- 『想い遂げる事こそ誉(仮)』 作者:神楽 時雨 / ファンタジー 異世界
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全角8414文字
容量16828 bytes
原稿用紙約26.05枚
最愛の人をただ護りたい………
戦争とは多勢で行われてなどいない。
戦争とは常に独りが1人を!家族を護るために戦っている。
極限状態の中で愛国心など生まれはしない。口先だけの愛国心など所詮は口上の建て前……
かつて父の前で、死した後は後継となった兄の前で、補佐として就いていた母の前で……忠誠を誓っていた者達。
そして2人が死んだ今、僕の前に忠誠を誓ってくれる兵など皆無。
僅かに残った将とて、歴戦の武臣であった者達が離反した今、忠義よりも命を取るであろう。
そして今、僕の目の前には目に涙を溜めた父、母、兄、そして僕を仕えてくれていた臣下達が両膝を折って敵軍の元へと降る許可を求めている。
「申し訳ありません。もはやこの国に未来はなく、僅かの希望があるのなら妻、子供を持つ者は!せめて子供だけでも安全なところへ非難させてやりとうございます」
どうかお見逃しを!と臣下全員が頭を下げる。
……所詮は天命。待てど得られず、追えど近づかず。民は絶え、臣下は降り、血筋は今や僕独り。
「行くと良い」
端的に発せられた言葉に、臣下は耳を疑い、しかし次の瞬間には一斉に騒ぎ出した。
「これで戦争は終わる!聞けば敵軍の総大将は偉く懐が広く豊かだそうだ!貧しい国ともおさらばだ!」
先程まで支えていた王の御前でほざく言葉か!?
忠義を、忠誠を誓っていた者達とは思えぬ言葉だが、見限った王など人以下の存在か…、それもまた天命。
「これより一刻後、この国を放棄する。死にたくなければとりあえず国境の砦に非難する事だ」
場末に討ち捨てられようとしている王の言葉などもはや聴く者はいない。
騒ぎ逃げ出す準備をしている者達を尻目に、僕は独り、王族の者達が眠る宝物庫へと足を運んだ。
宝物庫と言ってもすでに財産は民に分け与え、兵糧とて先程の戦で全て使い果たした。
中にあるのは王家の墓標と七つの宝具、神具の類。かつて世界を創り、滅ぼしたといわれる七つの大罪。
その具現した物がこれらの宝物である。
「常に戦場では独りが独りを倒す。想い遂げられれば、生きて帰れれば想い人が、家族が出迎えてくれるだろう…」
僕もそうだった。
そしてもうそれは無い。
「かつて世界を消滅させたとされる七大罪の1つ『終界』<アトランティス>」
『俺』は地面に突き刺さっている一振りの短剣を引き抜くと、おもむろに自分の手首を斬った。
痛さと血の色に顔をしかめるが、構わずにその血を墓標に振り掛ける。
「かつて世界を狭間に飛ばしたとされる禁忌の宝剣『冥界』<アヴァロン>!」
傷ついた手で剣を引き抜き墓標に突き刺す!
「かつて世界を乗せたとされる船の宝具『絶界』<ノア>」
突き刺した墓標が血と共に光を放ち、その姿を変える。
現れたのは竜玉と見間違えるぐらいの大きさをもつ蒼き珠と、その珠を中心に浮かび上がる光り輝く古代文字だ。
無論常人には読めず王位継承者しか知る事は許されない。
そう……俺は突然の死去によって祀り上げられた予備の王。正統後継者で無い俺にはこの古代文字の解読はできない。
しかし、自信がある。読めずともこれは動かせる。
部屋自体が光り始め、壁には七つの大罪をはめ込むかのように窪みが開いていく。
「かつて世界を渡ったとされる神槍『史界』<ラグナロク>」
一本、また一本と、名を告げながら宝具を、神具を収めていく。
「かつて世界を打ち抜いたとされる宝弓『破界』<オシリス>」
この破界を嵌めた瞬間、少年のいる空間以外の半径百里が事実上消滅し、その衝撃は反対側の国まで広がった。
しかしそれを知る事もなく、そして知る必要もなく。少年は残り二つの宝物をはめ込む。
「かつて全ての世界の門を開けたとされる宝鍵『逢界』<アダム>」
「そして全ての世界の始まりとなった神具『未界』<イヴ>」
そして七大罪全てを嵌め込んだ時、世界が終わった。
それは何気ない朝だった。
突如として白昼の空に一筋の閃光が流れ、地へと落ちてきたのだ。
山二つ向こう側へと落ちてきたその光は、各地を統べる王族の目に、耳に届いた。
