことを言いながら、鍵をがちゃがちゃやって、生徒会室の扉を開けた。
「確かに僕は凡人ですけれど、そんな凡人凡人言われてるとさすがに傷つきますよ」
 そう言うと日巫女先輩はさも意外そうな顔をした。
「何を言う。凡人であることはそれだけで一つの才能ではないか。世の中は凡人に成り切れぬ半端者で溢れかえっているのだぞ」
「凡人になれない半端者、ですか? 半端者って凡人と同じ意味なんじゃないかって思うんですけど」
「それは違う。半端者とは、どこかで自分は特別だと信じていながら、特別になる努力もしない連中のことだ。意識的にせよ無意識的にせよ、な。それに対して凡人は普通であることを受け入れた人間のことを言う。ここで普通とは何であるかを語り始めると長いので割愛させてもらうが、要するに君は立派な凡人だということだ」
 何を言われているのかさっぱり分からない。けれどなんとなく褒められてはいるようなので、あえて突っ込まないことにする。
「まあ、確かにここにいるのが一彦さんではなく宿禰くんとかでしたら、からかいようがなかったかもしれませんね。きっと彼なら日巫女ちゃんが成敗するぞって言ったら、よろしくお願いします、なんて言っちゃいそうだもの」
 咲先輩が言うことに、僕はなるほどと思った。陽太郎くんならそう言いそうではある。さらにもし僕ではなく竜司先輩だったとしたら。きっとさらにエスカレートして、収拾のつかない状態になっただろう。
「さて。ではとっとと片付けるとするか」
 日巫女先輩が冷蔵庫の電源を切り、扉を開ける。咲先輩はビニール袋を何枚か用意して日巫女先輩の傍に座る。作業を分担するのだろう。日巫女先輩が空き缶やら空箱やらを取り出しては床に並べる。それを咲先輩が分別しつつ、回収していくという流れだ。
 僕はと言えば、決して黙って見ていたわけではない。机に向かい、生徒会の仕事に取り掛かる。部活動予算の仕分け作業を、日巫女先輩、生徒会長から急ぐようにと指示を受けたのだ。
「それにしても、これはないよなあ」
 手元の封筒に目をやる。白地にピンクの花柄模様。うさぎちゃんがぴょんと飛び跳ねる絵。そしてハートマークのシールで綴じられたそれの宛名には柳一彦君へ(はぁと)。こんなの、どう見たってラブレターだよ。
 いや、分かってはいたんだよ? 会長がいきなり僕にラブレターを渡すわけなんかないって。特に何か好かれるようなことをした覚えは無いし、何のフラグも立てていない。脈絡も無く突然誰かに好きになってもらえるなんて、漫画の読みすぎだってことくらい、分かってるさ。
 だけど。それでも……。ほんのちょっと期待してしまうというのが男の悲しい性なのですよ。
 僕は少し涙ぐみながら仕事に取り掛かる。ちなみに封筒の中には部活動予算の見直し項目が入っていた。
「お邪魔するよ」
 生徒会室の中に一人の少女が入ってきた。いけない、ドア閉めるの忘れてた。
「えっと、どちらさま?」
「高等部一年、科学部部長の黒岩ルイだ。生徒会長に話がある」
 部屋の奥に目をやる。先輩方はまだ作業に集中していた。
「ごめん今ちょっと忙しいみたいなんだ。僕で良ければ話聞くけど」
 黒岩ルイと名乗った女の子はすっと目を細めた。見て分かる。明らかに僕を値踏みする目つきだ。すらっとした長身で、長い黒髪はなんと腰のあたりまである。切れ長の目つきは野生の猫を思わせる。そして何故か制服の上に白衣をまとっていた。
「お前は……、二年の柳一彦だな。由愛のクラスメイトの」
「ああ。由愛ちゃんの友達?」
「いいや、恋人だ」
 なんかとんでもない人が来た。
「恋人って……、その、まじですか」
「冗談、ということにしておこうかな」
 黒岩さんはそう言ってにやっと笑う。ああ分かるよ。この人も僕を小ばかにして楽しむタイプの人なんだ。僕の周りって、気のせいかSかMかで言えばSが圧倒的に多いような……。
「そういえば由愛が言っていたが、お前の仕事は会計係なのか」
「ええ、そうですよ。今まさに絶賛仕事中」
「そうか。それなら話が早い。別に会長に直接用があったわけではないからな。話というのは、これのことなのだ」
 そう言って黒岩さんは一枚の紙切れを僕に手渡す。
「これは、部活動予算申請書?」
「ああ。実は科学部の顧問が誤って去年の申請書を坂田先生に渡してしまったそうなのだ。それで急ぎ、生徒会に直接渡してほしいと頼まれて」
 申請書を受け取って、手元にある科学部の申請書と比較してみる。すると確かに違いが見えた。
「金額がどうやら去年よりも低くなったみたいですね。ほら、こっちが坂田先生から頂いた方の申請書です。今、黒岩さんが持ってきたのより少し高い」
「ここ最近、科学部の部員は減り続けているらしいからな。僕は今年入ったばかりだから去年のことはよく知らないが、おそらく今よりは部員もいたのだろう。近年の若者の科学離れには困ったものだ」
 黒岩さんはまるでテレビに出てくる、なんとかに詳しい専門家のようにしみじみと語るのであった。うーん、この人けっこう好きかも。
 用事を済ませた黒岩さんはとっとと退散していった。もう少し何か話してみたかったけれど、引き止める理由も無いので諦めた。
「よし。このくらいで良いだろう」
 日巫女先輩が冷蔵庫の扉をばたんと閉める。電源も忘れずに入れる。周囲にはまるまると膨らんだビニール袋の数々。あの小さな冷蔵庫にいったいどれほどのゴミが詰め込まれていたというのだろうか……。もはや冷蔵庫としての機能は果たせていなかったんじゃないかと疑えるくらいだ。
「会長、お疲れ様です。僕の仕分け作業もそろそろ終わりそうですよ」
「ごめんなさい一彦さん。会計のお仕事、全部お任せしてしまって」
 咲先輩が申し訳なさそうに謝る。
「そ、そんな、全然平気ですよ。あまり沢山残ってませんでしたし、咲先輩は冷蔵庫の仕分けというもっと重要な作業があったんですから」
「本当に、ありがとうございます」
 咲先輩の極上の笑顔が炸裂する。いけないいけない、恋に落ちる五秒前だ。
「ネタが古い上に少し気持ち悪いぞ一彦」
「僕の心に突っ込み入れないでください。読心術でも使えるっていうんですか」
「うむ、使えるぞ。私にかかれば君の心など丸裸だ」
 こ、怖すぎる。
 そういえば。僕はついさきほど来客があったことを思い出した。黒岩ルイのことを二人に話す。二人とも誰かが入ってきたことには気づいていたようだけれど、何の用かまでは聞こえていなかったはずだ。
 話をすると、日巫女先輩が黒岩さんを知っていると言い始めた。
「なんでも中等部では理科室の魔女と呼ばれて怖れられていたそうだ。噂では黒魔術と科学とを融合させ、悪魔召○プログラムの開発に成功したとかしないとか」
「悪魔○喚プログラムって何?」
 日巫女先輩のボケに真面目に取り合う咲先輩。いや、この場合はボケではないのかな。そういう変な噂が流れていたという事実を語っているだけなのかもしれない。
 ちなみに悪魔召○プログラムというのは有名なテレビゲームに登場するコンピュータプログラムのことだ。名前の通り、悪魔を召喚することが出来る。
「まあ、そういった噂の真偽についてはさて置き。彼女がとても優秀な人間であることは間違いない。そして同時に、とてもひねくれた性格をしている。一彦、彼女の中等部時代の試験平均点は常に一定の数字を保っていたのだが、いったい何点だったと思う」
「一定の数字って、つまり平均点が中等部時代、ずっと同じだったって意味ですか?」
「そうだ。違う場合もあったが、基本的には一定だった」
 僕はすぐ、御鏡さんのことを思い出した。学園一の秀才と名高い御鏡アリス。彼女もまた電子の魔術師なんていう通り名を持つくらいで、どことなく理科室の魔女に似ている気がする。そういえば御鏡さんも中等部からずっとこの学園に在籍していたんだっけ。なら黒岩さんのことも知っているのだろうか。
「一定の平均点を取り続けるということは、つまり常に満点を取り続けたってことですね。平均点が百点なら全教科満点と同じことですから」
 しかし日巫女先輩は首を縦に振らなかった。咲先輩が「私も聞いたことある」と話を繋げる。
「彼女はとても優秀な人だわ。たぶん、一彦くんのクラスメイト、御鏡さんにも負けないくらいに。けれど彼女は一度たりとも試験で満点を取ったことがないの。彼女はあらゆる試験で四十点を取り続けたわ」
「は? えーっと、たったの四十点ですか? 四十点って、欠点ぎりぎりの点数じゃないですか。そんな点数を取って、それで優秀ってどういう……」
「阿呆。全教科四十点だぞ。君にそんな真似が出来るか」
 あ。
 確かに、出来ない。日巫女先輩に指摘されてようやく気づいた。一教科だって、狙って四十点にすることは難しい。ほとんどの場合で四十点を上回るか下回るかのどちらかだろう。
「教師たちは最初、単なる偶然だと判断した。出来の悪い女の子がたまたま綺麗な数字を並べてしまっただけだと。こんなこともあるもんだなあと、職員の間ではちょっとした面白話となっていた。しかしそれが二度、三度と続くと話が違う。そこに非凡な人間がいることに気づいたわけだ。教師たちは慌てて、四十点が取れないように試験の配点を変えたりもした。その時、黒岩は平均点を五十点に変えただけだった。もちろん、全教科五十点でだ。そして教師たちはようやく思い知らされた。自分たちが完全におちょくられているのだということを、な」
「けれど、それっていくらなんでも怪しいんじゃないですか。普通は答案用紙を盗んでいるとしか思えない」
「教師たちもそれを疑ったらしい。だが、結局裏は取れなかった。それになんだかんだで黒岩の平均点は赤点すれすれだ。不正を行っていたとしても、追求する意味が無い」
 とんでもない話だった。しかし、そんな子と由愛ちゃんが友達というのもなんだか不思議な気がした。仲、いいのかな?
 それから科学部の申請書の件を報告して、この場は解散となった。


chapter05

 本日最後の授業が終了。やっと一息つける、と言いたいところだが、放課後も生徒会に顔を出さねばならない。と言うか放課後が正式な活動時間なのだ。それにしても今日は生徒会室に入り浸りだ。まあ、咲先輩と会えるから何の文句も無いのだけれど。
「おやあ、いちくん。幸せそうな顔だねえ。何かいいことあったのかな?」
 隣席の由愛ちゃんがカバンに教科書を片付けながら聞く。
「あ、分かった。陽太郎くんに会えるのが嬉しいんだね! めくるめくオノコとオノコの禁断の愛。うう、萌える」
「由愛。よだれが垂れてるわよ」
 うーん、どこかで見た光景だ。悶える由愛ちゃんの口許を御鏡さんがハンカチでぬぐう。
「由愛ちゃんは陽太郎くんがほんとお気に入りなんだね。なんなら紹介してあげようか。陽太郎くんはあんなだから彼女とか作らなさそうだけど、友達にならなれると思うし」
 ちょっとした親切心のつもりで言ったのだが、意外にも断られた。
「ううん、大丈夫だよ。ありがとね、いちくん。そのへんのところはルイちゃんにお願いするつもりだから」
「そういえば由愛ちゃんって黒岩さんと友達なの?」
 理科室の魔女。長身に腰まである黒い髪。制服の上に白衣といういでたちの怪しい女子高生。そんな黒岩さんと由愛ちゃんとが、どういう接点を持つのか不思議だったのだ。それで由愛ちゃんに直接尋ねることにした。
「そだよー。ルイちゃんは中等部の頃からのお友達なの」
「でも、学年は一個下だよね。どうやって知り合ったの?」
「だって、由愛は科学部なんだもん」
 驚きの新事実発覚。由愛ちゃんと科学……、に、似合わない。
「科学部と言っても、由愛の場合は放課後の暇つぶし場所でしかないでしょうね。いつも理科室で紅茶を飲んだり漫画を読んだりして過ごしているみたいよ。科学部に入ったのだって単に格好いい先輩がいたからというだけで、その先輩ももうすでに卒業されてしまったわ」
 僕の顔に「信じられない」と書いてあるのを読み取ってくれたのだろう。御鏡さんが丁寧に解説してくれた。
「むぅ。由愛だって、ちゃんと部活動してるもん。スライム作ったり、人工イクラ作ったり、スーパーボール作ったりしてるもん!」
「へえ、それはちょっと楽しそうだね」
 かく言う僕も、小学生の頃にスライムを作った記憶がある。今ではどうやって作ったか、まったく覚えていないけれど。
「それで、今日は何かする予定なの?」
 御鏡さんが由愛ちゃんに尋ねる。由愛ちゃんは待っていましたとばかりに、小さな胸を大きくして言う。
「今日はプリン実験なの」
「プリン実験?」
 それってどんな実験だろう。
「うん。でも詳しい内容は由愛も聞いてないの。今日、ルイちゃんが教えてくれるんだけど……」
 何故か言葉を濁す由愛ちゃん。それにしても今日はよくプリンが話題に上る日だ。プリンの日か何かだろうか。
「あわわ、もう行かなくちゃ。ルイちゃんに怒られちゃう。じゃあ、いちくん、アリスちゃん、しーゆーとぅもろー」
 由愛ちゃんは元気よく手を振って、ばたばたと駆けて行った。仮にも先輩だというのに、下級生に怒られる由愛っていったい……。いや、この場合は黒岩さんかな。
「柳くん、ちょっといいかしら」
 御鏡さんが少し神妙な声で僕に話しかけた。いきなりシリアスなムード漂わせるので、ちょっとうろたえてしまう。
「え、えっと、はい」
 そして間抜けな返答。
「宿禰陽太郎くんのことだけれど、彼には注意した方がいいわよ」
「宿禰くんに? いったい、どうして」
 何か冗談を言おうとしているのかな、と思ったけれど御鏡さんの目が「茶化したら殺す」と言っているので、どうやら本気のようだった。けれどどうして陽太郎くんのことを? 彼ほど人に害を与えなさそうな人は居ないと思うのだけれど。
「私ね、宮内府のデータベースをハッキングしてるの」
 さらりととんでもないことを言われた。
「く、宮内府の?」
「ええ、ちょっと私事でね。知っての通り、この国は内側にもう一つの国を抱えている。表の国が内閣府であり、裏の国が宮内府。規模だけで言えば宮内府は一つの街程度だけれど、その権威は絶対的なものがあるわ」
 例えて言うなら、バチカン市国みたいなものだろうか。バチカンはイタリアのローマにありながら主権を持つ一つの国家だ。そしてバチカンのローマ教皇は世界のキリスト教カトリック教会の頂点に立つ人間、というわけだ。宗教のことはそんなに詳しくないからちょっと違っているかもしれないけれど。
 そしてここ日本でバチカンに相当するのが纒向(まきむく)と呼ばれる都市で、その纒向を支配するのが帝を頂点とする宮内府なのだ。
 帝の権威はこの国で比類無いもので、当然それにあやかろう、利用しようという連中も大勢いる。それゆえに纒向の守りはとても厳重で、内部の情報はおいそれと手に入らない。そんな禁忌のデータベースを、覗き見していると御鏡さんが言うのだ。驚かないわけがない。
「でも、どうして」
 どうしてそんな危険なことをしているのか、と聞いたつもりだった。けれど御鏡さんは別の意味に解釈をした。
「宮内府は近衛隊という独自の軍事力を有しているわ。と言っても、その規模は大した事無い。別にどこかの国と戦争をおっぱじめるわけでもないしね。それは表の軍隊に任せればいい。ただし、その小さな組織はまぎれもない精鋭部隊なの。戦前の近衛師団みたいにお飾りというわけではないということよ」
「そういうのがあることは知っているよ。けれど、それと陽太郎くんにどんな関係が……」
「彼が近衛隊の一員なのよ」
 結局のところ、それがいったいどういう話なのか、僕はよく理解できなかった。御鏡さんが言うには、近衛隊の人間が表に出てくることは普通は無いそうなのだ。その普通じゃないことが起きている、だから注意しろ、ということだった。
 けれどいったい何に注意すればいいというのだろう。陽太郎くんはとてもいい子だと思う。皆に気配りが出来るし、とても親切だ。近衛隊なんていう組織の一員と言われるより、実はウル○ラマンで怪獣をやっつけていましたと言われた方が納得できる。
 それともこれは御鏡さん流のジョークだったとか?
 なんだか悶々とした気持ちを抱えながら生徒会室に入ると、部屋の中がとてもいい香りに包まれていた。
「あ、先輩。お待ちしていましたよ」
 陽太郎くんが紅茶のポットを抱えて机の前に座っていた。そして僕以外の生徒会メンバーも全員集合していた。呉羽先輩もいる。
「もういっそ生徒会役員になった方がいいんじゃないですか」
「あほか。そんなめんどいことやってる暇なんかあらへんわ」
 いつもの突っ込みにいつもの返し。どう見てもいつ見ても暇そうなんだけどなあ。
「今日は呉羽先輩から差し入れを頂きました。トワイニング社のレディグレイという紅茶です」
 陽太郎くんが机の上に置かれた缶を持ち上げて説明してくれる。
「レディグレイ? アールグレイじゃなくて?」
 僕が素朴な疑問を返すと、千里ちゃんがやれやれと肩をすくめる素振りをする。
「あんた紅茶も知らないの。これだから庶民は。レディグレイはレディグレイでしょ。どうせ紅茶って言われてもダージリンとアールグレイしか知らないんでしょうね」
「いや、僕だって他の銘柄くらい知ってるよ。リプトンとか」
「先輩、それは銘柄と言うより会社名ですよ」
 陽太郎くんが穏やかな表情で僕の間違いを指摘してくれる。
「レディグレイはアールグレイをベースにオレンジピールやレモンピールなんかを加えたフレーバーティーなんですよ。僕個人の感想になりますが、アールグレイよりも少しきつめな味と香りが特徴的ですね。名前もレディですから、アールグレイよりも強いのは頷けます」
 くすりと笑みを浮かべる陽太郎くん。いかんいかん、つい見とれてしまった。これでは由愛ちゃんの思う壺だ。
「へえ、こんなものをわざわざ。どうもありがとうございます」
 ちょっと意外なチョイスだなと思いつつ、呉羽先輩にぺこりとお辞儀をする。
「ええねんええねん。これは俺の姉貴の土産でな。なんかイギリスに旅行してきたらしいわ。しかし、アホな姉貴やろ。後で調べたら同じ紅茶が日本でも買えるみたいやんけ。てかそれ以前に、俺には紅茶とか飲む習慣無いっつうねん。まあ、ちーちゃんもこれで焼きプリン美味しく食えるやろ。俺は食うたことあらへんけど、その千年万年堂の焼きプリン? 少なくともペットボトルのお茶よりかは合ってるはずや」
 ひとり盛り上がり、けらけらと笑う呉羽先輩。陽太郎くんが「お姉さんのせっかくの心遣いですから、感謝して頂戴します」と丁寧に呉羽先輩をたしなめる。こういう光景を見ると、御鏡さんの忠告もきっと考えすぎなのだろうと思える。別に陽太郎くんがどこの誰であっても構わないではないか。ここに皆と仲良く紅茶を飲む陽太郎くんがいる。きっとそれが全てだ。
「宿禰くん、そろそろ蒸らしが終わる頃じゃないかしら」
 咲先輩が陽太郎くんを促す。きっと咲先輩も家で紅茶とか淹れたりしてるんだろうなあ。
「ほな、俺はそろそろ撤退させてもらうわ」
 呉羽先輩がすっくと立ち上がる。日巫女先輩が声をかける。
「ん? どうした。一服飲んでいかんのか」
「遠慮しとくわ。俺は紅茶よりもコーヒー派やしな。それにはよ行かんと、部長がうるさいからな」
「そうであったな。よし、とっとと行くが良い」
 日巫女先輩がしっしと手を振り払うようなジェスチャーをする。呉羽先輩は右手をひらひらさせながら生徒会室から出て行った。
「そう言えば、呉羽先輩って何の部活動やってるんですか?」
 千里ちゃんが竜司先輩に尋ねる。
「呉羽の部活? ああ、えっとなんつったかな。服とか作ったりするやつだよ」
「手芸部ね」
 竜司先輩に代わって、咲先輩が答えた。
「うそ! あの呉羽先輩が手芸!? ぜんっぜん似合ってない」
「いや千里ちゃん。あいつはあれでいて、けっこう手先が器用なんだぜ。それにあいつの姉貴はファッションデザイナーだしな。姉弟揃ってその道に進むんだろうってこった」
 きゃははと笑い転げる千里ちゃんに竜司先輩が呉羽先輩について説明する。そうなのだ。呉羽先輩と姉の綾羽さんは、最近少しずつ評判になってきた新進気鋭のファッションデザイナーなのだ。綾羽さんが発表するデザインの中に、呉羽先輩が手がけたものも一部含まれているらしい。
「へえ、呉羽先輩ってあんなんでも意外にすごいんですねえ」
 千里ちゃん、それあまり褒め言葉になってないよ。
 陽太郎くんが見慣れない小瓶を机に置き、中にピーナッツを入れ始める。ちょっと綺麗な小瓶だなと思い、聞いてみる。
「あれ。それはどうしたの?」
「ピーナッツですか? ちょっとしたおつまみ程度にと思って」
「いや、そっちの小瓶の方だよ。見かけない小瓶だけど、こんなの生徒会室にあったっけ?」
 すると日巫女先輩が僕の質問に答えてくれた。
「それは私が食べた千年万年堂の焼きプリンが入っていた小瓶だ。なかなか洒落たデザインをしているからな。洗って取っておいたのだ」
 確かにお洒落な形をしているし、飾っておくのも悪くない小瓶だった。持って帰って捨てるのが面倒だっただけなんじゃ、なんて邪推もしたけど。よくよく考えてみれば、冷蔵庫を片付けたときの分別ゴミ袋があった。今日に限ってはいちいち日巫女先輩が個別に小瓶を持ち帰って捨てる必要は無い。
 ちなみに、校舎内には原則として缶ジュースや瓶ジュースの類は持ち込み禁止となっている。だからそれ専用のゴミ箱もない。処分するには必ず自分で持って帰らなければならないのだ。
「ああ、とてもいい香りだわ。宿禰くん、蒸らしの時間も完璧よ」
 咲先輩が恍惚とした表情で紅茶をすする。陽太郎くんは「恐縮です」とお辞儀をしていて、まるでどこかのお嬢様と執事のようだ。
「ふっふっふ。ついにこの時が来たのね」
 千里ちゃんが冷蔵庫に近づき、扉に手をかける。なんだか焦らして気分を高めているようだ。すぐに開けようとしない。
「待ちに待った焼きプリンさん。ついに私のお口に辿りつくのね」
 ちょっと危ない人みたいな目つきの千里ちゃんがついに冷蔵庫を開けた。
「あれ?」
 と、そこで何故か固まる。
「あ、そっか。お姉ちゃんと日巫女先輩が掃除したんだっけ。だから場所も変わってるんだよね。えーっと、焼きプリンさんはどこにいったのかな、と。一段目……、無し。二段目……、無し。三段目……。あれ、あれ、あれ、あれ」
 千里ちゃんの表情が青ざめる。
「焼きプリンが、無い!!」


