- 『「嫌われる」仕事 ―その後―』 作者:がりがりくん / リアル・現代 ファンタジー
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 原稿用紙約15.95枚
 この日の《Hate figure》は、少し平和。
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	静かな、昼下がり。狭い会社にて。
 その会社の名は《Hate figure》。訳すと《憎まれ者》。
 少しひねると《嫌われ者》という意味になる。
 この会社《Hate figure》は《嫌われる》行動で仕事になる。どうして《嫌われる》だけで、仕事になるというと。
 
 例えば。高校に行く→あいつ、ウザくない?ってなる=嫌われる。
 嫌われ方をわざとエスカレートさせていく→いじめを起こさせる→その会社の人がいじめられる→会社の人が何か起こして形勢逆転する→もういじめるなよってなる。
 要するに、悪事を働いてる人を説得しに行く仕事だ。
 
 静かな、昼下がり。《Hate figure》にて。
 一人の男が、机の上で寝ていた。この会社にいる人数は、机の数からして四人。
 ……俺は、どれくらいの時間眠っていたのだろう。
 机の上の書類が涎でいっぱいだった。
 「うわ、きったねぇ……」
 と、呟いたら
 ――プルルルル……
 「ん、電話か。誰からだ? 」
 携帯の画面には「桑田」と表示されていた。
 口のまわりについていた涎を拭ってから電話に出た。
 「よお」
 ――あ、もしもし。原田さん? オレ、がんばりましたよー。ケガしたけどね
 「ケガ? お前、大丈夫なのかよ」
 ――何言ってるんですか! 大丈夫だからこうしてあなたに電話しているんでしょう?
 受話器の向こうから聞こえてくる笑交じりの明るい声。
 「ああ、そうか。……そうだよなぁ」
 ――? どうかしたんですか、しんみりしてますねぇ
 「あ? 気にすんな、今まで寝てた。お前の電話で目が覚めたんだよ。もう少し寝かせろ、バカ」
 ――え、バカ? ちょ、えー……オレ頑張ったのになぁ
 演技なのか、本気で落ち込んでるのか訳わからんな、コイツ。
 「はっはっはー。嘘に決まってだろ。よくやったよ、お前は」
 ――……わざとっぽいのは原田さんだから許しましょう
 「お、やっさしいね」
 ――まぁ、いいや。オレ、これからそっちへ帰ります。なんか寝床作っておいてください
 じゃ、と短く挨拶を告げヤツは電話を切った。畜生、先輩を何だと思ってんだ。
 
