- 『The End Of Life』 作者:KATSU / ファンタジー アクション
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原稿用紙約23.95枚
榊清は、ある日放課後の校舎で見てはいけないものを目撃してしまう。それによって彼は戦いの日々に巻き込まれ、目的も無く生き伸びる為に敵を殺し続ける。少年は、生き残ることができるのか?
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それが初めの出会い
日差しの強い日だった…都立楠金高校の職員室で、ある生徒の転入届けが作成されていた。中宮瑞希(ナカミヤミズキ)高校二年8月30日という夏休みも終了間際のこの時期に入学が決まった。しかし、どこにでも良くいるこの転入生の出現によってある少年の運命が大きく変動することになる…
9月2日楠金高校二学期スタート、2年4組の教室に背の高い茶髪の少年はいた。
「暑すぎる…てか、何で俺以外に誰も来てないんだ?」
榊清(サカキシン)は、制服を着崩し茹だるような暑さの教室で一人机に蹲っていた。
楠金高校は、長年続く名門校で、県内1,2位を争うほどの優秀校だ。
しかし、長年校舎の改装が行われていないため、床はところどころ床底の木が抜けていたり、天井はシミで汚れていたりと年季を思わせる内装だった、その古さゆえに、朝でも一人で教室にいるのは心細く不気味だ。
「この教室に一人はキツイなぁ、不気味すぎるし…」
清は別に小心者ではないが、いつでも平常心でいられるほどクールでもない、少しチャラチャラしたところを抜かせば普通の高校生だ。この不気味な空間に一人だけでは先ほどもいたとおりキツイ、清は誰か来てはいないかと廊下を覗き込んだ。すると、
ドン!
「いてぇ!」
清は覗くと同時に何かやわらかいものにぶつかった。
「ス、スンマセン!」
清はすぐにぶつかったのが人だと気づいた。目を開けた清は目の前にいるのが女生徒とだと気づき顔を見上げた。が、清はその女子の顔に見覚えは無かった。
「あ、女の子だったのか、ホントごめんケガないか?」
長髪のスラッとしたスタイルの色白の少女は、体勢を立て直し清を睨んだ。
「最低…」
彼女は一言だけつぶやいてその場から足早に立ち去った。清は予想外なセリフを受けて、しばらくの間ボーっとしていた。清は少女のセリフに唖然としていたが、軽い性格上あまり気にはせず席に戻った。数分後には2、3人の生徒が教室に入り、清も一安心していた。
「清、おはよっ」
軽く眠りそうになっていた清に、一人の男子が声をかけた。
彼の名は、堂一成(ドウカズナリ)
清と同じクラスメイトで小学校からの親友である、一成は温厚な性格であるが、強豪楠金空手部の部長も勤める達人で、今年の大会もすでに二つの優勝カップを学校に持ち帰っている。体格が良く、長身の清も見下ろされてしまうほどの巨漢だ、髪は健康的な黒でワックスで短めの髪を立てている。
「おぅ、カズおはよ、夏休み元気してたか?」
清はニコニコしながら一成を見上げた。
「おかげさまで、暑苦しい夏休み過ごさせてもらったぜ。」
一成は苦笑いしながら手で顔を仰いでいた。すると、一成は何かを思い出したように、清の顔を覗き込んだ。
「清、お前知ってるか?」
清は顔を斜めにして、知らないと表現した。一成は清の耳元で体に似合わない小声でささやいた。
「今日おれっちのクラスに女子の転校生が来るらしいぜ。」
一成はニヤニヤしていた。清もつられてニヤつく、
「美人か?」
清が一成に問う、
「俺もまだわからないが、噂だとなかなかの美女らしい。」
清と一成は小さく不気味な笑声をあげた。すると、
「なーに気持ち悪い笑い声だしちゃってんの?」
清の頭を後ろから指で弾き、いきなりその女生徒は登場した。彼女は、小川祐依(オガワユイ)こちらもまた清と一成と幼馴染、強気で活発な性格で、弓道部に所属している。両親をなくして一人暮らししている清の手伝いをしに、清の家に良く訪れる。清・一成とはいつも一緒にることが多い、黒髪のショートヘアの良く似合う、クラスでは人気の高い美少女である。
