- 『ある町の物語』 作者:キラワケ / ファンタジー 未分類
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全角2393文字
容量4786 bytes
原稿用紙約9.7枚
戦争によって壊された町とその渦に巻き込まれ散っていった彼女大切な人を失った彼の元で起こるちょっと不思議な物語
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十羽学園の屋上を風が吹き抜ける
その風を受けながら一点を見つめる少年
”旧都”という過去のものを見つめている
高く見晴らしの良い屋上からは夕焼けに染まる旧都を一望できる
荒れ果てたその町を彼はどんな心で見ているのだろうか
住みかを奪われたことによる怒りか
思い出を壊された悲しみか
大事な人を失った痛みか
何かを嘲笑うかのように
自然は少年へ風を叩きつける
湿った風
それは海によるもの
ここは海に近く荒れ果てた”過去”を持つ風羽町
そして佇む少年の名は
『ユウト先輩ですよね?』
神主ユウト。
二〇〇八年七月
ギギギ ガチャ
十羽学園の屋上への扉を開ける
ヒュウウウウウ
夏のぬったりした空気の中を涼しい風が吹き抜けてゆく
コツコツコツ
コンクリートの地面を歩き
スッ
無機質なコンクリートに仰向けになる
「…………………」
吸い込まれそうな程の青い空が視界一面に広がる
何もない彼には雲の流れが速く感じた
しばらく経った
彼はいつの間にか寝ていたようだ
目を開けると
『センパイ、何してるんですか?』
彼の顔を見覚えの無い女生徒が覗き込んでいる
空は夕日の赤色が支配している
「誰だお前」
少なくてもこの人を知らない
彼はゆっくりと立ち上がる
『私は木澄アキカって言います、センパイは…………』
『ユウトさんだよね』
「初対面のくせに名前で呼ぶか、それになんで俺の名前知ってんだ?」
『有名だよー”サボり選手権優勝候補者”のセンパイとして』
「サボり選手権ってなんだよ………それにこの場所は俺しか知らないはずだ」
『センパイが屋上への階段を登っていったから何かなーと』
『それに鍵開いてますしね』
ズビシッと指した先には音を立てながら開いたり閉じたりしている扉があった
「……………」
『ねっ?』
何か負けた気がする
「いつから居たんだ?」
『追いかけてきたんだよ?だからそのときから』
「暇なやつだな」
『そうかもしれませんね』
そう言うと彼女は視線をずらし
屋上から見える景色を見た
『今日は風が気持ちいいですね』
吹き付ける風に茶色の長い髪がなびく
『センパイはどう思います?』
アキカは振り返りユウトの答えを待つ
「…………まぁ夏の暑さには丁度いいんじゃないか?」
彼は答える
『明日も来てみようかな』
「俺は来ないかもな」
ここの屋上の鍵は俺が持っている
『じゃあ開けといてくださいね』
「知ったこったない」
『今知っといてください』
屋上から始まる物語ちょっと不思議な物語
それがたった今
始まりを迎えました
翌日。
彼はまた屋上に居た。
そこから見える景色というと……
「旧都か」
旧風羽町通称「旧都」。
戦争という一個人の主張が肥大化したのを原因にとある町は姿を消した。
彼の生まれ故郷であった町は既に形を残していない。
再整備によって半分の風羽町はスタイリッシュな朱と赤で統一されている。
今立つ学校の屋上から整備された方を見れば、赤色と朱色の屋根がまばらに並んでいるよう見える。
たまに生き残った古いマンションやアパート、一軒屋があるものの殆どが赤と朱に飲み込まれている
彼の住んでいたのは整備”されなかった”方の風羽町「旧都」だ。
放置され朽ちてゆくコンクリートビルや日本建築の家群の姿はとても痛々しい
がしっ
彼の視界が何かによって遮られた。
そして自分の頬にい覆いかぶさっているのは温かな肌の温もり。
『だーれーでーしょーうー』
彼は自分の目に覆いかぶさっていた手を掴み自分の顔から引き剥がした。
「誰だ」
『もー昨日会ったコも忘れたんですか?センパイ』
微妙に怒り気味に頬を膨らませながら言う彼女。
「確か……」
『確か……なんですか!』
「確か、ここに来た不審者で名前は知らん」
『ひっどーい不審者とかっ! それに私はき・す・み・あ・き・かっ! そんな可憐で美しい名前があるんだよ!』
「略して少女Aだな。 簡潔かつ分かりやすい合理性を高めたネーミングセンス、自分の良すぎるセンスに惚れぼれするね」
『略されてないしっ! というか何そのモブキャラ的名前っ』
ぎゃあぎゃあと叫ぶ彼女に彼は冷たく言い放った・
「で、こんな俺に何の用だ」
その冷たい言い方をもろともせずに、彼女は言葉を返す
『昨日風が気持ちよかったのでまた来てみました!』
「そういえば昨日そんな事ほざいてたな」
『………それは覚えて名前を忘れるなんて失礼すぎるよ』
「はいはい」
『でも……私が来るって分かってたから扉、開けててくれたんだよね』
確かに昨日開いていたことを指摘されたので注意できたはずだ。
だからきっと――
「単にメンドかっただけだ」
……まぁ彼ならその可能性も考えられるが。
「この自意識過剰が。」
若干彼女はムッとした表情を形作るが
『はいはい照れ隠し照れ隠し』
と自分にとって有益な方に捉えた
「お前…………屋上から落として地面を紅色のアート作品に仕上げてやろうか?」
『センパイかわいー』
そのおちょくりを最後に彼は彼女を追い、彼女は彼に追われた
10分は追いかけまわった後
「ったく…………女の癖にスタミナだけはありやがって」
『えっへん』
多分ホメてはいない。
きっと濃厚な皮肉を混ぜての発言に違いないだろう。
『センパイあの 』
「帰れ」
『せめて言わせてっ!』
「勝手に喋れ、聞く耳は持ち合わせていないが」
『センパイのことゆーくんって呼んでいいですか?』
「断る」
『あっれー聞かないんじゃなかったのー』
「その口をふさげ」
『じゃあなんて呼べばいいの?』
「呼ぶな」
『ゆーちゃん』
「断る」
『ゆーたん』
「拒絶。」
『ユート君』
「帰れ」
『拒否反応がなかったので決定!』
「その判断基準で決めんなっ」
『これからもよろしくねユート君っ』
「だから呼ぶなっ」
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2009/10/11(Sun)03:55:49 公開 / キラワケ
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■作者からのメッセージ
ここには初投稿させてもらいました
あと少しだけ長いです
完成はしているので少しずつ投稿していきたいと思います
多分色々表現がおかしいところがあると思われます
変に感じたところは指摘してもらえると嬉しいです
とんだ未熟者ですがよろしくお願いします