- 『「嫌われる」仕事』 作者:がりがりくん / リアル・現代 ファンタジー
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原稿用紙約15.55枚
主人公の桑田は、「嫌われる」という行動を起こすだけで、仕事になる会社に入っている。桑田は、原田という優しく、時には厳しい先輩を慕っている。その会社は桑田の他に社員が2人いる。(原田はそのメンバーの中で一番偉い人。でも社長って言うわけじゃない。)その人々と桑田とは、嫌われ方がそれぞれ違う。桑田は美形ながら出しゃばって嫌われやすい、という嫌われ方を武器に仕事をする。原田と、その2人はいつかでます。(笑
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暗闇。静まり返った高校の校庭でガタイの良い生徒2人が会話を交わしている。
『なぁ、最近桑田出しゃばってないか?』
『あぁ、うぜェな…。』
『いじめるか。』
『どういう風によ。』
『決まってんだろ、暴力だよ。』
『ちょ、もうかよ。アイツ一週間くらい前にこっち来たばっかだぜ?』
『いいんだよ。あんな奴とっとと消えてくれたほうが嬉しいんだよ』
『まぁな。…じゃあ、明日決行な。』
『おう、じゃな。』
同じ暗闇の中で若い男が電話越しの男と会話をしている。
「原田さん、聞こえましたか?」
―おう。見事な嫌われっぷりだなぁ、お前。
携帯電話から聞こえる豪快な笑い方。好きだな、この人の笑い方、
―でもなぁ、聞こえづらかったなぁ…お前、遠くで声を送ってくれたのか?
「まぁ、オレは、ビビリですし、弱いんで。でも、アイツ等筋肉質ですよ。ムリですって。」
苦笑い交じりのこの言葉が、原田さんに心配させてしまった。
―まだ、ビビリで弱い…ってお前はまだあの力使えないのか?
「…」
あの力。俺が原田さんと出会った時に使った力。
オレでも意味のわからない、オレの全身を包むすさまじい炎…。それを原田さんの左目に浴びせてしまった。
だから、あの人の左目はもうない。
…だけど、力は使えないって言う訳じゃない。使えることは使える。
でも、怖いんだ、人を傷つけるのが。
―まぁいい。明日お前、アイツ等に襲われるようなこと言ってたじゃないか。どうするんだよ。
「いつものように時を戻します。オレがこの学校に転校してこなかったように。」
オレがこの言葉を発した後、しばらくの沈黙が続いた。
「原田さん…?」
あまりにも静かなのでオレから声をかけてみた。
―逃げるのか、また。お前は、俺の左目を傷つけたかわりに戦うって言ったのに、また逃げるのか。そうか…。残念だ。
オレは、何も言えなかった。この人の言う通りだから、強いことを言い返せなかった。
…人を傷つけることが怖い、なんて言えるはずがない。そんなこと言ったらただでさえ、原田さんは、オレをかばって自分から手を出しに行くに違いない。
…ダメだ、そんなこと。また、オレのせいで原田さんがケガしてしまうじゃないか。
ダメだなぁ、オレ。
…きっと何かがオレを動かし始めたのだろう。
強くなりてぇなぁ。いや…強くなろうか。強くなる努力をしてみるか。
こんなことを思い始めた。
「なんてね!嘘ですよ、嘘。逃げるわけないじゃないですか!そろそろ、あなたを守ります。オレは逃げません。」
無意識にオレの口が動いていた。一瞬、自分でも驚いたけど…。
自分でも感じ取れた。自信たっぷりの声。原田さんに届いただろうか。
―…お前は、本気で言っているのか?力も使えずにいるのに。
なぜだろう。ワクワクする。
強くなろうと思った瞬間、体が、速く明日になれとせかすように、オレをワクワクさせる。
「あっはっは!使えます。…スイマセン、オレ本当は力を使えるんです。」
―は?