「その笑いは下心丸出しだぞぉ」
祐依は二人をじろじろ見ながら不敵な笑いを浮かべた。
「別に下心なんてねぇよぉ、なぁ一成?」
一成もウンウンと首を縦に振って賛同した。
「どうせあんた達二人のことだら、転校生の女の子に期待膨らませて喜んでたんでしょ?」
恐ろしいまでに当たっていた。清と一成は顔を見合わせて、
「何でこいつは昔からおれっちの考えが分かるんだ?」
と言いたげに首をかしげた、その時勢い良く教室のドアが開いた。
「ほらぁお前ら早く席つけよ!」
清達のクラス担任の小笠原尚幸(オガサワラナオユキ)
がジャージ姿で勢い良く入ってきた。小笠原は体育教官であり、今では珍しい熱血教師である。
「みんな席に着いたな、今日はホームルームの後すぐに始業式だから急いで移動しろよ。で、本日は朝から重大な報告があるぞ!」
小笠原はそう言うとドアの置くから誰かを手招きして教室に入るように促した。清と一成はいち早く転校生と察知して、胸を高鳴らせた。少しの沈黙の後、教室に一人の少女がはいてきた。
「あ…」
清は思わず声を上げた。その少女は、朝清がぶつかった少女だったのだ。
「清、清、期待以上にかわいくね?」
一成はかなり興奮気味だったが、清は少女に投げつけられた「最低」の一言を思い出して、少女を直視することも、一成に返答することもできなかった。
「彼女は、今学期からこの学校に転向してきた。中宮瑞希だ、みんな仲良くしてやれよ!」
小笠原は相変わらず強い口調で喋っている、清はさっきまで高揚していたテンションが一気に崩れ去り、一成は逆に高揚していたテンションが更に高揚していた。
「えっと、空いている席は…」
清はぎくっとした。空いている席は最後列窓際の席、つまり清の隣の席だったのだ。清は小笠原がこの席に目をつけないようにと心から祈った。しかし…
「お、清の隣が空いてるな。じゃぁ中宮は窓際最後列の席に行ってくれ」
瑞希は無言で席まで移動し、静かに席に着いた。
清は瑞希と顔をあわせないように必死に寝たふりをしてその場をしのいだ。
新学期早々最悪な幕開けである。
朝のホームルーム、清は気まずい空気の中をなんとか耐え切った、ホームルーム終了後に、予想はしていたが一成がニヤニヤしながら清の席にやってきた。
「この幸せものぉ」
もちろん一成は清と瑞希の間に何があったのかは知らない、茶化すような一成の言葉に少しばかりイラッときた清は口調が少し強くなる。
「じゃぁカズと席変えてくれよ…」
一成は意外な返答に少し戸惑ったが、すぐに何かあることを察知し清に問うた。
「その口調からして、中宮瑞希となんかあったんだな?」
一成は軽く薄ら笑いした。清はゆっくり顔を上げてこう言った。
「最低だって…」
一成はまたもや意外な返答に少し戸惑った。今回は何があったのか検討もつかず、「は?」と一言言ったきり呆然としていた。
「朝な、お前が教室に来る前に廊下で中宮とぶつかったんだよ。そしたらいきなり”最低”って言われてさぁ…」
清は明らかに不満ありげな表情と口調だった。
「たしかに、ぶつかっただけで”最低”は言いすぎだな」
一成は客観的な意見を述べた。しかし、この話はこの後あまり進展はせず、「気まずいけど我慢する」と言うことで終了した。
新学期初日は、中宮瑞希の登場以外はすべて順調に進み、あっという間に一日のスケジュールを消化した。新学期初日と言うことで、楠金高校は全部活特別休日のため放課後の学校はとても静まり返っていた。清と一成と祐依は家の方向が同じなため、三人で帰路についていた。
「なにぃ?清が中宮さんとそんなことになってたの?」
祐依は驚きと笑いを同時に爆発させた。そして、清の背中をバシバシ叩きながら、
「女は根に持つから大変だぞぉ?特にああ言うお嬢様系の美人は、一度恨むと絶対に相手を許さないって相場が決まってるんだから!」