私は隊を率いていち早くその落下地点へと馬を走らせたのだった。
朝稽古の途中、突如として目の前が光で眩み、次の瞬間には湖の向こう岸で轟音と共に光の船が半分その身を沈めながら斜めに建っていた。
私は稽古に参加していた近衛兵達を連れて船を出し、警戒しながら空から降ってきた光る船を目指して水上を移動していった。
最後に見た光景は自分の住んでいた世界がガラス球のように砕け、そして世界の中心と思われた場所に現れた黒い物体に絶界が飲まれたところで意識が飛んだ。
おそらくは未界の力で生まれた世界の門であろう。
「という事はここは新たな世界なのだろうか?」
見た限りでは湖に頭半分突っ込んでいる状態のようだ。残念な事に他の宝具神具も光を失いただの武器になっている。
「しばらくはここに居た方が良いのかもしれない。宝具や神具があれば身の守りにもなるだろう」
世界を創り、そして破壊した『世界』そのものといえる道具をもっている俺は、おそらくはどの世界でも覇を唱えられるだけの力を手に入れたも同然だろう。
七つの世界を手中に収めているという自覚は無いが、あれだけの力を使ったというのは少なからず、己の力では無いにせよ自分にとっての自信に繋がる。
そんな事を考えていると、おもむろに船全体が揺れ動かされている振動を体に感じた。
見れば近隣の住民であろうか? 武装した人間が縄を掛けてこの船を起こそうとしている。
装備を見るに、俺がいた世界の装備よりも幾分が歴史が古いように見えるが、それでも僅か十数人で動かせるほどこの船とて軽くは無い。
よほどの力自慢らしいな。とだれともなく呟き、これからの行動を整理する。
「しばらくの行動は不可。絶界は動かないし、他の宝物も光を失っている。船の原理もよく解っていないのに迂闊に離れるほど馬鹿じゃないが」
このままいけばやつらが船を起こして中に進入してくるだろう。
戦いとなったらここにある宝具のみで戦う事になる。世界を破壊した武装で負ける事は無いだろうが己の力量を過信した事などない。
国1つ護れなかった力量を信じるほうも馬鹿か…と1人呟く。
「せめて船さえ動けば…」
絶界は光を失い白銀の船体を先程から小刻み揺らされて不愉快そうにぎしぎしと音を鳴らしている。
「しょうがない。いきなり殺されるような蛮族ならこの世界も破壊して次の世界へ覇を目指そう」
振り返らないと決めた時から俺 『神崎 真理』の物語は始まっていたんだろう。
私はあらゆる海を制覇した。幾多の戦を勝ち残り、数多の船を見てきた。
しかし、この船は今まで見てきた物とは根源的な意味で常軌を逸脱しているとしか理解できない。
原型としては戦艦。最近開発され、我が軍でも試験的な運用が開始されつつある鉄船。
あくまで見た目の印象がそれだ。不思議なのは祖体の構成だ。鉄と思いきや触れれば怪しげに光を発し、しかも想像以上に重いときている。
ためしに弓で表面を射ってみたが、不思議な金属音と共に矢は塵となった。
少なくとも敵意ある攻撃に対して光は反撃を行うというわけだ。
相手は人なのか?それとも神なのか?
最初の白光以降船は沈黙し、こうして縄で船体を起こそうとする動きにも反応は無い。
こちらの出方を見ているだけならばこの動作は見てみぬフリはできないと思うが、果たしてどう出る?
一角に立つ将ならば勢い出て名乗りをあげる者だが、人が乗っているのかどうかさえ定かで無い以上迂闊に内部へ侵入するのは危険極まりない行為だろう。
やがて船は地面にめり込むようにして湖へと着水し、重い船体を沈めることなく浅瀬ではあるが水辺に浮かんだ。
「さて、これからの行動についてだが…」
ふとこれからの行動について考えた事を述べようとした時、不意に部下から声が上がった。
「人が出て来たぞ!?」
驚き背後を振り向けば、身の丈三倍はあろうという煌びやかな槍を手に持った青年?が静かに甲板に上がったところであった。
「何奴か!祖国と名を名乗れ!」
とっさに警戒態勢をとる人間達を一様に眺め、青年らしき人物は口重く名を告げる。
「我が名は神崎(かんざき まり)真理。祖国は無い。貴殿の名とこの世界の呼び名を問う」
不思議な問いに一瞬躊躇こそしたものの、はっきりとした態度で私は己の名を口にした。
「我が名は神楽!神楽(かぐら しんら)森羅という。貴公の言うこの世界の呼び名は知らぬがこの国の名は虚空!