chapter06

 冷蔵庫の前で呆然と佇む千里ちゃん。その姿ははかなげで、今にもぼろぼろと崩れ落ちてしまいそうな、触れるとすぐに消えてしまいそうな、存在がとても希薄に思えた。いや、焼きプリンひとつで何を大げさなと言われるかもしれない。と言うか僕自身そう思う。けれど千里ちゃんの雰囲気がそう思うことすら許してはくれなさそうだった。
「何、なんか冷蔵庫の中のもんでも無くなったのか? それなら掃除のときにうっかり捨てちまったんじゃないか」
 沈黙を最初に破ったのは竜司先輩だった。
「なんせあの大量のゴミだからな。うっかりまともに食えるもんも捨てちまったっておかしくない」
「ちょっと竜司くん。それって私が間違って千里の焼きプリンを捨ててしまったということ?」
 咲先輩が竜司先輩に食いつく。自分の仕事に難癖を付けられたような気分なのだろう。実際、冷蔵庫をゴミで溢れかえらせた張本人は日巫女先輩と竜司先輩の二人だ。咲先輩はその張本人の一人である竜司先輩の尻拭いをした形になっている。それなのにその仕事ぶりに文句を付けられたら、あまり気分のいいものではないだろう。
「いや、咲が悪いってわけじゃねえけど。誰にだってついうっかりがあるだろ?」
「分かったわ。じゃあ今すぐ確認しましょう」
 咲先輩はそう言って、生徒会室の入り口付近にあったゴミ袋二つを取りに行った。二つあるのは容量が足りなかったからではなく、ゴミを正しく分別するためのようだ。大きく、瓶や缶、それ以外のゴミという風に区別している。
「こっちのゴミ袋はさらに資源ゴミと廃棄ゴミとに分別する予定よ。いちおう中をざっと見るといいけれど、焼きプリンの小瓶は入ってないわ」
 そう言って、ゴミ袋を開いて中を見せる咲先輩。竜司先輩もゴミ袋の上から押さえつけるようにして、瓶や缶のような硬いものが入っていないことを確認する。
「ほれ。いちおう、千里も確認しとけよ」
 そう言って竜司先輩は千里ちゃんにゴミ袋を手渡した。ゴミ袋を何度も揉んで調べていたが、中に小瓶が無いことを認めたようだ。
「じゃあ、次はこっちね。中身は全部、空き缶や空き瓶よ」
 咲先輩がゴミ袋を机の上に置くと、がしゃりと音が鳴った。
「これを調べんのかよ。やれやれだな」
 いかにも面倒だという顔で竜司先輩が中身を漁り始めた。千里ちゃんも後ろからじっと観察している。しばらく作業を続けて、それでも焼きプリンは出てこなかったようだ。竜司先輩が両手を挙げて「ギブアップ」と言った。
 咲先輩は自身の潔白が証明されたことに満足している様子だ。
「でも、うっかりで捨てちゃったんじゃないとすれば、いったい何処に行ってしまったんでしょうね。ひょっとして、誰かが知らずに食べてしまったとか?」
「そ、そんな! いったい誰がそんな酷いことを」
 僕の言ったことに本気でうろたえる千里ちゃん。まるで推理小説とかで誰かが殺されたことに怯えるヒロインキャラのように。
「もし、そうだとしたら、それは私たち生徒会のメンバー以外が犯人でしょうね」
 咲先輩がさも当然のことのように言う。僕はどうしてかと思い、咲先輩に尋ねた。
「どうしてそう言えるんですか?」
「だって私たち、生徒会室には必ず誰かと一緒にいますでしょう? 誰かの目を盗んで冷蔵庫の中にある焼きプリンを取り出して食べるなんて、不可能ですもの」
 咲先輩がそう言うと、千里ちゃんが何かに気づいたように反応した。
「待って。その理屈で行くと、一人だけ犯行が可能だわ」
 それは誰? そう思って、皆が千里ちゃんの視線の先を追う。そしてそこにいたのは陽太郎くんだった。
「僕が、怪しいと?」
 そう聞き返す陽太郎くん。
「ええ、あんたのことよ。陽太郎くん。疑って悪いんだけれど、今のところあんた以外に犯行が可能な人が思いつかないの」
 千里ちゃんの目は真剣だ。焼きプリンを失った喪失感を怒りの炎に変えて、立ち上がろうとしている。まさか焼きプリン一つで人はこんなにも奮い立つものとは。僕は人間というものの底知れなさを思い知るのだった。
 千里ちゃんの推理が始まる。
「まず前提として、私が焼きプリンの確認したのは今日のお昼。みんなでお昼ご飯を食べていた時ね。焼きプリンを朝持ってきたけれど、放課後の楽しみに取っておくことにしたの。そしてお昼も食べるのを我慢して、冷蔵庫の中を眺めるだけに留めたの。ゴミだらけで、ちゃんと冷えてるか心配だったから、少し箱にも触れておいたわ。ちゃんと冷えていて安心したのを覚えてるの。そしてお昼休みの間、私以外誰も冷蔵庫に近づかなかった」
 そこまで一気に話して、千里ちゃんは周囲を見回した。そして特に反論の無いのを認めると、話を続けた。
「昼休みの後、午後に生徒会室を使ったのはお姉ちゃんと日巫女先輩、それから一彦の三人。これは三人の話を聞いて確認しなくちゃなんだけど、まず……一彦!」
 僕の名前を大声で強調して、指差す千里ちゃん。彼女の目が真剣そのもので、一瞬気迫に圧されてしまった。女の子って、甘いものが絡むと本当に怖いんだな。
「えっと……、何?」
「あんたは冷蔵庫に一切近づかずに生徒会の仕事をしていた。それでいい?」
「うん。それは確かにそうだよ。僕は生徒会室の奥ではなく、出入り口側に近いところにいた。ですよね、咲先輩?」
 僕は自身の潔白を固めるため、咲先輩に同意を求める。
「ええ、確かにそうでしたわ。一彦さんは会計のお仕事にかかりきりで、冷蔵庫には全く近寄ってこられませんでした」
 咲先輩の同意を得ると、それに対して千里ちゃんはうんうんと頷いてみせた。
「話を続けるわね。お姉ちゃんと日巫女さんが冷蔵庫の掃除をしていたわけだけれど、話を聞く限りまずお姉ちゃんは犯人じゃない。どうしてかと言うと、お姉ちゃんは日巫女先輩から受け取ったゴミを分別する仕事をしていたんだから、冷蔵庫からはちょっと離れてる。そんなお姉ちゃんに日巫女先輩の目をかいくぐって焼きプリンを奪い取るなんてこと出来ないもの。じゃあ日巫女先輩ならどうか。焼きプリンをこっそり盗むことが出来たんじゃないか。でも、私はそれも無理だと思うの。お姉ちゃんがすぐ傍で見ているのに、焼きプリンを取り出してどこかに隠すなんてこと、考えられないもの。つまり、二人はお互いに監視し合っている状態にあったというわけ」
 その時、僕はひとつの可能性に気づいた。けれどそれはさすがに考えすぎだろうと思って何も言わなかった。
「その後は放課後まで誰も生徒会室を使ってないわ。後で確認してもいいけど、生徒会室の鍵利用履歴を見れば分かるはずよ」
「それは先ほど僕が見てきましたから、大丈夫です。間違っていません」
 陽太郎くんが千里ちゃんの発言にフォローを入れる。生徒会室の鍵は厳重に管理されている。借りた時、返す時、共に生徒個々人に与えられたIDカードで記録しなければならないのだ。千里ちゃんが言うところの「鍵利用履歴」とは要するにIDの記録のことだ。そして陽太郎くんはそれを確認してきたという。
 いちおう分かりやすく並べるとこんな感じ。昼休み、退室、天宮日巫女。休み時間、入室、天宮日巫女。休み時間、退室、天宮日巫女。放課後、入室、宿禰陽太郎。実際には入退室の時刻とIDカードのナンバー、所有者名、それから何処の部屋の鍵かが表示される。
 そこまで言われて僕にも理解できた。
「そうか、つまり昼休みから放課後のこの時間までで誰が一人で冷蔵庫に近づくことが出来たかが問題なんだね。そしてその人物こそ陽太郎くんだと。えっと、僕は遅れて来たから断言できないんだけど、そういうことでいいのかな?」
 陽太郎くんに問いかける。すると陽太郎くんはいつもの柔和な笑顔でにっこり肯定する。いかん、僕にそっちの趣味は無いはずなのだが、つい見とれてしまう。
「そうよ。消去法で考えれば行き着く先はただ一つ! 誰が犯人なのかは明々白々だわ。陽太郎くん。あなたが私の焼きプリンを強奪したのね!」
 びしぃっ、と陽太郎くんを右手で指差す千里ちゃん。左手は腰にあてて威風堂々。
 それに対し陽太郎くんは静かに笑みを返し、一言だけ。
「違いますよ」
 あまりにも爽やかに切り返されたせいか、千里ちゃんがずっこけている。いや、本当にずっこけている。オーバーリアクションな子だなあ。
「だ、だってだって。陽太郎くん以外に犯行は不可能じゃない」
「千里ちゃん、強奪という言葉は暴力で無理やり奪い取るというなんだぜ。この場合、窃盗とかが正しい用語だ」
 空気を読まない竜司先輩をその場にいる全員がスルーした。
「そうですね。確かに僕以外に焼きプリンを盗むチャンスのある人がいるようには思えません。僕は放課後、生徒会室に一番最初に入室しました。もちろん一人でです。アリバイはありません。けれど、焼きプリンを食べたのではないということを証明は出来ますよ」
 さらりと容疑を否定する陽太郎くんにたじろぐ千里ちゃん。
「しょ、証明って」
「実は僕、卵アレルギーなんです」
 千里ちゃんが「え」という顔付きのまま固まってしまった。
「うむ。確かに陽太郎は卵アレルギーであるな。それは私が保証しよう」
 するとさっきまで沈黙を守っていた日巫女先輩が口を開いた。
「私は玉子焼きが大好きで陽太郎にも注文しているのだが、味見が出来ないから作れないと断りよるのだ。別に味見などせんでも作れるだろうと文句を言っても、味見出来ない料理を人様に出すのは主義に反するだの、訳の分からんことをぬかしよる」
「大変申し訳ありません。ですが、味の不確かなものを生徒会長に差し上げるわけにはいきません。そういうわけで、僕は卵が食べれません。いえ食べることは出来ますが、首元にじんましんが出てしまいますので」
 そう言う陽太郎くんの首にじんましんは出ていない。
「なんだ、じゃあやっぱ陽太郎くんが犯人じゃないのかあー」
 脱力した千里ちゃんがよなよなとへたり込む。ポーズまで決めて友人を犯人呼ばわりしたことに若干の後ろめたさを感じているのか、ばつの悪そうな顔をしている。
「確かに僕は犯人ではありませんが、第一容疑者の一人であることには変わりませんよ。食べることはなくても、持ち出してどこかに捨ててしまうことは可能ですから」
「いや、陽太郎くん。誰もそこまで疑うことはないよ」
 僕はあくまで客観的な陽太郎くんにそう言った。論理的には陽太郎くんが犯人で決まりなのだろう。けれどこの生徒会室にはもう彼を疑う人間は一人もいなかった。陽太郎くんの態度を見て、彼にやましいところがあるとは全く思えなかった。
「ま、今回は諦めるしかねえな。世の中には不思議なこともあるんだってこったろう」
 かっかと笑う竜司先輩をうらめしそうに睨みつける千里ちゃん。さてこの話もここまでかなと思ったとき、来客があった。
「あれ、御鏡さんどうしたの?」
 客人は僕のクラスメイト、御鏡アリス。御鏡さんは情報部に所属していて、この時間はコンピュータ室にいるはずなのだが。
「お忙しいところごめんなさい。ちょっと一彦くんに用事があったもので」
 御鏡さんは他の生徒会メンバーたちに軽く会釈をし、一冊のノートを僕に手渡した。
「これは……、プリン獲得計画書!?」
 僕の言葉に反応し、空気が急にざわつき始める。僕が手に取ったノートには『ぷりん かくとく けいかくしょ』とどこかで見たような字で書いてある。ん? この字って確か……。
「みなさん、どうかされましたか?」
 周りを見ると千里ちゃん、竜司先輩、咲先輩が僕の後ろからノートを覗き込んでいる。日巫女先輩と陽太郎くんは椅子に座ってこっちを見ていた。
 何か異様な雰囲気に圧倒された様子で御鏡さんが一歩後ろに引く。いかんいかん、ここはとりあえず笑ってごまかそう。
「ははははは」
「何、その乾いた薄気味悪い笑い声」
 うう、この場をなんとか修正しようと頑張ったのにあまりの良いよう。本当に傷ついてしまうじゃないか。
「いや、なんでもないです。ところでこのノートは、由愛ちゃんのノート? どうして御鏡さんが」
「教室に忘れていたみたい。そんなに大事なノートでもなさそうだけど、いちおう届けてあげた方がいいかと思って。由愛、まだ理科室にいるはずだから」
「なるほど。でも、それなら御鏡さんが届けに行けばいいじゃないか」
「今は統計値の解析中なの。プログラミングさえ終わればあとは流すだけなんだけど、ちょっと手間取っちゃってね。それで忙しいから暇そうな一彦くんに頼もうということよ。理科室に行けば、由愛の相手でなんだかんだで時間を取りそうだもの」
 いつも通り酷いことを言う御鏡さんだった。それにしてもプログラミングでてこずるなんて御鏡さんらしくない。彼女はいつもバド・パウエルの名曲『クレオパトラの夢』を弾くみたいにキーボードを叩いてプログラミングするというのに。
「一彦くんって本当に思っていることが顔に出るのね。今日はたまたま言語をいつも使っているC++からGoに変えてみたの。慣れてないから、少し手間取るの。こう見えても私、新しいもの好きなのよ」
 と、言われても何のことかさっぱり分からない。
「それじゃ、あとはよろしくね」
 御鏡さんが去ると、竜司先輩は有無を言わさずノートを僕から奪い取り、読み始めた。ごめん由愛ちゃん。今この場に君のプライバシーは存在しない。