祐依は清を励ます気はまったく無く、清は心なしか元気がなくなったように見えた。
「相場って、一体どこの相場だよ」
と気の無い津突っ込みを入れて清はずっと黙っていた。
三人は帰り道を黙々と歩き、もう家の近くまで来たときのことだった。それまで元気の無かった清が急に顔を上げた。
「やべぇ!ケータイ教室に忘れた…」
清はバッグの中を念入りに調べたが結局ケータイは見つから無かった。
「二人とも先に帰っててくれ」
と、清は言い残して一成と祐依を残して来た道を一人走って引き返した。
祐依は「はぁ?」と呆れていたが、一成はケラケラ笑っていた。
一人学校に舞い戻った清は、生徒完全下校時間を過ぎて立ち入り禁止の時間だったが何とか校舎に忍び込んだ。
「はぁはぁ、あっぶねぇ」
清は下駄箱で一息ついて高鳴る胸を押さえた。清は息が安定するとすぐに二階の自分の教室に向かった。教室に着いた清は、すぐに自分の机の中に手を突っ込みケータイを取り出した。
「あった、もう焦らせんなよ!」
清は深い呼吸をしてケータイをポケットにしまい教室を出ようとした。すると、
「ん?」
清は廊下に背を向けて立っている女生徒を見つけた。清はすぐにそれが誰だか分かった。
「中宮…」
転校生、中宮瑞希だった。清は気まずいとは思ったが、彼女がこんな時間に何をしているのかが気になり声をかけた。
「おーい中宮、なーにしてんの?」
なるべくフレンドリーに友好的な口調で話しかけたつもりだったが、振り返った彼女はものすごい驚いたような顔をして、
「バカ!こっち来ちゃダメ!」
と叫んだ。清はまったく状況が理解できない、が、すぐにこの言葉の意味を痛感することになる。
「な、なに言ってんだ?急に叫ぶなよビックリする…」
清が言いかけたその時、清は嗚咽が出るほどのものすごい殺気を感じた。
(な、なんだこの感じ…)
清は床にひざを着き、押しつぶされそうなプレッシャーに懸命に耐えた。瑞希は清に何か叫びながら走りよってくる。が、清には瑞希が何を叫んでいるのか聞き取るほどの余裕は無く、ただ必死に謎の殺気と戦っていた。
瑞希が清の目の前まで来ると、清の肩に右手を当てた。
「恐気退散」
そう呟いた。すると不思議と清は押しつぶされそうなプレッシャーから開放され、体の自由を取り戻し立ち上がることができた。
「な、中宮……一体何が?」
清は異変には気づいているが状況が掴めない、瑞希は清を無視して辺りを見回し何かを探している。すると、
「約束が違うようだがな?小娘…」
と、暗闇から声が聞こえた。
清と瑞希はすぐに声の方向へ振り向いた。すると、声の方向には長身の銀白の鎧を纏った男が長く太い西洋風の剣を抱えて立っていた。
「小娘、俺の主人は確かにシヴァとの一騎打ちを申し込んだつもりだったのだが?」
騎士の視線が兜越しに清に向けられている。
「そのゴミは何だ?」
清は、自分のことだと気づきかなり戸惑った。おろおろとしながら瑞希を見た。
「あ、あいつ知り合いか?」
清は騎士を指差して瑞希に問うた。しかし、瑞希は清を睨み付けて、
「死にたくないなら、少し黙ってて…」
低く冷たく瑞希は言うと、一歩前に出た。
「こいつはただの一般人よ、だからこの戦いには関係ないわ。シヴァは召喚の影響ででまだ体の自由がきかないの、だからここにはいないわ。」
瑞希ははっきりと言い切った。清は言葉の意味が分からずただ黙って二人のやり取りを見ていた。
「まさか、精霊シヴァともあろうものがここまで腑抜けだったとはな…まぁ良い、それならば守護者無しでのこのこ現れた貴様をここで殺すまでだ」
騎士は大振りな剣を腰を低くして構えた。すると笑みを浮かべて清を凝視した。
「運が無かったなゴミ、見られたからには生きて野放しにはできん。まずは貴様の口を封じる…」
瑞希は視線が騎士と清の間を行き来し何か策を考えているようだった。清はかなり動揺してはいたが不思議と思考は冷静だった。
(なんか知らないけどやべぇ状況みたいだな、あんなデカイ剣持ってる相手じゃ抵抗しても勝負にならないか…なら手段は一つ!)
