- 『世界の滅亡』 作者:湯船ゆきと / ショート*2 異世界
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世界はもう滅亡したのだ。
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電灯一つとして燈っていないほの暗い街を、僕はひたすらに駆けていた。
背後から無数の足音が聞こえる。気のせいかさっきよりも近づいている。確かめなければならない
のだけれど、後ろを振り向く気にはなれなかった。きっとそこには地獄が広がっているはずだ。
目を瞑って、手を握り締め、僕はただその音から逃げていた。ただその闇から逃げいていた。
そういえば昨日の朝刊がすべての始まりを告げいていたのだ、と今更になって僕は思う。あの時はそ
んなことがあるはずないと思っていたけれど。
『地球滅亡!? 異世界からのメッセージ』
こんな見出しだったと思う。そこには、異世界の生き物からの警告らしきものが、世界各国の官邸
宛に送られてきたという内容が書かれていた。当然ながら、手の組んだいたずらだろうと誰もが思った。
事実、その記事も一種のネタとして書かれていたもので、文体から真剣さは感じられなかった。
しかしその、いわゆる異世界からのメッセージとやらは、どうやら本物だったようだ。
それは今日の朝、僕が目を覚ました時には確信を持って言えた。その時には人、いや今まで地球
に生きていた生き物たちは、みな姿を消していたのだ。そして、そこには影がいた。僕は、地球にたった
一人残された生き物だと言うことに気づいた。
「もう、無理だ……」
堪え切れなくなって、僕はついにひざまずいた。じわじわと背後に闇が近づいてくる。
「できればお前らのような闇の存在とは向き合いたくなかったよ」と僕は言う。そして、目を閉じる。
「オレタチハ、モウ、トモダチダヨ」と闇の声が聞こえた気がした。
世界はもう滅亡したのだ、と僕は思う。少なくとも僕の中では。
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2009/06/24(Wed)21:30:44 公開 / 湯船ゆきと
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■作者からのメッセージ
2作目です。
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