chapter07

 僕たちは理科室に集まっていた。生徒会メンバーと科学部部員二名が対峙するかたちになっている。科学部部員二名とは、由愛ちゃんと黒岩さんのことだ。どうやら今日ここには彼女たち二人しか居ないらしい。
 椅子に座る黒岩さんが猫のような目を細めて竜司先輩を睨む。どこか楽しんでいるような雰囲気だ。その隣で由愛ちゃんは不安そうに……、いや楽しそうに僕に手を振っていた。うん。やっぱり由愛ちゃんは緊張感と無縁みたいだ。
「つまり、お前は我々科学部が千里という女子の焼きプリンを奪い取った、と。そう主張するわけだな」
 とても高校一年生の女子とは思えない。とんでもない威圧感だ。竜司先輩でさえ、少したじろいでいるように見える。唯一、日巫女先輩だけが楽しげににやにやと笑っていた。
「ああそうだ。ちゃんとここに証拠もあるからな」
 そう言って由愛ちゃんの『けいかくしょ』を取り出す竜司先輩。
「ちょっと竜司くん、本当に大丈夫なんでしょうね。私にはどうやって黒岩さんと凪澤さんが焼きプリンを盗んだのか、全く分からないのだけど。そのノートにはいったい何が書かれていたの?」
 なんとなく竜司先輩に付いてきたものの、不安を隠せない咲先輩。竜司先輩はノートを何故か誰にも見せずにここまで来たのだ。
「と言うか、竜司先輩。どうしてそのノート、私たちに見せないのよ」
「このノートは凪澤さんの所有物だからな。プライバシーへの配慮ってやつさ」
 尋ねる千里ちゃんに竜司先輩が答えた。
「そう言って自分は読んでるなんて、由愛、こんな無茶な男の人初めて見るよ」
 由愛ちゃんがしごくまっとうなコメントをしてくれた。もちろん竜司先輩は気にしない。
 黒岩さんは白衣のポケットに両手を突っ込んでいる。そのままの状態で立ち上がり言った。
「なら証明してみなよ。聞いてあげるからさ」
「ああ、聞いて驚け。犯行手段はテレポーテーションだ!」
 理科室に沈黙の春、いや沈黙が訪れた。えーっと、誰かこの人を止めないと、と思いつつも竜司先輩の推理(?)が続けられた。
「つまりだな。局所的にブラックホールとホワイトホールを発生させることで人工的にワームホールを作り出したんだ。座標軸と時間軸の計算をした上で、生徒会室の冷蔵庫内部からこの理科室にまで瞬間移動させたということだな」
 いたって真面目な顔で語る竜司先輩。いけない。まさかこのレベルで頭の可哀そうな人だとは思っていなかった。
「私、なんだか疲れてしまいました。一彦さん、そろそろ生徒会室に戻りましょう」
 咲先輩が本当に具合の悪そうな顔をしていた。頭に左手をあてている。僕もそうするのが賢明だろうと感じたその時、黒岩さんが突如笑い始めた。
「ふ、ふふ、あっはっはっは。よく見破ったね、坊や。その通り。全てはこの僕、黒岩ルイのしわざなのさ。科学の力によって作り上げたこの超小型加速器で空間転移を可能にしたんだ。通常、対象物に直接手を加えなければワープさせることが出来ないところを、この僕が、発想の転換により対象を観れずとも呼び出すことに成功したんだ。具体的には二回の転移を実施しなければならない。まずこの理科室から生徒会室の冷蔵庫へ、負のエネルギーを持つ気体を送り込む。そうして対象を負の性質に変化させ、ブラックホール回転運動により逆流させる。そうすることで目標に触れることなく、取り出せる。そしてこれがその超小型加速器さ!」
 黒岩さんがびしっと指差す、そこにあったのはコーヒーメーカ……、に見えるんですけど。竜司先輩は何かを悟ったようだ。
「てめえ。そうか。そういうことか!」
 いったい、どういうことでしょうか。
「察しがいいね。そう。僕は空間転移と同時に、性質変換も行っていたんだ。空間転移を行うにあたって、物質は一度崩壊しなければならないからね。だから素粒子レベルにまで崩壊した物質を再構築する必要がある。その再構築においてヒッグス粒子を応用させることで、任意の物質に変換させた。これがその結果さ!」
 由愛ちゃんがコーヒーメーカのスイッチをぽちっと押す。がーという音と共に、コーヒーが作られる。黒岩さんはそれをビーカに注いで一口すすった。
「ああ、美味しい」
「ちくしょう。千里ちゃんの焼きプリンをコーヒーに変化させちまうなんて。この外道!」
「ねえ、これいつまで続くの」
 千里ちゃんが白けた顔で僕を見る。僕の方こそ聴きたい。日巫女先輩といい、咲先輩といい、竜司先輩といい、黒岩さんといい、皆して演劇部にでも入ればいいんじゃないだろうか。
「ヒッグス粒子はまだ見つかっとらんぞ。適当なことを言って少年少女たちを惑わすでない」
 竜司先輩と黒岩さんの間に日巫女先輩が割って入った。
「おや、お気に召さなかったかな」
 くすくすと笑う黒岩さん。竜司先輩は「え、冗談なの?」という顔をしている。竜司先輩は本物だ。
「由愛の夢ノートを読んで本気にするだなんて、可愛いじゃないか。まったくもって僕好みだ。ねえ君、僕の科学部に入らないか。由愛と一緒に可愛がってあげるよ」
 と言いつつ、何故か腕を組んで前かがみになる黒岩さん。竜司先輩は慌てて顔を横に逸らす。
「何じっと見てんのよ、いやらしい」
 そして何故か千里ちゃんに怒られる僕。
「黒岩ルイとやら。残念ながらそこの男は私の従者なのだ。科学部なんぞにくれてやるわけにはいかん」
 日巫女先輩が黒岩さんの前に立ちはだかった。黒岩さんはくすっと笑って身を引く。
「焼きプリンを盗んだ犯人。宿禰陽太郎じゃなくて、君なんじゃない? 生徒会長さん」
 そしてとんでもないことを言った。
「日巫女ちゃんが犯人って、いったいどういうことですの」
 すかさず咲先輩が黒岩さんに詰め寄る。黒岩さんはまた猫の目を細めて咲先輩を値踏みするように見る。そして次に千里ちゃんの方を見た。
「さっきの君の推理劇、なかなか楽しかったよ。でも最後まで諦めちゃいけないなあ。あのまま一気に宿禰陽太郎が犯人だと断定してしまえば良かった。誰にもそれを否定できなかったのだから」
「え? どうしてそれを、あなたが……」
 虚を突く言葉に戸惑う千里ちゃん。
「盗聴、ですか」
 陽太郎くんがぼそりと呟いた。「えっ!」と言って千里ちゃんと咲先輩二人が驚く。黒岩さんがにやりと笑ったように見えた。由愛ちゃんはコーヒーに一所懸命砂糖を投入していた。
「君は頭がいいな。残念ながら僕のタイプではない。そうさ。今日、生徒会室に立ち寄ったとき、仕掛けさせてもらった。理科室は生徒会室の真下だからな。感度はなかなか良好だ」
「どうしてそんなことを?」
 僕は誰もが思う当たり前の疑問を投げかけた。それに対して黒岩さんはすこし考えるそぶりをした後、
「退屈しのぎ」、と言った。
「僕はね、生きていることが退屈で退屈でしょうがないんだ。この世のあらゆる事象に興味が尽きないと同時に、この世のあらゆる事象に興味が無いんだ。なにもかもが尊くて素晴らしくて、無価値。それが僕の考え方というやつさ。そんなわけで、この退屈感をなんとかしないと僕は死ぬしかない。退屈で退屈で死んでしまいそうになる。だから色んなことに首を突っ込んでみる。退屈を紛らせる何かを求めてしまう。その点、生徒会にはなかなか面白い対象が揃っている」
 滔々と語る黒岩さん。いや、退屈しのぎに盗聴とかされても困るんだけど……。
「そして話を全部聞いた上での僕の推理。犯人はずばり、天宮日巫女生徒会長さん」
「なるほど。盗聴の件については後日改めることとしよう。それではそなたの推理とやらを拝聴しようではないか。簡潔にな」
 余裕の態度で日巫女先輩は黒岩さんを見据える。
「まず宿禰陽太郎は犯人じゃないよ。理由は単純。そんな時間無いってこと。彼が生徒会室に入ったすぐ後、ほんのわずか十秒後にそこのお嬢ちゃん、此花千里が入室している。十秒でいったい何が出来るって言うんだい」
 くっくっくと笑う黒岩さん。
「え、陽太郎くん。そうだったの? それならそうと、早く言ってくれれば」
「それを示す証拠を持ち合わせてはいませんでしたので」
 千里ちゃんの問いに陽太郎くんが答えた。確かに、陽太郎くん一人がその事実を告げても無実の証明とはならなかっただろう。黒岩さんの盗聴のおかげで陽太郎くんの無実が証明されたというわけだ。
「では話を続けよう。簡潔に、ね。此花千里の推理と僕の盗聴行為により、犯人、もしくは犯行の協力者である人物が一気に絞られてしまった」
「協力者? それってどういう……」
 問いかける僕の前に右手をかざし、遮る黒岩さん。
「話は最後まで聞くものだよ柳一彦。さて僕はここで二つの可能性を提示したい。まずは天宮日巫女と此花咲の共謀説」
「ちょ、ちょっと、何ですかそれ!」
 咲先輩が食って掛かったが、今度はそれを左手で制した。
「此花千里の推理に従えば、それ以外に犯行可能な人間はいないだろう。犯人は一人である必要は無いのだからね」
 実は僕も同じことを考えていた。それなら何の疑問も無い。単純に冷蔵庫の掃除中、二人して千里ちゃんの焼きプリンを盗んでしまったのだ。僕は会計の仕事をしていたし、決して二人の行動を注意深く見ていたわけではない。焼きプリンを盗むくらいのこと、容易いはずだ。
 けれど対する日巫女先輩はそれを鼻で笑った。
「くだらん邪推だ。よかろう。ならば私と咲のカバンと机を確認するがいい」
「何を言ってるんだい? そんなところを確認したって、生徒会長さんの無実の証明にはならないよ。学校のどこかに隠しているのかもしれない」
「あいにくだがそれは不可能だ。私にはクラスメイトというアリバイがある。私も咲も、冷蔵庫を掃除したのち放課後生徒会室に入るまで、常に他のクラスメイトたちと行動を共にしていた。千里の焼きプリンをどこかに隠すような時間は無い!」
 いつの間にか、日巫女先輩と黒岩さんの闘いといった趣きに。そして黒岩さんの初手はどうやら日巫女先輩にはじき返されたようだ。日巫女先輩の反論は状況証拠的なものに過ぎない。けれど黒岩さんの推理も同じく状況証拠的なので、突き通す力は持たないのだ。
「なるほどね。分かったよ。カバンとか机まで調べるつもりはないさ。僕だってこの推理にさほどの信憑性があるとは思っていないからね」
 椅子にどっかと座りなおし、脚を組んで黒岩さんが邪悪に微笑む。由愛ちゃんは寝ていた。
「じゃあもう一つの説。それは生徒会長さんが誰かの協力者だっていう説さ」
「協力者とは、随分みみっちい扱いであるな。私は正義を為す時も悪事を為す時も常に先頭に立つ者であるぞ」
 会長、悪事は為さないでください。
「犯行時刻は昼休みが終わってから次の休み時間までの間。つまり此花千里が焼きプリンの存在を確認した後、冷蔵庫の掃除を始める前までの間に何者かが焼きプリンを盗んだ」
「え? それは無理じゃない。だってその時間は生徒会室に鍵がかけられていたんだし。まさか窓から侵入したなんて言わないわよね。それこそ無理よ。けっこう高い位置にあるし、内側から鍵がかけられている。何より人が通れる大きさじゃない。何か仕掛けを使って窓を開けられても、そこから侵入してまた外に出るなんて不可能よ」
 千里ちゃんが反論する。黒岩さんがくすりと笑う。
「君は頭が固いね。なんだいその推理小説みたいな論理展開は。とにかく、何かが当たり前だという思考を捨てたまえ。どうして生徒会室が密室であるだなんて思い込んでるんだい」
「それって、どういう……」
「生徒会長さんから簡潔にとのお達しだ。簡潔に、明瞭に宣言しよう。昼休みから次の休み時間に至るまで、生徒会室の鍵はかかっていなかった。生徒会長は鍵をかける振りをし、次には鍵をはずす振りをした。その間に生徒会長の共犯者が生徒会室に侵入し、焼きプリンを盗んでいったのさ」
 説得力があった。確かにその方法なら何の問題もない。僕は不安になった。まさか、本当に日巫女先輩が? 確かに千年万年堂の焼きプリンを「人を殺してでも手に入れたい」などと物騒なことを口走る人ではある。けれど会長は基本的に正義の人なのだ。僕はそう信じている。
「む。意外にてごわいな。反論できぬ」
 僕こそ意外だった。まさか日巫女先輩が弱音を吐くなんて。
「日巫女先輩……」
 不安からつい言葉が漏れてしまった。日巫女先輩は僕の顔を見て……、笑ってくれた。その顔は「何を心配しておるのか、この小心者の凡人めが」と語っているように思えた。
「やれやれ。この手はあまり使いたくなかったのだがな。しかし、このままでは私が犯人扱いされてしまう。仕方あるまい」
「日巫女先輩!」
 僕は期待に胸が膨らんだ。そうだ。この人ならきっとこの状況を一挙に覆すに違いない。僕が生徒会に入ったもう一つの理由。それは日巫女先輩がそこにいるということ。僕の大いなる憧れ。
 日巫女先輩は大きく息を吸い込み、華麗にスカートを翻し、黒岩さんに背を向けて、言った。
「走為上!」
 走為上(そういじょう)は兵法三十六計の最後の計のことだ。ぶっちゃけて言えば逃げるが勝ちよという意味で、それってつまり、そういうことなので。
「か、会長!」
 僕の虚しい叫びも、理科室から走り去る日巫女先輩の背中には届かなかった。


