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『異界の聖戦』 作者:電波良好 / ファンタジー 異世界
全角3121文字
容量6242 bytes
原稿用紙約10.7枚
何の変哲も無かった筈の少年レオンは、世界を懸ける聖戦に挑む事に……。
 序章「Prologue of Plologue」


 太陽が地面を焦がす八月、欧米のとある国。
「あち……」
 レオン=クリオールの頬を汗が伝った。
「よおレオン! 調子はどうだ?」
「見りゃ分かるだろーが。相変わらずだよ」
 レオンは魚の入った網を掲げ、苦笑いを浮かべる。
 両親のいない彼は物心ついた頃から祖父母に育てられていて、少しでも迷惑を掛けない様にと自ら漁場で働いていた。

 太陽を見上げ、レオンは一つ溜息をつく。
「ちっ、この暑さじゃ魚がダメになっちまう」
 レオンが再び前を向き歩き出そうとしたその時、ふと辺りは日陰に覆われた。
 先程までの暑さは鳴りを潜めて風が吹く。
 再び真上を見上げると、レオンはそれを視界に捉えた。

『モンスター』

 衝撃と混乱の入り混じる頭の中でそれを表現するには、それが最も相応しかった。





 第1話「合成種族」


 空から降る異形の生物。突然の出来事にレオンの四肢は固まり、ただただ黙ってそれを見上げている。
 死ぬ――――。レオンはそう直感した。その直感は、異形の生物が見るからに膨大な質量を秘めていた事に起因する。
 しかし轟音と共にそれが地面に墜落した時、レオンの体はそこには無かった。
「なっ……!?」
 レオンは予期せぬ移動に目を丸くする。その後、自らの体が何者かに抱えられている事に気付いた。
「誰だ!?」
「落ち着きなさい。私は味方だ」
 長めの銀髪に薄いフレームの眼鏡。男はこの状況でも静かに、冷静に言葉を連ねる。
『ガルルルルル…………!!!』
 その巨大な唸り声は地面を揺らし、レオンの脳に響く。
「やれやれ、少しは場所を考えて下さいよ。一般人を巻き込む訳にはいかないでしょうが」
 銀髪の男はゆっくりとレオンをその場に降ろした。
 異形の生物はもう一度、大きく咆哮を上げる。三メートルはあろうかという巨体、鋭い牙、厚い体毛。
 銀髪の男はそれと正面から睨み合い、そしてゆっくりと腰元の剣を抜いた。
「ただの下級キメラか……」
(剣…………!!)
 異形の生物は鋭く尖った右手で銀髪の男を襲う。その足音は地響きを引き起こし、その眼光はただ破壊を求めている。
『ガアアアアア…………!!!』
 ――男の銀髪が風で靡いたかと思えば、異形の生物の体は真っ二つに引き裂かれた。
 土台を失った上半身が地面に堕ち、司令部を失った下半身が少し遅れてゆっくりと地面に倒れ込んだ。
「………………!!」
 レオンは声を失い、その場に尻餅をついた。
 銀髪の男は振り返り、その様子を見て優しく微笑む。
「やあ。驚かせちゃったかな」
「…………、歴代ランキング一位」
「はは、ごめんごめん。ここじゃ何だし、ちょっと場所を変えよう」


 ***


 古びれた内装、寂れた空気。レオンが常連として店主と顔馴染みになっている酒場に、レオンと銀髪の男はやってきた。
「僕はアルロワ=リバーウッド。よろしく」
「……レオン=クリオールです」
 そう言って、レオンはアルロワの差し出した右手をとる。
「さっきの……何だったんですか」
「うん、当然の疑問だね」
 アルロワは爽やかに笑い、コーヒーカップをテーブルに置いた。
「……それを話すには、まず世界の歴史について知ってもらわないとね」
「歴史?」
「約百年前、この世に悪魔と呼ばれる種族が誕生した。悪魔は類を呼び、共に世界を滅ぼそうと人間を襲い始めた」
「世界を…………」
「更に悪魔はその過程で合成種族《キメラ》を創り出し、最早生身の人間に対抗する術は無かった」
 レオンは静かに喉を鳴らした。
「……お? 『じゃあ何でまだ世界が滅びてないんだ』って顔だね? レオンくん!」
「あ、まあ……。いや、いやいや、て言うか、悪魔なんかこの世に存在する訳無いじゃないですか!」
 アルロワはまたコーヒーカップを口元へ運び、中身を一気に流し込む。
「悪魔っていうのは、百年前の人々が彼らを恐れてつけた呼び名なんだ。それ程悪魔の存在は脅威なのさ。今レオン君が想像してる悪魔とは違うよ」
「……じゃあ、今までどうやって悪魔から世界を守ってきたんですか? その悪魔は百年も前から存在しているんですよね……?」
 レオンは恐る恐る尋ねる。それを見てまた、アルロワは優しく微笑んだ。
「悪魔を抑える為、神はこの世に『神の使徒』を産み出した。その数108人。神の使徒は皆生まれながらに特殊な能力を持っていて、彼らだけが唯一悪魔達に対抗する事が出来たんだ」 
「神の使徒……」
「そう……悪魔が勝てば世界は滅び、神の使徒が勝てば世界は守られる。神の使徒vs悪魔の、世界を懸けた聖戦だ」

