- 『闇の狩人』 作者:麗 / 未分類 未分類
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原稿用紙約11.35枚
ごく普通の少年、九重亮。高校で同じクラスとなった柊昴と出会い、彼の運命は大きく変わる。
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+序章
あれはまだ、俺が小さい頃の話だ。仕事から帰ってきた親父の傍にいつものように俺は駆け寄る。そしていつものように親父は暖かく大きな手で、俺の頭を撫でてくれた。
ふいに俺の頭を撫でていた手は、親父の首にかかっているペンダントへと伸ばされた。そのペンダントは五角形で中央には透明な石が埋め込まれていた。親父はそれを外し、俺の首にかけてくれた。まだ小さい俺にはペンダントは大きすぎた。俺は嬉しくてじっとそれを見つめていた。
「亮、お前にこれをあげよう」
そう優しい声で言った。俺は突然のプレゼントに嬉しそうに笑って「ありがとう」と言った。すると親父は何処か寂しそうに微笑んだ。
「亮、そのペンダントがちょうどよくなった頃には父さんはいないんだ」
その言葉の意味が分からなかった俺は首を傾げることしか出来なかった。不思議そうな顔で自分を見つめる俺を親父は「そりゃそうか」と軽く微笑み再び頭を撫でる。
「お前が大きくなったら一人の女の子と出会う。そしてお前の運命を変える。亮、辛くなったらそのペンダントを握るんだ。父さんはいつも傍にいるよ」
親父は満面の笑みを浮かべ、俺の頭から手を離した。
その二週間後、親父は死んだ。事故だったらしい。俺は悲しすぎて涙も出てこない。ただ親父の言葉通り、ペンダントを小さな手で握り続けていた。
あれから十二年、俺は高校生になる。あの時から一度も忘れたことのない親父の言葉が本当になるとは思わなかった。
――四月九日。俺の運命は大きく変わった。
+一章
四月八日。桜並木の緩やかな坂を九重亮(ここのえりょう)は真新しい制服に身を包み歩いていた。茶色の短髪が歩くたびに上下に揺れる。彼が目指す先は坂の上にある校舎。そこが今日から彼が通う『禮善高校(らいぜん)』。普通の市立高校なので見知った顔も多かった。
坂を上り終えた亮は一息つくと再び歩き始めた。これから三年間毎日この長い坂を上ると思うと気が遠くなった。玄関の前には、でかでかと大きな文字で『入学式』の文字が書かれている。その隣にはクラスが発表されており、その周りには人込みが出来ていた。亮は本日二回目のため息をつくと人込みの中へと足を踏み入れる。
「ごめんなさいよ……っと」
人込みを掻き分け、どうにか表が見える位置まで辿り着いた。一組から十組までずらりと並べられた三百もの名前を目を凝らし見る。まるで受験番号を探しているようだ。そしてようやく自分の名前を見つけ出すことが出来た。どうやら一組のようで、名簿には見知った友人の名前もあったため不安は無くなった。亮は人込みを抜け、校舎へと入った。
◆
慣れない校舎を彷徨う亮。途中で先輩や教員にも聞いたが、一年一組は見当たらない。途方に暮れていると、角で誰かとぶつかった。
「っ……すみません」
「こっちこそ悪かった、大丈夫か?」
転んだ亮に手を差し伸べてきた少年。その少年は男の亮でも納得できる程の美少年だった。さっぱりとした黒い短髪に透き通った青い瞳。耳にはピアスが付けられ、首からはペンダントがぶら下がっている。そのペンダントに亮は目を疑った。それは昔亮が父親から貰ったペンダントと同じだったのだ。
奇妙な感覚にとらわれる。亮が微動だにしないのを不思議に思い、少年は亮を見つめる。亮ははっとし慌てて手を掴み、立ち上がる。
「俺は一年一組の玖洲俊也(くすしゅんや)。お前は?」
「九重亮。同じ一組」
一人彷徨っていた所に同じ場所を目指している者に出会ったとき、これ程まで頼りがいがあるものなのかと深く息を吐く。
「同じクラスなのか……なら一緒に行こう」
予測どおり、俊也は微笑みながらそう言った。一組は二人がいる間逆の方向らしい。俊也の後に続き、なんとか教室にたどり着いた。
「此処だな」
扉を開き、教室に入ろうと思った足が止った。開いている窓からは桜の花弁がそよ風に運ばれ入ってくる。そんな室内で一人本を読んでいる長い黒髪の美少女。まるで時が止ったかのような錯覚にとらわれる。
「誰だ?」
足音をたててしまったようだ。少女は二人に気づきゆっくりと振り返る。一瞬風が強くなり、大量の花弁が教室に入ってくる。
亮は彼女の姿に見惚れていると横にいた俊也が少女へと歩み寄った。
「『誰だ?』じゃねえよ。探したんだぞ昴(すばる)」
「お前が勝手にいなくなったんだろう」
どうやら二人は知り合いのようだった。昴と呼ばれた少女は整った容姿とは反対に男口調で文句を言った。ようやく後ろに呆然と立っている亮の存在に気づいたようだ、立ち上がり亮の傍へ歩み寄った。