「今まで黙ってたんですよ、使えない…使わない理由を。」
―…。
原田さんは黙っている。なら、どんどん攻め込んでいこうか。
「オレ、人を傷つけるのが怖いんです。だから今まで使わなかったんです。あの日、あなたを傷つけてから。」
―なっ…。
「じゃあ、明日、初めてあなたに笑って報告することができます。今月の営業成績はオレが1位ですね。給料アップお願いします。」
明るい声で言った。わざとじゃない、オレの気持ちがあふれ出ていた声で。
「ああ、あと、この事件が終わったら、オレ、学校また変更するんで。」
電話を切る。原田さんは何か言いたげだったけど。
「…うっし。力技はなるべく抑えるかな。」
静まり返った夜の中、オレは明日という日を早く来ないか、と待っていた。
朝。
オレは、いつもの制服に着替えて、いつもの学校に到着して、いつもの教室に入って、仲の良い友達2人と話していた。
「よ、桑田ぁ。」
来たよ。昨日のアホ1(仮)が。
「すがすがしい朝だなぁ。」
アホ2(仮)も来たよ。
「よ。」顔を見ただけで面倒くさくなったのであくびをしながら俺は答える。
オレがあくびをし終える前に中谷がアホ共に口をきく。やめとけ、アホになるぞ。
「なんだよ、朝比奈、笹倉。」
なるほど。アホ1(仮)は朝比奈、アホ2(仮)は笹倉っていうのか。
「いや、楽しそうだから混ぜてくれよ。な、桑田。」
「楽しくないぜ?勉強の話だよ。」
佐々島も口をきいた。アホになるってお前ぇ。
「勉強かぁ。教えてくれよ、じゃあ。」
「何言ってんだ、お前頭良くなかったっけ?」
オレがおどけたように言うと奴らの頭が大爆発しかけたのだろう。
笑顔のつもりがひきつって怖い顔になっている。
「…バカにすんなよ。桑田ぁ。じゃぁ、お前、今日の放課後教室残ってろよ。勉強ちゃんと教えてくれよな。」
ふーん。アホにしてはよく考えた果たし状だ。なるほど、教室でやんのか。
「おう、いいぜ。その代わり頭にぶち込めよ。」
「…っ」
頭の中、大爆発したな。机を思いっきり蹴った。
女子が軽く悲鳴を上げる。
それをよそ目に教室を出て行った。
「いいのかよ、桑田。」
「いいの。ちゃんと学習しようとしてるんだぜ?」
「バカだからな。」
心配してる中谷をよそ目に佐々島は俺が思っていた意見をズバッと言い放った。
「ちょっ!お前ハッキリ言いすぎだろう!」
オレは思わず声をあげて笑ってしまった。
だって、佐々島のサッパリ加減が俺好きなんだ。毒舌ってやつだな。
…そうこうしているうちに教室中の目が俺に集まる。
「なんだよ。こっちみんなって!な?自分のことに集中!」
なだめるように言った。
一斉に目が俺から遠のく。
「桑田って面白いよな。」
「でも、見た目はカッコいいんだよなぁ。アドレス聞いてみようかな?」
なんていうヒソヒソ声も聞こえる。
「お前はすっかり人気者だな」中谷がオレをいじめるような目で見てくる。
もちろん、ふざけてだ。
「そうか?嫌ってる人だっているだろう、こんな出しゃばり。」
てか、実際にいるからな。
そんなこんなで1日は過ぎていき、部活動をする者、帰る者、遊びに行く者など、高校生らしい放課後になった。
「じゃあな。健闘を祈る。」
「頑張れよ。」
という一言を残して中谷と佐々島は教室から出て行った。
それを見計らっていたのか、朝比奈と笹倉は教室に入ってきた。
「よ、桑田先生。」
「先生って言うなよ。照れるべ。」
と、わざとらしく照れたふりをする。
と、その瞬間。オレは宙に舞った。
オレは、机と一緒に派手な音を立てながら床にたたきつけられる。
チッ、先手を打たれたか!畜生、口の中切れたっ…!
