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『不可解なこと。』 作者:華南 / リアル・現代 ショート*2
全角1659.5文字
容量3319 bytes
原稿用紙約5.55枚
こんな世界を愛してる。

 梶島郁美、十五歳。
 自分の今の年齢を三で割ると、人生を時間に例えた時刻が分かる。そう聞いたのはいつのことやら。
 私自身、もう十五年生きたと思っていても、実は人生の時間は、まだ夜が明けてすぐの早朝五時。私の三十九歳、専業主婦の母親の人生の時間は、のんびりテレビでも見ているであろう、午後一時。私の四十二歳、サラリーマンの父親の人生の時間は、会社でパソコンとにらめっこしているであろう、午後二時。
 とても不可解だ。
 人間が活動しやすい時間帯は、だいたい午前九時から午後三時ぐらいまでではないだろうか。もちろん個人差はあるが。
 そう考えてみると、父や母は理解できる。だが、なぜ、私たちは夜明けから活動をしなければならないのだろうか。まだ脳が眠りから覚めていないときに叩き起こされ、なぜ勉学に勤しまなければならないのだろうか。
 大人、と呼ばれる人間は。
 当たり前だ。それがお前たち子供の仕事だ。
 と言う。


「郁美、郁美……!」
「……何? どうしたの?」
 歴史の授業中、後ろの席の森口紗枝が小声で私を呼ぶ。当然私も小声で返事をして、先生がこっちを見ていないのを確認してから、後ろを振り返った。
「授業、つまんないね」
 にいっ、と目を細めて笑う紗枝を見て、ああそうだねと曖昧な返事を返す。そして紗枝は笑顔のままで、歴史のノートに描いた少女マンガのような絵を私に見せた。
 「わあ、上手だね……!」
 そう私がリアクションすれば、紗枝は喜々としてストーリーを語りだす。内容は、実はこの女の子は天使で、一目惚れした男の子のために頑張って人間になる。そしてこの二人は結ばれる。というなんともファンタジックでありがちなストーリーだ。実際そんなこと、絶対ありゃしないのに。
 因みに紗枝の将来の夢は漫画家。羨ましい。
 なにが羨ましいかというと、将来の夢、をもっていることだ。
「梶島さん、森口さん、喋ってばかりじゃなくて、ノートもとって下さいね」
 いつの間にか歴史担当の羽山先生は、私の前に立っていた。怒りも呆れもなく、無表情な声。大ざっぱにガタガタに切られた前髪をみると、何というか呆れてしまう。しかも一応女の先生なのに、万年ジャージは止めてほしい。
「はーい……」
「すみませんでした」
 紗枝はショボンとしている。きっとまだ喋り足りないのだろう。でも、私は紗枝との会話が打ち切られてホッとしている。非現実的な彼女に呆れて、なにかとんでもないことを口走りそうだったから。
「じゃあ続けますよ」
 羽山先生はそっけなく言うと、さっさと黒板の前に戻り、黒板に白いチョークで板書を再開した。
 私は顔を再び前に向けた。
「ふう……」
 一応シャーペンを持ってノートに書き写す仕草だけする。歴史用のノートは真っ白のまま。
 なぜか。それは単に私が、歴史が大嫌いだからだ。
 数学や理科はまだいい。理屈や、理論があるから。だけど歴史は、教えられれば教えられるほど、過去と今とが矛盾しすぎているから。だから、大嫌いだ。
 一体だれが決めたのだろう。正義が正義で、悪が悪なんて。
 もしかしたら、正義が悪で、悪が正義だったかもしれないのに。
 一体だれが決めたのだろう。正しいと教えられたことが、全て正しいだなんて。
 もしかしたら、あなたが知っていることは全て嘘と間違いかもしれないのに。
 とても不可解だ。


 人権なんて契約書、どこにもないから。平和なんて映画、どこにもないから。
 嘘という現実ならある。人間という言葉が喋れる動物ならいる。
「どうすれば私、納得できるんだろう」
 その答えはたぶん、一生出ないような気がする。違う。一生真っ直ぐ目を向けられないんだと思う。見据えた最後はたぶん、生きてる意味を失ってしまうから。
 失って、しまうから。
 
 とても不可解だ。
 こんなに汚くて醜い世界なのに。こんなに綺麗で美しく見える。
 それはたぶん。
 私がそれを疑問に思っているからだ。


 それはとても分かりにくく。
 とても分かりやすいものだ。
 
2009/03/16(Mon)20:04:46 公開 / 華南
■この作品の著作権は華南さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
初めまして。
これからショート作品を中心に書かせていただこうと思っています。
最近書き始めたばかりなので、これから精進していきたい!と私自身意気込んでおります(ほとんど空回りですが……)
アドバイス、感想などいただけますと、この未熟者、大変喜びますので、気が向いたら、コメントしてやって下さい。
宜しくおねがいします!

