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『自分の口に……』 作者:人の火の粉 / ショート*2 リアル・現代
全角1681.5文字
容量3363 bytes
原稿用紙約4.95枚
偽装をする冷凍食品会社に勤めている一人の男性の物語。
 俺はある冷凍食品会社に勤めている。そこそこの売上を出してそれなりの給料も貰っているって所だ。別に可笑しな所も無い普通の冷凍食品を売っていたのさ。食べ物を冷凍させて、売りに出すようなもんだからな。勿論俺も食べていたさ、一人暮らしの俺にとってはいい食べ物だった。
 だが、ある事を切っ掛けに俺はその会社が作っている冷凍食品を食べなくなった。別に深い理由なんて無い、その会社が冷凍食品の食べ物を偽装しただけだからな。
 普通の牛肉をブランド品と偽って商店に出す。別にいいじゃないか、誰もがその肉をブランド品だと思って口に入れるんだらかよぉ。だからって自分が食べる気もしない。だってそうだろ? わざわざたけぇ金払って安い肉を買うという事だ。だから俺は食べなくなった。
 会社側にとっちゃあ消費者には知られたくないんだよなぁ。安い金で仕入れた物を高値で売る、最高じゃねぇか。会社側が儲かれば、俺の寂しい財布の中もぽっかぽかになるのも近くはねぇはずだ。
 さて今俺は何処にいると思う? 会社? 家? どれも違う。俺は今、腕に偽装の書類がずっしりと詰まった封筒を持って警察署内にいる。

 冬頃だったか。会社の偽装がさらに酷さを増し、必要以上の農薬が検出され破棄されたはずの野菜を冷凍食品に混ぜ、商店に出していた。破棄される食べ物の価値は、ほぼ零に等しい。その為会社側はかなりの儲けが出ていた。ん? もしかしてその売上が出たのに給料が上がらなくてその腹いせに偽装を明かそうとしている? そんなんじゃねぇよ。もっと大事なことに気が付いてしまったんだよ……。
 正月間近と言うこともあって、俺は新幹線で御袋がいる実家に向かった。実家にはいくつも新幹線や電車を乗り換える必要があったから色々と大変だったが実家に近づくにつれ木が増えていき、それに比例するように家が少なくなっていった。
 駅を降りると辺りは雪だらけ。道には明らかに雪を退かしたと言う形跡があるが、真新しい雪が積もっていた。
 辺りには前通っていた駄菓子屋や豆腐屋など、懐かしの姿そのままで残っていた。あまりにも懐かしすぎて涙がほろりと出てきたぐらい懐かしかった。
 俺は遠足ではしゃぐ子供のようなルンルン気分で雪をふんずけていった。俺が住んでいる都会には雪があまり降らないから、珍しかったからかもしれない。たまに深いところがあって片足が雪に飲み込まれたりしたけど、楽しかった。
 辺りの懐かしさをしみじみに感じていると、駅から離れたところにある実家が見えてきた。
 そんなに大きくないが、自分が昔住んでいた家と全く変わっていない。ちくしょう、懐かしすぎて涙がとまらなじゃねぇか……。
 俺は腕で目にこびり付いている雫をふき取ると、家の扉を開けた。
 ガラガラと鳴りながらスライドする扉。
「ただいま」
「あら、お帰り」
 すぐさま返事がし、家の奥から御袋が出てきた。俺が覚えている御袋よりも皺が増えて、少しふけたな……あたりまえか。
「丁度帰ってくる頃じゃないかと思ってご飯を並べていたんだよ。ささ、早く食べないとさめちゃうよ」
 そう言い御袋はまた奥に行ってしまった。
 俺もその後に続こうと足を進めたが、近くのごみ箱からはみ出しているパックに見覚えがあった。
 そのごみ箱からパックを取り出してみると、愕然とした。俺の勤めている会社の冷凍食品、しかも偽装された奴であった。
 農薬が規定よりも多く含まれた危険な野菜を使った冷凍食品。
 御袋……食っちまったのか……。
 その時、俺は懐かしさの時よりも大粒の涙を流した。必死に涙を堪え様とも堪え切れずにでつづけてくる。
 俺は今まで自分の口に入らなければいいと思っていた、だからこそ偽装を今まで黙っていた。だが今気が付いた。
 自分の口に入らずとも身近な人を騙し、蝕みつづけていることに……。
 
 だから、俺は此処にいる。必ず今も被害者が出ているはずだ。だがその連鎖はいずれ止まる、俺がしなくても。
 だが今止めなくてはならない、そして謝りたい。

 今ならまだ間に合うような気がするから……。
2008/09/17(Wed)22:51:20 公開 / 人の火の粉
■この作品の著作権は人の火の粉さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
ニュースなどで偽装の話が出るたびに、心が痛みます。
何故、偽装するのか。何故人を騙してまでそんなことをしてしまうのか。
この小説は、僕なりに偽装に付いて考えて見たものです。

後、誤字を徹底的に修正しました。
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