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『龍と憂鬱なオトメのパルティータ 【1〜7】』 作者:甘木 / リアル・現代 未分類
全角101458文字
容量202916 bytes
原稿用紙約302.4枚
題名に「龍」という言葉がありますが、この作品はファンタジーじゃありません。東京近郊にある高校に通う主人公が組むバンドの些細な出来事を描いた物語です。
 【T】Don't slip and fall




 この世の中に嫌なことは幾つもあるだろうが、俺の十六年間の経験から言わせてもらえば夏休み明けの登校初日というものは、世界中の嫌なことのベストテンに入るんじゃないかと思う。昨日まで好きな時間に起きて好きな格好でやりたいことを自由にできていたのに、たった一日違うだけで学ランという没個性の服を着せられ、高校という名の収容所じみた場所で半日も拘束される。こんな理不尽なことはないだろう。人権無視も甚だしい。
 だいたい一ヶ月もの期間をかけて朝は十時に起きるという生活リズムをつくったのに、急に変えられるわけがないだろう。その昔、日本が欧米を見習ってサマータイムを導入したとき、睡眠障害になったり体調を崩した人がたくさんでたそうだ。急激な変化というものは生命活動に支障をきたす怖れがあるのだ。だから俺は己の生命を慮って始業式が始まるまで少しでも睡眠を補完すべく机に突っ伏した。とたんに……、
「おはようミッキー。夏休みはどうだった?」
 いつもより大きいクラスメイトのざわめきの中から、脳天気な声が降ってきやがった。
 うるせぇな。この声は山田龍太か。龍太は俺のダチだ。だから登校してきて挨拶をするのは友人関係の維持とか、人間社会の通念としては至極当然な行為である。が、状況を考ろよ! 俺は眠いんだ。と言うか、寝ていることくらい見れば分かるだろう。たとえ親友のオマエでも睡眠の邪魔はさせねぇ。『親しき仲にも礼儀あり』だ。少しは気遣いというものを覚えろ!
「ミッキー。ミッキーってば」
「ミッキーって呼ぶなって言っているだろう。こんどミッキーと呼んだら生まれてきたことを後悔することになるぞ!」
 突っ伏したまま警句を優しく伝える。
「あ、ごめん。だったら改めて。おはようオトメ。夏休みはどうだった?」
 こ、このぉぉぉお! 嫌がることを解っていてワザとやってやがる。ヒトのコンプレックスを刺激しやがって。いくら温厚な俺でも怒るぞ。
「オトメ。頼みがあるんだ無視しないでよ」
 だから名字も呼ぶな!
 俺の名前は苧留造酒(おとめ・みき)と言う。音だけ聞けば女の名前と間違われることもあるが正真正銘の男である。というかこんな変な名前にするなよ! と声を大にして言いたいぜ。これもすべて親父が悪いんだ。親父は大の時代劇ファンで子供に時代劇の登場人物の名前をつけやがった。長男には『大菩薩峠』の主人公・机竜之介からとって竜之介、次男が『子連れ狼』の拝一刀から一刀、そして三男の俺は『天保水滸伝』の平手造酒の造酒だ。本当は眠狂四郎からとって狂四郎と付けようとしたらしいが母親や親族の猛反対にあって造酒にしたそうだ。いっそ狂四郎の方がよかったよ。
 この変な名前のせいでコンプレックスを持っている。自慢じゃないが俺は一八二センチの長身のうえに肩幅も広くってゴツイ体型をしている。身体がでかいと言うだけで圧迫感があるのに、ツラも体型にみあった迫力のある顔で、実の母親が『派出所に貼っている指名手配犯の方が造酒より柔和な表情しているわね』と評するほどだ(俺がどれだけ傷ついたと思っているんだよ)。このツラと体型のせいで中学校時代は地元のヤンキーどもとケンカ三昧だ。俺自身はケンカは嫌いだし痛い思いもしたくはないのだが、降りかかる火の粉をつっ立ったまま浴び続けるほど無抵抗主義でもない。やるとなれば徹底的に相手を叩きつぶす。いまのところ中学・高校と無敗記録を更新中だ。そんな俺のことを『血まみれミッキー』とか『鋼鉄のオトメ』などと呼ぶ不届きなヤツもいた──俺はアニメかマンガの登場人物か!──もちろん、そんなふざけた呼び方をしたヤツにはきっちり身体に言い聞かせてやったけどな。
 もっか俺の人生の目標は入り婿になって名字を変えることだ。鈴木や佐藤のような普通の名字に、いや、鸚鵡ヶ原とか鬱嶽とかみたいな難しい字の名前でもいい。とにかくこのオトメなんて恥ずかしい名字からおさらばするんだ。
「オトメってば頼むよ起きてよ」
「だぁぁぁあ! だから名前を呼ぶんじゃねえ」
 たとえ親友同士でも男は時に拳で語り合わなきゃいけないときがある。それが、まさにいまこの時のようだな。殴る!
「いい根性だ龍太。覚悟はできてるな、足を開け、腕を後ろに組んで歯を食いしばりやがれ…………へ? 誰だオマエ?」
 俺の握られた拳は行く先を失った。だって目の前には龍太の姿はなく、代わりにショートヘヤーの細身の女子生徒が立っているだけだったからだ。
 龍太はどこに逃げやがった? ぐるりと教室を見回す。俺を遠巻きにして囲むクラスメイトたちの中に龍太の顔はない。
「やっと起きてくれたね。って、うわぁ凄い眠そうな顔。夏休みの間、不健康な生活していたんだんじゃないの。だらしないなぁ」
 女子生徒は呆れたような声と共にヤレヤレとばかり首を振る。
「だからオマエ誰だ?」
「えっ? まだ気がつかないの?」
「あ? オマエなんて知らねぇよ」
「ミキって本当に鈍いね。だから女の子にもてないんだ。もう少し気配りをしないと一生右手が恋人ってことになっちゃうよ。世間の人からキング・オブ・マスターベーション、略してキング・オブ・マスターって後ろ指差されるよ。でも、キング・オブ・マスターならちょっとカッコイイかも。キング・オブ・マスターミッキーっていいんじゃない? 女いらずの右手の王ミッキーやキング・オブ・マスターオトメもいいかも。ミキはどれがいい?」
「テメェ、好き勝手に言いやがって。女だから殴られないと思っているんだろ。残念だな、俺が女を殴らなかったのは主義でも主張でもない。いままで俺を怒らせた女がいなかっただけだ。どこのどいつか知らないがオマエが名誉ある第一号だ。喜べ!」
 右足で踏みこむと渾身の力をこめて拳を突きだす。と言ってもさすがに女を殴るのは気が引ける。顔面すれすれを撃ち抜いてやればビビって生意気な口もふさがるだろう。
 と、女の顔が消えた。いや、消えたんじゃない。腰を落としてかわしやがった。
 拳が宙を切るのと同時に右足の膝内側に鋭い痛みが走り体勢が崩れる。身体が傾いた俺の首筋を狙って女がハイキックが振り下ろされる。これがマンガならパンチラと引き替えにノックアウトとなるのだろうが、身体が傾いた状態で女のスカートの中など見ることもできない。見返りも無しにノックアウトなんてごめんだ。左腕を犠牲に首筋を守り、女の足を弾くや床を転がって距離をとった。
 二〇センチはある身長差を内股へのローキックで相手を崩すことで解消し、さらに長期戦では圧倒的に不利になることを踏まえて一撃で決着をつけるべく的確に急所を狙ってくるセンス。できる、この女。
 でも、この連続攻撃どこかで見たような──痩せっぽちで身長も一六〇センチしかないくせに、俺のケンカに助っ人してくるお節介野郎。軽量級の自分の体型を知り尽くした一撃必殺を信条とした戦法。それは龍太が得意にするものだ──半歩程下げた左足に重心を移しすぐに動ける体勢を取っている女を改めて見た。
 猫みたいな大きな目。この状態でありながら口元には笑みを浮かべている。短髪の右耳の上が一房だけ白髪になっている。そういえば龍太にも一房白髪があった。なんでもガキの頃に頭をぶつけて以来、色素が抜けたのか白髪のままらしい。
 えっ?
「ひょっとしてオマエ龍太か?」
「ひょっとしなくても龍太だよ。見ればわかるだろう」
 龍太は臨戦態勢を解き腰に両手を当て溜息をつく。
 見ればって言うけど、女子の制服を着ているし、休み前までは髪をバック気味にしていたのに、今は前髪を下ろしておかっぱ頭の出来損ないみたいになっているんだわかるわけねぇだろう。
「なんで女子の制服を着ているんだ? オマエ……女装癖があったのか?」
 龍太と知り合ったのは高校入学からだからまだ五ヶ月にすぎないが、お互い妙にウマがあって結構つるんでいる。俺も龍太も部活は軽音部だからなおさらだ(ちなみに俺はドラムで龍太はギターだ)。さらにはケンカも一緒にしたし、龍太の家にも何度も遊びに行っている。だから他のヤツよりは龍太のことは知っているつもりだ。そして俺が知るかぎり夏休み前までは女装癖なんかなかったはず。
 夏休みが終わって真面目なヤツがヤンキーになったり、地味な女の子が派手になって登校するというのは聞いたことがあるけど、ヤンキーじゃないけどケンカ早いヤツが女装してくるなんて聞いたことないぞ。
 でも、もともと小柄で中性的な顔立ちだったし、手足も細くて長いから丈の短いスカートがよく似合っている。はっきり言ってそこいらの女子よりもかわいい。たぶんこれは俺だけじゃなくってみんなも同じ感想だと思う。その証拠に男子からは『似合っているぞ山田』とか『龍太、可愛いぜ』なんて声が聞こえるし、女子の中には羨望と嫉妬が混ざった視線で龍太を見ているヤツもいる。
「女装癖なんかないよ」
 龍太は苦笑いを浮かべる。
「だったらどうしてそんなカッコしているんだ? 変じゃねぇか」
「それなんだけど……」
 龍太の眉間にしわが寄り言葉が途切れる。
 と、同時に教室の前ドアが開き、クラス副担任のエミ子ちゃんが顔を出した。エミ子ちゃんは一昨年大学を卒業したばかりの新米先生で、先生と言うよりはちょっと年上のお姉さんという感じ。だから俺たちは親しみをこめてエミ子ちゃんと呼んでいる。
 エミ子ちゃんがどうしてここに? 先生たちは始業式の準備で忙しくって今日は朝のホームルームもないぐらいなのによ。
「山田、ここにいたのか探したぞ。おっ、苧留もきていたか。ちょうどよかった二人とも生徒指導室に来なさい」
「エミ子ちゃん、俺なにもやってないッスよ」
 夏休み中に他校の生徒とケンカしたのは一回だけだし、人気のない路地裏でやりやったから目撃者もないはず。だから生徒指導室に呼ばれるはずはない。もし龍太の女装に関して呼びつけられるとしたらお門違いだ。龍太は大阪のお祖父さんの体調が思わしくないと言うことで、夏休みが始まると同時に家族で大阪に行っちゃっていて休み中はまったく会っていない。久しぶりに会ってみれば女装して登校してきているんだ。俺だって驚いているんだよ。
 俺は釈明と懇願を視線に乗せて送る。
「いいから早く来なさい。時間がないの!」
 俺の気持ちは伝わらなかったのか、エミ子ちゃんは眉をつり上げて催促する。
「はい」
 龍太は素直にうなずき、
「何も言わずに付き合ってくれよ。ミキにも関係あることだからさ」
 そう言うと俺の背中を押す。
 俺に関係あること? 夏休み前に龍太と工業高校のヤツともめたことか? いや、それはないだろう。あいつらが恥というものを知っていれば、五対二のケンカで負けたのに学校にちくることはないだろう。だとすれば思い当たるフシはないぞ。
 わけが解らないまま教室から押し出される。背後からクラスメイトたちのどよめきが響くなか龍太に背中を押し続けられる。
 何がどうなっているんだ?




 *               *                *




 六畳ほどの狭い生徒指導室は先客で満員状態だった。そこには校長先生、教頭先生、担任の菊池先生、他の一年のクラス担任たち、養護教諭の松本先生、それに龍太のおふくろさんの美也さんまでいた。
 女装してきたことが校長が出てきたり、美也さんまで呼び付けられる程の大問題なのか? そりゃあ生徒が突然女装してくれば風紀的には問題だろうけど、他校の生徒とケンカしたとか、万引きなんかから比べれば罪(?)は軽いだろう。こりゃいくらなんでも大袈裟すぎないか? と言うか、俺は龍太の女装に関しては本当に無関係なんだよ。無罪なんだ早く解放してくれ。
 俺たちの顔を確認すると松本先生が前に進みでた。
「皆さん揃いましたね。初めて話を聞く方もいらっしゃいますから改めて説明します。ちょっと専門的な話にもなりますので座ってお聞き下さい」
 先生たちは着席したがイスが足りなかったので俺と龍太は立ったままだ。懲罰で立たされているみたいで居心地が悪い。なのに横にいる龍太は当事者のくせに平然としている。いや、これから何か楽しいことが起こることを知っているかのように浮ついた空気を纏わせている。
 松本先生は美也さんに向かってうなずき、コホンっと小さく咳払いする。
「一部の先生方にはお伝えしてありますが、一年二組の山田龍太君のことです。病院の精密検査によって山田君、いえ、山田さんは女性だということが解りました」
 女? 龍太が女? 『何言っているんだよ松本先生、冗談にしては面白くないよ』と突っこんでやりたい言葉だけど、松本先生をはじめここにいる先生たちも美也さんも真面目な顔で聞いている。マジに?
 な、ワケねぇよ! だって龍太とは一緒に風呂も入ったことあるけど、オッパイはなかったし、小さかったけどちゃんとチンポもついていたぞ。それに何度も連れションだってしたことがある。どこが女なんだ。
「……これは俗に半陰陽と呼ばれるもので正確には性発達障害における女性仮性半陰陽といいます。発生原因は確定していませんが、その一つに胎児期の男性ホルモン異常分泌というものが考えられます。染色体的には女性なのですが男性ホルモンを過剰に受けたため外見上は男性的に見えます。具体的には陰核が発達し外性器つまりペニスに見え、膣は塞がったままのことが多いので男の子に間違えられることが多いそうです。ですが一般女子よりは成長が遅いですが本来の女性生殖器も成長します。これはクラインフェルター症候群のような性染色体異常とは違うところです……」
 注目を集めたことが嬉しいのか、松本先生は専門用語を織り交ぜて滔々と説明している。
 つまり龍太は神様の悪戯によって女なのに男の身体で産まれてきたってことなのか?
 言われてみれば思い当たるふしは幾つかある。龍太の親父さんも兄貴たち二人も俺並みに背が高いのにコイツは背が低いし、男のくせに声は妙に高いし、スネ毛なんかも薄かった。ツラだって女っぽい。けど、急に本当は女だと言われても……。
「驚いた?」
 龍太が小声で話しかけてきた。その顔にはビックリしたろうとばかり、にやついた表情が浮かんでいる。
「あ、ああ……」
 どう答えていいのか解らず頷きながら声を漏らす。
「松本先生の話は本当なのか?」
「うん」
「信じられねぇ……」
「だろうねぇ。僕なんか医者から宣言された時には驚きを通り越して呆れたぐらいだよ」
 龍太は頭の後ろで両手を組みニィと笑う。
 龍太、ここは笑うシーンか?
「笑っていていいのかよ。メチャクチャ重大な問題だろ」
 つい声が大きくなってしまった。松本先生が睨みつけてくる。
「苧留君、静かにしなさい。では、話を続けます。このことが解ったのは七月のことで、山田さんとそのご家族や医師とも相談した結果、夏休み期間を利用して外性器を本来の性に合わせて整形するのと同時に戸籍の変更なども行われました。ですから山田さんは染色体上も戸籍上も正真正銘の女性ということです」
 外性器の整形って、つまりチンポを取っちゃったってことかよ……俺はキンタマが縮み上がるときのような言いようのない不快感を股間に感じていた。
「……就学期に半陰陽が分かった場合、整形手術をした後には当人を知る人がいない学校へと転校・編入し新たな人生を踏みだすことが多いと聞きます。ですが今回は山田さんの強い希望もあり性別だけを変更して引き続き当校で学園生活を送ることになりました」
 ここまで話したら満足したのか松本先生は下がり、代わりに担任の菊池先生が前にでてきた。
「山田君じゃなくって、山田さんからこのことを隠すのではなく全校生徒に対し自らの口で伝えたいという要望がありました。校長先生とも話し合った結果、山田さんの意思を尊重し始業式の後に時間を取り、ステージに上がって全校生徒の前で話してもらうことになりました。それじゃ山田、苧留、こっちに来い」
 菊池先生は手招きする。
「はい」
 龍太は躊躇なく前に進みでる。龍太の後を追って俺も前にでる。凄ぇ話しなのは解ったけど、どうして俺が呼ばれるんだ? 悪いけどこれは龍太個人の問題だろう。俺には関係ないじゃん。
「さてここからは山田さんに話してもらおうか」
 菊池先生はバトンを龍太に渡してしまうと、さっさと自分の席に戻ってしまった。先生たちの視線が俺たちに集まる。なんだか恥ずかしい。
「僕のわがままなのに始業式の後に時間をつくってくれてありがとうございます」
 龍太は先生たちに向かって一礼する。つられて俺も頭を下げた。
「さらには僕が説明する場に苧留君の同席まで認めてくれてありがとうございます」
 同席? 俺が?
「ちょっと待て! なんだそりゃ? 俺までステージに上がるのかよ」
 もう一度頭を下げようとしていた龍太の肩を掴んで俺の方を向かせる。
「うん。ミキも上がるんだよ」
「嫌だ。そんなの聞いてねぇし、俺は全然関係ないだろう」
「関係ないけどさぁ、さすがに僕も全校生徒の前で話すのは緊張するんだよ。でも、ミキが一緒にいてくれたら何とかなりそうな気がするんだ。だって僕たちケンカしても負け無しの最強のコンビだったじゃん」
 ケンカは関係ねぇ。と言うか今のケンカって言葉に教頭が反応したぞ。藪を突くんじゃねぇ。
「俺なんていなくても大丈夫だろう」
「頼むよ。ただ横にいてくれるだけでいいからさ」
 龍太は両手を合わせる。
「でもなぁ」
「苧留、親友の山田が頼んでいるんだから聞いてやれよ」
 エミ子ちゃんが近寄ってきて小声で俺に耳打ちする。
「苧留、オマエ夏休み中に今井田高校の生徒とケンカしたろう。それも二人も相手にしながら無傷で完膚無きに叩きのめしたそうじゃないか。さすがは鋼鉄のオトメと呼ばれるだけはあるな」
 えっ?
「知られていないつもりのようだけど、オマエの行動ぐらい私はちゃんと把握しているんだよ。でも、このことはまだ他の先生方は知らないけどね」
 何が言いたいんですかエミ子ちゃん……いや、エミ子先生。
「なんならここでケンカのことを議題にあげてもいいんだぞ。そうそう、苧留は知らないだろうから教えておいてやろう。教頭先生は今井田高校を卒業されているんだ。御自分の出身校の生徒がこてんぱんにやられたと聞いたら、さぞ驚かれるだろうな。驚きすぎてオマエを停学とか退学にするかもしれないなぁ。でも山田の頼みを聞いてくれれば私も余計な議題を提示しなくても済むのだけど」
 エミ子ちゃんは横目で教頭先生を見ながら意地の悪い笑みを浮かべる。
「どうする苧留?」
「やります……やらせてください」
 俺に選択肢なんてなかった。ちくしょう。すべての不満を抑えこんで敗北感と共に頭を下げた。
「校長先生、苧留君も快く承知してくれました。ですから予定通りというとで始業式の準備を進めましょう。時間も迫っていますし私は体育館に行きます。あぁ時間がない。準備どこまで進んでいたかしら?」
 エミ子ちゃんはひとりごちると慌ただしく生徒指導室を出て行く。倣うようにように他の先生たちも続く。




「山田と苧留はもう教室に戻っていいぞ。始業式の校内放送がかかるまでは教室で待っていなさい」
 最後まで残っていた菊池先生は俺たちに声をかけると、美也さんに一礼して出て行く。生徒指導室に残っているのは俺と龍太、それに美也さんだけになってしまった。
 なんなんだ? 言葉は頭に入ってきたけど理解が追いつかない。そのせいか視点がどうにも定まらない。知恵熱の前兆か? ガキの頃知恵熱を出した時もこんな感じだったよなぁ。そんなどうでもいいことを考えながら龍太と美也さんを見ていた。
 いままで神妙な表情で座っていた美也さんが立ち上がると、俺が龍太の家に遊びに行った時に見せてくれた柔らかい笑みを浮かべ、
「先生に囲まれるというのは幾つになっても嫌なものね。なんか肩が凝っちゃった」
 大きく背伸びする。
「苧留君、久しぶりね。元気にしていた?」
 重い空気を払うように明るい声で話しかけてきた。
「え? あ、はいっ。お久しぶりです。俺は元気にしてました」
 ぼーっとしていた俺は声をかけられ我に返る。
「ごめんねぇ朝からゴタゴタしちゃって」
 美也さんは明るく笑いながら両手を合わせて謝罪する真似をする。
「いえ、気にしないでいいッスよ。それにしてもこの度は龍太君が大変なことでご愁傷様です……」
 葬式の挨拶じゃねぇだろう。と、自分に突っこみを入れたくなるぜ。
「本当に大変だったわ」
 美也さんは眉間にしわを寄せて視線を落とす。
 まずい。聞いちゃいけない部分に触れたか?
「龍ちゃんが女の子だってわかってから新しい制服でしょう、普段着でしょう、下着でしょう。急に女の子になっちゃうから、もう出費が多くて大変。でも女の子はよそおい甲斐があるからいいわよぉ。祐理歌(ゆりか)ちゃんはファッションに興味なかったから、つまらなかったのよ」
 は? 問題は買い物だけですか?
 美也さんは俺を無視して龍太に「こんどの日曜日に秋物のスカートを買いに行きましょう」などと話しかけている。
 マジに買い物だけのようだ。問題は。
 ちなみに祐理歌とは龍太の姉ちゃんだ。非常に男らしい性格で武道全般に手を出してそれなりの成績を修めている。たぶん龍太の強さのルーツはこの姉ちゃんにあるんだろうなぁ。ただオシャレには興味がないようで、いつ会ってもジャージ姿。美人で締まった身体をしているから似合ってはいるけどさ。
「やっと長年の夢だった娘とのお洋服の買い物に行けるわ。楽しみ」
 美也さんはキラキラとした空気をまとわらせて握り拳をつくる。それと対照的に龍太はこの世の終わりのような情けない顔をして肩を落とした。
 三男とはいえ息子が女になったんだろう。もっと悩むべきところがあるんじゃ……。


 娘との楽しいお買い物という妄想に堪能しきった美也さんは、なにかを思い出したかのか「あっ」と小さく声を漏らした。
「そういえば龍ちゃん、苧留君には新しい名前を教えてあげた?」
 新しい名前? そうか、女になったんだから龍太じゃマズイよな。
「言ってない」
「だめよ。せっかくつけたんだから。これからの一生の名前なのよ。ちゃんとみんなに教えなきゃダメじゃない」
 美也さんはたしなめるように声の調子を落として言う。
「でもさぁ、今までずっと龍太で過ごしてきたのに急に変えられても僕が馴染まないよ。それに変な名前だし……」
「変な名前って龍ちゃんが自分で決めた名前じゃない。ねぇ苧留君聞いてよ龍ちゃんたらひどいのよ」
 美也さんは愚痴るように話しだす。
「女の子になったんだから可愛い名前を付けてあげようと色々考えたのよ。茉莉亜(マリア)とか絵美璃(エミリ)とか麗(ウララ)とかね。なのにどれも嫌だって突っぱねて……」
 それは龍太じゃなくても嫌がると思いますよ。ちょっと痛過ぎる。
「……結局、龍太の『太』を『子』に変えただけの龍子(りゅうこ)にしちゃったのよ。龍子なんて今どきの名前じゃないわよ」
「当たり前だろう。母さんたちがつけようとした名前はメチャクチャ恥ずかしいし、いまさら茉莉亜なんて呼ばれても反応できないよ。これでも最大限の譲歩をしたんだ。本当は龍子だって嫌なんだ。いままで通りの龍太で十分なんだよ」
 ブチブチと文句を言っている美也さんに語気強く言い放つ。
「たしかにマリアとかエミリは龍太のイメージじゃないな」
「ミキもそう思うだろう」
 我が意を得たりとばかり大きくうなずく。
「えーっ、龍ちゃんも苧留君もセンスないわね」
 美也さんはこめかみに手を当て首を振る。
 センスがないと言うけど、どう考えても俺たちの方がまともなセンスだろう。それに俺の中じゃ龍太は龍太であってそれ以外の名称はない。いや、それ以外は似合わない。たとえ信長や歳三のような男の名前でもだ。本当を言えば龍子と呼ばなきゃいけないことにも抵抗がある──本当に呼べるのか俺? 心の中で呼んでみようとしたけど『りゅう』までは出るが最後の『こ』が出てこない。
「ねぇミキ。戸籍上は龍子になっちゃったけど、これまで通り龍太って呼んでよ。クラスメイトにもそう頼むつもりさ。だって龍子って呼ばれたらお尻がこちょばくなっちゃうんだ」
 俺の気持ちを読んだかのように龍太が冗談めかした口調で「こんな感じでさ」と言ってスカートの尻の部分を掻く。
 あのなぁスカート穿いて尻掻くなよ。いちおうオマエも女の子だろう。
「その方が俺も呼び慣れているから助かる」
 龍太の申し出に素直に感謝した。やっぱ龍子なんて呼べないからな。
「と言うことで、母さん、学校では龍太で通すよ。あだ名みたいなものと思えばいいでしょう」
「そう……龍ちゃんがそうしたいなら私は止めないけど、龍太ってあだ名で通すのなら本名は麗とかでもよかったじゃない」
「嫌だよ。絶対お断り」
 未練が残る美也さんにとどめを刺す。
「しょうがないわね。もう諦めるわ。それにしても凄く男らしい苧留君がオトメのミキちゃんで、ウチの娘が龍太なんてあべこべ過ぎてある意味お似合いね。そうだ! 苧留君、ウチの龍ちゃんの彼氏にならない? 二人とも凄く仲が良いし、苧留君が真面目なコなのはおばさん知っているから安心して任せられるわ。胸はまだ小さいけどきっと美人になるわよ。どう悪くない話しでしょう?」
「母さん! バカなこと言ってないでさっさと帰れよ!」
 龍太は興奮のあまり顔を真っ赤にし、美也さんの手を引っ張って生徒指導室から出て行こうとする。
「はい。はい。引っ張らなくても帰るわよ。でもそんなに恥ずかしがることないじゃない」
「恥ずかしがっているんじゃなくって、あまりにもくだらない冗談だから呆れているんだよ!」
「苧留君、今の冗談じゃないわよ。おばさん本気なんだからね。でもいくら親公認でも二人ともまだ高校一年生なんだからエッチはまだダメよ」
 引きずられる美也さんが振り返り、俺に向かって悪戯っぽい表情でウィンクする。
「母さん! いい加減にしないと本気で怒るぞ! ミキ、先に教室に戻っていて。母さんを追い出してからすぐ僕も戻るから。それといまの話しはまだみんなにはしないでおいて」
 あっという間に美也さんの姿が廊下の先に消える。
 龍太とエッチ?
 美也さん、すみません。期待には添えそうにありません。俺、赤マムシドリンクをリットルで飲んでも龍太相手じゃ勃ちそうにないです。そこまで人間ができてないです。
 美也さんが消えた方向に向かって頭を下げた。




 *               *               *




「……これで始業式を終わります」
 生徒たちのざわめきが体育館内に広がる。始業式が終われば二コマ分のロングホームルームがあるだけで本日の授業は終わり。午前中で帰れるのだ。苦行とも言える三〇分も立ちっぱなしの始業式が終われば開放感に包まれ騒がしくなるのは道理。俺もあの中にいれば誰かとバカ話でもしていたろう。
「続きまして全校生徒の皆さんに特別なお知らせがあります。引き続き静かにお聞き下さい」
 予定外の放送部員のアナウンスに不審の声があがる。
 その声を聞きながら俺と龍太はステージを進み中央に置かれた演台に立った。皆の視線が一斉に集まってくるのが皮膚を通して伝わってくる。視線って物理的圧力があることを体感できたぜ。全生徒を敵に回したような孤立感とでも言えばいいのだろうか、言いようのない圧迫感に足元から嫌な震えが這い上がってくる。これならば五、六人相手に一人でケンカする方がずっと気分的には楽だ。付き添いだけの俺でさえこんな気分になるんだ、この場の主役である龍太はもっとキツイだろうなぁ。
 横目で龍太の様子を盗み見ると、いつもの人懐こい笑顔は消え、口を真一文字に締めて少しばかり顔も青ざめている。ケンカの時でさえにやついている男なのになぁ……さすがに今回ばかりは勝手が違うようだ。マイクを前にして固まっている。
『ステージにいるのは誰だ?』
『男の方は一年二組のオトメだろう。でもあの子は見たことないなぁ』
『ねぇねぇ、あの女の子、一年二組の山田龍太に似てない』
『言われてみれば……ぜったい山田君本人だよ。でもどうして女子の制服?』
 俺と龍太が突然ステージに上がっていれば誰だって不審がるよな。ましてや龍太は女子の制服着てるし、これから何が起こるか気にかかるさ。俺だって知りたいぐらいだ。
 くい、くい。
 学ランの袖が引っ張られた。見れば龍太が強ばった顔で俺の袖をつまんでいる。
「や、ヤバイよ。緊張しすぎて声が出ない……ミキ、僕を一発殴ってよ」
 そして震える声で懇願してきた。
 龍太の気持ちはわかる。渇を入れて欲しいんだろう。わかるがさすがに衆人環視の前で女を殴ればどんな悪評が立つやら。
 しょうがない。
 壇上に置かれたマイクを掴み大きく息を吸った。
「注目! みんなに質問だ。ここにいる女の子は誰だ?」
 俺の問いかけに一瞬静まり。そのあと『一年の山田だろう』『龍太だ!』『女じゃない』と答えが返ってきた。
「オーケー。みんな解っているようだな。そう、ここにいるのは山田龍太だ。では次の質問だ。山田龍太がどうして女子の制服を着ていると思う? 正解者には龍太との一日デートの権利をプレゼントだ」
 女子を中心に嬌声があがる。ま、龍太は顔が良いから女子に人気があるからな。だけど女子の声に混ざって野郎の野太い声もあったような気もするが……気にしたら負けだな。
「さあ、龍太とデートしたいヤツはいるか?」
 すぐに体育館のあちこちから答えが返ってくる。
『女装に目覚めたから』
『なにかの罰ゲーム』
『学校への反抗』
『軽音部のパフォーマンス』
 色々と思いつくもんだなぁ。
『オトメが脅して着させている』
『オトメ君が恫喝して嫌がる龍太君に着させた』
『オトメが腕力にものを言わせて有無を言わせず着せたから』
『女の子にもてないオトメ君がデート気分を味わいたいという願望充足のため、山田君に無理矢理女子の制服を着せたから』
「ちょっと待て! どうしてここで俺の名前が出てくるんだ! それも妙なストーリーまで作りやがって。俺に彼女がいなくて悪かったな。くそっ、オマエらの声は覚えたぞ。いつか見つけだしてぶん殴ってやる! 首を洗って待っていろよ!」
『そんなに怒るということ図星か?』
『オトメ君かわいそう』
『もてないのは罪じゃないぞ。気を落とすな』
 憤慨する俺に対し幾つものヤジと笑い声が上がる。すぐ傍からも。
 龍太も声を出して笑っていやがった。いったい誰のために俺が笑われていると思っているんだ。
 殺意の籠もった俺の視線に気付いたのか、龍太は笑うのをやめ片手で謝る仕草をする。
「ありがとうミキ。なんだか気分が楽になった」
 そう言うと俺に代わってマイクの前に立ち、いつもの笑顔で話しだす。
「皆さん、独創的な回答ありがとうございます。でも残念ながら正解はなしです。では正解をお答えしましょう……」
 もう俺の役目は終わりだろう。俺が目立っていてもしょうがない。ゆっくり後ろに下がった。
「突然ですけど僕、女になっちゃいました。と言うか元々女だったらしいんですけど……」
 半陰陽のこと、手術のこと、戸籍のこと──さっき聞いた話を、龍太は解りやすい言葉で時たまギャグも入れながら説明する。悲壮感とか重苦しさとはまったく無縁の話しぶりに生徒たちの間からは笑い声も洩れてくる。
 俺には龍太の本当の気持ちは解らない。でも、女になってしまったことは変わりようのない事実だし、それを真正面から受け止め、さらには全校生徒に告白する勇気に龍太らしさを感じていた。龍太はどんなに不利なケンカでも決して逃げないで挑んでいた。コイツはいつも前だけを見つめているんだ。今回のことだって最後には自分の力で勝ちを掴み取るだろうさ。
「……以上がこの夏休みに僕の身に起こった出来事です。驚いたでしょう。僕なんか驚きすぎてぼーっとしている間にチンポは取られちゃうし、もう踏んだり蹴ったりの夏休みでした」
 笑い声や幾つもの話し声が体育館に充満する。
「ところで、」
 龍太は一度言葉を切ると、握り拳をつくり喝でも入れるかのように自分の太股を叩いた。
「男子の皆さん、特に一年生の皆さんに心からのお願いがあります」
 龍太は急に真面目な口調になる。今までとは違う雰囲気に体育館に集まった生徒たちも何かを感じたらしくざわめきが消えた。
「いままで通り男子トイレを使わせてください! お願いします!!」
 いま何言った?
「僕、女なっちゃいましたど夏休み前までの十五年間ずっと男として暮らしてきたんです。これからは女子トイレを使えと言われても、とても恥ずかしくて入れません。女子トイレに入るぐらいならグラウンドの隅で立ちションベン。と言いたいんですけど、それももうできませんし、さすがに女の子が屋外でするのはマズイでしょう。だからこれからも男子トイレを使わせてください」
 龍太が頭を下げるのと同時に、『エッチ!』とか『冗談じゃない!』とか一斉にヤジが返ってくる。
「そんなに気にしなくたっていいじゃん。男のアレなんて自分のを含めて見慣れてきてるし、僕が見てきた限りみんなたいしたモノなんて持ってないじゃん」
 元のくだけた口調に戻った龍太に向かって『いまは状況が違うだろう!』『俺は巨根だ!』『変態!』『スケベ!』と一年生男子を中心に集中砲火。だが、龍太にひるむそぶりはない。それどころか口の端に笑みを浮かべる。
 龍太は俺の腕を掴んで横に並ばせる。そして、
「この件についての意見・反論・要望・苦情・申し立てはすべてこちらにいるミキに一任してあります。何か言いたいことがあれば根性を決めて申し出てください。でも、その後に何があっても僕は責任は取りませんけど」
 いかにも美少女って笑顔を浮かべ小首をかしげる。
 一瞬、体育館の中を静寂が通り抜けた。
『オトメ相手にやりあうバカがいるのか』
『まだ死にたくない』
『言えるわけないだろう』
『くそっ! オトメの野郎、山田の肩もちやがって』
『オトメめ……』
 怨嗟成分濃いめのひそひそ声が体育館のあちらこちらから聞こえてくる。そのほとんどが俺の方に向かっている。
 ま、待て。俺は無実だ、無関係だ。苦情係なんて初耳なんだぜ、本当なんだから信じてくれ。俺だって女子の制服を着たヤツがトイレに入ってきたら恥ずかしいんだ。
「それと戸籍上の名前は山田龍子になりましたが、いままで通り山田龍太と呼んでくれてかまいません。ということで今後ともこの山田龍太こと山田龍子をよろしくお願いします。これで僕の報告を終わります。ご静聴ありがとうございました」
 俺に弁明の機会を与えず龍太は一方的に終わりを告げる。
「なに呆けているんだよ。もう終わり。早く教室に戻ろう」
 龍太は俺の背中に軽いパンチを当てる。
「ああ……」
 理不尽な疲労感で重い足を動かしながら、照明が落ちたステージを下りた。




 *               *               *




 ステージから下りると先生たちから山のような小言をもらった。そりゃ全校生徒の前で殴ってやるだの言えば文句も言われるよな。小言地獄から解放された時には、すべての生徒は教室に戻っていた。
「ああ、やっとトイレに行けるよ。緊張しすぎてさっきからオシッコしたかったのに先生たちに捕まっちゃって、もう限界。教室に戻る前にトイレに寄っていこうよ」
「ああ、いいぜ。俺も行きたかったからな」
 激しい尿意がさっきから膀胱を刺激していたから迷うことなく同意した。
 …………
 ……………………
「待て! オマエと一緒にか?」
「うん」
 龍太はなに言っているのって表情で見上げてくる。
「オマエ、女になったんだろう。女と一緒に連れションなんてできるか!」
「だからさっきも言ったじゃん。女子トイレになんて入れないよ。でもさぁ、さすがにこの格好で男子トイレに一人で入るのも恥ずかしいんだよ。だから付き合ってよ」
「嫌だ!」
「いいじゃん。一緒といっても僕は個室なんだし、並んでするわけじゃないんだから恥ずかしがることないじゃん」
 だから生々しいことを言うな。余計に恥ずかしい。
「どうだろうと嫌だ。男子トイレに行きたいのなら来客用のトイレにでも行けばいいだろう。あそこなら生徒は使わないから恥ずかしくないだろう」
「来客用トイレは遠いよ。それに生徒の使用は禁止じゃん。見つかったら僕が怒られるよ」
「だったら一人で男子トイレに行くか、覚悟を決めて女子トイレに入ってくれ」
「そんなぁ、冷たいなぁ……だったらしょうがない」
 龍太は立ち止まると、俺を見上げて嫌な笑いを浮かべる。
「夏休み前にミキに六万円貸したよね。確か夏休み中にバイトして返すって約束だったよね。そう言えば、まだ返してもらっていないんだけど。どうなったの?」
 うっ! 忘れていて欲しかった。
 夏休み前、俺は楽器屋でdw社製の中古スネアドラムと出会ってしまった。dwと言えばそれなりに値段の高い商品が多く、欲しくても普通の高校生には簡単に手を出せない。なのに中古とは言え状態のいいやつがなんと六万二千八百円の大特価で出ていたのだ。新品で買えば二十万円は超えるものだ。
 欲しい。夏休みにバイトをすれば何とかなるかも。でものんびりとバイトしているヒマはないだろう。こんな掘り出し物は見つけたらすぐ買わないと速攻で売れちまうだろう。だが俺は見事なまでに金欠状態だった。かといって親や兄貴たちに借金を頼んでも無下に断られるのは火を見るより明らか。そこで龍太に泣きついた。夏休みにバイトして、夏休み明け初日には必ず返すからと言って。
「ええとぉ、返そうと思ってバイトを探したりしたんだけど、なかなか割のいいバイトが無くってさ。それに俺テストの成績が悪くて休み中に補習もあったし……」
「で、返せるの? どうなの?」
 妙に冷たい声で龍太は問いつめてくる。
「…………すみません。もう少し待ってください」
「ねぇミキ。世の中ではお金を借りれば利息が付いたり、支払いが遅れれば延滞損害金というものがついてくるんだよ。利息制限法じゃ個人間の金銭貸借の場合、十万円以下だと年利二〇パーセントまでは許されるんだ。つまりミキが僕から借りた六万円には最高で一万二千円の年利をかけられるし、延滞損害金も付加できるんだよ。両方の金利と元金を合わせると一年間で八万円以上になるんだよ。知っていた?」
 闇金かオマエは! と言う言葉を飲みこんで「知りませんでした」と首を振る。
「僕だってミキとの友人関係にヒビは入れたくないから利息なんか取りたくないけど、親しき仲にも礼節有りとも言うし、たとえ親兄弟の間でも金銭問題だけは別物。ちゃんとしておかないと禍根を残すとも言うからね」
 正論過ぎて返す言葉がなかった。
「ま、僕もミキが貧乏なことは知っているから元金をすぐに返せとは言わないし、延滞損害金も要求するつもりもないよ。でも、利息だけはちゃんと貰いたいんだよね」
「利息って一万二千円か?」
 一万二千円。いまの俺には天文学的な金額だ。夏休みに色々遊んだせいで完璧に金欠。小遣いの前借りもしちゃったし、兄貴たちにも金を借りている。現状じゃ百円単位で窮しているのだ。利息なんてとても払えない。
「利息はさぁ現金じゃなくてもいいんだよ。利息に見合う分の労働奉仕でもいいよ」
「労働奉仕? 何をさせるつもりだ?」
「わかっているでしょう」
 龍太は意味ありげにウインクする。
「もちろん連れションだよ」