chapter08

「このたびはご迷惑をおかけし、申し訳ありません」
「お姉ちゃん、こんな奴に謝ることなんてないわよ。て言うか、盗聴器外しなさいよ。それって完全に犯罪よ犯罪。どう考えてもプリン盗む方が罪は軽いわ」
 咲先輩が黒岩さんに陳謝する。何せ、いきなり押しかけてきて濡れ衣を着せようとしたのだ。いくら黒岩さんが悪役のようだからと言っても、礼儀を失するわけにはいかない。それに対して真っ向から歯向かう千里ちゃん。うん、そりゃそうだ。
「まあ君、そんなにかっかするものではないよ。ちょっとしたジョークじゃないか」
 まるで漫画に出てくるアメリカ人のように笑う黒岩さん。さっきまで日巫女先輩を追い詰めていた雰囲気とは少し違う気がした。
「盗聴器については明日の空いた時間にでも回収することにさせてもらおう。今日は僕の大事なお姫様と簡単な実験をする約束をしているのでね」
 そう言って黒岩さんは由愛ちゃんのほっぺたをつんつんと突いた。「うにゅう、目玉焼きにはケチャップ以外認めないお」、と謎の寝言を言う由愛ちゃん。
「そうだ竜司先輩。いい加減、その由愛ちゃんのノート返さないと」
「お、おお、そうだったな。すまねえ」
 元もとの用事を思い出した。僕は御鏡さんから由愛ちゃんにノートを返してくれるよう頼まれていたのだ。
「結局、中はどんなことが書いてあったのですか?」
 咲先輩が僕に尋ねる。僕は黒岩さんにノートを開けてもいいか聞く。
「ん? 別に構わないんじゃないかな。僕もそのノートはよく読んでるからね。姫はどうもSFが好きらしい。科学と空想の入り混じったそのノートはなかなか面白くて僕もたまに読ませてもらっている。それにしても超構造体だの重力子放射だの、まるで中学生の男の子みたいな趣味をしている。そこがなんとも可愛いのだけれどね」
 ノートを開いてみると、そこには確かに色々とSFらしき言葉が連ねてあった。先ほどの竜司先輩が行った推理もそのままここに書いてある。て言うかそれって推理とは言えないような。
「それにしたって、どうしてタイトルがプリン獲得計画書なのよ。まぎらわしいったら」
 千里ちゃんが文句を言う。
「それは大したことじゃない。今回の実験内容とたまたま被っただけさ。逆に、その程度のことで文句を言われても困る」
 黒岩さんが理科室の端に移動し、何かを手に取った。シャーレだ。その上に何か黄色っぽい物体が乗っている。
「にゅう……、ケーキ食べたい」
 由愛ちゃんがむっくりと起き上がる。寝起きの言葉がそれかよ。
「ははは。僕のお姫様は食いしん坊だね。ほら由愛。今日の実験を始めるよ」
「あれ、ルイちゃん? あ、そっか。由愛寝ちゃってたね。でもごめんなさい。由愛、実はルイちゃんに頼まれたお仕事、やってこなかったの」
「お仕事って?」
 そう尋ねると由愛ちゃんは僕に振り返って言った。
「由愛、ほんとは今日、ちゃんとしたプリンを買って来なくちゃいけなかったの。だけど昨日、お買い物に行くの忘れちゃってて、プリンを買えなかったの。ルイちゃんが実験に必要だって言ってたのに……。だからルイちゃん、今日の実験は延期にさせて」
 申し訳なさそうに上目遣いをする由愛ちゃん。対して黒岩さんはと言うと、ふっと笑って微笑んだ。
「由愛。君は何も気にしなくていいよ。僕は最初から君に一人で買い物が出来るとは思っていなかったからね。だからプリンもこっちでちゃんと用意しておいたよ」
「本当!? さすがルイちゃん。ありがとー!」
 由愛ちゃんが黒岩さんに飛びつき、それをがっしりと受け止める黒岩さん。いや、今の受け答えに何か問題はないのか。
「柳先輩」
 陽太郎くんが声をかけてきた。
「僕は会長が心配なので、そろそろ退散しようと思います。先輩はいかがしますか?」
「そうですわね。これ以上ここにいる理由もありませんし、一彦さん、生徒会室に戻りましょう」
 咲先輩も陽太郎くんに同調する。竜司先輩は大きなあくびをしていた。言わずもがなといった雰囲気だ。
 僕も日巫女先輩のことが心配だった。だから……。
「いや、僕はもう少しここに残ることにするよ。由愛ちゃんと、明日の授業のこととか話したいし」
 由愛ちゃんが「ええー、お勉強の話なんか嫌だよぅ」と文句を言うのを無視して、僕は皆に理科室に残ることを伝えた。
「千里ちゃんはどうする?」
「わ、私は……」
 少し逡巡した様子を見せる千里ちゃん。すると黒岩さんが僕の隣にやってきて、そっと僕の両肩に手を置いて、胸を背中に押し当てて……って、ええ!?
「お嬢ちゃんもここに残ったらどうだい? なんせ今この理科室には僕と由愛の二人だけだ。つまり一介の男子高校生など、容易に手なずけられるということさ。ここに残って、間違いが起こらぬよう監視しておいた方が君のためじゃないかな」
 由愛ちゃんに手なずけられる自分というのがどうしても想像付かないが、黒岩さんは危険な気がした。しかし黒岩さんはいったい何を言ってるんだろう。なんて考えていると、千里ちゃんの表情に危険信号が走った。両手をわなわなと震わせながら、天使のような笑顔をしている。
「なんのことを言われているのか、分からないわね。どうして私のためになる、と?」
「それは僕よりも君の方がよく知っているんじゃないかな。だって君はこの子のことが好きなんだろう?」
 黒岩さんは僕にさらに胸を押し付けて言った。身に覚えの無い展開に戸惑う僕。
「はあ? 何を馬鹿なこと言ってんのよ。私がこんな超の付く普通人間に興味を持つわけがないでしょ。そいつが欲しけりゃ誘惑でも何でもすればいいじゃない。そいつモテないから簡単に落ちるわよ。私には関係ない。じゃあね。その猫女と好きなだけいちゃいちゃしてなさい」
 最後は何故か矛先を僕に変えて千里ちゃんは理科室を出て行った。こういう場合、漫画とかだったら女の子の嫉妬として受け取れるのかもしれないけど、千里ちゃんの怒りは普通に純粋にただの苛立ちだった気がする。
 他の生徒会メンバーも理科室を去り、僕と黒岩さん、由愛ちゃんの三人だけになった。
「どうしてあんな風に千里ちゃんを怒らせたんですか?」
「何故かって? そりゃあ退屈しのぎってやつさ」
 違う。そう直感的に受け取った。黒岩さんは愉快犯的なところがあるけれど、その裏にもっと緻密な計算が隠されているんじゃないか。
 黒岩さんは僕からすっと離れて由愛ちゃんの隣に座った。
「ううー。いちくん、ルイちゃんのおっぱいの感触が離れて残念がってるね。えっちなのはいけないんだよ」
「いや、そんなことないよ」
 そんなことあった。
 黒岩さんはそんな僕らの様子を見て、楽しそうに、でもちょっと意地悪そうに笑う。
「しかしあの会長さん、どうして逃げたのかと思ったら。なるほど君が理由か」
「僕が理由って……、どういう意味ですか」
「僕は会長さんが犯人の一味だと推理したけれど、あんなものはただのでっちあげさ。可能だけれど実践するには動機が薄すぎる。考えてもみなよ。たかが焼きプリンひとつ。それを盗んで、バレることを怖れる高校生がいると思うかい。おやつを勝手に食べて、怒られないようにするだなんて、小学生じゃあるまいし」
 黒岩さんは自分の説をいともあっさりと否定してしまった。
「可能性は無限なんだよ。例えば此花千里の自作自演という考え方もある。鏡を使ったトリックというのも悪くないな。此花千里にプリンが消失したと思い込ませ、後からこっそり焼きプリンを回収するのさ。他にも、考えようと思えばいくらでもトリックは思いつく。けれどそれを実際に実行するに見合うだけのコストパフォーマンス、費用対効果はあるかい? 断言しよう。この犯行は突発的、もしくは衝動的に行われた。手の込んだトリックなど一切存在しない」
 そして。黒岩さんは全てを知っているかのように、何もかもお見通しだとでも言わんばかりに、僕を、いや、僕の心を覗き込む。
「く、黒岩さんは、誰が犯人か分かるんですか?」
 僕は少し緊張して言った。ごくりと喉を鳴らす。蛇に睨まれた蛙ならぬ、猫に睨まれた鼠状態。
「知らない」
 あっさりと言われて拍子抜けしてしまった。黒岩さんはかっかと笑って「そんなもの、知るわけないじゃないか」と言い放つ。由愛ちゃんも一緒にかっかと笑う。
「て言うか、どうして日巫女先輩が逃げた理由が僕になるのかっていう質問に答えてくれてないじゃないか」
「おや、そうだったかな。そういやそんな話もしていたね。じゃあ実験を始めようか」
 僕の不平を無視して、黒岩さんが机の上にシャーレを二枚置いた。両方とも、何かの切れ端のようなものが乗っている。由愛ちゃんが「実験、実験、楽しいなー」と歌い始めた、可愛い。
「さてお姫様。今日は何をする実験だったかな?」
「プリン実験!」
「ふふ。何をする実験かと聞いているのに単語で答えるなんて、由愛は本当にお子様だな」
 黒岩さんが由愛ちゃんの頭をなでなでする。由愛ちゃんは「えへへー」と笑い、上機嫌だ。いや、本当にいいのかこの関係。黒岩さんは僕に向かって実験について説明を始めた。
「今回、二枚のシャーレを用意した。便宜上、君から見て右側のシャーレをA、左側のシャーレをBとしよう。君にはいったいどちらのシャーレにプリンが乗っているのかを当ててもらいたい。もちろん、匂いをかいだり味見をしたりせずに、だ」
 そしてさらに何かを取り出す。見るとそれはスーパーで売っているようなカップのプリンだった。すでに開封されていて、中身が少し取り出されている。
 黒岩さんはそのプリンからさらに削り取って、別のシャーレに乗せた。
「ではこのシャーレをCとでも呼んでおこう。ではこのCの物体に、ヨウ素溶液を少し垂らしてみるとどうなるかな」
 ヨウ素溶液の小瓶を取り出し、少量をシャーレCの上に垂らす。すると徐々に変色を始めた。紫っぽい色をしている。
「と、このように、ヨウ素反応を起こし、色が変わってしまった。さて。では柳一彦。シャーレAとシャーレBのどちらがプリンなのか、調べてみたまえ」
 黒岩さんは何を考えているのだろう。何かを企んでいる気がするのだが、それが何なのか掴めない。ヨウ素溶液を垂らすと変色するという実験は僕も小学生の頃にやった。じゃがいもに垂らして、色が紫に変わるのを確認した覚えがある。じゃがいものでんぷんに反応したのだ。
 僕は言われるままにシャーレを調べることにした。AとB、両方のシャーレにヨウ素溶液を垂らしてみる。すると、シャーレAの物体が変色し始めた。シャーレBの物体は何の変化も起こらない。
「シャーレAの方がシャーレCと同じ反応を起こしたので、シャーレAがプリンですね」
 そう言うと黒岩さんは鼻でふんと笑って言った。
「あいにくだけれど、その解答では不十分だね」
「え、でもシャーレCと同じ反応を起こしたのはシャーレAで……」
「そう。確かにシャーレCとシャーレAは同じ物体だ。ここで似たような形の別物を用意するほど僕も暇じゃないからね。けれど僕の質問はシャーレCと同じ物体はどれか、じゃない。プリンはどれか、だ。それに対して君はAだと言って、僕はそれを不十分だと言った。つまりこういうことさ。シャーレAとシャーレBはどちらがではなく、どちらもプリンなんだよ」
 そう言って黒岩さんはさっきとは別のプリンを取り出した。少し高級そうなパッケージに包まれたカップに入っていて、同様に開封済みだった。黒岩さんはそこからさらに別のシャーレに切れ端を乗せ、ヨウ素溶液を垂らして見せた。色は変わらなかった。
「ああ、そうか」
 僕はようやく気づいた。自分の中にどちらかを選ばなければならないという思い込みがあったことに。そしてそれは黒岩さんにうまく誘導された結果だということに。
 ヨウ素溶液の結果を見せられて、僕は自然にそうやって調べるという意味だと思い込んだ。でも黒岩さんはヨウ素溶液で調べろだなんて一言も言っていない。味や匂い以外であれば、どんな方法も許されていたのに、僕はそんなことを全く考えもしなかった。
「ねえねえルイちゃん。このプリンもう食べてもいーい?」
「ああ、お姫様。これ全部君のものだよ」
 余ったプリンを美味しそうに頬張る由愛ちゃん。とても幸せそうな笑顔だ。
「野口英世を知っているかい。当然知っているよね。なんせ千円札に載っている人なんだから。彼は黄熱病の研究者として有名なんだけど、教科書とかだと黄熱病の研究に貢献したって載ってるんだ。貢献したって何だよって話だけどさ。要は彼が発見したと思った黄熱病の病原菌は、実はハズレだったということさ。現在では黄熱病の原因は菌ではなく、ウイルスだって証明されている。病原菌がいるという前提で研究を続けても、決してたどり着けない結果だったのさ。もちろん、当時の技術ではまだウイルスの存在を想定は出来ても、発見は出来なかったのだけれど」
 黒岩さんの伝えたいことが徐々に理解出来るようになってきた。黒岩さんは僕に、前提を疑えと言っているのだ。思考を固定させる必要は無いと告げているのだ。
「そうか。疑おうと思えば、案外色々と疑えるものなんだな」
 僕の中で様々な可能性が駆け巡る。前提を疑うことで、一気に可能性が広まった。
「方法的懐疑。今、君はあらゆるものを疑い得る。しかし、それは……」
「何一つ、確かに出来ない」
 そう。だから僕は……。


chapter09

 なんだか変な人だけれど、僕は彼女、黒岩ルイのことを好感の持てる良い人だと思った。示唆的にしか物を言わず、ひねくれてはいるけれど。でも、その示唆的な言葉のひとつひとつがとても重要なのだ。今も、初対面の時も、黒岩さんは大事な情報をもたらしてくれた。
「あれ、一彦おるやん。どないしたんこんなとこで」
 聞きなれた関西弁に振り向くと、そこには案の定、呉羽先輩がいた。
「先輩こそ、理科室に何か用事ですか? 手芸部と科学部ってあんまし繋がりがあるようには思えないんですけど」
「あかんなあ、一彦。そんな固い頭やと、これからの世の中やってかれへんで。今どきのファッションはコンピュータ使ってデザインしとるし、材料も合成繊維や。時には色彩心理学とかまで絡めて色決めたりするしな。あらゆる学問はどっかで必ず繋がっとるんや」
 呉羽先輩が右手人差し指を「ちっちっち」と言いながら左右に、メトロノームみたいに振りながら言う。これからの世の中とか言う割りに古典的なスタイルを維持する人だなあ。
「それは構わないんだけどねえ。だからと言って、どうしてうちがこんなものを作らなきゃいけないんだい。どう考えても普通に買った方が低コストだ」
 黒岩さんが何か糸のようなものの入った箱を取り出して呉羽先輩に渡す。
「それは?」
「ナイロンだ。手芸部にいる僕の友人から頼まれて作っておいた。セバシン酸クロリドの四塩化炭素水溶液などいちから作るはめになった。ヘキサメチレンジアミンの水溶液はたまたま僕が自宅に置いてあったものが流用できたからいいものの。一度に大量に作るために機械的な仕掛けまで用意して、まるまる一週間もかかってしまった。それでもこの程度の量しか出来なかったが、十分だろう」
「ナイロンをいちからって、なんでそんな面倒なことを……」
 見ると呉羽先輩は得意げな顔で腕を組んでいる。
「今年の手芸部のテーマは『原点に帰る』やねん。せやからな、服の材料から全部、自分らで作り上げようっていうことに決めてん。これは俺が一年の頃からのプロジェクトやからな。今年こそ最後まで仕上げたろうって気合入れとんねん」
「あー、由愛、それ知ってるー。なんか裏庭掘り返して、綿花育ててたよね。園芸部と水路の取り合いで揉めてたやつだ」
 もはや手芸部の域を大幅に逸脱しているような……。園芸部もいい迷惑だろう。この分だと科学部や園芸部だけでなく、他の部活も巻き込んでいるに違いない。
「おお、せやせや。あん時は流血騒ぎにまで発展して、さすがに水路は諦めることになってもうたんや。ま、今となっては懐かしい思い出やけど。てか嬢ちゃんなんでプリン二つ交互に食うてんねん!」
 由愛ちゃんはスプーンを二つ、両手に握って目の前のプリンを交互に口に運んでいた。右、左、右、左。なんというか、器用だ。
「だって、どっちも美味しいんだもん! どっちを先に食べて、どっちを後に食べるか決められないの。だからこうやって、順番に食べてるんだよ」
 そうだ、この際だから呉羽先輩にも焼きプリンのことを聞いてみよう。呉羽先輩は生徒会室によく来ているし、何より日巫女先輩の友人だ。日巫女先輩が白なのか黒なのか、何かヒントが得られるかもしれない。
 僕はたった今までの騒動のことをかいつまんで呉羽先輩に説明した。先入観を持ってほしくないということもあって、推理については伏せておいた。
「はあ……、なるほど。消えた焼きプリンの謎、っちゅうわけやな」
「ええ。おかげで放課後はまったく生徒会の仕事に手が付けられませんでした」
 ふうむと考え込む呉羽先輩に僕は相槌を打った。
「そらやっぱし、あれとちゃうか。休み時間中に掃除しとったとき、うっかり一緒に捨ててもうたんやで。ちなみにゴミの分別はちゃんとしとったんよな?」
「ええ。咲先輩がきちんと対応していましたよ」
「そうか。さっちゃんがやっとったんなら間違いは無いやろな。きちんと缶と瓶とに分けて集めてたんやろ。そんならそっちのゴミ袋、調べてみた方がええかもな。案外ひょっこり出てくるかもしれへんで」
 呉羽先輩には言っていないけれど、ゴミ袋についてはもうすでに調べていた。けれど中身を調べたのは確か竜司先輩だけで、他の誰も細かくは見ていない。燃やすゴミの方については竜司先輩と千里ちゃんの二人が確認している。けれど缶と瓶の方については竜司先輩以外、誰も確認していない。もう少し調べてみるべき、か?
「ほんだら、俺はこんくらいで退散させてもらうわ。早いとここのナイロン持ってかんとあかんしな」
 呉羽先輩は左手でナイロン入りの箱を抱えて、右手を振って理科室から出て行った。そしてまた理科室には僕と黒岩さん、由愛ちゃんの三人が残された。
「さて、と。客人も帰ったことだし、話の続きでもしようかね柳一彦」
 黒岩さんはビーカーに残ったコーヒーを全部すすって僕を見た。ビーカーにさらにコーヒーを注ぐ。よくそんなもので飲めるなあ。
「よくそんなもので飲めるなあ、という顔をしているね。心配しなくてもこれはコーヒー専用のビーカーだよ。他の薬品なんか混じったりしないさ」
「いや、そういう意味ではない、というか……」
 僕の抗議には構わず黒岩さんは話を続ける。
「要するに前提だ。僕は君にプリンの判別方法としてヨウ素溶液反応を示して見せた。これはつまり、プリンの中にでんぷんが含まれているという結果だ。けれど実は、決して“全ての”プリンにでんぷんが含まれているという意味ではなかった。これは単純に作り方の違いなのだが、プリンにでんぷんを入れるものもあれば、入れないものもあるということさ」
 確かに僕たちは何かを考えるとき、前提を必要とする。極端な話だけど、例えば1+1=2なのだ。僕たちはこの式を当たり前の前提だと思って生きている。もしそうしなければ、とんでもなく大変なことになるだろう。1+1=2だということが本当かどうか不安になったことはあるだろうか。僕はない。もしそんなことで不安になれば、コンビニで買い物もおちおちできやしない。
「1+1=2という式は証明できる。とても長い証明になって、高校生レベルではまず無理だけどね。それでも、とにかく証明は可能だ。しかし世の中には証明出来ないことの方が多い。確定できない物事は多々ある。けれど人はそんなことに気づかず、つい確定していると思い込んでしまう」
「その話と、日巫女先輩が逃げたことと、どう関係するんですか」
 僕はずっと聞きたいと思っていたことを改めて問い直した。僕が何故ここに残ったか。それは日巫女先輩の疑いを晴らすには、真実を明らかにするしかないと考えたからだ。そのために、黒岩さんの推理力が必要だと感じたのだ。
「いや、全然関係ない」
 思わずこけてしまった。い、痛い。由愛ちゃんが頭をなでなでしてくれる。いたいのいたいのとんでけー。
「会長さんがどうして逃げたか。それは君が凡人だからさ」
 そしてまた訳の分からないことを言う。僕が凡人だから逃げるってどういう意味だ。というか僕、どうしてまた凡人とか呼ばれてるんだろう。
「君は、普通になりたいと思ったことはあるかい?」
「え? いや、特にそう考えたことはないけれど」
「僕はある」
 黒岩さんは少し自嘲気味に笑った。
「会長さんはたぶん、この事件の結末が見えているね。それも随分早いタイミングで。けれど、それをあえて口にしなかった。その理由が君だよ、柳一彦。会長さんは君に是非ともこの問題を解いてほしいんだ」
「そ、それは……」
 どうして、と言おうとした。
「そこまでは分からない。僕は読心術なんか身に付けちゃいないからね。会長さんがいったいどういう企みで君にそう仕向けるのか分からない。でも僕の推理は七割くらい正解だと思うよ。ここに君が残ったという結果から逆算するとね。だって君、会長さんの無実を証明したくてここにいるんだろう?」
 読心術は使えないと言いながら、僕の心の内をずばずばと言い当てる黒岩さん。黒岩さんに限らず、どうも僕の考えていることは周囲にすぐ伝わってしまう。ひょっとして僕、サトラレなんじゃないだろうか。
「あの会長さんはどうも裏があるみたいだ。僕が言うのも何だけどさ。怪しいよね」
 いや、ほんと黒岩さんが言うのは何だと思うよ。
「怪しいっていったい、どこらへんが怪しいって言うんですか。そりゃあ確かに会長は変な喋り方するし、女の子なのに男気溢れてるけど、怪しいなんてことは無いと思うよ」
 すると黒岩さんはちょっと拍子抜けしたような顔をした。なんだか僕が変なことを言ってしまったような、検討外れなことを言ってしまったような、そんな感じ。
「ああ、そうか。普通は知らないか」
 黒岩さんが邪悪な笑みを浮かべる。いや、ちょっと普通に怖いんですけど。
「知らないって、何を?」
「いつも会長さんの隣にいる彼。宿禰陽太郎。彼には気をつけた方がいいよ」
 まただ。また、陽太郎くんの名前が出た。二人の人間から二人ともに「気をつけろ」と言われた。御鏡さんに言われた時は、別に気にも留めなかったけれど、今度は黒岩さんだ。学園の天才二人が要注意という人物。それだけで十分危険な感じがするけれど、その人物というのはあの陽太郎くんなのだ。にわかには彼女らの言っていることが鵜呑みには出来ない。
「どう、気をつけないといけないんですか」
 少し声が震えた。知らないうちに緊張してしまっているのだろう。
「別段何もすることはないさ。普段どおりにしていればいい。けれど、知らないよりは知っていた方がいいだろうな。身の処し方も考えておける。ちょうど由愛も退屈してまた眠ってしまったところだ。由愛は空気の読める、本当にいい子だよ。というわけで教えてあげよう。宿禰というのは『八色の姓』第三位のことだ。八色は纏向の中枢に位置する連中で、軍事と行政を担っている。その中でも宿禰は諜報に特化したところだが、分類としては軍事になる。そんなところにいる人間が、どうして会長さんの隣にいるんだい? どう考えても怪しいじゃないか」
 衝撃の事実、なんだろうか。黒岩さんが話していることにどうにも現実感が無い。だいたい、どうして黒岩さんがそんなことを知っているというんだろう。
「ひょっとして、ハッキングしたとか?」
「はあ? なんだそれ。ああ、ひょっとして御鏡アリスのことかい。そうか、彼女からもこの話を聞いたんだね」
 僕は少し失敗したと感じた。うかつに黒岩さんに御鏡さんのことを知らせてしまった。
「宮内府のシステムは専用線を引いているはずなのだがな。いったいどうやって侵入したのやら」
 くっくっくと笑う黒岩さん。なんだか楽しそうだけど、やっぱり怖い。陽太郎くんは、ひょっとしたら本当に黒岩さんや御鏡さんの言うような人物なのかもしれない。けれど僕は、自分の見たものを信じるとずっと昔に決めたんだ。だから。
「陽太郎くんが何処の誰であろうとも、陽太郎くんは陽太郎くんです。だから、陽太郎くんとは今後も今までと同じように付き合っていくつもりだよ」
 黒岩さんは少しだけむっとしたようだけれど、すぐにいつもの表情に戻って「好きにすればいいさ」と言った。
 そして僕は理科室を出た。
 今日一日、なんだかとても長かった。外はもう日が暮れかかっていた。部活動をやっている人たちも帰る時刻だ。少し気持ちを落ち着かせて、今日のことを振り返ってみる。
 まず僕は会長の指示を受けて、会計係の仕事に勤しんでいた。お金に関することだから、入念に、ミスのないようにと釘を刺されたのを覚えている。特に部活動の予算編成に力を入れるよう言われた。でも考えてみればおかしな話だ。どうして部活動の予算についてだけ厳しく注意されたのだろう。例えば教室の備品や文化祭、体育祭といったイベント、それ以外にも沢山考えなくちゃならないことがある。なのに会長は部活動の予算に強くこだわった。それはいったい、どうしてだったのだろう。
 それから御鏡さんと黒岩さんの話す陽太郎くんのこと。彼はとても真面目で気配りの上手な好青年だ。御鏡さんも黒岩さんも宿禰という名前を気にしているみたいだけど、それは単なる名前じゃないか。名前が本人を規定するなんてこと、あるわけない。ひょっとしたら彼女たちが言うように、陽太郎くんはどこかの組織に属する軍人なのかもしれない。けれど、たとえそうだとしても、それがどうだと言うのだろう。人の価値は名前や、所属や経歴で決まりはしない。今ここにいる陽太郎くん、それが全てじゃないか。
 最後に、焼きプリンのことを考える。今日はまさにプリンデーと言っていいほど、プリンに振り回された一日だった。千里ちゃんが買ってきた焼きプリン。それが突然消える。いや、実際には誰かがなんらかの方法で焼きプリンを持ち去ったのだ。もしくは意図しない紛失かもしれない。いずれにせよ、消えてなくなったということはありえない。そして勝手に無くなってしまったということも考えにくい。ならやっぱり誰かがどうにかして無くしたのだ。もう一度ゴミ袋を調べてみるべきだろうか。
 ゴミ袋を調べる……。
 ああ、そうか。
 僕の中でようやく点と点が繋がる。スティーブ・ジョブスの名演説じゃないけど、過去を振り返ってやっとあの点に意味があったんだと理解する。
 名探偵ならきっと「なんだ、こんな簡単なことだったんだ」と笑い飛ばす。困惑する周囲を突き放して自分だけ知の女神ソフィアに祝福されているかのように振舞う。でも僕にそれは出来ない。僕はここに至るまで、沢山の情報を仕入れないといけなかった。発想の飛躍とか、そういうものは全部他の人に任せてきた。だから僕一人で何かを調べようとしても、きっと何も分からなかっただろう。情報不足。全てはその言葉に集約される。そして今、情報は全て出揃った。だから僕は間違いなく正しいと思える道を進むことが出来る。
「まだ間に合うかな」
 太陽はまだ沈んでいない。


