- 『天地の挟間で・・・』 作者:水花ユキナ / ファンタジー 未分類
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全角5593文字
容量11186 bytes
原稿用紙約20.1枚
序章
(俺はもう、死ぬのだろうか?)
バゴォォォオオオン!!
空では、爆音や剣と剣の交わる音が響き渡る。
話は少し前のこと。
「うぉぉぉおお!!」
敵の”空の者”(空に住む翼の生えた人)が剣を構え、向かって左側から攻撃を仕掛けてくる。
流は左手で、”S07”(虫の羽の様なものがついた1人乗り用の飛行物体)を操縦し、右手に持った剣をうまく使って相手の攻撃を受け流す。その時ほんの少しの隙ができた相手の心臓を一突き。
だが、相手もなかなかの者で向きを切り替え流の方をズブリと斬った。
「うわぁぁぁぁああ!」
流の肩に激痛が走る。
空の者は静かに地上へと散った。
傷口からドクドクと血が流れ出し、激しい痛みと、大量の出血でくらくらするほどの深手を負ってしまった。S07を操縦するのが一杯一杯とうい状況で、流の頭の中には昔の思い出が鮮明に甦る。
「我死すとき
天は地を地は天を滅するため立ち上がりしとき
我すでにそこにおらず
動乱止すことは不可なり」
−第一章 過去−
あれは今から丁度5年前のこと。
ガラガラ
教室の前のドアが開き、中に少女が入ってくる。
背丈は流と同じ位で、特徴的なのは髪の毛。長くストレートの黒髪をおろし、その髪が歩くと同時に綺麗に揺れる。
少女は教室の真ん中で歩みを止め自己紹介を始めた。
「天宮光(アマミヤヒカリ)です。1年という短い間ですが、よろしくお願いします」
そう、この少女天宮は転校生。流が小学校6年生の時、突然転校してきたのだ。
天宮の瞳は大きく、黒曜石のように黒くキラキラと輝いている。その澄んだ瞳はまるで、何でも吸い込むブラックホールを思わせた。(少なくとも流はそう感じた)
そんな天宮は、クラスの中で人気で、休み時間には皆が天宮を囲んでいる。 その頃、流たちは、男3人くだらない話をしていた。
「で、人は胸板が2メートルあれば空が飛べるらしいよ!」
眼鏡をくいっと上げながら話しているのは流の親友その1、”本田京(ホンダキョウ)”である。見た目通りの頭がいい奴で、まめでしっかり者。
「つまり、人は空を飛ぶことができないんだな」
髪が少し茶色がかったこの男子は流の親友その2、”坂木純(サカキジュン)”。純は京の長ったらしく、難しい話をまとめる能力がある。
簡単に短くまとめるのが上手な純と、色々なことを知っている京、そして何もかもが普通な流。3人はどうして仲が良いのか分からないが、とにかくいつも一緒だ。
「いや、飛べるって言ったじゃん!」
京があたふたしながら言う。
「飛べないだろ。胸板2メートルは無理」
純が言った。
「確かに2メートルの胸板は無理だから。人が空を飛ぶことは不可能だな」
流が純に同意する。
「えっ!そうだけど、でも!!」
という様に、毎日京が話題を持ってきて、純がまとめて、流が意見を述べる。それの繰り返し。
そしてある日のこと。
相変らず天宮の周りには少人数だが女子が集まっている。教室の端の方で、流たちは今日も話していた。
「"god story"って言うネットで流行ってる話があるんだけど知ってる?」
「何それ?どんな話だよ」
純が京に聞く。
「そのまま、神様の話しだよ。それで、掲示板で本当かって言う話しで持ちきりなんだ」
京が説明し終わると、
「要するに、今の話題作なんだな?」
純が適当にまとめる。
「じゃ、どういう内容なんだよ?」
流がやっと口を開き質問した。
「そういうと思って覚えてきたんだ」
京は息をスゥっと吸い話し始めようとする。純は唾を飲み込み、真剣に京の顔を見ていた。
「我死すとき、天は地を地は天を滅するため立ち上がりしとき。
我すでにそこにおらず、動乱止すことは不可なり」
流と純の頭の上には、?が3つくらい浮かんでいた。
京はそんな2人の顔を見て、また話し始めようとする。すると、1人の少女が話しかけてきた。
「その話し、詳しく聞かせて?」
声の主は天宮だった。突然の天宮の登場に3人は吃驚する。そして、純が立ち上がると、
「いいよ。まぁ、座んな」
