- 『あいつ』 作者:無花果 / リアル・現代 ショート*2
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全角2194文字
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原稿用紙約6.55枚
授業をサボるために、僕はいつもどおり、学校の裏にある原っぱに向かって、のろのろと平凡で退屈な道を歩いていた。
すると今日もあいつがいた。あいつはいつもどおり舗装されてない道の真ん中に座り込み、せっせと何かを拾い集めていた。
その姿があまりに夢中そうだったので通り過ぎるたびにいつも気になっていた。
僕は退屈でやることもなかったので、ついにあいつに声をかけた。
「君、何をやっているんだい?」
するとあいつは、せわしく動いている手をとめて、ゆっくりと僕のほうへと体をむけた。
「俺のことか?」
僕はうなずいた。
「ふふっ、そうか気になるのか……」
あいつはもごもごと独り言のように口ずさみ、そのあとニヤニヤと笑いながら言った。
「アリをひろっているんだよ」
「アリ?」
「そう」
あいつはアリが大量にはいっている透明なプラスチックの容器を僕に見せびらかす。僕は怪訝そうな顔であいつを見た。そうしたらあいつは、僕の反応をみていたずらそうに笑うのだ。
「なんで笑う?」
「ああごめん笑っていたのか。いやね、やっぱり皆そんな表情をするんだなって思って」
「そりゃ、こんな年になって夢中でアリをつかまえてる奴なんていないからね」
「確かに、確かに」
そう言ってあいつはまた笑う。
「それで、アリを捕まえてどうするんだ? 食べる?」
「まさか」
あいつは立ち上がって、アリの容器のふたを閉じてカバンにしまい、服についている砂をはらうと、どこかに行こうとして歩き出した。そして手招きをして僕を誘う。
「へんなやつ」
僕はそのへんな奴に手招きされて、もと来た道をもどり、やがて校舎に入り、とある教室の中に招きいれられた。そこは美術部なんかが使う教室で、デッサンの道具やら……、ともかく絵を描くために使いそうなものが並んでいる。
あいつは、その教室の壁に立てかけられている大きなキャンバスの前にたった。その大きなキャンバスは今のところほとんどが真っ白で、ところどころ黒い斑点が群れを成すようにキャンバスの上で浮いている。なんとなく絵の具がついているというより、その黒い点は浮いているように見えるのだ。
「これ、何?」
またしても僕は怪訝そうな表情で聞いたのかそいつはニヤニヤと笑いながら言った。
「キャンバスさ」
「そうじゃなくて」
そういうとあいつはアリを捕まえて入れておいたプラスチックの容器をカバンから取り出し、蓋をあけ、その中からアリを一匹適当に選び出し、それを躊躇なしにキャンバスに押し付けた。それからあいつは、アリをまるで物を扱うように次から次へとキャンバスに押し付け、白いキャンバスをアリの死体で埋めていく。
僕はあいつがやっていることにひどく戸惑った。そして、ひどく憤った。あいつはもはや作業とかした動作を止め、後ろを振り返り僕のひどく困惑した顔をみてまたニヤニヤといやらしい笑顔を僕にむける。その瞬間は、僕は耐えられなくなってあいつをにらみ返し、教室をでた。でもあいつはきっとそんな僕をみてきっとまた笑っていたと思う。あのいやらしい笑顔で。
そのことから一ヶ月あまりがたち、あいつのことも記憶から薄れかかっていたころ、校内で美術部が催した小さな個展が開かれていることを学校の掲示板にはってあったポスターでしった。そして即座にあいつのことを思い出し、腹をたてたが、同時にあいつに対する嫌、あいつのキャンバスに対する興味も出てきていた。そして僕はキャンバスに対する興味に負けて、その個展が開かれている教室へと向かった。
教室の近くまでいくとなにやら騒がしかった。いそいそと教室の扉を開けて見渡してみると、美術部の部員が書いたであろう数ある絵画が教室に並んでいるにもかかわらず、大勢のひとはあの大きなキャンバスの前に群がっていて、そしてなにやら言い合っていた。人が群がってキャンバスの全体が見えなったため、僕は背伸びをしてそのキャンバスを見た。 するとものすごい数のアリの亡骸が白いキャンバスの上に巨大なアリという姿をかたどって群がっていた。そしてその巨大なアリは今にも動き出しそうな……みごとな姿をしている。
「ひどい」
「気持ち悪い」
「これ作った奴、尋常じゃないな」
「どうかしてるよ生き物をこんな風につかうだなんて……」
と非難する奴がいる一方、
「すげぇよこれ、圧巻だよ」
「動き出しそう」
「いったい何匹のアリをつかってんだ?」
「別に俺ら常に蚊とか殺してるだろ? それよりよく見てみろ。かなり迫力あるぞ」
と褒める奴もいる。僕はそこで何か言いようもない気持ちを抱きながら人々の耳を傾けていた。すると突然、肩をたたかれた。僕が振り向くとあいつがあの笑顔でそこにいた。
「どうだ、すごいだろ」
僕は何も答えない。
「まっ、こんなに話題になったことだし反応がどうであれ満足だな」
そう言ってあいつはニヤニヤ笑いながら教室を出ようとする。
「今度はクモでやってみようかな」
あいつは、僕を背にしたまま言い、そして扉を開け、でていった。僕はまたキャンバスがある方向へ顔を向けた。相変わらず大勢の人がなにやら言い合っていたが、だれもそのキャンバスを動かそうとしている人はいなかった。僕はなにか困惑した気持ちを抱えながら、そのまま人の声に紛れ、そして僕もそのキャンバスを何もせずただ眺めていた。
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2008/11/13(Thu)00:30:15 公開 /
無花果
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■作者からのメッセージ
はじめまして無花果と申します。久しぶりに小説を書いたので、うまくかけているかわかりませんが、これから上達していく上で皆様のアドバイスを頂きたくここに投稿させていただきました。今回は、できるだけ出来事のみを描写したつもりです。
どうか皆様の批評お願いいたします。