- 『リベンジ〜もう一度チャンスを!』 作者:美散 / 異世界 ファンタジー
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どこにでもいる普通の小学生・レナ。しかし親友の舞と喧嘩したまま、舞は転校してしまう。やり直すためにレナは、仲間たちと異世界へと旅にでる。
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プロローグ
冬の風が吹きつける駅のホーム。朝の空気は冷たく澄んでいて、少女の肌に刺さる。辺りには雪が薄く積もっている。
そんな中、ガランとしているその場所に立つ、一人の少女がいる。
山城(やましろ) レナ。12歳。
彼女は一人の少女を待っていた。吐く息も白くなる12月の朝に、物陰に隠れるようにして。
少しもしないうちに、レナと同じくらいの歳の少女とその家族らしき人たちが現れた。その少女は何かを探すように辺りをきょろきょろしている。
目が合いそうになると、レナはあわてて隠れる。
――だめだなぁ、私。
レナは大きくため息をついた。
少女はしばらく周りをうろうろしていたが、あきらめて列車に入っていったようだ。レナは少しだけ近づいて、列車の中を見る。
――舞……。
列車の中の少女はうつむいていたが、時々顔を上げて窓の外に何かを探しているようだった。
やがて列車は音を立てて走り出した。レナは列車の姿が見えなくなるまでずっとその場を離れなかった。
たまっていく涙をこぼさないように、こらえることしか出来なかった。
第一章
帰り道、レナは一人で、駅から出た。
朝の9時。冬休みということもあってか、子供たちがたくさん出歩いて遊んでいる。
――みんな、気楽でいいなぁ。
そんな中、一人の少女が向かい側から歩いてきた。
――何だろう? この感じ。
レナはその少女から目が離せなくなった。確かに可愛い少女では合ったが、特別には見えない。年のころは、レナと同じくらいか少し年上くらいだろうか。
少女はこちらに気づいて、微笑みかける。そして、レナに近づいてきた。
「おはよう。はじめまして」
「え……? あ、はじめ……まして……?」
「私は裕香。ね、あなたは?」
「私? レナ。山城レナ」
裕香はレナをじっと見つめた。そうしていると心の端まで見透かされているような気分になる。
「そう……レナ、ついてきて!」
裕香は強引にレナの腕を引っ張って走り始めた。
「は? え? ちょっ待……ッ!?」
――うわっ何!? この速さ
少女はまるで自転車のような速さで走った。レナはほぼそれに引きずられるような形で走った。
公園の裏の小さな森に差し掛かったとき、少女の足が止まる。レナは息を切らせてその場に座り込んだ。
「な、何!??」
すると、周りから二人の少年と少女が出てきた。レナは裕香に感じたものと同じ感覚になった。その二人からも、目が離せなくなりそうだ。
「紹介するわ。翔子と、健太」
「初めまして」
「あ、初めまして」
レナは何がなんだか分からなくなって混乱した。この唐突にでてきた翔子という少女と健太という少年は、どこにでもいる普通の子供なのに、何故だかレナをひきつける何かを持っている。
「さて、ここからが本題。レナ、歳はいくつ?」
「12歳。小6」
「じゃあ次の質問。『パワーストーン』って、知ってる?」
――パワー……ストーン?
すると、翔子が何かを取り出してレナに見せる。
「これなんだけど……」
――何だろう? 石……かな。とっても綺麗だけど。
「パワーストーンはいわゆる宝石に近いもの。何か力を秘めていて、人が身につけると何かの力が湧いてくる宝石。それがパワーストーンなの」
翔子の持つパワーストーンは赤く輝いていた。レナがそれに見入っていると、裕香が続ける。
「次は、私たちのこと」
すると、裕香、健太もパワーストーンを取り出して、何かささやいた。
レナは言葉を失った。
三人の持つパワーストーンが光を発している。周りの草木はざわめきを止め、風は止まり、雲も動かない。不気味な静けさの中、光は強まり、辺りのものをすべて包み込む。レナは強く目を瞑った。
――!