猛虚なる大君主!天ノ鶴姫が統べる四大陸が西の大国よ!」
言葉から伝わる声色に嘘は無く、この青年の純真さと自信の程が伺える。
ゆえに下手には出ずに一国の王として君主にお目通りせねばなるまい。
「我は世界を渡り統べるために来た。貴公の仕える『天ノ鶴姫』とやらと話をしたい!」
真理の発言に内容についていけない人間は?を浮かべていたが、利口そうな幾人かは、真理の発言に眉を寄せ、目の前にいる森羅という青年は一瞬呆気に取られたがすぐに気を取り戻して猛反発する。
「ふざけるな! いくら貴様が面妖な乗り物に乗っていようと、そうやすやすと得体の知れない人間を君主様に合わせるわけにはいかん!」
覚悟なされよ!
一斉に統一された動きで構えられる動作に、真理は眉をひそめ、しかし背に隠し持っていた宝弓を構えると弓をひく動作を始める。
幾人かの人間が笑いながら「あいつ何をやってるんだ?」「矢も番えずに馬鹿じゃないのか?」などと喋っているが、次の瞬間には驚きと恐怖が全身を支配する。
「穿て、そして知れ、世界を射抜きし畏怖の一矢を」
放たれた先に兵ではなく、近くにそびえ立っていた一枚岩の小山。 その山に向かい放たれた空気の矢は、高い音色のような音を出しながら小さな、やがて鋭く大きな光の矢となって小山の中心を抉り出して貫通する。
勢いは止まらず、はるか向こうに見えた小さかった山々の頂上付近を軽くえぐって音は鳴り止む。
「これでもまだ、抵抗の意思を見せるか? それとも私の発言を嘘だというか?」
森羅達はただ、静かに項垂れるしかなかった。
「なに、あの光の主が?」
玉座の間、右側で側近を務めていた男が怪訝そうな顔つきで森羅達を一瞥する。
無理も無かろう。なにせ訓練中とはいえ精鋭ばかりの部隊をただの一矢で黙らせたという報告入りだ。
「鶴姫様にお目通りを願いたいと申しておりまして、とりあえず害をもたらす気は無いという事でしたので、それを信じて城門の入り口にて待っていただいております」
森羅の言葉に側近の男は苛立ちげに鼻を鳴らす。
「いくら光る船で空から来たとはいえ、三国の放った密偵である可能性も考慮に入れねばなるまい! こちらとて三日後に控える戴冠式の準備で忙しいというのにまったく!」
男は手に持っていた木簡にメモを取ると玉座の間の更に奥、兵士達の間で『猛虎の座』と呼ばれる。普段、天ノ鶴姫が生活している聖域へと消えていった。
…待つ事数分。やはり忌々しいといった口調で「玉座の間へ通すようにとのお達しだ」とだけ告げてどこかへ消えてしまった。
森羅達は内心安堵しつつ、城門まで真理と名乗っていた青年を迎えに行った。
そこで待っていたのは遠まわしに言って混沌だった。
辺り一面には負傷し散乱した兵の山。円を描くような人垣の中心には二人の女性の姿があった。
「うむ? お主なかなかやるではないか! 荒削りだが舞を髣髴させるような見事な槍裁きであったぞ!」
「そちらこそ。だてに猛虎と呼ばれるだけあってすさまじい剣裁きであった」
息一つ乱さずそこにいるのは、先程まで玉座の間に居たはずの鶴姫様と城門にて待つ様に言った筈の真理とか言う青年。
いや? よくよく見ればボディバランスこそ均整が取れているが仕草の一つ一つに女性特有の女らしさが感じられた。
「鶴姫様! 何事ですかこれは!? 真理とかいったな。貴様の仕業なのか?」
森羅のキツイ口調と兵達が周りを取り囲むのは同時、しかし真理は傍らに寝ている兵士を槍で仰向けにさせると、その喉元へ槍の穂先を突きつけた。
「問う。変装してまでこの城へ入り込んだのはなぜだ?」
真理の口調に兵士は薄ら笑いを受けべるが、一撃左肩に槍を突き刺すと、息せき切った口調で喋りだした。
「に…西のく…国のおおおお王が、ひひひ光の主を連れて来いとおおおせでしかたなぐっ!」
言葉は最後まで続かなかった。風切りの音すらしない一本の細い鉄針が兵士の喉を貫いたのだ。それも倒れている兵士全員の喉に向かってである。
一人目の兵士の攻撃の後、城の兵士達は一斉に身を固め、真理たちは四方に視線を走らせ敵の正体を探す。
「いない…か?」