chapter10

 中に人の気配が無いのを確認してから中に侵入する。ひょっとして遅かったかと焦ったけれど、机に放置されたカバンを見つけて安堵した。大丈夫、まだ帰っていない。
 この中に見つからなければ、次は教室にまで行って調べてみる必要がある。とんとんとうまくいくよう祈りつつ、カバンを開けてみると……。
「あった」
 見つけた。
 カバンの中、そこに僕は千年万年堂の焼きプリンが存在することを確認した。とっくに食べられてしまったと思っていたのだけれど、意外にも中は手付かずのままだった。
 良かった、これで穏便に済ませられる。そう安堵した直後、
「わ!」
「っっっひゃあ!」
 背後から突然の掛け声を浴びて、情けない悲鳴をあげてしまう。慌てて振り向くとそこには楽しそうに笑う呉羽先輩が立っていた。
「おう。遅かったやんけ。待ちくたびれたで」
 僕はと言えば呼吸を整えるので精一杯。と言うか今、「待ちくたびれた」と?
「えっと、呉羽先輩。これって」
「一彦が思っとる通り、ちーちゃんの焼きプリンや」
 あっさり犯行を認める呉羽先輩に拍子抜けしてしまう。僕はと言えば、どうやって呉羽先輩と話すべきか必死で悩んでいたというのに。
「どうして千里ちゃんの焼きプリンを盗んだりしたんですか」
 とりあえず最初に一番の疑問をぶつけておく。まさか退屈しのぎとかじゃないよな、黒岩さんじゃあるまいし。
「いやあ、最近スランプでなあ。服のデッサンしとっても、いまいちええのんが出来んのよ。そんな俺に何が足りへんと思う?」
「さあ、なんでしょうか。才能?」
 グーで頭を殴られた。
「どあほが! 俺の才能言うたら無限大やで。そのうち姉貴も凌ぐビッグネームになったるわ。安藤忠雄もびっくりのスーパーデザイナーやからな」
 無限大、ビッグネーム、スーパーデザイナーという単語チョイスに若干古さを感じる。この人は僕と同じ世代の人なんだろうか。あと、安藤忠雄はデザイナーはデザイナーでも建築の方の人なんだけれど、そのへんあまり気にしてなさそうだからいいのか。
「俺に足りへんかったんはな。糖分や! 脳みそに糖分が足りとらんかってん。せやからいまいちデザインもいけてへん感じなってもうてたんやな。そんなわけで、ちょいと焼きプリンちょろまかしたっつうわけや」
「あんたに足りないのは糖分じゃなくて脳みそそのものだ!」
 あまりの下らなさにさすがの僕も突っ込みがエスカレートする。小学生の頃にじゃんけんのゲームで鍛えた必殺の馬場チョップを繰り出す僕。しかし、僕の渾身の一撃は呉羽先輩にすんでのところでかわされてしまう。
「ダメですよ先輩、突っ込みはちゃんと受けきらないと。関西人としてなっていません」
「いや……、関西人とか関係あらへんし。て言うか今のチョップはさすがにやばいで。突っ込み約ならしっかり加減てもんを覚えとかんとな」
 呉羽先輩の表情が若干引きつっている。それを見て僕も仕方ないなとこれ以上の突っ込みは控えることにした。
「まったくいい年した高校生が、糖分足りないなんて理由で後輩のお菓子を盗んだりしないでくださいよ」
「いや、俺かてさすがに本気で盗むつもりはないって。ほら証拠に、一口も手ぇ付けてへんやろ?」
 そう言って呉羽先輩が焼きプリンを指差す。たしかに瓶詰めのそれは、未開封のままだった。
「じゃあ何ですか。呉羽先輩も黒岩さんみたいに単なる愉快犯ってことですか」
「んー、まあ最初はそうやってんけどな。途中から事情が変わってん」
「事情っていったい」
「待った。その前に、なんで俺が犯人って分かったかきちんと説明してもらおやないか」
 僕の疑問を封じていきなり命令口調になる呉羽先輩。
「ええ!? なんでそんなことしなくちゃいけないんですか。呉羽先輩だってさっき自分が犯人だって認めたばかりなのに、それを否定するんですか? それに何より、目の前のその焼きプリンが動かぬ証拠でしょう」
「ああ、確かにこの証拠は動かしがたい。せやけどな、ここはきちんと説明してもらわなあかんことになっとんねん。説明せえへんかったら、俺も前言撤回するからな。そんでこの焼きプリンはたまたま俺も買うとったことにするからな」
 そんな無茶苦茶な。呉羽先輩が何を考えているのかさっぱりだったが、とにかく推理を説明することにした。時間も無いし。
「そうですね……。呉羽先輩が犯人だろうなって確信したのはつい先ほど、理科室で話をしていた時です。呉羽先輩、こう仰いましたよね? 冷蔵庫のゴミはきちんと分別したのか、と。そしてその上でこうも言いました。焼きプリンを見つけるなら、缶と瓶を集めたゴミ袋を調べるべきだ、と。どうしてそう仰られたのでしょうか」
 呉羽先輩は何故だかにやにやしている。そして予定通りといった風に答える。
「そらそやろ。そこの焼きプリン、瓶詰めになっとるやんか。きちんと分別しとったら缶と瓶の方に仕分けるんが当然や。何の不思議もあらへん」
「はい。確かにそこだけを見れば何の不思議もありません。何の矛盾も生じません。けれどそうすると、実は明らかな矛盾が発生してしまうのです。先輩言いましたよね? その千年万年堂の焼きプリンを食べたことが無い、と。食べたことのない焼きプリンを、どうやって瓶だと認識できたのですか」
「そらたまたまテレビか何かで見たんを覚えとったんや。千年万年堂の焼きプリンは人気やからなあ」
 さらりとかわそうとする呉羽先輩にもう少しねばってみる。
「けれど朝の時点で呉羽先輩は千年万年堂を知らない様子でしたよ?」
「朝は単に頭が回っとらんかっただけや。言うたやろ、糖分が脳みそに足りてへん、て」
 ここまでだな、と判断する。これ以上はここからは追求できない。もちろん、そうなることは想定済みだ。
「そう返されるかもしれないとは思っていました。なので先に証拠を押さえさせてもらったんですよ」
「はっ。そらそやな」
 呉羽先輩もさすがにここで「俺が買った」とは言い出さなかった。
「まあ俺の発言に矛盾があったことは認めよう。だとしても、や。どないして俺が千里ちゃんの焼きプリンを盗めたっちゅうつもりや? 俺は言うても生徒会役員ちゃうし、そんな生徒会室をひっきりなしに出入りしとるわけとちゃう。昼休みに行ったけど、そん時はまだ焼きプリンが冷蔵庫ん中にあったはずや。その後に俺が生徒会室に入ったんは、放課後の一回きり。みんなの前で、焼きプリンを盗むチャンスなんかあらへん」
 僕は黒岩さんの言葉を思い返した。前提を疑え。そう、答えの見えない問題に当たったとき、問題そのものに縛られてはいけないのだ。もし問題そのものが誤っていたとしたら? つまりそもそも答えの出せない問題であったとしたら、その問題について考えること自体が無意味。
「呉羽先輩が焼きプリンを盗めた機会は一度きり。それは午前中です。午前中、僕と咲先輩、千里ちゃんが生徒会室から去った直後、呉羽先輩は生徒会室に一人になりました。その時に焼きプリンを盗んだんです」
 すかさず呉羽先輩が反論する。
「いや、何言うてんねん。昼間に千里ちゃんが冷蔵庫あけて、焼きプリンがあることをちゃあんと確認しとったやろ。まさか盗んでまた戻した言うつもりないやろな。それやったらまた盗み直さなあかんで」
「もちろんそんなこと言うつもりありませんよ」
「ほなら、なんで」
 問い詰めてくる呉羽先輩に対し、僕は簡潔に、明瞭に答える。
「箱の中から瓶詰めの焼きプリンを取り出した。それだけですよ。千里ちゃんは箱だけを確認して、冷蔵庫の中に焼きプリンがあると誤認した。それだけなんです」
「せやけど、その箱はどこ行ってん? とまあ、一応聞いとくかな」
 昼にはあった焼きプリンの箱が放課後には無くなっている。中に焼きプリンが無く、最初から箱だけだったと想定すれば簡単だ。
「それはきっと、咲先輩が分別してしまったのでしょう。缶と瓶の方、ではないもう一つのゴミ袋に」
 缶と瓶のゴミ袋をいくら丹念に調べても焼きプリンが出てくるわけはなかったのだ。本体は呉羽先輩の手元にあり、箱は別のゴミ袋にゴミとして入れられているのだから。
「ほんでもそれは状況証拠に過ぎん。結果的にこうやって証拠を手に入れることが出来たからええけど、証拠手に入れられる自信はあったんか? 俺がどっか捨ててもうてたかもしれんやろ」
「いえ、それは大丈夫だと思っていました」
「なんでやねん」
「なんでって、それは呉羽先輩はエコロジストですから。ゴミの分別にあんなに厳しい先輩のことですから、たとえ焼きプリンを食べたとしても瓶は必ず持ち帰ると確信していました。ですからその瓶がまだカバンの中に入っているに違いない。ということです」
 ざっと僕の推理を説明した。呉羽先輩はなんだか楽しそうに笑う。
「まあ、そんなとこやな。俺の負けや負け」
 呉羽先輩が両手万歳をして敗北を宣言する。確かに僕は焼きプリン消失の謎を解き明かした。けれどその先にある何かまではまだ手が届いていない。明らかに何かを知っている様子の呉羽先輩なのだが。
「とりあえずこの焼きプリンは千里ちゃんに返しておきますね」
「あいよ。ちーちゃん怒ってここ来るやろなあ。真剣に喧嘩しても勝てる気せえへんわ」
 へらへらと自虐的に笑う呉羽先輩に僕は言った。
「心配しなくてもいいですよ。落し物置き場に置いてあったことにしますから」
「は?」
 呉羽先輩がきょとんとする。
「世の中不思議なこともあるもんですね。焼きプリンが勝手に無くなって、しかも落し物置き場で見つかるだなんて」
「いやさすがにその流れは無茶ちゃうか。誰も説明できへんで」
「真犯人は黙っていてください。別に説明できなくてもいいんですよ。事件はこのまま迷宮入りですけど、結果的に誰も損をしない。だから喧嘩にもならない」
 そうだ。僕は決して真実を明らかにしたいわけじゃない。そんな科学者的な探究心は持ち合わせていない。ただただ、物事を穏便に、平和の裡に終わらせたいだけなのだ。
「というわけでもう行きますね」
 そう言って僕は廊下に出た。そのまま生徒会室に向かう。結局僕はまだ真相にたどり着いていない。けれどそれでもいいのだと思う。和をもって尊しとなす。僕、柳一彦は根っこからそういうタイプの人間なのだ。
 それにまだ一つ、ちょっとやっかいな問題が残ってる。真相にたどり着くにしても、それを片付けてからじゃないと落ち着かない。
 生徒会室に戻った。
「ああ、もうみんな帰っちゃったか」
 生徒会室には誰もいなかった。とりあえず焼きプリンは冷蔵庫に戻しておく。忘れ物置き場云々の話はやめて、このまま突然冷蔵庫に戻ってきたことにしておこう。やれやれ、世の中不思議なこともあるもんだなあ。僕は自分のカバンと生徒会室の鍵とを手に取り、廊下に出る。
 そしてもう一つの問題を対処しに行く。ああ緊張するなあ、もう。心の準備もおぼつかないまま目的地、社会科準備室にたどり着いた。とりあえずノック。少しだけ中に誰もいないことを期待する。けれど中から「はーい」と若い男性の声が聞こえてきたので仕方なく「失礼します」と言って中に入った。坂田先生が一人で事務作業をしているところだった。まったくもっておあつらえ向きなシチュエーションに、いよいよ事なかれ主義の僕も事なかれ主義ゆえに覚悟を決めざるを得なかった。
「おや、こんな遅くまで生徒会の仕事かい? 頑張ってるね、一彦くん」
 先生はいつもの爽やかな笑顔で僕を出迎えてくれた。
「はい、実は先生にご相談がありまして」
「僕に相談? なんだろう。生徒会のことかな。それとも進路についてかな。君ももう二年生だし、考え始めないといけない時期だしね」
 僕は首を振って否定する。生徒会のことでも進路のことでもない。
「あれ。じゃあ、もっと個人的なことだったり。ひょっとして恋の悩みかな? いやあ、先生は奥手な方だから、あんまりいいアドバイスをしてあげられないと思うけど」
「いえ、そういう個人的な問題でもないんです」
「ふむ。生徒会でもない、進路でもない、個人のことでもないとすると……。いったい」
 少し緊張する。でも勇気を振り絞って言う。
「僕が相談したいのは、坂田先生のことです」
「え、僕?」
 坂田先生はますますもって分からないという顔をした。僕は続けて断言した。
「坂田先生。部活動の予算を横領していますね」
 坂田先生の表情が凍りつく。目が泳いでいるのが分かる。どうやら嘘をつくのはさほど得意ではないらしい。
「いったい、何の話を……」
「うちの学園は部活動も盛んですからね。けっこうな数の部活があって、全体の予算となるとそれなりの額になります。例えば一つのクラブから一万円を取り出せば、一期だけでおよそ五十万円。つまり年間百万円を手に入れることが出来るという計算です。あくまで、ざっとですけどね」
 坂田先生の顔つきが徐々に険しくなっていく。僕は構わずに続ける。
「いつから続けているのかは知りませんが、トータルで数百万円を学園から盗んだのではないですか。過去のデータをひもとけば、時間はかかりますが計算は可能です。中途半端に分権したのが良くありませんでした。生徒会が責任をもって部活動の予算をまとめるなら、先生方への依頼も生徒会ですべきだったのです。けれど歴代の生徒会は仕事を怠って、各部の予算申請書の取りまとめを坂田先生に任せ切ってしまった。そこに隙がありました。先生はもう一つ、偽の予算申請書を用意することでその差額を取ることが出来る」
 僕はカバンから二枚の紙を取り出した。両方とも科学部の予算申請書だ。唯一、その申請額のみ異なっている。
 坂田先生はがっくりうなだれている。反論する気力も無いようだ。坂田先生はゆっくりと顔を上げて言った。
「み、見逃してくれ」
 か細い声だった。あまりに弱弱しくて、聞いているこっちが苦しくなるくらい。
「頼むよ、なあ。今、就職難のこの時期に、職を失ったら大変なんだ。とても生きていけやしない。こんな不祥事がバレたら、他のどの学校にも行けない。俺にはこれ以外の仕事なんて出来やしない。お願いだ。どうか穏便に」
「そうしたいのは山々なのですが、ちょっと事が大きくなってしまいました。すでに会長も気づいていらっしゃいます」
 これは推測ではあったが、外れていないだろうと思う。あれほど何度も部活の予算を見直すよう指示していたのは、何かに感づいたからに違いない。そしておそらく黒岩さんも。まったく何でもない風を装って重大なヒントをくれるのだから、まったくひねくれている。
「……の……き」
 坂田先生の身体がわなわなと震える。うつむいているせいで表情は読み取れないが、悔しい気持ちが空気で伝わってくる。あ、やばいかも。
 思った時にはすでに遅かった。
「こんの、くそがきがあああああ!」
 坂田先生が突然僕にのしかかる。急なことで避けられなかった。僕は背中を床にしこたまぶつけて仰向けに倒れこんでしまう。息が潰れる。坂田先生の両手が喉にかかる。いや、これやばいって。
「この金がないと困るんだよ。ダメなんだよ。生きてけないんだよ。ああそうさ。てめぇでこしらえた借金のせいで首が回らねぇんだよ。たった、ほんの数十万が俺にとっては命取りになってんだよ。惨めだとも。すげぇ情けねぇよ。だけどな。しょうがねぇんだよ! 俺だって好きでこんな目に遭ってんじゃねぇんだ。もっとまともに結婚して、まともに働いて、まともに生活してぇんだよ。でもどっかで狂っちまった。どこが狂っちまったのか全然分からねぇけど狂っちまった。だから今こうやって、必死こいて修復してんだよ。それをだなあ。てめぇみたいなケツの青いガキに反故にされちまっちゃあよ。たまんねえだろが、ああ!?」
 ダメだ。坂田先生は完全に錯乱している。今ここで僕を手にかけることのデメリットを説明しても通じそうにない。いや、その前に首を絞められて何も話せない。く、苦しい……。
 うかつだった。一人で解決しようとするべきじゃなかった。ちゃんと日巫女先輩に報告して、連絡して、相談していればこんなことには。僕の思考は後悔で包まれていく。嫌だ、こんな、こんなつまらないことで死にたくない。僕はまだ、彼女さえ出来たことが無いというのに!
「五七二万」
 日巫女先輩の声が聞こえた。
 その直後、僕を押しつぶしていた重みがふっと消えた。そして次に少し離れた場所で車が衝突したような大きな音がした。机やら椅子やらがバキバキと割れる音。
 僕はと言えばその場でむせこんでしまった。状況を確認する余裕もない。
「 五七二万円。どうやら君の生命の価値はたったの 五七二万のようだな、一彦」
 ようやく周囲の状況を理解し始める。僕の前には両腕を組んで、相変わらずに偉そうな姿勢で仁王立ちの生徒会長、天宮日巫女先輩がいた。そのすぐ隣、陽太郎くんがこれもいつも通りにすがすがしい笑顔を僕に向けてくれた。
 そして僕から見て右の方、部屋の端に転がる机や椅子だったものの瓦礫、そして坂田先生が。ぴくりとも動かない坂田先生。えーっと……、死んだ?
「安心せい。骨の数本はいったかもしれんが、あの程度で死にはせんよ。陽太郎はこれでも戦闘のプロフェッショナルであるから、相手をきちんと半殺す術を心得ておるのだ」
 陽太郎くんを見ると、「恐れ入ります」といつも通りの返答をする。
「さて一彦」
 日巫女先輩が僕を見下ろしている。その目はなんだかちょっと怒っているような、いや明らかに怒り心頭というか、
「この、うつけが!」
 日巫女先輩のかかとが脳を直撃する。綺麗だ。完璧なかかと落としだった。
「先走りおって。もし我らが気づかねば、危うく命を落とすところだったではないか。うかつな行動だ。以後、慎め!」
 了解です日巫女先輩。でもその前に頭から流れる血が出血多量で死にそうです。
「だがまあ、呉羽に聞いたが、どうやら焼きプリンの課題もきちんとこなしてきたようだな。その後の始末もなかなか良い。あえて問題をもみ消すことで安寧を保つとは、血気盛んが取りえの若輩連中ばかりの学園においては稀有な能力だ。そこまでで君の能力を測り、仕事をしてもらう予定だったが、どうやら君は私の予想以上に有能だったようだ。だが私の期待するほどには無能ではなかったということか。君の手に余る仕事でさえも勝手にやってしまおうとする。そこについては今後、改めてもらわねばならん」
 日巫女先輩が何かを話し続けている。けれど僕の脳内では途中から意味を失ってしまって。僕の意識も徐々に途絶えた。


