- 『Death Venus-T〜U-』 作者:藤 / ファンタジー 未分類
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全角5742文字
容量11484 bytes
原稿用紙約20.35枚
もし、いきなり死神がやって来て、貴方に死を宣告したならば、貴方はどうする?――そんな人生でまれな経験をしてしまった主人公、小林実夏とその経験へと導いてしまったある死神。そんな彼らのいびつな毎日は、ある満月の夜不思議な歌と夜風とヴィジュアル系お子チャマ死神の登場で始まってしまった……
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今、この時、この瞬間に……
「死」を宣告されたら貴方はどうしますか?
Death Venus-T- 黒き美しき神、降臨。
闇を照らすは金色と碧緑を織り交ぜた黒猫の瞳。
流れ滴りゆくは永遠の契りを交わしたる紅き血潮…。
告げられし時の終わりに抗いても、許される事なき。
汝の魂は永遠の鎖に繋がれし飼われた小鳥。
さあさ、始めませう。鈍の刃を振りかざし、黒き神の宴を……。
「……ッ!!」
小林実夏(コバヤシミカ)は目を覚ました。
ココ最近、この歌が聞こえる。
始めは、小さく聞き取り辛い声だったが、確実に大きくなっていた。
しかも、決まって夜中の十二時に。
「誰、なの?」
そう呟くと、実夏の頬を夜風が撫でていった。
おかしい、窓は閉めていたはず…と実夏は不安に思った。
「さあさ、始めませう?魂の晩餐を…」
「っ、誰!!」
実夏は、窓の方向を見た。
閉めていたはずの窓は開け放たれ、カーテンがひらりと風に舞ってい た。その縁に人が座っていた。暗くて顔はよく見えないが中性的な顔 立ちだ。
月光を反射し輝く銀糸のような美しい銀髪。くり抜いたらそのまま売 れそうなガーネットの瞳朝露に濡れた薄紅色の野バラのような口唇。 羽ばたきの聞こえそうなほどに長い睫毛。真珠色の玉のような肌、薄 く桜色をのせた頬。この世の美しさを詰め合わせたような綺麗な子供 だった。
「コンバンハ。小林実夏、さん」
「なななな、何で私の名前を!?」
「死神、だから」
「し、しに…がみ?」
実夏は、少し間の抜けた表情になった。
何故なら、子供の服装を見て驚いたというか呆れたというか……だっ たからだ。
おとぎ話の登場人物が被ってそうなシルクハット――勿論、黒だ。
白のカッターシャツ、その上には黒のジャケットを下のシャツの袖と 裾を出すような形で羽織っている。ボトムは赤地に黒のチェックが入 った膝丈ハーフパンツにシルバーのウォレットチェーン。それに、黒 の厚底ブーツ…俗に言うヴィジュアル系な服装だった。
「そ、そんな格好した死神なんて、いるわけないじゃん!」
「それは、あんたら人間の勝手な偏見だよ」
「鎌だって、持ってないじゃない!」
「持ってるよぅ〜。ほら!」
子供が空中に手を差し出すと、そこには鈍色に輝く大鎌が現れた。
「!!」
「ね? コレで信じた?僕は、死に神だよ」
さぞ楽しそうに子供は笑う。どこか邪悪に、だが可愛く微笑んだ。
「じゃ、君の魂を貰い受けまーす」
「え? 何、どーゆーことよ! それ!」
「八月八日金曜日。午前零時三分、天候満月。小林実夏、心臓発作で死亡」
子供…――死神は、さらりとそんなことを言った。
「死亡時刻まで後、一分。何か、遺言ある?」
「え? えーっと…」
「ほらほら、早く早く!」
「そんな、いきなり言われても!」
「だってぇ〜フツーの人間なら寝てるから僕に気付かないし」
「アンタが変な歌を唄うからでしょーッ!!」
「はあ?僕、歌なんか唄ってないよ!」
「え?」
「あーーー!ほら、後二十五秒だよ!」
死神は、実夏をせかす。実夏は、せかされて焦る。
「えっと、ここまで生きてこれて幸せでした。皆さん、有り難う御座 ました!!」
「えらく冷静なんだね」
「感心してる場合か!」
「はい、死亡時刻まで十五秒〜」
「楽しそうに言うなー!!」
実夏は、どっと疲れた気分になった。
……これが死というものなんかな?――とも考えた。
「十秒前、…九、…八、…七、…六、」
死神の声がやけにゆっくりと聞こえた。早くしてくれ、と思った。
「…五、…四、…三、二、……一、」
ゴクリ、と実夏は唾を飲み込んだ。生涯が終わってしまうのを感じ た。
「Good night...Mika.Have a nice dream.」
死神は、優しく穏やかにそうつぶやいた。
実夏は、強く瞳をつぶった…
死、というのは痛みを感じぬ程痛いのだろうか?