眼光を鋭くした鶴姫の言葉に真理は肩の力を抜くが、森羅は警戒を怠らずに真理に剣の柄に手を掛けたまま接近してくる。
「今のも貴様か!? やはり連れて来るべきではなかった! お離れ下さい鶴姫様!」
森羅は鶴姫の前に回りこむと守る様にこちらを威嚇してきた。他の兵も剣に手を添えたままこちらを遠巻きに囲んでいる。
「やめぬか貴様等!」
そんな彼らを怒鳴ったのはあろうことか鶴姫自身であった。
「真理とやらの人となりはよく解らんがこの事件に際しこやつは無実じゃ。疑うならばそれ相応の理由を述べよ!」
鶴姫の言葉に、兵達は警戒こそ解かぬものの剣から手を引いた。一人以外は…
「私はこやつを信用できません。先程の行為も自作自演の可能性も…」
森羅の言葉に鶴姫は軽くした打ちする。
「先程の雑兵の言葉を聞いてなかったのか?」
真理よ。と鶴姫は真理に向き直り一つの問いかけを出した。
「貴公が知っているこの国以外の名を言ってみよ?」
知っているも何も来たばかりでこの騒ぎなのだ。知っている国の名など一つしかない。
「私が知っているのは、そこにいる森羅が名乗りをあげた西の大国『虚空』という名だけ。雑兵の言っていた西の国とはここではないのか?」
真理の言葉に、森羅はハッとした顔で鶴姫のほうを凝視する。
鶴姫も真理の問いかけに苦々しげに唇を噛んで静かに頷いた。
「確かに、ここは西の大国『虚空』であった」
過去形の言葉に真理は首をかしげる。
「であった?つまり今は違うというわけか」
真理の言葉に過剰に反応したのは鶴姫ではなく森羅と周りで真理を包囲していた兵士達であった。
「違わない!ここは今でも西の大国である!たとえ鶴姫様が…」
続く言葉は鶴姫の「やめんか!」という大声で強引に打ち切られた。
「真理よ。ここで話すのは気が進まんから我の部屋へ来い。この国の現状とお主の話を聴きたい」
鶴姫は周りにいる兵士に、死んでいる兵士の後始末と森羅に城の周りの警備を強化するように指示を出し、真理と共に城の中へと消えていった。
二人が城内に入るのを城からはるか後方、城下町をぐるりと囲む城壁の上から見ていた女性が苛立たしそうに舌打ちをする。
「まずいな。城内に入られてはこちらが手を出すことができなくなってしまう。紛れ込ませていた近衛兵は大半が二人によって倒されてしまうし、口を割られると厄介だから殺してしまったけどこれからの行動に支障をきたすかもしれないわね」
見れば片手には昇龍を象った形の弓を携え、腰には片手で持てるサイズの短剣を吊るしている。
光が落ちてきたあと、彼女が使える国の太守はその光の正体が船であると瞬時に見抜き、その時最も船に近い場所に陣を築いていた私に早馬を出した。
時半刻して部隊を率いて国内に侵入、もともと隠密を専門に活動していた私たちの部隊は城内にも多数潜伏、情報収集を行っていたが、それもこれまでだ。
「一旦戻って太守様に報告。今後の対処と行動について策を練らねばなるまい」
女は身を翻すと一息に城壁を垂直に駆け抜け、下で待たせておいた白馬に降り立つとその姿を消した。
城内、猛虎の座では一人の女性が高笑いをして部屋の空気を変えていた。
「なるほど! 己の国が以前、他の世界から奪ってきた世界その物といえる武器を持っていたがために周囲の国々から狙われ程なく滅亡。その折最後の民を逃がして宝物庫に収められていた七つの宝具を使って世界を渡りこの国に来た」
信じてくれなくとも構わない。という真理の発言は鶴姫の笑いで一蹴された。
「信じるも信じないも、ここまで真実味のある物を三つも見せられていては無駄と言うものであろう?」
先ほど森羅という男から聞いた弓の話と実物、そして一緒に持ってきた槍と光の船の話。 嘘といえる要素があまりにも少ない以上現実として認識するのが妥当という判断だろう。
しかし笑いは突然止み、鶴姫は一つの疑問を口にする。
「ならば、なぜその宝具を使い周囲の国を黙らせなかった? なぜ他の世界に逃げる事をしなかった? 我はそれが不思議でならん」
最もな質問であり、それゆえ答えやすいともいえる質問でもある。
「理由はいくつかある。まず一つは宝具の存在。そして使用の制限」