純は至って冷静だったが、流には純の心境が手に取るように分かった。口にはださないが、純も京も実は天宮のことを気にしていた。クラスの”マドンナ”天宮に流は特に興味はなかったが、あの瞳はいつ見てもブラックホールにしか見えなかった。
「じゃ、もう一度説明するよ?」
京が言う。
「うん」
天宮が京の顔をまじまじと見ている。
「今、ネット上で”god story”っていう、神様の話が流行っているんだ。で、どういう話かというと」
京の話を遮り、天宮が口を開いた。
「我死すとき、天は地を地は天を滅するため立ち上がりしとき、我すでにそこにおらず、動乱止すことは不可なりでしょ?」
「そう。意味分かる?」
京が天宮に問い掛けた。
「要するに、神様が死ぬ時は、天は地上を地上は天を滅ぼそうと武器を握るときで、神様は死んでそこにはいない。だから戦いは止められない。ってことでしょ?」
天宮は理解していた。小学生にしては凄いと思う。
「凄いな、天宮」
純が天宮に向かって言う。
「別に凄くなんかないよ。で、続きとかはないの?」
天宮が焦ったように言う。
「続きはまだないんだ」
京が天宮を見ながら言う。
「でも、どうしてそんなに知りたいの?今まで一度も話したことがない天宮が。何故わざわざ話し掛けた?」
流が天宮に聞く。
天宮は何も答えず、目が泳いでいた。
そんな天宮を見た流はなんだか罪悪感を感じた。
「言いたくないなら、いいけど」
まぁいいか。流はそう思った。京と純の顔を見、流はニィっと笑った。
「じゃ、いつでも話に来いよ。どうせ俺たち3人で何かしら話してるからさ」
京と純も笑顔になる。
「そうだよ。またいろんな話しような」
京が言うと、
「俺たちいつも暇だし」
純も天宮に言う。
「うん」
天宮の明るい声に流は、ホッとした。
キーンコーン カーンコーン
上手い具合にチャイムが教室中に響き渡った。
時は流れ、1学期が終わった。流たちは”俺たち3人”から、”俺たち4人”へと変わっていた。それともう一つ、大きく変わったことがある。それは、流の天宮の見方だ。ブラックホールの様な目は、ただただ黒く輝く透き通った黒曜石になった。流だけじゃない、天宮の見方は京も、純も変わっていたのだろう。
そして、8月25日。その日は流の家で宿題をやっていた。京は塾があると言って、早めに帰ったのだった。
「じゃ、俺帰るな」
京が少ししょんぼりしながら言った。
「家の前までついていくよ」
流が立ち上がりながら言う。
「「じゃーな(ね)」」
純と天宮の声が被った。天宮は、純を少し見ながらクスクスと笑い、純は、下を向いて自分の世界に入ってしまっていた。
京がニッっと笑い、振り返ってドアの方に歩き出した。流は京の後をついていき、階段を下りていった。
「なぁ、天宮」
純が顔を上げ、真っ直ぐ前を見ながら言う。
「ん?何??」
純の横顔を見ながら不思議そうに天宮が言った。
「あのな、俺」
「じゃ、また明後日な」
「おぅ。じゃな」
ガチャ
京が扉の向こう側へ消えて行ったのを流は見送った。そして、階段を一段一段上って行き、ドアの前に立つと純の声が聞こえてきた。
「あのな、俺」
純はそこで言葉を切り、息を吸ってもう一度口を開いた。
「天宮のことが、好きなんだ!」
純の顔は少し赤らんで、林檎のようになってしまっていた。だが、天宮は冷静で、焦った様子も見えず淡々と言葉を並べる。
「ありがとう。でもね、その気持ちには応えられない」
何か意味ありげな感じだった。天宮の言葉には一言一言にしっかりとした意味があるのだと、流はそう思った。いつだってそうだ。天宮は言葉は、さらに深い深い意味を持っている。それがなんなのだかは、流には分からないが。
「そうか。分かった」
純が小さな声で言ったのを流は聞き取り、ドアの取っ手を握りゆっくりと開いた。
すると、どんよりとしたいやぁーな空気が漂っていた。
流は、(うっ。これはキツイぞ)と心の中で呟く。
「お帰り」
天宮は何も無かったかのように小さな笑顔で言った。
純は下を向いて今にも泣き出しそうだった。
「宿題の続き、やるか?」
流は気を使いながら少し小さめの声で言った。
すると、純が急に顔を上げ、
「俺は帰る」
流は一瞬凍りついた。純のこんなに暗い声は始めて聞いた気がする。そして、疑問に思った。そこまで天宮のことが好きだったのか?