「悪い、紹介が遅れたな。私は柊昴(ひいらぎすばる)」
「こ、九重亮だ。よろしく」
挨拶を交わすと昴は軽く微笑んだ。そのときふいに父親の言葉が蘇ってくる。
『一人の女の子と出会う』
小声で「まさかな」と呟きもう一度昴を見た。首には自分や俊也と同じ五角形のペンダントが下げられていた。偶然はこんなに何度も起きるものなのか、頭が真っ白になって何も考えられない。
「九重、大丈夫か」
心配そうに亮の顔を覗き込む昴。真っ赤になってこくりと頷くことしか出来なかった。
『一年生の皆さんにお知らせします。入学式を開始しますので体育館に集まってください』
校内放送が響き渡った。廊下を覗くと不安そうな一年生が体育館へと向かっていく。
「あの玄関の込みようだとまだ入れてないヤツ多いんじゃないか?」
俊也の言う通りだ。玄関は軽いパニック状態だ、だから集合場所をクラスから直接体育館にしたのだろう。
「とりあえず行こう。また逸れるのは御免だ」
昴の言葉で三人は体育館に向かった。昴が大体校内の見取りを覚えていたようで容易に集合場所に向かうことが出来た。入り口の前には教員が待ち構えていた。
「君たち一組だよね?」
話しかけてきたのは外人と思われる金髪の青年。亮が頷くと青年は微笑んだ。
「僕が担任のアラン・イグレス。一年間よろしくね」
アラン・イグレスと名乗る教師は一通りの指示を三人に出すとその場から立ち去った。それと同時に後ろから俊也と昴の名を呼ぶ声が聞こえてきた。
「俊也、昴どういうことだよ! 俺だけお前らとクラス違うだろ」
背後から俊也と昴に泣きついてきたツンツンの茶髪に赤縁眼鏡をかけた少年。
「いつものことだろう雄一(ゆういち)。気にするな」
冷たく俊也は離れた。昴も呆れたようにため息をついた。雄一と呼ばれた少年は驚いている亮に気づくと手を握ってきた。
「俺二組の帷雄一(とばりゆういち)。よろしくな」
「九重亮だ、よろしく」
微笑ながら答えた亮に雄一は「いい奴だな」と涙を浮かべ抱きつく。亮はあまりのテンションに着いていけず呆れている二人を見た。
「気にしないでくれ、いつものことなんだ」
「雄一、いい加減に彼から離れてやれ。どうせ演技だろう」
痺れを切らした昴が助け舟を出す。雄一は「わかったよ」と途端に泣き止み、亮から離れる。昴の予言どおり手には目薬が握られている。
「悪かったな。それにしてもお前ら新入生代表だって? 二人そろって入試満点は無いだろう」
雄一は制服を整えながら昴と俊也に話しかける。驚きで呆然と立ち尽くしている亮。
「それよりも、お前クラスの場所にいなくていいのか?」
「あ、そうだった。じゃあ昴、俊也後でな」
帰り際に軽く手を上げて挨拶すると雄一は二組の集合場所へ戻っていった。
◆
入学式も無事終わり、三人は教室で一息ついている。一番疲れているのは新入生代表で挨拶した昴と俊也の二人だろう。しかし二人は何事も無かったのかのように落ち着いていた。
偶然なことに三人の席は近い。昴を中心に、左隣が俊也、前が亮だった。教室はいくつかのグループに分かれていた。やはり初めて会う者より見知った者といるほうが安心するからだろう。
「昴、今日は午前で終わるよな?」
「ああ。どうした?」
俊也は本を読んでいる昴に話しかける。本に集中しているのかあっさりとした答え方。その言葉に俊也は何かを企んでいるかのように微笑む。
「それなら俺とお前、それと雄一で遊びに行かないか?」
「何を企んでいる」
まるで俊也の心を読んでいるかのような答え方。昴はぱたりと本を閉じた。昴の睨んだような目つきに俊也は首を振って、
「いや別に。たまには三人で出かけたいというか……それにアイツが九重の当主何だろう?」
「ああ。そのことは奴が調べている」
最終的に二人の会話は小声になっていた。二人の視線の先には知り合いと話している亮の姿が映っていた。
チャイムが二人の会話の終わりを告げる。生徒が各自の席に戻っていく。チャイムが終わると同時に先ほどの青年が教室に入ってきた。
「入学式お疲れ様。さっきも紹介がありましたが、僕がこの一年担任を務めるアラン・イグレスです」
翡翠色の瞳が教室全体を見回す。そしてにっこり微笑み「よろしく」と一言。優しそうな先生でよかった、とほっとため息をつく亮。しかし、彼はアランが鋭い眼差しで自分を見ていることなど知る由も無かった。
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2008/12/05(Fri)19:11:40 公開 / 麗
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■作者からのメッセージ
始めまして、麗と申すものです。
まだまだ初心者ですが、精一杯頑張るのでどうぞよろしくお願いします。