いくつかの制限を指を折りながら数えていく。
「最大の問題は威力といえよう」
威力? と鶴姫は首を傾げ再度聞きなおす。
「王家の血筋しか使えない理由は宝具自身に意思があり、己を手に入れた血筋の者を認識し力を発揮する。故に王家内では純血である第一皇子にしか宝具使用の秘伝は伝えられず。王家内の重鎮内での利害の一致でしか力を振るうことは許されない」
ならば。 と鶴姫は咥えていた煙管を離して「最後の時まで使わなかった理由は?」
「至極簡単な理由です。使い方を『知らなかった』です」
真理の言葉に鶴姫はさらに疑問を追加する。
「ならばなぜ知らない使い方を使って今お主はここにいる? 第一皇子でもないお主がなぜ使える?」
鶴姫の疑問に真理は口篭るが、意を決して話し始める。
「宝物の存在は兼ねてから王族内で揉めてました。宝具を渡せば他国との和平に繋がるのではないか? そして他国を一蹴してでも威厳と力を見せ付けるべきではないか? と、そんな折、私達にとって宝物庫は当時絶好の遊び場でした。
だれも危険視して近寄らず、秘密基地として使用するには絶好の場所だったのです」
そこで真理は一旦口を噤むと言葉を選んで話し始める。
「ある日、当時の第一皇子と私、そして臣下の子供達のうち、王族の血を引いていた分家の子と三人で遊んでいた時でした。うっかり分家の子がこの槍に触れ、手を切ったのです」
視線が横に置いてある槍へと注がれる。
「その血が槍に触れると一瞬鈍く光り、そして小さく震えたんです。おそらくは認められなかったんでしょうが」
真理の話を聞いて鶴姫は再び黙り込む。
「そして私が宝物庫で船を動かした時もこれを思い出して起動させたというわけです」
部の悪い賭けに乗り、それに打ち勝つのもこれまた必然というべきなのだろう。
いろいろと謎な部分も多いが、今は彼女を信じるしかないのだろうな? と鶴姫は己に言い聞かせた。
「まぁ積もる話もまだまだあるが、ようはお前も細かくその宝物を扱える分けではないという事だな?」
鶴姫のズバリな指摘に真理は小さく頷き、そして謝罪する。
「すまない。ただ解るのは、これが世界を創る、壊すといった実用性と高い威力を兼ね揃えた危険な力で、大昔の私の先祖があの船に乗って手に入れてきたということだけなのだ」
それ以上の細かい話になると、城に収められていた歴史書を紐解かねばならないが、あいにくとその世界は先の移動で消滅したと思う。
最後に見た光景が壮絶なだけにいまいち現実味が無いのだ。
しかし、目の前の鶴姫は、難しそうにしてる真理の顔を仏頂面で眺めていたと思うと、おもむろに袖の下から酒と猪口を取り出した。
「まぁあれだ。我は難しい話は嫌いだから正直お前が裏切らなければそれで良い」
じつにあっけらかんと言ってのけた鶴姫に、真理は唖然と、そしてどうにももどかしいような困惑した表情を浮かべる。
不思議な人だ。相手を気遣うようでどこまでも遠慮がない。この国がここまで大きくなっているのも発展して豊かなのもこの姫のなせる信頼なのだろう。
「とりあえず今日のところは部屋を一室与えるのでそこで一夜を過ごしてほしい。明日にはこの国の中を案内して実情を知っておいてもらいたい」
鶴姫の言葉に意味深な語彙含まれていることをそれとなく悟っていたが、明日話してくれるという鶴姫の言葉を信じて了承の意味を込めた頷きと感謝の言葉を述べる。
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2009/08/18(Tue)18:15:28 公開 / 神楽 時雨
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■作者からのメッセージ
<世界>
これをモチーフにした作品を作ってみたかったんです!
小説というのは書き手によって作られる幻想の<世界>
大国という言葉を聞くとア○リカなんか思い浮かびますけど、物語上は大国とは大陸を四分割した上で更にその四分の一の中で勢力の強い国を言います。
ぶっちゃけ首都ですね(笑)