「わぁぁぁ!」
「ば、バカ野郎!」
 事前に言ってあったとはいえ、一年の男子トイレはケブラー繊維を編みこんだ防弾チョッキを引き裂くような悲鳴に包まれた。
 慌ててチャックを引き上げて飛びだしていくヤツ、オシッコを途中で止めて股間を押さえながら出て行くヤツ。
「覚えてろよオトメ!」
「本当に連れてくるんじゃねぇよ!」
 なぜだか恨み言はすべて俺に向けられている。俺のせいじゃないだろう。恨むのなら龍太を恨んでくれ。なんか今日だけで一年男子の大半を敵に回したんじゃないか。利息としては高くついたような気がする。
「ねえミキ、僕らの貸し切り状態だよ」
 誰もいなくなったトイレの真ん中で腰に手を当てた龍太がぐるりと室内を見わたす。
「小便器かぁ、もう使えなくなっちゃったなぁ……男の時は何も感じなかったけど、女の子になって便利さがわかったよ。オシッコに関しては男の方が断然楽だよ。立ってオシッコしていた頃が懐かしいな」
「そりゃ残念だったな」
 龍太にも想いは色々あるだろうけど、俺としては教室に戻ったあと浴びせられるであろうクラスメイトからの罵詈雑言の方が重大問題だ。木元のヤツなんか真っ赤な顔をして飛び出していったもんなぁ。絶対文句を言われる。
 くそっ! 龍太が女になってからロクな目に遭わないぜ。ひょっとして龍太は女にセックスチェンジしたんじゃなくって、疫病神とか祟り神にジョブチェンジしたんじゃねぇのか。
「感傷に浸っている場合じゃないや。オシッコ、オシッコ」
 龍太は個室のドアに手を掛ける。だがドアを開けることなく動きを止める。
「ねえミキ。まさかとは思うけどさぁ、僕が個室に入ったとたん逃げるってことはないよね? それにミキもオシッコしたかったんだから当然いまここでするよね?」
 冷たい声で尋ねてくる。
 その問いかけに俺の心臓は一瞬凍る。だってモロ図星。龍太が個室に入りしだい速攻でここを逃げ出し、二年のトイレでションベンしようと思っていたのだ。
「な、何でそんなことを言う」
 自分の声が強ばることを押さえつけられない。
「ん? もし僕がミキの立場だったら逃げるだろうなぁ、って思ってさ。でも、逃げたり、オシッコを我慢してしたら約束不履行ってことで、こんどこそ延滞損害金もつけるからね。もちろんミキは敵前逃亡のような真似をする人じゃないから、男らしくここでするよね」
 龍太は急に優しい声に変わる。でも、最後の『ね』の部分だけはやたらと力が入っていて、逃げたらどうなるかわかるよなと暗に言っていた。
「もうマジに限界。ああ漏れちゃう、漏れちゃう」
 切羽詰まった声と共にこんどこそ龍太は個室に入った。
 ここでしなきゃいけないのか……俺は誰もいなくなったトイレで大きく息を吐いた。
 膀胱が圧力限界点に近付き、盛んに尿意を誇示している。いまから二年のトイレに行くのは肉体的に不可能だ。もう選択の余地はない。俺は覚悟を決めて小便器に向かう。
 後ろの方からガサガサと衣擦れのような音が聞こえる。いつもなら何も気にならないのに、いまだけは一音一音が神経に障る。理由の分からない緊張に尿道が収斂する。もの凄くションベンがしたいはずなのに出てこない。出したくても出ない痛みが下半身に走る。
 無心だ。無心になるんだ俺! いまの俺がすることはションベンただ一つだけ。無心の境地でションベンをするのだ! 俺は全神経を膀胱に向けた。頼む早く出てきてくれ……。


 下半身に巣くっていた尿意から解放され、生物としての根元的な快楽に身を委ねていたら、
「あーっ、トイレットペーパーが切れてる。やばっ、ティッシュ持ってくるのも忘れた。ミキーっ、トイレットペーパーちょうだい!」
 個室から男の夢も妄想も打ち砕く声が飛んできた。
「女になって何が不便かっていえばオシッコした後いちいち拭かなきゃいけないことだよ。ああ、本当に面倒だなぁ。やっぱ男はいいよ……ミキ、トイレットペーパーまだぁ」
 聞きたくない。聞きたくない。聞きたくない。
 俺は生まれてからこのかた女の子と付き合ったことがない。だからこそ厨二病と言われようが女の子に夢を見ていたかった。レースとフリルと砂糖で作られた妄想に浸っていたかった。なのに……
 夏休み明けの登校初日。女の子に対する夢がひとつ消えた。




 【U】Girl least likely to




 龍太が女の子になったことに対する混乱と喧噪と好奇と驚愕、男子の大半からの俺への苦情と哀訴と詰問に終始した混乱だらけのロングホームルームが終わるや、俺と龍太は逃げるように教室を飛び出した。本当は帰ってしまうのが一番いいのだろうが、部活があるからそうもいかない。しかし部活が始まる午後一時過ぎまで教室にいれば他のクラスのヤジ馬も集まって混乱に拍車がかかるのは必至。かといってこのまま軽音部の部室に行っても好奇心に駆られたヒマ人が押し寄せるのは間違いない。ここはヒマ人どもが帰宅するまでエミ子ちゃんにかくまってもらうことにした。
 エミ子ちゃんが用意してくれた場所は応接間だった。さすがに好奇心いっぱいのヒマ人どもも職員室の奥にあるここまでは手が出せない。俺たちはエミ子ちゃんが買ってきてくれたパンを食いながら部活が始まるギリギリまで時間を潰した。
 エミ子ちゃんは会議があると言って応接間には俺と龍太の二人きり。お互い話すべきことが色々あるはずなのに、不思議なことに普通の話ししかしなかった──最近見つけた面白いバンドのこと、龍太が見た路上ライブのこと、dwのスネアドラムのこと──夏休み前と全然変わらない話題ばっかり。でも故意に女になった話題を避けていたわけじゃない。龍太の顔を見ていたら女子の制服を着ていることも、本当は女だったことも忘れて、今まで通りの男友達の感覚に戻ってしまった。龍太も同じなのか、夏休み前と同じ表情で、話しぶりで、仕草で、他愛のない話題に花を咲かせる。




 俺たちが応接間を出たのは午後一時を三十分ほど過ぎた時間。もう一般生徒の姿はほとんどない。ヒマ人は空腹に負け諦めて帰ってしまったようだ。クラブ棟となった旧校舎も普段と変わらない様相を呈している。軽音部部室となっている旧音楽室に向かう途中で、偶然に部室から出てきたヤツが好奇の目で龍太を見ることはあったが、俺が一緒にいるせいだろうか声をかけることもない。
「文化祭じゃ何曲ぐらい演奏するのかな」
 文化祭の話しをしていたら、龍太が表情を曇らせ廊下の真ん中で立ち止まる。
「休み中に部長に会った時は四曲演奏するって言っていたぜ。オリジナル二曲にコピーが二曲だって」
「四曲かぁ、今から練習して間に合うかな」
「大丈夫だろう。まだ一ヶ月あるし、オリジナル曲はどっちも一分半ぐらいの短い曲を予定しているらしいぜ。コピーの方だって俺が聞いたかぎりギターは難しい感じはしなかったぞ。だいいち龍太はサイドギターなんだから気が楽じゃん」
「そうだけど。夏休み中、全然ギターに触ってないからさぁ」
 そういえば手術で休みがほとんど潰れたんだったな。病気やケガってわけじゃないから弾こうと思えば弾けるだろうけどさ、さすがに病室でギターを弾くわけにはいかないもんなぁ。
「いざとなったら部長たちがなんとかしてくれるだろう」
「そうかもね」
 龍太は少し歪な笑みを浮かべてうなずく。
「ほんと先輩たちは凄いもんなぁ。凄すぎてさぁ、下手くそな僕なんかが軽音部にいていいのかなと思うことがあるよ」
 龍太の言葉は俺も前から感じていたことだ。先輩たちのテクニックはマジにレベルが高くていつも感心させられる。と、同時に自分の技量の無さに嫌悪を覚えるんだけどな。
 軽音部部員は六人だ。俺と龍太が一年生で残りは皆二年生という構成になっている。部長の純鈎十歌(じゅんこう・とうか)先輩は弦、鍵盤、打楽器を無難にこなすマルチプレーヤー。副部長の髭右近元春(ひげうこん・もとはる)先輩はギターがメチャクチャ上手い。特に早弾きさせたらまさに目にも止まらぬスピードで弾く。会計の三枝由綺南(さえぐさ・ゆきな)先輩は小柄でポヤポヤっとしたお嬢様みたいな人なのにベースを弾かせるとパワフルな音を紡ぎだす。それともう一人PA担当の嘴藤雄大(はしふじ・ゆうだい)と言う先輩がいるらしいが、放送部とかコンピューター部も兼部していて会ったことはない。でも十歌部長の話だと音響テクは高校生離れしているらしい。
「同感だ。俺なんかがドラムをやっているより十歌部長が叩いた方が絶対上手いぜ」
「だよねぇ……」
「そう思うだろう」
「僕だって髭右近先輩の足元にも及ばないしさぁ」
「あの人はすごすぎるからな……」
 お互い顔を見合わせ、同時に深い息を吐きだした。
「なんだか部活に行くのが憂鬱になってきたよ」
「俺も忙しくてコピー曲の練習あんまりしてないから気が重い」
 夏休み中にコピー曲の譜面は渡されていたけど、補習だとか遊びとか色々あってほとんど練習してない。このまま部活に行ったら部長たちに何を言われるかわからない。
「部室に行く前にジュースでも飲んで覚悟を決めてから行かない」
「賛成だ。本当ならジュースじゃなくってアルコールでも飲みたいところだけどな」
「未成年のくせになにを言うかなぁ学校にアルコールがあるわけないじゃん。でも自販機のピーチドリンクZを一気飲みしたら酔うんじゃない。僕はピーチドリンクZを飲んだことないけど、死ぬほど甘いって噂だよ。砂糖も一種の麻薬だから過剰摂取でハイになれるかもよ」
 購買部の横にある三台の自販機の一番端、三列に並んだ商品見本の一番左端にあるピーチドリンクZのショッキングピンク色をした缶を思いだしていた。どんなに暑い日でも売り切れることはない謎のジュースピーチドリンクZ。過去にチャレンジャーたちが挑んだけど、みんな一口飲んでギブアップしたという。我が校の最終兵器とまことしやかに言われているあのジュースなら酔えるかも。その前に急性高血糖症で救急車で運ばれる気もするけど。
 とにかく購買部に行こう。しかし失敗したなぁ。ここから購買部じゃまったく正反対じゃん。ここまで来て、また新校舎に戻ってジュース買って、さらにまたまたここまで来なきゃいけないとは……しゃあない。とにかくジュースだ。もちろんピーチドリンクZは飲まないけどさ。


 廊下を戻ろうとした時、尻を思いっきり蹴られた。
「痛っ! なにしやがる!」
「何と問われれば、私がこの美しい足で君のでかい臀部を蹴り上げた。と答えよう」
 即座にアルト声の答えが返ってきた。振り返るとそこには、一七〇センチはあろう長身の女性が腕を組んでにらんでいる。自ら美しいと言うように女性の足は細くて長い。
「さて私は正直に答えたぞ、ではこんどは私の質問に答えてもらおう。部活が始まっているのに、諸君らはどこに行くつもりだ? 部活をサボるつもりかね?」
 ちょっときつめの整った顔。綺麗と言うより凛としていると言う方が似合う。一重の切れ長の目を細め、すっと伸びた鼻梁の上にしわを寄せて苛立つ様は猫科の肉食獣のように見える。背中まで伸びるロングヘヤーが威嚇する猫の尻尾のように、いまにも膨らみだしそうだ。胸の下で腕を組んでいるせいで、ただでさえ豊満なバストがさらに強調され、思わず視線がそこに行きそうになる。が、全身から立ちのぼらせる威圧感がそれを許してくれない。
 そこには、いつもはすべてを冗談で済ませて笑っている我らが軽音部の暴君──もとい、純鈎十歌部長が不機嫌さを露わにしていた。
「十歌部長、違いますよ。俺たちはジュースでも買ってこようかなと思って……決してサボる気なんてありません」
「もう部活が始まっているのに、ジュースとはずいぶんと暢気なことだな。私は今朝の事柄で諸君らがヤジ馬に囲まれて身動き取れず、部室に来たくても来られない状況にでもなっているんじゃないかと心配してワザワザ来てみればこのザマか。私の後輩への指導が未熟だったのか、それとも諸君らの音楽への情熱はジュースに負けるほど小さいものだったのか。なんにしても嘆かわしいことだ」
 十歌部長はわざとらしく溜息をつく。
「い、いや、俺たちはジュースを買ったらすぐに部室に行くつもりだったんです。な、龍太」
「う、うん」
 龍太は壊れたオモチャのように何度もうなずく。
「諸君らは知らないだろうが、ヤマダ君が女性だということが分かってから、我が軽音部は激震に襲われているのだぞ」
 腕を組んだままの十歌部長は眉間を寄せて俺たちをにらんでくる。よく見れば疲れのような表情が顔に浮かんでいる。俺たちが隠れている間、ヤジ馬どもが部室に押しかけたんだろうか。いままでどんなに急がしくっても俺たちの前で疲れた顔を見せたことがない十歌部長が、こんな表情を浮かべるぐらいだからよほど酷い状況だったのか。やばいなぁ……。
「僕たちがいない間にヤジ馬が押しかけてきたんですか?」
 俺が聞きたかったことを龍太が代弁してくれた。
「詳しいことは部室で話す。こんな所でグズグズしてないでさっさと部室に来たまえ」
 十歌部長は答えず、俺と龍太の腕を掴むと有無を言わせず大股で歩きだした。




「やあ、ミキ君、リュウ君、お久しぶり。元気にしてた?」
 部室に入るや優しい声が出迎えてくれた。ベースをつま弾いていた由綺南先輩は片手を上げて挨拶してくれる。
「リュウ君は大変な夏休みだったみたいだね。始業式の話を聞いて腰が抜けるかと思うほどびっくりしたよ」
 由綺南先輩は両手を広げ大きな目をさらに大きくして大げさに驚いてみせる。ウエーブのかかった髪が揺れぽやんとした空気を振りまく。童顔ってこともあって子供じみた仕草に違和感がない。
「うーん、大変というか、目まぐるしすぎて、わけが分からないうちに夏休みが終わっちゃった気分です」
「そうかもねぇ。驚きが大きすぎると実感する前に物事が進んじゃうもんね。でも、こっちも凄く目まぐるしかったのよ。さっきまでバタバタしてたんだから。そうよねぇ十歌ちゃん」
 ニコニコとした表情のまま由綺南先輩は十歌部長を見る。
「やっぱりヤジ馬がここまで来ましたか?」
 俺はヤジ馬に囲まれてオロオロする由綺南先輩の姿を思い浮かべていた。
「うん。ヤジ馬はいっぱい来たけど、十歌ちゃんがベースを振り回して追っ払っちゃた。まるでセックスピストルズのシド・ヴィシャスみたいで格好良かったわよ」
「えっ、十歌部長が……振り回したベースってまさか由綺南先輩のスティングレイじゃないですよね?」
 由綺南先輩はミュージックマン社のスティングレイというベースを使っている。有名なミュージシャンも使っている名器だ。その分値段も高い。俺が知るかぎり新品だと二十五万円以上する。ましてや由綺南先輩のスティングレイは由綺南先輩の親父さんから譲り受けた一九七〇年代に製造した初期ヴィンテージ物。オークションとかに出せば凄い値段になるだろう。
「あははは。まさか。スティングレイを振り回したら、先に私が十歌ちゃんをどつくわよ」
 由綺南先輩は笑いながら冗談めいた口調で言うけど、目が全然笑っていないッス。
 俺は以前十歌部長に『この学校を無事に卒業したかったら由綺南だけは怒らすなよ』と忠告されたことを思いだしていた。由綺南先輩を怒らすと怖いらしい。さすがに肉体的な報復はないけど、相手を精神的に追いつめるらしい。噂だけど由綺南先輩の着替えを盗撮した野郎の家にクール宅急便でガーゼに包まれた内臓が届いたり、すべての教室の黒板に盗撮野郎の名前と住所と家電と携帯の番号とメアドが書かれて、さらに大きく『盗撮のご依頼なら是非私に』と書かれていたりしたらしい。
 いくら十歌部長だってそこまで命知らずじゃないよなぁ。
「十歌ちゃんが武器にしたのはあれよ。シドベースよ」
 由綺南先輩は部室の隅に置かれているフェンダー製のプレジョンベースを指差す。
 ネックが反ってペグがバカになっていてピックガードはひび割れてボディには無数の傷があるボロボロのベース。軽音部の備品なのか昔の先輩が捨てていったのか、俺が入部した時から置いてある。シド・ヴィシャスが持っていてもおかしくないパンク魂を具現化したような一品──俺たちはシドベースと呼んでいるんだ。
 これなら納得だ。
 でも、十歌部長は基本的にどんなことでも笑って済ませてしまうタイプなのに、ベースを振り回すなんて何があったんだ?
「十歌部長がそこまでするなんて珍しいですね」
「うん。その前に大変なことがあったから、十歌ちゃんも苛ついていたんだと思うよ」
「なにがあったんすか」
 俺の質問に、由綺南先輩は部の問題だから十歌ちゃんに話してもらった方がいいでしょう、と言って十歌部長にうなずきかける。


「諸君らに非常に残念なことを伝えなければならない。諸君らが来る前に髭右近が退部届けを出した」
 眉間に深いしわを寄せた十歌部長が顔の前で一枚の紙をブラブラさせる。
「えっ! 髭右近先輩が辞めた? マジ?」
 十歌部長は無言で首を縦にふる。
「どうして? あんなにギターも歌も上手かったのに。バンドはどうなっちゃうんですか?」
 髭右近先輩は軽音部バンドのリードギターでもありメインボーカルでもあった。来月の文化祭での演奏も髭右近先輩が中心になるはずだったのだ。いまさっきだってそのことを話していたばっかりなのに。
「ヤマダ君、髭右近が辞めた原因は君にあるのだよ」
 怒りとも諦めともつかない不思議な表情を浮かべた十歌部長は目を細めて龍太を指差す。
「僕が?」
「そう、ヤマダ君、君のせいだ」
 キョトンとする龍太にキッパリと言い放つ。
 龍太がどうして? 夏休み前までは同じギター同士仲が良かったし、夏休み中はこっちにいなかったんだからケンカなんてするはずもない。
「原因は君が女の子になってしまったからだ」
「は!」
「い?」
 俺と龍太の声がシンクロする。
「髭右近が私に述べた退部理由を忠実に諸君らに聞かせよう。髭右近が言うには『俺は男の山田が好きだったんだ。あの顔も、あの胸も、あの腕も、あの指も、あの背中も、あの尻も、あの足もすべて心の底から愛していたのに。なのに突然女になってしまうなんて。男をたぶらかし惑わすことしか能がない女に、雌に、ビッチになってしまうなんて……裏切りだ。背任行為だ! 嗚呼、俺の心は裏切った山田への憎しみと、なのにまだ残る愛おしさで気が狂いそうだ。このまま山田の顔を見ながら部活なんてとてもできない。女子の制服を着た山田なんて見たくもない。俺は心の中に焼き付けた山田のあの学ラン姿の凛々しさを想いながら生きていく』とのことだ。さらに付け加えるなら、退部宣言の後には男という生き物の美しさと、女の醜さを滔々と述べ、さらにはゆくゆくはヤマダ君と閨の中でどんなことをしたかったかを熱く語っていったがね」
 十歌部長は話し終わると同時に大きな溜息をつく。
「なんすかそれ? つまり髭右近先輩はホモってことですか?」
「ホモセクシュアル、ゲイ、同性愛者、男色家。呼び方は自由だが、とにかく髭右近は男のヤマダ君が好きだったようだ。端的に言えば肉体関係を持ちたがっていたようだ」
「ひっ!」
 龍太は小さく体を震わせると真っ青な顔をして両手で自分の身体を抱きしめたまま固まった。
「髭右近が男性にしか興味がないことは薄々感じていたが、あそこまで思い詰めていたとは思わなかったよ。迂闊だった。個人的には男性同士の閨房術というものに興味があったから少々残念と思う気持ちがあることも事実だがね」
 苦笑いを浮かべて十歌部長は肩をすくめる。
「髭右近先輩が龍太と……」
 そう言われてみれば思い当たるふしがないわけじゃない。
 髭右近先輩は男の俺から見てもいい男だし、背も高いし、スタイルも良いし、ギターもメチャクチャ上手いのに彼女がいるって話を聞いたことがない。これだけ好条件が揃っていれば普通は女の子なんか選り取り見取りだろう。事実、部室まで差し入れとか持ってくる女の子もいたけど、髭右近先輩は素っ気なく断っていた。それに演奏中に髭右近先輩が龍太に寄り添うようなシーンがしばしばあった。プロのバンドでもボーカルとギターが絡むシーンは多いけど、それはステージでの演出みたいなものだろう。なのに髭右近先輩は部活の練習でも絡んできていた。龍太の手を取ってコードを教えていることもあったな。これまではノリがよく、面倒見のいい先輩と思っていたけど、まさかそんな下心があったなんて……俺、ドラムでよかったぁ。
「僕、今日まで女になって得したって感じたことなかったけど、いま初めて女の子になってよかったと思っているよ」
 龍太は心の底からの安堵の表情を浮かべる。
「そりゃあ、よかったな」
「た、たぶん……」
 なんとも名状しがたい複雑な顔つきで龍太は俺に向かって弱々しくうなずく。


「諸君ら的にはめでたく大団円を迎えているようだが、我が軽音部的にはなんにも問題は解決していないのだぞ。とりあえずの問題は来月に迫った文化祭。メインボーカルとリードギターが抜けた穴をどう埋めるかだ。なんのかんの言っても髭右近は音楽の才能はあったから、この穴は大きいぞ」
 眉間に指を当て目をつむる十歌部長の背後には『苦悩』って文字が浮かび上がっているように思えた。
 軽音部にとって文化祭は重要な部活の発表の場。あと一ヶ月ほどしかないのにメインパートが二つもいなくなったのだから問題は深刻だ。
 俺には問題を打開する妙案なんて全然ない。龍太や由綺南先輩も同様なようで黙って十歌部長を見つめている。
「演奏曲目の変更もしなければならないが、まずは担当パートの見直しが最優先事項だと思うが、諸君らはこれに異存はあるかね?」
 目を開けた十歌部長は一人一人の顔を確認するみたいにゆっくりを首を動かす。
「そうねぇ、抜けたパートの補填をしないとどうにもならないわよねぇ。でも、私もミキ君もリュウ君も自分の楽器以外は弾けないわよ。そうなればボーカルは十歌ちゃん以外いないじゃない」
 その通りだ。俺はドラムしか叩けない。そりゃあ遊びでギターを触ったことはあるけど、ちゃんと一曲弾けるわけじゃない。それどころかコードだって三つぐらいしか知らない。「担当楽器的に見ればそう言う結論になるだろう。だがそれはあくまで楽器的に見た場合だけであって、楽器を演奏する者の技量を考慮していない。そうだろう?」
 十歌部長の言葉に皆の視線が龍太に集まる。
 そうだった。髭右近先輩は高校生離れしたテクの持ち主でどんな難しい曲でも弾きこなし、あまつさえギターを弾きながら歌も歌っていた。かたや龍太は高校に入学してからギターを始めた割には上手いけど、髭右近先輩とは比べようがない。
「ヤマダ君。君を責めているわけではないよ。君が入部以来めきめきと腕を上げてきていることは、この私が保証しよう。ただ、在校生たちは春のオリエンテーションで聞いた髭右近のギターをまだ覚えているだけに、皆はそのレベルを求めるだろう。そうなると君に不利であると言いたいだけなのだ。それに私のボーカルにだって問題がある。この声の低さだ。私ではどうしても高音域になると声が掠れてしまう。サビの部分で声が出ていなくては、どんなに良い演奏でも興醒めだ。ま、私がキンキン声で可愛らしく歌えたとしたら、それはそれでギャップがありすぎて気持ち悪いだろうがな」
 しゅんとしている龍太を励ますためだろう、十歌部長は明るい声でおどけた風に言う。
 大人っぽい十歌部長にはこの声が似合っている。キンキン声でアニソンとか歌いだしたら……地獄絵図だな。俺は脳裏を浸食するフリフリ衣装を着てキンキン声で歌う十歌部長の姿を追い出すべく頭を振る。
「そこで提案があるのだが」
 十歌部長は言葉を止め、わざとらしく髪をかき上げる。
「公明正大にオーディションをしてボーカルを決めたいと思う。人間どんな才能が隠されているか分からないからな。ひょっとしたらゾーシュ君にだってボーカルの才能があるかもしれない。それを見逃しては軽音部としての損失だから」
「ちょ、ちょっと待ってください。俺、ボーカルなんて無理ですよ。歌ヘタだし、なによりドラムを叩きながらどうやってボーカルをとるんです」
 自分にボーカルの才能がないことぐらいは知っている。と言うか、俺はオンチなんだよ! それは十歌部長も知っているはずだろう。
「なに、ゾーシュ君がボーカルに決まった場合は私がドラムを叩くから心配しなくていい。他のパートも同様だ。いちおうどんな楽器でも代役はこなせるつもりだ」
 十歌部長はニヤリと笑う。
 たしかに十歌部長はドラムを叩けるし俺より上手いと思うけどさ。でも十歌部長がゾーシュと──十歌部長は俺がオトメと呼ばれるのを嫌っていることを知ってから、造酒を訓読みしてこう読んでいる──俺の名前を呼ぶたびに邪気が籠もっているような感じがするんだけど。
「オーディションの方法は各自自分が得意な歌をアカペラで一曲歌ってもらう。それと皆同じ課題曲を演奏しながら一曲歌ってもらう。この二曲を聞いて全員で判断したいと思う。課題曲は中学校時代に音楽の授業でやっているだろうからビートルズあたりでいいかな。ちなみに私の楽器はギターにさせてもらう。では、ゾーシュ君、君から始めたまえ」
 軽音部の暴君は俺にマイクを押しつけると「でかい図体をしているのだから、パワフルな歌を期待しているぞ」と言って機材のセットを始めた。由綺南先輩は「ミキ君の歌、初めて聞くよ。楽しみ」と言いながらパチパチと拍手してくれる。俺がオンチなことを知っている龍太は笑いを堪える準備なのか大きく息を吸ってグッと口を閉じた。
 くっそう! もうどうなっても知らないぞ。
 俺はマイクのスイッチをオンにした。




 オーディションの結果はと言うと……。
 俺はアカペラ、演奏しながらの両方で大爆笑をとった。十歌部長からは「真面目にやってこれだけ笑いをとれるなんて……ゾーシュ君、君は天才だ。いますぐコミックバンドにいきたまえ」と言われ、由綺南先輩からは「ミキ君一生懸命でカワイイかったよ。歌も個性的だったしね」と褒め言葉なのか貶し言葉なのか分からないコメントをもらい、龍太からは「あははははミキ最高〜っ。オンチ過ぎるにもほどがあるよ。あはははははは。もうやめて。お腹痛い、助けて」と哀願された。
 十歌部長は無難と言えば無難だった。自分で言っていた通り高音域でやや声が掠れたけど、演奏しながらでもちゃんと歌えていた。
 由綺南先輩はある意味天才だった。声はよく通るし音も綺麗。だけどアカペラだろうが演奏しながらだろうがドンドン勝手にアレンジしちゃう。元歌の面影なんてゼロ。それも一番と二番じゃアレンジがまったく違う。ここまでアレンジできるのは才能だと思うけど、とても一緒に演奏なんてできない。だってどうアレンジされるのかまったく予想もつかないんだぜ。
 龍太は上手かった。元々男にしては声が高かったし、それなりに身体を鍛えているから高音域でも声が伸びる。音の震えなんかもない。ただ、ギターを演奏しながらになると途端にギターがもたつき、ギターに専念すると声が出ていなかった。
「諸君らの実力はこれでよく分かった。とりあえず文化祭はボーカルはヤマダ君、ギターは私、ベースは由綺南、ドラムはゾーシュ君を基本形にしようと思う。曲によってはボーカルギターが私で、ヤマダ君にはサイドギターをしてもらうこともあると思うが。これは部長としての命令なので異論は認めない。明後日までに演奏曲とその楽譜は用意する。あと一ヶ月しか練習期間はないが頑張って軽音部の実力を在校生すべてに見せつけてやろうではないか」
 十歌部長の宣言のもと、新生軽音部バンドは船出した。
 熱血マンガの主人公のように背後に真っ赤なオーラを燃やす十歌部長を見ながら、俺は嵐が来なきゃいいけど……なんて考えていた。




 【V】One step beyond




 昔は人の噂も七十五日間も保ったが、情報化の進んだ現代においては情報の鮮度は一週間も保たないようだ。
 初めのうちは休み時間になれば龍太の女装を──いや、本当は正装なんだけど、龍太自体が「女装って面倒だよ」なんて言っているからな──見に来るヤツもいたが、日を経るにつれ数も減り、週末までには夏休み前と変わらない平穏な日々に戻っていた。
 わずかな変化を除いて。
 わずかな変化って何かって? そのひとつは龍太のトイレ問題さ。
 始業式の月曜日から龍太は男子トイレを使っていたのだが、一年の男子生徒全員と二年生と三年生男子の三分の二以上が『山田龍太の男子トイレ使用禁止願い。及び、山田龍太の来客用トイレの使用許可に関する嘆願』に署名した。署名どころじゃない血判まで押すヤツまでいた。もちろん俺もその一人だ。男子生徒の魂からの哀願が先生たちの胸を打ったようで、木曜日には龍太の来客用トイレの使用が認められた。龍太は「どうして僕だけ差別されるんだよ。来客用トイレは遠いから往復だけで休み時間が終わっちゃう。だから今まで通り生徒用の男子トイレを使わせて」と、ぶつくさ言ったが、クラスの男子全員が口を揃えて即座に猛反対した。
 女と連れションに行くのがどれだけ精神的なプレッシャーか分かるか? 龍太に無理矢理一緒にトイレに連れて行かれるたびに、トイレにいた男子からは俺でさえびびる怨嗟の視線を投げかけられるし、いざ便器に向かっても緊張で出るものも出ない。このままじゃ腎盂炎とか膀胱炎になる日も遠くないとマジに心配していたんだ。これで俺にも平穏なトイレライフが戻ってきたぜ。
 わずかな変化のもうひとつは体育の授業。
 男子女子の両方から懸念されていた龍太の着替えは体育準備室ですることになった。着替え問題は解決したが、体育の授業自体は男子と一緒にすることになった。これは龍太が望んだわけじゃなくって純粋に体力的な問題だった。女子と一緒に運動するには元男(?)の龍太は体力がありすぎる。女子の体育の先生が他生徒が怪我することを恐れた結果だ。いままで通り男子の方で授業を受けられることに龍太は喜んでいたが、俺としては少々複雑な気分だった。だって、なにを考えているのか龍太のヤツは女子の体操着を着てきたんだぜ。男子と色違いの赤い縁取りがされた半袖のシャツに下は太股の中程までの黒のスパッツ。
 体育の授業じゃ始めに二人一組で準備運動をする。クラスの男子どもは体育の先生が来る前に勝手に二人一組のコンビをつくっちゃって、残されたのは俺と龍太だけ──体格差がありすぎてやりづらいから代わってくれと頼んでもみんな知らんぷり。なんだか女子を相手に準備体操をしている感じで居心地が悪い。
「なあ龍太、せめてジャージを着てくれよ」
 と、俺が懇願したら、
「ミキは幸せ者だね。体操着姿の女子高生をこんな近くで見られるんだから」
 ニヤニヤしながら、こううそぶきやがった。
 なにが女子高生だ! 一月前まで男だったヤツが言っても説得力がないんだよ。と言うか、絶対に俺をからかうために女子の体操着を着てるだろう。
「ね、ミキ。ブルマの方がよかった? ブルマがいいなら次の体育の授業までに手に入れておくよ」
「うるせぇ!」
 こんなに体育の時間が長く感じられたことはなかったよ。


 ま、いくつかの問題はまだ残ってはいるが、おおむね平穏に戻ったわけだ。




 *               *               *




「しかし、男性器を切ってしまうとはずいぶん思いきったものだ。いまさら言っても詮無きことだとは思うが、よく手術をする決心をしたな。私だったら現状維持を選択していたと思うのだが、どうして手術をしたのだね?」
 十歌部長は部室のテーブルの上であぐらをかき、イスに座る龍太の顔を覗きこむように上半身を傾ける。
「十歌ちゃん、そんなことを聞いたら悪いわよ。リュウ君だって色々あったんだから言いたくないこともあるでしょうしね」
 十歌部長の後ろにあるイス座った由綺南先輩がたしなめるように言う。
「でも、気になるではないか。この学校にこれだけの経験をした生徒はいないのだから、後学のためにも知っておきたいと言うのは人の情だ。それに知識や情報は共有してこそ価値が出てくるのだぞ。今のままではヤマダ君の苦労も苦悩も知られることなく死蔵されてしまう。それは稀有な経験をした意味の喪失にも繋がる。ここは、心を鬼にしてでも聞きだすことこそが軽音部の結束をより堅固なものになるためのきっかけになるとは思わないかね」
 十歌部長は身体をねじって由綺南先輩に顔を向け、未練がましく正当性を、いや詭弁を滔々と述べる。
 あのぉ十歌部長。あぐらをかいたまま身体を捻るとスカートがまくれるんですけど。ただでさえ丈が短いんだから……って、いまなんか水色のものが見えたような見えなかったような。男がいる前であぐらをかくのはやめて欲しいような、もっと見えて欲しいような。あっ、また水色が。
 龍太の横、つまり十歌部長の正面に座った俺は、視線の置き場所に困って顔を下に向けた。いくら下を向いてもまぶたに焼きついた鮮やかな水色が消えてくれないけど。
 なんでこんなことになっているんだろう。なんて想いが脳裏を過ぎったが、思い返してみれば俺が原因だから文句も言えない。
 初めはちゃんと文化祭に向けた曲の練習をしていたのだ。だが、どうも俺だけ音がずれる。何回か弾き直しても上手くいかない。結局、十歌部長が「音が合わない時はいくらやってもダメなんだ。だから今日はこれでお終いにしよう」と宣言して、部活はだべりタイムに入ってしまった。
「でも、やっぱり無理矢理聞きだすのはよくないことよ。十歌ちゃんだって他人に知られたくないことのひとつぐらいあるでしょう」
「む」
 口をへの字にした十歌部長は腕を組んで黙ってしまう。
「ほら、十歌ちゃんにも言えないことがあったでしょう。だから他人が隠していることを聞くことはマナー違反よ」
 しょうがないわねって顔をした由綺南先輩が、難しい顔をして黙ったままの十歌部長に優しく言う。
「いや。私はいま、自分に他人に知られたくないものがあったか考えていたのだ。だが、どう考えてみても隠すべき事柄がないのだよ。その情報が外部に漏れると己の地位や生命が脅かされる政府の高官だとかスパイならともかく、しょせん十六、七年しか生きていない学生風情に隠し通す必要がある重大な秘密があるはずがないではないか。だから私は尋ねられればなんでも答えるつもりだ。スリーサイズだろうが、テストの結果だろうが、昨日の晩ご飯になにを食べかだろうが覚えているかぎりすべてだ。諸君らもそうではないのかね?」
 十歌部長は不思議そうな表情でみんなを見返してくる。
 由綺南先輩は呆れたように小さく口を開けたまま十歌部長を見ている。龍太も似たような表情だ。で、俺は……いい機会だから十歌部長のスリーサイズを聞いちゃおうか。なんて不埒な想いが脳裏を過ぎったが理性で押さえつけた。ああ、俺ってなんて空気を読めるヤツなんだろう。
「はははは。やっぱり純鈎先輩は凄いや」
 呆れる空気を破ったのは龍太の笑い声だった。
「僕もなんでも答えますよ。別に恥ずかしいことじゃないし、僕が女の子になっちゃって、そのために手術をしたのも事実だから。変に気を使われるより、純鈎先輩のようにストレートに聞いてくれた方が僕も気が楽です。だから遠慮せずに聞いて下さい」
 龍太はいつもの笑みを浮かべて答える。
「では改めて尋ねよう。どうして手術に踏み切ったのかね?」
「僕が夏休み前の終業式を休んだのを覚えています? 実はあの日の朝、お腹が凄く痛くて救急車で病院に運ばれていたんです。終業式の一週間前ぐらいからお腹がずっと痛かったんだけど、まさか倒れるまでひどくなっていたなんてビックリですよ」
 龍太は両手を広げてオーバーアクションで驚きを表現する。
 おい、そんなにけろっと言っていいのか。救急車だと? そんな話は初めて聞いたぞ。でも、思いだしてみれば龍太は期末テストが終わってからずっと腹の調子が悪いって言っていたな。
「で、病院で痛みの原因を調べてみたら、なんと原因は生理でした。どうやら初潮を迎えていたようなんです」
 龍太は頬をぽりぽり掻きながらにゃはははと笑う。
 は? 生理? 初潮? なんだそりゃ。
「精密検査したら僕のお腹の中には卵巣も子宮も膣もあるんだけど、膣の途中で塞がっていたんですよ。こういうのは女性仮性半陰陽に多いらしいんですけどね。要するに生理になって血が出ているのに出口が塞がっているから血は溜まるいっぽう。で、それがお腹の中で腐っちゃって救急車です」
「それはさぞ痛かったろう」
 十歌部長が顔をしかめる。
 腹の中で血が腐るって。おい、おい、そりゃあグロすぎるぜ。想像したら気持ちが悪くなってきた。
「すぐに膣を開通させて血膿を抜き出したから腹痛は治ったんです。でも、問題が……」
 龍太は言葉を探すようにちょっと首をかしげる。
「医者が言うには僕は十五歳にしてやっと成長期を迎えたらしいんです。だからこれから生理も定期的に訪れるだろうし、胸も膨らむし、身体も丸味をおびていくらしいです」
「生理か。私の場合は初潮は十一歳の時だったが、一般的に言えば十五歳ぐらいまでが許容範囲らしいから、ほんの少し奥手というところだな。気にすることもないだろう。ただ初めのうちは生理は不順になりやすいから、いつ来てもいいように生理用具はいつも持ち歩いた方がいいぞ」
 あのぉ、十歌部長……女性にとって生理は当たり前なことかもしれないけど、ここに野郎がいるんですよ。もう少し言葉にオブラートかけて欲しいんですけど。
「そう言うことで遅まきなが僕の身体も女っぽくなるらしいんですけど、そうなるとオッパイがあって女っぽい身体なのに男性器があるのはおかしいですよね。それに僕の男性器は見せかけだけで男性機能を持っていないし、その逆に女性器は正常に発達するだろうって医者が言っていました。たぶん妊娠もできるだろうって。それで身体をちゃんと本来の性に合わせることにしたんです」
 龍太の顔から微笑が消え、真面目な口調で語った。と思ったら、次に瞬間には口の中に苦味でも広がったかのようにしかめっ面になり、
「はっきり言えば僕自身は現状維持でいいと思っていたんですけど、親が男とも女ともつかない中途半端はよくないって強硬に主張するんです。母さんにいたっちゃ『オチンチンのある娘なんて嫌よ』なんて言ってるし、医者も『女性器が順調に発達するだろうから、男性のフリを続けるのは難しくなると思うよ』って言って、初めから僕には選択肢がない状態ですよ。僕に迷う時間を与えないためか夏休みになった途端に半強制的に入院アンド手術の怒濤のコンボ。始業式の日の言葉じゃないけどワケ分からないまま、気がついたら女になっていたって感じです。感慨もクソもありませんよ」
 呆れるような声で答える。
「ほう、なかなか直裁的に表現する母上だ。それはおいて、なんにしろ妊娠できるとはよかったじゃないか。やはり女として生まれた以上、妊娠出産は人生の醍醐味のひとつだからな。それに毎度毎度律儀に生理だけ来られて妊娠もできないでは割が合わないからな。いやぁ、めでたい」
 十歌部長は妙な感心をしている。
 由綺南先輩も「本当に女の子なのね。よかったわね」と言って喜んでいる。
 俺も何か祝福の言葉を述べるべきかとも思ったが、どうもこの手の話しは男が軽々しく口にしちゃいけないような気がして黙っていることにした。
「でも僕の身体って、女性ホルモンをほとんど受けないまま骨格なんかもうほとんどできあがっちゃったから、他の女性と比べて骨盤が小さいんです。医者が言っていたけど妊娠しても帝王切開にならざる得ないって。帝王切開って腹切るんですよ。切腹みたいじゃないですか。怖いなぁ」
「そんな先のことを悩み恐れる必要はないだろう。帝王出産で子供を産む女性は多いし、それは実際に妊娠した時に考えればいいのだよ。それともヤマダ君は近々妊娠する予定でもあるのかな? まさかもう妊娠しているとか?」
「ありませんよ! あるわけないでしょう! どこをどうしたらそんな発想が出てくるんです!!」
 龍太はテーブルを叩いて声を荒げる。
「おや、そんなにムキになって否定しなくてもいいではないか。ひょっとして図星だからムキになっているのではないかな」
 ニヤニヤ顔の十歌部長は龍太を一瞥し、身を反らすようにして振り返り、
「なあ由綺南、我々は十七年も女をやっているのに妊娠の予定もない。なのに一ヶ月前に女になったばかりのヤマダ君には御予定があるようだ。これは我々が女スキルでヤマダ君に負けているということではないかね。これは女として、人生の先輩として、ゆゆしき問題だ。ここは、いますぐ生殖行為に励んで、ヤマダ君より先に妊娠して鼻を明かしてやろうではないか。と言うことで由綺南、部活はいいから男漁りに行ってきたまえ」
「十歌ちゃん、なにバカなこと言っているの。妄言もいい加減にやめないと、段ボール箱いっぱいに生きたフナムシを詰めて自宅に送りつけるわよ。なんならフナムシ一匹一匹の背中に十歌ちゃんの名前を書いてあげましょうか」
「す、すまん。いまのはすべて他愛のない戯れ言だ。水に流してくれると嬉しいのだが」
 十歌部長は慌てて正座して頭を下げる。
「わかってるわよ。もちろん私のも冗談よ。十歌ちゃんにそんなことするわけないじゃない。十歌ちゃんがこれ以上バカなことを言わなければね」
 冗談と言いながら、由綺南先輩の顔が真顔なんですけど。噂って……本当だったんすね。生きたフナムシはきついな。ていうか、フナムシ一匹一匹に名前を書くことの方が怖いんですけど。
 この人だけは絶対に怒らせないようにしよう。
「重々理解しているから、フナムシは勘弁してくれたまえ」
 十歌部長はテーブルに額を擦りつけんばかり頭を下げる。




