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『救いきれぬもの』 作者:もげきち / ショート*2 ホラー
全角2158文字
容量4316 bytes
原稿用紙約7枚
少年の顔は苦痛で歪み、ただ自分を救ってくれる「お兄ちゃん」の存在を待ちわびていた

 嘘つき。僕はもう大丈夫だって言ったじゃないか。
 なんだよ、そんな不思議そうな顔をして僕を見たってそうはいかないからな! 覚えが無いなんて言わせないよ。
 ほら、見てよこれ。僕、また怪我してるじゃないか。もうこんなに血が流れてるじゃんか。
 ほら、僕の腕、また捻じれて訳が解んない形になってるじゃん。
 ああ、なんだか顔まで引きずられたような痛みが走ってきたじゃないか!
 あああ痛い。痛いよ。痛みが止まらなくなってきたよ。
 ああ、ほら今度は足が千切れちゃった。酷いよ。
 このままだとやっぱり僕は死んじゃうよ。
 思い出したかい? 思い出したよね?
 この前お兄ちゃんは僕の怪我を治せるっていったよね? もう絶対に大丈夫って言ったよね?
 じゃあなんで、また僕はこんな大怪我をしているの? どうしてまた僕はここに居て、僕の下に真っ赤な血の水溜りが出来上がってるの? 
 ねえ、やっぱり僕はこのまま死んじゃうの?
 それは嫌だな。絶対嫌だな。
 もし死んじゃうんだったら……
 うん。もし死んじゃうんだったら、僕は死ぬ前にいろんな人を道連れにして――
 え? 何? 解った? また治してやるって?
 なんだよー、初めからそう言ってくれればいいのに。治るんだったら僕だって大人しくしてるよ。
 ああ良かったー。これでもう安心だね。
 なに? すごく嬉しそうだって?
 うん、そりゃそうだよ。この怪我が治るんだったら嬉しいに決まってるじゃないか。
 明日にはいつもどおり学校行って、ナオトやカズノリと消しゴム飛ばしの決勝戦やるんだ。僕の防御型消しゴムの鉄壁の守りで全部弾き返して優勝してやるんだから!
 他にも妹と約束してたゲームの攻略方法教えてあげないとな。お母さんには――
 なんだよ、僕が話してるのに急に遮って。
 あ、ああ。そっか傷薬を塗ってくれるんだね。ごめんごめん。
 ああ、温かいなぁ。この傷薬。あ、すごい。腕が元に戻った! 顔もいつもどおりだし、足もくっついたよ! 
 よーし、これでもう大丈夫なんだよね? 
 なんだよ、お兄ちゃん。そんな自信の無い顔して。
 大丈夫。やっぱり僕はお兄ちゃんを信用するよ。
 え? そろそろ行った方が良いって? うん。そうだね! 本当お兄ちゃん怪我を治してくれてありがとう! 
 じゃあねー! バイバイ☆ お兄ちゃんこそ頑張れよーっ!
 


 あれー? ここは何処だろう? 
 ああ、ここはまたあの道路じゃないか。
 僕はなんでまた此処に立っているんだろう? さっき怪我治してもらったのに……
 あああ、ああああああっ
 何で? 何で? 腕が。腕がまた捻じ曲がって来たよ?
 わ、また血が一気に噴出してきちゃった。
 ああ、顔が引っ張られて――痛い。痛い。足が、足が千切れちゃう。
 お兄ちゃん、お兄ちゃんはどこ? 痛い。痛いよ。
 お兄ちゃん! お兄ちゃんどこいったの?
 嘘つき! 僕、また怪我しているじゃないか。
 酷いよ、また騙したんだ。出てきてよお兄ちゃん。
 早く僕の怪我を治してよ。
 何処にいるの? 出てきてよ。
 出てこないと……でテコないト……このまマだトぼくハ――

 ミンナヲノロイコロシチャウヨ?

