- 『月夜に硝子の船が輝く』 作者:姫凪 / 恋愛小説 未分類
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今まで恋をしいたことが無かった緋那(ひな)。だがある時自分は幼馴染の梧(あおぎり)の事が好きだと気付く。だがそれは幸せな恋ではなく哀しい恋の始まりだった。
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あの日は夜とは思えないぐらいの明るさだった街灯は一つもなく音も無く人も……いなかった。あるのは月と銀色に光っていた二人と銀色の船のような車だった。
空に半分より少し膨らみかけた月がかかっていた。暗がりの中、夏に咲く夾竹桃の赤い花が美しく浮かび上がる中、二人は寄り添うように銀色に光る車に乗り込んでいた。それは雨に濡れた路をすべるようにして闇のほうへととけていった。
まるで月夜に海を行く美しい硝子の船のように静かに音を立てずに消えていった。
もう帰ってこないような気がした二度と私に逢いに来てくれないような。最後に私の心の中に永遠に結ばれることは無いかのような哀しい初めての恋心だけを残して……。
私は普通の学生だ。幼児の声がする幼稚園を通り、毎朝道に水をまいているおばさんにあいさつをし、学校にこないあの人とあいさつを交わして学校通っていた。
学校では、授業にほとんど出ず、教室に居たとしても大体は寝ている。以前は、休み時間になるたびに先生に呼び出されて説教を受けていたが、しばらくすると呼び出しの声を無視し友達と楽しい話をする。楽しいといっても、大声で笑うような話はほとんどしない。するのは、この学校の文句や嫌な人の話などが中心だ。最近はあきらめたのか呼び出すなんて事はしなくなった。
私が通っている月花学園は私立で頭の良い学校として、遠くに行けば結構評判が良い。しかし、校則がゆるすぎるため、ガラが悪いと近所では有名だ。
放課後、部活動をしていない私は学校が終わると朝来た道を通って真っ直ぐ帰る。
そんな毎日が嫌なわけではないが、わたしのこころが満たされないと言うかなんと言うか、つまらなかった。
ある日、私の日常の中で異変が起こった。あの人が朝、見かけなくなったのだ。今までもそうだったが、しばらくすると帰ってくるのを皆も知っていたためあまり気にも止めていなかった。しかし何日たっても帰ってこないのだ。
一ヶ月が経った。同じ学校だがいつもサボって学校にこないあの人、梧琉稀(あおぎりりゅうき)がまだ帰ってこない。あの人が居なくなることは珍しいことでは無かったのだが、一ヶ月も家に帰らないなんていう事は一度もなかった。
『またすぐに戻ってくるに決まってんじゃん過保護な親だな……』
私は簡単に考えていた。
そして私はまたいつも通り通学していた。
「…………な!」
遠くから声が聞こえる。大きな声でとてもうるさい。
「おい! シカトしてんじゃねーよ摘楼 緋那(つむろ ひな)!」
どうやら私の事を呼んでいるようだ。
「うるさい! 私に何の用?」
声の主は梧 琉夜(あおぎり りゅうや)だった。行方不明のあの人の弟で私の幼馴染だ。
「緋那は兄貴の話聞いたよな?」
「うん、で?」
「……その反応じゃお前も知らねーみたいだな」
「当たり前だろう。仮に知っていたらお前らに教える……ていうか目障りだから今すぐ私の前から消えて」
「相変わらずだな……お前ってやつは」
そういうと学校とは反対の方向に走っていった。元々制服を着ていなかったから、サボる気満々だったのは見えていたがな。
私はいつも遅刻ギリギリに学校に着く。だが今日は遅刻してしまった。琉夜と話していたからだろう。
チャイムが鳴り終わって教室に入ると、桐流 巽(どうりゅう たつみ)先生がいた。
「摘楼今日は遅刻だったな。放課後生活指導室に来いよ。今までのぶんも説教してやるからよ」
私はそいつの言葉を無視した。
「おはよう凪紗」
「おはよう緋那今日はアウトだったねーっていうか髪染めたよね今のほうが個人的に好き」
笑いながらそういったのは私の親友の季柳 凪紗(きりゅう なぎさ)だ。幼稚園の頃からずっと一緒だ。頭が良くて学校のテストではいつもトップ10に入っているのだが、運動の方はワースト1。というドラマやアニメに出てきそうなかわいい友達だ。そして私とあの人の仲を知っている人。
「季柳も摘楼と一緒に指導受けるか?」
私の態度に切れた桐流が言った。私も苛ついたんで一言、
「凪紗はかんけーねーだろう!!」
……のつもりが蹴りまで入ってしまった。
あの人は帰ってこないし、琉夜のせいで遅刻するわでイライラしていた私は、一応謝ってから保健室に行った。
部屋には瑞祈 綺(みずき あや)先生がいた。
「綺ちゃんおはよー 冷蔵庫のジュースもらうねー」
「あら、おはよう リンゴジュースでいいならどうぞ」
「え、みかんジュース無いの? ま、いっかリンゴでも…」
私は学校で授業はまともに受けない。気が向いた時にちょっと勉強しにいくだけで、大抵は保健室で楽しく過ごす。
先生と言うより友達感覚の綺ちゃんは、見た目は彼氏とかがいても可笑しくないくらい美人で綺麗で、私達生徒とそう大差はないくらい若く見える人だ。実際の歳はいくつか知らないが……。
性格は一言で言うなら面白い人。私達と同じようでとても明るい人だ。だが、物事の考え方や見方は少し違う。だからよく相談に乗ってもらっている。綺ちゃんは私にとって優しいお姉さんのような人だ。