「ところでゾーシュ君」
 フナムシ宅急便をなんとか許してもらった十歌部長は、何かを思い出したように俺に向き直る。
「君はさっきから視線を泳がせたり、急にうつむいたりと挙動が不審なのだが、どうかしたのかね? 具合が悪いのなら保健室に連れて行くが?」
「い、いえ。なんともないです。俺、いたって健康です」
「そんなことはないだろう。顔は紅潮しているし、汗もかいている」
 十歌部長は足を組み替えて身を寄せてくる。
 だから足を動かさないで。水色が……。
「ほら、また顔が赤くなった。本当にどうしたのかね?」
 そんな真剣な目で見られても、世の中には答えられることと、答えられないことがあるんす。
「そうか、ゾーシュ君は私の問いに答えるつもりはないと言うことなのだな。それは私に不満があるからかな? たしかに私は色々な欠点を持った人間である。そのせいで他人に不快な思いや迷惑をかけていることも多いと思う。だが、私は到らないところを指摘をしてもらえれば素直にそれを直すつもりだ。だからその理由を述べてくれたまえ。私のギター演奏が原因かね? 部長としての私の資質かね?」
 十歌部長は眉根を寄せ、いまにも俺に覆い被さってきそうな勢いで顔を寄せてくる。なまじ整った顔だから、心配そうな表情が深刻さをともなって変に迫力がある。
「ぶ、部長に不満なんてないッス」
「だったらなぜ答えてくれないのだ」
 片方の膝を立て状態をさらに傾けようとする。
 ああ、水色がモロに……。
「ほら、また目を背けた。本当のことを言ってくれたまえ」
 くそぉ、もうどうにでもなれ!
「部長が足を動かすたびに下着が見えるんです! それが恥ずかしいんですよ!!」
「下着? パンツのことかね?」
 十歌部長はキョトンとした表情になる。
「パンツがどうしたというのかね。よほど特殊な趣味の持ち主でもないかぎり老若男女ともパンツぐらい穿くだろう」
「そ、そうですけど」
 ここで女性としての慎みというのを十歌部長に説くべきかとも思ったが、俺がひとこと言ったら十数倍の反論が返ってきそうだ。どう考えても口で勝てる見こみがない。かといって体力で勝負を持ちこむわけにもいかないし……。
「それともこのパンツが似合っていないから見るに耐えないということかね」
 そこまではっきり見てないですって。
「ひょっとしてこのパンツそのものに興味があるのかな。これと同じパンツが欲しいとか売っているところを知りたいという自身の好奇心に羞恥を感じているのかな。だったら君がどのような趣味を持っていようと恥じることはないぞ。私は他人に危害や迷惑をかけないかぎりどんな趣味でも容認するつもりだ。では、君の好奇に答えてあげよう。このパンツは駅向こうのランジェリーショップで買ったものだ。一枚五百円ながら国産レースを使っているお買い得商品だぞ。ゾーシュ君が場所を知りたいというなら連れて行ってもかまわないが」
「結構です! 俺には女装趣味ないし、女性下着にも興味ありません!」
「だったら……」
「十歌ちゃん、ミキ君をからかうのはそのへんにしときなさいよ。ミキ君が困っているわよ」
 十歌部長の言葉を遮るように由綺南先輩が会話に混ざってくる。
 助かったぁ。由綺南先輩感謝です。
「それにしても原価百円もしないこんな布切れに一喜一憂するとは、男とはなんと難儀な生き物なんだろうね」
 十歌部長はニヤニヤしながらスカートの裾をぴらりとめくる。
「やめて下さい!」
 純情な高校生の純真さを弄ぶ悪魔め。
「パンツと言えば、ヤマダ君。君は下着はどうしているのかね。男物を穿いているのかな?」
 何を言い出すかなこの人は。
「僕のパンツですか? 女物ですよ」
 龍太はさらっと答える。
 だから龍太、オマエも素直に答えるなよ。ほら、また十歌部長が獲物を前にしたネコみたいな顔になったぞ。部長があの表情をしたらロクなことを言い出さないんだからよ。
「ほう」
 顎に手をやった十歌部長は感心したような声を漏らす。
「ま、女性が女性物の下着をつけるのは当たり前とはいえ、十五年間男として暮らしてきたのに急に女物の下着をつけることに逡巡とかためらいとかなかったかね」
「違和感ありまくりですよ。でも、母さんがいままでの下着を全部処分しちゃったから……代わりに母さんが買ってきたパンツはピンクだとかライムグリーンの派手なヤツばっかで、穿くたびに自分が女装趣味の変態になった気分ですよ。ははははははぁーっ」
 龍太は乾いた笑いと同時に、世にも情けない表情で溜息をつく。
「大変だったんだなぁ。でも龍太なら派手な下着が似合うんじゃねぇの。男の時だって派手な柄のトランクス穿いていたし、それが似合っていたからさ」
 我ながら慰めなんだか勇気づけなんだか分からない言葉が出てくる。
「本当にそう思う?」
「思う、思う」
 思ってないけどさ。
「本当に?」
「本当に本当だ」
 しつこいなぁ。
「なんか適当に答えてない?」
「そんなことはないって」
「ふーん」
 龍太はジト目でおれを見たと思ったら急に立ち上がり、
「だったら本当に似合っているかどうか、ミキに見てもらおうか」
 スカートに手をかけた。
「ば、ばか。やめろ!」
「だって似合うって言ったじゃん」
 俺が抑えるスカートの裾を龍太はなおもめくり上げようとする。
「なんだか凄い状況ね。でも、リュウ君もいい加減にしないとだめじゃない。女の子なんだから恥じらいは大切よ。じゃないと十歌ちゃんみたいになっちゃうわよ」
 由綺南先輩は十歌部長を指差して、そうなっても知らないわよとばかり肩をすくめる。
「えっ、純鈎先輩みたいに……」
 スカートを掴む龍太の手から力が抜けていくのが分かった。
「私みたいとはどういう意味だね。由綺南の言葉には少なからず侮蔑のニュアンスが籠もっていた気がするのだが」
 十歌部長は腕を組んだまま振り返る。
「気のせいよ。部室が暑すぎて幻聴を聞いたんじゃない」
 由綺南先輩は横を向いたまま素っ気なく答える。
「幻聴か……確かにこの暑さじゃ幻聴が聞こえても不思議ではないな。今日の部活はもうやめにしよう」
 十歌部長は練習の時に使うタオルでゴシゴシと汗を拭き、ふーっと大きく息を吐き出した。
 おっさんか、あんたは!


 今日は暑いはずなのに冷たい汗を何度もかいたぜ。
 練習は上手くいかないし、十歌先輩にはからかわれるし、なんだかメチャクチャ疲れた。とっとと帰って寝ちまおうかな。




 *               *              *




「……どうも手詰まりだな」
 アイスコーヒーをストローも使わずグラスに口を付け一気に飲み干した十歌部長は呟いた。それはまるで自分を責めるような口ぶりだった。
「俺が悪いんす。とちってばっかりで、すんません」
「いや、ゾーシュ君が悪いわけじゃない」
 頭を下げようとした俺を手で制して、グラスに残った氷を口に放りこみ噛み砕く。
「これは選曲の問題だよ。私が思うにこのメンバーとの相性が悪い気がするのだよ」
「そぉねぇ、私もこの曲は演奏していても楽しくないというか、なんとなくのりづらいわね。弾いているとこんな感じで眉間にしわが寄っちゃうわ」
 由綺南先輩は眉間を寄せてベースを弾く真似をする。
「やはり髭右近がリードギター兼ボーカルを前提とした選曲だから無理があるな。時間はあまりないが選曲を見直す必要があるだろう。だが、どんな曲にすればよいか……」
 腕を組んだ十歌部長はストローをタバコのようにくわえて苛立たしげに上下させる。


 夏休みが終わって十日目、俺たちはドン詰まっていた。
 文化祭で演奏する予定の曲がどれも上手くいかないのだ。元々髭右近先輩がリードギター兼ボーカルで、キーボードに十歌部長が入ることを前提にしていた選曲なのに、髭右近先輩が退部してしまった。だから担当パートの変更を余儀なくされている。龍太がボーカルに回り、十歌部長がギターに入ったから、キーボードとサイドギターがいなくなってしまった。その分、音が薄くなって弾いていても全体的にテンポがおかしい。今日も部室で練習をしていたのだけど、一曲としてまともに演奏しきれないまま今日の練習は中止となった。
 そして今後の対策を練るため、俺たちは駅前にある喫茶店に場所を移してミーティングとなったのだが、誰も打開策が浮かばないものだから盛り上がりに欠けること甚だしい状態のミーティングとなっていた。
「やっぱり僕がだめなんだよね。ギター弾きながら歌えれば純鈎先輩に負担をかけないで済んだのに。でも、歌いながらだとギター弾けないし」
「俺も同じだよ」
 龍太じゃないけど、俺も何度もミスをして演奏を中断させることもしばしば。
「なんとかしないと、やばいよなぁ」
「そうだねぇ。文化祭まで一ヶ月だもんね」
「そうよねぇ。やつぱり曲を変えなきゃだめでしょうね」
 由綺南先輩も混ざってきた。が、俺たちに妙案があるわけで無し、三人で顔を見合わせて黙ってしまう。


 みんなが黙ってしまうと、店内に設置された大型スクリーンから流れてくる音だけが耳につく。なんだろうこのオペラみたいな歌い方の曲は……ああ、思いだした。ナイトウィッシュの曲だ。たしか『ファンタズミック』って言ったよな。ツインバスドラの連打が面白い。俺もこういうのも叩いてみたいな。
 でもあの映像はなんだ? なんだか昔の怪奇映画みたいな映像が流れている。曲に合わせて安っぽい怪物が次々と現れていく。プロモーションビデオじゃないよなぁ。
「いまの画像は一九五一年に作られた方の『遊星よりの物体X』のワンシーンだな。こんどはヘルツォーク監督の『ノスフェラトゥ』か。さっきは映画版『ロッキー・ホラー・ショウ』のフランケンシュタインがでてたな。マスターも凝った物を作ったな」
 スクリーンを眺めていた十歌部長は感心したようにひとりごちる。
 やっぱりマスターのオリジナルだったか。この店のマスターはイメージビデオを自作するのが趣味で、作ったビデオを店でも流していることがある。
「やはり昔のホラー映画は最近のスプラッター的なホラーと違って浪漫があるな。ゴシック的な浪漫と言えばいいのかな。なんとも言えない味がある。マスターもなかなか趣味がいい」
 十歌部長の独り言が聞こえたのか、マスターがニコニコしながらうなずいてくる。
「ゴシック浪漫……ん? ちょっと待てよ……これは使えるかも」
 急に立ち上がった十歌部長は何度もうなずくと、綺麗な顔を歪めてなんとも凄味ある笑みを浮かべた。
「諸君、私は急用を思い出した。すまないがここで失礼する」
 呆気にとられている俺たちを残して、ギターを入れたギグバッグを肩に掛けた十歌部長はさっさと出口に向かう。自動ドアが開いて店の外に出る寸前に振り返り、
「文化祭での演奏曲はすべて変える。曲は明日までに用意するから楽しみにしてくれたまえ」
 の言葉を残して走りだすように出て行った。ストローをくわえたまま──十歌部長、その姿はマヌケっす。せっかくの美人が台無しッス。
「なんだか凄く迫力のある笑顔でしたけど、なにを思いついたんですかねぇ」
 心配そうに龍太が由綺南先輩に尋ねる。
「さぁ、なにかしらね。私には分からないけど、十歌ちゃんがあの顔をした時は覚悟はしておいた方がいいわよ。だいたいロクでもないことを思いついた時なんだから」
 由綺南先輩は何事もなかったかのように、茶請けについてきた羊羹の最後の一切れを食べると梅昆布茶を口に含む。
「由綺南先輩は平然としてますね」
「ミキ君、これは平然としているわけじゃないのよ。諦観しているだけよ。ああいう状態の十歌ちゃんに逆らっても無駄なの。だったらジタバタせず最後の審判を待つ方が得策なのよ」
「最後の審判ッスか」
「そうよ。少なくとも福音じゃないことだけは確か。ミキ君もリュウ君も覚悟しておきなさい。まあ、命までとられることはないから」
 俺たちよりつきあいの長い由綺南先輩が言うのだから間違いないのだろうけど……。
 最後の審判って何?
 近所の教会に免罪符って売っているかなぁ。




 【W】The Forbidden Zone




 昼休みになったら昼食持参ですぐ部室に集まること。という十歌部長からのメールに従って、俺と龍太は弁当箱をぶら下げて部室に急いでいた。
「いつ見てもミキの弁当箱はでかいね」
「俺の体格じゃ、これぐらいが普通だろう」
 俺の弁当箱は世に言う保温弁当箱というヤツだ。工事現場のおっさんたちが使っているあれだ。クラスメイトたちが持ってきている弁当箱と比べればでかいかもしれないが、相撲部主将の大木さんなんか俺より身長は低いのに、毎日特大の弁当の他に大盛り牛丼二杯食べている。それから比べればかわいいもんだろう。
「オマエは相変わらず小食だな」
 龍太の手にはピンク色のハンカチに包まれた小さな弁当箱。男の時から小食なヤツではあったが少なくても普通の弁当箱を持ってきていた。いまや女子でもそうは持ってこないファンシーな弁当箱に変わっている。美也さんが嬉々として買い揃えたんだろうけど……龍太も苦労するなぁ。




「こんちわっす」
「待っていたぞ」
 部室のドアを開けるの同時に十歌部長の声が返ってきた。
 待っていたの言葉通り部室のテーブルには十歌部長、由綺南先輩、そして見たことのない女子生徒がついていた。イスに座っているからでもあるまいが、見知らぬ女子生徒の頭の位置が非常に低い。色が白くて唇の赤さが妙に目立っているのと、真っ直ぐに伸びた髪を眉の上でバッサリと切った髪型のせいで日本人形のように見える。
「ねぇミキ。あのひと人間だよね。人形じゃないよね」
 龍太が小声で聞いてきた。
 龍太の気持ちに俺も同感だ。俺たちを見つめる顔に表情が無くってなんだか生きている感じがしない。
「諸君、そんなところでぼけっとしていないでとっとと座りたまえ」
「は、はい」
 俺たちの動きに合わせて女子生徒の首も動いているから生きていると思うけど……なんか不気味だなぁ。
「紹介しよう。今回の文化祭に特別ゲストとして参加してもらうことになった二年生の小比類巻瑠月(こひるいまき・るつき)だ。瑠月にはキーボードとコーラスを担当してもらうことになった」
「小比類巻です。よろしく」
 十歌部長の言葉に促されるように小比類巻先輩は立ち上がって、抑揚のない声で挨拶した。
 ──うわぁ、マジ小さい。一四〇センチぐらいしかないんじゃないのか?
 慌てて俺も龍太も自己紹介した。
「今回、瑠月に協力を願ったのは……」
 十歌部長が経緯のようなことを話しているのだが、俺は小比類巻って元々は東北の方の名字だよな。東北と言えば座敷わらしが有名だよな。座敷わらしってきっと小比類巻先輩みたいな感じなんだろうな、なんてことを考えていた。
「座敷わらしじゃない」
 小声が聞こえたような気がした。意識を戻した俺の正面には小比類巻先輩の感情が読めない真っ黒な瞳があった。
 やばっ! 考えていることを口に出しちゃったか? そんなことはないと思うけど……。
「ミキ、どうしたのさ。そんな変な顔をしてバカみたいだよ。お客さんの前で失礼だろう」
 横に座っている龍太が肘で突っついてくる。
「なぁ龍太、俺いま独り言ったか?」
「いや。なにも言っていなかったよ」
 マジ! まさか俺の考えを読んだの?
 俺に興味を無くしたのか、小比類巻先輩は十歌部長の方を向いている。
 俺も色んなヤツとケンカしてきた。相手が複数のことも多々あったし、その中には俺よりでかいヤツもいたり、バットを持っているヤツもいたりしたけど、どんな状況でも恐怖は感じたことはない。でも、目の前にいる小柄な小比類巻先輩からはいいようのない恐怖感のようなものを感じるんだけど……。




「時間もないから昼食を食べながら聞いて欲しい」
 カロリーメイト一箱っていう簡単な昼食を済ませた十歌部長は、豆乳パックを握りながら話しだす。
「文化祭で演奏する曲を発表したいと思う。髭右近の演奏を前提として作ったオリジナル曲は諦めて全曲コピー曲にする。曲はMADAME EDWARDA(マダムエドワルダ)の『プリンセス・リータ』、MIsfits(ミスフィッツ)の『The Forbidden Zone』、EPICA(エピカ)の『Cry To The Moon』にした」
 十歌部長が挙げたバンドで名前を聞いたことがあったのはミスフィッツぐらいだ。たしか一九七〇年代の終わりにアメリカで結成された世界初のホラーパンクバンドだよな。名前は聞いたことはあるけど曲は聞いたことがない。残りの二つはバンド名すら今日初めて聞いたよ。いったいどんなバンドなんだ?
 どうやら知らないのは俺だけじゃないようだ。龍太も由綺南先輩も首をかしげている。小比類巻先輩は……全然顔色が読めないッス。
「十歌ちゃん、私どれも知らないんだけど、これどんなバンドなの?」
「諸君らにはあまり馴染みがないバンドだろうな。簡単に説明するならマダムエドワルダは一九八〇年代に活動していた日本のポジティブパンクバンド。エピカはオランダのゴシックメタルバンドで、ミスフィッツはひとことで言えばアメリカの際物バンドだ」
 説明になっていないッス。これじゃよく分かりませんよ。
「では曲ごとのパートを言う」
 俺らの当惑など歯牙にもかけず十歌部長は説明を続ける。
『プリンセス・リータ』のボーカルは龍太。ギター兼コーラスが十歌部長。ベースは由綺南先輩。ドラムが俺でキーボードが小比類巻先輩。
『The Forbidden Zone』は『プリンセス・リータ』とほぼ同じで、小比類巻先輩のキーボードが入らないだけだった。
「それで『Cry To The Moon』の担当はリードギター兼コーラスが私、ベースは由綺南、キーボード兼コーラスは瑠月、リードボーカル兼サイドギターにヤマダ君、ドラム兼サイドボーカルがゾーシュ君だ」
「「待って下さい」」
 俺と龍太の声がハモった。
「純鈎先輩、僕にサイドギターは無理ですよ。歌いながらだと弾けないのは知っているでしょう」
「安心したまえ。サイドギターが入る部分では君のボーカルは休みだ。この曲のサイドギターは難しくないし、それならば弾けるだろう」
「それならなんとかなるかもしれませんけど……本当に大丈夫かなぁ」
 十歌部長の言葉に龍太は渋々納得した。龍太は納得したが、納得できないのは俺の方だ。サイドボーカルってなんだよ。俺が歌ったら笑いしかとれないのは分かっているだろう。笑いのとれるゴシックメタルなんて聞いたことないぞ。
「十歌部長、冗談はやめて下さい。コミックバンドにするつもりですか? それとも俺を笑いものにするっていうイジメですか?」
「冗談ではないぞ。私はゾーシュ君を笑いものにする気もないし、我々のバンドをコミックバンドにするつもりもない」
 真っ直ぐ俺を見る十歌部長の顔には笑いも不真面目さもない。いたって真剣な表情だ。
「だったらなんで俺にボーカルを」
「君の歌が笑いをとる原因を知っているかね?」
「音痴だからでしょう」
「いいや違う」
 十歌部長は指を左右に振ってニヤリと笑みを浮かべる。
「ゾーシュ君は決して音痴ではない。ただ、普通の人より声が低いのに、その声を押し潰すようにして唸るように歌うからだ。なおかつ表情も凄く歪めていたしな。要するに前回のボーカル選びでも君は自分の歌い方に合った歌を歌っていなかったから、そのギャップが笑いを誘ったのだ」
「でも、俺に合う歌なんてないでしょう」
 十歌部長がどう言おうが、俺はガキの頃から歌うたびに笑われてきたベテランなんだぜ。その俺が笑われないで済んだ歌を聞いたことがないんだから、部長の話をホイホイ信じる気にはなれない。
「そうでもないさ。まあ、言葉で説明するより実際に見てもらった方がいいだろう」
 バッグからノートパソコンとDVDを取り出した十歌部長は、トレーにDVDを入れ「さあよく見たまえ」とノートパソコンを俺たちの方に向ける。
 モニターに映し出されたのはCDのジャケットとおぼしき静止画面。
「マダムエドワルダは映像を入手できなかったので曲だけ聞いてくれたまえ」
 流れてきたのは硬質な男性ボーカルの歌。幻想的な歌詞を前面に押し出していて、二十年以上も前の曲らしいけど、最近のヴィジュアル系バンドのような退廃的な雰囲気を持つ歌だった。曲の作りは比較的単調で、ギターソロがちょっと目立つ程度だ。
「歌詞はメルヘン的なのに、なんだか暗い感じの曲ですね。でもこれなら無理なく歌えそう」
 女の子顔負けの小さな弁当を片づけながら龍太が感想を述べる。
「それなら良かった。ベースもドラムもそう難しくはないだろう。瑠月、キーボードもなんとかなるだろう」
 俺は素直にうなずいた。由綺南先輩もうなずいている。小比類巻先輩は微動だにもしないけど、異論はないようだ。
「では、次はミスフィッツだ。ライブ映像だからあまり鮮明ではないが雰囲気は伝わるだろう」
 ステージに四人のごっつい男がいた。ベースはビス付きの革ジャン。ボーカルは上半身血だらけ──まさか本物の血じゃないよな。ドラムとギターは上半身裸。やたらと筋肉質でミュージシャンなんてやってないでプロレスラーになった方がいい感じ。そして四人とも顔を白く塗りガイコツともゾンビともつかないメイクをしている。だからホラーパンクなのか。
 ノイジーなギターと共にドラムの連打。いかにもオールドパンクって感じ。
「このベースは楽でいいわね。それにギターも楽そうね。パワードラムだからミキ君は疲れそうだけど」
 由綺南先輩は俺に頑張ってね、と言ってウィンクしてくれた。
 頑張るッス! こんなことぐらいでやる気が出る俺って単純だなぁ。
「最後はエピカだ。これを見ればゾーシュ君をボーカルに選んだ理由が理解できると思う」
 レコーディングスタジオとおぼしき場所が映る。ドラムとストリングスの音にリードボーカルの女性の声が重なる。ギターとベースが静かに入ってきて、オペラのような重厚な雰囲気のまま曲が進む。突然、曲が転調してテンポが速くなる。そしてリードギターが唸るような掠れた声で歌いだす。それはいままでの繊細な音をすべて否定するような力強く破壊的な歌い方で。ギターは野趣味溢れる顔を歪め呪詛じみた言葉で歌い続ける。そしてまた女性ボーカルのパートに戻る。
 美女と野獣というか、美と醜というか、面白い取り合わせだとは思うけど。
「うわぁ、これってモロにミキ向きの曲じゃないですか。ギターの歌い方ってミキそっくり。この曲ならミキと一緒に歌いたいです」
 龍太はもう一度見せて下さいと十歌部長にリクエストする。
「まあ。オランダにもミキ君みたいな人がいるのね」
 由綺南先輩は感心して息を漏らす。
 あのぉ、俺みたいってどういう意味ですか。褒め言葉なんですか?
「まるで怨霊の声。あなたにピッタリ」
 なんとか聞こえる程度の声が俺の耳に入ってくる。
 怨霊とか悪霊って言葉は俺じゃなくって小比類巻先輩の方がお似合いです。と言う言葉が口をついて出てきそうになったが、相手は先輩だしお客さん。ここはグッと我慢して心の中でつぶやくだけにしておく。
 ん? いま誰かの憎悪の視線が。俺が視線を上げると小比類巻先輩がぷぃっと顔を背けるのが同時だった。マジにこの人、俺の心を読んでいないか?
「ゾーシュ君、これで私が君をボーカルに選んだ理由が分かってもらえたと思う。本当に君の歌い方にそっくりだ。声の質も似ている。私もこれに気がついた時はビックリしたよ。目をつぶって聞いているとゾーシュ君が歌っているのではないかと錯覚するほどだ。これなら君も歌うことに異存はあるまい」
 どうだね、とばかり十歌部長は腕を組んだまま胸を張る。
「やっぱり嫌ですよ。自信ないッスよ。それにこの曲を演奏するにはヴァイオリンやチェロのストリングスが必要じゃないですか。無理でしょう」
「反論を言う自由は認めるが、ゾーシュ君に拒否権はないのだよ。これは軽音部の正式活動であり、君が歌うことは部長である私の命令でもある。ストリングスに関しては私と嘴藤でなんとかするので君が心配する必要はない」
 なにが命令だよ。そんな横暴を認められるわけないじゃん。
「だったら俺、軽音部辞めますよ。奴隷じゃないんだから部長に命令されて歌うなんてまっぴらです」
 本当は俺だって軽音部を辞めるつもりはないさ。ドラムを叩くのは好きだし、なによりみんなと一緒に演奏するというのが楽しい。でも、ここら辺で強くでておかないと十歌部長が頭にのるのは必至。だからここで一発ガツンと言っておいた方が賢明。それに男の沽券に関わるしな。
 だが、十歌部長は驚く様子も見せず、なんだか哀れむような目で俺を見た。
「君が本当に辞めたいのなら私にはそれを止める権利はない。が、しかし、軽音部を辞めれば君はドラムの練習場所を失うのではないかね。軽音部としては部員以外に軽音部が所有するドラムセットを使わせるわけにはいかない。それでも君は軽音部を辞めるのかな?」
「ぐっ!」
 俺は言葉に詰まって、勝ち誇ったような表情の十歌部長を睨みつけるのが精いっぱいだった。
 ドラムは場所をくう楽器だ──バスドラム、フロアタム、スネアドラム、タムタム、ハイハット、ライドシンバル、クラッシュシンバル。これらを展開しようとしたらちょっとしたスペースが必要だ──おまけにフルセットを買うとなると結構な値段になる。プロ志向のヤツやガキの頃から本格的にやっているヤツならともかく、俺のように中学の終わりからはじめたヤツでフルセットを持っているヤツは少ない。現に俺はスネアドラムしか持っていない。
 おまけにドラムの練習をしようと思えば軽音部のドラムを叩くか、貸しスタジオに行くしかない。だけど貸しスタジオは金がかかるし、そんな金はない。
「ああ、残念だ。ゾーシュ君のような熱意溢れるドラマーを失うのは軽音部としても手痛い損失ではある。が、日本は民主主義国家だ。個人の権利は認めないといけないからな。ゾーシュ君がどうしても辞めるというのなら、私としては『私物をまとめてとっとと出て行きたまえ』と言うしかないな。で、君は本当に辞めるのかね?」
 十歌部長は冷たい声で決断を迫る。
「はーっ。せっかくミキ君と仲良くなったのに、ここで他人になっちゃうのは残念だなぁ。これからは校内で会ってももう声かけてこないでね」
 由綺南先輩はわざとらしく息を漏らし、十歌部長に同調して俺をいじめる。
「ミキ、もう観念しなよ。純鈎先輩と三枝先輩がタッグを組んだら口じゃ勝ち目はないよ。それに本当はミキだってみんなとドラムを叩きたいんでしょう」
 龍太はちょっと悪戯っぽい笑顔で言う。
「それにさ、純鈎先輩の言葉は本当だよ。自分の声は自分では分からないから自覚ないだろうけど、声の質も歌い方もそっくりなんだよ。もし笑われたっていいじゃん。その時は僕もボーカルなんだから一緒に笑われるからさ。歌おうよ」
 ニコニコした表情ながら龍太の声は真剣だった。話し終わると同時に「素直になりなよ」と背中を叩かれた。
「で、どうするのかね?」
 詰問じみた十歌部長の声。でも声とは裏腹に、さあ本音を白状しろとばかり楽しそうな表情で俺を見ている。部長だけじゃない龍太も由綺南先輩も笑いを堪えているような表情。関係ないはずの小比類巻先輩まで俺の答えを待つかのようにじっと見つめている。
 俺の負けだ。やっぱみんなとバンドしたいし辞められるわけないじゃん。歌って恥をかくのは文化祭の日だけだ……きっと……たぶん……だったらいいなぁ。なんにしろ俺はこのメンバーと演奏を続けたいのさ。
 あーぁ、やっぱ俺じゃ十歌部長には勝てないんだなぁ。しゃあない。覚悟を決めるさ。
「すんません。俺、ウソ言ってました。辞めません」
「よろしい」
 にぃと笑った十歌部長が重々しくうなずく。
「ミキ君と一緒にできるのは嬉しいわ。ミキ君が本当に辞めちゃったらどうしようかと心配して胃が痛かったんだから」
 由綺南先輩は胃のあたりをさする。
 うわぁ。ウソっぽい。先輩、さっきまで部長と結託して俺をいじめていたじゃん。
「ヘタレ……負け犬……根性無し」
 大きなお世話です! と言うか、部員でもない小比類巻先輩に言われる筋合いはない!
「ミキって純鈎先輩に勝ったことないね」
 龍太の言葉に反論する気はない。だって十歌部長に勝てる人間は怒った時の由綺南先輩ぐらいだろう。俺はケンカ慣れしているからいるから言うが、人間には格というものがあるんだ。どんなに外見を飾っても弱いヤツは一目でわかるし、強いヤツは強いことが見ただけでわかる。そして残念ながら十歌部長と俺とでは格が違いすぎる。
 ま、十歌部長たちと一緒にいると楽しそうだからな。




 *               *               *




「諸君らにもわかってもらえたと思うが、今回の選曲コンセプトは退廃的な美。つまりゴシック浪漫を目指している。我々は文化祭のステージの上に廃退と背徳の美の世界を創りあげるのだ」
 立ち上がった十歌部長は演説をするかのように両手を大きく広げる。
「マダムエドワルダとかエピカは部長の言うようにゴシック浪漫かもしれないけど、ミスフィッツもゴシック浪漫なんですか? どっちかというとホラー・アンド・バイオレンスって感じなんですけど」
「甘いなゾーシュ君」
 腰に両手を当てた十歌部長は俺を見下ろし溜息のように息を吐いた。
「昨今のホラーやスプラッター映画などでは見られない安っぽいメイクとスタイルこそ浪漫ではないか。たしかにミスフィッツは際物だ。だが、際物とはなんだ? 際物とは平凡な現実と非凡な非現実の境界にあり、どちらの世界にも属さないからこそ怪しく感じるものではないか。浪漫も同様だ。現実と非現実の境目にあるからこそ儚くて怪しい。すなわち美醜を超越した怪しさこそが浪漫なのだ。故にミスフィッツの際物さも浪漫なのだよ」
「はぁ、そういうものですかねぇ」
「そういうものだよ。ゾーシュ君は私より若いくせに頭が固いなぁ」
 いや、頭が固いんじゃなくって、常識があるだけです。
「ここで提案があるのだが聞いてもらえるかな」
 こう言っておきながら十歌部長はなかなか言葉を続けない。まるでみんなの視線が集まるのを待つかのように豆乳をゆっくり飲んでいる。
「提案ってなんですか?」
 じれた龍太が口を開く。
 その言葉を待っていたかのように十歌部長は笑みを浮かべる。
「曲に統一感を持たせたのだから、どうせなら我々の衣装も統一しようではないか」
「あら、面白いわね」
 由綺南先輩がすぐ反応する。
「そうだろう。せっかく人前で演奏するのにこんな地味な制服では興醒めだ。文化祭は我々の晴れ舞台なのだから着飾ろうではないか」
「文化祭っていちおう学校の催しでしょう。制服以外でもいいんですか?」
「演劇部が舞台の上で色々な衣装を着るように、ステージ上ではどんな服装でも自由だ。去年の文化祭じゃクラス催しでめいど喫茶というのもあってクラス全員が同じ格好しているところもあったぞ。文化祭中はなんでもありなんだよ」
 俺の疑問は十歌部長の説明で解消した。けど、メイド喫茶はいいけどクラス全員って男もいるよな……龍太が着るならともかく、野郎のメイド姿って痛くないか。
「マジッスか?」
「ああ、男女とも経帷子を着て頭には白い三角布をつけていた」
「は? なんの話をしているんです?」
「だから冥途喫茶の服装についてだが」
「メイドですよね。『お帰りなさいませ御主人様』とか言うヤツですよね」
「違う。あの世に行く冥土の旅の冥途だ」
 ああ、それで経帷子か。まったく、紛らわしい。
「しかし……」
 俺の顔を見つめて十歌部長は嫌な笑みを浮かべる。
「ゾーシュ君はケンカと音楽しか興味がない堅物かと思っていたが、メイド喫茶などという俗なものを知っているとは驚きだ。それとも実はメイド喫茶の常連でメイドについては一家言あるとかではあるまいな」
「そんな趣味はないです」
「ま、その言葉を信じてやろう。が、このゾーシュ君の反応をみてもわかるように衣装によるイメージというものは非常に大きい。堅物のゾーシュ君でさえメイドと聞いて脳裏にエロエロメイド衣装を着た女の子の姿を浮かべたはずだ」
 そんなものは思い浮かべていないッス。俺をなんだと思っているんだか。
「我々はバンドであり主役は音楽である。が、同時に見せると言うことも重要な要素でもある。だからこそ衣装の統一感は必要なのだよ」
「まあ純鈎先輩のいっていることは分かりましたけど、具体的にはどんな衣装にするつもりなんですか?」
 龍太は不安そうな顔で尋ねている。
 龍太はメインボーカルだからフロントにいなきゃいけない。観客の視線を集めるパートだけに衣装も気になるんだろう。ま、俺はみんなの後ろでドラムを叩くだけだから衣装なんて関係ないけどな。
「十歌ちゃん、私もどんな衣装か気になるわ。どんな衣装なのか見せてよ」
 心配そうな龍太とは対照的に楽しそうにニコニコしている。
 さらには小比類巻先輩も無表情のままだけど身を乗りだしている。