実夏は、そんなことを思っていた。そろそろ目を開けても良いだろ。
そっと、目を開けてみた……
「へロー、実夏っち!」
「うわぁ! って、え?」
目の前に超絶美形の顔があった。先ほどの死神だった。
実夏は、慌てて飛び起きた。
「なーんで、まだ生きてるの?」
「い、生きて…る?」
「うん、ばっちり」
死神の口から意外な言葉が出た。“生きている”と。
実夏は、何とも言えぬ喜びに駆られた。
「ほ、ホント!? ホントに、私、生きてるの?」
「いーきーてーるーよぅ。全く、死神の宣告を受けて生きてる人間なん てそういないよ?」
「私のこと、殺したりしない?」
「うん。まぁ、監視はするけど。」
「わーーーーーい! って、かかかか監視?」
死神は、溜息をついてまた、窓縁へと歩いていってそこに寄りかかった。
「君は、死の宣告を受けたにもかかわらず死ななかった。その時点で君は、この世界のイレギュラー要素になってしまった。イレギュラー要 素になった君には何が起こるか分からない」
先ほどに比べると死神は、やけに真面目な声音で語った。
「それで、それで?」
「だから、君に本当の死の宣告がされるまで、君をイレギュラーな死から守るって事」
「イレギュラーな、死?」
「宣告にない死ってことだよ」
「じゃあ、宣告にある死は?」
「実行するまでだけど」
死神は、真顔でそう言ってのけた。
実夏は少し気分が落ちた。結局、宣告されたら死ぬって事か…と。
「つーことで、これからよろしく頼むよ実夏ちゃん」
「よ、よろしくって、アンタは?」
「僕? 僕は、紅龍 白夜(クリュウ ハクヤ)。死神協会日本支部から派遣された正当な死神です」
死神……――白夜は、片目を閉じて茶目っ気たっぷりにそう言った。
こうして、実夏と白夜の生活は始まった。
Death Venus-U- 美しき黒き神、直面。
変なビジュアル系少年死神に死を宣告された実夏。
しかし、死ぬことはなかった。おかしな事に。
死神――白夜曰く、実夏はイレギュラーな存在になったらしい。
そして、実夏が本当の死を迎えるまで白夜は実夏を監視することに。
「下界ってこんなに暑いの〜…」
「文句言わないでよ。きびきび歩く!」
「うえぇ〜」
「だったら、そんな服着るなよ、ばーか」
「これは、僕の美学なの!」
「はいはい」
そんな、今日の白夜の服装はというと……。
黒字に赤の刺繍の入った長いチャイナ風ジャケット?コート?に黒の チャイナ風ロングパンツ。黒のヒールブーツ。上着のしたにワイシャ ツでも着ているのか袖からは白いのがちらちらと見える。
実に暑そうである。
それに比べて実夏は学校の制服だ。
なにせ実夏は、花も恥じらう女子高校生だからだ。
「何が…花も恥じらうだよ」
「そこ、何か言った?」
「いえいえー」
「怪しい……」
そんなこんなで、2人は学校へと向かっていた。
ふと、実夏は疑問に思ったことがあり白夜に問う。
「ねぇ、アンタのこと周りの人に見えてない、の?」
「うん。けど、死の近い人間には見えるよ」
「じゃあ、私死が近いの!?」
「アンタは一応魂の時計がゼロになってるから見えるの」
「ふーん……って、うちのことも見えてないの!?」
「ううん。実質生きてるから大丈夫だよ」
「よ、よかった……」
実夏は、胸をなで下ろす。
その後、通行人を見て何か思ったのか、また問いかけた。
「ねぇ、あの左胸に浮いてる時計って何?」
実夏は、向こう側から歩いてきた女性を示した。
白夜は面倒くさそうに説明した。
「あれは、魂の時計」
「魂の……?」
「そ。アレは、その人の生きられる時間を示している。人によって形も 現れる場所も様々なんだよ。君のはもうゼロをさしてるでしょ?」