「あ、あぁそうか。じゃ、天宮はどうする?」
純がピクリと動いたのが目に入った。(ヤバッ!やっちゃった)流は言ったことを、後悔した。
「純が帰るなら私も帰るよ」
(天宮、察してくれよ)そんな願いも虚しく、天宮は帰る気満々だった。
少し考えて流は、結局なんて言ったらいいのか分からず、そっとしておくことにした。
「そうか」
もくもくと2人の手が動き、あっという間に片付け終わる。
「じゃ、帰ろうか」
天宮のいつも通りの声を聞いて流も純も立ち上がった。
沈黙の時間は、階段を下りたら終わる。だが、階段はいつもより長く、下の階が遠くに感じた。
「じゃあ、また明後日な」
「うん。じゃあね」
俺と、天宮の声。純はさっさと流の家から出て行った。それを追うようにして天宮が小走りで出て行く。それを流は見送った。
その後のことを流は知らない。
8月28日。カンカンに照った太陽の下。何をやっていたのか、何を話したのかまったく覚えていない。でも、天宮も純もいつも通りに戻っていたのを驚いた記憶はある。それともう一つ。京と天宮の肌の白さについてボーっと考えていた。
京は昔から肌が白く、どうして焼けないのだろうと思うほどの白さだ。つまり、焼けない体質なのだ。一方天宮は、京とはまた違った透きとおる様な白。俺と純はいい感じにこんがり焼けているのに。(あぁ、ここにも焼けない体質の子がいるとは。)などと思っていた気がする。
夏は逃げていった。行事で忙しい2学期が始まり、純は完全に復活していた。
あの日の帰り道。
小走りで天宮が近寄ってきた。純はハッキリ言って迷惑に感じていた。(なんでついて来るんだよ!)と口にだして言えば楽になれるのだろうか?
「あのさ、さっきの無しにしない?」
天宮の言っていることの意味が分からない。普通それは純の言うことじゃないのだろうか?でも、純は気が楽になり、それでもいいかと思った。
「あぁ。そうしてくれ」
純は無理に笑顔を作った。やっぱり、諦めるのは難しいことを今知る。
「ありがとっ!」
一瞬何が起ったのか純には理解出来なかった。今こそ、ギュッっという効果音が必要そうな状態である。
純は混乱し、天宮を突き飛ばして走って逃げた。
その日の夜、いろいろな事を考えてなかなか夢の世界には旅立てなかったらしい。
2学期といえば、行事の季節。運動会に、音楽会、さらに持久走大会とまぁ、大変なもので。流たちは暑い中、運動会の練習に励んでいた。
「はぁ、もう無理だよー」
汗をダラダラと流し、京は疲れきっていた。
「もうダメなのかよ」
ケラケラ笑いながら純が言う。
「う、うるさい!無理なものは無理なんだよ!」
京が少し怒鳴った。
「2人ともうるさいぞ?」
流の冷たい声がスーっと通り抜け、少し周りが静かになった。
その中からクスクスという小さな笑い声が聞こえた、天宮だ。何が面白いのかまったく分からない。
「何笑ってるのさ」
京が目を細くして言った。
「だって」
笑いを堪えてる天宮からは、少し涙が出ていた。そんなに面白かったのだろうか?
京の顔が赤くなる。恥ずかしくなったのであろう。
運動会。流の記憶にあまり残っていない。たいしたことが無かったのであろうか?そんなことを考えた時、天宮の笑顔がフッと頭の中に浮かんだ。
あっという間に流れていった2学期。でも、あの話は覚えてる。
「なぁ、この頃自殺とか多いよね」
急に何を言い出すのだろう?京は、何故かこの話を持ち出した。
「俺は、そういうのは嫌だな。だって、無駄死にじゃん?」
純が真面目に言った。
「俺も。俺は医者になっていっぱいの人を救うんだ!」
これは京。
「俺は。楽しく暮らして、楽に死ぬんだ!」
これは純。
「天宮は?」
京が天宮に聞く。
少し間があって天宮は、
「分からない。運命に任せる?」
まただ、天宮の意味あり言葉。運命にって何なのだろうと思った。
「へぇー。じゃ、流は?」
天宮の言葉に気を取られ、流は答えを考えてなかった。
「え?あぁ、俺?俺は、誰かの為に死ねればいいかな?」
ふざけた感じで流は言った。
「素敵じゃない。凄くいいと思うよ?」
天宮がニコッっと笑いながら流に言った。
そして、京も「凄いな。」と言ってくれた。
流は、しけた顔で天宮と京を見た。(適当に言っただけなのに)言ったことをちょっと後悔した。こんなに褒められるなんて思っていなかったからだ。
もう時期秋が終わるだろうというような涼しさが感じられる日のことだった。
3学期。卒業アルバムの写真撮影で、流と京と純と天宮の4人で写真を撮った。天宮の眩しい笑顔に3人はドキッとした。
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2008/07/16(Wed)19:34:34 公開 / 水花ユキナ
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初めまして。
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頑張っていきますのでよろしくお願いいします。