華南 拝
この作品に対する感想 - 昇順
こんにちは!読ませて頂きました♪
郁美が世界に抱いている疑問は、誰でも一度ぐらいもしかしたら考えた事があるかも知れない事だけど、そこに郁美らしさというか少ない文章の中でも深く考えているんじゃないかと思える所があって良かったです。
では次回作も期待しています♪
2009/03/16(Mon)20:26:330点羽堕
羽堕様、初めまして。
そして感想、ありがとうございます!
今まさに私は狂喜乱舞です(本当に踊り出しそうです……!)
羽堕様の仰ったとおり、ほとんどの方が疑問として、一度は考えたであろうこれを、郁美独特の思想で受け取って頂ければ光栄です。
これからも頑張って精進します!
ありがとうございました。
2009/03/16(Mon)22:43:080点華南
華南さん、はじめまして。春野藍海(ハルノアオミ)と申します(^^*
早速作品を読ませていただきました。
私もこんな時期あったなぁ、とか懐かしい気持ちになってました。こういうジレンマにも似た感情にとり憑かれるときは、周りの大人には「思春期なんだから仕方ないよ」ってよく言う人が多いけど、自分の中ではそれじゃ済まされないくらいに、深刻な問題だったりしますよね。なんかこう無性に何に対しても答えを求めてしまうというか。(って私だけだったらごめんなさい;)
そんなティーンエイジャーの特別な悩みを、この作品の世界観を通して思い出させていただけた気がします。
次の華南さんならではの素敵な作品を楽しみにしていますね(^^
2009/03/19(Thu)17:19:430点春野藍海
はじめまして、華南様。頼家と申します。以後お見知り置きを……
小学生の頃の初恋の相手と同じ名前の主人公に惹かれ、フラフラとやってまいりました。まさか、彼女が『歴史』が嫌いだなんて……(涙)
 基本的に『歴史』はその国のアイデンティティと結びつくため……って、違いますね。作品の感想です^^;
 誰しもが通過するであろう、一種の反抗期にも似た感情を、巧く表現できていたと思います^^
『こんなに汚くて醜い世界なのに。こんなに綺麗で美しく見える。』と思える主人公は、強い娘ですね^^
ただ、一つ気になった点としては『人権なんて契約書、どこにもないから。平和なんて映画、どこにもないから。嘘という現実ならある。人間という言葉が喋れる動物ならいる。』の文章に少し違和感を感じました。
ではでは、次回作をお待ちしております!
                     頼家
2009/03/20(Fri)16:08:100点有馬 頼家
失礼、(誤り)違和感を感じました⇒(正)違和感をおぼえました。……板汚しして申し訳ありません。
2009/03/20(Fri)16:10:170点有馬 頼家
作品を読ませていただきました。誰でも一度は通る道だな。これを読んでそれをとうの昔に失ったことを改めて実感しました。郷愁と悔悟を同時に覚えました。では、次回作品を期待しています。
2009/03/21(Sat)22:50:240点甘木
春野様、初めまして。
そして感想、ありがとうございます!
そうなんですよね。こういうこと思い始めると、なかなか止まらなくなって、自分の周りの全てが疑問になってしまいます。春野様だけじゃないですよ!(自分もそうです……!)
これからも頑張って精進していきたいと思っているので、これからもちょくちょく見てやって下さい!
ありがとうございました。

有馬様、初めまして。
そして感想、ありがとうございます!
初恋の方と同じ名前なのですか……!? なんか申し訳ないです。
歴史の授業のシーンは、私が実際歴史の時間に思ったことを書いてしまいました……。私が歴史、大っ嫌いなもので(ノートはちゃんと書いてますよ!)
すみません、今の私の力では、そこを書きなおすともっと意味不明な文章になってしまう恐れが……。せっかく指摘して頂いたのに、ごめんなさい。
これからも頑張って精進していきたいと思っているので、もしよければ、また感想おねがいします!
ありがとうございました。

甘木様、初めまして。
そして感想、ありがとうございます!
こういう悩みは失ってしまったほうがいいのかどうか、私にはまだ難しすぎて分かりません(頭が悪いので……)
けれども、甘木様が郷愁と悔悟を覚えられたのなら、こういう疑問は忘れないほうがいいのかも知れません……!
これからも頑張りたいと思っているので、もしまた気が向いたら、感想、宜しくおねがいします!
ありがとうございました。

華南 拝
2009/03/25(Wed)13:54:360点華南
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