「衣装のイメージはこういうのを想定している」
 十歌部長がバッグの中から出したのはネットからプリントアウトしたと思われる写真だった。写真にはアンティークドールが着ているようなレースとリボンがごてごてついた黒い服を着た女が写っている。俺は女の子のファッションに詳しくないが、たぶんこれはゴスロリというものだろう。
「カワイイじゃない」と、由綺南先輩。
「げっ。母さんが買ってくる服みたい」と、龍太は顔をしかめる。
「ゴスロリこそがこのゴシック浪漫的選曲にふさわしいだろう。この服を基本に個々人にあわせてアレンジするつもりだ」と、十歌部長は胸を張る。
「にゃぁぁ」と、小比類巻先輩が鳴く。
 にゃぁぁって、どういう意味なんです? と言うか、人間の言葉を喋って下さいよ。普通の女の子がネコの真似すれば可愛いけど、先輩がやると猫又とか妖怪じみてて不気味なんすけど。
「猫又……かわいい」
 だから俺の考えを読んでるだろうあんた。作り物のような黒々とした目が俺をじっと見つめている。気のせいか身体が強ばってきたような感じがする。あまり見つめないでくれ……。
「おい、おい、ゾーシュ君。瑠月と見つめあってないで、君もちゃんと写真を見たまえ」
 十歌部長の声で俺の石化が解けた。見つめあってなんていないッス。ヘビににらまれたカエルのようにすくみあがっていただけです。
「男性の目から見て、この華美な装飾が生み出す退廃感はどう思うかね? それともやはり君はメイドスタイルのほうがいいかね?」
「メイドネタはもういいッスよ。俺は女の子のファッションはわからないけど、なんかコスプレみたいで凄いっすね」
「つまらない反応だな」
 そう言うと、俺に興味を無くした十歌部長は由綺南先輩や小比類巻先輩と写真を見ながらデザインについて話しだす。
 そりゃ俺も可愛いとは思うけどさ、それと同時に女の美に対する妄念が凝縮している感じがしてちょっと怖くもあるんだけどな。俺の考えが男すべての考えだとは思わないけど、装飾が過ぎると男ってビビるんじゃないか。そういや龍太はどう思っているんだ? これを着せられるんだろう。
「これどう思う?」
「ゴテゴテして退廃的っていうより、これは女の子向けの鎧って感じ。これを着ている女の子がどんなに美人でも男は声をかけづらいよね」
 苦笑いを浮かべて龍太は同意を求める。
「そうだな」
 どうやら龍太も俺と同意見のようだ。
「でも、オマエもこれを着なきゃいけないんだろう。どうするんだよ?」
「すすんで着たくはないけど、ライブの時だけでしょう。だったら我慢して着るよ。それにこういう服を着たことがないわけじゃないから」
「ひょっとして美也さんか?」
「うん。母さんがこんな服を山ほど買ってきて着せ替えごっこだよ。それも兄貴たちや姉貴のいる前でだよ。写真は撮られるわ、ビデオは撮られるわでさんざん。おかげでこの服を見てもビビらないですんだけどね」
 ニコニコしている龍太の顔からは窺い知れないけど、夏休みのわずかな期間にこの他にも色々あったんだろうな。
「でも、僕らはゴスロリを着るとしてミキはどんな格好なんだろうね?」
「野郎なんてどんな格好でもいいんじゃないか。それに俺の姿はドラムセットで見えなくなるから着飾ってもしょうがないさ」
「そうかもね」
 だいたい俺は身体がでかいから似合う服は多くないんだよ。無理して変な服を着て笑われたくはない。恥をかくのは歌だけでいい。
「いいや違うぞ! ゾーシュ君もバンドの仲間だ。いい加減な格好をされては困る」
 由綺南先輩たちと話していたはずの十歌部長の声が響く。
「我々が統一感をもって衣装を揃えるのだから、当然ゾーシュ君にもそれなりの格好をしてもらう」
 俺もコスプレするのかよ……タキシードとか着せられるのか? 俺、背広系を着るとその筋の人にしか見えなくなるから嫌なんだけどなぁ。
「軽音部バンドの黒一点のゾーシュ君の衣装に関しては私も悩んだ……」
 ああそうか、男って俺一人になっちまったんだな。入部した時は男の方が多かったのに、髭右近先輩が退部して、龍太が女の子になっちゃって、おまけに得体のしれない女も参加して、いつの間にかガールズバンドもどきだよ。なんだかなぁ。
「……ゴシック浪漫からかけ離れるわけにもいかないし、かといってヴィジュアル系のような衣装はゾーシュ君に似合わないしな。で、悩んだ末に候補を三つに絞りゾーシュ君に最終決定してもらうことにした」
 三つの候補か。いちおう俺に選択権をくれたのはありがたい。
「一つ目はこれだ」
 バックから写真を取り出す。
 あれっ? さっきのゴスロリじゃん。
「十歌ちゃん、同じ写真よ」
「よく見たまえ。さっきの写真とは違うのだよ」
 十歌部長は由綺南先輩に向かって指を振る。
「さっきの写真ではスカートは膝丈だったろう。こっちは膝下二十センチ丈だ。やはり男子のゾーシュ君にはスカートは慣れないだろうし、足を出すことに抵抗感があるだろうからロングにしてみたのだよ。私の気遣いに感謝したまえ」
 なにが感謝だよ。俺が女装して似合うわけないだろう。だいいちそんなヒラヒラした服じゃ邪魔でドラムが叩けねぇよ。
「これならばメンバーと統一感をもてる。どうかねゾーシュ君?」
「次、お願いします」
「あら、ミキ君、感想は無しなの」
「歌で笑われることは諦めましたけど、女装で笑いはとりたくないです」
 由綺南先輩が残念そうな顔をしていたが──どうして残念そうな顔をするんですかね──俺は次を促した。
「まあ、ゾーシュ君が拒否することは折りこみ済みだ。では、次にいこう。これはお勧めだぞ」
 十歌部長が次に出した写真は……なんだこりゃ!
「こ、これなんです? 変態?」
 そこには顔の上半分をおおう革製のマスクをかぶり、身に纏っているものは革製のビキニタイプのパンツと、上半身にクロスさせたビス付きの革ベルトをつけた男の写真。
「変態とは酷い表現だな。これは中世ヨーロッパの処刑人をイメージした格好らしいぞ。本当の処刑人はもっと紳士的な格好をしていたらしいが、これは映画やマンガの影響だとは思う。だが、なかなかに悪魔的でゴスロリに相通じる部分があるとは思わないかね」
「ミキ、これいいじゃん。ミキなら体格がいいから似合うよ」
「黙れ! これ以上ひとことでも言ったら殺す」
 龍太の顔面を鷲掴みして優しく納得させた。
「次いきましょう」
 どこがゴスロリに通じるんだよ。単なる変態じゃん。なんか次も期待はできないけど変態は嫌だ。
「君もなかなか気難しい男だな」
「常識があるだけです! 最後はどんなのです?」
「しょうがないな……」
 渋々といった感じで取り出したのはさっき見たミスフィッツのギタリストの写真。つまり顔を白塗りにしたガイコツペイント、上半身は裸でトゲのついたチョーカーとリストバンドだけ。下は革ズボンにライダーブーツのようなゴッツイブーツ。ま、メイクをぬかせばパンクバンドでよく見るスタイルだ。
「これならどうだね?」
「まあ、これなら許容範囲ですけど……」
 人前で上半身裸になることに恥ずかしさはあるけど、パンクバンドなんかじゃ上半身はだかどころか全裸っていうのも珍しくないから、それを思えば常識の範疇だろう。
「よろしい。ではゾーシュ君の衣装はこれに決定だ。これで演劇部にも顔向けができる……」
 写真を出す時は渋っていたくせに、十歌部長は満足そうにうなずいてひとりごちた。
 ん?
「演劇部? 演劇部って何ですか?」
「いや、こっちの話しだ」
 十歌部長は俺から視線を外す。
「あっ、その態度怪しい。なにを隠しているんです? 俺の衣装にまつわることですよね。白状しないなら俺は学生服のままでステージに上がりますよ」
 俺は横を向いたままの十歌部長の顔を睨みつける。
 一分? それとも二分? 俺も十歌部長も無言のままの時間が過ぎる。
 十歌部長のスッキリと通った鼻梁の上にしわが寄り溜息が漏れる。
「しょうがない。隠していても、どうせ放課後にはわかることだし白状しよう。今回の衣装製作などに関しては結構な費用がかかる。だが、我が軽音部には部費に余裕はない。それゆえ演劇部と模型部の協力を仰いでいるのだよ。もちろんタダではない。各部に協力してもらう代わりに、我々は労働という形で返すことになっている」
「俺になにをさせるつもりですか?」
「慌てるなゾーシュ君。『俺』ではなく『我々』だ。君一人に押しつけるつもりはない。もちろん私も労働要員だ」
 渋い表情を浮かべた十歌部長は前髪をかき上げ息を吐く。
「では担当を言うぞ。私と由綺南とヤマダ君は模型部のコスプレ喫茶店でウエイトレス。ゾーシュ君と瑠月は演劇部の演劇に出てもらう」
「あ! 俺が演劇に? そんなの絶対無理です。セリフなんて喋れないし、演技だってできません! 小比類巻先輩もそうですよね?」
 俺の言葉に小比類巻先輩はうなずいている。
「安心したまえ。ゾーシュ君にも瑠月にもセリフはない。それどころかステージ衣装のままで舞台の冒頭に上がって、ただステージ上を一周すればいいだけだそうだ。演技をする必要もない。登場時間だって三分もない。他のメンバーに比べたら全然楽だぞ」
「そうなんですかね……」
 しかし俺がガイコツゾンビもどきみたいな格好で歩き回るオープニングの劇ってどんな劇なんだよ?
「純鈎先輩、色々な部に借りを作ってまで衣装を揃える必要があるんですか? そんなに金がかかるならやらない方がいいんじゃないですか」
 コスプレが嫌なのか、ウエイトレスが嫌なのか、それともその両方なのかわからないが、龍太が不満そうな声をあげる。
「必要はある」
 十歌部長は間髪入れず返答した。
「ヤマダ君たち一年生は知らないだろうが、我が校の文化祭では催し物に対する生徒と一般客による人気投票がある。我が軽音部バンドは去年の投票では五位になったのだ。たぶんに髭右近の演奏のおかげでもあるが、髭右近が抜けたからと言って順位を落としては軽音部の名誉に泥を塗ることになる。ここは姑息と言われようが演奏だけではなくヴィジュアル面でも観客にアピールしてポイントを稼ぐ必要があるのだよ」
「ウチの文化祭ってそんなことしているんですか。で、一位になると部費が増えるとかなにかいいことあるんですか?」
「一位には図書券三千円分、二位は図書券二千円分、三位は図書券千円分。四位から十位まではノートが与えられる」
「なんですかそれ。小学校の運動会の賞品並みじゃないですか。そんなもののために僕たちはコスプレして演奏して、さらに他の部の手伝いもするんですか。下らない」
 龍太にしては珍しく強い口調でくってかかる。
「髭右近が新しいバンドを組んだのだよ。そしてそのバンドで文化祭に個人参加するのだ。軽音部としては元メンバーの髭右近には負けたくない。いや、髭右近がいなくなって軽音部がダメになったなんて言われないためにも、我々はどんな犠牲を払ってでも人気投票で上位に入らなければならないのだ。そのためには諸君らの協力が必要なのだ。諸君らが快く思っていないことは重々承知しているが軽音部のためと思って我慢してくれたまえ。頼む」
 十歌部長が深々と頭を下げた。
 俺、十歌部長が頭を下げて人にものを頼むのを初めて見たよ。やっぱ部長として軽音部のことを思っているんだなぁ。そりゃ俺だって演劇になんて出たくもないけどさ、軽音部がダメになったとか、髭右近先輩がいなきゃつまらないなんて言われたくないもんなぁ。
 龍太を見ると、さっきまで全身から発していた不満オーラが消えている。何とも言えない表情のまま黙っている。龍太も軽音部が好きだからなぁ、こんな話しをされたら絶対に嫌だとは言い切れないんだろう。俺だってそうだもんなぁ。
「そういうことなら……協力する」
 小比類巻先輩がつぶやくように言う。
「ヒゲ君が相手かぁキツイわね。でもそのぶんやりごたえがありそうね。まあ、ウエイトレスぐらいなら私はいいわよ」
 由綺南先輩は指で丸をつくる。
「そういうことなら僕も我慢します。でも、こんなことするのは今回だけですよ」
 そう言うと龍太は顔を横に向ける。
 ま、コイツは変に熱いヤツだからな。こんな話しをされたら断れないだろうさ。
「ゾーシュ君はどうなんだ?」
 変に照れている龍太を見ていたら十歌部長に尋ねられてしまった。
「俺ですか……」
 これって俺たち軽音部と髭右近先輩のバンドとのケンカみたいなものだろう。ケンカは好きじゃないけど、逃げるのはもっと好きじゃない。だったら答えは決まっているさ。
「俺もやります」
「諸君らの協力に感謝する」
 十歌部長はもう一度頭を下げた。
「ふふふふふ。待っていろよ髭右近」
 顔を下に向けたまま変な笑い声が……。
「退部するする時、『一時的な虚栄心から音楽を始めるが、独創性もなければ、演奏力もないのが女』だとか『女などは生殖本能だけで行動し、バンドの美しき男性に近寄りバンド活動を邪魔するだけの存在』だとか『女などバンドのお飾り、添え物にすぎないのに、自分に実力があると勘違いしているだけの愚か者』だとか『ガールズバンドなどしょせん色物にすぎない』などと好き勝手なことを言ってくれたな」
 頭を上げた十歌部長の顔には歪な笑みが張りついている。
「だったらガールズバンドの凄さを見せつけてやろうじゃないか。我々の実力で男どもを足下にひれ伏せさせてやろうではないか!」
 あのぉガールズバンドって……俺、男なんですけど。男を足下にひれ伏せるって、俺も踏まれるんですか。
「我ら女性の力で文化祭に新たな歴史をつくろうではないか!!」
 十歌部長のアジテーションに由綺南先輩も小比類巻先輩も腕を突き上げて「おーっ」と同調している。
 龍太は俺と視線を合わせると声を出さずに「なんだかね」と口を動かし肩をすくめる。
 本当になんだかなぁ。
 一時の激情で判断誤った気がメチャクチャする。変なことにならなきゃいいけど……。




 【X】Force of the shore




「ゾーシュ君、テンポを安定させたまえ!」
「瑠月ももっとしっかり!」
 文化祭に向けて軽音部は動き出した…………ような気がする。
 ような気がするというのは、いま俺たちが十歌部長の怒声を浴びながらやっているのは、バンド練習ではなく衣装製作の代償として出演させられる演劇部の練習だからだ。
「ゾーシュ君、ちゃんと歩きたまえ」
「瑠月は身体をフラフラさせてはいかん。ゾーシュ君のバランスが狂うではないか」
「諸君らは舞台のスタートを飾る重要な役どころなのだぞ。いくらアルバイト的な出演とはいえ手を抜くことは許されない。出演する以上は諸君らは軽音部の名誉と威信を背負っているのだ。完璧な演技で演劇部の要求にこたえてやろうではないか。そのためには練習。ひたすら練習あるのみだ」
「はあ……」
 拳を握って力説する十歌部長を前にして、俺は小比類巻先輩と顔を見合わせて溜息混じりに声を吐きだすのが精いっぱいだった。
「諸君らは自分の役どころ理解しているのかね? 理解していれば、諸君らの演技がいかに大切なものかわかるはずだ」
 役どころって──演劇部が今回上演する演目は『コッペリウスの末裔』という題名のオリジナルストーリーだった。物語は人里離れた山の中に建つ洋館に迷いこんだ青年が経験する幻想的な世界。洋館には人間は住んでおらず、ただ何体ものオートマター(自動人形)がいるだけ。オートマターしかいない世界の中で主人公は次第に自己を失っていくというものらしい──その中で、俺は館裏にある墓地の中を歩き続けるオートマターという設定だ。そして俺の右肩には花を握りしめたオートマターの女の子が乗っている。女の子の役は小比類巻先輩。つまり俺は小比類巻先輩を肩に乗せ、左手は前に突きだしてフランケンシュタインのようにただ無言のままノシノシと歩き回るという役どころだ。
 いったいどんな意味があるんだろう……。
「ミキ、ダラダラやってないでさっさと終わらそうよ」
 さっきから龍太は不機嫌な表情を隠そうともせずに、机の上であぐらをかいてブーブー文句を言っている。
 おい、スカートなんだからあぐらをかくなよ。下着が見えたらどうするんだよ。というか俺に文句を言うなよ。俺だってこんなことはしたくないんだ。十歌部長の命令でやっているんだから、文句なら十歌部長に言ってくれよ。
 だけど龍太が文句を言いたくなる気持ちもわかる。だって今日は部活が始まってから一度もバンド練習をしていない。ただ、ひたすら演劇練習をしているだけだからな。本音を言えば俺だって一刻も早くバンド練習をしてぇよ。
「ミキ。ひょってして女の子の身体を正々堂々と触れるものだから、嬉しくてわざと長引かせているんじゃないの」
 龍太は苛立たしげに膝を揺らす。
「バカ言ってるんじゃねぇよ。そんなことあるわけないだろう」
 嬉しいどころか、実際、困っているんだ。
 小比類巻先輩は小柄だから体重は四十キロそこそこだろう。俺の体格からすれば四十キロなんて大したことない重さだ。荷物なら七十キロだろうが八十キロだろうが肩に乗せて運ぶ自信はある。だけど肩に乗せているのは人間、それも女の子だ。荷物なら肩に乗せてしまえば動かないからいくらでも運べるが、人間は荷物のように手荒にするわけにもいかない。本当なら右手でしっかりと腰を掴めばいいのだろうけど、女の子の腰に手を回すなんて……先輩は小柄だから俺のでかい手だと腰だけじゃなくって胸にも当たっちゃいそうで。だからついつい触れるか触れないか程度に緩くしか手を回せない。そうすると安定が悪いものだから歩くたびに先輩の身体が揺れる。
「ご苦労様ね。疲れたでしょう。ひと休みしましょうよ」
 由綺南先輩がスポーツドリンクのペットボトルを俺たちに渡してくれる。
「ねぇミキ君、君がちゃんと掴まないと瑠月ちゃんが落ちちゃうわよ。瑠月ちゃんに怪我をさせないためにも恥ずかしがっていないでしっかり掴んであげなさい。瑠月ちゃんだってミキ君に触られるから嫌ってわけじゃないでしょう」
「嫌じゃない」
 小比類巻先輩は握ったペットボトルを見つめたままボツリと答える。
「ほら瑠月ちゃんも嫌がっていないのだから、ミキ君はもっとしっかり抱いていいのよ」
 由綺南先輩はそう言うけど、やっぱり気が引ける。それにさっきから龍太のヤツがにらんでるし……なんかスゲー気疲れする。これだったら三十分間ドラムソロを叩く方が楽だぜ。
「文化祭まで時間がない。グダグダしている余裕はないのだぞ諸君。そろそろ本気を入れて演じたまえ。それに下校時間も迫っていることだし次でラストとする。瑠月もゾーシュ君も本番だと思って真剣にやりたまえ。もしダメだったら、この後は駅前公園で練習するからな」
 十歌部長は携帯で時間を確認すると宣言した。
 赤の他人に見られるかもしれない公園で練習なんて冗談じゃない。




「先輩、準備いいですか。いくッスよ」
 無言でうなずいた小比類巻先輩が俺の肩に乗るためにイスの上に立つ。
 肩に柔らかい触感とともにわずかな荷重がかかる。
「俺の首にしっかり手を回して下さい」
 俺も右腕で小比類巻先輩の腰を掴むが、やはり片手だけじゃバランスが悪い。少しばかり見てくれが悪いけど、小比類巻先輩には左手を俺の首に回して身体を固定してもらうことにした。本当は右手でも肩を掴んでほしいけど右手には花を握ることになっているからしょうがない。
「もう首を締めつけるつもりでかまいませんから」
 小比類巻先輩の手が顎の下まで伸びてくる。
「ジャリ」
 小比類巻先輩がボツリとつぶやく。
 ジャリ?
「何すか?」
「ヒゲ」
「ああ、髭ッスか。そりゃ俺は男ですから夕方になれば少しは伸びてきますよ。我慢して下さい」
 俺は髭は濃い方だから朝剃っても夕方になれば伸びてきちまう。しょうがないじゃん。
「えっ、僕は伸びないよ。いいなぁ」
 龍太が顎をなでながら言う。
「オマエは女だろう。髭が伸びたら怖い。それに髭なんて必要ないだろう」
「そうかなぁ、ヒゲがあったらネズミが捕れるよ。便利そうじゃん」
 そうか、そうか。オマエはネズミが捕りたいのか。だったらこんどネコ耳とヒゲと尻尾を買ってきてやるから、それを着けて好きなだけネズミを捕ってきてくれ。俺は付き合わないけどな。
「バカなことを言ってないで練習を始めたまえ。ゾーシュ君には音楽室を一周してもらおう。では始めたまえ」
「わかりました。じゃあいきますよ。いいですね」
 俺は小比類巻先輩を肩に乗せ歩きだした。
 首に手が回っているおかげで揺れが少ない。だけど人を乗せて歩くのはなかなか難しい。ついつい歩幅が狭くなってしまう。
「ゾーシュ君、歩幅が狭いぞ。おっかなびっくりではなく、もっとオートマターらしく大股で規則正しく歩きたまえ」
 と、十歌部長の指摘が飛ぶ。さらには、
「左手をもっと真っ直ぐのばしたまえ」とか「キョロキョロしない。前だけを見つめて歩くのだ」「ミキ、手つきが嫌らしいよ。顔がにやけている」「瑠月ちゃんもミキ君も背筋を伸ばしてね」
 と叱咤が……なんか、変なのも混ざっていた気もするが。
 ああ、うるさい。真っ直ぐ前を向いて大股で歩けばいいんだろう。だったら歩いてやるよ。テンポを速め前だけを見つめて……
 ごぼぉん!
 と言う異音とともに肩に衝撃が伝わり、俺は押し戻されるように数歩後退した。
「瑠月」「瑠月ちゃん」「小比類巻先輩」の声が重なる。
 見上げると鼻血をたらした小比類巻先輩。そして先輩の顔の前には換気ダクトがあった。
 軽音部部室がある旧校舎は元々暖房とか空調機器がなくって、必要があるごとに増設して配管とかダクトとかがむき出しのまま校内を縦横に走っている。部室である音楽室の天井には後付けの五〇センチほどの四角い金属製ダクトが設置されていた。でもダクトは二メートル以上の場所に設置されているから普通じゃぶつかることはない。だけど一八二センチある俺が小柄とはいえ肩に人を乗せれば余裕で二メートルを超える。二メートル超えれば……。
 ダクトを見ると亜鉛の鈍た銀色の金属が凹んでいた──デスマスクのように人間の顔の形に。
「す、すみませんでした! だ、だいじょうぶッスか?」
「平気……」
 あれだけ派手に顔面をぶつけたのに、小比類巻先輩は落ちることなく何事もなかったように俺の肩の上にいる。鼻血出てるけど。
「だけど鼻血が」
 初めて鼻血が出ていることに気がついたかのように、鼻の下に手をやり指の先に付いた血を眺めている。
「平気」
 そう言うと、ずずっと鼻をすすり上げた。が、だらーっとまた鼻血が垂れてくる。
「保健室に行かなきゃ」
 慌ててしゃがみこんで小比類巻先輩を肩から下ろす。
「行かなくていい」
 鼻を押さえた小比類巻先輩は、どうして私が保健室に行かなきゃならないの? みたいな表情を浮かべる。
「瑠月ちゃん、ティッシュ、ティッシュ」
 小比類巻先輩は由綺南先輩が差しだすポケットティッシュを丸めて無造作に鼻の穴に突っこんだ。
「ふふぎぃひゃろぉ(続きやろう←俺訳)」
 鼻が詰まった独特の発音で練習再開を催促する。たぶん小比類巻先輩も公園で練習はしたくないのだろう。
「だけど鼻血が出てるし、あれだけ派手にぶつけたんだから鼻骨とか折れていたらヤバイし、やっぱ保健室にいきましょうよ」
 公園での練習は嫌だけど、女の子に血を流させた罪悪感の方が大きい。
「ひぇいひ。ふふぎぃ(平気。続き←俺訳)」
 そう言うと小比類巻先輩はまたイスに上がる。
「ひゃやきゅ(早く←俺訳)」
 自分の発音が変なことに気付いた小比類巻先輩は鼻に詰めたティッシュを引き抜くとクチュンとくしゃみした。
「瑠月ちゃん、まだ取っちゃダメよ。また血が」
「もう止まった」
 慌てる由綺南先輩に向かってフンっと鼻息を吹いて見せ、
「続き」
 と言って俺を見つめる。
 スゲー回復力。どうしてあんな短時間で血が止まるんだ。ふつう止まるまでもう少しは時間がかかるもんだぜ。マジにオートマターなんじゃないのか?
 今回は俺の心は読めなかったのか、小比類巻先輩は突っこみもせず無表情のままイスの上に突っ立っている。しょうがないなぁ続きをやるか。先輩は平気だって言ってるし、公園での練習はしたくねぇもんな。
「いや、もう十分だ。諸君らの根性はしかと見させてもらった。この役者根性を見せつければ演劇部も文句を言わないだろう」
 十歌部長はイスに上がった小比類巻先輩の手を引いた。
「本当に良かったわよ。あんなアクシデントがあったのに瑠月ちゃんはまるで人形のように動じてないし、ミキ君だっていますぐフランケンシュタインになれるほどフランケンぽかったわよ」
 お褒めの言葉ありがとうございます。だけどフランケンシュタインになれるって……褒められても全然嬉しくねぇんですけど。
「残念だったねミキ。純鈎先輩のオーケーが出ちゃったから、本番まで女の子の身体を触れないね」
「バカなこと言うな。とうぶん触らなくて済むから清々してるんだよ」
「本当にぃ……もし女の子の身体に触りたくなったら僕に言ってよ。一回二九八円で触らせてあげるよ」
 ニヤニヤ顔の龍太はグラビアアイドルのようなポーズをする。
 何が悲しくて龍太を触らなきゃならないんだよ。それになんだよ、その中途半端な料金設定は。
「誰が金を払ってまで触るか! と言うか、どうしても触らなきゃならないんなら、俺の方が金をもらいたいぐらいだ!」
 人を小馬鹿にしたような表情の龍太にイスでもぶつけてやろうかと思った時、くぃくぃとワイシャツの裾が引っ張られた。
 ん? なんだ? 振り返ると、
「はい」
 小比類巻先輩が開いた右手を差し上げている。その手の平の上には二九八円。
「先輩。何がしたいんです?」
「お触り代」
 右手を差し上げたまま小比類巻先輩はずぃいと近寄ってくる。
 これ…………冗談ッスよね。
「瑠月もヤマダ君もゾーシュ君をからかっていないで、さっさと帰り支度をはじめたまえ。明日からはバンド練習を始めるぞ。早く帰って各自自分のパートを練習しておくように。ではまた明日会おう」
 十歌部長はギターケースと学生バッグを肩にかけると、スカートの裾が跳ねるぐらい大股で部室を出て行った。
 明日からバンド練習本番か。演劇の練習でもこんなにきつかったんだから、きっと厳しいんだろうなぁ。




 *               *               *




「ゾーシュ君、走りすぎるな! もっとボーカルの呼吸を感じて叩くんだ!」
「瑠月、流して弾くんじゃない! 観客はちゃんと聞いているぞ!」
「由綺南、余計なオカズはいらない! 変に音を軽くするんじゃない!」
「ヤマダ君、いちいち発音を気にするな! 魂で歌いたまえ!」
 十歌部長の怒声が部室の窓という窓を振るわせる。
「そんなことでは髭右近には勝てないぞ! 命を削るつもりで演奏するのだ! 諸君らは髭右近に何を言われたのか忘れたのか! 『ガールズバンドなど色気だけで演奏技術なんてない』とか『媚びを売って得られる賞賛が己の演奏に対する賞賛と勘違いしている』の罵詈雑言を! もっと奮起したまえ!」
 怖ぇー。なまじ顔が整っているだけに普段の表情と怒った時の顔の差が大きすぎてマジ怖い。なんか猫科の動物が怒っているみたい……食われそう。
「勝手にアレンジするんじゃない由綺南!」
 十歌部長の声とともに学生バッグが由綺南先輩に向かって宙を飛ぶ。由綺南先輩はほんの少しだけ身体を動かしてひょいとバッグを避ける。
「ヤマダぁ! 何度言えばわかるんだ! 全身全霊をこめて歌え!」
 ギターを抱えたまま十歌部長は龍太の背中を蹴る。
「瑠月、いまミスタッチ!」
 十歌部長はペットボトルを小比類巻先輩に向かって投げつける。ペットボトルは小比類巻先輩の額に当たって、ぽーんと跳ね上がる。空だったからいいけど、ゲストだろうが手加減無しかよ。
 演劇の練習の時の厳しさなんて、バンド練習から比べたら子供だましに感じられる。
「ゾーシュ、恥ずかしがってないで腹の底から声をだせ!」
 怒声と同時に俺の鼻面に重い衝撃。
 ぼてっ。足元に転がるペットボトル(中身入り)。
 痛ぇ……小比類巻先輩の時は空で俺は中身入りかよ。男女差別だ。差別反対!
「何か言ったかゾーシュ君?」
「い、いえ何も言ってないです」
「だったら歌いたまえ!」
 小比類巻先輩じゃないんだから俺の心の声を読まないで下さいよ……って、なにこっち見てるんすか小比類巻先輩。
(呼んだ?)
 小比類巻先輩は声を出さずに口だけ動かす。
 呼んでいないッス。と言うか俺の心を読まないで下さい。
「ほら手を休めてないで弾きたまえ!」
 こんな感じで十歌部長の鬼教官ぶりは発揮された。




 チャイムの音とともに『あと二十分で下校時間です。校内に残っている生徒は速やかに帰宅して下さい』校内放送が部活の終わりを告げる。
 もう時間か。バンド練習を始めてから二週間。放課後が異様に短いような気がする。
 俺たちの学校は下校時間が午後六時だ。部活を始められるのは七時間目が終わってからだから、どうしても四時過ぎてしまう。みんなが集まってからも音合わせしたりするだけで三十分は使ってしまう。練習できる時間は実質一時間半もない。もっと練習したいんだけど、六時十分の最終スクールバスを逃すと三十分ほどかけて駅まで歩くはめになる。卓球部のように全国大会常連の部は自前のマイクロバスを持っているからもっと遅くまで練習しているが、俺たち軽音部には全国大会なんて無縁だ。だから後は自宅で各自練習することになる。
 ボーカルやギターは一人でもいいかもしれないけど、俺や由綺南先輩のようなリズム隊はやはり一人だとやりづらい部分がある。リズムを正確に刻む練習だけなら一人でもできるけど、リズム隊の役目はいかにリズムをギターやボーカルに伝えるかにある。言い換えればギターやボーカルが心地良く演奏できる土台を作るのが役目だと俺は思っている。
 ボーカルやギターだってその日の体調や気分によって微妙に演奏は変化する。それに臨機応変に合わせるのがリズム隊(広い意味だとギターやキーボードもそうだけど)。だから相手がいないと張り合いがない。部室以外で練習できる場所と言えば貸しスタジオがあるけど、貸しスタジオは金がかかるから毎日使うなんて無理だ。
「やっと気分がのってきたのに、もう終わりだもんなぁ。もっと練習してぇ。ねえ十歌部長、部長は顔が広いようだからどこか無料で貸してくれるスタジオとか知らないッスか?」
「無理を言うな。そんな場所があればとうの昔に使っているとも」
 十歌部長はギターをギグバッグにしまいながら苦笑いを浮かべる。
「しかし実際問題、練習時間がとれないのは困っている。特に土日には練習場所すら確保できない。部長としてどうにかしなければとは思っている。が、なかなか楽器を演奏できるような場所はないのだよ。残された時間が少ないだけに頭が痛い問題だ」
 珍しく十歌部長が気弱なセリフを漏らす。
 軽音部のメンバーが集まるだけなら簡単だ。場所なら喫茶店でも公園でもどこでもある。だけど俺たちが必要なのは電源がありドラムがあり、最も重要なのは演奏しても騒音の文句が来ない場所だ。きっと十歌部長も探したんだろうなぁ。
「そうですよね。そんな都合の良い場所なんてないですよね」
「ああ……すまないな」
 俺と十歌部長が打開策を見つけられず、互いに顔を見合わせて溜息をついた時、ソフトケースに入れたシンセサイザーを背負った小比類巻先輩が俺の正面に進みでてきた。
「私の家、使う?」
 小比類巻先輩は無表情のままぽつりと言って小首をかしげる。
「え? 小比類巻先輩の家? 楽器を演奏しても平気なんですか?」
「うん」
 小比類巻先輩はそう言うけど、広ければいいわけじゃないんだけどなぁ。
「先輩の家って防音室があるんですか? それにアンプやドラムだって必要なんですよ」
「防音室はないけど、アンプもドラムもある」
「アンプやドラムがあるって、ひょっとして先輩のウチって楽器屋?」
 首を横に振る小比類巻先輩。
 じゃあどういうことなんだ? 防音室はないけど楽器が弾けて、なおかつドラムやアンプまであるなんて。よくわかんねぇな。みんなも同じようで不思議そうな表情をしている。
「だったら先輩の家ってどういうところなんです?」
「来ればわかる」
「来ればって今からですか?」
「うん」
 来ればって……女の先輩の家に? どうしよう。でも、どんな家なのか見てみたいような気もするし。
「どうします十歌部長」
「うむ。瑠月の家というのには興味があるし、女性の家にゾーシュ君だけ送りこんで何か間違いでもあったら部としての問題となるから私は行こう。由綺南とヤマダ君はどうする」
 龍太も由綺南先輩もオーケーサインをだす。
「みんな行きたいみたいです。でも急に大人数で押しかけて迷惑じゃありませんか?」
「平気。いまメールしておいたから」
 携帯の画面を見つめたまま小比類巻先輩が答える。
「バンドに誘っておいて言うのもなんだが、どうしてここまで我々軽音部に協力してくれるのかね? 瑠月の好意には凄く感謝しているが、自宅まで提供しても君にはメリットはないと思うのだが」
 腕を組んだ十歌部長は眉根を寄せる。
 そうだよなぁ。小比類巻先輩はあくまでゲストだし、軽音部に借りがあるワケじゃないんだから、ここまでしてくれる義理はないはずだよ。と言うか、練習じゃ罵詈雑言は当たり前、手まで出てくる修羅場に毎日さらされているんだから恨むことこそあれ感謝する部分はないだろう。
 だけど小比類巻先輩から返ってきた言葉は意外なものだった。
「お礼。この前のお礼」
 小比類巻先輩はちょっとはにかむように言ってうつむく。
「お礼? 我々が君に感謝されることをしたかね? 恨まれることがあっても感謝されることはないと思うのだが」
 十歌部長、あんた自覚してたんですか。だったら手加減してくださいよ。
「軽音部じゃない」
 と言って、小比類巻先輩は俺をじっと見つめてくる。
「な、なんすか? 俺がなんかしましたか?」
 そんなに見つめられると落ち着かないんですけど。
「ほう。お礼というのはゾーシュ君絡みなのかね?」
 十歌部長の声にはわずかに驚きが含まれていた。
 は? 俺にお礼? 俺、お礼されるようなことしたっけ?
「ミキが感謝されるなんて変だよ。迷惑の間違いじゃないんですか?」
 俺と同感のヤツがここにもいるようだ。今回ばかりは龍太の言葉に同意するぜ。
「瑠月ちゃん、ミキ君がどうしたの?」
「先週の木曜日に助けてもらったから」
 先週の木曜って…………ああ、あれか。




 先週の木曜日のことだ。バンド練習中に小比類巻先輩が突然演奏をやめた。
「どうしたんすか?」
「変。鍵が急に軽くなった」
 小比類巻先輩がその日使っていたのはYAMAHAのCP33と言うステージピアノだった──いつもはKORGのシンセサイザーX50を使っていたけど、今回は音を確認したいからと言って持ってきた。俺はあんまりキーボードは詳しくはないが、このCP33の特徴のひとつにグランドピアノと同じ鍵盤の感覚があるらしい。安いキーボードだと鍵盤が軽くて普通のピアノを弾いていた人なんかは軽すぎる故に余計に力を入れてしまい疲れるそうだ。ある意味鍵盤タッチの重さが売りなのに、それが急に軽くなったものだから演奏をやめたらしい。部活が終わるにはまだ時間が早いが文化祭までは日がないことだし、部活を中止してCP33を楽器屋に持っていくことになった。
「ゾーシュ君。瑠月に付き合ってやってくれないか。楽器屋は中根台駅の一文字屋だろう。あすこは駅から距離があるから瑠月が一人でこれを持っていくのは大変だろうからな」
「いいッスよ」
 PC33は二十キロ近くの重さがある。これを持ってきた時は表情が乏しい小比類巻先輩もさすがに苦しげな顔だった。いつも使っているX50ならギター並みの五キロだし、ケースも背負えるギグバッグだから小柄な小比類巻先輩でも運べるけど、PC33じゃ野郎でもきついもんなぁ。
 小比類巻先輩は一人で持っていけるからいいと言っていたけど、はいそうですかと言うわけにはいかないよなぁ。俺もスネアのドラムヘッドを見たいからと言って結局一緒に行くことになった。


「ねえ先輩、なにか飲み物買ってきていいですか。もう暑くて暑くて、このままじゃここで干涸らびてミイラになりそうです。ミキだって荷物を持っているんだから喉が渇いたでしょう」
 中央総合公園というでかい公園の真ん中ぐらいで龍太が舌を出して情けない声をあげる。なんでか知らないけど「僕も行く」と言ってついてきたくせに、中根台駅からここまでCP33を持つ俺を手伝うわけでなく、ただ暑いだの怠いだの文句を言うばかり。なにしについてきたんだ?
 が、龍太の要求には賛同したい。九月と言えば暦の上じゃ晩夏で暑さは残暑と言うことになっているようだが、この暑さは残暑なんてカテゴリーには当てはまらないだろう。クラゲさえいなければ今すぐ海に行って泳ぎたいぐらいだ。
「そうだな。一文字屋に着いたってなにか飲めるわけじゃないし、ここで買っておくか。でも、自販機はどこにあったっけ?」
 駅から一文字屋までは公園を抜けていくのが近道なのだが、この公園はたいそうな名前が付いている割に売店がないし自動販売機も数が多くない。
「確か林の向こうの花壇の方にあったはずだよ」
 龍太が腰に手を当ててすぐ目の前に広がる林を見る。
「げっ遠いじゃん」
「でも、公園から一文字屋までって住宅街で自販機ないはず。ここで買わないとたぶん手にはいらないよ」
 しょうがねぇな。
 小比類巻先輩にはそこにあるベンチでCP33と待っててもらうことにして、龍太と自販機まで買いだしに行った。
「暑くて本当に嫌になるね」
 龍太は買ったばかりのスポーツドリンクのペットボトルを首筋に当てる。
「さっきから暑い暑いって言っているけど、おまえはスカートだから俺よりマシなんじゃないのか。こっちなんて熱吸収率最高の黒のスラックスだぜ」
「そうでもないよ。直射日光が当たるから結構暑いよ。それよりも暑いのがブラジャー。生地厚いし、窮屈だし。まったくこんなものをつける女の子の気持ちが分からないよ。平気で上半身裸でいられた男の頃が懐かしいなぁ」
 龍太はブラウスの襟元を盛大にバタバタさせる。
 男が上半身裸になれるって言ったってそりゃプールや自宅でだろう。いくら暑くても、さすがに公園の中で半裸になるヤツはいない。
「もう女なんだから観念しろよ。ブラをするのはエチケットってヤツだろう」
「エチケットって言うけど、こんなぺったんこのムネにブラは必要ないじゃん。ミキもそう思わない」
「知るか」
 などと下らないことを言いながらベンチに戻ると、小比類巻先輩の前に二人の野郎が立っていた。坊主頭で背は低いけどがっしりとした体格のヤツと、中途半端に長い髪を金髪に脱色している細身のヤツだった。なにかあったのか知らないけど金髪は鼻を押さえながら怒声をあげている。どう見てもナンパには見えない──ま、小比類巻先輩は怪奇生き人形な感じがしないでもないけど、客観的に見れば整った顔立ちの和風美人だ。ただ、ナンパしてもあの独特の雰囲気に気圧されてたいていのヤツは諦めると思うけど──このくそ暑いのにもめるのは嫌なんだけど……。
「先輩、どうしたんッスか?」
「テメエらなんだ? この女のツレか?」
 小比類巻先輩が答えるより先に坊主頭が振り返って俺をにらむ。
 妙に耳が肉厚だな。こいつ柔道でもしていたのかもしれないな。金髪の方は……ありゃ鼻血出してるよ。
「はい、これ先輩の分です。で、なにがあったんすか」
 俺は二人を無視して小比類巻先輩のリクエストドリンクを渡す。
 露骨に無視したことで坊主頭がにらんでいるのが背中に伝わってくる。横目で見ると金髪の方は新たな少女に目を奪われているようだ。龍太はぱっと見は美少女とも言えないこともないかもしれないかもしれない──このまどろっこしい表現は、過去を知っている俺の良心だと思ってくれ──ただし、スレンダーを通り越してムネもないし尻もないけどな。
「この人たちが治療費をくれって言ってる」
 小比類巻先輩はガラナというコーラの出来損ないのようなジュースを手に他人事のように話す。
「治療費って、あの金髪の鼻血ですか」
「違う」
 坊主頭がにらんでいるのは無視して、とりあえず俺は小比類巻先輩から経緯を聞くことにした。
 それによれば、ベンチに立てかけておいたCP33が倒れて、たまたま横を通り過ぎようとした金髪にぶつかった。小比類巻先輩は「ごめんなさい」と謝ったが、金髪が怒りだしたという。ま、無表情のまま小声で謝られても普通のヤツには気付けないかもしれない。おおかたぶつけてもなにも謝りもしないと思ったんだろう。そのことに関しては金髪に同情するよ。だが、その後が良くなかった。「他人様にこんな重たい物をぶつけておいて謝罪も無しですまそうってか。そんな態度なら俺たちも考えがある。怪我の治療費と不快になった気分の慰謝料を払ってもらおうじゃないか」と啖呵。おい、おい、昭和時代のヤクザじゃないんだから、いまどきはやらない因縁つけてくるなぁ。小比類巻先輩としては謝罪しているつもりだから、金を請求されてカツアゲされていると思ったようだ。どうも小比類巻先輩は不正とか悪事が許せない気質なようで、「クズにやる金はない。クズの下らない浪費のために私の金は一円たりともくれてやる気はない」なんて、火に油を注ぐようなことを言っちゃった……頼みますから自分の実力と状況を適切に判断して発言してください。まあ小柄で無表情の女にこんなことを言われたら誰でもカッとなるよなぁ。金髪は「てめぇ!」なんて定番の台詞を言って踏みだした時、偶然にもまたもやCP33が倒れてこんどは顔面にヒット。出血大サービスとなったところに俺たちが戻ってきたということだ。
 う〜む。どちらが悪いとは言えないような状況だけど、坊主頭の方は完全に熱くなっているよ。
「無視するんじゃねぇよ。てめえは誰だって聞いてるんだ」
 いらだった声とともに乱暴に肩を押される。
 こりゃあ話し合いじゃ和解しそうにない雰囲気だよなぁ。と言うかやる気満々だよ。金髪も鼻を押さえたまま俺をにらんでるし……ああ、面倒だなぁ。
「龍太と先輩はそこで待ってください。いま、この二人と話をつけてきますから」
 俺が林を指差し歩きだすと二人もついてきた。
 単純な野郎でよかったよ。
 林の中での話し合い(ただし拳で)はスムーズに終わった。待っていろって言ったにもかかわらず龍太が「僕も混ぜて。最近ケンカしてなかったから身体が鈍っていたんだ」なんて言って乱入してきたのは予定外だったが……こんな二人ぐらいなら俺一人で十分なのによ。しゃしゃり出てきて、スカート穿いてるのにハイキックとかするなよ。もう女なんだから少し慎め。
「先輩、円満解決ッス。話し合ったら彼等も理解してくれました」
「理解……そう」
 小比類巻先輩はジト目で見ていたけど、それ以上は追及せず、
「助けてくれてありがとう」
 と言って頭を下げてくれた。
 ちょっとトラブルはあったけど俺たちは無事一文字屋に着いた。ちなみにCP33は楽器屋では直すことができずメーカーに修理に出すことになった。




