- 『姉貴と俺の異世界探険記』 作者:GF / 異世界 ファンタジー
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原稿用紙約10.2枚
俺の姉貴は鬼である。……いや、性格の話だ。そんな姉貴と、異世界に飛ばされる? これは冗談のようで、本当の話だ。
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プロローグ
事の始まりは、臼井真由美だった。
要するに、俺の姉貴である。現在、高校二年生の十七歳。バストは自称Dカップの、まごうことなき俺の姉である。
姉貴を一言で言い表すならば、鬼だ。いや、別に身長が二メートルを超えているとか、いつも棍棒片手に歩いているとか、そういう訳ではない。
弟の俺が言うのも何だが、姉貴は美人だ。学年美人コンテストで断トツ一位になるのだから、身内びいきな訳でも、ましてや俺がシスコンだとかそういう事ではない。あくまで客観的に見て、美人の部類に入るのだ、ということである。
腰の辺りまで伸びたつややかな黒髪に、愛らしい顔立ち。まるで、本に出てくるどこかの国の姫様みたいだ。
天は二物を与えない、なんて言葉があるが、姉貴はどうやらそれには当てはまらないらしく、勉強も学年トップ。模擬試験では全国区の常連だ。更に、人当たりもよく人間関係も良好。
近所では有名な気難しいおばあちゃんが、
「ヤガミ君は、いいお姉さんを持って幸せだねえ」
なんて、ニコニコ顔で俺に言っていたので、姉貴のコミュニケーション能力は同じ年の奴らよりも、頭一つ抜けているのだろう。
当然、そんなカリスマ的女子高生を、イケメン軍団(主にサッカー部とか、バスケ部のキャプテン)が放って置く訳がなく、一時期は一月で十五人に告白されたとか、されてないとか。
とにかく、傍から見たら非の打ち所がない、カリスマ的人物なのである。
しかし、しかしだ。
俺は知っている。姉貴は単に、猫をかぶっているだけなのだ。俗に言う、世渡り上手というやつなのである。
その本性というのが、前述したとおり鬼なのである。
具体的に、どの辺りが鬼なのかと言えば、まず第一に、当然の如く家事は全部俺任せだ。
うちの両親は、仕事の関係で一年前から海外に出張している。ま、仕送りもあるし、流石に海外の学校に行く気にもなれず、俺と姉貴は家に残る事にしたのだが、それが失敗だった。俺も海外に逃げるべきだったのだ。
家事の話だったな。臼井ヤガミこと俺の一日は、朝の五時に起きる事から始まる。
まずは二人分の弁当を作る。栄養バランスと味を高いレベルで両立させた、ヤガミスペシャル弁当である。
どのくらいの高レベルかと言うと、たぶん、一流の主婦もこの弁当の質の高さを見たら、俺に尊敬の眼差しを向ける事だろう。
この領域に達するまで、三ヶ月かかった。いや、包丁を握り始めて、僅か三ヶ月でここまで上達した、と自慢すべきところなのだろうか。
そもそも、俺は弁当作りには反対だった。朝早く起きるのが辛いし、昼飯は学食かパンですまそうと思っていたのだ。
が、姉貴は
「駄目よ、そんなの。お金がかかるし、最近は食品メーカーも信用できないわ。自分で作った方がよっぽど安全で美味しいと思わない?」
とか言って、すぐさま却下。
じゃあ、交代で作ろうと俺が妥協案を提案したのだが……
「ヤガミ。あんた、確か手先は器用だったわよね? プラモデルとか、よく作ってるし。んじゃ、明日からよろしくね」
姉貴は太陽みたいな笑顔を振りまいて、俺の肩をぽんと叩いた。何がどうなってそうなったのか、俺は全く理解出来なかったね。だが、確かな事が一つだけあった。
俺に拒否権は、ない。
それから、あれよあれよと俺の意思などまるで関係なく、兄弟二人だけの共同生活のルールは、徐々に決まっていった訳で。
洗濯は俺が担当になった。理由は、年頃の男は、パンツくらい自分で洗った方がいいから、とのこと。
姉貴のブラジャーを干していたら「興奮する?」とか言ってきやがった。ふざけんな。
掃除全般も俺の担当。掃除をすると、心も綺麗になるのよ。絶対、将来の為になるから、あんたやりなさい。私? ふふ、もう十分綺麗よ。
その時の姉貴の笑顔は、とても怖かった。笑顔なのに殺気が出るって、どういう事なんだろうね。で、俺はただ黙って頷く事しか出来なかったのである。
