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『最高のプレゼント』 作者:マサ / リアル・現代 未分類
全角6149文字
容量12298 bytes
原稿用紙約18.95枚
主人公の内村と親友の浅田が展開する野球の物語です。何がプレゼントとなったのであろうか。
「四番、ピッチャー、内村君」
「俺か……」
 回は九回裏。ツーアウト、ランナー満塁。四対一で相手に三点リードを許している。敗戦濃厚だ。俺は145キロの速球を投げられるピッチャーで、普段から四番を任されている。しかしホームランを打ったことはない。試合でホームランを打ってみたい、と何度思ったことであろうか。高校二年の時からピッチャーで四番を打っていた。
 この夏の甲子園出場をかけた県予選大会。今回甲子園に行けなければ俺に残されたチャンスは春の甲子園のみとなる。
 相手打線は貧打だったが、今回は四失点もしてしまった。
「内村、今日は完封でいく予定だったんだぞ。あんなことがあって気持ちは分からないでもないが、ここで打たなければ……分かってるな」
 あんなこと――。監督の口調には怒りが込められてはいたが、期待しているときはいつもこんな口調だ。
「……はい」
 俺はそういうと弱々しく打席へと向かう。
「浅田の為にも打てよ!」
 その言葉に俺は打席へと進めていた歩を止める。――浅田。浅田裕也は俺の親友だった。中学校から一緒に野球をやっていた。俺は中学の時から四番でピッチャー、浅田は三番でサードだ。鉄壁の浅田とまで言われたその守備力には俺も目を奪われるほどだった。バッティングもずば抜けていた。四番の俺よりもコンパクトに左右広角に打ち分ける技術は俺の数倍は巧いバッティングセンスだ。しかし、そんな浅田は今回球場に来ていなかった。先月、ノック練習をしている際に足を骨折。全治一ヶ月半との診断が出た。その為試合はおろか練習にすらまともに参加することなど叶わなかった。
 俺は二日前にその浅田に出会ってから今日までずっと心につっかえている物が晴れずにいた。何の前触れもなく訪れたあの出来事により――。


