- 『地獄へ行くまで』 作者:藤野 / ショート*2 ショート*2
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全角1002文字
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原稿用紙約2.85枚
地獄の裁判の話です。
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「そりゃ貴方、人間の死後の世界ですし、こっちは死んだ人間が管理してるんですよ」
目の前の小太りな白人の男はそう話す。偉く愛想良くニコニコ笑っている禿頭の彼は全くもって人間の形をしているが、自分の事を日本風に言えば鬼だと名乗った。そして混乱する僕に人懐こい笑みで告げる。此処は死後の世界で、僕はどうやら死んだらしくて、これから裁判を受けに行くらしい。
「天国も地獄もありますがね、まあ皆天国に行かせられないし、こっちの人間一人選んで、任期決めて裁判官になって貰うんですよ。まあ日本人の言うところの閻魔様ですか。そんな感じです。まあ裁判とか、人間社会と同じですね」
そしてその後あれよあれよというまに閻魔様の前に引きずり出された僕だが、受けたのは実に短い裁判だった。身勝手な国が敵国の兵を軍事裁判にかけるときでももう少し長く審議してくれただろう。しかし、眼鏡で如何にも潔癖そうな東洋人の閻魔様は、僕の罪状を読み上げる声を聞き僕に関する何かの書物を読んだ瞬間、一瞬で告げた。地獄行き。
「君、死ぬ一年と二十三日前にチューインガムを道に吐き捨てただろう」
判決が出た瞬間あっという間にさっきの鬼が僕を掴み、僕は引き摺られていく。ああ、地獄へ連れて行かれるのだ。何て事だ。進む先には今まで気付かなかった恐ろしい地獄の門が見える。
「そんな……理不尽だ……」
確かにガムを捨てた僕は悪いよ。しかし、だけど、そんなことで。
恐怖に震える僕の後ろでまだ裁判は続くらしい。次の被告の罪状を読み上げる声が聞こえる。殺人と強盗。二つとも恐ろしい犯罪だ。ポイ捨ての僕よりよっぽど!
心の中で毒づいて、そして仲間が増えるのを密かに期待した。
しかし僕に同行者が増える事はなかった。背後の声は思慮深く、しかし僕の時には全く見せなかった慈悲の色を滲ませて、静かに判決を告げたのだ。
「情状酌量の余地がある。天国で反省をして生まれ変わりなさい」
唖然としてよろける僕に、にこにこしながら鬼が、耳元こそりと、教えてくれた。
「まあ、やっぱり善悪の判断は難しいですよね。いつも上下しちゃってね、それで今の裁判官はゴミに煩い国の出身で、殺人とかよりゴミの方がおおごとですから。前の裁判官はまた違う感じだったけど、まあけど裁判官の言うことだから」
まあそういうの人間世界と一緒ですね、という声を聞きながら、地獄の門は、すぐ其処だ。
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2008/08/09(Sat)00:17:09 公開 / 藤野
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■作者からのメッセージ
善悪の判断ってどんどん変わっていくから一種怖いものがありますね。
千文字以内の起承転結を目指しましたが苦戦しました。ショートショートは本当に難しい。御指摘お待ちしております。