- 『時空少女』 作者:カナダ / 異世界 ファンタジー
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夜中に目が覚めた雅。窓から外を見ると、知らない少女が自分を見ていた。少女の罠に引っかかり、違う星に連れて行かれてしまった雅。その星は大変なことになっていて……
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その世界では、草木が枯れて何もなく、水も生き物の気配も何もなかった。
不気味な色の空は薄暗く、雲が薄くかかっている。
女性の甲高い泣き声が聞こえる。
その中に、少女は一人で取り残された。
突如、地面が揺れた。一瞬にして、今までたっていた地面が消える。
少女は地面の境目に落ちていった。どこまでも、どこまでも。
――!
目を開ける。いつもよりやや斜めな風景が見えた。
起き上がってみると、そこは見慣れた自分の部屋の中。
「夢? ……か」
雅はさっきまでの悪夢を思い出した。
不気味な空気に包まれた世界。本当に夢でよかった。
ふと、時計に目を移す。四時になるところだ。外もまだ薄暗い。
―目が覚めちゃったな。
雅は窓をあけた。四月の初めの冷たい風が、雅の長い髪を揺らす。
少し身を前に乗り出して、下を見た。
そして、雅は驚いた。
見慣れない少女が、上を見上げて雅の目をじっと見つめている。
―誰? 綺麗……
サファイアの宝石のような美しい瞳に、腰まで伸びた輝くブロンド。
外国人だろうか。すごく整った顔立ちをしている。
謎の少女は、いつまでも雅の瞳を見つめる。
まるで、こっちへ来い、とでも言うように。
雅は少女の瞳に釘付けになり、吸い込まれるように身をもっと前に乗り出した。
すると、雅はバランスを崩して、あっという間に落ちていった。
―しまっ……!?
落ちる……と思った瞬間、雅の体はいきなり宙に浮いた。
何事かと思うと、少女が浮かんで雅の体を受け止めていたのだ。
そして次の瞬間、雅はいきなり睡魔に襲われ、寝てしまった。
少女は笑みを浮かべ、そのまま消えた。……雅とともに。
――…
雅は目を覚ました。見覚えのない場所にいる。
身を起こすと、少し首が痛い。
周りを見渡して、雅は驚いた。
明らかに日本の家とはつくりが違ったのである。
まず、雅が寝ていたべっとは、木の板に布を敷いて、綿がおいてあるだけ。なるほど、だから首を痛めたのである。
テーブルも粗末なつくりである。木の板を積んで、布がかぶさっているだけだ。いすはなかった。
そして、すべてが石造りの壁、天井、床。
ひんやりとした空気が雅の体をひやした。
そして、何より驚いたのは、自分の格好である。
ゆったりとした生地のワンピースで、ウエストの部分を紐で縛っただけ。
パジャマだったので、当然裸足だった。
そこに、誰かが入ってくる。雅がじっと扉を見ていると、さっきの少女が笑顔で入ってきた。
「……気がついた?」
そこにはさっき見た神秘的なフインキは全然なかった。
可愛らしい、少女のフインキだ。
「あなたは……というか、ここはどこ?」
「私は、セレンティア。皆、『ティア』と呼ぶの。ヨロシクね、雅ちゃん。この世界は……説明するより見たほうが早いかな。ついてきて」
「え……ちょっと待って。何で私がここにいるの? というか、私の名前……」
「それも含めて説明する。来て?」
雅は、セレンティアという少女に連れられて、よくわけの分からないまま外へでた。
そして、驚いた。
夢で見た世界と全く同じだったのである。日々の割れた世界。枯れた草木。
そう。そっくりそのまま。
「驚いた? 夢で見たでしょう」
「……うん。ねえ、どうして草木がないの? この世界は……」
「あの場所を見て」
それを見て、雅はまた驚いた。
石が宙に浮かんでいる。……いや、浮いている、というよりは、固まっている、と言う感じだった。
「浮いてる……」
「この世界はね、時間が止まってるの。それで、私たちは地球人の力を借りようと……」
「地球人?」
「ここは、地球とは離れた惑星だから。地球は水の星、とよんでいるの。水にあふれてる。私たちの推測では、ここの世界は水の力があれば時が戻る、とされている」
「どうして? それに、私も何をすればいいのか分からない」
「うん。雅ちゃんは何もしなくてもいいの。ただね、あなたの血液を、少しだけ、いってきでいいわ。私たちにください。それによって水を復活させる魔法を、私たちは見つけた」
雅は、改めて後ろを振り返った。
水のない、枯れ果てた世界が目に入る。
日ごろ地球人は、水のある世界に見慣れている。だから、雅にとっては異様な光景であった。
セレンティアにとっても同じだろう。
彼女らこの世界の人たちは、皆水が戻ってくることを願っているだろう。
雅はこう思った。
自分に出来ることがあるなら。自分の力でこの異世界の時が元に戻るなら。
「本当に、それだけ?」
「うん。約束する。それだけしたら、あなたを本のところへ戻すから」
「……分かった。いいよ」
「本当に? 有難う! じゃあ、ついてきてね」
雅は小さな建物の中に連れて行かれた。建物の中には何人かの人がいた。
そしていすに座るよう促され、そのとおりにした。
セレンティアが正面に座って、雅の手をとると、指先をちょっと切った。
そして雅の血液を布にしみこませた。
「終わり。あっという間だったでしょう」
そして、その場にいた全員が外に出て、その布を宙に浮かべると、いっせいに何かを唱え始めた。
その時間は長く、十分ほども続いた。
終わった時、その場の全員が息を飲んだ。
少したって、いきなりその場に、心地よい風が吹いた。
「風……風だ!」
「一年ぶりに、風が吹いた!!」
そして次の瞬間、すごい勢いで、雨が降ってきた。
「雨! 雨だァ!!」
皆飛び出して、思いっきり雨に当たった。
「スープでも飲んで?」
雅はセレンティアの家でスープをもらった。
なんだかいつもより、おいしかった。
「あの……ティア」
「なぁに?」
「どうして、私だったの?」
「うん。私ね、友達がほしかったの。同じ年くらいの、女の子の友達。気づかれないように朝方に歩いていたら、窓から顔をだすあなたを見つけて、なんとなく見ていたら、目が合ったから、それで。……ゴメンね」
「いいよ。こちらこそ、有難う。素敵なものを」
「……雨がやんでる。外にでてみましょう」
外にでて、二人は歓声を上げた。虹が出ていた。
虹を眺めて、二人は微笑みあった。
そして、あっという間に、別れの時はやってきた。
「本当に有難う。この星に水をくれて」
「ううん。それじゃあ」
セレンティアは、短く呪文を唱えた。
すると、雅の体が光に包まれる。
「有難う。本当に……さようなら」
「うん。いつか……いつかまた、絶対に! さよなら、ティア」
いつの間にか、ティアの姿は見えなくなった。
出会いもあれば別れもある。
そう、人はいつだって一期一会。
これをもって、ティアと雅の物語は、幕を閉じた。
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2009/04/29(Wed)18:47:18 公開 / カナダ
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■作者からのメッセージ
はじめまして、中二のカナダです。
久しぶりに純文学系を書いてみました。
読んでくれれば光栄です。