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『踏切』 作者:あるすんく / ショート*2 リアル・現代
全角1137文字
容量2274 bytes
原稿用紙約3.65枚
 ある平日の夕暮れ時の事である。
 その日、小林は高校からの下校途中であった。
 他愛も無い会話を済ませ、友達と別れた小林は寄り道もせずに自分の家へと足を動かしていた。
 若干背の低い小林でも夕日に照らされて成された影は長く長く伸びていた。影は家の塀にぱっと写る。道端に設置された電灯が一斉に点いた。
 道端に転がった小石を蹴りながら進む小林は、帰宅途中にある、寂れた遮断機の降りた踏切にたどり着いた。帰宅途中であろうサラリーマンやOL、他の学生などもたくさん見られる。
 電車が沢山往来する郊外の踏み切りとあって数分待たなければならないのだが、迂回路として歩道橋が設置されていた。塗装がはがれ、部分部分が錆びたそれは今にも崩れそうである。
 小林はいつもなら待てずに歩道橋を渡るのだが、その日は部活動でひどく疲れたせいもあってか、信号を待っていた。
 ランプが点滅した。電車が通る合図だ。その後しばらくして警報機も鳴り始めた。
 遠くから金属を切るような音が聞こえてくる。
 数秒後、電車が轟音とともに走り去った。地が揺れる。地が揺れる。電車が視界の右から左へ消える。また電車は同じように来るだろう。
 その時である。
 小林は目を見張った。踏切を挟んだ向こう側に、両親が離婚して以来姿を消し連絡も途絶えてしまった母親がいたのだ。小林は叫んだ。
「お母さん!」
 周りの人たちが小林に注目した。そんなの構いやしない。もう一度母親を見る。佇んでいた。
 しかし、すぐにまたさっきと同じように、電車の走る音が聞こえてきた。さっきと違って重々しい音である。貨物列車だった。それは視界を奪った。待ってはいられない。
 小林は歩道橋に向かって走った。走る。走る。階段を正確にリズムを刻みながら。速く、速く、昇る。息が続かない。ようやく上りきった。
 歩道橋の上から向こう側を見てみる。
 
 ――いない。
 
 胸が苦しいことも忘れ、全力疾走で歩道橋を走った。
 階段を一段飛ばしながら下りているときに思った。あれは自分の見間違いではなかっただろうか。人違いではなかっただろうか。
 
 ――でも確かに……。確かにお母さんだったのに……。

 下り終えた小林は必死の形相で人ごみの中を探した。いない。確かに見たはずなのに!
 小林は佇むしかなかった。相変わらず影は長く長く伸びている。遠くではカラスが帰宅途中の人々を追い立てるように鳴いている。
 いつのまにか警報機も鳴り止み、遮断機は淡々と上がり始めていた。小林をちらちらと見ていた人々もやがて興味を失ったのか、わらわらと動き始めた。
 だが、小林は動けないでいた。頭の中ではいつまでもいつまでも警報機の耳障りな音と、そして、電車の走り去る音が鳴り響いていた。
2009/03/18(Wed)19:52:15 公開 / あるすんく
http://blogs.yahoo.co.jp/arusu0707
■この作品の著作権はあるすんくさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
2回目の投稿です。
出来、不出来関わらず辛口のご感想、ご指摘をお待ちしております。
この作品に対する感想 - 昇順
こんにちは!読ませて頂きました♪
この短さでよくまとまっているなぁと思いました。少し母親の所が唐突な感じがしましたが、冒頭の方で家族について、ほんのりとでも触れられても良かったかなと思います。主人公の母親を見失ってしまった後悔や、普段通り行動してたら会えたかもなどの、たらればがあっても良かったかもです。少しジンとする良い話だと思いました。
では次回作も期待しています♪
2009/03/18(Wed)21:12:470点羽堕
あるすんくさん、はじめまして。春野藍海(ハルノアオミ)と申します(^^*
わずか一瞬の出来事ということもあり、すっきりした短編だと思いました。ただ、もう少し主人公の感情が明記されていたら、もっと素敵な題材が光っていたろうなぁと感じます。
次も楽しみにしていますね(^^
2009/03/19(Thu)17:35:450点春野藍海
>羽堕さん
こんばんは、あるすんくです。ご感想有難うございます。
短い中にまとめたかったので家族構成は省いたのですが……どうなのでしょうか。
これからもよろしくお願いします。