chapter11

 薬品のにおいで目が覚めた。無機質な天井と、自分の周囲を囲む白いカーテン。えっと、ここは病院、かな。
「ようやく目が覚めたようだな」
 見上げるとそこには日巫女先輩の顔があった。いつになく優しい表情をしている。
「ここは、病院ですか」
「たわけが。あの程度で病院になど連れていけるか。今どきは医師不足でつまらん傷にいちいち相手などしておれんのだ。ここは学園内の保健室である」
 そうか、それもそうだ。周りをカーテンで囲まれているので気づかなかった。
「陽太郎くんは?」
 辺りを見回しても陽太郎くんの姿が見つからなかった。
「ああ。あれには坂田金造の処分を任せている。校長からの依頼もあって、穏便に片付けるよう取り計らっているところだ。おそらく、八島系列の炭鉱場にでも送られるであろうな。もちろん日本国内の炭鉱は全て閉鎖されている」
 さらりと恐ろしいことを言われた。けれど僕のモットーは和を持って尊しとなす、だ。それ以上の掘り下げは絶対にしない。
「明日の全校集会で坂田金造は海外赴任となったと報告されるであろう。幸いにして彼は独り身かつ両親もすでに他界。事後処理はさほど苦労せんで済みそうだ」
 僕はぼんやりと話を聞いていた。いや、聞いていてしまった。日巫女先輩が語る言葉はどうしようもなく危険な響きを含んでいる。
「それにしても一彦。今回の働きはなかなかのものだったぞ。最後のツメが甘くはあるが、期待した以上の実務能力だ」
 日巫女先輩が微笑みながら、そっと僕の頬に右手を寄せる。それからまるで子供を扱うかのように頭をよしよしとなでる。ちょっと痛いけど。僕はと言えば、恥ずかしながらそれが少し嬉しかった。嬉しくて、つい日巫女先輩に見とれてしまう。
「であればこそ、私の夢の実現に貢献してくれることであろう」
「夢、ですか?」
「うむ。夢だ」
 日巫女先輩の夢。それはいったい。
「私の夢とは、世界平和である」
 言った。言い切った。今どき小学生ですら懐疑的な目で見かねない言葉を、この人は臆することなく、恥じ入ることなく言ってのけた。
「世界平和と言っても、ただただ戦争反対と叫ぶだけの、いわゆる平和活動を私は目指していない。私の目指す世界平和。それはあらゆる戦争行為が無価値となるような世界を生み出すことを目標としている」
 心なしか日巫女先輩の目がきらきらと輝いているように見える。夢を語る少年なのだ、日巫女先輩は。そしてそれを語るだけの器を持っている。
 そんなこと、できっこないと思った。夢を語っていいのはやはり少年の特権なのだから。でも、どうしてだろう。無理だと思う反面、この人ならという期待に胸が膨らむ。僕は自嘲した。今さら何を言っているのだろう。この人の持つ魅力を、今初めて知ったというわけでもないというのに。
「しかし、そのためには力がいる。私はこのとおり、まだ幼い十代の少女に過ぎぬ。このような無力な存在が世界を語るのは少々あつかましいというものだ。であるからして、私は力を求めている。いずれはこの国を動かしうる、大きな力をだ。だからこそ、私は人を求めている。私と共にこの国を動かす力を持つ、有能な仲間を。一彦。君もその一人になれ」
 日巫女先輩がまっすぐ僕の目を見つめる。吸い込まれそうなほどに深い黒の瞳。
「か、買いかぶりですよ。僕は先輩もご存知の通り、普通の一般市民です。凡人なんですよ。先輩の理想はとても立派だと思いますけれど、とても僕なんかがお役に立てるようなことは……」
「阿呆が!」
 日巫女先輩が突然立ち上がり、ベッドの上にのしかかってくる。僕の真上に日巫女先輩がいる。両手をぼくの両肩に置いて、四つんばいの姿勢で僕をじっと睨みつける。
「凡人とはそれ自体がひとつの才能なのだ。一彦は確かに、人並みはずれたセンスも能力も何も持ち合わせてはおらん。しかし、人並みであるということにおいて非常に優れておる。情報をとりまとめ、整理し、解答に至る分析力。それこそまさに凡人にこそ相応しく、天才には不得手な技術なのだ。天才は情報をとりまとめず、整理せず、ただただ解答に至る特殊能力者なのだ。誰もが理解しえない形で解答に至るのだ。そしてその解答がきちんととりまとめられ、整理された形で世に出て初めて天才が天才として認められるのだ」
 至近距離で日巫女先輩が熱弁を振るう。僕はと言えばその内容もさることながら、日巫女先輩が間近にいるという緊張感で胸が張り裂けそうなほど緊張していた。ああ、なんかいい香りが。
「一彦。それがお前に与えられた仕事だ。凡人として私の傍にいよ。天才であるこの天宮日巫女を生涯支える者となれ」
 この瞬間、僕の心は完全にわしづかみにされてしまった。否応なしに僕の返事は確定されてしまった。「はい」、と。それ以外、いったい何が言えたっていうんだい?
 すると日巫女先輩がにやっと笑った。そして言った。
「得たり。陽太郎、確かに聞いたな?」
 日巫女先輩が陽太郎くんの名を呼ぶ。するとなんとベッドの下から陽太郎くんがすっと現れる。い、今までずっとそこに!?
「はい。確かに聞きました。ボイスレコーダにもきちんと録音しております。こちらの音声はすでに天宮のご自宅にあるサーバまで転送いたしましたから、この場での消去は不可能です」
「うむ。それは重畳」
 二人の会話にまったく付いていけない僕。不安そうな僕の表情に気づいたのだろうか。日巫女先輩は僕を見て優しく、しかしどこか邪悪ににっこり笑って見せた。
 そしてすっと僕から離れる。日巫女先輩の香りだけ少し残った。
「今日はまことに良き日だ。この世の悪を滅し、同時に未来の優秀な部下を得ることとなった。今はまだ小娘小僧の寄せ集めに過ぎぬ我らだが、いずれはこの国の実権を握る日も近かろう、なあ陽太郎?」
「はい。全ては殿下の思し召すままに」
 陽太郎くんが日巫女先輩のことを何故か「殿下」と呼ぶ。と言うかこの国の実権を握るって……、えーっと。
「あの、日巫女先輩? あなたは、いったい」
「うむ。少々先走りすぎたかな。良い、陽太郎」
 すると陽太郎くんが制服の内ポケットに手を入れて何かを取り出した。彼の右手には何か光り輝く宝石のようなものが握られていて、それを見て僕は今度こそ本気で心臓が止まるかと思った。
 陽太郎くんがその宝石を前面に押し出し、言った。
「この勾玉が目に入らぬか! こちらにおわすお方こそは纒向が第一皇女、ヒミコ様であらせられるぞ! 頭が高い、控えおろう! ……、といった具合でよろしいでしょうか殿下」
 日巫女先輩におうかがいを立てる陽太郎くん。
「ふむ。やはり陽太郎のキャラにその台詞は似合わぬか。まあ良い、次は一彦にでもやらせてみせよう」
 などと勝手な会話を繰り広げる二人だが、僕は目の前の勾玉に目を引き付けられっぱなしだった。見間違いじゃない。写真でしか見たことがないけれど、この国の人間が知らないわけはない。この日本に伝わる最も神聖かつ権威ある宝。三種の神器。その一つである八尺瓊の勾玉が僕の目の前にある!
「さすがに驚いたようだな。いちおう言っておくが、贋物などではないぞ。れっきとした本物だ。正真正銘、三種の神器が一つ、八尺瓊の勾玉である。そして陽太郎が言ったとおり、私は纒向の第一皇女、ヒミコと言う。天宮というのは偽名だ。我らは通常、姓を持たぬでな」
 僕は……、いつの間にか正座していた。
「そしてこの陽太郎は我らの従者である。宿禰家は代々、纒向の諜報担当として働いてくれている由緒正しい家柄だ。その中で最も若く、私に近いものを護衛として借りているということだ。坂田を蹴り飛ばした力を見て理解していると思うが、戦闘においても十分な力を持っておる」
 陽太郎くんは日巫女先輩の傍で静かに立っている。いつもの穏やかな笑顔は絶やさない。
「け、けどそんな偉い人がいったいどうしてこんなところに」
「私だけではないぞ。私の二人の妹たちも、各々の場所に散って生活しておる。そうだな。言うなればこれはルールの無いゲームだ。駒は配置したが、それをどうやって動かせば良いか分からんという、どうしようもないゲームである。ただし、ゴールだけは見えている。纒向の支配者、すなわち日本の支配者となる権利を勝者が勝ち取るというゴールだ」
「つまり日巫女先輩は、今まさに、皇位継承者争いの真っ最中、ということですか」
「左様だ」
 また頭が痛くなってきた。自分とは縁の無い世界だと思っていた纒向。それがこんなにも身近なところにあったなんて。しかも今、僕は何か大きく巻き込まれようとしている。相手が宮内府ともなれば、少なくとも国内でどこかに逃げるということは不可能だろう。警察並みの捜査網を持っている、いや警察内部にもコネクションがあるというのは公然の秘密だ。
「そういうわけだ一彦。協力してくれるな?」
「どういうわけですか! それにそんな大きな話、僕なんか何の役にも立ちませんよ」
「役に立つか立たないかは私が決める。君は私の言う通りにしていれば良いのだ」
 無茶苦茶言う。
「それにさきほど、君はすでに承諾してしまっているからな。証拠として録音テープも取っておいた。完全に契約として履行される。もしそれを反故にしようものなら……、分かっておるな?」
 陽太郎くんが懐から何かを取り出す仕草をした。ちょっとだけ見えたその姿は黒くて、鈍い光をはなって、陽太郎くんの右手にすっぽりと収まっていた。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。
 ガタガタ震える僕の傍に日巫女先輩が腰掛ける。
「今はとにかく、戦力を整えることに集中したい。そしてその戦力は、決して無能であってはならんのだ。無能はそれだけで戦力全体を引き下げてしまうからな。そして何よりも私に忠実でなくてはいけない。裏切り以上に恐ろしいものはない」
 また、日巫女先輩の顔が近づく。この人は、こっちの気持ちを分かっててやってるんだろうか。日巫女先輩の香りが漂う。ああ、もう、どうにでもなーれ。
「ええ、もう、分かりましたよ。会長に見初められたのが運の尽きです。こうなれば地獄の底までお供しますとも」
 ほんの少しだけ、自分の気持ちを添えて日巫女先輩に伝えた。すると日巫女先輩はとても嬉しそうに笑った。それだけで僕は幸せな気持ちになれた。
「お供しますけれども、さしあたって何かやることはあるんですか?」
「うむ。今のところは特にない。坂田の件は乱暴ではあるがすでに片付いてしまったからな。あとは裏の仕事であって、我らがすべきことは残されていない」
 そうか。ならしばらくは普段と変わらない毎日を過ごせそうだな。スケールの大きな話に戸惑ってしまったけれど、僕の実生活にそれほど大きな変化は起こらなさそうだ。
「それでは一彦も詰まらんだろう。とりあえず、私の家で執事をやれ」
 僕の実生活にそれほど大きな変化は……。あれ?
「具体的には、家の雑用全てだな。心配せずとも全てをやらせることはない。メイドもいるし、陽太郎もいる。それほどの負担はあるまいて。せいぜい私を毎朝起こしに来ること、家計簿をつけること、犬の散歩をすること、家の掃除をすること、洗濯をすること、町内会に出席すること、新聞の切り抜きをすること、私を寝かしつけるために絵本を読み聞かせること、このくらいだろう」
「ほとんど全部じゃないですか! メイドさんとか陽太郎くんはいったい何を? て言うか、寝かしつけるって何ですか!」
「質問は一度に一つにせんか。メイドは基本、家では寝ているかテレビゲームか2ちゃんねるしかしておらん。陽太郎には朝昼晩の食事を用意してもらっておる」
 それってもはやメイドとは呼べないのでは……。
「ああ、それから当然のことだが、勉学には励むようにな。何せ君にはいずれ国家官僚となってもらわねばならん。国家の中枢にどれだけ私の飼い犬を放つことが出来るかで未来が大きく変わってくるであろう」
「いや、僕実はパイロットになりたくて」
「却下」
「は、早い! 人の夢を一瞬で!」
「パイロットなど、決められた航路を行き来するだけの退屈な仕事だ。そんなものを夢と呼ぶなど片腹痛い。まあ、せめて宇宙飛行士とでも言うのであれば認められんこともないがな。しかしそれもやはり却下だ。君には生涯を通して私の手足となってもらう。異議は認めぬ。即ち、目指すべきは国家官僚であり、それが君の運命なのだ。それに情報の収集と分析が得意な君にはぴったりの職種だと思わないかね」
 なんというかこの人は、将来的にとんでもない数の敵を作りそうな気がした。けどそれ以上にとんでもない数の味方を作り出すだけの力があるのかもしれない。
「ところで今さらですけど、世界平和の話はどうなったんですか?」
「まったく今さらだな。当然ながら君の少年の心をくすぐるための方便である」
 はい、分かっていました。
 なんだか無茶苦茶だけど、こうして僕の新しい人生がスタートした。とんでもない血筋のとんでもない生徒会長が送る人生が普通であるわけもなく。それに付き従う僕の人生もまた、引きずられるように普通からは遠ざかってしまうのだった。安全と冒険のどちらを選ぶかと聞かれれば、僕なら迷わず安全と答える。けれど、心ならずも冒険を選んでしまったとしても、それはそれで悪くないんじゃないかって気がした。ステイ、ハングリー、ステイ、フーリッシュ。
2009/12/08(Tue)01:04:55 公開 / プリウス
■この作品の著作権はプリウスさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
【登場人物】
「生徒会」
・天宮日巫女(あめみやひみこ) 高等部三年 生徒会長
 ⇒太陽神アマテラスと卑弥呼との関連性より命名
・月読竜司(つくよみりゅうじ) 高等部三年 副会長
 ⇒そのまんまツクヨミ。竜司の名前は単なるイメージ。
・此花咲(このはなさき) 高等部三年 会計係 茶道部
 ⇒コノハナサクヤヒメ。
・柳一彦(やなぎいちひこ) 高等部二年 会計係 主人公
 ⇒ニニギノミコト。ちょっとひねりが微妙。
・宿禰陽太郎(すくねようたろう) 高等部一年 書記係
 ⇒スクナヒコナノカミ。ヒコ=日子=陽太郎。宿禰という名前は八色の姓より。
・此花千里(このはなちり) 高等部一年 書記係
 ⇒コノハナチルヒメ。