 と言うことがあったが、ケンカなんて珍しいことじゃないし、すっかり忘れていた。
 小比類巻先輩も気にすることなんてないのになぁ。
「そんなこと恩義に思わなくっていいっす」
「お礼はお礼。だからうちを使っていい」
「ゾーシュ君の粗暴もたまには役に立つことがあるのだな。瑠月がお礼をしたいというのだから遠慮するのも無粋だろう。ここは瑠月の好意に甘えるとしようではないか」
「そんなことで家を使って本当にいいんですか」
 十歌部長はああ言うけど、そんなことを恩義に思われるとこっちが気を使うんだけど。
「平気。ついてきて」
 小比類巻先輩は返事を待たずに歩きだした。




 *               *               *




 小比類巻先輩の家は学校のある植山駅の隣りの西町駅にあった。西町は工場が多い地域で大小の会社が集まっている。たしかにここならどんなに爆音で演奏しても文句はこないだろう。だって周りの工場が出す音やひっきりなしに往来するトラックの音のほうがはるかにでかい。
 小比類巻先輩の家も何かを製造しているようだ。数棟の工場と事務棟、事務棟の横にマンションのような四階建ての建物が並立している。この建物が小比類巻先輩の家だそうだ。一階は倉庫で二階以上が住宅となっているらしい。
「入って」
 俺たちが通されたのは倉庫だった。倉庫といっても実際に荷物は置かれておらず、ガレージルームのようになっていた。広さは十畳以上あると思う。奥の方にドラムセットやベースやアンプなどが置かれていて、入り口の近くにはソファーやテーブルやさらには小さな冷蔵庫まである。練習の場所としては文句なしだ。
「プロミュージシャンの専用スタジオみたい」
 眺めていた由綺南先輩が嘆息交じりにつぶやく。
「凄い! 窓が二重窓で防音になってる。壁も相当厚いみたいだよ。中根台の貸しスタジオより防音性能がいいかも。ねえミキもそう思うでしょう」
 龍太は壁を叩きながら興奮気味に尋ねてくる。
「ああ、そうかもな」
 工場街にあるから騒音が入ってこないように自宅を防音にしてあるんだろう。
「ドラムはパールのマスターカスタムだ。中根台の貸しスタジオよりいい物を使っているぜ。ねぇ小比類巻先輩、このドラム誰が使っているんですか?」
「姉」
 小比類巻先輩から素っ気無い答えが返ってきた。
「お姉さんのですか。だったら勝手に使ったらやばいんじゃないですか」
 もし俺がドラムセットを持っていたとしたら他人に勝手に触られるのは嫌だ。チューニングとか変えられたら面倒だもんなぁ。
「だいじょうぶ。姉はいまアメリカの大学に留学しているから」
「ねえ瑠月ちゃん、このベースはどなたの? ずいぶん使いこんでいるみたいだけど」
 スタンドに立てかけられたTUNEのベースに顔を近づけて見ていた由綺南先輩が尋ねる。
「姉」
「えっ、瑠月ちゃんのお姉さんってドラムとベースやっていたの。凄いわね」
 由綺南先輩は素直に感心している。
「違いますよぉ。一番上の海お姉ちゃんズは双子なんです。観海(みか)お姉ちゃんがドラムで、優海(ゆか)お姉ちゃんがベースを弾いていたんですよ」
 予想していなかった方向から答えが返ってきた。声の方に目をやると、奥のドアのところに短髪の女の子が立っていた。小比類巻先輩並みに小さいんだけど、先輩と違って肌が小麦色に焼け健康さとか元気さを全身からにじませている。
「誰?」
「初めまして。あたし瑠月お姉ちゃんの妹で涼風(すずかぜ)って言います。青欧女子高の一年生です」
 溌剌とした声で自己紹介し、ぺこんと頭を下げた。
「瑠月お姉ちゃんが友達を家に呼ぶなんて滅多にない珍しいことだから驚きと好奇心で覗きにきちゃいました」
 涼風は屈託のない笑みを浮かべる。
 表情がころころ変わってなんだか激しく動き回る小動物的な印象の娘だなぁ。姉妹なのに小比類巻先輩とは雰囲気が違う。小比類巻先輩が日本人形なら、この涼風はファンシーなぬいぐるみって感じ。
 それにしても小比類巻先輩が友達を連れてくるのは珍しいって……わかるような気がする。先輩ってエキセントリックな性格だから友達少なそうだもんなぁ。
「アンプはベースアンプとキーボードアンプだけか。部室から小さいギターアンプを持ってくればよかったな」
 涼風に関心を示さず、ひたすら機材を調べていた十歌部長が小さく鼻を鳴らす。
「あっ、ギターアンプならあたしの部屋にあります」
「君はギターを弾くのかね?」
 初めて涼風の方に顔を向けた十歌部長の瞳には好奇心の色が浮かんでいる。
「ギターは持っていますけど、海お姉ちゃんズや瑠月お姉ちゃんみたいに上手くないです。まだ遊び程度なんですよ。でも、いつかはバンドを組んでみたいとは思っています」
 照れ隠しのように、にははと笑って涼風は頬をかいた。
「目的意識を持つことはいいことだ。バンドを組みたいという気持ちを持ち続ければ上達もするしバンドもきっとできるとも」
 十歌部長は優しい表情で励ます。
「はい。ありがとうございます。がんばって皆さんのようなバンドをつくってみせます」
 涼風は握りこぶしをつくって大きくうなづいた。
「ねえミキ。あの娘って小比類巻先輩と違ってノリがいいね」
 龍太が小声で話しかけてきた。
「いいんじゃね。小比類巻先輩と同じ性格のが二人も三人もいたら怖いし」
 できるだけ声をひそめて龍太に聞こえるかどうかのボリュームで答える。
「だよね」
 苦笑いのような表情で龍太はうなずく。
「でも、あの妹さんだって姉妹なんだから、ひょっとしたら性格が似てるかもしれないよ」
 龍太は笑いながら十歌部長と話している涼風の方を親指で指差す。
「そりゃぁないだろう。俺のところだって龍太のところだって兄弟の性格はバラバラじゃん。ふつうは兄弟だって性格は違ってくるもんだぜ」
「一般的には違うけどさ、小比類巻先輩の妹さんだよ。ふつうには当てはまらないかもよ」
 龍太が妙に食い下がってきやがる。なんか知らないけど小比類巻先輩が絡むとしつこくないか? 小比類巻先輩とウマが合わないんだろうか?
 俺がそんなことを考えていると、くぃくぃとワイシャツの裾が引っ張られた。
 ん?
 振り返ると十歌部長と話していたはずの涼風がいた。ほんの数秒前まで十歌部長と話していたはずなのに、いつの間に忍び寄ってきたんだ? 動く気配を見せず俺に気づかせることなく背後を取るなんて、なかなか侮れないな妹。しかし、姉妹そろってワイシャツを引っ張るとは……小比類巻家ではこの方法で人を呼ぶのが流行っているのか?
「すみませんけどアンプを運ぶの手伝ってもらえますか」
 涼風は大きめの瞳に奇妙な輝きをたたえて見上げてくる。
「アンプね。いいよ」
「ありがとうございます」
 涼風は大げさに頭を下げる。




 二階部分は普通の家と変わらないつくりだった。居間があり、キッチンや客間もある。涼風の部屋は三階にあるという。
「ねえ、あなたがオトメさんですよね」
 三階に上る階段の前で涼風は振り返り真顔になって尋ねてきた。
「そうだけど。それがなにか」
「オトメさんは瑠月お姉ちゃんの彼氏さんなんですよね?」
 涼風は魚を目の前にした猫のように目を輝かせる。
「は? 俺が先輩の彼氏? 誰がそんなことを言っているんだ?」
 俺と小比類巻先輩が恋人同士なんて無理があるだろう。話すことは音楽のことばっかしだし、先輩は極端に口数が少ないからその音楽の話だって「もう少しシンセのテンポ下げてもらえますか」とか「バスドラの音抑えたほうがいいっすか」みたいな色気もなにもない会話だけだ。
「えっ! 違うんですか」
 思いっきり肩を落として露骨に失望の表情を浮かべる。
「違う。どこをどうしたら俺と先輩が付き合うなんてことになるんだ?」
「デートしている時ヤンキーに絡まれたのを救ってくれたって……だからてっきりオトメさんは瑠月お姉ちゃんの彼氏さんなのかと思ったんだけど」
 世間じゃ荷物運びをデートって言わないと思うぞ。だいいちオマケの龍太もいたんだからな。
「本当に違うんですかぁ。だっていままで男の子どころか女の子の友達の話すらなかった瑠月お姉ちゃんが、最近はバンド仲間の話やオトメさんの話ばっかりするんですよ」
 なんか上目使いの瞳に疑念って色が浮かんでるんだけど。
「先輩が俺の話をねぇ……いったいどんなことを話しているんだ?」
「今日は二人で演劇の練習をしたとか、オトメさんのパワードラムは凄いとか、オトメさんがボーカルを取るときは瑠月お姉ちゃんがシンセでサポートしなきゃいけないから大変だけど楽しいとか毎日話してくれるんですよ。今までは学校の話しなんか全然なかったのに」
 涼風は階下へと続く階段を一瞥する。
「瑠月お姉ちゃんって小さい頃からピアノとかやっていてキーボードが上手いし、ロックなんかも好きなんだけど、人見知りが激しくって今までバンドに入ったことなかったんですよ。なのに急にバンドに入るんだもん。きっとバンドの中に気になる人がいるんじゃないかなぁ」
「そんなことないだろう。たまたま先輩もバンドをしたいって気持ちの時期だったのさ」
「そうかもしれませんね」
 と言いながら、涼風はにぃと笑みを浮かべて階段を上っていく。
 なんだあの笑いは?
 それにしても、気になる人? 髭右近先輩は辞めちゃったし、龍太は女になっちゃったし、やっぱ俺か? まさかな。残りは女の子だけだし……ひょっとして小比類巻先輩って女の子が好きな人だったりして……バカなことを考えてないでアンプ運ぼう。


 涼風を観客に九時まで練習した。たとえ一人だけでも観客がいるっていうのは緊張感があっていいな。演奏に張りがでる。
 練習になるや十歌部長が暴君になるのは変わらなかったけど。


「十歌部長、小比類巻先輩の妹さんに聞いたんですけど、小比類巻先輩って人見知りが激しくって、いままでバンドに入ったことがなかったらしいんです。よく俺らのバンドに参加してくれましたね。いったいどうやって説得したんです?」
 小比類巻先輩の家から帰る道すがら俺は尋ねてみた。
「私が説得したのではない。由綺南が紹介してくれたのだ。詳しいことは由綺南に聞いてくれ。おい、由綺南。ちょっと来てくれ」
 龍太と話していた由綺南先輩は、十歌部長に呼ばれてこっちにやってきた。
「瑠月ちゃんをどうやって説得したかですって? 説得なんかしなかったわよ。前に十歌ちゃんからキーボード奏者を探しておいて欲しいって言われていたから、同じ中学校だった瑠月ちゃんを思いだしたのよ。それで瑠月ちゃんにバンドに入って欲しいって言ったら、メンバーは誰だと聞くからメンバーを教えてあげたらすんなり承諾してくれたの」
「それだけなんですか?」
「うん。そうよ……あっ、でも」
 由綺南先輩は顎に手を当ててちょっと首を捻る。
「そう言えば、ミキ君の名前を告げた時、瑠月ちゃんが嬉しそうな顔をしていたような気がするのよ……ひょっとしたら瑠月ちゃんはミキ君がいたからバンドに入ってくれたのかも」
「それはないですよ。今まで俺と小比類巻先輩とはなんの接点もなかったんだから」
「わからないわよ。瑠月ちゃんが密かに憧れていたとかあるかもしれないわよ」
 由綺南先輩はいたずらっぽく笑う。たぶん俺をからかっているんだろう。次はなにを言って困らせようとばかり、楽しげに輝かせた目で何度も俺を見る。
 まったく。由綺南先輩は基本的には良い先輩だけど、ときたま俺をからかって遊ぶんだよなぁ。
「ねえミキ君……」
「諸君、小比類巻家の御厚意によって毎日あそこが使えるようになった。明日からは授業が終わりしだい小比類巻家で練習するから、各自ご家族には今までより帰宅が遅くなる旨を伝えておくように。わかったかね」
 由綺南先輩が何か言いかけた時、十歌部長がこう宣言した。
 これ以上由綺南先輩にからかわれるのは勘弁願いたい。だから俺は話を打ち切るつもりで「おーっ」と、十歌部長に腕を上げてこたえた。
 さあ思う存分練習するぞ…………と、この時は思っていたんだが。




 【Y】Wake up Reality




 練習が終わった時、十歌部長が「明日は練習は休みにして部活としてライブを見に行く」と突然言いだした。
「珍しいわね。部活でライブなんて」
 由綺南先輩が驚いたように言う。
 由綺南先輩じゃないが俺も驚いていた。だって部活の後に喫茶店やファミレスに行ったことはあっても、みんなでライブに行くことなんてなかったし、そもそもライブを見に行こうなって話すらなかったからな。なのに文化祭が近づいて忙しいこの時期に練習を休みにしてまでライブに行くなんて。いったいどうしたんだ? 龍太や小比類巻先輩も訝しげな目で十歌部長を見ている。
「明日、小岡町にあるライブハウス『ラ・フォーリエ』に髭右近のバンドが出るのだ」
 皆の注目が集まったところで十歌部長はこう言った。
「えっ、髭右近先輩ですか」
 龍太は凄く嫌そうな声をだして顔をしかめる。
 髭右近先輩が退部した理由が理由だけに、龍太には髭右近という名前がトラウマになっているのかもしれない。
「髭右近の実力を知るいい機会だとは思わないかね。電子情報の進んだ現代においても『百聞は一見にしかず』だよ。我々がその目でしっかりと髭右近の力量を見極めるのだ。細部まですべてをだ」
 不敵な笑みを浮かべた十歌部長は俺たち一人一人の表情を確かめるかのごとくゆっくりと首をめぐらす。
「異論はないようだな。では明日は終業後速やかに帰宅し、私服に着替え六時半に小岡町駅に集まること。これはクロテンとしての初めての活動だ。心してかかるように」
 呆気にとられている俺たちに意を払う様子もなく、明日は楽しみだとひとりごちてからゆっくりと片づけはじめる。
 ちなみにクロテンとは俺たち軽音部バンドの名前だ。正式名はクロムウェル・マーク・テン、略してクロテン。十歌部長が練習の終わりに「我々のバンド名を発表する。バンド名はクロムウェル・マーク・テンだ。バンド名に関して諸君らの意見反論は認めるが変更はない」と一方的に決められてしまった。一方的だったけど俺に希望のバンド名があるわけじゃなかったし──俺としては軽音部バンドという名前でもかまわないと思っていたからな──みんなも異論がないようであっさり決まった。
 とにかく俺たちは明日、髭右近先輩のライブを見に行くことになった。




 待ち合わせの小岡町駅前はちょっとした公園になっている。俺は改札口が見えるベンチに座って待っていた。昼間はまだ暑かったのに夕方から風が出てきて涼しい。その風は夏の終わりが近いことを主張していた。アロハシャツ一枚でじっとしているとちょっと肌寒い感じすらする。
 薄着できたことに後悔しかけたころ改札口に龍太の姿が見えた。
「お待たせ。あれ、他のみんなは?」
「三人で待ち合わせしてから来るからちょっと遅れるってメールがあったよ」
「そうなんだ。じゃあしょうがないね。しかし……」
 と言ってから、龍太は俺を無遠慮に眺める。
「ミキって相変わらず凄いファッションセンスしているね。蟻柄のアロハなんていったいどこで買ってくるのさ」
「そんなに変か? けっこう面白いデザインだと思うけどな」
 俺がいま着ているのは白地に無数の蟻がプリントされたアロハシャツだ。動物柄のシャツなんて誰でも着ているじゃん。センスがどうのこうのと言われるいわれはないと思うのだが。
「でも、蟻がリアルすぎるよ。いまにも動き出しそうで身体がかゆくなるよ」
 龍太は顔をしかめて自分の身体を掻きながら俺の横に座る。
「余計なお世話だ。オマエみたいに面白味のない格好をするよりマシだ」
 龍太は無地の白いTシャツの上に濃紺のシャツを羽織り、履き古したような色合いのジーパンと言うスタイルだ。ユニクロで買い揃えられそうな格好なのに、それが妙に似合っている。シンプルな衣装が男とも女ともつかない中性的な容姿を逆に際立たせ、こういうのは癪だけどかわいく見えた。
「僕はファッションセンスがないんだよ。でも、ミキみたいな独特のセンスより無個性の方がマシだからね」
「うるせぇよ」
 と、俺と龍太はバカ話をしながら十歌部長たちの到着を待っていた。
 しばらくしたら、
「御苦労!」
 待ち合わせに遅れた詫びもなく、十歌部長が由綺南先輩と瑠月先輩を従者のように引き連れてズンズンと歩いてきた。
「諸君らの私服姿はなかなか見る機会がないから、改めて見ると日ごろ見慣れた諸君も新鮮に感じるな。ヤマダ君はシンプルにまとめてきたな。でも似合っているぞ。ゾーシュ君は……コメントは控えよう」
 十歌部長は俺たちを見比べて苦笑を浮かべる。
 何ですかその物言いは! はっきり言えばいいでしょう!
 十歌部長はスタイルの良さを──特に胸の大きさを──強調したシャープなラインの黒シャツにスリムジーンズ。飾り気のない格好だけど、それが十歌部長の凛とした顔にはよく似合っていて二十歳ぐらいの女性の魅力すら感じさせている。
 背が高くて美人だから周りの男どもの視線が露骨だ。かくいう俺も目の前に屹立する十歌部長のムネに視線が釘付けになりそうになり、そのたびに龍太から肘撃ちを喰らった。なにしやがる。男が女のムネに目がいくのは自然の摂理だろう。いや、女性美の大きな要素のひとつであるムネを見ないことこそ失礼に当たるんじゃないか。痛っ! だから肘撃ちはよせ。そういえば龍太もいちおう女なんだよなぁ。龍太のムネに目をやった覚えはないなぁ……一度くらいちゃんと見てやるか……痛っ!
「リュウ君はスレンダーでカッコイイから、そういう格好が似合っているわね。ミキ君のは個性的ね。ずいぶんリアルの蟻だけど、その蟻はアルゼンチンアリかしらね?」
 由綺南先輩は俺のアロハを見ながら首をかしげる。
 蟻の種類まで知らないッス。
 由綺南先輩はオフホワイトのゆったりとしたワンピース。女物の服のことは分からないけど、軽そうで柔らかそうで生地に艶がある服だ。きっと上等なものなんだろう。これで日傘でも持っていれば高原に遊びに来たお嬢様って感じなんだけど、これから行く場所は高原の別荘じゃなくってライブハウスだ。色々な意味で浮きまくるだろうなぁ。
「奇異なファッションセンスを恥じることなく堂々と他人に開示するなんていい根性している」
 小比類巻先輩は俺を一瞥すると溜息混じりにつぶやく。
 先輩には言われたくないッス!
 小比類巻先輩はワインレッドのタンクトップにやたらとチャックやチェーンがついた黒の革ジャン、腕や首にトゲのついたチョーカーやリストバンド、ボトムはデニムのショートパンツとごっついブーツ。先輩のことだから黒一色のサバト的な格好で来るだろうと思っていたけど、どこのノーフーチャーな人ですかっていうファッションで来るとは思わなかった。今日行くライブってパンク系だったっけ?
「さて、時間もちょうどいいしライブハウスに行こうではないか。我々には敵情視察という重大任務があるからな。我らクロムウェル・マーク・テンの前途に立ちはだかる髭右近のお手並みを拝見しよう」
 十歌部長は戦場に赴く戦士のように厳しい表情になって歩きだす。


 ライブハウス『ラ・フォーリエ』は中通りにあった。雑居ビルの地下に続く階段には次回公演の告知ポスターやメンバー募集のチラシが所狭しと張られている。ロックなんてまともな人間がやることじゃないなんていう人がいるけど、確かにここには真っ当とはかけ離れた胡散臭さのような空気が充満している。俺はこの空気に違和感を感じていた。なんと言えば正確な表現になるのかわからないけど、自分がここにいいていいのかみたいな違和感だ。
 実は大きな会場で開かれるコンサートには行ったことはあるけど、ライブハウスに来るのは今回が初めてなんだ。だからライブハウスというものが予想以上に狭いことに驚いた。教室をちょっと大きくしたぐらいしかないじゃん。この狭い会場がもう八割方埋まっていて、凄いひといきれだ。俺たちはなんとか比較前方でステージ全体を見ることができる場所を確保できた──本当は野郎四人のグループが陣取っていたんだけど、俺たちが近づいたら自主的に場所を空けてくれた。それは十歌部長の美貌にビビって空けてくれたのか、俺の容姿にビビったのかわからないが──ここなら背の低い小比類巻先輩でも見えるだろう。
 大きなコンサート会場なら席が決まっているからそこに座って待っていればいいけど、オールスタンディングのライブ会場じゃ何をしていいのかわからず、かといって女性だけで話が盛り上がっている十歌部長たちの中に入っていく気にもいなれず、俺はキョロキョロと視線を彷徨わせながら会場を眺めていた。
「ライブハウスって狭いね。でも天井が高いなぁ」
 俺と同じくライブハウス初経験の龍太は、ライトやスピーカーがつり下げられた天井を見上げてつぶやく。こいつも女性だけの会話にはまだ入っていけないようだ。まだ女初心者だもんなぁ。
「すげぇな。ライブハウスってみんなこんな感じなのかな」
 俺も天井を見上げる。
 天井には鉄骨が縦横に走り幾つものライトがぶら下がり柔らかい光を会場に落としている。ライブが始まったらこの光が全部消えステージ上にセットされたライトが煌めくんだろうな。大きなステージでも眩しかったけど、これだけ狭い場所なら凄く明るいだろう。キラキラした光を浴びながら演奏するってどんな気分なんだろうな。光の圧力に押されてビビっちゃうかも。そう思ったら出演するわけでもないのにドキドキしてきた。
「普通の格好をした人が多いね。僕、ライブハウスに来る客って金髪やモヒカンみたいな髪をしたヤバイ感じの人が多いと思っていたよ」
「今どきそんなヤツは多くねぇんじゃないの」
 と答えたものの、俺もライブハウスに集まるヤツはヤバイってイメージがあったからちょっとほっとしている。こんな場所でもめたくはないからな。
 普通の格好をしたヤツが多い分、色々な意味で小比類巻先輩や由綺南先輩の格好が浮きまくっている。おまけに周りにいる野郎の視線がさっきからこっちに集まっている。十歌部長は凛としたナイスバディ美人だし、由綺南先輩はお嬢様的な綺麗さがあるし、小比類巻先輩だって喋らなきゃ和風美人だ。客観的に見れば龍太も中性的な魅力がある。みんなの視線は女性陣に向かい、続いて美女を独り占めしている(?)俺への嫉妬に変わる。
 勘弁してくれよ。みんな外面に騙されているぜ──と声を大にして言いたかったが、そんなことをしたら後が怖いので黙っていた。
「どんなバンドが出るんだろう?」
「『ファイティングオオアリクイ』と『G.B.J』に、大阪から来た『電動ビリケン様』だってさ。このバンド名だけじゃ、どんなジャンルか判断つかねぇよ。髭右近先輩のバンドなんて『漢魂保存会』だぜ、どこかの伝統芸能団体みたいじゃん」
 俺は入り口で貰った出演表を読み上げる。
「そうだね。それにしても漢魂なんて髭右近先輩らしい名前だね」
 龍太は苦笑いのような歪な笑みを浮かべる。
「そろそろ始まるみたい」
 由綺南先輩の声に反応したかのように会場が暗くなった。




 ファイティングオオアリクイとG.B.Jはそれなりに面白いバンドだった。ファイティングオオアリクイのボーカルはMCが上手くて、まだ温まっていなかった会場を盛り上げたし、G.B.Jは女性ツインボーカルで曲の途中で一人がサックスを吹き出したのには驚いた。
「ライブって凄いね。なんか僕、感動しちゃったよ」
 龍太は息を弾ませて話しかけてくる。
「そりゃ良かったな」
 俺は努めて声に感情が出ないように答える。本当は俺もライブというものに興奮していたんだけど、龍太や十歌部長にそれを悟られたくない。だって音楽素人みたいで恥ずかしいじゃん。俺みたいなごっついのが感動なんてしていたら、後で確実にみんなにからかわれるからな。会場のライトが落ちているのが幸いだった。だって明るかったら顔が紅潮していたのがばれていたぜ。
「次は髭右近だ。諸君、しっかり見るのだぞ」
 ステージに漢魂保存会のメンバーが上がってきた。メンバーはどうやら三人編成らしい。三人ともシックなスーツ姿。そんな格好をしていると言うことはAOR(Adult-oriented Rock=大人向けロック)でもやるんだろうか?
 それにしても、ドラムもベースも細身で凄くカッコいい。顔なんてそこいらのビジュアル系には負けない感じ……髭右近先輩の趣味全開だなぁ。
 各パートのチューニングや音合わせが終わると、髭右近先輩はステージの中央に立ち右手を高く振り上げた。夏休み前には毎日のように見ていた端整な顔立ちは全然変わらない。緊張なんてまるでないような表情で自然に腕を掲げ、握り拳をつくると勢いよく振り下ろす。
 それを合図にドラムが響く。MCなんてない。まるで挨拶代わりにとでも言わんばかりにリズムが会場に充満する。
 俺はすさまじく、そして心地良い音の奔流に飲みこまれていった。
 先に出た二バンドには悪いが髭右近先輩のバンドのレベルは彼らとは桁違いだった。ギターボーカル、ベース、ドラムのシンプルな編成なのに音の厚みが全然違う。これ見よがしのギターソロなんてない。何気なく弾いている風なのにギターの上手さが伝わってくる。ドラムだって凄いテクだ。ギターがメインのパートじゃバックに下がっているが、隙を見つけてボーカルとケンカするように心地良いリズムをぶつけてくる。ベースも自分が出るべきところ抑えるべきところをしっかりわきまえている。
 十歌部長が言っていた敵情視察じゃないけど、演奏が始まる前までは冷静に観察して髭右近先輩の力を見極めようと思っていた。けど、気がつけば先輩たちが奏でる音にどっぷり浸っていた。うねるような音の波に身体が包まれ、すべてを忘れて聞き入っていた。茫然自失って言うのはこういうことだろうか。髭右近先輩の後に本日のメインバンドが出たはずなのに全然覚えていない。




 *                *                *




 ライブハウスから出た俺たちは駅前にあるファミレスに入った。腹は減っていなかったけど、興奮しすぎて喉がからからだ。たぶんみんなも同じなんだろう。ドリンクバーだけ注文している。
「髭右近があの二人と組むとは誤算だった」
 十歌部長は二杯目のアイスティーを飲み干し、グラスをタンっと鳴るほど乱暴に置いた。
「髭右近先輩と一緒にいたあの二人って何者なんですか?」
「リュウ君たちは知らなかったのね。ドラムは三年生の菊池先輩。菊池先輩は十歌ちゃんの前の軽音部部長だったのよ。凄く上手かったのに三年生になったとき受験勉強に専念したいからといって軽音部を引退したの。ベースの人は二年生の浜田君と言って。瑠月ちゃんと同じクラスの人よ。浜田君は『ロビン・ローズ・ガーデン』という外バンに入っているの。ロビン・ローズ・ガーデンは色んなところでライブをしているのよ。十歌ちゃんの言葉じゃないけど、忙しいはずの菊池先輩や浜田君がヒゲ君とバンドを組むとは思わなかったわ。ヒゲ君だけでも上手いのに、あの二人まで入ったら文化祭で勝つのは正直きついわね」
 由綺南先輩は肩をすくめるように首を下げて小さく息を吐く。
 いつもは柔らかい笑みを浮かべている由綺南先輩や、根拠のわからない自信に満ちた顔をしている十歌部長までが真剣な表情になっている。それがどんなことかわかるかい? 俺が入部してから一度だってこんな表情をしているのを見たことがない。それだけ事は重大ということだ。
「ねえ先輩。浜田って先輩のクラスメイトなんでしょう。どんなヤツなんですか?」
 俺は重い空気をなんとかしなきゃと思い軽い口調で尋ねてみた。
「凄く女の子にもてる人。いつも女の子に告白されたりプレゼントをもらっている」
 小比類巻先輩は興味なさそうに淡々と答える。
「浜田の噂なら私も聞いたことがあるぞ。浜田に告白した女性は山ほどいるが皆断られたらしい。本当かどうかわからないが浜田はホモだという噂もある。ホモ疑惑をおいても浜田が女性に興味がないのは事実のようだ。由綺南も聞いたことはあるだろう」
 十歌部長は由綺南先輩に水を向ける。
「そうねぇ……」
 由綺南先輩は少し考えるような間をおいて、
「浜田君が相撲部の練習をいつも見ていると言う話なら聞いたことがあるわ」
 と、なかなか重いことをさらりと言う。
 と言うことは、浜田はデブ専のホモのくせにやたらと女にもてて、でもすべてふっているだとぉ。ゆ、許せん。俺なんか告白されたこともプレゼントももらったことがないのに……。
 この時点で俺は浜田を敵に認定した。十歌部長は髭右近先輩を敵視しているけど、十歌部長には悪いけど俺はそれほど髭右近先輩を嫌っていない。辞める時の言葉を直接聞いていないし、なにより髭右近先輩の音楽が好きだからな。だから今まで髭右近先輩と戦うと言ってもピンとこなかったけど、浜田の存在で俄然やる気が湧いてきた。
「十歌部長、俺ロックやるっすよ! 死ぬ気でロックをやるっすよ! そして浜田を叩き潰し、もとい、髭右近先輩に勝ちましょう! 龍太も死ぬ気でやるよな! 由綺南先輩も小比類巻先輩も一緒にやってくれますよね!!」
 龍太は呆けた顔をして「えっ? あぁ、うん」と答え、龍太につられるように由綺南先輩も小比類巻先輩もガクガクと首を振る。
「十歌部長。みんなも命がけでロックをするそうです。だから死ぬ気で練習して勝ちましょう」
「ゾーシュ君の下心はこの際おいておいて、ともかくメンバーにやる気が出たのは部長としてはこれ以上嬉しいことはない」
 豊満なムネをことさら強調するようにムネの下で腕を組んだ十歌部長は満足げにうなずく。
 ちなみにドラムの菊池先輩はノーマルらしい。だからと言って容赦する気はない。浜田と同じバンドと言うことで同罪だ。見てろよ漢魂保存会! もてない男の恨みを骨の髄にまで叩きこんでやるぜ。


 どうやったら髭右近先輩に勝つことができるかと言う話題になったとき、
「諸君らも今見てきたからわかっていると思うが、バンドとしてのテクニックは残念ながら髭右近のほうが上だ。と言っても演奏技術だけならば諸君らも髭右近には引けをとらない」
 十歌部長が真面目な声で断言した。
 テクニックで負けているのに、演奏技術は同等? それってどいうこと? 俺は十歌部長の言っている意味がわからず、「どういう意味だ?」と龍太に小声で尋ねる。龍太もわからなかったようで首をかしげている。
「諸君らは技術はあるが手段と経験がない。つまり我々は演奏技術を持っているが、それを他人に聞かせるという手段も経験もない。どんなにテクニックがあっても本番でそれを生かせなければ意味がないのだ」
 十歌部長が言うには、髭右近先輩は軽音部に所属する前、つまり中学時代からバンド経験がありステージ慣れをしている。浜田も同様だ。菊池先輩は軽音部オンリーだけど一年生のときから文化祭のステージに上がっている。さらには色々なバンドのヘルプもしていたらしい。つまり三人とも他人の前で演奏することは慣れているし、どうすれば客が反応するかを知っている。
 かたや俺たちのクロテンでステージに上がったことがあるのは十歌部長と由綺南先輩だけ。十歌部長は去年の文化祭でベースとして出ている。由綺南先輩は今年の新入生への部活紹介のときが初舞台だ。二人とも外バンドをやっていたわけじゃないので場数は少ない。俺や龍太や小比類巻先輩にいたっては他人の前で演奏をしたことがない。はっきり言えばステージの上でちゃんと弾けるかどうかもわからない。ましてや客を楽しませる方法なんて知らない。
「文化祭までには舞台度胸をつけるためにも一度くらいライブに出てみるのもいいかなとは思っていたが、髭右近のあれを見せつけられては一度といわず時間が許される限り何度でも出ておきたいな。頼めば今からでも出演させてくれるハコはあるけど、髭右近たちに手の内を読まれるのは困るし……なにかいい方法はないか」
 ブツブツとつぶやいて十歌部長はうつむいてしまう。
 ライブ? 俺たちが? ライブってそれなりに上手い人が出る場所じゃないの? 俺たちみたいな部活バンドなんて出ていいのかよ。
 と言うか……俺、人前でちゃんと演奏できるだろうか……ちゃんと歌えるだろうか……全然自信がない。
 練習の時だってけっこう間違えるし、十歌部長たちの前でさえ歌うことに緊張する。
 もしライブしているところをクラスメイトや地元の友達なんかに見られたら……それを思うだけで顔が赤らんでくるのがわかる。
「ね、ねえミキ。僕たちがライブハウスに出るなんてなったらどうしよう」
 龍太が笑みを失ってオロオロしながら言う。
「俺だって自信ないよ。と言うかライブってことを想像するだけで胃が痛くなってくる」
「僕だってそうだよ。もしライブハウスに出るなんてことが母さんや兄さんたちにばれたらと思うと吐きそう。マジに……」
 美也さんも龍太の兄貴たちもお祭り騒ぎが好きだから、龍太が出るなんて知ったら横断幕や幟を作って家族総出でライブハウスに来そう。もし俺が龍太の立場だったら確実に自決を選ぶね。
 小比類巻先輩も同じ気持ちなのか能面のような顔に少し影を浮かべて黙っている。
「時間があまりない状況だから、ライブハウスと言わず演奏する機会があればどんな場所でもかまわないのだが……」
 俺たちとは違う意味で十歌部長も難しい表情をして腕を組む。
 結局、一時間ほどファミレスにいたが、髭右近先輩に勝つ妙案は浮かばないまま解散となった。凄いライブを見て打ちのめされただけの一日はこのまま終わってしまうと思っていたんだ。この時点では……。




 *               *               *




 俺は浜辺の岩に座って海を眺めていた。街灯がほとんどないため海は黒い塊にしか見えない。ただ波の音と潮の香りがすぐそばに海があることを教えてくれる。顔を上げれば海のように黒い空に幾つもの光が瞬いていた。数知れぬほどの光の点が空に浮かんでいる。東京でも星は見えるけど、数が全然違う。ビーズを空にぶちまけたみたいだ。すげーな、本当はこんなに星があったんだ。改めてそんなことに感動してしまった。
「ミキぃ。こんなところで独りで何してるのさ」
「星が綺麗だから見ていた」
「ミキがそんなことをしても似合わないよ。それより晩ご飯ができたよ。早く食べよう」
 龍太は懐中電灯をグルグルせわしなく回す。
「晩ご飯は何?」
「涼風オリジナルカレーだよ」
「カレーか。キャンプの定番だな」
「そうだけど美味しそうだったよ。早く食べよう」
 みんなが集まっている場所に向かう途中で振り返ると、黒い海のずっと先に小さな光──襟裳岬の灯台の灯りが見えた。


 そう、北海道の襟裳岬だ。俺はいま北海道にいるんだ。なぜかって? それは俺の方が聞きたいぐらいだよ。髭右近先輩のライブを見た日の夜、日付が変わろうとする寸前に十歌部長から『十九日からの連休を使って四泊五日のライブツアーに出る。必要な道具を用意しておくように。なお、ツアー中の旅費及び宿泊費・食事代はかからないので心配は無用だ。詳細は明日の部活で報告する』と、一方的な文面のメールが届いたんだ。
 四泊五日のライブツアー? それも費用はかからない? それってどういうことだよ。慌てて返信メールを送ったけど『詳細は明日の部活で』というメールが返ってきただけだった。
 翌日、部活に行くと、
「このメンバーでライブを経験したいが近場でやると髭右近に我々の手の内を知られてしまう。ステージ慣れしている髭右近に手の内を知られては我々が文化祭で勝つ可能性が低くなる。しかし、ライブ経験のない諸君のためにもライブを経験させたい。そこで秘策として髭右近が気がつかない遠隔地でライブをすることにする」
 と、十歌部長は宣言した。
「遠隔地ってどこに行くんですか?」
 昨晩から気になっていた質問をぶつけてみた。
「うむ、北海道だ」
 十歌部長は渋谷か新宿に行くような軽い口調で答える。
「北海道!」
 龍太の声が部室に充満する。
「北海道まで離れれば髭右近に気付かれることもないだろう。それに由綺南の叔父上がイベント系の会社を運営していて、我々のために北海道で使う車を提供してくれた。諸費用の問題だが、由綺南の叔父上が提供してくれた車は試作車であり、我々はそのモニターのアルバイトとして同乗する。アルバイト代は北海道への往復の航空機代と現地での飲食費で相殺される……」
 呆気にとられる俺たちを前に十歌部長は詳細な予定を話しだす。
 それによると、北海道での移動と宿泊はミュージシャン用に開発したキャンピングカーで行われるらしい。ただし俺は女の子たちと一緒に寝るわけにもいかないのでテント(これも由綺南先輩の叔父さん提供)で寝ることになったが。
 北海道に渡ってキャンプをしながら釧路、旭川、札幌を回ってライブするらしい。
 なんというか強引でムチャクチャな予定を決定してしまったことを呆れるべきか、わずかな時間にこれだけの段取りをした十歌部長の手際の良さを感心すべきか分からないけど、なんかすげーな。バンドを組んでわずか半年もしないのにライブ、それも北海道でツアーだってさ。
「龍太、ライブツアーだって。どるする?」
「どうするって……ミキはテントで一人で寝られるけど、僕は十歌先輩たちと一緒だよ。女の子と一緒に寝るなんて…………どうしよう」
 十歌部長たちに視線をやった龍太は腕を組んで大きな息を吐く。
「ねぇミキ。ツアーの時さ、ミキと一緒にテントで寝ていい?」
 は? 宿泊に関しては聞いていないんだよ。だいいち女の子と一緒ってオマエだって女だろう。女同士一緒に寝るんだから、羨ましい……じゃなくって、問題ないじゃん。
「お断りだ。俺が聞いているのは寝場所の問題じゃなくってライブのことだ」
「ライブ? いいんじゃない。北海道なら母さんや兄さんたちが来ることはないだろうからさ。本番の前にライブって経験してみたかったからいい機会だよ」
 さっきとは打って変わって軽い声が返ってくる。
 経験もないくせに人前での演奏はよくって、同性と一緒に寝る方が問題があるなんて。こいつ度胸があるんだかないんだからわからねぇな。
「……さて、以上がライブツアーの予定だ。連休ゆえ諸君らにも都合があるだろうが冠婚葬祭の理由以外では不参加は認めない。で、諸君らは参加かね? それとも不参加かね?」
 選択肢をほとんど与えず十歌部長は俺たちに選択を迫った。
 幸か不幸かメンバーの中には連休中に親族が結婚する者も出産する者も、さらには誰かが病になったり死ぬ予定もなく十歌部長の提案に応諾するしかなかった。
 これでいいのかなぁ。