清は騎士に背を向けて勢い良く走りだした。瑞希は清の突然の行動驚いたようだが、清が走り出すと同時に床にしゃがんで片手を付いた。
「32代…魔力障壁形成」
瑞希が呟くと瑞希と騎士の間に肉眼では確認しづらいガラスのようなものが出現した。
「中宮家32代目の強固守護呪文よ、あなたの力でも壊すのには数分かかるわ」
騎士は障壁に向かって突進し思い切り剣を振り下ろした。
「貴様ら魔道師風情の呪文で、我が一撃凌げると思うなぁぁ!」
騎士の剣は障壁に叩き込まれた。かなりの衝撃だったのだろう、床にはかなり大きなひび割れが生じた。しかし障壁は崩れない、
「ほぉ…まさか貴様の魔術がこれ程とはな、正直舐めていた」
瑞希は得意そうな顔をして、
「長年代々続く中宮の魔道を舐めんじゃないわよ」
と、言い残して清の後に続く様に離脱した。騎士はその後姿を黙って見逃した。そしてもう一度剣を構え今度は横からの一撃を障壁に叩き込んだ。
「確かに予想以上だが、まだまだ甘いわ…」
二発目の斬撃を受けた障壁は脆くも崩れ去り、騎士は剣を背中の鞘に戻した。
「この俺の一撃を一度だけとは言い防ぐとはな、それに免じて今回は見逃してやるとしよう」
そう言い残し騎士は姿を消した。
清は全力で日が堕ちたばかりの路地を駆け抜けた。
学校を飛び出してからどれくらい経っただろうか、無我夢中で走っていたため体力の限界を超えていた。
初めて感じる自分の死が近づく恐怖…
怖気づきはしなかった。しかし、逃げるしかなかった自分の無力さに少し腹が立ったが、今は限界を超えた体が異常に重く苦しかったため怒りよりも休息を清は選んだ。
後ろを警戒しながら狭い路地裏に身を潜めて座り込んだ。
「一体なんだったんだ、学校に中宮と鎧の男がいて…」
そこまで言うと清ははっとした。
(そういえば中宮はどうしたんだ?無事に逃げたのか?俺は何で助けようとしなかったんだ?)
清は落胆した。と同時にまた自分に腹が立った。情けない自分をぶん殴ってやりたいとも思った。が、体力は底をつき腕を動かす余力も無かった。
「もう少し休んで、もう一度学校に様子を見に行こう、中宮も上手く逃げ出した可能性もあるしな」
と呟くと目を閉じて呼吸を整えた。清は数分その状態で体力を回復すると、たち上がり路地裏を出て誰もいない路地に出ようとした。すると、
「おい、どこへ行くつもりだ?」
清はすぐ後ろを振り返り目を疑った。そこには学校で見たあの騎士が不敵な笑みを浮かべて立っていたのだ。清は後ろに2、3歩下がり、近くに落ちていた鉄パイプを拾い上げて構えた。
「て、てめぇ何で俺の居場所が?」
清の額には汗が浮かび、鉄パイプを握った手は小刻みに震え汗ばんでいた。騎士は背中の鞘に収められた大剣を引き抜き清に向かって構えた。
「貴様にはなぜか微量ながら魔力が感じられたのでな、それを頼りにここまでたどり着いたのだ、せっかくの魔力もここではあだになったな」
清は自分に魔力が備わっている事実に驚いたが、今はそれどころでは無かった。そしてさっきから気がかりだった瑞希の事を思い出した。
「そう言えばお前、中宮はどうしたんだ?」
清が尋ねると騎士は軽く鼻で笑った。
「あの小娘か、奴は一度だけだが俺の期待以上の力を見せたのでな、褒美に見逃してやった。だが、貴様の様なゴミは生かしておいても何の楽しみも無いからな、むしろ害だ。ならば…ここで殺す!」
騎士は地面を強く蹴り清に向かってもの凄い剣幕で突進してきた。清は敵わない事は承知していたが、無抵抗で殺されるのはならぬと守りに賭けた。大剣の間合いまで騎士は突進すると、力強く踏み込み上から剣を振り下ろした。清は必死に鉄パイプで防御を試みたが、なんと鉄パイプは真っ二つに切断され清は胸部に斬撃を受けてしまった。