目を開いた時、レナはまた驚いた。
さっきまでいた3人の顔が変わっていたのだ。
日本人とは思えないその顔つき。しかし3人の服装は変わっていないので、3人に間違いなさそうだ。
「レナ、これが私たちよ。私たちはここでは日本人の格好をして、偽名を使って暮らしていたの。私は、裕香じゃなくてセレンティア。翔子じゃなくてヴァネッサ。健太じゃなくて、クリス」
セレンティアは栗色の髪をしている美人だ。ヴァネッサは赤髪の元気な少女、クリスはブロンドの好青年、という感じだ。
「え……えぇ!? ちょっと待って?」
「色々驚かせてゴメン。私たちは見てのとおり、普通の人間じゃないわ」
レナは頷いた。確かに普通じゃないことは分かる。
「私たちはこの世界の人間ではない。ここと違う、別世界から来た人間なの」
「別……世界……」
レナは混乱しながら必死に話を聞く。
「えぇ。私たちはパワーストーンの秘められた力を引き出して魔法を使うことが出来る」
「ま……魔法!?」
――――はい??
「パワーストーンには属性がある。私たちはその属性の魔法を使うことが出来る。使えるパワーストーンの種類はその家柄によって違うの。例えば私はサファイアで風魔法。ヴァネッサはガーネットで炎魔法。クリスはエメラルドで草魔法が使えるわ」
「えっと……それと私に、何か関係があるの?」
もちろん今の説明で納得いくわけがないが、とりあえずそこを明確にしたかった。
「私たちは属に石使いと呼ばれる。でも、石使いだけではそのパワーストーンの力を十分に出し切ることが出来ないの。それには、こちらの世界に住むもの……いわゆる“本物の人間”の力が必要なの。その魔力を持たない人間の子供が、一番パワーストーンの力を引き出すといわれている」
「その人間が……私?」
3人は頷くが、レナは全く信じられずにいた。
「ハ……ハハ。そんな話、信じられない。私はまだ子供だけど、それくらいの常識はあるつもりよ。冗談やめて。じゃ、私帰るね」
一刻も早く帰りたい気分だった。
しかし、見えない壁にさえぎられるように、ある場所から先に進めない。
――?
「ここはすでにレナのすむ世界とは違った場所。レナの世界と私たちの世界をつなぐ場所だから、レナ一人では通れない」
「そんな……」
これまでずっと説明していたセレンティアが立ち上がり、もう一度サファイアを取り出す。
「レナ、信じられないっていったよね」
「え? うん」
「証拠があったらいいのよね?」
「し、証拠?」
するとセレンティアが何かをつぶやく。すると、またサファイアから光が出てくる。
――また……だ。
次に目を開けたとき、レナの目の前に風竜が現れた。
――!
風竜はレナのほうへ飛んできた。そしてレナに当たる寸前のところで消滅した。
「これが、風の魔法」
レナは呆然としていた。これまで教わってきたすべての常識を覆された気分だ。その場から動くことが出来なくなった。
――この人たちは、本当に……魔法を……。
「レナ、信じる?」
「……信じる。信じます」
「でも待って。私がその人間になるかは、私が決めることでしょう?」
「もちろん。あなたが嫌というなら、私はレナの記憶を消して駅まで戻すわ」
「じゃあ、私の回答は聞かなくても分からない?」
セレンティアは、一度目を伏せて、口を開いた。
「断るでしょうね。突然すぎる」
「だったら……!」
「レナ、あなたやり直したいと思わない?」
「?」
「後悔しているでしょう。出来ることならもう一度、もう一度チャンスが欲しいと思わない?」
「え?」
「私たちは石使い。あなたの力になれるの。もちろん異世界にいっている間は人間界の時は止めておくから」
レナは一瞬で今までのことを思い出した。
「どうして……」
「ごめんね。少し見てた」
――舞とはやり直したい。
――それは確か。出来ることならって、何度も思った。
「レナ、僕はリベンジを応援する」
「みんな、あなたの力が必要なの。私からも、お願いします」
――どうするって?
――そんなの初めからわかっているじゃないか。
――――やり直せるなら、なんでもやるって。
「分かった。私も行く」
「今……なんて?」
「協力する。私も、みんなと行く」
セレンティアたちは、本当に何度もお礼を言った。
「有難う!! 本当に有難う」
「クリス、あけて?」
クリスはエメラルドを使って何かを唱え始める。今までよりもさらに強い光が、あたりを包み込む。
レナは硬く目を瞑った。
「レナ、本当にいいんだね?」
「もう決めたから」
「いくよ」
光が、さらに強くなる。
レナはその中で、いつしか気を失っていた。
そしてそこから、レナたちの過酷で辛い旅が始まったのだった。
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2009/11/01(Sun)11:53:05 公開 / 美散
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■作者からのメッセージ
初めての投稿ですので、ぎこちないところだらけだと思います。
チョクチョク更新するので、読んでいただければ光栄です。
お手柔らかにお願いします><