- 『雨の日のロミオ』 作者:マサ / リアル・現代 未分類
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全角3425文字
容量6850 bytes
原稿用紙約11.35枚
主人公の末広はある雨の日に猫と出会う。その猫と末広との関係を描いた物語。
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雨の音が心地よく心を癒してくれる。
末広(すえひろ)は雨が好きだ。学校の時や、余りに大降りの日でなければ大抵傘は持たない。いつからだろうか、末広は雨の日は散歩に出るようになった。
今日も雨に濡れながら街中から川辺まで歩いてきた。
「気持ちいいな……今日も良い雨日和だ」
雨の冷たさを感じながら川を眺める。
降り始めて数十分そこそこなので洪水という心配もなく、まだ川の流れは穏やかだ。
「毎日雨降らないかな」
自然災害のことを全く考えないで簡単に発言出来るのは独り言の特権だ。いつも同じことを言っているなと思ったのは発言した後だった。
末広自身にも、なぜ雨に当たっていることが好きなのか分からない。ただ、悩み事なども全て流してくれる気持ちになれた。
川辺の上の歩行者専用道路をゆっくりと歩きながら上を見上げる。
沢山の雨粒が顔を目掛けて落ちてくる。ここ数週間晴れの日が続いたのでそのときのストレスも全て洗い流される。
「気持ちいいなー……」
足を止め、目をつぶる。そのとき――。
「ニャー」
ネコの声が聞こえた――。
「ん、ネコ?」
ふと目を開け、声がした方へ目線をやってみるとネコがいた。
そのネコは真っ白な毛で首輪は付けてはいなかった。
前足だけ立たせて、末広同様目をつぶり上空に顔を向けている。
「ははは、お前も雨が好きなのか」
「ニャ!」
ネコは返事をしたと思った。だが、末広の姿を認めると足早に逃げていった。どうやら驚いただけのようだ。
「何だ……つまんないの」
末広は若干不満になりながらも雨に当たりながら川辺を歩き始めた。
「あのネコも雨好きなのかな……そういえばどこかで見たことある気がするな」
首元まで出掛かっているのだが末広は思い出すことが出来ない。
「真っ白なネコは他にもいるしな……気のせいか」
末広はこのときは思い出すのを諦めてしまった。
――数日後、再び雨になった。
今日も半袖で傘を持たずに家を出る。
「うん、今日も良い雨日和だな」
数日前同様、強すぎず弱すぎずのいい程度の降り方だ。
家から川まで歩いて五分ほどだ。いつも川を二十分ほど歩いた後、町の中を十分ほど歩いて家に帰る。風邪を引きそうではあるが風呂に入って温かくしているのであまり風邪を引いたことはない。
雨足は強まることも落ちることもない。川辺に来る頃には相当濡れてしまっていたがいつものことだ。
「洗い流されるなー。昨日までの嫌なことが全部」
今日も歩いている途中で足を止め、目をつぶり上空に顔を向ける。
――そのとき。
「ニャー」
またあの声だ――。
「あ、この前のネコちゃん!」
末広は真っ白なネコの方を向く。
「ニャー」
そのネコは今日は逃げようとはせず、一言声を発すると末広の方をじっと見つめ返す。
「君も雨が好きなのかい?」
末広は笑顔でネコに話し掛ける。
「ニャー」
ネコは末広の言葉を理解しているのか、返事をしてくれた。
「そういえば前にもこんなことあった気がするなー」
「ニャー」
ネコは末広の言葉に続くように鳴き声を上げる。末広は何かを考えるように上空を見つめ始める。
そのときだった――。
「スエヒロは覚えてないの?」
末広はハッとした。ネコの方を見るとこちらを見つめている。
「え?」
末広はネコをジッと見つめる。
「スエヒロ、私のこと忘れちゃった?」
末広は驚いた。その真っ白なネコは人間の言葉を話していた。ちゃんとネコの口から発せられていた声だった。
「……え……あ……」
末広は訳が分からず言葉が出ない。
「スエヒロ」
ネコは何かを言いたげに末広に話し掛ける。そのとき末広の頭の中で何かが弾けた感覚になる。
「……君は……そうだ、思い出した」
末広は六年前の小学二年のときのことを思い出した。
――この日も雨だった。
末広は傘を差し学校へ登校する途中、そんなに強くはないが小降りでもない。いつもどおり家を出てから、川辺の方まで来た。
「ニャー……」
真っ白なネコが倒れていた。
「あ、ネコ!」
末広は倒れているネコに駆け寄りどうしたものかと慌てだす。
「血が出てる……どうしよう」
この歩道は末広にとっての通学路だが、人は全然歩いてはいなかった。元々末広は寄り道が好きで、通学路からずれている所を歩いていた。このときは末広とネコだけが歩道にいた。
「どうしよう、どうしよう」
末広はどうしていいのか分からずとりあえず、ネコの上に傘を置き様子を見ていた。
「ニャー…………ニャー……」
苦しそうに血を流した白いネコは鳴いている。
「寒いのかなー……あっためてあげる」
そういうと末広は自分の胸元の服の中にネコを入れた。