私はそんな綺ちゃんと保健室の仕事をしたり、テレビを見てお菓子を食べながら世間話をしたりするのが大好きだ。
今からやることは健康観察簿の整理だ。これが結構大変で学校の授業の約1時間分使う。
「ねー緋那ちゃん梧兄の話だけどさー……」
「んー?」
あの人のことについての話はほとんどしない。だが、2人だけ、凪紗と綺ちゃんは例外でよく相談する。絶対的信頼がある二人だから……。
「知ってるでしょ」
「……はいっ?」
「いろいろと……」
綺ちゃんは私の心の中が読めるのか? と、聞きたくなった。綺ちゃんの言うとおりだった。私は全てを知っていた。
ではなぜ梧弟の琉夜には嘘をついたのか。答えは簡単だ。私はあいつの事が死ぬほど嫌いだからだ。例えあいつがこの世を去って、帰らぬ人になっても、これっぽっちも涙はでないだろう。むしろせいせいする。
私があいつのことをこんなに嫌っている理由。あの人の事を知っている理由などを説明するためには、約2年前に戻らなければならない……
時期は冬。私と凪紗と琉夜が中学3年生で、琉稀が高校1年生だった時。
冬のイベントといえばバレンタインだ。私は例年通り、どんなチョコを作ろうか、誰にあげようかなど考えていて、気分はウキウキ状態だった。
毎年、友チョコと世話チョコにか作ったことの無かった私だったが、この年は生まれて初めて本命チョコを作ったのだった。初めての本命チョコを渡した相手。つまり、初恋の相手は琉夜だった。
物心ついた頃からずっと一緒にいた。中学校にあがっても琉夜以外の男の人とはほとんど話さなかった。まとめると、小さい頃からずっと好きだった。
好きだと気づいてからは琉夜の顔をまともに見ることが出来なかった。きっとあいつは面白いぐらい私の気持ちが分かっていただろうと、思うぐらい以前と態度が違っていた。
バレンタイン前夜
今までの自分の態度とチョコの渡し方とか考えていたら、心臓がバクバク鳴っていてあまり眠れなかったのを覚えている。
当日
どうしようかと思いながら琉夜を眺めていた。一人になったところで渡そうと思ったが、なかなか一人になってくれなかった。
時間が過ぎるのは早くて、気づけば放課後だった。ここまで来たらあいつが帰るときにさっさと渡そう。そう思っていた。しかし、私の考えは甘かった。
「…………!」
本気で告白している人発見。凪紗が琉夜にだった。
「え……?」
引きつった笑顔しか出来ない。なんで? 凪紗が? 琉夜に?
その時の私にの頭には、ハテナしか並んでいなかった。しばらく話しているのを見ていると、凪紗が帰った。飛び切りの笑顔で、
「バイバイ!」
と、言って……。
「ねぇー琉夜は凪紗の……こ、ことが……す……きなの……?」
はっと気がつくと、私は琉夜に抱きついて、おかしくなっている声で言っていた。
「もしそうだったら? ……ってちょっ! おまっ! な……」
この琉夜の異常な態度で初めて、私は泣いていたという事に気がついた。
「はぁ……好きな人はいるけど凪紗じゃねー その子は今から俺にチョコを渡そうとしている子だ」
「グズッ……へ?」
「ん? お前俺にチョコくれねーの?」
「え……あ、げる」
涙をふいてバックからチョコを取って初告白。
「えっと……好きです」
目をぎゅっとつぶっていった。琉夜のことを見ることが出来なかったから。なんて言われるか恐かったから。
その瞬間、私が今までに感じたことの無い温かさがあった。それは、私を優しく包み込んでいた。急いで目を開けると、琉夜がいたずらっぽい笑みを浮かべて私を見ていた。そして、私の事を抱きしめていた。
「へ?」
「面白いな緋那」
今の状況がよく読めていなかった私に、琉夜はキスをした。初めてのキスは優しくて、温かい感じがした。
その後私達は付き合った。彼氏がいるってだけで、こんなに毎日が楽しいだなんて知らなかった。ちょっと話しただけで気分が舞い上がって、すごく楽しかった。
後から聞いた話だが、私と琉夜は両思いだったらしい。そして凪紗は琉夜の兄琉稀の事が好きだったらしい。
琉稀の探していたのだが、なかなか見つからなくて困っていたところに琉夜が現れ、弟の琉夜なら居場所がわかるかもと思い、相談した。しかし、琉夜は人の話を聞きながらニヤニヤと笑ってなかなか教えてくれなかった。段々赤くなっていく凪紗面白かったので適当に茶化しているところに私が二人を見た。明らかにショックを受けている私に琉夜は気づき、凪紗と楽しそうに話しているように見せながら居場所を教え、そのあと私に近づこうとしていたところに私が抱きついてしまったと……
その後凪紗は見事に琉稀に振られた。しかし、すぐに立ち直り春ごろには私達の知らない男を彼氏にしていたのだから驚いた。
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2009/03/02(Mon)17:26:07 公開 / 姫凪
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■作者からのメッセージ
初めまして。姫凪(きな)と申します。小説投稿は初めてという事で至らない点がいくつかあると思いますが、随時直していこうと思いますので。お付き合い頂ければ幸いです。
こんな感じで超初心者の姫凪ですが、最後まで頑張っていきたいと思いますのでよろしくお願いします。
また今後の参考、励みにもなりますので、不届きな点のご指摘、アドバイス、感想なども宜しければ残してくださるとありがたいです。