「かかってこいよ。」
殺気を身にまとった笹倉が言う。
…暴力は使わない。そう決めたから。オレは殴り返さない。
口の中にたまった血を吐きながら言う。
「遠慮しておく。オレはこういうのは好まないんでね。」
わざとらしく言う。
「ふざけんなっ!」
朝比奈も殺気をまとってオレの頬を殴ろうとする。
殴られてたまるか。
素早く下へしゃがんでよけた。
朝比奈は当たると思ったのだろう。精一杯空中を殴った。
その反動で自分の手に引っ張られ倒れた。
鼻を机の角にぶつけたらしい。鼻血が出ている。
「痛ェ…!」
笹倉は朝比奈の様子をみていたオレをチャンスと思い、腹を狙って殴ってきた。
オレはそれに気づくのが遅かったようだ。
やべぇ…。苦しい。
倒れてむせているオレを見て朝比奈と笹倉はオレを蹴ってきた。
「お前はどこま出しゃばれば気が済むんですか?!」
「答えろよ。」
「お前らが蹴ってるから…答えられねぇんだっつぅの…っ!」
「ああ、そっか。」
「オレ頭いいのにわかんなかった、ごめんな桑田ぁ。」
わざとらしく言う。畜生。
力が出ね―…。原田さんには心配かけたくないのに。クソ。
やべ。意識が薄れていく…。弱いのに出しゃばるのが駄目だったかなぁ、やっぱ。
…給料もアップなしかなぁ…。
意識が途絶えた…と思った。
アレ?体が熱い。温かいじゃなくって熱い。
「あっちぃ!!」
「なんだコイツ、燃えてる!」
燃えてる?…しまった。あの力が出たか。
でも、力が入る。体力を回復する効果でもあるのか、この炎。
「ったくよぉ。気が済んだ?オレをさんざん蹴って。」
アホ共は世にも恐ろしいものを見たかのような目でオレを見てくる。
「…!」
「お前、全身が燃えてるぞ!」
「あ?いいんだよこんなの。熱くねぇし。」
ビビってるアホどもをよそ目に俺は奴らのカバンを見つけた。
「あ、でもお前等ちゃんと学習しようとしたんだなぁ。えらい、えらい。」
オレはアホ共のカバンの中をあさる。
「あ、でも携帯は駄目だなぁ。勉強には必要ない。」
見せびらかすように携帯を両手に持つ。
「あ!」
「お前!」
アホ共が慌てだす。
そりゃそうだ。
自分の携帯がドロドロと溶けていくからなぁ。
「燃えてるなぁ。あ、コレ、オレがちゃんと処理しておくから。」
余裕ぶってみせると、アホ共が襲おうとする。だけど、オレが炎を身にまとってるから近寄れない。やっと、1つ学習したな。
「…お前らも、この携帯みたいになりたくないならな、もうオレに近寄るな。暴力を使うな。他人にでも暴力を使ってみろ。オレが今度はお前らを襲う。もちろん、暴力はナシだ。」
身にまとっていた炎が消えた。
アホ共はさっきの話を聞いていなかったのか。素晴らしい演説(?)だったのに。
襲ってきやがった。
「ちくしょぉぉぉぉ!オレの携帯を!」
「ふざけんなぁ!!」
また、炎が身にまとった。
なるほど。危険を感じたら出るのか、コレ。
「やめろっていったろ!!」
アホ共がビックリした顔をしている。
笑えるな。
「今度は焼死体にすっぞ。」
なんて、脅したら腰が抜けて床に座っていた。
さっきの暴れっぷりはなんだったんだ。もう…。
「じゃあな。朝比奈、笹倉。もう会わないけどな。」
満面の笑みで挨拶をかわし、俺は千鳥足で教室を出て行った。
翌日、原田さんに言ったとおり、オレは転校した。
理由は、親父が転勤したからっていう適当な理由で。
中谷と佐々島にはもう会えない、っていう別れを告げたらアドレスと電話番号をオレにくれた。
「絶対に会えないって言うわけはないだろ。」
「声が聞ければ会ってるみたいなもんだろ?」
ぶっちゃけ嬉しかった。今まで俺はいろいろな学校を転々としてきたけど
こんなのは始めてだ。
オレが、唖然としていると
「ケガ治せよ!」
「そのケガが治ったらさ、遊ぼうぜ。」
と言って肩をぽん、と叩いて去って行った。
遠くから鼻水をすする音が聞こえた。
「…友達っていいなぁ」
オレは呟いた。
ちょっと泣きそうになったけど、オレは、社会人だ。学生ではない。
先輩の原田さんに連絡しなければ。
「あ、もしもし。原田さん?オレ、がんばりましたよー。ケガしたけどね」
オレはこの日、始めて笑って原田さんに報告ができた。
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2008/07/26(Sat)16:31:11 公開 / がりがりくん
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■作者からのメッセージ
初めまして。
がりがりくんともうします(笑
細かい描写などをなるべく多くしてみました。
少ないかもしれませんが、伝わっていただければ(ムリ)
うれしいです☆