 【Z】travelers




 九月十九日午後二時。俺たちは六人は北海道に着いた。俺たち──俺、龍太、十歌部長、由綺南先輩、小比類巻先輩、それに涼風だ。驚いたことに涼風がローディーとしてツアーに同行していた。ローディーというのはバンドをサポートするメンバーのことだ。ローディーと言っても料理が得意な涼風はコックとして参加することになったらしい。空港に着いたはいいが、それからが大変だった。女性陣は何をそんなに持ってくる必要があるんだと思うほどの大きな荷物だし、おまけに楽器も持ってきていて、それを受け取り場備え付けのカートに乗せるだけでもひと苦労。俺なんか着替えが入ったバッグ一つだけ。ドラムは運びようがないし、俺自身スネアドラムしか持っていないから持ってきたのはスティックだけだ。なんでそんなにでかいキャリーバッグなんて持ってくるかなぁ。たかが四泊五日だろう。明日からの四日分の服があれば事足りるはずなのに、十歌部長も由綺南先輩も小比類巻先輩も涼風も、おまけに龍太までもが一ヶ月分の服が優に入りそうな大きさだ。みんな朝昼晩で服を着替えるつもりか? 女ってわかんねぇな。
「初めまして。皆さんのお世話をさせていただきますツバキと申します。短い間ですがよろしくお願いします」
 民族大移動並みに大荷物を抱えた俺たちを到着ロビーで出迎えてくれたのはツバキという人物だった。ツバキさんは由綺南先輩の叔父さんが社長をしている会社の北海道支社の社員で、今回は俺たちのためにキャンピングカーの運転をしてくれる。正直言って高校生のお守りなんて面倒なだけだろうに、ツバキさんはそんなことを感じさせない穏やかな表情を浮かべている。たぶん人間ができているんだろうな。
 でも、ツバキさんは不思議な感じがする人だった。
 歳は二十代半ばかな。身長は一七〇センチほどだろう。サラリーマンのくせに髪を伸ばしていて、背中の中ぐらいまでありそうな長い髪を後ろでひとまとめにくくっている。目が大きくてやや吊り上がり気味のせいか猫を連想してしまう顔立ちをしている──後でみんなに聞いたら、やっぱり猫を思い浮かべたそうだ。細身の身体だと思うんだけど、妙に丈のでかいシャツを着てはっきりとは体型はわからない。声は龍太並みに中性的。
 はっきり言おう。俺はツバキさんが男なのか女なのかわからなくって困惑していた。男にしちゃ体の線が細いような気もするけど、身長はデカイし喋り方だって女々していない。かといって女にだって一七〇センチ以上のヤツはいるし、ぞんざいな口をきくヤツだっている。だいいちツバキというのは名字なんだろうか? 名前なんだろうか?
 こっそりと由綺南先輩に男なのか女なのかと尋ねたんだけど、由綺南先輩も初めて会う人でわからないとのこと。叔父さんからは空港にドライバーを迎えに出すと言われただけで、男なのか女なのか言わなかったそうだ。どっちなんだよ?
 ツバキさんの性別を気にしているのは俺だけのようで、みんなは気にするそぶりも見せず挨拶を交わしている。ひょっとして俺って気にしすぎ?
「では、みなさん。私に着いてきてください。車にご案内します」
 ツバキさんは男にしちゃ可愛すぎる笑みを浮かべて歩きだす。


 俺たちが乗るキャンピングカーは俺の想像を超える代物だった。行楽シーズンになると時たまキャンピングカーを見かけるから、せいぜいその大きさを考えていたのだけど、いま俺の目の前にあるのは大型トラック並みの車だった。
 ツバキさんの説明によればベースとなったのはやはり大型トラックらしい。ミュージシャンがツアーをしながら移動することをコンセプトに、移動中でも車内で練習できるようにスペースを設け、それに伴い防音性を高めてある。さらには演奏に支障がないようサスペンションも改良している。もちろんキャンピングカーとしての機能も充実していて、台所やトイレやシャワーは完備しているし、車内で八人まで寝られる。ただ、普通のキャンピングカーと違うのは元々がトラックのため運転席と居住部分が分離していることだ。本来コンテナを乗せる部分にキャンピングカー機能を持たせているためだ。だから運転中はドライバーとは直接会えない構造になっている。でも運転席と居住部分とは直接回線のスピーカーで繋がれているからダイレクトに会話はできるけど。
 車内に入ってみてこれがミュージシャン用と言う意味がわかった。
 居住部分がまっぷたつに仕切られていて後部が演奏スペースになっていた。貸しスタジオよりは狭いけど十分演奏できそうだ。アンプ類は壁部分に埋めこまれてシールドを差しこめばダイレクトに音が出るし、ドラムはエレクトリックドラムセットが一番後ろに置かれていた。弦楽器は立って弾くこともできそうだったけど、安全性を考慮したのか壁側には引っ張れば出てくるイスがセットされている。ただ、防音性のためだろうけど演奏スペースには窓がない。俺は閉所恐怖症じゃないが、ちょっと息苦しい感じがする。ま、贅沢を言ったらきりがないから、このぐらいの欠点は目をつぶらないとな。
「凄い」
「凄いですねぇ」
 龍太と涼風が声を合わせて感心している。
 十歌部長はツバキさんと話していて演奏スペースには来ていない。由綺南先輩と小比類巻先輩は持参した荷物を片づけている。俺はガキみたいに興奮して騒いでいる龍太と涼風を視界の端に入れながらエレクトリックドラムのセッティングに忙しい。エレクトリックドラムは楽器屋で何度か触ったことはあるけど、ちゃんと演奏をするのは初めてだから色々と覚えなきゃいけないことが多いんだ。
「ねえミキ。僕たちちょっとギターを弾くけどいいかな? アンプの音を確かめたいし」
 声の方に目をやると龍太とちゃっかり自分のギターを持ってきていた涼風はシールドを差しこんでアンプの調整をしている。
 いつの間にギターをセットしたんだ? 俺が呆れ半分でうなずくとチューニングもそこそこに演奏を始めた。どうやらギターアンプは悪くないようだ。それにしたって北海道に着いて初めて弾く曲がアニソンとは……二人が弾きだしたのは日曜日の午前中に放送している女の子向けアニメのオープニング曲だった。俺たちは文化祭に向けて演奏曲の練習をしてきたけど、そればっかりというわけじゃない。十歌部長曰く『色々なジャンルの曲を弾いていないと演奏がこじんまりとなってしまって面白くない』とのことで、部室や小比類巻先輩の自宅でもさまざまな曲を弾かされてきた。さらに今回のライブツアーではライブハウスだけじゃなくってお祭りのステージなんかでも演奏するから、幅広い年代の人に聞いてもらうため演歌(ロック風にアレンジしているけど)やアニソンなんかも練習してきている。
 二人のギターの音が絡み合うように響く。元気の良いテンポに乗せて龍太と涼風がいっしょに歌いだす。
 相変わらず龍太と涼風の演奏は息が合っているな。
 小比類巻先輩の自宅で練習するようになってから龍太と涼風は仲が良くなった。もともと二人とも明るくて物怖じしない性格だから波長が合うのかもしれない。それに二人ともギターに関しては初心者に毛が生えた程度だったから、十歌部長指導のもと二人そろって特訓することになった。やっぱ練習するには相手がいるほうがいいんだろうな──その甲斐あってか、龍太も涼風もめきめきと上達している。教える十歌部長の指導も良いんだろう。
 二人が楽しそうに演奏しているのを見ていたらムズムズしてきた。エレクトリックドラムの使い勝手も確かめたいし。
「龍太。ドラムを重ねるぞ。あらためて頭からいこうぜ」
 と、俺が声をかけると龍太は右手を上げてギターを構え直す。
 俺はスティックを頭上で打ち合わせカウントをとった。
「ワン、ツー……」
 さらにワン、ツー、スリー、フォーとつなげたかったのだが、
「ミキ君待って。私たちもいっしょに弾かさせて」
 と言って由綺南先輩と小比類巻先輩が楽器を持って入ってきた。
 先輩たちも物好きだなぁ。はるばる北海道まで来たというのに、着いた途端に楽器を弾きはじめるんだもん。
「諸君。演奏中にすまないが、そろそろ出発するぞ。私はまだ打ち合わせがあるのでいっしょに演奏はできないが、諸君らはそのまま演奏を続けていてかまわない」
 スピーカーから十歌部長の声が流れ、軽い振動と共に車は動き出した。低振動が売り物だけあってバスなんかと比べても揺れは少ない。一応安全のためにみんなイスに座って演奏を続ける。
 演奏したまま目的地に着くなんて凄ぇよ。みんな気合いが入ってることが演奏する音から伝わってくる。やっぱバンドは楽しいぜ。俺はスティックを空中で回転させ、キャッチと共にクラッシュシンバルを思いっきり叩いた。




 移動中、俺たちは演奏ばかりしていたわけじゃない。競馬馬の育成で有名な日高地方じゃ車を止めて牧場を走る馬の群を見たり、海鮮丼を食ったり、スーパーで夕飯の材料を買ったり、襟裳岬を観光したりして初めての北海道を堪能した──由綺南先輩は何度か来たことがあるそうだけど。俺たちが本日の宿泊地として着いた場所は襟裳岬から北上した百人浜という場所だった。
 夕陽の先には草地の先に赤っぽい砂浜が延々と続いている。う〜む、寂しさ満点。
「周りになんにもないし、なんか荒涼とした感じの場所ッスね。さっき地図を見たっすけど近くに百人浜キャンプ場っていうのがあるじゃないですか。泊まるのならキャンプ場に泊まった方がいいんじゃないですか?」
「ここもキャンプ場だよ」
 十歌部長は意味ありげな笑みを浮かべる。
「いや、キャンプ場だったと言った方がいいかな。ここは移転する前の百人浜キャンプ場だった場所なのだよ。確かにキャンプをするのなら設備が整っている百人浜キャンプ場に泊まった方がいいだろうが、残念ながらこの車では大きすぎて止める場所がないのだよ。でも、ここならば見ての通りの草地だからどこにでも止められるし、少し離れているが公衆トイレもある。それにここにはそれなりの価値があるのさ。そんなことより早いところテントを設営した方がいいと思うぞ。暗くなってから初心者がテントを立てるのは骨が折れるだろう」
 言われてみれば陽は沈みかかっている。早いところテントを立てないと俺の今夜の寝場所がなくなっちまう。俺はテントを組み立てたことがないから時間がかかるだろう。グズグズしていられねぇや。
「龍太、手伝え」
 俺は積みこんであったテント一式を抱え、「組み立てたことはないよぉ」とぐずる龍太を引っ張って草地に向かう。


「いいなぁ。いいなぁ」
 さっきから龍太がうるさい。
「ねえ、僕もここで寝ちゃだめかな?」
「断る! キャンピングカーがあるだろう。なにもテントで寝なくたっていいじゃん」
「えーこっち方が秘密基地みたいでいいよ」
 秘密基地ねぇ……秘密基地なんてガキっぽい表現じゃなくって男の隠れ家と言って欲しいぜ。
 まあ、龍太の気持ちがわからないでもない。ツバキさんが用意してくれたテントはやたらと広いものだった。それに照明灯のLEDランタンや折りたたみ式のイスとテーブル、コーヒーぐらい飲めた方がいいでしょうと調理用のガソリンランタンとコッヘル。これだけあればここで暮らしていけそうなほど充実している。組み立てるのには少々手間取ったけど、いざ目の前にテントが立ち上がるとメチャいい。テント前に置いたLEDランタンの光に浮かび上がる影が旅に来ているって気分を盛り上げてくれるぜ。
 大自然の中に俺一人。闇の中に光るたき火を見つめ、風の音を聞きながら熱々のコーヒーを飲むなんて男の世界だ。前から一度はやってみたいと思っていたのが現実となった。少し離れた場所にキャンピングカーがあるのは興醒めだが、文句を言ってもしょうがないから見てみないふりをしよう。
「テントもできあがったことだし、キャンピングカーに行ってシャワーを浴びようぜ。その後はメシ食って……」
「え〜僕も手伝ったんだからもう少しいさせてよ」
「ダメだ。さっさとシャワーを浴びるぞ。ほら、さっさと歩け」
 未練がましくテントを見ている龍太の尻を蹴ってやった──すぐさま綺麗なローキックが返ってきたが。あぁ痛ぇ。




 料理担当としてついてきただけあって、涼風の作ったカレーは本当に美味かった。みんなお代わりしたし、ツバキさんも「私はカレーが好きで本州の有名店にも行きましたが、この味ならカレー専門店に引けをとらないですよ」と褒めていた。褒められることに耐性がないのか、涼風は顔を赤らめて「お店の味に負けないだって。どうしようお姉ちゃん」と小比類巻先輩の背中を平手でどつきまくっていた。さっきから木の棒をナイフで削っている小比類巻先輩は、叩かれる寸前にナイフを動かすのを止めて無表情のまま前後に揺れるにまかせている。う〜む絶妙なタイミングだ。涼風は無意識に叩いているんだろうけど、小比類巻先輩は涼風の行動を察知するように動きを止めるもんなぁ。まるで息のあった人間の餅つきみたいだ。
「さて、諸君らはここがなぜ百人浜と呼ばれているか知っているかね?」
 食後の紅茶を飲みながらくつろいでいると十歌部長が唐突に質問してきた。
「百人が泳げるほど広い浜だからかしら?」
 由綺南先輩は真っ暗な海の方に顔を向ける。
 北海道だからアイヌ語から来ているのかもしれないけど、本当に広い浜辺だから由綺南先輩の答えあたりが順当なんだろうなぁ。
「残念だが外れだ。巷では幕末に南部藩御用達の船がこの沖で難破し乗組員百人が溺死したり、なんとか上陸したものの冬の寒さで凍死したから百人浜と名付けられたと流布している。しかしこれは間違いだと言われている。当時南部藩の御用船はこの辺りには来ていなかったそうだ。その他にもアイヌ人の反乱の時に死んだアイヌ人の死体を百人分埋めたからだと言う説もあるが本当のところはわからない。だから答えは〈わからない〉なのだよ。ただ、ここがキャンプ場だった時には夜中にたくさんの足音が聞こえるだとか変なことが度々起きたそうだ。そのせいか現在のキャンプ場は内陸部に移転してしまったがね」
 タチの悪い笑みを浮かべて十歌部長は俺を見る。
「私がキャンプ場所に百人浜を選んだのは、この怪異現象が理由なのだ。この話を知った時、ゾーシュ君のためにもぜひともここにキャンプしようと決めたのさ」
「俺のため……ですか?」
 十歌部長は何を企んでいるんだよ?
「そうだ。ゾーシュ君はオカルト的雰囲気とか怪奇的ないし猟奇的雰囲気というものを理解していないことが原因だ。我々が文化祭で演奏する曲はたぶんに怪奇的雰囲気を纏っている。しかし聞くところによるとゾーシュ君はオカルト否定論者と言うではないか。怪奇を理解できない人間に怪奇的雰囲気を持った曲を演奏させても聞き手に怪奇的的雰囲気が伝わるわけがない。だからこそゾーシュ君にオカルトというものを経験してもらおうと思いここを選んだのだ」
「は?」
 オカルト? 怪奇現象? おいおい幽霊なんているわけないじゃん。本当にいるんならNHKが報道しているさ。幽霊なんてすべて錯覚と気の迷いだ。それをわざわざ……酔狂だなぁ。
「そのためだけにここに来たんですか?」
「そうだとも。北海道には約四百のキャンプ場があるが、オカルト現象があるキャンプ場は意外と少なくって探すのは苦労したんだぞ」
「はぁ……お手数をかけました」
 なんと言っていいのかわからず、痒くもない鼻の頭を掻きながら頭を下げた。
「いや、感謝なら明日の朝してもらおう。今夜は君が今まで経験したことがないことを経験できる貴重な夜になるだろうからな」
 草地に立つ俺のテントを見つめながら十歌部長は紅茶が入ったマグカップに口をつける。
「ミキ、幽霊だってさ。テントで一人で寝るの怖くない? なんなら僕が一緒に寝てあげようか?」
 龍太の声にはからかいの響きが含まれている。
「いらねぇよ。この世の中に幽霊なんていないんだから心配無用だ」
「あっそう。だったら幽霊に襲われてもキャンピングカーに入れてあげないからね」
「いかねぇよ」
 誰が行くか。幽霊なんているかよ。
「ミキ君とリュー君は盛り上がっているわね。私たちも負けていられないわね。十歌ちゃん、なにか弾いてよ」
 俺と龍太の掛け合いを笑いながら見ていた由綺南先輩が、いいこと思いついたって感じで手を打って言う。
「いいとも」
 十歌部長は車に積んであった電池稼働のミニアンプを持ってきてギターを弾き始める。人家もない草地に音が響き渡る。龍太が歌ったり、涼風がギターを借りて弾いたり、俺と由綺南先輩がエアドラムとエアベースを弾いたり、小比類巻先輩がなにかを削り続けたり。俺たちは時間を忘れて北海道の初めての夜を楽しんだ。
「さて諸君、明日からは本格的にライブ活動が始まる。明日は朝から忙しいぞ。今日はもうお開きにしようではないか」
 バラードっぽい曲を弾き終えた時、十歌部長はミニアンプの電源を切った。それを合図に片づけを始める。
「んじゃ俺、テントに行きます。明日は七時にここに来ればいいんすね」
 十歌部長の「おやすみ。良い夜を過ごせるとを期待している」という揶揄じみた挨拶を受けながらテントに向かう。先輩の言う意味とは違うけど良い夜を堪能させててもらいますよ。月明かりの中にテントが見えてきた。あれこそ孤高の空間。さあこれからは男の世界だ。
 ん? シャツの裾が引っ張らた。枝にでも引っかかったか? 振り返ると小比類巻先輩の白い顔が闇に浮かんでいる。うぉ! ちょ、ちょっと、ビビった。いつの間についてきたんだよ。足音しなかったぞ。この人の方がオカルトっぽくねぇか。
「……これ」
 小比類巻先輩は木の棒を差しだす。
 木の棒には顔のようなものが彫られていて人形にも見える。さらには黒くて細い糸が何重にも巻きつけられている。さっきから先輩はこんなものを作っていたのか。でも、この人形の出来損ないに巻きついているのって糸じゃなくって髪の毛じゃないのか? なんというか、呪いの人形にしか見えないんだけど。
「なんすか、これ?」
「お守り。きっと役に立つはずだから、必ずテントの中に置いておいて。置かなかったら……呪う」
 マジっすか……こんな気持ち悪い人形と一緒に寝るのは嫌なんだけど。かと言って置かなきゃ本当に呪われそうだし……先輩なら本当に呪いとかできそうだからなぁ。まいったなぁ。とにかく預かっておいて、テントの外にでも置いておけばいいかな。
「本当に置いてくれる?」
 小比類巻先輩は笑みを浮かべて──怖っ! 先輩の笑みは怖かった。いままで色んなヤツとケンカしてきたけど、こんなに目の前の相手が怖いと思ったことはない。だけど先輩の笑みは、この世あらざる笑みとでも言えばいいのだろうか、生物の根元的恐怖を励起させる笑みだった。
「ひっ! お、置きます。必ず置きます。天地天命にかけて誓います」
「そう……」
 と、つぶやくと、小比類巻先輩はいつもの人形じみた表情に戻り足音も立てずにキャンピングカーの方へと歩いていく。
 なんなんだ? 気味が悪いが呪われるのはもっと嫌なので小比類巻先輩自称のお守りをテントの隅に放り投げた。




 *               *               *




 鳥の鳴き声で起こされるなんて小学校の時の林間学校以来だ。カモメかウミネコかオロロン鳥かしらないがギャーッギャーッって鳴きまくりやがって。腕時計を見るとまだ六時前……う゛ぅ勘弁してくれよ。
 俺は怠い身体を引きずるようにしてテントを出た。怠いのは朝っぱらからたたき起こされたのと、少々夢見が悪かったせいだからだ。十歌部長に昨晩は脅されたが、結果としては何もなかった。ただ、下らないことを言われたせいか変な夢は見た。
 夢の内容を他人に言うのは興醒めだと言うことは自覚しているが話しておこう。
 夢の中でも俺は寝ていた。何時頃か分からないが海の方から足音が聞こえ、同時に言いようのない不快感に襲われて目が覚めた。誰かのいたずらかと思ったが足音は一つ二つじゃない。何十もの足音がゆっくり近付いてきた。足音の主は呪いのような言葉を呻いている。何故か知らないが俺にはそいつらが生きている人間を恨んでいることがわかった──ま、夢だからな──そいつらが俺のテントに気づき、入ってこようとしていた。得たい知れない相手から伝わってくる圧迫感に胃には鉛を飲みこんだような重苦しさ、全身の産毛が逆立つような表現のしがたい気持ちに包まれた時、小比類巻先輩が押しつけていった怪しげな人形が光り『立ち去れ! ここはオマエたちのいるべき場所じゃない!』と小比類巻先輩の声が響いた。先輩の声は何度も響き、そのたびに光が強く大きくなっていって……そこから先は覚えてない。何というか荒唐無稽すぎて疲れたぜ。
 ま、変な夢は見たが今日の天気は良さそうだ。今日は俺たちの初ライブ。気合いを入れていかないとな。まずは顔を洗ってしゃっきりするか。
 洗面道具を取りにテントに戻ると、バッグの横に置いてあった小比類巻先輩謹製の呪いの人形(?)がまっぷたつに折れていた。寝ぼけて踏んづけるか寝返りを打って押し潰しちゃったかなぁ。やべぇ。一生懸命作っていたみたいだから、壊したなんて言ったら小比類巻先輩に怒られるだろうな……。
 俺の不安は杞憂に終わった。朝食の時に貰った人形が壊れたことを告げると、小比類巻先輩は俺の顔をじっと見て、
「気にしなくていい。あれは役目を果たしただけ」
 と言って満足げにうなずいた。
 なんの役に立ったのかわからないけど、怒られなくってよかった。
 朝食後はゆっくりする間もなくテントを畳み釧路へと向かう。そう、俺たちの初めてのライブの場所へと。


 釧路に着いたのは午前十一時前だった。ライブが行われる祭りの会場は郊外にある大きな公園で、祭は夜が本番らしいが俺たちが着いた時にはもう屋台が並び始めていた。
「このお祭りもウチの会社が協力しているんですよ。あそこの実行委員会本部になっているテントや夜間の照明器具なんかもウチの会社が貸しているんです」
 公園を歩きながら、ツバキさんは会社の仕事内容を教えてくれた。
「皆さんが演奏するこのステージのスピーカーやPA機器もウチの会社が用意したものなんです。だから少しばかり無理が通ったんですよ。それに社長の可愛い姪御さんのためならもっと面倒な頼みごとでも無理矢理押し通してみせますけどね」
 いたずらっぽい笑みを浮かべてツバキさんはウィンクする。
「さて、私はステージ責任者に挨拶してきます。皆さんはリハーサルの順番までお祭りを楽しんできたらいかがです」
 ツバキさんはそう言ってくれたが、誰も祭に行こうってことは言いださず、俺たちは会場の隅でリハーサルの様子を見ていた。
 中学生ぐらいのバンド、アコースティックギターのカントリーデュオ、アニソンを弾いていたバンド、ボーカルとベースとバイオリンの三人組。色々な音楽が奏でられていく。
「バンドフェスって言うけどジャンルはバラバラなんだね。それにしてもみんな堂々と弾いているなぁ。僕、ちゃんと弾けるかな」
 龍太の笑みはいつもと違ってひきつっている感じがする。
 他人の演奏を見ちゃって緊張してきたんだろう。そりゃそうだよな。俺も自分の顔が強ばっていることを感じていた。だって、龍太も俺も生まれて初めて他人の前で演奏するんだぜ。本当に自分が間違えずに弾けるのか不安になる。
「ビビっている場合じゃないだろう。俺たちもあそこで弾くんだぜ。負けずに堂々と弾いてやろうぜ。さあ、そろそろ俺たちのリハの順番だ。準備しようぜ」
 俺は自分に渇を入れるつもりで声に力を入れた。


 リハーサルでは自分で言うのも何だけど練習の時と同じくらいちゃんと叩けたと思う。龍太も出だしがちょっともたついたくらいでその後は上手く弾いていたし、十歌部長や由綺南先輩や小比類巻先輩も普段通りだった。ま、観客がほとんどいないし、音合わせって気軽さがあったからだろうけど、この調子なら本番も何とかなるんじゃないか。
「これなら楽勝ッスね」
「ゾーシュ君は知らないだろうが、リハと本番というものは雰囲気が全然違ってくるのだよ。リハでは完璧でも本番でグダグダというのはよくあることだ」
「そんなに脅かさないで下さいよ。せっかくやる気が高まってきたのに……」
 十歌部長への抗議は背後からかかった声にかき消された。
「あんたたち面白いね。こんなところでミスフィッツの曲が聴けるなんて思わなかったよ」
 ん? 振り返ると二十歳前後の女性がくわえ煙草でニコニコしている。誰?
「あんたたち内地から来たバンドでしょ? たしか名前はクロムモリブデン・ナンバー・テンだっけ?」
「はい。私たちがクロムウェル・マーク・テンです」と、十歌部長はしっかり訂正しながら「どちら様ですか?」と尋ねる。
「あ、ゴメン、ゴメン。あたしはヒステリックペンギンガーデンってバンドの笙子って言うのさ。よろしくね。あたしらパンクバンドなんだけどさ、パンクバンドって案外少ないんだよね。あんたたちもパンクバンドみたいだから声をかけたのさ」
 俺たちってパンクバンドなのか? って、思いが一瞬湧いたが、ジャンルなんかどうでもいいよな。バンドの知りあいができる方がいいもんな。
 笙子さんは北見という町のバンドのギタリストだった。このステージには二年前から参加しているそうだ。
「……Zinbってバンドのベースは女好きだから気をつけなよ。あんたたちは美人さんぞろいだからね。でも、この強面のお兄ちゃんがいれば大丈夫かな。お兄ちゃんしっかりガードするんだよ」
 こんな感じで笙子さんは地元のバンドのことや去年までのステージのことなどを教えてくれた。
「へぇーあんたたち、このステージが初ライブなの。わざわざ内地から北海道まで来てくれて初ライブをしてくれるなんて嬉しいなぁ。お礼にさぁ、あたしたちの出番はあんたちの前だから思いっきり会場を温めておいてあげるよ。じゃあそろそろ準備しなきゃいけないからもう行くね」
 と言って、笙子さんはステージで会おうねと言って小走りに行ってしまった。
「なんだか元気な人でしたね。まあ、ライブの面白さは演奏もそうですけど、色々な人と知り合えることですよ」
 いつの間に戻ってきたのか、ツバキさんは笙子さんの後ろ姿を目で追いかけている。


「クロムウェルさん、そろそろ準備願います」
 スタッフの人が声が響く。
「は、はい」
 いつもよりキーの高い声で由綺南先輩が答えた。
 俺たちは楽器を持ってステージ脇に移動する。
 ステージ上では笙子さんたちが熱く演奏している。ライブで釧路にちょくちょく来ていると言うことなので観客の反応がいい。
 最後の曲が終わると今まで聞いたことがないような歓声を受けながら笙子さんたちがステージから降りてきた。汗だくになった笙子さんは俺たちに向かって、
「さあ、あんたたちの初ライブだね。あたしはステージ脇で見させてもらうよ」
 ギターを振り上げてにっこり笑う。
「頑張ります」
 さっきジュースを飲んだはずなのにカラカラに乾いている口を無理矢理開いて俺は右手を上げてこたえる。
「頑張るじゃなくって、楽しみなよ」
 笙子さんは意味ありげにウィンクしてきた。
 頑張るじゃなくって楽しむ? 意味がわからねぇ。って、今はそんなことを考えている場合じゃない。
「さあ行くぞ」
 十歌部長がギターをつかんでステージに上がる。俺たちも後を追ってステージに向かう。
 ステージの上から見ると会場は妙に広く感じられた。爽やかな秋の色をたたえた青空の下に芝生が広がっている。そこにたくさんの人が集まっていた。若い人が多いけど、子供連れの家族やお年寄り夫婦、俺の親父ぐらいの年齢の人もいる。そんな雑多なたくさんの人たちが一斉に俺たちを見ている。数え切れない視線がステージに注がれている。そこにはどんな曲をやるんだという好奇や、笙子さんが盛り上げた雰囲気の中でさらに盛り上がりたいという熱気などが混ざっている。
 俺たちは視線に押されるようにしてセッティングを始める。さっさと準備が終わった十歌部長がMCをしているが、ざわめきのせいか何を喋っているのかわからない。俺たちの持ち時間は二十分。MCやセッティングの時間を考えれば三曲が限界だ。だから一曲目は地元北海道出身バンドの曲のカバー、二曲目はアニソン、三曲目は文化祭でも演奏するミスフィッツの曲と決めていた。
 MCをしていた十歌部長が振り返り俺たち一人一人の顔見て声を出さずに「さあ、始めよう」と口を動かした。
 俺は手の平の汗をズボンになすりつけスティックを握り直しうなずき返す。
 初ライブだ。ミスが無いように慎重に入らなきゃ。間違えるなよ俺!
 大きく息を吸ってスティックを振り下ろす。


 まばらな拍手を背に受けながらステージを降りた。
 ハッキリ言おう。俺たちは全然受けなかった。せっかく笙子さんたちが温めてくれた会場だったのに……。
 俺たちの演奏は完璧とまでは言わなくてもミスもなく演奏しきったはずだ。なのに観客の反応は鈍かった。何がいけなかったんだ? 選曲か? 俺たちが地元民じゃないからか? それとも俺たちの演奏が下手なのか? こんなに集中して真面目に演奏したのに……俺たちと笙子さんたちと何が違ったんだ?
 龍太も由綺南先輩も小比類巻先輩も口を閉じたまま楽器をかたづけている。十歌部長だけは何事もなかったような顔をしてツバキさんやスタッフの人たちと話している。
「お疲れ。いい経験になったろう」
 ステージ衣装のままの笙子さんが明るく声をかけてくれる。
 俺は答えるべき言葉が見つからず黙って頭を下げる。
「あらら、みんな黙りこくって暗いなぁ。初ライブであれだけ弾けたら十分だよ元気だせよ」
「痛え!」
 笑いながら笙子さんが力いっぱい俺の背中を叩きやがった。
 笙子さんって俺たちが受けないことが初めからわかっていたんだろうか。なんとなくそう思ってしまった。わかっていたのかどうかを聞いてみたい思いもあったけど、笙子さんは地元バンドの挨拶を受けていて声をかけるタイミングを逸してしまった。
 会場を白けさせたことを笙子さんに詫びたかったし、俺たちの何が悪かったのかを聞きたかったけど、それ以上にこの会場にいることが辛かった。笙子さん以外にも声を掛けてくれる人はいた。「よかったよ」とか「次は頑張れ」とか言ってくれたけど、俺もみんなもぎこちない愛想笑いしかできなくって……逃げるように釧路を後にした。




 *                 *                *




 釧路を出た俺たちはひたすら北上した。浮かない顔をしている俺たちを気遣ってくれたのか、ツバキさんは釧路湿原が一望できる細岡展望台や、摩周湖と言った観光地に寄ってくれた。でも、他のメンバーがどう感じたのかは知らないが、俺にはせっかくの雄大な景色というものを楽しめなかった。たぶん他のメンバーも同じなんだろう。昨日は観光地に寄るたびにはしゃいでいたけど、今日は妙に言葉が少なかった。涼風だけが昨日よりも派手に騒いでいたけど、きっと落ちこむ俺たちの気分を変えようと涼風なりの心配りなんだと思う。
 夕陽が沈む寸前に今日の宿泊地である屈斜路湖畔の和琴キャンプ場に到着した。
「オトメ君はさっさとテントを組み立てちゃってね。組み立て終わったらロータリーのところにお店があったから買い出しよろしく。ヤマダ君とお姉ちゃんはそこいらの石を集めてたき火ができるぐらいの場所をつくってよ。バーベキューするから純鈎先輩と三枝先輩は野菜をざっくり切っておいてくれませんか。すみませんツバキさん。車にバーベキューの道具積んでいましたよね。それ出しておいてもらえますか」
 キャンプ場に着くや涼風が俄然俺たちに指示を出し始めた。
 俺たちに拒否権は無いようで、涼風の指示されるままに慌ただしくこき使われまくった。なんとか一息ついた時にはもう太陽は完全に没していて、キャンプファイヤーとは呼べない小さなたき火がユラユラと紅い光を放っている。
「さて、楽しい食事の時間ですよ。新鮮な食材、美味しい空気、小さいけどキャンプファイヤーもあるんです。これで食事が不味くなるはずがありません。いっぱい食べましょう。人間お腹いっぱいになれば幸せになれます。幸せになれば嫌なことは忘れられます」
 と言った、シェフ涼風の言葉は嘘じゃなかった。初めは言葉は少なかったけど、熱々の食材が胃袋に落ちて行くにつれ気分が軽くなってくる。食事のなかばには色々な話題が出てくるようになってきた。今日のステージで見たバンドのことや笙子さんのことなどで盛り上がっていった──でも、誰も俺たちがどうして受けなかったかの話題には触れない。重い空気が残る盛り上がり方だった。その空気を文字通り吹き飛ばしたのは一台のバイクだった。スピードを落とさず真っ直ぐ突っこんできたと思ったらキャンプファイヤーの手前で急制動をかけた。キャンプファイヤーが派手に揺れ消えそうになる。
 このキャンプ場はバイクの乗り入れ可なのだ。が、さすがに普通の人は低速で走るか押している。こいつムチャクチャやりやがって。フルフェイスのメットで顔がわからないけど、誰だこいつ。ケンカ売っているのか?
「みんな落ちこんでいる? あんたたちのしけた顔を酒の肴にしようと思って遊びに来たよ」
 からかうような明るい声とともにメットの下からでてきた顔は笙子さんだった。
「笙子さん? どうして?」
「あんたたちの部長さんに今日どこに泊まるか聞いていたからね。これ差し入れ。あたしの地元で作っている酒だよ」
 笙子さんはバイクの後ろにくくりつけたキャリーケースのなかからたくさんのビールと日本酒の瓶を取り出す。




 笙子さんが酒を持ってきたのをきっかけに、キャンプ場にいたバイクや車でキャンプに来ている人も酒や食べ物を持って集まってきて宴会になった。年齢も性別もバラバラの見ず知らずの人たちが気兼ねなく集まってくるなんて。北海道は開放的な土地柄だとは聞いていたけど本当なんだな。
 俺たちは笙子さんを囲むようにして話しこんでいた。北海道のことや音楽のこと色々と話しているうちに今日のステージのことに話題は移った。
「今日は全然受けなかったけど、僕らの演奏って何が悪かったんだろう」
 龍太が独り言のようにつぶやく。
「わからないかぁ。まあ悩め、悩め。若人は悩んで大きくなるんだ」
 笙子さんはからかうように言うと日本酒に口をつける。
「え〜わかっているなら意地悪しないで教えてくださいよぉ。教えてくれなきゃ耳噛んじゃいますよ」
 アルコールが入っていつも以上に陽気になっている涼風が笑いながら笙子さんにからむ。
「わかった、わかった。わかったから耳を噛むな……きゃぁ!」
 笙子さんはパンクないでたちに似合わない可愛らしい悲鳴を上げると、子泣き爺のように背中にへばりついて耳を噛んでいる涼風を背負い投げの要領で放り投げた。
「タチの悪い酔い方だなぁ」
「きゃあ! だって……あははは。教えてくれなきゃまた耳噛んじゃいますよぉ」
 地面で大の字になったまま涼風はきゃらきゃら笑っている。
「教えてあげるから、この酔っぱらいを押さえておいてくれよ」


「みんなステージの上で楽しんでいた? 上手に演奏しようとか、間違えないように弾くことばかり考えていなかった? 聞いている方はさ、演奏している人の気持ちを演奏する音を通して感じているのさ。演奏する君たちが客を楽しませよう、自分たちも楽しもうって気持ちがなかったら、聞かされる音も面白くないのさ。それじゃ客はのれないよ」
 笙子さんは根本まで吸ったタバコをたき火の中に投げ捨てる。
「私、楽しんでいなかったかもしれない。間違わないようにって指の動きだけ見ていてお客さんを見てなかったし、みんなの音もちゃんと聞いてなかったかもしれない」
 下戸の由綺南先輩はジュースが入ったコップを両手で抱えたままつぶやく。
「初めのうちはよくあることだよ。やっぱり間違えたくないし、人前で演奏することに緊張して余裕がなくなっているからね。でも、人前で弾くことはつまらなかった?」
 笙子さんの質問に由綺南先輩は首を振る。
「みんなは?」
 質問を振られた龍太も小比類巻先輩も首を振る。もちろん俺も首を振った。
 受けなかったけど、他人の前で演奏するのは気持ちがよかった。気持ちがいいというのは違うかな、何と表現すれば一番適切なのかわからないが、ステージの上で凄く高揚していた。全身の血が音速で血管の中を流れているような感じでじっとなんかしていられない。早くドラムを叩きたくって両腕がウズウズしていた。
 はじめの一音を打ちだした時、観客が一斉に息を飲んだ。観客の期待というものがひしひしと伝わってくる。それを感じたら頭の中が熱くなって、ドラムを叩く腕が早くなりそうな焦るような気持ち。すべてが初めての経験だった。
「あたしだって最初のうちはあんたたちと同じだったよ。演奏することだけに必死になって周りが見えなくって何度会場を白けさせたか」
「えっ、笙子さんでもそんなことがあったんですか?」
「もちろんあるよ。受けなさすぎてステージから逃げようとしたこともあるよ」
 龍太の質問に笙子さんは笑いながら頭を抱えて逃げる真似をする。
「でもね、何度失敗してもライブはやめたいとは思わないんだよ。客の反応を目の前で感じられる魅力に取り憑かれると、もう麻薬と同じでダメさ。失敗しようが何だろうが他人に聞いてもらえることが楽しいんだよね」
 笙子さんはニヤリと笑うと、俺たち一人一人の顔を確かめるようにゆっくりと首を回す。
「あんたたちだってまた人前で演奏したいって気持ちになっているんじゃないの」
 小比類巻先輩が無言で大きくうなずいた。これがすべてを表しているように、誰も反論は言わなかった。
「あんたたちもバンドの魔力に取り憑かれているね。お姉さんは仲間ができて嬉しいよ。さあ、飲もう、飲もう」
 笙子さんは嬉しそうに笑い、手にした酒をみんなに注ぎはじめる。