「ぐぅ!」
一瞬身を引いたため何とか即死は避けたが、体には激痛が走り清は地に片ひざを着いて嗚咽を吐いた。
「はははは!我が剛剣アロンダイトの一撃を、その様な鉄くずで止められるとでも思ったか?」
騎士はうずくまる清を見下し頭を踏みつけあざ笑った。
「たかがゴミの最後だが、痛みの無いようにその首を綺麗に切断してやろう」
騎士は高々と剣を振り上げた。清は瞼を薄く開け騎士を見上げた。
「や、やめろぉぉ!」
清は叫んだ。が、無常にも剣は勢い良く振り下ろされた。瞼を閉じ清は最後を覚悟した。瞼の裏には過去の映像が走馬灯の様に浮かんでは消えていった。そして、ふと(大丈夫だ)と言う声が聞こえた。
キン!
その時だった、金属と金属が激しくぶつかる音がした。振り下ろされた剣も清の首に届く気配が無い、そしてなぜか騎士の驚いたような声が聞こえた。恐る恐る清は目を開けると、目の前には青色の侍の格好をした黒い長髪の若い男が、騎士の大剣を日本刀で受け止めていたのだ。
「何奴?」
騎士は突然の出来事に驚きを隠せない様子だ、侍は騎士の大剣を押し返し、細身の日本刀の切っ先を騎士に向け構えた。
「我が主に楯突くとはいい度胸をしているようだ。その愚行、どれほど愚かであるか思い知らしてやらねばならぬ」
侍は今度は清を見た。そして小さく微笑んで、
「手遅れにならず良かった。主よ、ここは私が引き受けた」
と言った。清は驚き状況が掴めずにいたが、侍の顔を見た瞬間に、不思議とどこか懐かしさと安堵感に包まれた。
騎士は大剣を構えなおし侍を凝視した。
「貴様…まさか守護霊か?」
侍は騎士の方に視線を戻した。その顔にはさっきまでの微笑みは消えていた。
「我が何であろうと貴様には関係の無い事、貴様の命はここで尽きるのだからな…」
侍はそう答えると、腰を低くし刀を鞘に収めた。
「貴様に我が神速見切れるか?」
侍は長髪を靡かせ一歩踏み出した。が、次の瞬間にはその場から侍の姿は消え、気づくと騎士の後方で刀を引き抜いた体制で静止していた。
「は、速い…」
清は思わず呟いた、騎士と侍との距離約10メートルの間合いを、目にも留まらぬ速さで移動したのだ。そして、
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
騎士は叫んだ。見ると騎士の右肩から左足の付け根の間に、大きな刀傷が出来ていたのだ。
「な、何が起こったと言うのだ!?俺の白銀甲冑がいとも容易く切り裂かれただと?」
侍は刀を鞘に収めて振り返った。
「我が愛刀、菊一文字則宗の太刀筋に斬れぬ物などありはしない…」
騎士の鎧の破損部から多量の出血が見られた。騎士は片手で傷口を抑えて、剣を鞘に戻した。
「ちっ、気に入らんが今回は俺の負けだ、我が覇道のためにはここで死ぬわけにはいかない、ここは退かせてもらう」
すると騎士の姿が薄くなりあっという間に消えてしまった。
侍は追うこともせずただそれを静かに見ていた。
清は一気に緊張から開放され、疲れと痛みでその場に倒れこみ気を失った。
これが戦へと続く運命の夜だった。
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2008/08/20(Wed)07:25:36 公開 / KATSU
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■作者からのメッセージ
趣味で書いているので、読んでいただけただけで嬉しいです。