- 『私の愛した彼女へ』 作者:KR / リアル・現代 ショート*2
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全角951.5文字
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原稿用紙約3.45枚
教会の鐘の音が聞こえる。私は静かに目を閉じる。とうとう、この日がやってきた。私の彼女が、あの男の元へと嫁ぐ日が−−−。
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私の愛していた彼女が今日、お嫁に行く。綺麗な純白のドレスを着て、教会で式を挙げるのだ。
初めてそれを聞かされた日から、約半年。長かった。けれど、あっという間でもあった。
彼女と私が出会ってから、早二十年あまり。長かった。そして、あっという間でもあった。
子供の頃の彼女は、小さくて、体が弱くて、暑かったり寒かったりしては、すぐに風邪を引いた。何日も幼稚園を休んでは、私を心配させた。
小学校に上がる頃には、少し丈夫になったけれど、大人しい性格は相変わらずで、入学式で新しいお友達に声をかけられても、私の後ろに隠れてしまっていた。
そんな彼女を、私はずっと見守ってきた。彼女のことなら、私は誰よりもよく知っている。
初めて男の子に告白をされたのは、中学二年生のとき。相手は同じ部活の先輩で、彼女は顔を真っ赤にして、私に「どうしたらいい?」と相談してきた。
初めてのデートはその一ヶ月くらい後。遊園地に行ったと言っていた。
二十年以上もの間、私は彼女の「いちばん」であり続けた。
高校を卒業した後、彼女は在学中からアルバイトをしていた本屋に就職した。それと共に家を出て一人暮らしを始め、私に行った。
「これからは、一人で何でも出来るように頑張るから」
その瞬間、私は胸が強い力で締め付けられるのを感じた。
私が守らなければならないと信じていた彼女は、いつの間にか、私など必要ではないほど、強い人間になっていた。
笑顔の彼女を前にして、私は涙がこぼれそうになった。あなたが遠くへ行ってしまう。私の手の届かないところへ。
それから二年後、彼女は私の元に、結婚したい相手がいると言って、彼を連れてきたのだった。
「おめでとう」
「おめでとう」
彼女が笑っている。友人達に囲まれて。彼の隣りに寄り添って。
「……おめでとう」
私も声に出して言う。
さようなら、大好きなあなた。今まで、よく頑張ったね。これからは、本当に私がいなくても平気なのね。
「幸せにね」
堪えていた涙が、頬を伝う。たまには、顔を見せに来てね。旦那さんと仲良くね。あぁ、もう。年寄りはダメね、湿っぽくて。
「……ありがとう、お母さん」
彼女が笑う。二十年間ずっと変わらない、私にそっくりの幼い顔で。
終
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2008/09/07(Sun)20:30:17 公開 /
KR
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KRさんにあります。無断転載は禁止です。
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■作者からのメッセージ
もうログも残っていないほど昔ですが、以前もここに小説を投稿したことがあります。
その時から「一人称」で「短編」の小説を書くことにこだわってきました。
このお話は、始めは女友達の友情(ときどき愛情)物語にしようと思って書いたのですが、
ちょっとひねってみたところ、こんなオチがつきました。
面白いと思って貰えれば光栄です。