- 『ブス嫌いの男』 作者:猫舌ソーセージ / ショート*2 未分類
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原稿用紙約7.85枚
ルックスが良く、頭も良く、金もあり、スポーツ万能で、若くして地位もある男。男の名は木村 智也。プロサッカー選手としてワールドカップに最年少で出場したが、周囲が智也の鋭いプレイについていけず、智也は日本のサッカーに失望し、若くして引退した。その後、ファッションモデルや歌手、俳優などの路を経たが、なんでも人以上に軽くこなしてしまう智也にとって、退屈でしかなかった。
「……傲慢だな、俺は」
公園のベンチで仰向けに空を見つめながら智也は呟いた。
「あーっ! こんな所にいたか智也」
「ん?」
声を掛けられ起き上がる。智也に向かって歩いてくる男が一人。それは、智也のファッションモデル時代の友人、真吾だった。
「あぁ、真吾。なんか用?」
「お前、今日の夜暇?」
「まぁ、暇だな」
「じゃー合コン参加してくれよ。人数足りないんだ」
真吾は週一ペースで合コンをする程の女好きだった。智也は暇潰しになるかと承諾した。
その夜、近くの居酒屋で合コンが開かれた。男三人、女三人の小規模合コン。男勢は全員イケメン揃い、女勢は二人は美人だったが、一人確実に二人の際立たせ役と思われる地味な子が混じっていた。
(おいおい……一人変なの混じってるよー。どうすんだよ)
(参ったね。智也、お前ブス専ってことない?)
二人は地味な子は絶対勘弁と小声で話す。
(悪いけど、俺もブスが大嫌いなんだ)
智也はブスとは、合コン以外でも関わりあおうとはしない。ブスと付き合うと自分までブスになる。そう考えていたからだ。
(仕方ない、誰か一人はお持ち帰りナシな。恨みっこなしだぜ)
真吾が言う。二人はそれを了承した。
合コンが始まると、圧倒的に智也が人気を得た。美人二人は有名人でもある智也に釘付けである。一方、地味な子は合コンを盛り上げようと進行役に努めていた。
「ねぇねぇ智也君、電話番号交換しましょうよ〜」
「あ、ずるい。抜け駆けなしだよ。私も交換して下さい」
モテ囃される智也を見て、友人の真吾ともう一人は後悔した。智也を連れてくるんじゃなかったと。
「そ、それでは、つ、次は1:1のお、おしゃべりタイムです」
場の雰囲気に格差があると察した進行役の地味な子は、機転を利かせて言った。
「おー、よくわかってんじゃん地味子!」
「グッジョブ! 地味子!」
真吾ともう一人がテンションを上げて言う。
「あ、あはは、あ、ありがとうございます」
真吾は即座に美人の一人に目をつけた。また、もう一人も残りの美人に目をつける。
「散々今まで話してたんだから、俺達にわずかなチャンスをくれ!! 頼む!」
真吾が懇願する。すると智也は、あっさりと二人に譲った。
1:1おしゃべりタイムが始まる。自動的に智也の相手は地味な子になった。智也の隣に申し訳なさそうに座る地味な子。
「す、すいません。私なんかが相手で……」
「……」
智也は無言でオレンジジュースを飲み続ける。
「……あ、た、楽しくないですよね。えと……、こ、こんな話知ってますか?」
地味な子は、智也を退屈させないようにと必死に話をする。地味な子は、この合コンに無理やり参加させられた。けれど、友達の為にと一生懸命この日の為に色々な話題を用意してきた。地味な子は最初から盛り上げ役に徹するつもりでいた。
「――という事があったんですよー、あは……はは……。あ、そろそろ時間です。私の退屈な話につき合わせてしまってごめんなさい。た、楽しかったです。ありがとうございました」
地味な子は再び司会進行役へと戻る。地味な子が話をしている間、智也は一言も話す事なく、ただオレンジジュースを飲み続けていた。テーブルには、智也が飲んだオレンジジュースの空のコップが五個並んでいる。
「それでぇはぁ〜、いよいよぉ〜、告白タイムでぇーす!」
完全に出来上がった真吾が言う。もう一人の男と美人二人も真吾程ではないが、ほろ酔い気分だった。皆、誰に告白をするかは決まっている。
「よし、俺から告白するぜ!」
もう一人の男が立ち上がって、美人の一人に告白した。先手必勝、智也に先を越されまいとすぐ行動移した。だが……。
「ごめんなさ〜い」
玉砕した。
「お前の仇は取ってやるぞ〜! 俺に任せろ〜」
次は真吾が行く。狙うはもう一人の美人の子。
「俺に黙ってついて――」
「ごめん、無理〜」
瞬殺だった。告白を終える前に断られた。うな垂れる真吾。残ったのは智也のみ。最早、智也が美人二人の内どちらを選ぶのか、それだけとなっていた。
「智也ー、とっとと告白しろー! どうせお前は結ばれるんだろー。ケッ!」
ふてくされる真吾。
「ん、あぁ。その前に、悪いんだけど……俺、ブスが大嫌いなんだ。だから今すぐ出てってくれないか」
突然の爆弾発言。それに周囲が静まり返った。真吾ともう一人も、さすがにそこまでハッキリと地味な子にブスとは言わなかった。今まで智也に夢中だった美人二人も、一気に冷め怒りが込み上げた。
「おいおい……いくらなんでも智也、それは言いすぎだぞ」
「そ、そうだぞ。酷いぞ、それは」
真吾ともう一人が戸惑いながら言う。
「智也君、人を外見で判断するなんて酷いんじゃない!?」
「そうよ! この子はブスなんかじゃないわ! 可愛いんだから!」
美人二人が地味な子を慰める。地味な子は、顔を真っ赤にしながらも「本当のことだから」と出て行こうとしたその時。
「そ、その子が可愛いなんて見ればわかるよ」
智也が少し顔を赤くしながら言った。
「えっ?」
美人二人と地味な子は、疑問の言葉を漏らした。
「というか、ブスって言われてどうして即、その子だって思えるんだ? 酷いのはお前らの方だろ?」
智也はずっと合コンで、ブスと可愛い子の見極めをしてきた。そう、心のブサイクな方と可愛い方を。1:1おしゃべりタイムでは、地味な子のあまりの可愛さに緊張し、話す事が出来ずやたら喉が渇き、オレンジュースを飲み続ける事しか出来なかった。
智也はハッキリと美人二人に向かって言った。
「回れ右して帰れ――ブス」
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2008/09/07(Sun)16:03:44 公開 / 猫舌ソーセージ
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■作者からのメッセージ
心の綺麗さが外見に表れる。
心の汚さが外見に表れる。
そんな世界だったら、どうなるのでしょうね。
みんな心を綺麗にしようと努力するでしょうか。
外見だけを気にしてダイエットしてお化粧して、というよりも全然良い気がします。