 さて、と。寝床なあ……。あるのか? こんな狭い部屋の中に。
 しかも机が四台。……の中の三台は空席だ。どかしてもいいかな、コレ。
 ああ、もう面倒くさい!
 「どっせい! 」
 俺の分を除く机三台を壁に突き当たるまで無理やり押し込んだ。
 嫌な音が押してる間ずっとしていたけど……。
 あーあ。床傷ついた。……もういいや。
 「次は……と」
 寝るものがないと意味が無いよな。
 俺は狭い部屋をまた見回した。
 ……あのソファーでいいか。確かこれは大島の持ってきた物だったと思うけど。
 そこに掛け布団でも置いとけばいいんだろうな。
 「……これでいいのか、この野郎」
 「ええ、いいですよ。いい寝床をありがとうございます。でもこの野郎が余計です」
 ビビった。いつの間に帰ってきたんだ、コイツ。物音一切しなかったぞ。
 俺が思考を巡らせてる間に、荷物を降ろしてソファーのそばまで寄っていた。
 「あれ、このソファー……確か大島のものですよね? 」
 「あ? ああ、そうだけど。何かご不満でも? 」
 わざとらしく言ってやった。まあ、こいつもこんな感じで《嫌われ》ているんだろう。
 「不満も何も……なんでアイツのソファーで、寝なきゃ」
 「文句があったら寝なくていいぞ」
 この文句小僧め。あぁ、もう最近わがままが多いぞ、コイツ。この間なんか給料上げろとか言ってきた。無理だろ、そんなの。
 今、俺が言い放った言葉に傷ついたのか。渋々ソファーに寝転んだ。最初からそうしろよ、バカ。
 「おい、せっかく用意してやったんだからちゃんと寝ろよ……」
 なんだよ、もう。もう夢の世界ですか。
 「わかってますよ」
 蚊の鳴くような声で聞こえた、このわがまま者の言葉。起きてるのかよ、寝てるのかよ。どっちだ。
 ――プルルルルル……
 あ、電話。……? 俺のじゃない。コイツのか?
 バイブレーションの振動でヤツのポケットから携帯が落ちた。
 ――ゴトン。ブー。ブー。
 これって、起こして出させるべきなのか?
 それとも電話鳴っていたことを報告してかけなおさせるべきなのか、コレ。
 俺がいろいろ考えているうちに、止んでしまった。
 ……誰からだ?気になる。悪いと思いながら俺はヤツの携帯を開いた。
 《非通知一件》という表示が出されている。誰だ。その《日通知一件》のアイコンを押してみた。
 そこには《中谷》と表示されていた。
 誰だ。ナカタニって。この会社に一人もいない。
 友達だろうか、きっと。なんて思っていたら
 「あ! 原田さん何俺の携帯見てるんですか! 」
 「え、あ、ご、ごめん……」
 「はぁ……。何見てたんですか?」
 「電話がかかってきてな。お前を起こすかどうか考えていたら鳴らなくなったんでな。誰からだろうって思って開いた。本当にスマン! 」
 「それ、ダメでしょ。オレの中には死刑に値するね」
 冗談で言ったのかもしれないが、俺はひそかに殺気を感じた。
 「あ」
 「? どうした? 中谷って誰だ? 」
 桑田がみーたーなーみたいな目で俺を見る。こわっ。
 「中谷っていうのは……今回の学校で知り合った……友達です」
 「友達? 高校生のか? 」
 「まぁ、年は違いますけどね。向こうも高校生と思ったのでしょう」
 「ふーん」
 「もう一人いるんですけどね。……まぁいいや、コイツにかけなおしてみます。じゃ」
 俺に話を聞かれるのが嫌なんだろう。わざわざ外まで出ていって会話をし始めようとしている。
 ……でも嬉しそうだな。友達が出来るって嬉しいよな、やっぱ。
 ――しばらくたって、桑田は帰ってきた。
 「よ。なんだって? 」
 「ああ、明日、休みもらっていいですか? 」
 「ああ、別にいいけど、何で」
 「その中谷っていうヤツと、もう一人佐々島っていうヤツいがるんですけど、そいつ等が俺の家に御見舞いに来るとか」
 「ああ、ケガしてるもんな」
 「ケガ治ったら遊ぶ約束もしてるんです」
 嬉しそうだ。まあ、こいつにとっては初めてのことだからか?
 ん? 待て待て。遊ぶ? その高校生と?
 「……なあ、桑田。お前、幾つだっけ」
 「え。言うの? ……23ですが、何か」
 「そいつ等、高校何年? 」
 「原田さん」
 「え? 」
 「 遊ぶのに歳の差は関係ないんですよ」
 「何だそれ……」
 「いいじゃないですか、別に誰と遊んだって」
 あーあ。拗ねたぞ。でも、その拗ねかた普通に高校生に逆戻りしてない?
 それ。
 「うわ、ずいぶんと楽しみにしていらっしゃるようですが、ケガ、治ったらちゃんと仕事してくださいねー」嫌味っぽく言う。
 「こっちだって仕事あるのによ」無いけど。
 「へいへい、がんばりますよー」面倒くさそうに返された。あれあれ、先輩にそんな態度とっていいの? ふーん。カチンってきたぜ? いいんだね、そうか、そうか。
 よっしゃ、俺も明日休んで、俺もお見舞いとやらに参加しよう。
 もちろん、桑田には言わずに。
 