  ――――――――――――――――――――

 
 ――二日前、俺は試合前の練習の為、重いバッグを肩に掛け学校へ向かっていた。その重いバッグの中にはグローブと、それに練習用のユニフォームが入っている。ユニフォームは毎回家に持ち帰っていた。何も毎回持ち帰らなくてもいいだろ、と監督に言いたかったが自分の顔に監督の手が飛んできそうで言えなかった。練習のことを考えながら殺風景な景色の中を歩く。ここは田舎で道路の両側には田んぼが広がっていた。どこまで続いているのか、永遠に続くと思われるようなのんびりとした田んぼが当たり一面に見える。途中までくると、ふとある交差点が見えてきた。左の道路から一人歩いてきた。その人の肩にも俺と似たバッグが掛けられている。ふと一台の乗用車が奥からくる――と思ったそのとき。
「うわあああ!」
 左から来た人が奥から来た車に飛ばされた。それと同時にドン、と鈍い音が聞こえた。五メートルほど飛ばされただろうか、そのままうずくまっていた。事故というのをこの目で見ることは初めてだ。それが展開されたのは目の前の交差点。見晴らしが良いだけにこんなところで事故かよ、と思ってしまう。そう思った瞬間、轢いた車は飛ばした人を置き去りにし、そのまま走り去ってしまった。
 轢き逃げだ――! 俺はその車を目で追った。
「え、あ、えっと、車のナンバーは……○×−△○、と」
 俺にしては意外と冷静だった。車のナンバープレートを見ることができた。しかし轢き逃げとは最近多いな――。と、冷静になっている場合ではない、轢かれた人を助けないと! 俺はその人に駆け寄ると声を掛けた。
「大丈夫ですか!」
 顔を見てみると何とそれは見慣れた奴だった。
「お前……浅田じゃねえか!」
 轢かれた人は俺の親友の浅田裕也だ。
「う、あああ、い、いてえ……う、内村か……お、俺どうなったんだ?」
 浅田は苦しそうにしながらも俺の顔を認めると心なしか少し安堵した顔になった。浅田の近くに落ちていたバッグを見ると練習用の道具が入っているバッグだ。
「よ、良かった生きてた……浅田、しっかりしろ! お前、練習出れるような状態じゃないだろ」
 俺は少しホッとしたが、浅田の顔から少しずつ血の気が引いていくのが分かった。
「一応、な……で、でももう学校にも行けないかも、な……いてててて」
 浅田の顔が蒼白に近づいていっている。俺は浅田に必死に話し掛けた。
「何言ってるんだよ、骨折ももう治るんだろ? また一緒に甲子園目指そうぜ、こんなとこでくたばるなよ!」
 俺は浅田に涙目になりながらも笑顔で話し掛ける。浅田は苦しく呻きながらも俺に笑顔を返した。
「それよりお前、早く、練習に行けよ……練習サボったら甲子園行けねえぞ……」
 浅田が冗談めかしたように言う。
「もういい、喋るな」
 俺は浅田に頼むような顔をして話し掛ける。
「試合でホームラン、打つんだろ……俺はお前のホームランが見たい……」
 浅田はそういうと瞼を閉じた。
「浅田?」
 俺は浅田の口元に耳を持っていく。どうやら気絶したようだ。浅田を今すぐ助けなければいけない。慌しく周りを見渡す。――田んぼが広がっているだけだ。
「どうすっか……携帯はないし、公衆電話もこの辺にはないしな……駅まで距離はある」
 この状況でも色々冷静に分析しようとしてみる。駅までは二十分掛かる。今から俺の家や浅田の家に行っても両親は共働きで出ている。
「応急処置の仕方なんてわからねえからな…………病院までちょっと遠いけど連れて行くしかないか」
 俺は決意した。家に帰って電話で救急車を呼び出すよりも直接病院に行ったほうが早い。人通りも車通りも少ないこの道路で何もしないで待つわけにはいかない。重いバッグをこの場に置いて浅田を背負う。
「今病院へ行くからな。浅田、それまで頑張れよ!」
 そうは言ったが背中から聞こえてくるのは苦しんでいる息遣いだけだった。これは少しものんびりしてられねえな――早く連れて行かないと! 病院までここから五キロほど離れているが、人を背負いながら走れば三十分くらい掛かってしまうかもしれない。でも命が掛かってるんだ。構ってられるか。俺は田んぼを走った――。

 ――病院を目指ししばらく走ってきた。田んぼしか見えなかった景色は少しずつ住宅地に入ってきた。ここまで車と二、三台すれ違ったが車に呼びかける余裕もなく、ただ病院に向かっていた。
「ハア、ハア……も、もうすぐ着く、頑張れ!」
 俺は息を切らし、必死に語り掛けながら走る。
「あ、見えてきたぞ、もう着くぜ!」
 目の前に見えてきた病院はここら一帯では一番大きい病院だ。少し遠いが俺の家族は全員、必ずこの病院へ来る。
「……あ、あれ? 大丈夫か!?」
 背中にいる浅田の呼吸に耳を傾けたが、今まで聞こえていた苦しい息遣いが聞こえなくなっていた。やばいと思い病院へと急いで駆け込み、近くにいた看護婦に駆け寄った。
「すみません、この人お願いします!」

 ――手術室の前のベンチに俺は座っていた。あれから何分経っただろうか。助かることだけを願い、俺は手術中のランプを忙しなく見る。ベンチを立っては手術室前の扉の前でうろうろし、ベンチに戻ってきて座る。まだランプは点灯したままだ。状態が深刻そうだっただけに手術は成功するのか、それだけを考えていた。
 ふとランプが消灯し、手術室から医者が出てきた。
「先生、どうでしたか!?」
 俺は先生に食って掛かるように近づく。
「ええ、それが……状態はかんばしくありません。いつ急変するか分かりません。ここ二、三日は容態が急変しないか様子見になるでしょう」
「そうですか……」
 命が助かっただけでも良かったと少し胸をなでおろした。
「あなたは親族の方ですか?」
 医者が俺に話し掛ける。
「え? あ、いいえ、友人です。たまたま轢き逃げされて……」
 医者に事情を話し、警察に連絡をした後、事情聴取を受け、長かった一日が終わった。ただ、浅田の状態が不安なだけに胸につっかえを残した。次の日の練習は3時間だけの軽い慣らしだけだったが、集中は出来なかった。キャプテンとして情けない――。
 いつ急変するか分からない浅田の状態がいつまでも心を締め付けている。練習前にチームメイトにも伝えたが、「浅田さんがいないのに誰が三番を打つんだよ」など命のことよりも試合のことを心配していた。何と薄情な奴らであろうか。監督だけが状態のことを心配してくれた。
「はあ……」
 ずっと浅田のことを考えていた――。