――――――――

「おい。お呼びが掛かってるぞ、お兄ちゃん」
「ええ……」
「でどうするんだ? お兄ちゃんはまた優しく介抱してあげるのかい?」
「すみません……師匠の言う通りでした。もうダメです。限界です。俺が希望見せるたびにどんどん要求が強くなり悪霊化してきているのを素直に認めます。強引に浄化するしかもう手立てが有りません」
「そうだな。やっと自覚したか。ならこれ以上悪化する前に消すべきだ。躊躇うなよ? お前が躊躇うと、結局生きている人々に害を及ぼすからな――って、ほらお前、口では厳しいことを言ってるがまだ強引な浄化に迷ってるな。だから初めから甘ったれた感情は捨てろとあれほど言っただろうが! この原因を作ったのはお前だと自覚しろ!」
「解ってます。言われるまでも無く解ってますよ! あーもうっ、気分が悪い。あいつ、ただ認めたくないだけだったんですよ? トラックに跳ねられて自分が死んだことを。そして普通にダチと遊んで、妹の世話して――そんな日常に戻ることを期待しているだけだったんですよ? それを俺が……俺が生半可な同情で悪霊化させてしまって、しかも手に負えなくなってきたからって、今度は手の平を返して無理やり浄化だ? 何やってんだ……俺は……俺は自分が情け無い」
「ただ悪いだけの存在だったら気が楽なんだろうがな……残念ながら、お前はそんな単純なもんじゃない、因果な稼業に足を踏み入れているんだ。業を背負い、苦しみながら、それでも前をしっかり見て行くしかない」
「はい」
「さぁ、理解したならとっとと行って来い。後味が悪かろうが、気分が悪かろうが、それが俺達の――お前の選んだ仕事だ!」
「……はい。行って来ます……」

――――――――

 あ、お兄ちゃんだ。やっときたね、遅いじゃないか。待ってたんだよ。
 ほら、見てよこれ。
 嘘つき、また僕はこんなに大きな怪我しちゃったよ? 
 どうしてくれるの?
 ――って、あれ? どうしたのお兄ちゃん。
 そんなに怖い顔して? 
 大丈夫? 



2009/06/15(Mon)09:36:45 公開 / もげきち
■この作品の著作権はもげきちさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
おひさしぶりでっす。気がつけば前回の投稿から2ヶ月近くの歳月ががが。
では最初にお礼を! 読んで下さってありがとうございますーっ!
「読もう」というエネルギーを割いて頂けた事だけで感動大激情です。

今回はショート、そしてちょっと実験的な書き方を試してみました。
これぞ台本的という感じになってしまい……小説の形態として読んでいただけるか心配ではありますが、冒険しすぎたかな(汗
話は、かなり断片的です。やるせない、因果なものを出せていたらいいなぁっと思ってます。
この作品に対する感想 - 昇順
こんにちは! 羽堕です♪
 前半の少年の必死さみたいのが弱い気がします。もっと強い要求や、身勝手さを出して良かったかなと。お兄ちゃんの正体については意外性などはなかったのですが、話をしている二人の関係なども伝わってきましたし、少年の存在などについても分かりやすくて良かったです。
 構成など私は読みやすくて、すんなりと読めました。苦渋の選択をするお兄ちゃんなど、物語をもっと長く読みたかったです。
であ次回作を楽しみにしています♪
2009/06/16(Tue)13:05:130点羽堕
こんにちは。先週末は奈良で寛いできた木沢井です。
少年のことを考えると、たしかにやるせない気分にはなります。おそらくあの後、「お兄ちゃん」に浄化されるのでしょうね。
「お兄ちゃん」の仕事や悪霊など、内容はとても興味深いものでしたが、それだけにちょっと物足りなく感じられました。後半の、会話だけの部分は、台詞の一部を地の文に回すなどするといいのではと思いましたが、どうでしょうか? 何が言いたいかと言いますと、私も、「お兄ちゃん」や少年の話を読んでみたいと思っています。
以上、電車に揺られつつの木沢井でした。次回作も楽しみにしています。
2009/06/16(Tue)15:39:580点木沢井
[簡易感想]読み易く、そして飽きなくてよかったです。
2009/06/16(Tue)22:02:360点氷島
えへへ、夏に応募する作品の季節が真冬とかいう楽しい事をやらかしてしまっているもげきちです。久々なのに、こうして羽堕様や木沢井様、そして氷島さんからご感想頂けて嬉しくございますだよー