――しばらくの時間が経ち、誰かが末広の元に駆け寄ってきた。
「スエちゃん! ここで何してるの!」
母親だった。学校から自宅に連絡がいったようで母親が通学路を捜しにきたみたいだ。
「お母ーさーん……ネコがね、ネコがね……」
末広は泣きながら母親に事情を話した。そのときネコはまだ生きていたが、動物病院に連れて行ったときには既に息絶えていた。
原因はネコの近くに落ちていたガラスの大きな破片だった。ネコが何かをしてそれで体を傷つけたのだろう。
そのとき、雨は降り続いていた――。
「そうだ、君はあのときのネコだ」
末広はネコを小学生のときのネコだと思い出した。
「そう、あのときスエヒロは私を温めてくれた」
ネコはこちらをジッと見つめている。
「うん……でも、なぜかな……今日のこのときまで忘れていたんだ」
「それは当然だよ」
ネコはあっさり言ってしまう。
「え、それはどういうことだい?」
スエヒロが怪訝そうな顔でネコを見る。
「私がスエヒロの記憶を忘れさせていたの」
「え?」
一瞬、末広はネコに超能力でもあるのかと思った。ネコが人間の言語を喋っている以上、今なら何でも信じてしまうと思った。
「私はすごく嬉しかった……スエヒロは学校に行くのを蹴ってまで私をずっと見てくれた。服の中にまで入れてもらって温かかったの……」
ネコにも表情はあるのか、嬉しそうに微笑んだ。
「でもね、ある人間の子供にガラスの破片を何度か投げつけられたの……それで大怪我したわ」
ネコは少し寂しそうになり、俯く。
「何でそんなことをされたのさ……そんなに可愛いのに」
「他にも石を投げつける人などもいたわ……ここら辺に野良猫っていないでしょ? 私だけなの。ここら辺の人たちって嫌ってる人が多いみたい……。私の姿を見るだけで忌み嫌う人もいたわ」
「そ、そんな理由で……! ガラスを投げつけるなんてひどいよ……」
末広は悲しそうに顔を歪ませる。
「でも僕は好きだよ! あのときは温めることしかできなくてごめんね……今更だけど、助けてあげたかった……」
末広は俯き、少し涙ぐむ。
「私はスエヒロに温めてもらえたことがすごく嬉しかったの。その為にスエヒロには今日、思い出して欲しかったの」
ネコは自分の気持ちを伝えたく末広の顔を見つめる。
「今日? そういえば、もう六年も前なのに、何で今なんだい?」
末広が怪訝そうに聞く。
「だって、六年前の六月三十日は雨だったじゃない。今までの六月三十日は晴れの日。そして今日の六月三十日は雨の日」
ネコは上を向く。
「雨の日にしか……出て来れないんだね」
末広が泣き出しそうな声で話す。ネコはそれに答えるように頷いた。
「これからは会えないわ。だから今日で最後なの」
意味深にネコは話す。
「そんなことないよ! これからも会いに来るよ!」
末広は目に涙を溜める。
「いや、それは無理なの……」
ネコがそこで言葉を区切る。
「何でだい……? 折角思い出したのに、もう会えないなんて……」
末広は雨の中に涙を零しながらネコに近づく。
「スエヒロ、本当にありがとう」
そういうとネコは走り去ってしまう。
「ま、待ってっ……! ……いっちゃった…………」
「ニャー」
最後にそのネコは一言、猫の声で鳴いた。
猫が走り去った後に末広は思い出していた。今までの雨の日でも白い猫をたまに見かけていたことを――。
――それからの六月三十日は雨が降ることはなかった。何年経っても――何十年経っても――。
末広はネコの幽霊に会った次の日、ネコに名前をつけることにした。
六月三十日から取って「ロミオ」、と。
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2008/11/01(Sat)12:37:25 公開 /
マサ
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■作者からのメッセージ
どうも、マサです。眠い状態から思いついた話です。
当初は雨の話からどうするか頭を悩ましていましたが猫を登場させることにより話が固まりました。
こういう話を書くのは初めてで慣れていませんが何かを感じて下さると書いてよかったと嬉しくなります。
今回ばかりは推敲が不足しています……こんなんで投稿すると怒られちゃいそうですが……。申し訳ないです。……そう思うなら推敲しろ!って感じですね。また後で推敲して手直しをしたいと思います。
もし、矛盾点や気になって不愉快になる部分などありましたら、どんどんご指摘頂ければ嬉しいです。
自分はまだまだレベルが低いのでご感想頂ければ嬉しい限りです☆
08/10/28 18:51修正
若干修正しました。推敲すればするほど、後半何か痛いなー……と思わずにはいられません。自分のレベルが低いのがわかります。こんな作品でもここまで読んで頂けたら本当に嬉しいです☆
08/11/01 12:38修正
ご指摘頂いた、母親との会話、ネコとの会話、すごいをすごくに変えるなど色々修正しました。
皆さんからのご指摘は本当に自分にプラスになっております。ご感想は嬉しい限りです♪