 さ、寒っ!
 と言うか、ここどこだ? 背中に当たるコンクリートの硬い感触がここはテントの中じゃないことを如実に物語っている。
 上半身を起こしてあたりを見回すと、ずっと向こうにキャンプ場の灯りが見える。でも俺の周りには月明かりしかない。淡い闇の中に黒い塊。これは公衆トイレだろうか? 闇に目が慣れてくると正面には真っ暗な森、そして左右には湖水があることが分かった。トイレがあって左右に湖水ということは、ここは駐車場脇のベンチだ。
 キャンプ場から離れたこんなところで寝てたのか──俺は酒を飲むと眠くなって所かまわず寝てしまうクセがある。だから酔ったあげくにこんなところで寝てしまったんだろうけど、みんな冷てぇなぁ。せめてテントに放りこんでおいてくれるとかしてくれればいいのに。
 初めて知ったけど、北海道って九月末になるとメチャ寒い。昼間はちょうどいい温度だったけど、日が落ちるとこんなに冷えこむとは思わなかった。地元じゃまだ真夏みたいな日があるのにこの温度差はなんだよ。さすが日本は南北に長い国だけあるぜ。
 やばっ! 背筋に悪寒が。日本の地理に感心している場合じゃない。このままじゃ確実に風邪ひいちまう。早く身体を温めないと……そうだ。ここには無料の温泉があるじゃん。
 俺たちがキャンプしている和琴半島は湖に突きだした半島自体が火山みたいなもので、半島の中ぐらいの場所に一〇人ぐらいが入れる小屋形式の風呂と、駐車場脇に優に三〇人以上が入れるプールのような露天風呂がある。両方とも無料の混浴温泉だ。ただ駐車場脇の温泉はいちおう木を植えて駐車場からは見えないようにしているつもりだろうが、木がまばらで透けて見える。おまけに湖畔や道路脇からはいくらでも覗かれる危険性大。
 温泉に入るとしたら小屋形式の温泉がいいに決まっているんだけど、問題は小屋までの山道に一切電灯がないことだ。そして小屋にも灯りはない。月明かりがあるとは言っても森に入ってしまえば鬱蒼とした木々が月の光など遮って、本当の意味の闇が広がっているはず。初めて来た場所、ましてや山道を電灯なしで歩くのは危険すぎる。
 となれば選択肢はただ一つ。露天風呂だ。腕時計を見れば午後十一時。さすがにこの時間に温泉に入りに来る地元民も観光客もいないだろう。駐車場にも外灯はないから誰かが来てもはっきりは見られないだろうし。と言うか、四の五の言っている状況じゃねぇ。早く温まらないとマジ風邪ひく。タオルを持っていないけどしょうがない。俺は露天風呂脇の脱衣所に──脱衣所と言ってもドアがあるワケじゃない。おまけに男女に分かれているわけでもない。ただ純粋に服を置いておく場所って感じの小屋だ──服を置き、素っ裸のまま露天風呂に飛びこんだ。
 温たけぇ。いやちょっと熱めかな。温め風呂が好きな俺にとってはちょっと熱いな。わずかに硫黄の匂いがするからこれが本物の温泉だとわかる。
 あ〜気持ちいい。全身が温まるのと並行して頭は急速に醒めていく。俺は大きな石を背もたれにして昼間のことを思いだしてみた。ライブって凄いものだったんだなぁ。あんなに反応がストレートに伝わってくるなんて。
 笙子さんの言葉じゃないけど、楽しむっていうこと忘れていたよなぁ。あの時俺は初ライブだから間違わないようにってことばかり考えてドラムを叩いていた──少なくても俺自身は楽しんで叩いていなかった。音楽が楽しくて、みんなと演奏するのが楽しくて、それを聞く人に伝えたくってバンドを始めたはずなのに何してたんだろうな。
 そういえば髭右近先輩のライブだって聞いている人は凄く楽しんでいたし、普段は笑顔を見せない髭右近先輩がメチャクチャ楽しそうな笑みを浮かべて弾いていたもんな。笙子さんだって「楽しみなよ」って言っていたのに、その意味が今ごろわかるなんて……俺ってバカなのかなぁ。
 ちくしょう。もう一度今日をやり直せたら、こんどは絶対楽しんでやるのに。
 そうだなぁ、ドラムソロから入って観客の度肝を抜いて、ボーカルが入ったら抑えながらもギターフレーズに絡めてやるんだ。
「やっぱり温泉に入っていたんだ」
 龍太の声で自己反省会は中断された。
「龍太か。宴会はどうなっている?」
「ん、まだ続いているよ。いまは沖縄から来たオジサンが三線弾いているよ」
 俺が意識を失う前には宴会はカラオケ大会と化していたけど、まだ続いていたんだ。
「お湯はどう? いい具合?」
「ん、気持ちいいぜ。なんか苔みたいのが生えているけど、足を思いっきり伸ばせる。泳ぐことだってできるぜ」
「いいね。だったら僕も入ろう!」
「ちょっと待て! いま、俺が素っ裸で入っているんだぞ!」
「いいじゃん。ここ混浴でしょう。僕だって温泉に入りたいよ」
 そりゃこの温泉は混浴だけど、ふつう男が入っていたら女は入らないだろう。オマエには羞恥心というものがないのか! というか、俺が恥ずかしいんだ。
「だったら俺が出るから。少し待っていろ」
「だーめ。もう脱いじゃったもん」
 脱衣所から聞こえる龍太の声に俺はあわてて湯船の中を移動した。湯船の一番奥、脱衣所から最も遠い方向へ。逃げるのと同時に龍太が飛びこんだ水音と派手な水しぶきが俺を襲う。
「バカ野郎。風呂に入る時は静かに入れ!」
 俺の抗議も虚しく、
「いいお湯だね。下は砂粒なんだ。まさに天然温泉って感じ」
 と、暢気な声が返ってくる。
「ミキどうしたの? そんな離れた隅っこに行っちゃって。そっちは狭いじゃん。こっちは広いんだからこっちに来なよ」
「いや、俺はここでいい。それより龍太も温泉に入って満足したろう。さっさと出ろよ」
 俺は龍太を見ないように湖水の方に顔を向ける。
「出ろって……いま入ったばっかりじゃん。僕が長湯が好きなのは知っているでしょう。それにしてもミキといっしょにお風呂に入るのって久しぶりだなぁ。最後に入ったのって六月に第三高校のヤツらとケンカしたときだよね。あの時はまだ男だったんだよなぁ……なんかすごく昔のことに感じるよ」
「そうだったかぁ。覚えてないな。六月は色んなバカが突っかかってきて忙しい時期だったからな」
 俺は龍太に背中を向けたまま答える。
 いや、本当は覚えているんだ。第三高校のヤツらともめて、埃だらけになったからコンビニでタオルを買って二人で銭湯に行ったんだ。その時は龍太は確かに男だった──小さいけどチンポもついていたしムネもなかった。いまの龍太の裸は見たことはないが、見たいとは思わない。いや、見て龍太が正真正銘の女になったことを確認したくない気持ちが心の奥にある。男だろうが女だろうが龍太は龍太だと言うことは頭では理解しているけど、割り切れない気持ちがあってどうしても顔を向けられない。
「ミキ、もう少しこっちに来てよ。そんなに離れると大声を出さなきゃいけないから大変なんだよ」
「ボーカルの練習だと思え」
「こんなところでボーカル練習なんてしたくないよ。ミキがこっちに来ないのなら僕が行くからいいよ」
 龍太がお湯をかきわけて近付いてくるのが感じられる。俺は少しでも離れるべくさらに奥まった部分に身体を寄せる。さっきまで足をのばしてのびのびと温泉に入っていたはずなのに、なんで体育座りみたいな窮屈な格好で入らなきゃいけないんだよ。
「ミキ、逃げないでよ。これ以上近寄らないからさ」
 龍太の声が五〇センチほど背後から聞こえる。
「ねぇ、話は変わるけど、今日のステージ大失敗だったね」
「そうだな」
「合宿の前に十歌先輩が『髭右近先輩と比べると、僕たちはバンドとしてのテクニックが劣っている』って言っていたけど、きっとこのことだったんだね」
「たぶんな……笙子さんの話とか聞いて思ったんだけどさ、十歌部長は失敗させるために今回のツアーを組んだんじゃないかな」
「失敗させるため?」
 怪訝そうな龍太の声が響く。
「ああ、みんなはどう思ったか分からないけど、俺は十歌部長がテクニックで負けていると言った時、その意味が分からなかったんだ。上手に演奏すれば客は喜ぶと思っていた。でもそれは違うことは今日知ったよ。百聞は一見に如かずって言葉があるけど、まさにそれだったよ。ステージに上がらなかったら、客を喜ばせることや自分が楽しむことなんて絶対分からなかったと思う。たぶん部長はそれを教えたくって何も言わずにステージに上げたんじゃないかな」
「そうかも。いつもなら何かする時に細かく指示を出す先輩が、ステージの前に何も言わなかったしね。仮に指示を出されていても僕自身が緊張していたから、たぶん耳に入らなかったと思うけどさ。ははは」
 誤魔化し笑いのような龍太の声を聞きながら、失敗させるためにわざわざ北海道ライブツアーを企画した十歌部長のスケールの大きさに呆れを感じていた。
「ねぇミキ、明日は旭川のライブハウスで演奏するんだよね」
 そう、明日は旭川でライブすることになっていた。今日みたいな野外じゃなくって、ちゃんとしたライブハウスだ。ライブハウスで演奏する載ってどんな気分がするんだろう。
「明日は絶対楽しもうね」
「当たり前だ。明日は俺のドラムソロで入ってやるぜ。一分間ソロで観客の度肝を抜いてやる」
「だったら、ミキのボーカルの時に僕が声を絡めてもいい? 前からミキのボーカルに僕の声を絡めてみたいと思っていたんだ」
「それは断る。おまえの声が入ったら歌いづらいんだよ」
「いいじゃん。何事も経験だよ。楽しもうよ」
「おまえが楽しみたいだけだろう。俺は楽しくないんだよ」
「わがまま言わずにやろうよ」
「嫌だ!」
「楽しそうだなゾーシュ君」
 いつの間にか目の前に十歌部長がいた。湯船の縁に立って俺を見下ろしている。
 げっ! 俺は逃げようとしたが後ろには龍太がいることを思いだし、全身をお湯の中に沈めるようにして、
「見ないで下さい」
 抗議した。
「恥ずかしがることはない。なかなかの肉体美だ。世間様にもっと誇ってもいいと思うぞ」
「露出趣味はありません!」
「気にすることないわよ。どうせライブの時は上半身裸じゃない。予行演習だと思えばいいのよ」
 と、状況と空気を読まない発言をしながら十歌部長の後ろから由綺南先輩が顔を出す。
 由綺南先輩だけじゃない。小比類巻線、涼風、それに笙子さんまでいる。
「み、みんなどうしたんですか?」
 俺の声が震えるのはしょうがないだろう。
「どうしたもこうしたもないだろう。ここは温泉だ。温泉に入りに来たに決まっているだろう」
 十歌部長の声には、何言いやがっているんだこいつみたいな響きが含まれている。
「だって男の俺が入っているんですよ。やっぱまずいですよ」
「何を言う。ここは混浴だし、私たちが来る前から女性であるヤマダ君と一緒に入っているではないか。いまさら恥ずかしがることもあるまい」
「だ、だったら俺が出ますから。それまで待って下さい」
「ゾーシュ君は水くさいことを言うなぁ。我が国には裸の付き合いという言葉があるではないか、バンドの仲間、音楽を愛するもの同士生まれたままの姿で親睦を深めようではないか」
「な、なんか言葉の意味が違ってませんか」
 俺の魂の叫びを無視して十歌部長たちは脱衣所に入ってしまった。
 タオルすら持っていない俺は温泉から出るに出られない。
「お待たせゾーシュ君。温泉を楽しみながら、ゆっくりと明日のライブについて語ろうではないか」
 目の前には十歌部長が立っていた……ビキニを着て。暗くて色はハッキリしないが白い肌と暗色系のビキニが見事なコントラストを描いている。
「温泉って久しぶり」
 Tシャツにショートパンツのような水着を着た涼風が小走りにやって来る。その後ろにはワンピースタイプの水着を着た由綺南先輩。小比類巻先輩も笙子さんも水着を着ている。
「……水着?」
「何を呆けているのかね? まさか言葉通りの裸の付き合いを想像していたのかね? 女子が露天風呂や混浴に入る時は水着を着るのは常識だぞ。ヤマダ君だってちゃんと着ていているではないか」
 えっ? 俺は初めて振り返った。
 龍太は競泳用みたいな水着を着て湯船の縁に腰掛けていた。
 ということは……この中で真っ裸なのは俺だけ?
「さあ、明日のライブはどうしたいか皆の意見を聞こう」
 温泉に浸かって大きく伸びをする十歌部長を見ながら、俺は自分の頭の中に靄がかかってくること感じていた。
 俺は熱い風呂は苦手なんだよ……ここの温泉は熱すぎる。




 翌朝、俺はテントの中で目が覚めた。ちゃんと服を着て。
 誰が俺の温泉から引き上げて服を着せてくれたんだ? 願わくば沖縄から来たオジサンとか宴会に参加していた男性陣であって欲しい。 


 つづく
2009/09/22(Tue)01:33:11 公開 / 甘木
http://sky.geocities.jp/kurtz0221/
■この作品の著作権は甘木さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
 2ヶ月ぶりの更新です。
 仕事が忙しかったり、私自身がゴタゴタしていたりと雑事に追われ、気がついたら2ヶ月経ってしまいました。
 今回は北海道ライブツアー前編です。初ライブがどうなるかを自分の経験なども踏まえて書いてみました。
 この物語もあと3回ぐらいで終われそうなメドがついてきました。どんな形で結末を迎えるのか……とにかく次は北海道ライブツアーの後編と文化祭の話しになる予定です。元々400字詰め原稿用紙で400枚ぐらいを考えていたけど、何だかその枚数では終わってくれそうにない不安に日々おののいています。


 拙い作品ですが、読んでいただけたら幸いです。もし、御時間に余裕がありましたら一言でも感想をいただけると励みになります。

3/9  第2話更新
3/11 誤字の修正
3/21 第3話更新
4/19 第4話更新
6/4  第5話更新
7/22 第6話更新
9/22 第7話更新
この作品に対する感想 - 昇順
はじめまして(?)頼家です。ご高名はつねづね……
作品読ませていただきました。面白い作品ですね^^『珍しくコメディーではない……』とありましたが、コメディーじゃないんですか??読みながら何度が笑わせていただきました。
少し表現が露骨かな?というところもありましたが、そもそも『露骨』表現の基準が私自身判らないので、作品表現上問題ないと思います。(他の方のご意見を参考にしていただければ良いかと)
今後の展開について、意見を述べさせていただけるとすれば、そもそも病気をテーマにした作品ではないようなので、現実との整合性も無理につける必要はないと思います。むしろそうする事で面白さを損なってしまっては勿体無い『良作品』の香りがそこはかとなく醸し出されています^^これからもこの勢いで突っ走ってください!
 麗や茉莉亜……まったくもって龍太(子?)と同意見です^^;たまに出席簿でそういう名前を見ると、なんだか悲しい気分になります……強く生きろよ、若人よ……と^^;……とにかく、非常に面白い作品でした^^続きをお待ちしております!
頼家
2009/02/21(Sat)04:18:390点有馬 頼家
こんにちは!読ませて頂きました♪
出だしの夏休み明けの学生が思ってそうで、思ってないかも知れないような所で笑ってしまいました。でもその後の山田龍太くんの衝撃な発言から、どんどんと巻き込まれていく造酒が大変そうだけど羨ましくも感じたりしました。後半は龍太のペースになっていて、この流れで造酒の憂鬱になっていくんだろうかなどと考えてしまいます。まだ登場していない主要人物二人も楽しみです。それと壇上での造酒の発言への生徒たちの返しが、実際とのギャップもあって面白かったです。
では続きも期待しています♪
2009/02/21(Sat)10:03:340点羽堕
拝読させていただきました。一人称でのコミカルな表現が面白かったです。

小説を書く上でリアリティは大切で、これからの主人公と山田龍子の内面の葛藤を楽しみにしています。
2009/02/22(Sun)13:59:230点手塚 広詩
どうも、流雲とか名乗っている者です。初めまして。
ちょくちょくお名前は見かけており、今回は恐縮ながら感想を送らせていただきますぞよ。
ライトな感じの文体で読みやすく、冒頭もフィクション度が殆ど無かったので非常に作品に入りやすかったです。
コメディーの色も中々強く、スラスラと読み進められました。くそ、こういう能力が欲しい。
ただ、不良っぽく怠惰に身を任せてるっぽいオトメと(実際は違うのかもしれませんが、最初に抱いたイメージがどうにも抜けないので)、特異なタイプのキャラクターである龍太の言動が何となく受け付けられず、少し眉間を寄せる箇所もありました。男、と思ったら女だった、という龍太のイメージも具体的には浮かべられませんでしたし。(単なる想像力不足かもしれないけど)性別とかを抜くと、嗜好や生活の面で共通点が無いので感情移入がしにくい……ぐぬぬ……。
残る二人の登場人物に期待しつつ、今後の展開を楽しみにしています。主人公の心情がどう変化していくのか、見物ですね。
それでは、この辺りで。執筆、頑張って下さい!
2009/02/22(Sun)18:17:490点流雲
 こんばんは、甘木様。上野文です。
 御作を読みました。
 これはまた、ぶっとんだ設定の作品ですね。
 ミキくんの意外な押しの弱さに笑いました。
 たぶん意図的に書かれたと思いますが、ミキくんが女の子で、龍子ちゃんがそのまま男のほうがしっくりくるような関係だと思います。
 だからこそ、ギャップが楽しくて、面白かったです。
 ミキくんと龍子ちゃんの活躍を楽しみにしています。
 ではでは、また。
2009/02/22(Sun)19:13:030点上野文
拝読しました。これは!!!
うん、顔がすごいにやけますね。読んでてつだみきよの革命の日を思い出しました。あと思ったことといえば、ちょっと表現が露骨かなと。こればかりは好き嫌いがあるのでなんともいえませんが、私は好きな部類ですのでまったく気にはなりませんでした。この破壊力のままで次も続いて欲しいと強く強く思います。
2009/02/22(Sun)22:44:181水芭蕉猫
 >有馬頼家さん、ありがとうございます。う〜ん、私に悪名はあるかもしれないけど高名というものだけはありませんよ。自分自身ではコメディー色は弱いなぁと思っていますが、笑っていただけたとしたら嬉しいです。私、他人に笑ってもらえると嬉しいので。表現の露骨さの基準というものは私も気になっています。どこらまでが許容範囲なんでしょうねぇ? 病気というか女性仮性半陰陽はこの物語のキーポイントとしてこれからも関わってきます。名前って重要ですよね。私の学校にも純粋な日本人なのに「クララ」って名前の女の子がいました。ちょっと痛いなと思っていましたよ。

 >羽堕さん、ありがとうございます。ミキは立派な体格と無敵とも言える戦果を誇っていながら巻きこまれ型の人間って設定で書いています。ですから、これからもミキには不幸が訪れます。と言うか主人公なのに1話の時点で存在感という意味では龍太に負けてるし、バトル物にする予定はないからミキが腕力で活躍するシーンはほとんど無いだろうし……なんて可哀相な主人公なんだ。作者である私までもが同情したくなります。

 >手塚広詩さん、ありがとうございます。一人称ですから内面をもっと書き込まないとヤバイですよね。でも、今回は思うところあって心情面を抑えて行動で登場人物の心の動きを表現できないかなぁ、なんて野望も持っているんですけどね。どうなることでしょう……。

 >流雲さん、ありがとうございます。冒頭が入りやすかったの御言葉凄く嬉しいです。自分自身ではコメディー色を抑えすぎて取っつきづらい入りになったかなぁと不安だったので、ひとまず胸をなで下ろしています。ミキのイメージが作中で変になっているとしたら、それは私の技量不足であり反省材料としてもっと勉強をすることをお約束します。龍太に関しては性別は女だったけど、これまで男として生きてきたので敢えて女性的な部分は排除しています。容姿に関してもわざとぼやかした部分はありますが、それが失敗だったでしょうかねぇ。流雲の御意見を受け、第2話で龍太に関してはもう少しイメージできるような描写を入れていきたいと思っています。

 >上野文さん、ありがとうございます。このぶっとんだ設定は正当な理由で女装させることを考えていたら浮かんだのですよ。ミキは押しが弱いというか自発的に動かないタイプです。ミキが女だったら凄い話しになりそう……身長182センチのゴッツイ女か……ヤバッ、なんか変なアイデアが出てきた(笑 ニーダルの女版みたいなキャラが脳裏を徘徊しはじめた。いつか書こう。名前は新井田流でいいか……って、冗談です。他人のキャラは取りませんよ。でも、書きたいなぁ(笑

 読んで下さった皆様、わざわざ感想まで書いて下さった皆様本当にありがとうございます。この物語が正統派学園小説になるよう努力致しますので、これからもお暇があればお付き合いしていただけると幸いです。
2009/02/22(Sun)22:51:230点甘木
 >水芭蕉猫さん、ありがとうございます。ありゃ、すれ違いになってしまいましたね。すみません。芭蕉さんなら解ってくれると思った。その通り、これを書くに当たって「革命の日」と「続 革命の日」を読み直しました。というか、ミキを抜かしてこれから出てくるキャラを含め登場人物は蔵王大志の作品的な人物になりそう(あのパワフルでぶち切れたキャラが好きなもので……)。でも、はっきり言ってこの作品女性向けじゃないッスよ。これからも露悪的な表現が出てくる予定ですから。
これからも龍太は変なテンションで進んでいきますので宜しければお付き合い下さい。
2009/02/22(Sun)23:00:280点甘木
こんにちは。読ませていただきました。宣言通り今回はちゃんとこっちに感想書かせていただこうと思います。
えーと、酒っていう漢字人名に使えるんですね。常用漢字の中に入ってるからかな。知らなかった……。まぁどう考えても子供に造酒って名前は有り得ないけど。

 ご自分でも言われてますけど、ちょっと露骨っていうか、露悪で女の子的には結構キツかったです。そういう障害があることは知ってますけど……。甘木さんはギャグじゃないと仰いますけど、これはギャグ小説じゃないと逆にちょっとまずいような気がします。普通に考えたらたとえ公表したって男子の制服ですごすことになるだろうし、その場合来客用のお手洗いを使用する許可ぐらい学校だって出すでしょう。むしろ女子トイレを使うことのほうがまずいと思う。女の子側からしたら、昨日まで男子だった人が女子トイレに入ってくるんだもん。お母さんもお母さんだし、一歩間違ったら「障害をバカにしている」っていう風に見られちゃうと思います。
でも、敢えてそういう、むちゃくちゃなところで話を進めてるんだと思うんで、やっぱり「これはギャグだ」ってした上で、…………それはそれで駄目なのかな。わかんないや(散々言っときながら)

と、とりあえず頑張ってください。ろくな感想じゃなくて申し訳ありません。それと、続き、読めなくなったらごめんなさい……。
2009/02/23(Mon)11:58:020点夢幻花 彩
 こんにちは。やっぱり文章の書き方が独特ですね。主人公の軽い語り口調。すらすら読めてしまいます。
 それで、女性仮性半陰陽ですか、はじめてききました。けっこう深刻なものだと思うのですが、龍太君(さん、かな)、めちゃめちゃあっけらかんとしてますね。「そこをそんな簡単にとびこえちゃうの?」といった感じです。ふつうもっと悩むでしょう(笑) そのうえで、この物語がどう進んでいくのか、楽しみにしています。
2009/02/24(Tue)21:14:340点ゆうら 佑
 >夢幻花彩さん、ありがとうございます。絶対にこの作品は女性には受けないと思って投稿しました。障害を揶揄するつもりはないけど、そう取られるぐらいリアルに書くかもしれない。私もこれを書く以前から半陰陽とか自分なりに結構調べてきたし資料や手記も読んだんだ。その上で表面上の性と本来の性のことを学園物で書きたい。逆に言えば安易なギャグにすると障害を抱えている人に失礼になると思う。私の書き方だからある程度コメディテイストにはなると思うけど。外科手術には正当な理由があります。第2話で明らかになります。トイレは女子も嫌がるだろうけど、15年も男だった龍太はもっと嫌だと思う。絶対に入れない。龍太の言葉じゃないけど女子トイレに行くぐらいなら屋外でするでしょう。この作品は女性向けじゃないから(男性向けでもないような気もするけど)無理に読まなくていいですよ。

 >ゆうら佑さん、ありがとうございます。どんな障害や病気でも現実に突きつけられたら、どこかで吹っ切れると思いますよ。例えば一般的な統計らしいですが、患者に末期癌だと伝えると最初の1、2週間は落ちこんだり怒りに身を任せるそうです。次の1、2週間は無気力・無感動状態。それが過ぎると現実を受け入れ前向きになるそうです。龍太の中でも夏休み期間を通して精神変化があったのでしょう。あと深刻ぶっていても何も益はないですから。龍太は基本的に現実主義者のようですから。と言うか龍太の現実主義と周囲のギャップがこの作品の狙いの一つなのですよ。

 読んでくださった皆様ありがとうございます。貴重な時間を費やし感想まで書いてくださった方々には心より感謝申し上げます。ほどよく評判の悪いこの作品がどのように変わっていくか……これからもお付き合いしていただけると幸いです。
2009/02/25(Wed)23:59:470点甘木
こんにちは!続き読ませて頂きました♪
十歌部長、好きなってしまいました。強いし(物理的にも多分w)優しさも感じれて部活の先輩にいたら心強いし憧れてしまいそうです。もっと親しくなれたならば別の十歌部長も見れるのだろうか……って妄想してしまいました。それと由綺南先輩って盗撮のエピソードの前から、口調なのだろうか?どことなく触れてはいけないというか怖い雰囲気が感じれました。普段の優しい先輩の中でも、どことなく棘のある感じも良いです。髭右近先輩には、いつか絡んできてほしい!前半のオトメと龍太が前と変わらずに話せるというのは分かります。それと周りの反応、普通なら廊下ですれ違った生徒のように遠巻きに声をかけず好奇の目を向けるぐらいだろうけど、直接的にヤジ馬根性だとしても関わってこようとするのは龍太の人柄なのかなと思ったりしました。今回も魅力的な先輩の登場で、不幸はなくとも主人公としてのオトメの憂鬱は深まった気がしますw面白かったです。あと「由綺南だけは起こらすなよ」‘メインボーカルとリードギターをが抜けた’となってました。
では続きも期待しています♪
2009/03/09(Mon)10:51:321羽堕
 読みました。文化祭! 軽音部! いいですねえいいですねえ。わくわくしてきました。軽音部の部長って男のイメージがあったので、ちょっと意外でした。まあ男っぽかったですけど。甘木さんはたしか、音楽が趣味でしたよね? やっぱりそういう人が書くと話が盛り上がるだろうな、と思います。音楽オンチのぼくには到底むりです。では、つづきを楽しみにしています。
2009/03/09(Mon)21:36:282ゆうら 佑
 >羽堕さん、ありがとうございます。十歌部長は私も気に入っています。と言うか部活シーンだと十歌部長がメインになっていくと思います。なにせ彼女は暴君でありトラブルメーカーですから(笑。由綺南先輩は基本はお嬢様ですが、その実体は……私にも分かりません。キャラ的には一番弱そうだけど。こういう人間を怒らせると本当に怖いんだよなぁ。髭右近先輩はいずれ出すつもりです。髭右近は美味しいキャラなのでぜひとも頑張ってもらいたいと思っています。髭右近を除いた4人がこの物語のメインとなって動いていきますので、生暖かい目で見ていただけると嬉しいです。誤字の指摘ありがとうございます。さっそく修正させていただきます。

 >ゆうら佑さん、ありがとうございます。文化祭と言えば素人バンドの下手くそな演奏こそが華です(笑。楽器は趣味で色々やっていますが、作品の中で細かく技術的なことを書くつもりはありません。誰にでも分かる程度に留めて、キャラの個性の提示とイベントに重点を置いていこうと思っています。私も軽音部の部長って男のイメージがあります。逸れも軽音部バンドのリーダーで担当はボーカルかギター。これぞ定番って感じですよね。

 このような拙い作品を読んで下さった皆様、わざわざ貴重な御時間を費やして感想を書いて下さった皆様には心の底より感謝を申し上げます。ぬるい作品ですが、これからもお付き合いしていただけると幸いです。
2009/03/11(Wed)21:47:020点甘木
拝読しました。十歌先輩、最高です! 女王で暴君でトラブルメーカー。女性の(ある意味)理想ですね。音楽のことはさっぱりわかりませんが。キャラが全員濃くて雰囲気に浸っているだけでオモシロさが解るというのはすごいことだと思います。そして髭右近先輩が出てこなくて非常に残念。部活メンバーの中で異常な濃さを発揮していた、のかな? それとも上手にカモフラージュして溶け込んでいたのか、気になるところです。ひそりと続きを楽しみにしています。
2009/03/11(Wed)22:24:150点水芭蕉猫
 >水芭蕉猫さん、ありがとうございます。十歌部長は私も気に入っています。ある意味定型のキャラだけに動かしやすいですしね。これからも十歌部長を中心に物語が動いていく予定です。そのせいでオトメは不幸になるけど……。髭右近は是非とも出します。と言うか、私が出したいと切に願っています。だって凄く濃いキャラで、出てくれば何か変なことをしてくれそうなんだもん。音楽のネタはそんなに触れないと思いますよ。私自身が技術論なんて書きたくないですから(笑

 読んで下さった皆様、感想を書いて下さった皆様、本当にありがとうございます。拙い作品ですがこれからもお付き合いしてもらえると嬉しいです。
2009/03/12(Thu)07:39:150点甘木
 こんばんは、甘木様。上野文です。
 遅ればせながら御作を拝読しました。
 ライバルフラグが立ってる? 髭右近先輩の存在感に笑いました。
 間接描写しかないのに、ものすごいインパクト。
 軽音楽部の面々の個性が出て、読んでいてとても面白かったです!
 続きを楽しみにしています。
2009/03/14(Sat)19:18:190点上野文
こんにちは、頼家です。
続きを読ませていただきました^^
いやぁ……やはり面白い。喧嘩が強く、体格も良いバンドをやってる主人公(だけどなぜか女の子に人気の無い)。すったもんだの末可愛い女の子になった親友。そしてやたら女の子が多い主人公の所属する軽音部。女の子もお嬢様系、おっとり系だけど怒らせると怖い(←ここがポイント)、親友系と見事に王道を抑え、私如きには何もいえることはございません。……もはや貫禄さえ感じられます。
個人的には髭右近さんが大注目株です。ぶっ飛び具合も素敵です。私も作品で似たようなキャラを出す予定ですが先を越されました^^;(アレンジせねば……)ミキ君の祈りもむなしく、やっぱり嵐は来るんでしょうね……
改めて最初から見直し一つ、『龍太の気持ちはわかる。渇を入れて欲しいんだろう』の『渇』は『喝』でしょうか?
ではでは、続きをお待ちしております!
                     頼家
2009/03/15(Sun)13:51:560点有馬 頼家
 >上野文さん、ありがとうございます。髭右近先輩、人気が高いなぁ(笑。いや、私も気に入っているキャラです。いずれ物語に関わってきますが、出てくるのはもう少し先になりそうです。軽音部って個性が強いから、個性の潰しあいしそうで書いている方としては少々不安です。特に十歌部長と龍太が濃いだけに、この二人に残りが喰われないようにしないといけませんよね。なんとかメンバー全員が活躍できるように書いていくつもりです。

 >有馬頼家さん、ありがとうございます。実はキャラが濃すぎて食い合いしないか不安になっている状態です。本来、読者視点に立つはずの主人公も濃くしちゃったから……どう修正していこうか悩んでいます(苦笑。有馬さんも髭右近先輩がお気に入りですか。登場もしていないのに大人気だな髭右近。いっそスピンオフ作品で髭右近を主人公にした作品でも書いてやろうかな(笑。誤字の御指摘ありがとうございます。いま修正するとまた上に行っちゃうので、次回更新の時に一緒に修正させていただきます。

 髭右近の人気になにやら複雑な気分です。ところで髭右近って本当にある名字なんですよ。カッコイイ名字ですよね。などと、書いている場合ではないですね。
 読んで下さった皆様本当にありがとうございます。感想を書いてくださった方々には心より感謝申し上げます。このような作品ですが、これからもお付き合いしていただけると幸いです。
2009/03/15(Sun)23:58:130点甘木
こんにちは!続き読ませて頂きました♪
 龍太のトイレや着替え問題は、一番妥当な所で落ち着いたんじゃないかなと思います。体育の時の一言で龍太って女子高生なんだよなって改めて認識した感じで、女の子になったのは分かってたのに女子高生だって思ってなかったというのも不思議なんですけど、何でだろう?
 それにしても十歌部長は天真爛漫とでも言うのか、確かに高校生で命に関わるような秘密って中々、持てる物じゃないけど、大した事ない秘密もそれぐらいに感じる年頃なのに達観してるというか、また好きになりました。龍太が夏休み中に選択した理由は周りの勧めも大きな理由だろうけど、まだ何かありそうだなって勝手に思ったりしてます! あと十歌部長の悪ノリを一言で押さえる由綺南先輩も凄いな、本当に用意出来ちゃいそうな雰囲気があるんだろうな……怖い。本当に怒らせちゃ、マズイですね。
 バンドの選曲で十歌部長は何か思いついたようだし、次回はどうなるか楽しみです。(イメージビデオを自作するマスターも気になりました)
では続きも期待しています♪
2009/03/21(Sat)10:42:520点羽堕
 こんにちは。こりゃーコメディーですね。コメディーですよ。十歌部長が最高におもしろかったです。しかしどっから恋愛になるんでしょうね。まさか本当にオトメと龍が? とりあえずつづきに期待します。
2009/03/21(Sat)16:20:080点ゆうら 佑
 こんばんは、甘木様。上野文です。
 御作の続きを読みました。
 バンドの熱気が伝わってくるような臨場感がとても良かったです。
 十歌部長をはじめ、キャラクターも生き生きとして、読んでてぐいぐい引きこまれました。
 ただ、サブキャラが魅力的かつ、互いを高めあってるのに、主人公だけがツッコミ役に終始しているのが、少しだけひっかかりました。せっかく彼も魅力的な人物なのですから、龍子ちゃんに負けずに頑張って欲しいです。
 少し辛いことも書きましたが、今回更新分も面白かったです!
2009/03/23(Mon)20:01:561上野文
 こんにちは、免罪符が売っていたら、間違いなくカートン買いをする頼家でございます。
続きを読ませていただきました^^いや……もう本当は前回もお書きしたように、「面白い!」としかもはや私の言える事がなくなってしまっているので書くのを控えようかとおもったのですが、最近『パルティータ』という響きが非常に気に入っているため、ご迷惑を承知で感想を書かせていただきます。もう、なんとなく登場人物から発せられる『ゾーシュ』君に対する好きだぁオーラに、にやけるばかりです。ストロー煙草は、キャラにすごくあっていますね^^ああいう性格の子は、確かにやりそうなバイキルト的仕草です……(多分手持ち無沙汰からかなぁ?)唯、フナ虫の件……あれは恐怖よりも、根暗なカラーの方が強いような気がする今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。
               パルティッタ頼家
2009/03/24(Tue)17:29:290点有馬 頼家
どうも、こんぽたです。ずっと読めずにいましたが昨晩一気に読ませてもらいました。百枚超の量が気にならないくらいすらすらと読めてしまいました。いやはやこの一文一文ににやけてしまう威力は恐ろしかったです。
豊富な知識を織り交ぜた綿密なストーリー展開もさることながら、キャラクターが自分の手足のようにすごく生き生きしていると思いました。僕はヤンデレの香りがする由綺南先輩に一票を入れたいと思います(笑)。実際にいたら関わりたくないと思いつつも、いたら面白いなぁ、と思いながら由綺南先輩の発言に毎回わくわくしている自分がいます。
ストーリーも重要な局面を迎えたようで、これからの展開が楽しみで仕方がありません。首を長くして続きを待っています。
ではでは、
2009/03/30(Mon)00:15:531こーんぽたーじゅ
遅ればせながら拝読しました。どんなに頑張ってやっていてもノれない時は何をしてもノることは出来ないとはまさしくそのとおりなのですよ。さてはて、竜太くんは男から女の子になってしまったわけなのですが、十歌先輩もひそやかながら男性的部分をもっているのではなかろうか? 等と思っているわけです。オトメくんが純男性だとすれば、竜太くんは男性兼女性、十歌先輩は女性兼男性で、由綺南先輩は純女性なのかなと。肉体と精神のバランスでは全員性別が違うんだなと思うとなんだかこのお話が不思議でたまらなく面白いなぁと。うん。今更ですが、肉体と精神の在りようが四者四様で面白いです。これからも楽しみにしてますよ。
2009/03/31(Tue)22:02:270点水芭蕉猫
 感想へのレスが遅くなってすみませんでした。プライベートでゴタゴタが続き書けないでいました。改めてお詫びします。

 >羽堕さん、ありがとうございます。龍太自身も自分が女子だという自覚はまだ少ないでしょうね。でもだからこそミキに対して男子的なからかいとかしちゃうんじゃないかな。十歌部長は私自身も謎が多いキャラだなぁと感じていますよ。その分動かしやすいというか、勝手に動くというか……自分で言うのも何ですが面白いキャラです。由綺南先輩はイザと言う時に動くタイプだからなかなか見せ場はありませんが、これから何かしてくれそうです。龍太が夏休みに手術したのは、一般的に性転換手術の入院日数が2〜3週間だそうなので、まとまった休みだったら夏休みかなと言うことで設定しました。

 >ゆうら佑さん、ありがとうございます。十歌部長は書いていて楽しいですよ。恋愛はもう少し先ですね。ただ変な恋愛関係になりそうだけど。オトメと龍太というのも面白いなぁ。考えてみようかな。

 >上野文さん、ありがとうございます。そうなんですよね。周りが濃いメンバーだけに案外常識人のオトメって埋没していくんですよね。このままじゃ主人公の座が十歌部長にとられてしまいそう(泣。ただ、ここまではキャラ紹介的な意味合いでしたので、これから主人公らしくなってくれると思っています……だったらいいなぁ。ただ、バンド的な意味だとドラムやベースのリズム隊って目立たせるのが難しいんです。その分、客観的に他のメンバーを評価できますけどね。

 >有馬頼家さん、ありがとうございます。私はカートンじゃ足りないなぁ。免罪符はグロス単位で買わないと天国の門はくぐれそうにはありません。感想をいただけるだけで凄く嬉しいし、励みになります。パルティータに関しては一応主題を統一して状況だけを切れ目なく連続させると言う意味でつけてみました。十歌部長のストロー煙草は、そうでしょう。ああゆう人ならやりそうだなぁと思い書いてみました。受け入れられてよかったぁ。フナムシは……やっぱ恐怖ですよ。私はマジ苦手です。岩場で寝ていたらフナムシ野郎に囓られた嫌な思い出が……。

 >こーんぽたーじゅさん、ありがとうございます。文章量書きにならなかった之御言葉嬉しいです。テンポやリズム感が悪くなっていないか不安だったので救われた気分です。元々私は物語の構成がヘタだからキャラで読ませるしかないんですよね。でも、それってどこかで限界がくるんだよなぁ……なんとか綺麗にまとめ上げたいです。由綺南先輩とは渋いなぁ。由綺南先輩はここぞと言う所で見せ場をつくるつもりですから請うご期待を(笑

 >水芭蕉猫さん、ありがとうございます。十歌先輩は漢ですよ。へたな男より男らしい女性です。瑣末なことなど拘りません……やや、大雑把で非常識な部分もありますが楽しい人ですよ。ただし実際に周りにいたらマジに鬱陶しいと思うけど。ジェンダーの振り分けはだいたい芭蕉さんの指摘の通りです。ただ、純女性キャラはこれから出てきます。由綺南先輩はある意味軽音部の秘密兵器のような人です(笑