「生徒」
・機織呉羽(はたおりくれは) 高等部三年 手芸部
 ⇒大阪府池田市に伝わる織姫伝説クレハヒメより。
・凪澤由愛(なぎさわゆめ) 高等部二年 科学部
 ⇒ナキサワメ。
・御鏡アリス(みかがみありす) 高等部二年 情報部
 ⇒鏡の国のアリス。数学が得意という設定は作者のキャロル(ドジスン)が数学者であるところから。
・黒岩ルイ(くろいわるい) 高等部一年 科学部部長
 ⇒小説家黒岩涙香。言葉を分解すると「黒い悪い子」になるという『化物語』内での小ネタがあり、そこから。

「教師」
・坂田金造(さかたきんぞう) 社会科教師
 ⇒昔話で有名な金太郎の本名、坂田金時より。

「その他」
・思視兼良(おもしかねら) 古本屋店主
 ⇒オモイカネノカミ。「思いを兼ねる」ほどに優れた知性を持つ。

【更新履歴】
<問題編>
2009/11/20 chapter01
2009/11/21 chapter02
2009/11/23 chapter03
2009/11/24 chapter04
2009/11/25 chapter05
(タイトルとジャンルを一部修正。恋愛ジャンルではないなと考え直しました。現時点で、推理は可能。ただし数多くの可能性が残されているため、推理編での潰し込みが完了するまで確定不可能。ひょっとしたらベアトリーチェの魔法かもしれません)
<推理編>
2009/11/30 chapter06
2009/12/01 chapter07
2009/12/02 chapter08
2009/12/04 chapter09
(物語の語り手もようやく事件の真相に気づくことが出来ました。けれど深層はまだ見えていません。事件の真相は文章中のヒントから推理可能です。見えていないものは事件ですらないので推理不可能です。次回、最終回です)
2009/12/07 chapter10
(すいません、終われませんでした。どうしても長くなってしまったので、エピローグ的な回にチャプターを一つ割くことにしました。次回、ほんとのほんとに最終回です。もうさほどの謎も残っていませんが、お付き合いいただければ幸いです。名前の由来追加)
<最終回>
2009/12/08 chapter11
(どうにかこうにか完結いたしました。設定をキャラクタたちに喋らせるのって本当に難しいなと思います。いかにも説明的というか、違和感のある会話になってしまうので。それでは、長きに渡ってお付き合いくださった皆さんに感謝を込めて、stay hungry , stay foolish)
この作品に対する感想 - 昇順
こんにちは! 羽堕です♪
 文章は、とても読みやすかったです。ミステリは好きですがラスト前に当たった事は、ないんですよね。今回は、登場人物紹介なのかなと思いました(プリンも登場してましたし)。名前は、やっぱり「八島」学園となってますし、他の連載している方でも木花咲耶姫を登場させたりしているので馴染みもあって、日本神話からつけてるのかなと思いました。
であ続きを楽しみにしています♪
2009/11/20(Fri)16:40:020点羽堕
どうも鋏屋です。早速読みにきましたよ〜んw
話口調の一人称は読みやすいですよね。私の場合は地の文の『つなぎ』がド下手なので、それを強引にカモフラージュするための手段なんですけど(鬱
まだとっかかりなので内容云々は次回持ち越しとさせていただきます。しかし文章力ある人のお話は安心して読めるってかんじですよ。ここ最近に投稿されてる方々はみなさんそれなりの表現力があるので読んでいて心地良いですね。
ごめん私もえこかーかとオモテタヨ(爆 日立のパソコンは会社で使ってます。プリウスってのはしらんかったです。メーカー物はどうもね……
西尾さんは『化物語り』 佐藤さんは病んでる一族鏡家でしょ? でもって森さんのスカイクロラは好きですね。

キャラの名前クイズ……うう、『古代幻視行 此花咲夜』しか浮かばない私は脳が逝ってるのかな……
鋏屋でした。
2009/11/20(Fri)20:01:540点鋏屋
>羽堕さん
毎度コメントありがとうございます。
もう少し、キャラクタ紹介的に続きます。
今回は登場人物が多く、簡易なキャラクタ名簿みたいなのを用意しないと、自分が混乱してしまいそう。
そんなに難しいトリックではないと思うので、是非考えてみてください。
と言っても、まだ事件発生してませんが(^^;
名前は全員、日本神話が由来してます。
無理やり名前をいじくっているので、「そりゃねーだろ」レベルのものも。
機織呉羽とかは僕の実家近くにある神社の祭神を使っているので、けっこう愛着あります。

>鋏屋さん
『化物語』はアニメだけですが、西尾維新の小説は彼のデビュー作からほとんど読んでます。
『化物語』とか『刀語』は講談社の金儲け主義的な分厚いだけで中身の薄い仕様の本に腹が立って読んでません。
佐藤さんは病んでる鏡家です。
ほんのちょっとの未来を予知できる能力を使って相手の死角に回り込む、なんてことをトリックとして成立させるぶっ飛んだ小説です。
しかし『フリッカー式』ほどの衝撃は、以降の作品に出てきませんでしたねえ。
森博嗣は大学時代一番はまった作家で、人格形成にまで影響が……。

お察しの通り、此花咲(このはなさき)はコノハナサクヤヒメが由来です。
そして妹である此花千里(このはなちり)はコノハナチルヒメということです。
天宮日巫女(あめみやひみこ)は「卑弥呼すなわちアマテラス」という説をまるっと採用してこんな名前にしました。
2009/11/21(Sat)06:27:290点プリウス
こんにちは! 羽堕です♪
 今回は一彦のクラスメイトの登場でしたね。由愛みたいな喋り方するタイプって、アリスなんかより何考えているか分からないから怖いなって、何となく思ってしまいます。意外にモテてる一彦とか、ちょっと羨ましいなと思いつつ、生徒会長からのプリン購入命令、物語も動いて来たようで続きを待ちたいなと思います。
であ続きを楽しみにしています♪
2009/11/22(Sun)16:02:020点羽堕
千尋です。
 こちらのサクヤヒメに会いに来ました♪
 なんか、不思議な印象の作品ですね。あさっての感想かも知れませんが、登場人物が演技をしているような。作者が舞台装置とか配役とかを整えて、『これはフィクションだぞ』というのを、確信犯的に演出しているみたいな感じがしました。……あ、やっぱり訳わかんないですね; 忘れてくださいー。
 これから事件が起こるんでしょうか。推理物はワクワクしますね! 続きも楽しみにしています! 
2009/11/22(Sun)17:04:490点千尋
>羽堕さん
毎度ありがとうございます。
一彦くんはもてているというより人畜無害なだけだったりします。
物語中で一番普通の人を目指してます。

>千尋さん
感想ありがとうございます。
こちらのサクヤヒメは名前と美人であることと妹がいることと、あと一つの要素だけが共通で、実在(?)のサクヤヒメとは無関係なキャラクタです。
登場人物が演技してるように感じたということは、僕の筆力不足です。
今回はプロットがちがちに作ってから書いてるので、お喋りはそこに収斂されるのです。

事件発生まであと三つほどchapterを必要とします。
どうかもうしばしお待ちください。
2009/11/22(Sun)18:32:190点プリウス
こんにちは。
完結してからと思ったのですが、泣いてよろこぶとあったので……取り敢えず、読んでます、ということで。
明るい雰囲気で、最後まで楽しめそうです。
完結、お待ちしております。
では。
2009/11/23(Mon)14:08:440点ミノタウロス
千尋です。続きを拝読しました。
 登場人物がたくさん出てきますが、みんな個性があって、覚えやすくていいですね。私は、竜司が男っぽくて好きです。(会長の供ですが……)
 いやいや、筆力不足なんてことは、ないですよ! コミカルな雰囲気が楽しくて、どんどん読めます。なんでだろう。推理物というので、クリスティの作品が思い浮かんだのかも知れません。ほら、あの人の作品って、舞台がかっているじゃないですか。でも、『芝居がかっている』じゃありませんよー^^。
 で、結局、会長の昼の用事ってなんだったんでしょうね。すでに色々仕掛けられているっぽくて、ワクワクします。プリウス様の前回のレスをみるに、謎解きのカギは、『会話』の中に隠されているのでしょうか。私的には、分類の『恋愛小説』というところにポイントがある気がしているのですが! えーと、またアサッテですかね;
 続きを楽しみにしています!
2009/11/23(Mon)18:55:530点千尋
>ミノタウロスさん
感想ありがとうございます。
しっかり最後まで明るいノリを貫き通します。
そしてすいません、実は泣いてません。
ではまた、今後ともよろしくお願いします。

>千尋さん
再びコメントいただきありがとうございます。
竜司くんは熱い漢(おとこ)です。
そして日巫女もまた熱い漢の魂を持っています。
主人公は徹底的に凡人です。
仕掛けは沢山、装飾的な伏線もあれこれと。
会話はもちろん要注意。

キャラクターも黒岩ルイを除いてほぼ出揃いました。
さて、頑張って描こう。
2009/11/24(Tue)00:24:250点プリウス
こんにちは! 羽堕です♪
 私も竜司の、どこか抜けているような所が好きですね。千里に「ほんとに馬鹿」とか言われるし、千里の言う事を素直に信じるしw 生徒会室の昼食風景って、外からみたら揃ってるメンバー的にも、羨ましいような近寄りがたい雰囲気なんだろうなって思いました。
 これだけの人達と普通に会話できているのに、凡人に見えるとしたら、正に凡人を演じれる(意識してるかは分からないけど)天才って感じかもです。一彦とルイの接触と、ルイの非凡さの話もあって、ここから、どう物語が進むのか待ちたいと思います。
であ続きを楽しみにしています♪
2009/11/24(Tue)12:46:320点羽堕
>羽堕さん
感想ありがとうございます。
生徒会室が近寄りがたいというのは、言われてなるほどなという感じです。
彼らはいつだって誰だってウェルカムなんですけどね。
では、次回chapter05で第一の区切り、事件発生です。
ようやく物語が動きます。
2009/11/25(Wed)03:25:090点プリウス
どうも鋏屋です。続きを読ませていただきました。
やっとタイトル通りのお話になりましたね。
私的には中盤にある宮内府ってのが気になります。正直世界観が混乱してます。私はてっきり『リアル現代ラブコメ』だと思って読んでいたんですけどw
私のお気に入りは日巫女会長ですね。あの人をおちょくるような上から目線が凄い好きw ルイと直接対決させたら面白そうだ。ルイはアリスとやり合っても面白いかもw
しかし個性的なキャラばっかで読んでて楽しいです。次回更新もお待ちしております。
鋏屋でした。
2009/11/25(Wed)16:31:280点鋏屋
>鋏屋さん
宮内府はやはり唐突過ぎでしたかね(汗)
現実とはちょっとズレた世界を想定しています。
今後もちょこちょこ情報を付け足していくので、徐々に明らかになるかと。
でももっと序盤に、そういう内容を付け足しても良かったかなあ。
日巫女をお気に入りと言ってくれて嬉しいです。
まだ会話数少ないですが、一番活躍させる予定のキャラなので。
個人的な懸念は実は此花咲だったりします。
うまくキャラを立たせられずに苦戦中。
さて仰る通り、ようやくタイトル通りになりました。
焼きプリンを消すために、色々と手を尽くして参りました。
それでは今後ともよろしくお願いします。
2009/11/25(Wed)22:11:470点プリウス
こんにちは! 羽堕です♪
 アリスの妄想なのかと思ってましたが、どうやらそうじゃないようで、一気に陽太郎が気になる存在になってしまいました。
 そして、ついに消えたプリンと、ここから生徒会のメンバーなどが、どんな事するのかなどワクワクとしてきます。
であ続きを楽しみにしています♪
2009/11/26(Thu)10:07:460点羽堕
>羽堕さん
実はけっこう真面目に因果関係を気にして文章書いてます。
誰かが何かを話すとき、それはいったいどういう理由からか。
もちろん中には特につながりの無い無駄話もあって、それは大事な会話を隠す飾りだったりします。

今週末は親孝行する予定なので、更新はしばらく先となりますが、今後ともよろしくお願いします。
2009/11/26(Thu)16:29:530点プリウス
千尋です。
 ありゃ。いつの間にか更新が重なってプリンが消えていた! そして、恋愛モノでもなくなり、実は現代日本でもない不思議空間だったとは……。プリンが謎なのか、この世界観のほうが謎なのか、よく分からなくなってきました^^。
 ベアトリーチェも関係あるんですか? 神曲しか思い浮かびませんがー; 日常の瑣末的なことが謎解きのカギなのか、それとももっとスケールの大きなものと結びついているんでしょうか。難しいですね。
 メガテン。なつかしいです。私が唯一夢中でやったゲームですね。
 推理編がアップされるまで、じっくり考えたいと思います!
2009/11/27(Fri)11:04:460点千尋
>千尋さん
いや、ベアトリーチェはさすがに冗談です(笑)
僕がベアトリーチェと言ったのは元ネタの神曲ではなく、うみねこの方でして。
うみねこって事件が人間ではなく魔女の仕業だっていう風に見せる演出なんですよ。
その魔女の名前がベアトリーチェ。
推理については想像外の魔法とか、巨大な組織による陰謀とか、そんな無茶は考えてません。
ちゃんと現代日本で可能なレベルのトリックを考えているのでご安心を。
世界観とかはあくまで物語の飾りつけです。
2009/11/27(Fri)11:27:050点プリウス
 こんばんは、プリウス様。上野文です。
 御作を読みました。
 独特のテンションで、ユーモラスに進められて、とても雰囲気が良かったです。
 前作まであった使命感というか、このテーマを書かなきゃいけない! という焦りのようなものがなくなって、のびのびとした登場人物たちのやりとりを楽しめました。
 殺人とかより、あえてプリン、であるところが、この物語の素敵さのひとつですね♪ 面白かったです!
2009/11/29(Sun)12:41:400点上野文
作品を読ませていただきました。最初は単なる学園青春物かなと思って読んでいると宮内府などという言葉も出てきて、この物語がどのような方向に進むのか興味津々です。文章のテンポが良く長さが気にならず一気に読めて良いですね。キャラもしっかりしていて情景が浮かぶようで良かったです。では、次回更新を期待しています。
2009/11/29(Sun)20:01:170点甘木
読ませていただきました!
とっても読みやすい文章で一気に読めました。キャラクターがいっぱい出てくるのでわくわくしますね。こんなに多種多様な人物を描けるのは、すごいなー!
普段、僕はあんまりミステリーを読むことがないのですが、このお話は入りやすかったです。
焼きプリンがなくなったという、良い意味でそういう小さな事件を扱っているのが印象的でした。
でもまだまだ謎めいている感じがプンプンしますね。いろいろな設定が用意されてるっぽいので続きが楽しみです。それではー
2009/11/30(Mon)00:06:040点やるぞー
>上野文さん
感想ありがとうございます。
今回は読んでもらって分かる通り、肩の力を抜きまくってます。
でも実は前作を書きながら考えていたので、僕の思考回路では何処か繋がっているのかもしれません。
しばらく同じ登場人物で色んな事件を描いてみようと思っています。
何かいいトリックを思いついたら教えてください(笑)
人殺しはしない、がモットー。

>甘木さん
感想ありがとうございます。
普通の学園青春物的なストーリィだと、描きながら飽きてしまいますので。
ほどよく僕のオタ心を刺激してくれる要素を考えております。
文章は毎回、Wordで4ページ弱と決めて更新しています。
キャラクタたちは「ガンガン喋れよ!」というスタンスで。
それでは、今後ともよろしくお願いします。

>やるぞー
感想ありがとうございます。
キャラクタの書き分けはけっこう大変で、特に口調に苦労しています。
誰かに何かを喋ってもらうとき、思考を切り替えなければいけないので……。
ミステリィと言えばその大半は殺人事件を扱っていますからね。
自然とシリアスにならざるを得ないので、入りにくいと思われるのかもしれません。
『春期限定いちごタルト事件』(創元推理文庫)とかはほのぼのした雰囲気があっておすすめの推理小説ですよ。
chapter06以降は、今までばら撒いた伏線を回収しまくりますので、是非読んでください。
2009/11/30(Mon)01:11:490点プリウス
千尋です。
 推理編、始まりましたね! 一人ひとり容疑者が現れ消えていく、って感じでしょうか。あ、でも陽太郎君も、まだはずれていませんね。犯人探しのため、もう一度初めから読み直しましたが、うん、二回目でもやっぱり面白いなあ^^。おっと楽しんでいる場合じゃありませんね。
 思いついたトリックはあるのですが、肝心の動機と犯人が分からなくて。あの人だとしても、何故かっていうのが……。プリウス様にメールするレベルでもないので、とりあえず続きを楽しみにしています!
2009/11/30(Mon)17:16:010点千尋
こんにちは! 羽堕です♪
 基本的に推理は苦手なので(推理しても殆ど外れます)、今回も千里の推理を、うんうんなるほどーと思って彼が犯人なのかと素直に思ってしまいました。そんな感じなので最後まで楽しみたいなと思います!
 でも、またまた新しい情報で謎が深まる感じですね。って事は彼女が!? と、どこまでも単純な私なのですが、こうやって、どんどんと進んで行く感じは気持ちよく読めてしまいます。
であ続きを楽しみにしています♪
2009/11/30(Mon)19:10:280点羽堕
>千尋さん
犯人探しのために二回も読んでもらえるなんて、感謝です。
犯人の動機についてはむしろ深く考えない方が無難かと。
実際、まだ犯人を確定できるだけの情報を出していません。
推理編もあくまで最終推理のための情報提供なので。
無意味な情報もてんこ盛りですが(笑)
では、今後ともよろしくお願いします。