>春野藍海さん
ご指摘を受けて初めて気付いたのですが、確かに少し感情描写が不足していますね(汗
音信不通の母親を目撃した、なんて主人公からしてみれば様々な思いがこみあげてくるでしょうし……。
これからもよろしくお願いします。
2009/03/19(Thu)19:08:450点あるすんく
はじめまして、あるすんく様、雑誌の裏の怪しげな薬が最近妙に気になっている頼家です。
 作品を読ませていただきました^^『辛口で……』とありましたので、身のほど知らずを承知で弱冠失礼いたします。お気に障られましたら、『ヘッポコの癖に偉そうに……』と、どうか聞き流してくださいませ。
 文章は非常に読みやすく丁寧に描かれ、素晴らしいと思います。
ただこの作品を読んで、ショートではなく、むしろもっと長い作品の冒頭部分であるような印象をました。母(の幻影かな?)を見た事の必然性が読み取れず、起承転結の『起』の部分で中座させられている感じがいたします。
そのためか、この作品の意図するところを読み取ろうにも、(私の読解力不足のためもありますが)与えてくださった情報が少なく、読み取れませんでした。
……しかし裏を返せば、非常に続きが気になる巧みな出だしだという事です^^。
それでは駄文失礼いたしました。次回作をお待ちしております!
                口先ばっかりの頼家
2009/03/20(Fri)01:08:090点有馬 頼家
 こんにちは。読みやすいのですが、やはり、「それで?」といった感じはありますね。もう少しでも書き込めば、質が上がったかもしれません。良さげな話なんですけど。それと、書き出しが羅生門っぽいのは気のせいでしょうか?(笑)
2009/03/20(Fri)07:56:500点ゆうら 佑
>有馬 頼家さん
 初めまして、あるすんくと申します。ご感想有難うございます。
 確かに謎を残した終わり方だな、とは少し自覚していました。母親が本物か幻影かは読者の方におまかせしたいと思っています。どちらの可能性もありますから。
 締りが悪いのでこれを題材に短編でも書こうかと思っています(笑)執筆を始めてまだ間もないので掌編が殆どでしたので少し四苦八苦すると思いますが……。
 これからもよろしくお願いします。
2009/03/20(Fri)12:22:000点あるすんく
>ゆうら 佑さん 
 初めまして、あるすんくと申します。ご感想有難うございます。
 ある小説の中のワンシーンのようだ、とは自覚していました。
 書き出しが羅生門、と言われると確かに似てますね(笑)引用すると羅生門なら「ある日の暮方の事である」ですから。正直申しますと、少し意識していた部分もありました。芥川龍之介の作品で心に残る作品はたくさんありましたので。
 これからもよろしくお願いします。
2009/03/20(Fri)12:26:350点あるすんく
作品を読ませていただきました。母親が出てくるシーンまで母親について何も触れられていないため唐突感がありました。この唐突感が最後まで残りラストシーンを不明瞭なものにしていたと感じました。では、次回作品を期待しています。
2009/03/22(Sun)22:57:570点甘木
>甘木さん
 こんばんは、あるすんくです。ご感想有難うございます。
 確かに、「両親が離婚して以来姿を消し連絡も途絶えてしまった母親」としか触れられておらず、唐突感は拭いきれませんね……。
 短い間にまとめたかったので省いたのですが失敗しました。
 これからもよろしくお願いします。
2009/03/23(Mon)19:20:310点あるすんく
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