 拙い作品ですが読んでいただけて本当に嬉しいです。皆様の感想を励みに頑張って書いていきます。改めてありがとうございました。
2009/04/19(Sun)19:34:510点甘木
読ませて頂いておりました。ただ、ゆっくり読んでいて、更新のペースに間に合わなくて……
楽器に触る事に対して極度の拒否反応をする私は、演奏出来る人が羨ましいです。
甘木様流の恋愛って、流石に……複雑ですねぇ(笑
この続きも楽しみしています。
2009/04/20(Mon)09:46:231ミノタウロス
こんにちは! 続き読ませて頂きました♪
 十歌部長の勢いって凄いな、でもちゃんと周りを考えた上での独断だから、最終的には、みんなついていってしまうんだろうな。私も、どれも聞いた事のない曲ばかりなので、文化祭前までぐらいには一度観ときたいと思います。
 それにしても小比類巻先輩の存在感、物語の中では影みたいな感じなのかもだけど、私は由綺南先輩とは違う怖さを感じます。それに確実に読まれてますよ心! ミキの憂鬱のタネは増えるばかりですねw それと由綺南先輩の「校内で会ってももう声かけてこないでね」この一言はキツイなって感じで、さすがだななんて思いました。
 「にゃぁぁ」には驚かされつつ思わず笑ってしまいました。無表情でいきなり、そんな声だされたら、どんな反応するか迷うな。ミキ以外、周りが流してるのがスゴイな、いや心の中でそれぞれ突っ込んでいたのかな。
 統一感のあるステージ衣装というのは、いいですね。それと十歌部長がミキの為に考えた衣装は、私も二番目のを押したかった! 私の勝手なイメージですが、すごい似合いそうだなって思いました。
 髭右近、女性に厳しいなw 十歌部長の気持ちも分かります! 次回はついに登場のようなので、楽しみです。
では続きも期待しています♪
2009/04/20(Mon)18:01:300点羽堕
 こんばんは、甘木様。上野文です。
 御作の続きを読みました。
 どんどんネタに走ってるw でも、そこがいいと思います。
 ちゃんと愛情とか知識の裏付けがあって、物語や登場人物に映えるよう巧く演出されているのが、読んでいて凄いなあと感嘆しました。
 音楽の知識がろくにない私でもイメージできて、読んでいて、とても楽しかったです!
 続きも期待しています。では、また。
2009/04/20(Mon)23:06:580点上野文
こちらでははじめまして、でしょうか。凡人なのに感覚が人とズレている木沢井です。
少し前から読ませていただいていました。無駄口を叩きがちなので、一言で感想を述べさせていただくのでしたら『羨ましい』です。
私も吹奏楽にそこそこ関わっているからでしょうか、強烈な個性を持っている彼らは音楽への情熱で結び付いているんだな、と感じつつ、そうしたことを為せる甘木様を尊敬しています。
冒頭の龍太の設定には驚かされました。そして、それについて自分なりにあれこれ考えてしまっていた時点で「ああコリャやられたなぁ」と感服いたしました。
物語に流れがあり、登場人物には『力』があり、先の方にはまだまだ見せ場があり……まさしく、『羨ましい』の一言です。必ずや、ああした領域に至りたく思います。
以上、三流からの脱却を目指す木沢井でした。続きも楽しみにさせていただきます。
2009/04/21(Tue)18:58:242木沢井
拝読しました。ますます濃ゆいメンバーになっていく軽音楽部が今後どのように進んでいくのかとても楽しみであります。新キャラの小比類巻先輩、何か好きだなぁ。座敷童のような存在感となぜか頭の中身を読み取ってくるしずしずとした恐怖が笑えるというかなんと言うか。
音楽って何がなんだかさっぱり解りませんが、それでもとても解りやすく読みやすい甘木さんの技量ってすごいなぁと思いました。今度youtubeで漁ってみようと思います。
2009/04/21(Tue)23:10:571水芭蕉猫
 続きを読みました。今回は、ふふふと笑わせられてばかりでした。高校生にしてはいやに大人びた感じがするのですが。十歌部長といい由綺南先輩といいミキといい。その掛け合いがおもしろかったです。小比類巻さんはこわいです。正体が気になります。
 ふと思ったのですが、どうして龍太は「山田」なんでしょう。濃さをいくぶんか薄めるためでしょうか。しかし最近は若干先輩たちに押され気味なので、ぼくとしては、さらなる活躍を期待します。
2009/04/30(Thu)22:03:001ゆうら 佑
どうも、お久しぶりでございます。鋏屋です。
少しづつ読むつもりが、止まらなくなって一気読みしました。『男の子が女の子になる』つー設定がベタかと思ったのですが、なかなかどうして、設定がリアルで甘木殿らしいです。
何というのかな、設定がしっかり作ってあると安心して読めるんですよね。流石です。
キャラが立っていてそのキャラ達の魅力が存分に現れている感じです。甘木殿、これ書いてて楽しいでしょう? それが読んでて伝わってきますもん。
私は十歌部長のムチャっぷりが好きですね。あの上から目線の口調もいいです。小比類巻さんも良いですね。彼女は私の脳内では勝手に長門になってます(笑
それにしても羨ましい。私もこういう空気の学園物を書いてみたい。続きも是非読みたいと思っておりますのでがんばってください。
鋏屋でした。
2009/05/07(Thu)17:09:520点鋏屋
おっとスイマセン。久しぶりなので点数入れ忘れました(汗っ!!
2009/05/07(Thu)17:11:052鋏屋
 >ミノタウロスさん、ありがとうございます。楽器を触ることって難しく考える必要はないと思いますよ。プロになると言うのなら別ですが、趣味で楽しむのなら怖がる必要はないですよ。音楽なんてしょせん「音」を「楽しむ」ものなんですから。恋愛ものを書いたことがないし、私自身もあんまり恋愛ものを読まないから変な恋愛ものになると思いますよ。

 >羽堕さん、ありがとうございます。十歌部長は一種の独裁者だけど暴君じゃないですからみんながついてくるんでしょうね。基本は軽音部のためという強い信念がありますから、みんなも十歌部長の独断を許しているんだと思います。マンガやアニメだと文化祭などでオリジナル曲を演奏するシーンがあるけど、現実にはオリジナル曲を演奏すると白けるんですよね。だって素人のオリジナル曲は曲の作りが平坦で盛り上がれないんですよ。由綺南先輩は笑顔のままエグイことを言える怖い人です(笑。小比類巻先輩は……ワケ分かりません。現実に突然「にゃあ」とか言ったらみんな引くだろうなぁ。二番目はヤバイでしょう。髭右近は諸般の事情により次回には出せそうにありません。その次になりそう。

 >上野文さん、ありがとうございます。物語そのものは学園音楽物などでよくあるパターンだから、キャラで見せなきゃいけないのですが少々不安でもありました。でも、上野文さんのお言葉をいただいて少しばかり安堵しています。キャラの書き方がしつこすぎないかとか各人の印象が薄くなっているんじゃないかとか、自分じゃはっきり分からず不安ばかりが大きくなっていきますからね。音楽がイメージできたの御言葉も嬉しいです。でも、文章で音楽を伝えるのは難しいですね。今回しみじみとそれを感じました。

 >木沢井さん、ありがとうございます。「羨ましい」ってどう読むんだっけ? こう言う時は文字を分解して解読すれば意味が分かるはず。「羨」だから「羊」と「次」だな。十二支で羊の次は猿だったよな。ということはこの字は「さる」と読むのかもしれない。「さるましい」……さっぱり意味が分からないよぉ。と、冗談を書いている場合ではないですね。羨ましがれるような作品ではないですよ。物語自体はよくあるパターンだし、キャラも出来合えのものを組み合わせたようなものですから。ただ音楽に対する彼等の情熱が伝わっていたとしたら嬉しいです。私自身が音楽が好きなだけに、少しでもこの楽しさを伝えたいという気持ちがありますから。

 >水芭蕉猫さん、ありがとうございます。小比類巻先輩いいでしょう。私も気に入っています。言葉数は多くないけど十歌部長に対抗できるほどのインパクトのあるキャラになってくれたと喜んで書いています。こういう不思議キャラは面白いですね。動かしやすいし、いままでミキの周りにはいそうになかったキャラだからミキに色々な反応をさせられる。

 >ゆうら佑さん、ありがとうございます。はっきり言って十歌部長の思考は高校生じゃないですよ。老成しています。そのくせ妙な行動力があるからキャラとして上手く動いてくれていると思います。小比類巻先輩の正体……それは私が知りたいぐらいです(笑。笑ってもらえたことが凄く嬉しいです。コメディが好きなので他人に笑ってもらえることは一番の歓びです。しかし、キャラが濃くなっていってだんだんミキの影が薄くなっているのは問題ですよね。なんとかしなきゃ。

 >鋏屋さん、ありがとうございます。ベタの設定こそ王道! 私は王道を突き進むぞぉ! と、妙な決意に燃える甘木です。読みやすかったとしたらよかったです。ちょっとくどくなっているんじゃないかと心配だったので安心しました。書いていて楽しいですよ。元々自分が好きな分野だし、キャラが比較的動かしやすいですから。十歌部長のような女性は憧れるな。リーダーシップ有る女性はカッコイイですよ。小比類巻先輩は長門有希ほど万能じゃないです。どちらかというと「乙女はお姉さまに恋してる」の小鳥遊蛍をイメージしています。こういう空気の学園ものって、ただのぬるい空気だと思うんだけどなぁ。

読んで下さった皆様、感想を書いてくださった皆様、本当にありがとうございます。頑張って続きも書いていきますので今後ともよろしくお願いします。
2009/05/18(Mon)00:23:500点甘木
拝読しました。練習シーンの暴君十歌部長最高!! 人にモノをブン投げる人はそばには居て欲しくないですが、ハタから見ている分には最高にインパクトがあって面白いのであります(おい)今回は練習とそれから小比類巻先輩に焦点を当てられていたようですね。日本人形的且つ今回の詳しいお話を読んでもやっぱり小比類巻先輩が何を考えているかサッパリわかりませんでした。でもこういうキャラは中が解ると面白くないので、解らないままで流れていくのが一番ですね。それから龍太くん(龍子ちゃん?)が微妙に嫉妬っぽい感情を顕にしていたのが印象的でした。ヤバい。可愛いよ可愛いよ!! それからミキくんには更なる受難が訪れそうで今から楽しみにしております。
2009/06/05(Fri)22:49:530点水芭蕉猫
どうも、鋏屋でございます。続きを読ませていただきました。
上の猫殿と同じく十歌部長がよかったです。私的にはもっとムチャでもOKですが。
しかしながら今回のお話で少し小比類巻先輩にも浮気しそうです。もう何でもありなキャラで読んでて楽しいです。次回も楽しそうで更新が待ち遠しい……
鋏屋でした。
2009/06/06(Sat)17:24:400点鋏屋
 初めまして。千尋と申します。
 ほかのコメントで、甘木様のお名前は拝見しておりましたが、実際に作品を読ませていただくのは、初めてでした。思わず、いっきに読んでしまいました。ともかく文章に勢いとパワーがありますね!
 半陰陽。……確か遠い昔にライトノベルでそういう題材の青春ものを読んだ気がします。それは新井素子だか、藤本ひとみだが書いた、ちょっぴりせつない初恋もの、みたいな話だった気がしましたが、なんだかそんな自分の甘ずっぱい少女時代の思い出も、あっさりぶっとんだくらい、圧倒されました。(はは……)
 これは、本当に「正統派学園小説」なのか? とか、色んな思いが錯綜する中、でも、きっと次の更新も目が離せなくなりそうです。
 それにしても、山田龍太(私も龍子ってのは、呼びにくい)以外、みんな、すごく個性的な名前ですねえ。逆にいうと、特殊な状況下にある龍太が一番、現実につながっているという証なのかな、などと想像し、これから、龍太の心境ももっと詳しく出てくるのかも、とも思っております。
 また、オトメ君の一人称が、とても生きてますね。個人的には、オトメの心中一人突っこみが絶妙で、大好きです。
 続きを、楽しみにしています。 
2009/06/07(Sun)10:56:560点千尋
 こんばんは、甘木様。上野文です。
 御作を読みました。
 練習風景ってこうなってるのかと、わくわくしながら読みました。
 クラブの仲間たちの音楽への愛情も感じられて、こう学生時代を懐かしく思いました。
 ただ、その……甘木様独特の毒というか、妙味というか、そういった部分が、今回更新分で目立って抜けていたので、少しだけあれっ? て物足りなさを感じました。
 失礼しました。今回も、とても面白かったです。
2009/06/07(Sun)18:54:080点上野文
こんにちは! 羽堕です♪
 小比類巻先輩を肩に乗っけてる! もう読むしかないです♪
 なんか可愛かったなぁ、小比類巻先輩w しかも四姉妹って! 涼風みたいな、ちょっとトラブルメーカー臭のする茶目毛のある妹が欲しい。 それと龍太のヤキモチみたいのも読めて、くすぐったい感じでドキドキしちゃいました!(龍太も可愛いw)
 十歌部長の熱のこもった指導みたいのも伝わってきて、絶対に文化祭を成功させるぞ! って読むほうも盛り上がってきて面白かったです♪
であ続きも楽しみにしてます!
2009/06/09(Tue)14:23:121羽堕
 こんにちは。今回も読ませていただきました。
 この軽音部って音楽室が部室なんですね。うちの学校では吹奏楽(ブラバン)部が音楽室を使っています。部室棟?かなんかわからないですけど小さなアパートみたいなのがあって、ほかより広めの軽音部の部屋は、テニス部の真上でした。これがうるさいんですよねえ。歌もあんまりうまくないし。十歌部長のような「観客に聴かせよう」って思いはあまりないのでしょうね。でも最近軽音部とかかわっていてわかったのですが、みんな音楽に対する情熱はすごいんですよ。だから本人たちが楽しければそれでいいのかな、と思います。聴いているほうも楽しいですし。
 軽音部はチャラいイメージがありますが、この軽音部はアツいですね。ただ、練習でもまだ十歌部長だけ暴走している感じなので、次の展開を期待しています。今回も登場人物のやりとりはおもしろかったです。が、展開にもっとスピード感がほしいな、と思いました。
2009/06/14(Sun)22:25:460点ゆうら 佑
 >水芭蕉猫さん、ありがとうございます。十歌部長は暴君というか部活に真面目なんでしょうね(髭右近との件もあるし)。確かに見ている分には笑っていられるけど、現実に十歌部長みたいな人がいたらケンカになるだろうなぁ。小比類巻先輩がサッパリわからないとのことですが、大丈夫。私も分かっていません(笑。龍太が気に入ってもらえて嬉しいです。でも、私としてはBLを書いている気分になるんですけどね(苦笑

 >鋏屋さん、ありがとうございます。十歌部長の暴走というか悪のりはもっと続きます。彼女なりに真剣にやっているんでしょうけど、彼女の内なる男性気質(体育会系気質)を抑えきれないんでしょうね。小比類巻先輩は私のお気に入りですよ。長門有希のように万能じゃないけど常人では持ち合わせていない感覚(野生の感覚?)はありそうです。というか究極の電波系? 次回でも小比類巻先輩の異常さは出てくる予定です。

 >千尋さん、ありがとうございます。勢いがあるの御言葉嬉しいです。ほら、私の物語は目新しさとか文章の技術がないから勢いで読ませるしかないんですよ。半陰陽は新井素子の作品にありましたね(作品名は忘れたなぁ)。外科手術で性を同一化するというのは新井素子の作品からヒントを得ています。これは紛れもなく「正統派学園小説」です(笑。だって主人公たちが学生じゃないですか(笑。龍太の心情はどうだろう……龍太自身が男性から女性に変わって心の整理がつかず、自分自身の心がまだわかっていないと思いますよ。でも、少しずつでも龍太の心情の変化を書きたいと思っています。

 >上野文さん、ありがとうございます。本当なら練習風景など軽く書いてすぐに文化祭のシーンを書いた方が読者に飽きをこさせないとは思うですけど、バンドでも演劇でも発表の裏には何十倍、何百倍もの練習があるからどうしても書きたかったんです。あと、練習って案外面白いんですよ。私の文章に毒なんてありましたっけ? 自分では私の文章は個性がないから嫌だなぁといつも思っているんですけど……ただ、今回更新分はミキの感情を抑えて書いているのは事実です。小比類巻先輩の特異さを強調したくてちょっと書き方を変えているけど、それが原因かもしれないですね。

 >羽堕さん、ありがとうございます。涼風みたいのって姉妹の末っ子でいそうかなと思い書きました。海姉ズはどんな人なんでしょうね? 作者である私にも見当がつきません(登場する予定はありませんが)。龍太のシーンって書いているとくすぐったさよりも、BL小説を書いている気分になってきて不思議な気分になります。でもなるべく可愛く書けたらいいなぁと思っていたので、御言葉嬉しいです。十歌部長は熱血で真面目ですよ。次回もいかんなく発揮される予定です。

 >ゆうら佑さん、ありがとうございます。普通の学校は音楽室って吹奏楽部が使っていると思いますよ。そしてミキたちの学校も同様です。新校舎の音楽室は吹奏楽部が占拠してます。軽音部はぼろい旧校舎の音楽室を使っているんですよ。現実だと軽音部なんてヘタだと思いますよ(特にリズム隊がヘタ)。上手いヤツは外バンに入っちゃうでしょうから(笑。展開のスピードアップですね、次回はもっとテンポがよくなるように心がけます。

 読んで下さった皆様、感想を下さった皆様、本当にありがとうございます。稚拙な作品ですがこれからもお付き合いしていただけると幸いです。
2009/06/14(Sun)23:15:230点甘木
 あっ、本当だ。旧音楽室だったんですね。でもちょっとリッチな気がしないでもないです。
 軽音部ってそんなものなんですか。でもずっと一緒にいた仲間と音楽をつくりあげるのも素敵ですよね……すみません、クサいこと言いました。続きも楽しみにしています。
2009/06/15(Mon)00:21:530点ゆうら 佑
 >ゆうら佑さんへ。そうなんです。軽音部は旧校舎の音楽室を使っています。たぶん新校舎の音楽室は吹奏楽部が使っているんでしょうね。音楽でもスポーツでも仲間と目的に向かって前に進むというのは楽しいことですよ。やっている最中は分からなくっても、目標に到達した後に実感できるんですよねぇ。
2009/07/22(Wed)22:37:000点甘木
拝読しました。コレは……!!! 念願の髭右近先輩がひっそりと初登場なされてる!!!!そして髭右近先輩のメンバーは何かいろんな意味で隙や抜かりがなさそうで素晴らしいなと個人的に思いました。さすが漢魂保存委員会。ミキくんの蟻柄アロハシャツってマジであるんですか? 何か、有りそうでちょっと恐ろしかったり……。それから突然の北海道ライブツアーって、本当に突然っぷりにコッチのほうがあんぐりしそうですよ。本当に濃いメンバーだなぁと改めて思いました。前回に比べて短いのに、圧倒的な存在感の描写に平伏です。そして一番最後の龍太の言動に何だかきゅんとしてしまいました。音楽には疎い私ですが、音楽に対する情熱は理解できます。どうかこのメンバーのライブツアーが成功しますようにと心からお祈りしています。
2009/07/22(Wed)23:08:410点水芭蕉猫
千尋です。続きを読ませて頂きました。
 髭右近先輩のバンド……。皆さんカッコいいのでしょうが、近づくのはちょっと怖いです。ライブの描写が、短いながら迫力があって、よかったです。全体的に筆力にブレがなくて、安心して読めるのは、さすがですね。
 えっ、九月に五連休? と慌ててカレンダーを見たら、本当にそうでした。バンザイ! と関係ない所で喜んだり……。しかし、十歌部長の行動力がスゴすぎます。キャンピングカーって、誰が運転しているんでしょうね。部長だったら、ダンプでも似合いそう……。そして、涼風ちゃんも、もしかして同行ですか? 楽しそうだなあ。初秋北海道ライブの旅なんて、まさに青春ですね!
 龍太って、ほんと強い子ですね。あんまり自分の心の内を明かさないって感じで。でも、抱えているものが深刻だから、そうしてもらうほうが、周りも楽でしょう。龍太は、女だけじゃなく、大人の入口にも立っているという気がします。仲間にも恵まれているようですしね!(変な人たちばっかりだけど)
 続きを楽しみにしております。 
2009/07/23(Thu)11:49:390点千尋
こんにちは! 羽堕です♪
 きたー! 髭右近って感じでミキの蟻柄って、それもリアルなんだ……コワっ! なんで体中を蟻に這いまわれているようなの選ぶのか、クロテン(早速つかってみるw)のメンバーでなんとかしてあげて欲しい。想像するだけで、体中が痛痒くなってきそうです(私なら確実にビビリます)。小比類巻先輩が、すごくイメージわいて似合ってるなぁって勝手に思ってしまいました。
 相撲部の練習を、いつも見てるには笑ってしまいました。やっぱり由綺南先輩の何気ない、添える言葉というのか、貶めるじゃないけど破壊力があるなって感じです。
 男魂保存会、ライバルは強いほど燃えますね。みんなイケメンでテクニックも凄いなんて、ミキじゃないけど叩き勝って欲しいですw
 北海道ライブツアーいいなぁ、高校生の時に、こんな経験出来るなんて羨ましい。初めての土地で、開放的になって、なんか起きちゃわないかなと邪な期待をしつつ。面白かったです。
であ続きを楽しみにしています♪
2009/07/23(Thu)13:35:450点羽堕



 こんばんは、甘木様。上野文です。
 御作を読みました。
 ライバルバンドの登場で、急展開を迎えましたね。
 主人公が、若干のひがみもあれ、闘志を燃やすまでの展開に引き込まれました。
 やっぱり敵役は強大でなくては。
 なんやかんやいってミキ君と龍子ちゃんはいいコンビだなって思いました。
 面白かったです!
 次の舞台は北海道なのですね。どんな騒ぎが待ち受けているのか、続きを楽しみにしています!
2009/07/23(Thu)23:38:490点上野文
 甘木さん、はじめまして。春野藍海(ハルノアオミ)と申します! 前々から気になっていた作品で、機会がなく今まで目を通すことができなかったのですが、今回、その念願かなって拝読させていただきました(^^*
 原稿用紙100枚超の作品とは思えないくらい、すらすらと読むことができました。私自身、ネット小説で三桁枚数の作品は読んだことがなかったのですが、本当にそんなことも忘れさせられるような親しみやすい文体で、親近感がすぐに感じられました。
 私はライト的な小説はあまり読んだことがなく、最初は「マンガみたいな文章が……」と少し眉間に皺を寄せたのですが、先に進むにつれ、この作品はライト的な文章でなければ面白くないということに気がつき、すべてに納得いたしました。
 これからは北海道ライブツアーに突入し、クロテンの新たな挑戦が始まるということで、続きも楽しみにしています!
 駄文にて、失礼いたしました……。
2009/07/24(Fri)18:37:390点春野藍海
 >水芭蕉猫さん、ありがとうございます。髭右近先輩は文化祭まで出す予定はなかったのですが、ミキたちを合宿ライブツアーに行かせるきっかけのために急遽出演してもらいました。髭右近先輩は変態だけど音楽の才能はあります。その髭右近先輩にミキたちがどう立ち向かうかがこれからの主題になります。書いている自分ではどれだけ音楽シーンを書いたら読者がわからなくなるか不安がありましたが、芭蕉さんの感想でなんとか雰囲気は伝わったようだとひと安心しています。

 >千尋さん、ありがとうございます。今回は色々な地域で書いていたから、自分では気がつかないけどその時々の気分で文章に差があるんじゃないかと思っていましたが、なんとか安定して書けていたようで、よかったよかった。さすがに十歌部長でもキャンピングカーを運転はしませんよドライバーはちゃんと出てきます。ミキたちはライブがメインですから余計なことはしないはずです……たぶん。ミキは苦労性の分、他の人より早く大人になるのでしょうね。

 >羽堕さん、ありがとうございます。最近は由綺南先輩と小比類巻先輩が手を組めば世界を裏から支配できるんじゃないかと思っています。この二人は正体の分からない部分が多すぎる。十歌部長はある意味単純ですよ。ライブ中に事件は起こるかも……でも、ラブコメにありがちな事件かどうかはわかりません。というか、ミキ自身がそんな展開を求めていないような気がします。彼はそれなりに真面目に音楽に取り組んでいますからね。

 >上野文さん、ありがとうございます。文化祭ライブに向かって軽音部は急加速を始めました。急加速過ぎる気もするけど、そこはお話(作り事)と言うことでご容赦下さい。書いている私がこう書くのは変かもしれませんが、ミキと龍太っていいコンビだと思います。ただ、それは男同士の友情なのか、男女の愛情なのかよく分かりませんが。ひょっとしたらこの関係は物語が終わりを迎えてもはっきりしないかも知れませんけど。

 >春野藍海さん、ありがとうございます。こんな長いだけの作品を読んで下さって感謝感激です。私は漫画的な気軽に読める作品を書きたいと思っているので、すらすら読めたの御言葉は嬉しくて凄く励みになります。文体に関してはもっと重く書いてもいいのですが、題材が題材だけに重く書くと音楽関係も細かくなり楽器を触ったことがない人やバンドに興味がない人には読み辛くなると思い軽くしてみました。次は北海道で初ライブです。クロテンがどんなふうに演奏するかをよろしければ読んでやって下さい。

 読んで下さった皆様、わざわざ感想を書いて下さった皆様、本当にありがとうございます。
 作中でミキが着ていた蟻柄のアロハですが、アロハではないですがシャツでは蟻柄はあります。と言うか、私持っています。そしてミキ並みに悪評を貰いました。
 拙い作品ですが、これからもお付き合いしていただけると幸いです。
2009/07/26(Sun)22:23:100点甘木
おはようございます。中途半端なタイミングで発言してしまいがちな木沢井です。
 アルゼンチンアリと言えば、今まさに日本の地面の下で着々と……と、それは別にどうでもいい話ですね。相変わらずの濃ゆい面子が面白おかしく動いていたので、読んでいてとても楽しかったです。小比類巻先輩、謎すぎる……。部長とかは『まあ、そういう人(方?)だし』と納得させられてしまいますが、彼女は分かりそうで分からないのが困ります。それはそれで色々と考えられる余地があっていいのですが。
 遂に出ました髭右近。たった三人でメインバンドよりも魅了するとは驚きですね。私は管楽器をやっていますが、あんな風にできる人達は本当に稀なので、彼らの凄さがよく伝わりました。ミキ達がそんな三人(特にミキは浜田)をどうやって追い越すのか、それとも追い越せないのか、その辺を楽しみに待ちたいです。
 以上、まだまだ夏休みの遠い木沢井でした。
2009/07/27(Mon)09:10:280点木沢井
どうも、鋏屋でございます。
すげぇ、やっぱすげぇよ十歌部長! 北海道ってオイっ! とミキじゃないけどつっこみたくなりました。不参加は冠婚葬祭以外認めないって……そこで龍太やミキに参加、不参加を聞くところが十歌部長ちっくで好きだ。
いや〜おもしろい。ため読みするつもりが一気に読んでしまいました。バンド物の漫画やアニメはよく目にしますが、小説でこんなにおもしろくできるんですね。
みなさんがつっこんでる蟻シャツですが、ファンションセンスがマイナス値に反転している私としては、私もおなかと背中に嫌すぎるほどリアルな大きなヤシガニがプリントされたTシャツを持っているだけに、あえてスルーの方向で……
今回はお気に入りの小比類巻女子の変人ぷりが弱かったのが残念です。(いやまて、これはバンド小説だ……)次回に期待します。
鋏屋でした。 
2009/07/28(Tue)10:52:391鋏屋
 レスが遅くなってしまいすみませんでした。

 >木沢井さん、ありがとうございます。音楽をやっている人に読んでもらえて嬉しいです。やはり音楽をやっている人に読んでもらえて、演奏の雰囲気のようなものが伝わったとの感想がもらえると安堵すると同時にすごく嬉しくなります。メンバーは相変わらず濃いというか、作者である私でさえ正体が掴めない状況になってきています。「たかが音楽」でミキたちがどれだけ熱くなれるかを自分の経験を含めて何とか書けたらなぁと思っています。

 >鋏屋さん、ありがとうございます。十歌部長の行動力には書いている私でさえ驚かされます。もはや作者の意識の上を行く行動力は制御不能です(これを構成力不足という……鬱)。バンドものは文章にすると音が平面になってしまうので書き辛いですよ。それをどれだけ読んでいる人に伝えられるかが技量なんですが、残念ながら私にはないようです。本当に難しいですよ。ヤシガニプリントとはすごいシャツをお持ちですね。ファッションって言葉の斜め上を行くセンスに感服しています。小比類巻先輩はこれからも活躍してくれますよ。

拙い作品ですが、これからもお付き合いしていただけると幸いです。
2009/09/22(Tue)01:18:120点甘木
こんにちは! 羽堕です♪
 私もツバキの性別を気にしつつ、由綺南先輩すごいなぁ、こんなキャンピングカー運手付きを用意できてしまうなんて。もうやる気も倍増、ステージも幾つか用意されてるようだから、楽しそうだな羨ましいなと妬み全開です! でもどんな事が起きるのかな? と期待してガッシと掴まれた感じです。
 夜、ミキは一人テントかぁって、十歌部長のそんな思惑があったなんて、どこまでも音楽に対して厳しく真っ直ぐなんだなと思いました。そして小比類巻先輩の人形には、笑いとゾクゾクが一緒にきた感じで「そうでなくちゃ!」なんて喜んでる自分がいたり。それにしてもクロテンメンバーからの夜這いは無かったけど、あれを夢として片付けるミキって多少可愛いなと思ってしまいます。是非とも小比類巻先輩に感謝して欲しいのですがw
 クロテンの初ライブは、ミキが想像していたような結果に終わらなかったようだけど、その経験や笙子さんと出会いアドバイスを貰って、またバンドとして一歩前に進んだんじゃないかって、感情移入できてるからこそ実感できた気がします。
 温泉の所は、なんだかちょっとドキドキしてしまいましたが、二人のライブを盛り上げたいって気持ちは同じで伝わってきて、ちゃんとオチもあってw きっと小比類巻先輩が服を……なんて。面白かったです。
であ続きを楽しみにしています♪
2009/09/22(Tue)10:33:121羽堕
更新分拝読しました。皆、それぞれの人物描写がウマいなぁと感じました。そしてツバキさん!! アナタは男なのですか? 女なのですか? いや、まぁ私としてはどちらでもというかいっそフタナリさんでも全然文句無いです。猫目とか好き過ぎなんですよ。ともあれ、クロテンメンバー初ライブでしたが、失敗は失敗でも、きちんと実のある失敗だったので、良かったのだと思います。進歩する失敗、それは失敗ではないのだと思いますにゃ。
ところで、百人浜って行った事無いですが、そんな、生きてない人がごたごたやってきたらそれはもう怖いすぎです。小比類巻先輩のお人形の威力が凄まじすぎです。もしや生き神さまでは!? なんて……。兎に角皆生きてて何よりかと(おい
新キャラ笙子さんも良い味出てました。なんか十歌先輩とはまた違ったお姉さんって感じですね。次の地ではどんなことが待ち受けているのか、私としても楽しみです。
ところで、北海道マジさむいまくりですよ。夜になると寒くてそろそろ半袖では辛くなってまいりましたorz
2009/09/22(Tue)20:56:411水芭蕉猫
千尋です。
 travelersという章題どおりの内容ですね! 笙子さん、親切すぎじゃない?と思ったりもしましたが、ふと京都に旅行に行ったときのことを思い出しました。たまたま店で隣に座った地元の人がすごく親切でとても楽しい旅になったので、帰ったあとお礼に地酒を送ったら、あちらからも京都の美味しいスイーツをお返しにくれたり、で益々感激したことが。京都といえば日本どころか世界中から観光客が来るのに! 一期一会という言葉もありますが、自分に照らし合わせてみても、やっぱり旅の人には、どうせなら自分の地元を好きになって帰ってほしいというのは、すごく良く分かります。笙子さんも、そういう理由でクロテンがガッカリしている様子が、特に気にかかったんじゃないでしょうか。やっぱり旅って、景色や食べ物だけじゃなく、人との出会い(もう二度と会えないかも知れないけど)も醍醐味ですよね。そういう旅の機微がよく表現されているなあ、と感動しました。
 なんかミキの独白と突っ込みが大人しくなっちゃったなあ、という気がしたのですが、学校を離れて周りが女子ばかりになったせいかも知れません。完全にイジラレキャラになってますね〜。でも龍太もそのおかげで女子側に入っていけてるようで、なかなかリハビリにはいいかもですね。とりあえず涼風ちゃんがいて良かった! 彼女を見本にすれば龍太も女子道を誤らずにすむでしょう! それにしても、この作品、もう十歌部長がシナリオ書いているんじゃないかっていう気もしてきましたよw 
 続きも楽しみにしています!
2009/09/23(Wed)08:42:510点千尋
 こんばんは、甘木様。上野文です。
 御作の続きを読みました。
 温泉で意識を失ってから何があった〜〜〜!?
 という絶叫はおいといて。
 敗北や挫折をガツン! と書けるのが、やっぱり甘木様の凄いところだと思います。
 自分のことでせいいっぱいなら、エンターテイメントにならない。
 こう痛みとともに、胸に刺さるものがありますね。
 でも、だからこそ、楽しいんだろうなあ、と音楽のことはわからない私ですが、そう思わされました。たいへん面白かったです!
2009/09/23(Wed)21:16:360点上野文
どもです。久々の感想書き込みです。
如何せん読むのが泥のように遅いので、まだ一話分の感想しか書けませんが、ご了承をば。
いやはや、楽しい。勿論面白いのですが、ぐいぐいと引っ張っていく龍子とミキの関係とか、男から女にジョブチェンジした時の感想を話すのもまた良いです。更にそれを引き立てる周りの反応が何ともグッドです。『オトメならしょうがない』がみんなにあって、それを利用する龍子がまた何とも。
半陰陽と聞くとリングの貞子を思い出します。俗説かどうかは不明ですが、半陰陽の人は美形、美人になる傾向が強いだとか何とか。
龍子も絵に描いたような美人さん何だろうなぁと勝手に想像しています。

ではでは〜
2009/09/24(Thu)19:57:571rathi
[簡易感想]おもしろかったです。完結したら細かい感想を書きたいです。
2009/09/26(Sat)08:34:360点askaK
 こんにちは、三沢が去りその去り際にみえた男気に涙しつつも、それを上回る虚脱感に襲われお久しぶりとなってしまいました頼家です。
 作品を読ませていただきました。流石と言いますか……髭の謀反、新メンバー加入、北海道へのトンでもツアーに、恒例の温泉イベント……その構成や、繋ぎ方が大変素晴らしく、勉強させていただきました!人間関係や各々方の成長も巧みに描かれ、「勉強させていただきました」とは書いたものの、いまだ私の経験値ではフラグすら立つ見込みの無い状況です^^;
 ただ、小比類巻やツバキなど、著名人の方の名前があるとどうしてもその人のイメージがキャラクタについてしまうと思うのはのは私だけでしょうか?
 では、ゾーシュを取り巻くドタバタラブコメの続きを期待とともにお待ちしております!!
            頼家
2009/09/26(Sat)14:44:141頼家
 >羽堕さん、ありがとうございます。ツバキさんの性別は……どっちなんだろう? 由綺南先輩はお嬢様ですから、お嬢様は何でもありですよ。北海道でのライブはあと二つこなします。
 テントで一人過ごすってちょっとした憧れなんですよ。私自身経験ないからミキには堪能してもらおうと思って書きました。小比類巻先輩のエピソードも入れたかったしね。小比類巻先輩はある意味、無敵キャラになりつつあります。十歌先輩がもうすでに無敵キャラだけにミキは大変だと思います。
 初っぱなのライブを成功させるほど私は甘くないです。だって私の初めてのステージは……お、思い出したくない(鬱。でもバンドって一つの想いの塊なんですよ。その想いを共有している間はどんなに失敗したって前に進み続けます。まだまだ失敗が続くかも知れませんがクロテンは確実に前進していきます。もしよろしければ彼等の前進をみてやってください。
 ちなみに服は誰が着せたかは永遠の謎です。

 >水芭蕉猫さん、ありがとうございます。私の作品の場合、ストーリー自体に目新しさはないですからキャラ勝負。だからこのような感想をいただけると本当に嬉しいです。
 みんなツバキさんの性別を気にしているなぁ……このキャラを作った甲斐があったなぁ。
 真面目にやっているバンドによくありがちな失敗なんですよ。「上手に」って呪縛に縛られて周りが見えなくなる。でもこの時はそんなに緊張はしないんですよ。本当に緊張するのは……おっと、危うく次回のネタばらしをしてしまうところだった。
 百人浜キャンプ場が海辺から内陸に移転したのは事実だし、オカルトじみた噂は聞いたことはありますが事実は分かりません。ちなみに朱鞠内湖キャンプ場のCサイトもいい噂は聞きません。小比類巻先輩は生き神様じゃないですよ。ちょっと他人よりオカルト方面に詳しいだけの得体も正体も実情も分からない女子高生です!
 笙子さんは私も気に入っているのですが、残念ながら今回だけのゲストキャラです

 >千尋さん、ありがとうございます。北海道出身の私が言うのも変ですが、北海道って大らかというかいい加減というか、けっこう他人を簡単に受け入れちゃう土地ですよ(移民の土地だからでしょうね)。特に北海道の女性は姐御肌の人が多いから面倒見てくれますよ。笙子さんからすればパンクバンド(?)の仲間ができて嬉しかったんでしょうね。私はライブツアーはしたことないけど、趣味の弦楽器でアンサンブルがある時は控え室などで演奏者と話すのが楽しみで、ミキたちにもそれを味合わせてやりたくて書いてみました。やっぱり趣味が同じ人と触れあうのは楽しいですからね。
 今回はちょっとミキが大人しくなっちゃいましたね。それは自覚しています。やはり周りが女しかいない(ツバキさんは性別不明)状況下での男一人というのは、どうしても萎縮してしまうと思いますから。
 龍太は女の子側にちゃんと入っていけてるのかなぁ……女の子って言っても十歌部長と小比類巻先輩は論外だし、由綺南先輩は次元が違うし。確かにこの中じゃ涼風が比較的まともな女の子ですよね。涼風って目立たないけどけっこう使いやすいキャラですから、これからも龍太の女道の師匠として活躍してくれるでしょう。
 そろそろ作者名を甘木から純鈎十歌に変えた方がいいかもしれないwww

 >上野文さん、ありがとうございます。温泉でも出来事は永遠の謎ですよwww
 失敗って決してマイナスじゃないと思うんです。私も高校時代にバンドに入ってミキと同じ目に遭いました。その時感じたんですよね。受けるバンドって演奏している当人たちがなにより楽しんでいることに。感情って伝染するものだって。いまは楽しませることばかり考えているからヴァイオリンの先生に怒られてばかりですが。
 たぶんこれからもミキたちは色々と失敗を重ねていくと思います。失敗は経験してみないと分からないから。だから自分の経験を含めてミキたちに色々経験させてやりたいです。
 書いている私が言うのも変だけど、クロテンってバンドに愛着が湧いてきています。でも、本当にあったら絶対に入りたくない。女だけのバンドに男一人なんて状況は地獄以外何ものでもないからwww

 >rathiさん、ありがとうございます。遅かろうが読んでいただけるだけで感謝の気持ちでいっぱいです。
 男の子が突然女の子になっちゃうって設定はよくあるじゃないですか、でも現実感がないのは面白くないし、なにより龍太を最初から純粋女性として設定しちゃうと単なる恋愛もので止まってしまう感じがしたので、男女の境にある存在として龍太を設定してみました。出だしは何とか読めるようになっていたようで安堵しています。
 半陰陽って美男美女になるんですか。それは知らなかった。私としては龍太はそこいらにいる兄ちゃんで、ちょっと線が細くて女顔ってイメージしか持っていないんですよ。と言うか、いまだに龍太を女とは感じていないんです。

 >askaKさん、ありがとうございます。完結まではまだ3〜4話かかりそうですが、もしよろしければお付き合いしていただけると幸いです。

 >頼家さん、ありがとうございます。三沢の死は早すぎましたが、決して無駄にはなっていません。彼の死をきっかけに受け身の徹底など安全対策が向上したのですから。
 勉強になるかどうか分かりませんが、読んで楽しんでいただけたとしたら嬉しいです。自分で言うのもなんですが私の作品は取り立てて珍しいアイデアや構成が有るわけではないので、書いていて毎回不安なのです。
 勉強に関しては私も同様ですよ。でも「人間80歳まで勉強だ、仕事はその後でいい」って誰か言っていたし(ヘミングウェイだったかな?)、死ぬまで勉強ですよ。でも私の場合は補習の方が多い気がするけど(鬱
 小比類巻に関しては悩んだんですよ。東北的な名字を付けたかったから小比類巻と今給黎が候補に残り、字数が多い方がいいから小比類巻にしてみましたが。
 これからどんな感じのドタバタが続くか分かりませんが、宜しければお付き合いしていただけると嬉しいです。

 読んで下さった皆様、わざわざ感想を書いて下さった皆様、本当にありがとうございます。拙い作品ですがこれからもお付き合いしていただけると嬉しいです。
2009/09/30(Wed)00:12:310点甘木
どうも、鋏屋でございます。
いや、更新されてたのに気が付きませんでした……
今回も楽しく読ませていただきました。苦難あり、挫折あり、しかもお約束のお風呂シュチュありでバランス的にも文句なしです。青春してるなぁなどと余韻に浸ってしまいました(笑
良いところで切り、次回への引きを作って期待させるのではなく、1話でストンと落としどころを作り、なおかつ次が気になる終わり方が見事です。いいなぁ、こういう構成力って言うのかな? 私にも痛切にほしいところです。
私の最近のお気に入りである小比類巻先輩の得体の知れなさも、幽霊?イベントでさらにUPして良かったです。今回から登場した新キャラも魅力的ですね。相変わらず地に足着いたキャラ達が際だってて安心して読めるのが良いです。次回も期待して待ちたいと思います。
鋏屋でした。
2009/10/08(Thu)10:44:431鋏屋
 >鋏屋さん、ありがとうございます。コメ返しが遅くなってすみませんでした。気付かずに放置していたことをお詫びします。基本的に読み切り連載形式のコメディマンガを描いているつもりで書いています。だからこの感想嬉しいです。だいたい初めてライブするバンドが大成功するなんてあり得ねーです。たとえあっても神が許しても私が許しません。バンドなんて不完全な人間のやることなんだから失敗して当たり前なんです。バンド活動に関しては特殊な事例を除いて等身大で書いていこうと思っています。今回は小比類巻先輩のためにあるようなものです。楽しんでいただけたら書いた甲斐があるというものです。キャラは自分でも定型だとは思いますが愛着が湧いてきていますよ。改めて返事が遅くなってすみませんでした。
2009/11/15(Sun)00:08:120点甘木
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