“君のは首から下がってるよ”と白夜は付け足した。
実夏は、いつの間にか首にかかっていた時計を見た。
「ほ、ほんとだ…」
「君は、一応一度死んでる身で僕らと似てるから見えるんだよ」
「へー。なんか凄いね。私」
実夏は楽しげに笑った。それを見て白夜は呆れたように笑った。
すると、前方に実夏と同じ制服の女の子が現れた。
「あ、エリ!」
「実夏〜!おっはよー」
「おはよ」
それは、実夏の親友の秋山エリ(アキヤマエリ)だった。
二人は楽しそうに雑談し始めた。
「あれ?実夏って弟いたっけ?」
「ん?ねーちゃんと妹ならいるけど」
「じゃぁ、その子…誰?」
エリはおもむろに白夜を指さした。
白夜も実夏も驚いた表情になった。が、白夜はすぐに笑みを浮かべて エリに向かってこういった。
「は、初めまして。ボク、実夏お姉ちゃんの従弟の白夜って言います」
「そ、そう!この子、母さんの妹の子供なの!ねー白夜?」
「う、うんー」
実夏も慌てて白夜の嘘にあわせるようにした。
エリは怪しむように二人を見つめたが、納得するように頷いて
「どうりで。何かおばさんに雰囲気似てるよね?」
「そ、そーかなぁ?」
「ってか、白夜君のその髪と目ってマジなの?」
「う、ううん。違うよ、染めてるし、カラーコンタクトだよ」
「へーませたガキね〜」
「か、母さんの趣味なんだー」
「変わった人だね」
「ほ、ほら! エリ、遅刻しちゃうから早く行こう! 白夜もお見送 り、こ こまででいいから!」
「あー、うん。じゃあね、白夜君」
「ば、ばいばーい」
白夜は、引きつった笑みで二人を見送った。
「ただいまー」
「お帰り、実夏ちゃん」
「白夜!どーやって家の中に…」
「まぁ、死神だし」
それをきいて実夏は溜息をついた。その後こういった
「それは置いといてさ、今朝の……」
「あぁ、秋山エリ、でしょ? 彼女は僕のターゲットだよ」
「ターゲット……!?」
実夏の発言に白夜は厳かに頷き説明を続けた。
「君を冥界に送ったら次は彼女だったんだよ。しかも、今日。死因は窒 息による自殺。君の後を追うつもりだったんじゃない?」
「自殺……? でも、私は生きてるし…」
「だから、彼女の運命は変わった。別な理由で自殺することにね」
白夜は器用に椅子の背もたれの上にヒラリと舞い上がった。
その様子はまるで天使が空を飛ぶように美しかった。
「さて、そろそろ時間だ。彼女の魂を迎えに行かなきゃ」
白夜は歌を歌い出した。実夏がきいたあの不可解な歌。
「闇を照らすは金色と碧緑を織り交ぜた黒猫の瞳。
流れ滴りゆくは永遠の契りを交わしたる紅き血潮…。
告げられし時の終わりに抗いても、許される事なき。
汝の魂は永遠の鎖に繋がれし飼われた小鳥。
さあさ、始めませう。鈍の刃を振りかざし、黒き神の宴を……。」
すると、実夏の頭の中にはハウリングのようなものが響いた。
そして、頭は重く痛み出した。
「…めて、やめて。殺さないで! エリを、死なせないで!」
「無理なお願いだね。僕は、死神だよ?」
「じゃあ、私も行く。エリを止めるわ」
その言葉に白夜は呆れてこういった。
「どうなっても知らないよ?」
こうして、二人はエリの家へと向かった。
「失礼しまーす!」
白夜は、二階の窓からエリの部屋へと入った。勿論、実夏を引き上げ ながら。
「っ!白夜、くん? それに、実夏?」
「自殺真っ最中申し訳ないのだが実夏ちゃんが貴方に話があると」
エリは、片手に果物ナイフを持って自殺寸前だった。
実夏は、その手を握って語りかけた。
「エリ! なんでってこんなことを……!?」