「そしてレオンくん。君こそ、悪魔から世界を守る神の使徒なんだ」

 レオンの持つコーヒーカップの中身が静かに揺れた。





 第2話「使徒のめざめ」


「俺が…………?」
「そうだ。レオン=クリオール」
 レオンは混乱している頭の中で、必死にアルロワの話を整理していた。
「いやっ……、それ何かの勘違いですよ! 俺特殊な能力なんて持ってないですし……」
「そう……厄介な事に108人の神の使徒が全員能力に目覚めている訳では無く、多くは自らの能力に気が付いていない場合が多い。だから、全世界に点在する神の使徒の大半はまだ発見されていないんだ」
「……、そんな事言われても――」
 その時、酒場の天井を巨大な豪腕が打ち砕いた。
 その豪腕は酒場の大半を潰し、柱を失った天井が崩れ落ちる。
「!! 合成種族《キメラ》!!!」
「えっ、これもさっきの!?」
「ああ……、どうやらキメラは君がお目当てらしい」
「そんな!!」
 レオンとアルロワは酒場を飛び出し、広場へと出た。
 キメラはその巨体を揺らし、二人の後をついてくる。
「アルロワさん! またさっきみたいに倒して下さい!!」
 レオンはアルロワの方を向いて叫ぶ。
 しかしアルロワは、少し考えた後広場のベンチに座り込んでしまった。
「アルロワさん!!?」
「んー…………さっきはね、君が神の使徒だと思ったから助けたんだ」
「!!?」
「君が神の使徒じゃないなら、僕が君を助ける理由は無いんだよね」
 アルロワはそう言って冷たく笑った。
「ふざけるな!!!」
 レオンはアルロワの胸倉を掴み、荒々しく叫んだ。
「アンタがあいつを止めなきゃ、沢山の一般人が巻き込まれるんだろ!?」
「んー……、かもね」
「だったら!! 俺が神の使徒だとか関係なく、アンタはあいつを止めなきゃいけない筈だ!!」
 そう言うと再びアルロワは小さく笑い、レオンの目を正面から見つめた。
「君があいつを止めれば良い。…………『神の使徒』、レオン=クリオール」
「バカな……」
「どっち道、君が逃げれば僕も逃げるよ。そうすれば、少なくともこの辺りの人々は相当死ぬだろうね」
「ッ――――!!」
「君が、人間を救うんだ。――それが神の使徒の宿命だ」
「…………!!」
『ガルルルルルルルル…………!!!!』
 キメラは天を仰いで咆哮を上げ、レオンに向かって襲い掛かる。
 ――ゆっくりと振り向いたレオンの目には、確かな決意と覚悟が秘められていた。
 レオンは右手をキメラに向け、左手で右手首を支える。
『“灼熱の業火”!!!』
 レオンの右腕が眩い光を放ち、そして右手の掌から火柱が飛び出した。
「!!!」
 その炎はキメラを貫き、キメラは苦痛の断末魔を上げる。
 キメラがゆっくりとその場に倒れこんだ時、レオンはアルロワの方を向き直した。
「分かった……。俺が神の使徒だってんなら、バケモノだろうが悪魔だろうが全部止めてやりますよ」

「――俺が、世界を救います」

 アルロワは、嬉しそうに微笑んだ。
2008/10/26(Sun)12:49:10 公開 / 電波良好
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