>羽堕様
こんにちは! こうして感想をまたまた頂けて幸せにございますー。ですね、どこか少年自体が自身を客観的に言い過ぎてて「痛み」が本当に痛みとしてあるのかが不明ですよね。記憶の重複で、自身の怪我の痛みに嫌でも慣れてしまった……からこその達観みたいな感じとして捉えてもらえると嬉しいですが、流石に難しい>< もしかしたらどこかで、自分が死んでいる事を認めているから、それを救ってくれようとしてくれる「お兄ちゃん」に甘えて意地悪していただけかもしれませんね。――ってそれだと余計に因果が過ぎる(汗
あくまで少年の話なので、敢えて台詞だけでお兄ちゃんサイドを少し示してみました。地の文を出すと少年より比重が行ってしまうかな? と危惧してのお試しでしたが……イマイチでした(泣
そして、今書いてる作品が似たような物だったりします。作品のブラッシュアップで出すのは構わない。と有り、投稿したら消す事を条件にWeb上に出すことはOKとの事らしいので……もしかしたらお世話にまたなりに来るかもしれません(え) その時はまたよろしくお願いしますだーだーだー(エコー

>木沢井様
お久しぶりであります。奈良! 鹿にお辞儀されたいですw
お兄ちゃんは……果たして浄化出来たのでしょうかね。なんせ悪霊化してると思った少年が「心配」をしてくれたのですから……。本当に苦しい事態だと思います。自分だったらどうするか、考えて、考えて、結局甘ちゃんの自分はその結末を書けないまま逃げました――なんちゃって(コラ
自分やっぱり物の怪の類が大好きみたいで、こういう話で長編をやっぱり頑張っちゃってますw 何かしらの形で読んで頂けることをお願いしちゃうかもしれませんが、その時は是非是非よろしくおねがいします!
地の文で書きたいって気持ちを抑えつつ、会話だけで出しましたがやっぱり「お兄ちゃん」のもっと気持ちの流れを出した方が入れたのかなぁ、と頭を悩ませています。ショートの難しさ、改めて痛感しております。凝縮する難しさよ……

>氷島様
読んでくださりありがとうございますー! これからも、だらだらだっはと書いてまいりますのでもしまた見かけて下さいましたら是非是非お付き合いしてやったって下さいー^^ ありがとでした!
2009/06/17(Wed)12:07:340点もげきち
初めまして。千尋と申します。御作を読ませていただきました。
 なるほど、確かに「救いきれぬもの」の題名どおり、ですね。
 確かにショートショートって、難しいですよね。生意気を言うようですが、この長さであれば、もう少しひとひねりというか、ピリッとしたものがないと、「アッサリ」という印象になってしまうかも知れません。でも、今までのコメントを拝見すると、少年やお兄ちゃんの心境に焦点を当てようとされていたのでしょうか。すみません、読解力不足で……。
 様々な形の作品に挑戦しようという姿勢が素晴らしいです。私など、自分の書きたいことを書きたいようにズラズラと書いてしまい、お読み頂いている方に迷惑ばかりかけております;。
 次回作もぜひ拝読したいと思います。
 あ、ちなみに、私は、お兄ちゃんは浄化に失敗して、少年は、大悪霊に成長すると思います。ガンバレ! 少年! (あれ、違うか)
 
2009/06/19(Fri)21:53:240点千尋
>千尋様
ああああああああああっ、千尋様大変申し訳ありません。お返事遅くなりました(汗
貴重なご意見を頂きながら気がつかずこの作品自体を流してしまっていた自分に猛省です。

はい、本当なんというか勢いで「こんなエピソードあればいいな」を我慢出来ずに勢いで書いてしまったおよそショートショートと言える代物では御座いませんね。強烈な何かが完全に不足し予定調和で終わらせてしまう辺り自分の雑文書き性が出てます。ショートショートなのに、心情部分に重きを置いていたのも本当、何と言うか至らないところばかりで申し訳ありません。
まだまだ色々な形で頑張っていこうと思っておりますので、また見かけたとき「よし、よんでやるか!」というエネルギーを持って頂けたら幸いな作品を書けるように頑張って参ります! 
本当お返事遅くなって申し訳ありませんでしたー、またよろしくお願いします!
2009/07/30(Thu)11:34:580点もげきち
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