  ――――――――――――――――――――


 ――気づいた時には三点のビハインド。なぜ試合の数日前にあんな事故があったのか、と神様を憎んだ。浅田の容態のことばかり頭に浮かんでくる。
 改めて現在の状況を確認してみる。九回裏、ツーアウトでランナーは満塁。点数は四対一で三点差で負けている――。
 こんな場面で回ってくるとは最高なのか最悪なのか。いつもの俺ならば顔がにやけてしまうほどのワクワクする場面だ。しかし今日の俺は心のつっかえの所為で、四点も取られ、ここまでヒットどころかバットにボールすら当てることが出来ていない。全打席三振だ。このままではこの打席も凡退する。
 俺はウジウジと考え込みながら打席へと向かっていた。
「頼むぜ内村!」
「キャプテン、打って!」
 チームメイト達が声を掛けてくる。俺はチームメイトに背中を向けたまま、軽く左手を上げ返事をした。
 左打席に入った。足場を慣らし、一度、二度、素振りをする。圧迫感と威圧感。守備についている相手チームのナインが自分を鋭い視線で睨んでくる。その迫力に気圧されそうになりながらも一息つき、ピッチャーを見る。俺を睨んでくるピッチャーの迫力が俺を呑み込もうとしている。
 そのときピッチャーがセットポジションから足を上げた。来る! と思った瞬間、既にボールはキャッチャーミットに収まっていた――。
「ストラーイク!」
 こんなに球が速く見えてしまうとは、俺は可笑しくなってしまったのか。
 打てる気がしない――。一度頭を振りピッチャーを見る。ピッチャーの姿が三メートル以上もあるかというほど、俺の目には大きく映っていた。 
 ピッチャーの手から二球目の球が放られる。俺は慌ててバットを振った。
「ストラーイク!」
 明らかにボールの下を空振りしてしまった。
 あーあ――もうだめかな。ずーっと俺の頭の中は浅田のことで一杯だ。この状態じゃいくらバットにボールを当ててもヒットにはならんな――。
 どうしてここまで浅田のことを思ってしまうのか、まるで恋人の心配でもするかのような気持ちだな、と今更ながら俺は思ってしまう。
 カウントはツーストライクでノーボール。後一つストライクを取られた時点で試合終了だ。浅田に顔向けなどとても出来るわけがない。ここに来てつくづく情けない男だと我ながらに思ってしまう。
 ピッチャーがセットポジションに入る前に俺は審判にタイムを掛けた。
 タイムを掛けても無意味なのにな――ははは、もう駄目だというのに俺は何をしているんだか。
 俺は上空に顔を上げ目をつぶる。そのとき、後ろの観客席から声が聞こえた。
「内村、ホームランだ!」
 誰かが俺に声を掛けてきている。
 もう無理だって――俺は打てないんだよ――。
「そんな姿、俺は見たくない、お前の本当の姿はそんなもんじゃないだろ!」
 だから、もう無理だって。
「四番だろ、四番らしく胸を張れよ!」
 しつこいな――俺はもう諦めたんだ。
「試合でホームラン打つんだろ! 俺はお前のホームランが見たい!」
 その声で俺は誰が叫んでいるのかが分かった。俺は後ろを振り向き、その姿を認めると、一言叫んだ。
「浅田!」
 バックネット裏の観客席から叫んでいたのは親友の浅田裕也だった。骨折に遭い試合に出れなかった上に轢き逃げ事故で大怪我をしているはずだった。今は病院のベットで大人しく寝ていなければいけなかった。しかし、確かに観客席で試合を見ていた。
「お、お前……大怪我してるのに……」
 俺は浅田の姿を見て顔が歪み始めた。
「なんてことはない……いてててて……」
 強がりを言う浅田を見ていると見る見る涙が溢れてきた。
「俺の心配はいい! お前は試合だけに集中するんだ。お前の合言葉はホームラン、だろ?」
 そう、合言葉はホームランだった。ノーヒットで最後の打席を迎えると、いつもこの合言葉を叫ぶ。自分を奮い立たせる為の薬のようなものだったが、「ホームラン」と言って打てたのはいつもヒットか三振だけだった。しかし今日は忘れていた。
「おい、いい加減にしないか!」
 審判が俺達のやりとりにイライラした様子で注意をしてきた。
「ごめんなさい、今打席に入ります!」
 俺は涙を拭い、左打席へと入る。
 ありがとう浅田。おかげで目が覚めた。お前の容態のことばかり心配していた。だけど、だけどお前は怪我が痛いにも関わらず応援に来てくれた――。この浅田の行為だけは決して無駄には出来ない!
「ホームラン!」
 一言声を上げた。
 俺は浅田に心から感謝すると力強くバットを上に構えた。
 もう無様な姿は見せられない!
 俺はいつも以上に精神が研ぎ澄まされ始めた。そのとき時間がゆったりと流れ出す。ピッチャーが投球体勢に入る。振りかぶり、手からボールが放たれる。キャッチャーのミットに目掛けて少しずつ吸い込まれていく。
 俺は思い切りバットを振った――。
 その瞬間、ゆっくりだった時間の流れが戻った。
「カキーン」
 わああ、と観客から声が上がる。
 空に白球が吸い込まれていく。俺はそのボールの行方を目で追った。センターがボールを追いかけバックをする。
 センターが守備範囲につき、ボールが落ちてくるのを待つ。だめか、と思ったとき、観客席から誰かの叫び声が聞こえた。
「入った、ホームランだ!」
 空から落ちていった白球はバックスクリーンへと入っていた。
 観客席から、わああああ、と大きな歓声が沸いた。
「よっしゃあー!」
 俺はバットを放り投げ拳を上空へ高く突き上げた。俺の試合では初めてのホームランだった。