「実夏……」
「ねぇ? どうして?」
その問いかけに悲しそうに自嘲気味に笑ってエリは言った。
「私の父さんの会社がつぶれて、うち、お金ないの。それでね、私、知 らない人に売られることになったの。人身売買ってヤツ」
「今の時代にそんなのあるわけないじゃん!」
「実夏が知らないだけだよ…。だから、そんなのだったら死んだ方がマ シだと思ったのよ!」
エリは、実夏の手を振り払って自分の喉元に刃を突き付けた。
「それでも、実夏は私を止めるの!?」
「エリ……」
実夏は悲しげにそう言った。エリはとても辛そうだった。
手は震え、冷や汗も掻いていた。それを白夜は静かに見続けた。
と、エリがぼそぼそと呟き始めた。
「……よ、…うよ、そうよ!実夏も、一緒に死んだら良いんだわ」
「エリ?」
エリの瞳にすでに光と生気はなかった。
「一緒に死んだら二人とも寂しくないでしょ? ねぇ、実夏?」
ジリジリとエリは実夏に近付いていった。実夏は後退した。
「ねぇ、何で? 何で怖がるの? 一緒に、死んでよ、実夏ァ!!」
エリが、実夏にナイフを振り上げて斬りかかってきた。
実夏は、怖さと悲しさで硬直していた。その前に、白夜が立ちふさが り、鎌の柄で、ナイフの刃を受けた。
「何するのよ、何するのよ! 白夜君!!」
「白夜っ!?」
「うるさいな…さっきから。見てて醜いよ秋山エリ」
「何よ……何なのよあんた!」
「さっさと冥界行って閻魔様の裁き受けてこいっつーの」
白夜は、刃を跳ね返すと、鎌の刃をエリに向けて振り下ろした。
「魂の時よ零に還り汝に安らぎと慈悲を与えんことを……!!」
鎌が、エリの肉体を捉えた。声もなくエリが真っ二つになる。
「エリィィィィィ!!」
実夏が、それを見て絶叫する。
「哀れな子羊に、アーメン……」
白夜がそう言うとエリの体は元に戻り床に倒れていた。
「エリィ…っく、エリ…」
「ほら、帰るぞ?」
「で、も……エリが」
「こいつは、お前というイレギュラーのイレギュラーな登場によってイ レギュラーに命を落としたんだ。半分お前のせいだ」
「わた、しの?」
実夏はしゃくりながら立ち上がり白夜に問いかけた。
「お前が来なきゃ安らかに死ねたかも知れない。それに、お前を手にか けることもなかったかもしれない」
白夜は、実夏を慰めるように頭を撫でてやった。
実夏はそれを振り払うと涙を堪えるように窓から地上へ降りた。
「おい!大丈夫?」
「これくらい、下りられるよ」
「上れなかったくせに?」
「うるさいうるさいうるさい!」
実夏は、白夜を置いて家へ歩き出した。
「それが、イレギュラーとして生きるって事だよ。」
実夏の背中に白夜はそうつぶやいた。
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2008/08/08(Fri)11:38:15 公開 / 藤
■この作品の著作権は藤さんにあります。無断転載は禁止です。
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■作者からのメッセージ
えー…こんにちは。作者です。
いきなりな展開ですいません…
こんな感じで進んでいくので覚悟して下さい。
この後は、もうちょっと人物が増えます。
美男子あり美女有りって感じです。
やっぱり、実夏を中心に事件が起こる予定です。
実夏ちゃんはドンドン不幸のどん底に落ちていきます。勿論、臨死体験もいっぱいします。
これからも実夏ちゃんと愉快な仲間達を応援してやって下さいね。
ココまで読んで下さって、有り難う御座いました。