その他、夕食の料理、買い物、ゴミだし、肩もみ、お茶組み、客が来た時の対応、セールスマンの対処……。
気付いたら、俺は主夫になっていた。これで子供の世話でも出来れば、完璧である。
で、姉貴の家庭内での仕事はというと。
「お金の管理は、私がするわね。あんたに預けると、ゲームとか漫画とかに使っちゃうでしょ? ま、お小遣いはちゃんとあげるから、それでやりくりしなさい。……あ、バイトするなら、給料の九割を家に納めてね。くれぐれも、脱税しないこと。わかった?」
俺にノーと言える勇気はなかったね。
ちなみに、姉貴は合気道二段、剣道三段のバリバリ武道派である。逆らったところで、軽く腕を捻られるのが落ちだ。下手したら、木刀で頭をかち割られてしまうかもしれない。
そう言う訳で、俺は今日も今日とて姉貴の尻にしかれているのである。全く、一年早く先に生まれただけで、どうしてこうも差が出来てしまうのか。理不尽な事この上ない。
でも、俺は姉貴の事は、別に嫌いじゃなかった。
めちゃくちゃな人だけど、正義感は強いし、小さい頃は色々守ってもらった記憶がある。小学生の時は、俺をいじめていた奴らを仕返しにとボコボコにしてくれたし、遊園地で迷子になった時も、泣きじゃくる俺の手を引いて、迷子センターまで引っ張ってくれた。
まあ、そういう面もあるから、俺はあんまり強く言えないし、このままでも良いかなと洗脳されつつある。
さてさて、本題。
どこから話せばいいのやら――そうだな、やっぱり、一から話す必要があるよな。
始まりは、姉貴が押入れの奥から発掘した、一本のゲームソフトだった。日曜日、特に外出する用事もなく、家で漫画を読んでいた俺に、呼び出しが掛かったのは午後二時前後だったと思う。
「暇だし、ゲームやらない?」
一応、疑問系ではあるが、姉貴の要望を拒否しようものなら大変な事になるので、俺は頷いて姉貴からソフトを受け取った。
ハードはスーパーファミコン。これまた、随分とレトロなゲームを持ってきたものである。表面部分に、デフォルト化された戦士と魔法使いが並んでいた。一昔前のデザインだった。九十年代前半かな?
「押入れに入ってたの。あんたが買ったんじゃないの?」
記憶にない。俺は首を横に振った。
「まあいいや。キャラが可愛いし、ちょっとつけてみてよ」
俺はスーファミの電源を入れた。
すると、オープニングもタイトルもなく、いきなり砂嵐画面となった。やがて、画面の下部にメッセージウインドウが表示される。
『あなたは、選ばれし勇者ですか?』
続いて、選択肢。はいかいいえの二択だ。
俺はこの時点で、嫌な予感がしていた。いくら何でも、メーカー名の表示やタイトルをすっ飛ばして、ゲーム開始場面になるのはおかしいと思ったのだ。
そのことを姉貴に告げると。
「よくある手法よ。いいから、早く先に進めて」
少し迷ったが、俺は仕方なく、はいを選択する。ここでいいえを選ぶと、即バッドエンドだと思ったからだ。
『ヤガミ……あなたの名前は、ヤガミですね? ――勇者ヤガミ。あなたは予言通り――このエクシアの地に――』
「え?」
思わず、俺は声を出してしまった。怖い物など何もない、といった風の姉貴も、珍しく驚愕の表情を浮かべていた。
次の瞬間。画面から光がほとばしった。俺の視界は一瞬で白に埋め尽くされ、ふ、と体から力が抜ける。
そして、俺の意識は途切れた。
俺は今、ロールプレイングゲームに出てきそうなファンタジーな服を着て、ぎらりと銀色に光る剣を持ち、見知らぬ大地に立っている。
隣には、いかにも魔法使いといった風の格好をした姉貴がいる。
「ねえ、ヤガミ。私、この世界嫌いじゃないかも」
俺はため息をついた。
これは嘘じゃない。全部、本当の話なのだ。
最初に言ったとおり、事の発端は姉貴なのである。
もしもあの時、姉貴が押入れにあったゲームを見つけなければ――いや、もしかしたら、それは姉貴の意思じゃなくて、運命だったのかもしれないけれど――。
それでも、俺はあえて言おう。
こんな事になった所為は、姉貴にあるんだ、と。
プロローグ ―了―
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2008/12/15(Mon)20:22:53 公開 / GF
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