>羽堕さん
実は僕も羽堕さんと同じように、推理小説の途中推理は大抵疑わずに読み進めています。
自分で推理せず、物語の結末までさくさくと。
物語の結末までは、もうしばらくあります。
というわけで、今後ともよろしくお願いします。
2009/11/30(Mon)22:57:550点プリウス
こんにちは! 羽堕です♪
 竜司の推理が、その自分自身を信じ切っている所も、ちょっと可愛くもあり面白かったです。ルイものかっていく所が、竜司を余計に可哀想に見せると言うか。
 ルイの推理の前半部分は、結構そうなんじゃないかって思っていたのですが、どうやら違う様なのでやっぱり外していました。後半の部分は、確かにそんな事をしててもおかしくないのかって感じで、なるほどって思ってしまいました。本当に犯人は見つかるのだろうかと? と続きが気になります!
 細かいのですが’高校二年生の女子は’とありますが、ルイの事だと思うので高校一年生かなと。
であ続きを楽しみにしています♪
2009/12/01(Tue)11:21:160点羽堕
千尋です。
 竜司! 可愛すぎる。従者にしている会長がうらやましい〜^^*
 ルイの登場で一気に推理物っぽい緊張感が高まって、よかったです。さすが天才のルイ、説得力あるなあ。って、会長、逃げるんですか!! 展開が面白すぎますよ〜。
 由愛ちゃん、寝ちゃうし! 確かに一方で由愛、一方で竜司をコレクションしているルイと会長は共通する趣味があるかも知れませんね。
 私の考えているトリックはまだ出てきませんね♪(最後まで出てこないかも;)とっても楽しかったです。続きが待ち遠しい!
2009/12/01(Tue)13:50:571千尋
>羽堕さん
指摘ありがとうございます。
確かに「高校二年生」ではなく「高校一年生」でした。
早速修正し、UPいたしましたよ。
竜司の推理部分は僕にもう少し物理の素養があれば、もっともらしく描けたかなあと思います(^^;
最近、ヨーロッパで陽子を衝突させる実験に成功したらしく、それでヒッグス粒子なんてのが発見できるかもという期待が集まっているみたいです。
そういう流行に乗っかる感じで、今回のでたらめ推理を書いてみましたw

>千尋さん
加点ありがとうございます。
竜司は今後も「真剣馬鹿キャラ」で通していくつもりです。
最初の最初は会長にルイの推理を論破させる方向で考えてたんですが、どうしても僕がルイを論破できなかったので逃げてしまいましたwww
ああもうだめだ、よし逃げようってな感じで。
千尋さんの考えるトリックってどういうものか気になります。
完結してからでも構いませんので、是非教えてください。
2009/12/01(Tue)14:40:280点プリウス
千尋です。
 プリン実験は、科学実験というより、科学的思考を養うための実験って感じでしょうか。
 一彦はいよいよワトスンになってきましたね。
 前提とは、つまり、あの『前提』ですね!(←ほんとに分かっているのか?)
 あれ、でも、会長が逃げた理由って、なんだ? いやー、色々やってきますね。
 今回も面白かったです。続きも楽しみにしています!
2009/12/02(Wed)12:10:240点千尋
>千尋さん
このプリン実験は由愛ちゃん向け、つまり小学生レベルの実験なので仰るとおりお勉強用の実験です。
次回、もう少し内容を書き加えます。
残すところ、予定ではあと二つ(場合によっては三つ)
今後ともよろしく。
2009/12/02(Wed)13:41:220点プリウス
こんにちは! 羽堕です♪
 今回の部分で、何となくですか一つの可能性として犯人は、あの人物じゃないのかなって思いつきました。まんまとルイの言葉に踊らされているだけかもですが、根拠などなく何となく矛盾はなさそうだなぐらいですけど。今までは推理に頷くばかりだったのでですが、プリンの実験を読んで、少し頭が柔らかくなったのかもです。
であ続きを楽しみにしています♪
2009/12/02(Wed)14:30:520点羽堕
どうも、鋏屋でございます。
はい、私は脳みその3分の2がガンダムで出来ていますので、推理小説は大の苦手です。残りの分を均等に3等分して、1つはミリタリーの弾丸関係、2つ目がお仕事、そして3つ目が家庭内環境での生存方法です。ですから私は物語を純粋に楽しみますww
私には犯人が誰だか全く見当が付きません。出来れば此花咲で会って欲しいって願ってます。理由は面白そうだからです。そこに根拠は介在しません。ええ、もうまったくw
焼きプリン消失事件に大まじめに取り組むキャラ達が愛らしくてたまりません。プリウス殿のセンスって私好みですよ〜 笑いの部分も所々吹いたしw
次回の更新も期待して待ちたいと思います。
鋏屋でした。
2009/12/02(Wed)19:52:050点鋏屋
>羽堕さん
もうじき真犯人を明らかにする予定なのです。
けれど結末は真犯人判明で終わらせるつもりはありません。
矛盾が無ければきっとそれが正解です。
根拠は次回、提供する予定です。

>鋏屋さん
ガンダムの占める割合が大きすぎじゃないですか(笑)
お台場とか行ってしまった方ですか? 僕も見たかったんですが、遠いところに住んでいるもので……。
「真面目に下らない」というのが僕の好みです。
エリートの人間が真剣に馬鹿なことやってるのとか、超好きなんです。

今日、続きを書く予定でしたが、酔っ払いなので延期します。
それではまた。
今後ともよろしくおねがいします。
2009/12/03(Thu)01:00:590点プリウス
こんにちは! 羽堕です♪
 何かに気づいた様な一彦、今までの振り返りなどもあって、とても次回が楽しみになりました! ちなみに私の考えていた事は、やっぱりというべきか、もの凄く検討違いだったので、次回で一旦、最終回という事なので、その時に書こうかなって思います。それにしても陽太郎とか、まだまだ謎は残りそうだな。とても個性豊かなキャラ達なので、既にプリンの次の事件なんかも、こっそりと期待しております。
であ続きを楽しみにしています♪
2009/12/04(Fri)16:48:580点羽堕
千尋です。
 あれ。なんか逆に混乱してきちゃいました。でも、今回は、犯人とともに動機も提示されている、と思われるのですが……。
 しかし、たかがプリン一つに、このシリアスさが、愉快ですね〜。いや、ほんと私も千年万年堂の焼きプリンが食べたくなってきましたよ!
 最終回を楽しみにしています!
2009/12/04(Fri)17:31:480点千尋
>羽堕さん
実はこの作品を、大幅に加筆修正してどっかのライトノベルにでも送ってみようかなと考えています。
そういうの、したことないんですけど、せっかく書いたので。
なので羽堕さんが何かアイディアを持っているのであれば、使わせてもらえないでしょうか。
会話の中に織り交ぜたりとか、色々やりようはあるので。
この場でOKと言ってもらえれば有難いです。
焼きプリンの次は未だに思いついてないんですよね(汗)
「交換日記」とか「ラブレター」とか、高校生活に身近な題材でミステリィを、と考えてはいるのですが。

>千尋さん
実は動機らしい動機は隠されています。
くだらないことに一所懸命取り組む。
それが一番楽しいんですよー(笑)
2009/12/04(Fri)21:13:380点プリウス
千尋です。
 おー、お見事!! ……いや、会長のかかと落としの件じゃないですよ、話の筋のことですよ。
 うん。プリンのトリックと犯人は予想どおりでしたが、確かに、この動機は見抜けませんでした。こうなると動機、とも言えないですね。
 予算の件は、絡んでくるとは思いましたが、プリン事件に気を取られて深く考えませんでした。プリウス様にしてやられましたね。会長かっこいー! でも、流血は、やりすぎではーww
 これ、ぜひシリーズ化してほしいですね。ほんとの最終回も楽しみにしています!
2009/12/07(Mon)11:55:081千尋
こんにちは! 羽堕です♪
 あの人が真犯人でしたか……動機も、もう自分で何とかしろ! と思わず言ってしまいたくなりましたが、なるほど、そうすれば可能だったのかと千里の性格も押さえた上での犯行でしたか。いや面白かったです。もう一つの事件も、しっかりと力を見せつけながら解決したようで良かったです!
 何かの足しになればと思い私の考えを書くと、一彦が犯人という物で、犯人探しの状況をただ実況していたという物です。口では色々言っても日巫女の依頼(命令)は何としても遂行したいが為の犯行で、日巫女は、もちろん買えない事も、買えなかったら盗むという行動にでるのも分かっていて、完全犯罪するもよし、真実を自分で話すもよし、とにかく一彦の成長を促すためだったという感じです。真実の告白部分では、生徒会で自分だけが普通で仲間になりきれていないのではという吐露もあり(だから日巫女の命令は絶対に成功させたいという想いから)、でもそんなのは勝ってな思い込みだと分かり大団円みたいなノリを考えてました。本当にただの妄想ですが、すいません。
であ続きを楽しみにしています♪
2009/12/07(Mon)12:47:590点羽堕
>千尋さん
再びの加点ありがとうございます。
全体的に拙い部分が多く、色々と苦心しましたが、とにもかくにも完結できそうでほっと一息です。
終わりと言っておいて終われなかったあたり、まだまだ未熟ですね。
文章の過不足もこれから直していかないといけないなと思うところです。
それでは今度こそ最終回。
よろしくお願いします。

>羽堕さん
羽堕さんの推理、とても面白いです。
状況的に主人公の犯行は不可能な設定にしているので、論理的には難しいのですが。
推理の中に動機中心のものがあっても良かったなと気づかされました。
論理的に筋が通っていなくても、動機があれば人は人を疑いますしね。
由愛ちゃんのSF犯罪とかやってる場合ではなかったか(笑)
では、今後ともよろしくお願いします。
2009/12/07(Mon)15:01:490点プリウス
完結おめでとうございます!!
あ、でもまだなにか続きそうな感じですねぇ、これ。
全然、予想していなかった展開に驚きつつも、素直に面白いと思いました。犯人をまったく予想できなかったぼくです。でも、まさか、こういうふうに展開するとは…!構成力があるなぁ。
なんだか全体を通して一つの始まりみたいに感じました。しかし、続く?となるとミステリーではなくなるのか?まぁ、これで終わるにしても、主人公がとんでもない運命に巻き込まれてしまった
という、想像のし甲斐がある感じで良いですね。
ああ、とりとめのない感想になってしまい申し訳ないです。個性あふれるキャラクターたちが、とても可愛らしくて良かったです。日巫女先輩の下、頑張って働くんだぞ一彦。病むなよ。お達者でな。
2009/12/08(Tue)15:59:441やるぞー
>やるぞーさん
加点ありがとうございます。
面白いと言ってもらえて何よりです^^
しばらくは置きますが、近い内に第二段を描けたらなと思っています。
続きを描くとしたら、もちろんミステリィです。
タイトルも「生徒会長探偵」なので(笑)
しかし、まったく探偵らしい仕事をしていないということに後から気づきましたwww
それではまた、今後ともよろしくお願いします。
2009/12/08(Tue)16:38:510点プリウス
千尋です。
 日巫女の正体にビックリです。でも、それで陽太郎がいるわけも分かりました。しかし、将来の部下をプリン試験なんかで決めていいのか……。すごい青田買いだ! あれ、そうすると呉田先輩も? っていうか、あの人も、この人も?
 こうなると、色々事件が考えられて、いいですね。なんか『なんて素敵にジャパネスク』を思い出しました。大好きだったんですよ、あれ。それにしても、この国には、皇室典範はないようですね。
 最後まで面白かったです。次回作も楽しみにしています! 
2009/12/08(Tue)17:40:290点千尋
>千尋さん
将来の部下をプリン試験で決めてよいのか。
そりゃあ常識的に考えてアウトな気がしますね(笑)
コメディで小娘だからなんでもアリという無茶のノリで描いてます。
『なんて素敵にジャパネスク』は寡聞にして初耳だったので、Wikiで調べてみました。
なるほど、千尋さんはおそらく東宮を思い起こされたのですね。
てかこの小説の東宮さん、すごいですね。
右翼から猛抗議がきてもおかしくないレベル。
皇室典範は要するに、女性が皇位継承権を持つかという話ですね。
はい。それがあったら全ての設定が崩壊してしまいますのでw
では最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
2009/12/08(Tue)17:55:240点プリウス
こんにちは! 羽堕です♪
 前回の謎ときの解決編と合わせて面白かったです。日巫女の裁きは流石に怖かったですが、そんな国になったら悪い事もしたくなくなるかもと思いつつ、やっぱり怖くて住みたくないかもと思ってしまいました。
 そして三姉妹の誰が支配者となるかの争いに巻き込まれた、執事一彦の身が、とても心配だったりします。もしかしたら絵本の読み聞かせの才能とか持ってたりするかも知れないので、頑張って欲しいなと他人事のように思ったりもして。
 伏線などあったとは言え、私の中では突然の展開な気が少ししましたが、こういう終わり方も良いなと。
であ次巻&次回作を楽しみにしています♪
2009/12/08(Tue)22:21:331羽堕
>羽堕さん
 最後までお付き合いいただき、ありがとうございます^^
 全体的に見て、ところどころ突然の展開だなと思うところは自分でもあります。なのでそういう部分をうまく修正できればなと思います。文章を書きながら、早く先に進めたいという欲求が出るので、それをいかに制御するかが重要かと。
 それではまた。引き続きご愛顧のほどよろしくお願いします。
2009/12/09(Wed)03:09:210点プリウス
 はじめまして、コーヒーCUPと申します。以後お見知りおきを。
 ミステリ自体が自分の好物なので非常に楽しく読ませていただきました。しかもあんまりネット小説は見かけることができない日常派ミステリという、少しマイナーなジャンル。まずはあえてそのジャンルへ挑戦したことに拍手します。
 作品の感想ですが何よりキャラが活かせていてよかったなぁと。作品全体として一人一人のキャラクターがきちんと自分の役割を果たして、自分の持ち場では作品を引っ張っていた。そう思えました。最初はキャラが多すぎると思いましたけど、あれくらいが丁度よかったのかな。ただやはりまだ多いようにも思えます。こう言っては何ですが、不要だなと思うキャラもいました。
 謎の部分はかなり真剣(作品を何度も読み返し、怪しいところはメモし、あげく数十分考えた)に推理しましたので、何とか消去法で犯人は出せました。こんなけやっといて言うのも何ですが、謎が弱かったなぁと。もう少し動機とかを深めてほしかったです。あと、伏線部分であれだけ引っ張っておいて解決シーンがアッサリしすぎているし短いようにも感じました。
 ただ、黒岩たちとの論理合戦の部分は非常に興味深かったです。ああいうのが書けるっていうのはきちんとしたプロットができていて、ちゃんと頭の中に細かく物語が出来ていないとできない所業なのでプリウスさんはそういうのをちゃんとできる人なんだと関心させられました。
 ただプリン事件が解決して以降の話は、急に飛んだ感じがしました。なんというか「置いていかれた」と思ってしまいました。それが残念でなりません。物語の最後でつまずくとせっかく面白かったのにと思われてしまいますよ。
 なんか妙に辛口になりましたが、自分はこの作品大好きです。だからこそ気になるところが多かったんだと思います。
 では次回作、楽しみにしています。
2009/12/10(Thu)01:19:591コーヒーCUP
>コーヒーCUPさん
 はじめまして、ご丁寧に感想いただきありがとうございます。
 指摘いただいた箇所は本当にどれもその通りだなあと思うので、なんとか直していきたいと思っています。キャラが多いという点については、振り返ってみて確かにと頷かざるをえません。例えば此花姉妹は設定段階では気に入っていたのに、あまりうまく表に出すことが出来ませんでした。御鏡アリスも若干黒岩ルイとキャラが被っているなという感じです。解決シーンのあっさり具合も確かにその通りで、チャプター二つ分くらいあっても良かったかもしれません。解決以降の話は完全にぶっ飛んでいるので、書き直す場合は最初と中盤にそれと絡める会話なりを入れる必要があると考えています。謎の弱さはこのくらいでもいいかなとは考えています。難解ではない程度の推理が、気軽に楽しむには良いのではないかと。ただ、動機の弱さについては反省点なので、練り直したいと思います。
 何度も読み返して真剣に推理に取り組んでくれたとのことで、本当に嬉しいです。また頑張って描こうって気になります。辛口批判は大歓迎なので、今後ともよろしくお願いします。
2009/12/10(Thu)02:22:070点プリウス
どうも、鋏屋です。
まずは完結おめでとうございます。そしてお疲れさまでした。
最後に「そう来たか!?」と普通に思ってしまいましたw こーひー殿の『置いていかれた』感は確かにありますが、全体を通してはこれもアリかなと……
プリン事件と同時に教師の横領事件も一彦は解決したんですね。大した名探偵ぶりじゃないですか。まあ、会長が探偵役を放棄してるんで、一彦が変わりに探偵役をやらされるあたりも、将来を予感させるなぁww
しかし私はトンチンカンな推理だったな。いや、推理じゃないな、ヤマカンですねw
次回作も期待して待ちたいと思います。
鋏屋でした。
2009/12/10(Thu)12:38:061鋏屋
>鋏屋さん
 加点ありがとうございます。『置いていかれた』感はごもっともで、僕自身『置いていった』感があります^^; もっと詳細に描くべきと思いつつ、全体のバランスや冗長な感じを避けてこうなりました。全て描き終わった後にきちんと推敲し、見直せばマシになるかなと思います。いっそのこと、キャラの設定とかを少し変更して、書き直してもいいんじゃないかとさえ思っています。まあ、ここで発表するほどのものではありませんので、書き直しても投稿はしませんが。
 横領事件については、伏線を張りつつも隠れたメイントピックという感じで考えていました。読者の目をプリンに引き付けつつ、実は、みたいな。どうすれば自然な感じで繋げられるのか、難しいところです。
 それではまた、よろしくお願いします。
2009/12/10(Thu)22:02:290点プリウス
続きを読ませていただきました。完結ご苦労様でした。途中から普通の推理物じゃないなぁとは思いましたが、このようなラストとは思っていませんでした。十分驚かせられました。ただ、話を広げすぎていて現実感や登場人物に対する同期性がなかったです。これが長い物語の始まりの物語なら違和感はありませんが、読み切りならば世界観に唐突感がありますねぇ。では、次回作品を期待しています。
2009/12/20(Sun)14:40:390点甘木
>甘木さん
 感想コメントありがとうございます。いつも思っていたのですが、「同期性」とはどういう意味なのでしょうか。「同期できない」とか「同期がない」とかさらりと言われていますが、実は僕はよく分かっていません。ここでなくてもいいので、どこかで説明してくれたら嬉しく思います。
 唐突感は僕もあると思っています。書き込みが足りていない。ともあれ、続編も考えていて、現在はプロットを寝かせているところです。それではまた。
2009/12/20(Sun)23:34:580点プリウス
合計6
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