 ――俺は次の日に浅田の元へお礼を言いにお見舞いに行った。浅田は一般の病室のベットで横になっていた。
 どうやらそれほどの重傷でもなかったようで、俺の取り越し苦労だったようだ。医者が重傷なようなことを言っていたのに、ここまで心配したのはなんだったのだろうか。あの俺の涙は――。
「おお、内村!」
 浅田が笑顔で第一声を発する。
「おいおい元気そうだな……俺の心配はなんだったんだよ……」
 俺は不満気になりながら浅田から目線を逸らす。
「いや、それがな……あのホームランから痛みが引いていっているんだ」
 浅田はお腹をポンポンと叩き、痛くないことをアピールしている。
「ホームランで? は、まさか!」
 俺は信じられないので笑い飛ばしてしまう。
「まあ信じられないのも無理はないけど、本当にそうなんだ。まあ何にしろとりあえず……」
 浅田はそういうと一呼吸置いて口を開いた。
「ホームラン、見せてくれてありがとうな」
 その言葉を聞くと俺は顔を赤くし、頭を掻いた――。




 終
2008/11/06(Thu)12:54:16 公開 / マサ
■この作品の著作権はマサさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
新規投稿08/11/4 17:07
どうもマサです。まずはここまで読んで頂きありがとうございます☆ 数日前に新規投稿したのですが結局納得いかずに削除しました。今回は修正に修正を重ね、なんとか少しは納得のいく作品ができたと思っています。当初は浅田君は自殺という設定で死んでいたので、それに比べると相当良いと思います。
後、轢き逃げ犯については明らかにされていませんが、この「最高のプレゼント」の続編を作ろうかと考えておりますのでそちらで明らかにしようかと思います。現在は「鬼潜の時」も執筆中なのでその後にはなると思いますが書きたいと思います。
今回は以前よりも細かい描写も書けたと思っています。ご感想とご指摘を頂けると大変嬉しいです♪ 読んで頂きありがとうございました。

11/06 12:54修正
ご指摘頂いたところの修正と、余計な三点リーダの削除など修正しました。
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