 
 ――ピンポーン
 ドアの向こうから、声がする。
 「おーい、桑田ー」
 「きーたーぞー」
 あれ、もう来たのか。痛。こんな汚くて狭い部屋だと歩くのも結構体力使うなぁ、おい。
 しゃーない、入って来てもらうか、歩けないし。
 「ああ、悪いけどさぁ!ドア開けていいから入って来てくれるか?」
 「おう」
 「おじゃましまーす」
 「よ、桑田」
 ……あっれー? おかしくないですか、コレ。何で三人いるの、コレ。
 その問題のもう一人がオレのほうを向いて、親指を立てて笑顔でオレを見る。
 ……一つだけいいですか。
 何でオレの会社の先輩がオレの友達と笑顔でオレの部屋に入り込んできてるんだ?
 「うわ、桑田の部屋、汚ねっ!」
 なんか人の部屋馬鹿にしてくるしさ。
 「……あなたの机よりは全然ましだと思うんですけど。」
 「え? 」
 ……口滑った。なんか変な雰囲気になった。
 こうなるなら原田さんに『高校生の友達が遊びに来る』なんて言わなきゃ良かった……。
 あーとりあえず、落ち着け、オレ。
 ・何でここにいるのか
 ・こいつらはなぜ原田さんを不審に思わないのか
 ・原田さんは何でこいつらと仲良くなったのか
 を問い詰めよう。
 その原田さんは空気を変えてこんな会話をしている。
 「うわ、なんだコイツ、カビてるパン食おうとしてるぜ」
 「それ、捨てようとしてたんだ! 勝手にいじらないで下さい! 」
 何なんだこの人―。とりあえず、事情聴取だ。
 「原田さん……ちょっと来て下さい」
 「なんだよ、もー」
 オレは原田さんを風呂場に押し込んだ。
 「なんだよ、お前は」
 「なんだよ、はこっちのセリフです! どうしてあなたがここにいるんです?  」
 「え? 別に、お前の友達はどんなヤツかと」
 「それだけで来たんですか? 」
 「ああ、そうだよ。お前がさ、昨日楽しみにしてたからそんなにいいヤツなのかって思ってな」
 あ、呆れた……そりゃ、昨日、楽しみにしてましたよ。だからってそんな理由で……。
 「……で、原田さんは何でアイツ等と仲良くなったんですか? 何でアイツ等は、あなたを不審に思わないのですか? 」
 質問攻めをくらって面倒くさいなぁって言う顔をするオレの先輩。
 だったら来るなよ……。
 「ええとな、俺が、お前ん家に向かって歩いてたらな、目の前にいた高校生が、お前の話をしてたんだ。《元気かな? 》とか言ってたんだ。だから、コイツ等、桑田の友達だってわかった。試しに声かけてみたんだ。桑田の先輩だって言って。そしたら意気投合しちゃってさ、仲良くなった訳」
 「先輩?」
 「ああ、バイト先の先輩っていう設定にした」
 「そうですか」
 うまい言い訳だな。
 「でさあ、意気投合しちゃってさ」
 「ほぉ。ちなみに何の話で意気投合を……? 」
 「ああ、お前の話だ」
 だと思った。
 うなだれるオレに原田さんはさらにオレに追い打ちをかける。
 「あ、あと、この左目のことを聞かれたなぁ」
 「! 」
 「……大丈夫、お前の名前は出していない」
 「……そうですか」
 大丈夫、ねぇ。ったく、アイツ等変なことに興味を持ったな。
 ――ガラ。
 「あ、いた」
 「あ、ホントだ。」
 「そりゃ、いるよ、オレん家だからな……どうした、佐々島」
 「……お前ホモか? 」
 佐々島は、正直者なのだろうか。真顔で聞いてきた。
 「――は? 」
 思ったことをそのまま口に出してしまった。だって、ホモって……。
 「何でホモって思うんだよ! 」
 苦笑いしながら言った。本当は怒りたいのに。
 「だってなあ、こんな狭い密室で二人っきりって」
 「しかも風呂場」
 佐々島と中谷は顔を見合わせてそれぞれの意見を言った。
 「しかもってなんだよ、しかもって! 」
 笹島は呆れた顔で、
 「まあ、いいや。その反応じゃホモじゃないだろうし」
 「当たり前だ! 」
 中谷はほっとした顔で、
 「安心した」
 呟いた。
 何なんだコイツ等。なんか、原田さんがいっぱいいるみたいだ。疲れる……。
 
 その後のことは全く覚えてない。
 原田さんがいたから。……あの人は何を言い出すかわからないからな。
 ホモじゃないぞ。ホモって思ったヤツ、出て来い。
 焼死体にするぞ。
 
 
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2008/07/30(Wed)07:57:50 公開 / がりがりくん
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 前回言われた個所をなおしてみました。
 読みやすくなっていれば幸いです☆